調査・報告

全国で最大規模、6,000ヘクタールを10名で管理するコントラクター
〜民間企業が支える畜産飼料づくり〜

調査情報部 調査役 藤間 雅幸
調査課 伴 加奈子



1 どうして農地を広げることができたのか
〜はじめに〜

 北海道帯広市に本社を置き、建設機械のレンタル事業を道内および東日本で手掛けている民間企業がある。

  この企業のレンタル事業所のうち、幕別町の事業所が行う飼料生産の請負業(以下、「コントラクター業務」という。)は、年々、受託農地を拡大し、今では、十勝支庁管内の耕作面積の2%を上回る6,000ヘクタールもの広さ(山手線の内側面積に相当)を手掛けるまでに至っている(図1)。

図1 受託農地の推移

 

 この企業の受託農地は、北海道で最大規模となる広さであり、また、北海道が広大な農地を有する農業生産地帯という地域性から、全国ベースでも最大規模となっている。

  異業種の民間企業という「経歴」で、農業へ飛び込んだこの企業は、根釧地域などの遠隔地にまで足を伸ばし、現在は、北海道にとどまることなく東北地域にまで打って出ており、鼻息が荒い。

 この背景の一つには、建設業と農業で支えられている地方の産業構造がある。建設業は、インフラ整備や景気対策を目的とした公共工事が大幅に抑制されたことで、労働力に余力がある一方、農業は、担い手が高齢化する構造的な問題に加え(図2)、地域によっては、規模拡大を進めた結果、労働力不足に直面している(財団法人建設業振興基金)。

図2 基幹的農業従事者の年齢階層別割合(全国)

 このため、農地を広げることを可能にした背景として、建設業関連に依存するこの企業は、単純に、担い手が高齢化する畜産業と労働力を融通し合うという図式により、「労働力のトレードオフ」が成立しただけのことではないかととらえられがちである(図3)。

図3 農林業と建設業の就業者数の推移

 しかし、飼料生産のノウハウを持たない企業が、仮に農業に関する知識を仕入れることができたとしても、農業が地域との結び付きが強い産業であることからも分かるように、民間企業によるコントラクター業務は、苦労の連続が待ち受け、撤退する企業が数多く見受けられている(社団法人日本草地畜産種子協会)。

 前置きが長くなったが、こうした中にあって、建設機械のレンタル事業を手がけるこの企業は、民間企業という「経歴」にもかかわらず、どうして農地を広げることができたのか。これが本稿の問題意識である。

  故に、この民間企業である株式会社共成レンテムの取り組みについて整理することは、効率的な飼料生産を、また、多様な形での新たな担い手を考える上で、有益であると考え、その経営手法について紹介する。


2 なぜ地域農業は受け入れたのか
〜経営の「後ろ盾」として横たわるもの〜

 当企業は、建設機械のレンタル事業を主な業務として、昭和38年に設立され(本社・帯広市、資本金約30億円、従業員約450名、平成13年東証二部上場:平成20年9月現在)、道内および東日本に約95カ所の事業所を持つ。幕別町の事業所は、農業機械のレンタル事業も需要が見込めるとの判断から、昭和63年に開設され、建設機械に農業機械を加えたレンタル事業を展開している。

 コントラクター業務は、ラジオを通じてレンタル業の販促活動を行っていたところ、宣伝を聞いた農家から「牧草の刈り取り作業も請け負ってもらえないか。」との問い合わせを受けたことがきっかけとなり、農業ビジネスとしての可能性を検討した結果、平成5年から業務アイテムに加えている。

  コントラクター業務を始めたのは、担い手の高齢化による労働力不足というファンダメンタルズに加え、農業分野で使用されるのと同様な機械を扱う点で業界間の垣根が低いこと、また、北海道の土地柄を見ても分かるように、農家の経営規模が大きく、作業を行うのに機械化しやすい環境が整っていることから、潜在的な相性が良いという側面を兼ね備えていた点にある。しかし、それ以上に、次のことが、経営の「後ろ盾」として大きく横たわっている。

1.この事業の「屋台骨」を築いているもの 
〜本業で積み上げられた「信頼関係」が経営の生命線〜

 企業であれば、採算を度外視して経営を維持し続けるようとは思わないし、特に民間企業の場合、「うまみがない」と判断すれば、間髪入れずに、撤退という道を選ぶことになる。一方、農業は、その性格上、当然、農業経営のサステナビリティー(安定的・持続的経営)を最優先する。

 このため、コントラクター業務に参加する民間企業は、本腰を入れた経営を考えるならば、そこに内在するパラドックスとなる「企業の利益追求」と「農業のサステナビリティー」に折り合いを付けなければならず、その上で、地域農業と「共助・共存」できる企業であるとの「安心感」を勝ち取らない限り、経営の足元はぐらつくことになる。

  この企業が、民間企業という「経歴」にもかかわらず、地域農業に受け入れられた背景にあるのは、本業の建設機械や農業機械のレンタル事業の商売を通して、地域の実情を把握し、地域に貢献できる企業としての「評価」を得ていたことが挙げられる。

 地域社会に溶け込むことで積み上げられた揺るぎない地域農家との「信頼関係」は、コントラクター業務の「屋台骨」を築いており、まさに経営の生命線になっている。

2.「危機バネ」が「推進力」
 〜農業を活性化することで本業への波及も期待〜

 また、コントラクター業務を始めた理由として、十勝地域が酪農生産地帯という土地柄、農業などに対する産業依存度が高いため、これらの「基幹産業」を活性化しないことには、地域経済の活力は生み出されず、自らの本業である建設機械や農業機械のレンタル事業へも影響しかねないとの「危機感」を感じていたことにもある。

 これには、先行投資的な意味合いも含まれてはいるようであるが、コントラクター業務に手を付けることで、農業に活力が生み出され、地域経済が活性化することになれば、本業であるレンタル事業へ波及することを期待したのである。

 この「危機バネ」が「推進力」としての役割を果たし、背中を押している。


3 コントラクター業務はどのような状況にあるのか
〜北海道では規模拡大が労働力の制約要因〜

  コントラクター業務を委託する畜産農家を見ると、担い手の高齢化を背景に、飼料生産の「外部化」は勢いを増して行われているが、その委託スタンスは、経営規模により若干違いが見られている。

 九州などの肉用牛繁殖地帯では、飼養頭数や飼料生産面積などにおいて、農家の経営規模は比較的小さく、飼料生産への大型農業機械の導入がなじまないこともあり、担い手の高齢化そのものが労働力の制約要因として働いている。

 一方、北海道などの酪農地帯では、飼養頭数を増加することで、家畜と向き合う時間が増えた分、飼料生産にまで手が回らなくなっているように、担い手の高齢化という流れは変わらないものの、飼料価格が高騰したことで離農した酪農家の経営基盤などを受け継ぐことなども含め、さらなる規模拡大を優先したことが、労働力の制約要因として働いている(図4)。

図4 飼料生産受託畜産農家の割合(平成18年度)

 

 もちろん、どちらの場合においても、コントラクター業務を委託することにより、農業機械への投資という点では、経費の節減につながっている(北海道農政部)。

1.北海道におけるコントラクター業務
〜建設業からの参加は増加傾向で推移〜

 コントラクター業務は、農村地域の繁忙期において、ボランティア的な共同労働形態である「結(ゆい)」(金銭による報酬ではなく、労働力で農作業を助け合う慣習)につながる。

  コントラクター数については、「親方一人」で行われているところもあるように、業界内の出入りが頻繁に行われているため、その実態を把握することは難しい面があるとされているが、農林水産省によると、北海道のコントラクター数(図5)は、平成5年度の16組織(うち都府県31組織)から、同18年度は165組織(うち同282組織)となり10.3倍(うち同9.1倍)に、利用戸数(図6)も536戸(うち同2,844戸)から7,491戸(うち同13,165戸)の14.0倍(うち同4.6倍)に、飼料収穫作業の受託面積(図7)も8,718ヘクタール(うち同3,963ヘクタール)から89,712ヘクタール(うち同11,991ヘクタール)の10.3倍(うち同3.0倍)に急増している。

図5 コントラクター組織数の推移

図6 コントラクター利用戸数の推移

図7 受託面積の推移

 平成18年度における北海道の165組織についてその経営形態を見ると、営農法人などが67組織(40.6%)、有限会社49組織(29.7%)、農協27組織(16.4%)、農事組合法人10組織(6.1%)、株式会社9組織(5.5%)、公社3組織(1.8%)となっている(図8)。

図8 平成18年度における北海道の経営形態別コントラクター組織数、割合

 コントラクター業務が地域におけるボランティア的な共同労働形態から発生しているという経緯、また、助成事業に合致したいとの「もくろみ」もあることから、組織数は、営農法人などによる経営形態が際立つ一方、株式会社は著しく少なくなっている。また、全国で11組織ある株式会社のうち、その大部分となる9組織は北海道で設立されている。北海道で設立される株式会社を見ると、農業と建設業が連携可能な要素を含んでいることもあり、建設業からは増加傾向で推移している(社団法人日本草地畜産種子協会)。

2.十勝農業の概要
 〜1戸当たりの耕作面積は北海道平均の2倍、全国平均の20倍〜

 農林水産省によると、平成17年度における十勝支庁管内(1市16町2村)の農家戸数は、北海道総農家戸数59,137戸の11.4%に当たる6,740戸である。また、全国の25%を占める北海道の耕作面積約117万ヘクタールのうち、十勝の耕作面積は、北海道の耕作面積の21.9%に当たる約25万6,200ヘクタールとなる。このため、十勝の1戸当たりの耕作面積は約38ヘクタールとなり、北海道の平均耕作面積18.7ヘクタールの約2倍となっている。これは、全国平均の約20倍である(図9)。

  なお、平成18年度における十勝の1戸当たりの飼養頭数(乳用牛)は117頭であり、北海道の平均99頭を18頭上回り、都府県の平均43頭を74頭上回る。

図9 1戸当たりの平均耕作面積

〜全国の耕作放棄地は琵琶湖の5.7倍、東京都の1.8倍〜

 自給飼料の安定的な確保が急がれる一方、耕作放棄地は全国的に年々拡大し、平成17年は38万6千ヘクタールと、今や琵琶湖の5.7倍、東京都の1.8倍に匹敵する広さにまで及んでいる。  わが国の耕作面積の2.5倍に匹敵する農畜産物が輸入されていることを考え合わせると、耕作する農地が限られているがゆえに、飼料生産の効率化・低コスト化への無駄のない取り組みが急がれている。

コントラクター業務が地域におけるボランティア的な共同労働形態から発生しているという経緯、また、助成事業に合致したいとの「もくろみ」もあることから、組織数は、営農法人などによる経営形態が際立つ一方、株式会社は著しく少なくなっている。また、全国で11組織ある株式会社のうち、その大部分となる9組織は北海道で設立されている。北海道で設立される株式会社を見ると、農業と建設業が連携可能な要素を含んでいることもあり、建設業からは増加傾向で推移している(社団法人日本草地畜産種子協会)。

3.現在の事業内容

(1)受託農地は6,000ヘクタールもの広さ、山手線の内側面積に相当

 コントラクター業務は、整地、耕起、は種、施肥、たい肥散布・積み込み、牧草やデントコーンの刈り取り・細断、サイレージ鎮圧、運搬、牧草等のロール・ラッピング作業(収穫作物をロール成形からラッピングまで行う作業)など幅広い。

  北海道内における平成19年度の受託農家数は150戸で、このうち酪農家は120戸、畑作農家は30戸となっている。

  牧草やデントコーンの受託農地の総面積は、コントラクター業務を開始した当初は、わずか200ヘクタールであったが、現在は6,000ヘクタールもの広さ(牧草やデントコーンの収穫作業に係る農地)を手掛けるまでに至っている。この面積は、十勝支庁管内における耕作面積の2%を上回り、山手線の内側面積(約63平方キロメートル)に相当している。一時の高騰からは大幅に下落したとはいえ、依然として強含みで推移する穀物価格は、規模を拡大する酪農家において、マイナス要因として働く向きもある一方、コントラクター業務においては、農地の拡大は農家の経営規模が大きく、機械化しやすい北海道のスケールメリット(規模の経済性)を遺憾なく発揮している。

  受託農地の管理は、10名(営業4人、販売管理1人、工務5人)の従業員(平均年齢30歳)と建設機械のレンタル事業で取引関係のある建設会社を協力会社とし、その従業員を臨時従業員とすることで行われている。後で触れるが、これが受託農地を広げることを可能にしている「みそ」の一つであり、このバックアップ体制を築いたことにより、労働力が確保されるばかりでなく、固定費としての人件費を低減している。

  業務の拡大とともに事業所の従業員は増員されている。昭和63年の事業所設立時はわずか3名(営業1人、販売管理1人、工務1人)であったが、本格的にコントラクター業務を始めた平成5年は工務担当を2名増員し、現在に至る。

  従業員は、専門知識や農業経験のある人材を雇用する一方、技能向上のため研究会やセミナーに積極的に参加させ、さらなる知識の吸収に取り組んでいるとしている。

(2)代金回収は農協を通じて

 代金決済は、代金回収における農家とのトラブルを避けるとともに、代金のデフォルト(契約不履行)をリスクヘッジする必要から、農協の組合勘定を通して行なわれている。このため、コントラクター業務の受託は、畜産農家と直接契約を行わないことを基本的なスタンスとしており、契約の約9割は農協を通じて行われ、残りの1割は個別農家と結ばれている。
 農協を通じることのメリットは代金決済だけにとどまらず、地域農家の「ニーズ」をくみ取ることができるほか、契約農家の経営に関しての情報について仕入れることもあり、自社の危機管理に役立てられる面があるとしている。また、農協を通じることで、地域農家の信頼が、さらに増すという効果も挙げている。

(3)事業所の売上高は大半がコントラクター業務関連

 平成19年度におけるこの法人全体の売上高は158億円である。このうち、幕別町の農機事業所の売上高は全売上高の約2%に当たる2億5千万円である。この売上高のうち、約7割(1億7千万円)がコントラクター業務関連で、3割がレンタル業務関連である。

 法人全体で見ると、コントラクター業務への経営依存度は当然低いが、幕別町の農機事業所におけるコントラクター業務への経営依存度は、年々増加の一途をたどり、現在では、本業のレンタル業務関連の2倍以上をコントラクター業務関連の売上高が占めるまでに至っている。


4 規模拡大の「みそ」、何がこの経営のアドバンテージなのか
〜「ウィン・ウィン」の経営を築いているもの〜

 飼料づくりは、単に草を刈り取ればよいということではなく、品質を左右する「適期」での「迅速」な刈り取り作業が求められ、いかに顧客満足度を高めた良質な飼料を生産するかがポイントになる。

  この顧客のニーズを満たすとともに、自社の採算も踏まえた「ウィン・ウィン(お互いに満足のいく関係)」の経営を築いていけるからこそ、農地は拡大している。

  ここでは、何がこの経営のアドバンテージなのか。その特徴的な手法について紹介する。

1.季節的な作業量の多寡をどう乗り切るか
 〜公共事業の大幅な削減を逆手に取る〜

 コントラクター業務は、雨が降れば作業をストップせざるを得ないこと、また、北海道では冬場が雪で長く閉ざされるという地域性から、作業量は平準化できず、季節的な繁閑差が大きく生じている。

 農繁期に合わせ従業員を確保すれば、労働力は常に心配することがなくなるが、閑散期の労働力も抱え込むことになり、作業量にかかわりなく固定費として人件費が、経営に重くのし掛かる。このため、限られた従業員で、季節的な作業量の多寡をどう乗り切るのかということへの対応なくしては、従業員10名でのコントラクター業務は成り立たない。

  これを解決するに当たっては、自治体を取り巻く厳しい財政状況による公共事業の大幅な削減が福音となっている。

  建設業を取り巻く環境は厳しさを増し、1990年代に年間80兆円前後あった建設投資は、平成4年度の84兆円をピークに、平成14年度以降は、年間50兆円台に減少している(図10)。特に地方は、大都市と比べて建設工事に携わる土木関係者が多いことで、労働力に余力が増している(財団法人建設業振興基金)。

  このような状況から、レンタル事業で取引関係のある建設業の従業員を臨時従業員として活用することにより、「適期」での「迅速」なバックアップ体制(人員配置体制)を可能にするとともに、固定費としての人件費の低減に貢献している。なお、建設業の従業員の中には、少なからず農家出身者が就業しているという。

図10 建設投資の推移

 平成19年度の臨時従業員数は、延べ人数で80名程度を数え、地域に経済効果を与えている。

 臨時従業員は、農業機材の操作や運搬などの作業のみならず、広大な農地から契約農家の農地の所在を把握することや、サイレージの品質を決定する収穫、調製作業も行うことから、熟練した能力が要求される。このため、農家の要望もあって、指名された臨時従業員や地域の離農者などが、毎年同じ農地を繰り返し担う場合もあるとしている。

2.「プランニング」は腕の見せどころ
 〜本業で培った「工程管理」をコントラクター業務へ応用〜

 契約農家は、コントラクター業務を委託先に任せっぱなしにはしない。自ら飼料生産のプロセスに参加することで、どのような「エサ」が作られるのか見極めている。このことを見ても、いかに農家にとって、家畜飼料が重要であるかをうかがい知ることができる(社団法人北海道草地協会)。

 刈り取りは、「適期」での「迅速」な作業が求められる。時期を逸した場合、飼料の品質への影響が懸念されるからである。

  このため、作業量の集中をならす必要から、あらかじめ双方の意向を調整した「プランニング」が行われる。これが、建築納期が定められている建設業との間で培われた「工程管理」に相通じており、本業での経験がここに生かされている。

  「プランニング」は、いかに「緻密」に計画しても、降雨による作業の一時中断や、長雨や台風などによる作業の長期ずれ込みなどにより、刈り取り時期のみならず、配置した農業機械や人繰りに影響を与えるため、コントラクター業務の技量が最も試される作業の一つであるとともに、腕の見せどころにもなっている。

  刈り取り時期の「プランニング」は、契約農家との合意が前提となる。その上で、刈り取りの順番は、おおむね従来の契約先が優先されるよう仕組まれており、その後に新規の契約先が行われる。

  作業は道東から出発し、刈り取り時期に合わせて北上することで移動距離の効率化が図られている。また、「適期」での刈り取り作業が困難と見込まれる場合や移動距離などから非効率であると判断された場合は、受託を見合わせる場合もあるとしている。なお、農家との契約交渉は、作付けが始まる前の冬場に行われ、契約は単年度で結ばれている。

  1番草の刈り取りは6月中旬から始まり、2番草は8月から始まる。特に契約農家は、収量が多く栄養価が高い1番草の刈り取り時期に「こだわり」を持ち、神経を注ぐ。1番草の刈り取りが遅れると2番草に影響するため、進捗状況によっては、泊り込むなどして、夜を徹しての作業となる(図11)。

 豊富に所有する機材と人材を投入するものの、どうしても「適期」での刈り取り作業が難しいと判断された場合は、地域のコントラクター間で相互に作業を補完することも行われている。こうすることで、地域のコントラクターへの信頼は高まり、コントラクター全体の利益につながるからである。コントラクター業者間でお客を奪い合うということはないとしている(北海道農政部)。

図11 共成レンテム農機事業所年間作業スケジュール

3.いち早くラッピング・サイレージの可能性を見通す
〜昨年から細断型コンビラップを導入〜

 この経営のユニークな点は、いち早く北海道におけるラッピング・サイレージ(写真1)の可能性を見通し、コントラクター業務に、細断型ラッピング・サイレージによる生産手法を取り入れたことである。


写真1 ラッピング・サイレージ

 特に、穀物価格が高止まっていることから、畜産農家がサイレージ生産に無駄のない取り組みを求めていることも追い風になっている。

 この生産手法のおかげで、サイレージの広域流通が可能となっており、トウモロコシなどの生産が難しい遠隔地へラッピング・サイレージによる配送が行われている。

 昨年からは細断型コンビラップ(細断された収穫作物をロール成形からラッピングまで全自動で連続的に行える効率的な複合作業機)による生産手法を取り入れたことで、さらなる「適期」での「迅速」なコントラクター業務が可能となり、作業効率が飛躍的に高まっている。昨年実績では、受託面積の約10パーセント弱が細断型コンビラップを用いて行われている。また、バンカーサイロ、スタックサイロにあるサイレージ残餌についても細断型コンビラップにより再梱包が行われている(写真2)。


写真2 細断型コンビラップレンタル料

 

 このラッピング・サイレージによる生産手法を取り入れる前までは、サイレージ製造時にバンカーサイロ(写真3)が空いていない場合に支障を来しており、
 (1)サイロにあるサイレージの残餌を廃棄してバンカーサイロを空ける
 (2)サイロへの搬入作業が行えないため、収穫時期を遅らせて収穫されたものをサイロに詰める
 (3)新たにスタックサイロを作る
ということで対応しなければならなかった。

 また、夏場の気温が高い場合などは、サイレージをサイロから取り出す過程で生じる二次発酵による腐敗から、廃棄処分せざるを得ないという問題が生じていた。


写真3 バンカーサイロ

 細断型コンビラップなどの高価な農業機械の購入は、単に本業のレンタル事業の延長線上の結果として受け止められがちであるが、機械が高価であればあるほど、固定費低減のため機械の稼働率を高めなければならなく、また、機械の償却を考えると、その後の経営のリスク要因である。

 しかし、北海道の作業体系に見合った細断型コンビラップを導入したことは、事業の新たな「売り」につながり、稼働率を高めることで利益を上げている。なお、当法人が所有する細断型コンビラップなどの農業機械は、自己資本で調達しており、細断型コンビラップの価格は、1台当たり1千万円以上である。

 

〜細断型コンビラップの能力〜

細断型コンビラップによる作業メリットは、
 (1)青刈りトウモロコシのサイロ詰め作業での重労働から解放されること
 (2)サイレージの調製作業で多くの人手を要しないこと
 (3)ラッピング・サイレージは必要時に開封するため、従来サイロからサイレージを取り出す過程で生じる二次発酵による品質低下を受けにくいこと
などが挙げられている。

 細断型コンビラップの能力を実感するために、仮に東京ドームの広さ(約4.7ヘクタール)にトウモロコシを栽培したとして、青刈りトウモロコシ・サイレージをラッピング・サイレージにより生産した場合、2人がかりによる8時間労働という前提で見積もると、作業は1日半から2日程度で終了し、直径1メートル強、700〜800キログラムのラッピング・サイレージが330個程度生産されるとしている。


〜細断型コンビラップによりラッピング・サイレージが出来るまで〜

手順1の1
青刈りトウモロコシの刈り取り作業

手順1の2 刈り取り後の畑地

手順2 収穫後の詰め込み作業

手順3 ロール成形作業

手順4 ラッピング作業

手順5 ラッピング・サイレージの搬送作業

4.「ヒト」は協力会社から、「モノ」は自社から
〜事業所がハブ機能を果たすことで一括管理が可能〜

 当事業所がハブ(中心)機能を果たすことで、コントラクター業務の一括管理が可能になることもアドバンテージの一つになっている。

  農家や農業生産法人が同様な作業を仕組むならば、作業人員の確保や建設機材、農業機材の確保に契約行為を結ばなければならないなどの手間が発生することになるが、当事業所が請け負うことで、「ヒト」は協力会社から、また、「モノ」は自社からとなる効率的な連携が築けている。特に、農業機械の搬送作業では、いかに効率良くトラックを手配するかがポイントになるとのことで、この点を取って見ても、ダンプトラックなどを多く保有していることが、アドバンテージにつながっている。

5.熟練したオペレーター、農業機械の操作はお手のもの
〜工事現場を農地に見立てる〜

 バンカーサイロやスタックサイロのサイレージづくりでは、サイロの踏み込み作業にバックホー(油圧ショベル)やタイヤショベルの取り扱いは欠かせない。

  本業が建設機械や農業機械のレンタル事業であるため、また、建設業の従業員が臨時従業員であるため、建設機械や農業機械の操作はお手のもので、農作業でのトラクター、ブルドーザーの取り扱い、飼料の運搬は、手慣れた作業の延長線上にある。

  工事現場が農地に見立てられた格好であり、他産業出身者よりも農業との垣根が低い。

6.農業慣例を破る
〜異業種の民間企業だからこそでき得る「発想」〜

 農業慣例を打ち破るのは大変である。

  一つの事例ではあるが、ハーベスタで収穫後の畑地には、契約農家の意向から、その運搬に4トンのダンプトラックまでしか乗り入れできなかった。それ以上の重さのダンプトラックが乗り入れることになると、畑地が荒れてしまうとの理由からである。

  4トンのダンプトラックでは作業効率が悪いこと、また、経験上、11トンのダンプトラックを乗り入れても畑地へは影響がないことを実証し、最終的には事なきを得たが、この事例一つ見ても、農業慣例を破るのは大変である。しかし、このようなことは、異業種の民間企業だからこそでき得る「発想」としており、この「発想」こそが、絶対的なアドバンテージであると考えている。


5 さらなる農地を求め東北地域に打って出る
〜今後の事業展開〜

(1)経営の足かせ

 農業の請負業は、地域雇用の受け皿として貢献しているが、他産業と比較した場合、一般的に賃金水準が低い傾向にある。このため、農業を始めた企業の賃金水準と同程度の賃金水準により、請負業を引き受けることは難しく、これが農業ビジネスでの足かせの一つになっている(財団法人建設業振興基金)。

  当事業所によると、建設現場と農場現場の賃金水準は、単純な比較はできないとしながらも、作業単価は少なからず開きがあるとのことである。

 現在は、公共工事の大幅な削減による労働力の「買い手」市場になっているため、賃金水準が低くても臨時労働力の確保が容易な環境にあるが、これは経営の不安定要因との認識を持っており、将来的な検討課題としている。

 また、異業種から農業に参加した場合、一般農家や農業生産法人が受けている助成事業などの恩恵を受けにくいとしている。

(2)受託農地の拡大が最優先課題

 今後は、北海道というスケールメリット(規模の経済性)を活かし、受託農地の拡大を最優先課題に挙げている。また、拡大することで、請負単価の低下にもつなげたいとしている。
 受託農地は、主に十勝管内のみであったが、細断型コンビラップをメーカーと共同で改良し11トントレーラーへの積載を可能にしたこともあり、根釧地域など(根室・釧路・北見・胆振)の遠隔地にまで足を伸ばしている。

 また、北海道を離れ東北地域に進出する計画を温めていたが、2008年の秋口から、東北・北関東にある事業所の情報網を活かし、今までに積み上げてきた独自のノウハウを「武器」に、岩手県を中心として事業を立ち上げている。

 将来的には、ラッピング・サイレージを本州に供給する計画や飼料販売の資格を活用し、十勝平野で生産される野菜から出る「くず野菜」(規格外、流通外のニンジンやジャガイモなどの「はね物」)などの農場副産物をラッピング・サイレージの中に入れることでTMR飼料(完全混合飼料)を生産する計画を持っている。さらには、コントラクター部門を分社化することにより、農業生産法人を設立することについても視野に入れているとしている。

6 越境する「新たなプレイヤー」から力を借りる
〜おわりに〜

 農業者の高齢化や担い手不足などから、飼料づくりにまで手が回らない畜産の生産現場では、業界間の「垣根」を越えた「新たなプレイヤー」が、自給飼料の生産を支えており、リスクを管理した上で、コストさえ合えばさらなるチャレンジを試みている。

 また、自給飼料の生産を見ると、その地域性が高いことから、土地、土地ごとに異なる「顔」を見せ、それぞれの現場における「チエ」の中に「カギ」が隠されているようである。

  先月訪問した鹿児島県志布志市にある野菜生産法人では、大手食品企業との間で培われた「契約野菜」の経験を活かし、「サイバー農業(データベースに基づき、パソコンによるシミュレーションにより、一連の生産体系を包括的に管理)」により、野菜の輪作体系に積極的に畜産飼料としてトウモロコシ栽培を取り入れ、所有農地の36倍に当たる「借地農地」を活用し「利益」を上げている(畜産の情報(平成20年10月号)掲載)。

  農業が地域との結び付きが強い産業であることから、「新たなプレイヤー」による農業ビジネスを見ると、地域生産者に溶け込み、地域と「共生」することを経営のスタンスに置いた上で、顧客のニーズを把握・提供するとともに、顧客との「信頼関係」をどう築いていけるかが、その後の経営の分かれ目であるように思える。この意味では、工業製品のマーケティングに通じるようだ。

  これからの「成長産業」と見込まれている農業のフィールドでは、今まで当たり前と考えられてきた「ベースライン(前提)」が、通用しなくなってきていることからも、今回の事例のように、農業慣例にとらわれることのない「新たなプレイヤー」の創意工夫に満ちた「越境」が必要であり、また、受け入れ側は態勢を整えることで、借りられる「推進力」は、何でも借りざるを得ない流れの中にあるようだ。「ヒト、モノ、チエ」何でも借りるのだ。

  本稿が、畜産界にとどまることのない「越境」する民間企業の「経営力」を紹介することで、飼料生産の効率化・低コスト化に結び付くヒントを提供できれば幸いと考える。


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