海外駐在員レポート  
 

タイにおける畜産物の需給見通しについて

シンガポール駐在員事務所 佐々木 勝憲、林 義隆


    

1.はじめに

 タイ農業協同組合省(MOAC)農業経済局(OAE)は、畜産物の2008年の状況および2009年の傾向について公表した。MOACは、2009年の畜産業の見通しとして、2008年に好調だったブロイラー産業についてでさえ、2009年にはさらなる輸出の拡大を予測しつつも、世界経済の不況による影響を懸念し、価格の低下や生産量の増加の鈍化を予測している。また、生産や消費の減少を見込む養豚については、調製品を中心に輸出の拡大に期待を置いている。一方、生産とともに消費の拡大を見込む採卵鶏については、関係者の協力のもと、国内消費の拡大と高付加価値製品の生産による輸出の拡大を図ろうとしている。

 今回発表された畜産物の2008年の状況および2009年の傾向の概要について畜種ごとに紹介する。

2.ブロイラー

(1)生産

 2004年から2008年までの5年間で、ブロイラーの生産量は年平均6.7%の増加となり、2008年の生産量は、前年の約8億8千万羽(約111万トン)から約2.3%増加し、約9億羽(約113万トン)となった。しかし、飼料および燃料価格の上昇により生産コストが上昇したこともあり、生産量の増加はわずかにとどまった。

 また、2004年の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生後、生産量は世界第7位から第10位に後退し、2008年には世界の生産量の約1.6%を占める量となった。

 2009年の生産量は、人口の増加および輸出の拡大に応じて増加するものの、輸出が世界経済の減速による影響を受ける可能性があるため、生産量が大幅に増加することはないと見込まれることから、OAEは前年比2.2%増の約9億2千万羽(約116万トン)と予測している。

(2)消費

 2004年から2008年までの5年間で、タイの鶏肉消費量は年平均3.0%の増加となった。2004年のHPAIの発生を契機として、安全性への不信感から鶏肉消費は減少し、他の食肉への代替が生じた。その後もHPAIは発生しているが、その後の対策などにより鶏肉の品質および基準に対する消費者の安心感が増したため、消費は回復してきている。

 2008年の消費量は、前年の約80万9千トンから約6.6%減少し、約75万6千トンとなった。これは経済の減速および鶏肉価格の上昇の影響によるものと考えられる。

 2009年の消費量は、2008年の75万6千トンから0.7%増加した75万7千トンと予測される。なお、生産量に占める国内消費量の割合は減少傾向にあり、約65%となる見込みである。
表1 鶏肉の生産量、消費量、輸出量の推移

(3)輸出

 2004年から2008年までの5年間で、鶏肉・鶏肉調製品の輸出量は年平均17.0%増加した。2004年のHPAIの発生により、輸出は鶏肉から鶏肉調製品にシフトせざるを得なくなったものの、輸出先国からタイ産鶏肉・鶏肉調製品に対する品質が評価されたことから、鶏肉と鶏肉調製品の合計輸出量は増加傾向で推移した。

 2008年については、輸出量、輸出額ともに大幅に拡大し、鶏肉と鶏肉調製品を合わせた合計輸出量は、前年比26.5%増の約37万6千トン、また、合計輸出額は同45.2%増の481億4千万バーツ(約1372億円:1バーツ=2.85円)となる見込みである。その理由としては、(1)日本が食品の安全性の問題から、中国産からタイ産に切り替えたこと、(2)日タイ 経済連携協定(JTEPA)の効果により、タイ産鶏肉調製品の輸入関税が5%に削減されたこと、(3)EUから鶏肉調製品の関税割当数量16万30トン(税率8%)を割り当てられたこと、(4)燃料および飼料の値上がりのため、鶏肉価格が大幅に上昇したことが挙げられる。

 2009年については、(1)EUの関税割当の設定、(2)JTEPAの効果による、タイから日本への鶏肉調製品の輸入関税の引き下げが6%から5.5%、5%(08年4月〜09年3月)、(3)アラブ首長国連邦が2007年7月にタイのハラル食品システムを認証したこと、(4)サウジアラビアが2008年8月にタイ産鶏肉・鶏卵・鶏肉調製品の輸入禁止の解除を発表したことにより、数量が前年比6.3%増の40万トン、金額が同0.6%増の484億4千万バーツ(約1381億円)になると予測される。主要輸出市場については、これまでと同じEUの50%、日本の40%、そしてシンガポール、韓国、カナダ、ベトナムなどその他の市場合計10%の3部分に分かれると予測される。
表2 鶏肉、鶏肉調製品の輸出量、輸出額の推移

(4)価格

 2004年から2008年までの5年間で、農家販売価格は年平均6.5%上昇した。これは、EUや日本などの輸出先国がタイ産鶏肉の品質および基準に対する信頼感を持ち、輸出が拡大したことおよび生産コストが上昇したためである。

 これにより、2008年の農家販売価格は前年の生体キログラム当たり33.67バーツ(約96円)から8.34%上昇し、同36.50バーツ(約104円)となった。生産コストについては、その約70〜80%を占める飼料費が、トウモロコシ、大豆など主要飼料原料が代替バイオエネルギー生産に用いられたことから上昇傾向にあったことや、石油価格も継続的に上昇したことなどから、上昇することとなった。

 これに対し、鶏肉調製品の輸出価格(バーツ建て)は2004年から2008年までの5年間で、年平均2.0%の上昇にとどまった。主要生産・輸出国であるブラジルとの激しい競争があったためである。ブラジルは主要飼料原料の生産地でもあり、他国よりも鶏肉調製品の生産コストが低い。

 2008年の鶏肉調製品の輸出価格はバーツ安、生産コストの上昇のため、前年のキログラム当たり115.74バーツ(約330円)から11.2%上昇し同128.67バーツとなった。

 なお、鶏肉調製品の米ドル建て価格については、2004年の同2.99米ドルから、2008年には年平均7.8%高の同4.04米ドルへと上昇した。

 2009年には、主要飼料原料および石油の価格低下による生産コストの低下や、米国の金融危機に端を発した世界的な景気後退により、EUや日本における需要の減退や国内の購買力の低下により、ブロイラーの農家販売価格および鶏肉調製品の輸出価格は低下すると予測される。
表3 鶏肉の農家販売価格、輸出価格の推移

3.豚

(1)生産

 2004年から2008年までの5年間で、生産量は年平均0.8%の減少となった。これは、2006年〜2007年末に豚肉の供給過多および価格低下の問題が生じたためである。

 2008年の生産量は前年の1354万5千頭(約108万トン)から13.6%減少した1170万3千頭(約94万トン)となった。これは、2007年に豚肉価格が低下した一方で、2007年末から2008年前半に、飼料原料価格の上昇により生産コストが上昇し、養豚農家の利益が減少したためである。このため、一部の大規模農場では生産を拡大した一方で、資金繰りが悪化した農場は事業中止に追い込まれる事例も発生した。また、2007年11月から2008年1月にかけて豚感染性下痢症が発生したために、およそ60〜80万頭の子豚の損失が出たことも減産の一因となった。

 2009年の生産量についてOAE農業情報センターは、前年比2.2%減の1144万7千頭(約91万6千トン)と予測している。これは、2008年の豚肉価格が前年から大幅に上昇したものの、飼料原料価格の高騰により生産コストも上昇したため、養豚農家が損失を被った時期もあったためである。

(2)消費

 2004年から2008年までの5年間で、消費量は年平均0.4%の減少となった。2008年には、前半に豚肉価格が前年比で大幅に上昇したことにより、他の食肉に消費が移ったこと、また、物価が上昇したことにより、前年の111万トンから17.1%減少し約92万トンとなった。2008年の一人当たりの消費量は枝肉換算で年平均13.9キログラムである。

 2009年の豚肉消費量は、石油価格の低下により消費者物価が低下し、豚肉価格も2008年より低下すると予測されるものの、景気の減速、失業者の増加、農産物価格の低下により、国民所得が減少するため、わずかに減少すると見込まれる。
表4 豚肉の生産量、消費量、輸出量の推移

(3)輸出

 豚肉および豚肉調製品の輸出量は、口蹄疫が発生していることにより、生産量のわずか1%程度にとどまっている。2004年から2008年までの5年間の輸出量は年平均13.1%の増加となったが、輸出額(バーツ建て)は同23.6%の増加となった。これは豚肉の輸出量が減少傾向にある一方、単価の高い豚肉調製品の輸出量が増加したためである。

 2008年の豚肉輸出量は前年比15.5%増の4,500トン、輸出額は同63.0%増の3億7千万バーツ(約10億5千万円)と予想される。一方、豚肉調製品の輸出量は同30.1%増の6,000トン、同57.5%増の12億バーツと見込まれる。

 2009年の輸出のうち豚肉については、主要輸出先である香港市場での中国産品との競合が予想されるため増加しないとみられる。一方、豚肉調製品については増加するとみられ、主要市場である日本では、JTEPAが輸出量を増加させるプラス要因になると見込まれている。設定された関税割当量(注)が現在の輸出量よりも少なく、割当内関税の引き下げ幅も大きいものではないが、いずれにしても、豚肉および豚肉調製品の総輸出量は12,000トン(前年比14.3%増)を超えない量であると予測される。

    (注)豚肉調製品の一部に、1,200トンの関税割当が設定された。

表5 豚肉および豚肉調製品の輸出量、輸出額の推移

(4)価格

 輸入はほとんどが豚肉調製品およびその他の可食部(皮、肝臓、その他の内臓)であり、2004年から2008年までの5年間でのこれら輸入の年平均伸び率は、豚肉調製品が24.2%、その他可食部が16.1%となった。

 2008年の豚肉調製品の輸入量は120トン、輸入額は3360万バーツ(約9千6百万円)であった。前年の125.8トン、4541万バーツ(約1億2千9百万円)と比較すると、それぞれ4.6%減、26.0%減となった。一方、その他の可食部の輸入量は11,820トン、輸入額は2億1600万バーツ(約6億1千6百万円)である。前年の9,495トン、1億6280万バーツと比較すると、それぞれ24.5%増、2.7%増となった。その他の可食部の大部分は、韓国、豪州からの肝臓、ベルギー、ドイツ、オランダからのその他の内臓の輸入である。
表6 豚肉調製品およびその他の可食部(皮、肝臓、その他の内臓)の輸入量、輸入額の推移

(5)価格

 2004年から2008年までの5年間で、肥育豚の農家販売価格は、年平均4.6%上昇した。

 2008年の農家販売価格は、前年に豚肉価格が下落したため、養豚農家が減産したことから、前年比39.5%高のキログラム当たり53.48バーツ(約152円)となった。また、輸出価格について、同5年間で、豚肉は年平均3.7%の上昇となったが、豚肉調製品は同4.1%の低下となった。

 2008年の豚肉輸出価格は、前年から40.7%上昇し同82バーツ(約234円)となったが、米ドル建ての価格では47.6%の上昇となった。一方、豚肉調製品の輸出価格は、前年から21.01%上昇した同200バーツ(約570円)となったが、米ドル価格では27.4%の上昇となった。

 2009年の肥育豚の農家販売価格は、豚肉生産量が減少するものの、前述の経済の減速により、消費需要も減少することなどから、2008年と比較すると低下することが予測される。また、豚肉および豚肉調製品の輸出価格も同様に低下するとみられる。
表7 豚肉の農家販売価格、輸出価格の推移

4.酪農

(1)生乳生産

 2004年から2008年までの5年間で、乳用牛飼養頭数は年平均3.0%増加し、2008年1月1日現在では約49万6千頭と、前年の約49万5千頭から0.2%増とわずかな増加にとどまった。この理由として、2006〜2007年に生産コストが上昇した一方、農家販売価格は経済状態を反映して上昇しなかったことから、多くの酪農家が飼養をやめたことが挙げられる。特に小規模農家は、生乳販売からの収入が生産コストを下回ったため、廃業せざるを得ない状況となった(2007年1月1日の飼養頭数は前年比5.0%減)。しかし、生乳の工場渡し中央買取価格が2007年に2回、2008年に1回引き上げられた後、キログラム当たり18バーツ(約51円)となったため、農家が再び酪農に関心を持つようになったが、現時点ではまだ需要を満たす生乳生産には至っていない。こうした状況により、2008年の生乳生産量は前年の約82万2千トンから0.6%とわずかに増加した約82万7千トンとなった。

 2009年の生乳生産については、生乳需要が高まり、価格が2年間に3回も引き上げられたものの、乳用牛飼養頭数および生乳生産量は微増にとどまるものと見込まれる。これは、乳用牛は子牛1頭の生産に約1年間、分娩、泌乳するようになるまで約2年と、合計で最低約3年はかかるため、増頭を促進しても、乳用牛飼養頭数および生乳生産量が増えるには、約2〜3年を要するからである。

(2)消費

 飲用牛乳の消費量の伸びは鈍化すると見込まれる。その理由として、(1)主要市場である学校給食用牛乳の消費量は前年並みと見込まれること、(2)学乳以外の一般市場では、多種多様な飲料との競合があるため、市場の拡大はわずかにとどまること、(3)乳成分を含む食品中のメラミン汚染が確認されたという報道により、消費者がこれらの消費に対し不信感を抱いていること、が挙げられる。

 いずれにしても、生乳価格が輸入乳製品価格を下回るかまたはそれに近い場合、その一部は、粉乳の代替として、乳製品の原料としての利用が進むと考えられる。
表8 乳用牛飼養頭数、生乳生産量、飲用牛乳消費量の推移

(3)乳製品輸出

 タイは多種多様な乳製品を輸出しているが、その大部分は輸入原料を再加工して輸出する形態がほとんどであり、主なものとして、外国産のクリーム、粉乳、生乳などから作ったバター、脱脂粉乳、加糖れん乳、発酵乳、ヨーグルトなどである。これらはラオス、カンボジア、ミャンマー、シンガポール、香港、フィリピンなどの周辺国へ輸出されている。2008年の乳製品輸出量は前年比20.9%増の約10万6千トン、輸出額は同29.5%増の約46億7400万バーツ(約133億2千万円)の見込みである。

 2009年の輸出量は微増との見込みである。しかしながら、消費者が依然として乳成分を含む商品のメラミン汚染を恐れるならば、輸出量は減少すると見込まれることから、この問題に対して、消費者の信頼を回復させるための政府の対策が急がれる。

(4)牛乳・乳製品輸入

 2004年以降、牛乳・乳製品の輸入量は、年間15万トン以上、金額100億バーツ以上で推移している。主要輸入乳製品は脱脂粉乳であり、牛乳・乳製品輸入量合計の3割以上を占めている。脱脂粉乳は、飲用牛乳、濃縮乳、パン、アイスクリーム、加糖れん乳、飴、チョコレート、飼料などのさまざまな用途に利用できるためである。2008年の乳製品輸入量は前年 比4.8%減の約15万5千トン、輸入額は同6.6%増の約172億8500万バーツ(約492億6千万円)の見込みである。この内、脱脂粉乳が同13.6%減の約4万9千トン、同12.3%減の約65億4200万バーツ(186億4千万円)と見込まれる。乳製品輸入が前年を下回ったのは、中国産乳製品にメラミン汚染が確認されたとの報道がタイを含む世界各地に広がったためである。これにより、乳製品および乳成分を含む商品の売上が大幅に低下した。そのため、乳業メーカーは減産せざるを得ず、乳製品輸入の停止・削減につながった。

 2009年の乳製品輸入のうち脱脂粉乳は増加との見込みである。これは、脱脂粉乳の輸入価格は2008年から低下しており、一方で国内の生乳価格は上昇すると見込まれ、相対的に割安となる輸入脱脂粉乳の需要が高まるとみられるためである。

(5)生乳価格

 生産コストの上昇により、生乳の工場渡し中央買取価格は2007年4月にキログラム当たり12.50バーツ(約35.6円)から同13.75バーツ(約39.2円)に、9月には同14.50バーツ(約41.3円)に調整された。2008年に入っても、7月に同18バーツ(約51.3円)に再調整された。協同組合の生乳収集センター、民間センター、教育機関、酪農奨励機構において売買された2008年の農家販売価格の平均値は、同14.56バーツ(約41.5円)であった。
表9 牛乳乳製品の輸出量、輸出額の推移
表10 牛乳乳製品の輸入量、輸入額の推移
表11 生乳の生産コスト、生乳農家販売価格、工場渡し中央買取価格、濃厚飼料価格、1頭当たり乳量の推移

5.肉用牛

(1)生産

 2004年から2008年までの5年間で、牛肉生産量は年平均4.3%の増加となった。これは、政府が、自由貿易協定(FTA)の影響に対応するため、国内における牛、特に高品質肉牛のさらなる飼養奨励策を講じたことにより、国内で飼養される繁殖めす牛頭数が増加したためである。

 2008年の生産量は、飼養頭数の増加などに伴い前年の約119万7千頭、約17万2千トン(枝肉重量ベース)から1.1%増加した約121万頭、約17万4千トン(同)となった。

 2009年の生産量は繁殖めす牛の飼養頭数の増加に伴い、子牛生産頭数が増加傾向にあることから、2008年から約2.3%増加した約123万8千頭と予測される。

(2)消費

 2004年から2008年までの5年間で、牛肉消費量は年平均0.2%増とわずかに増加した。このように微増にとどまった理由としては、(1)依然として市場が限定されていること、(2)牛肉価格が代替物である豚肉や鶏肉と比較すると非常に高価であること、(3)牛肉消費に関して、観音菩薩を信仰する一部の仏教徒が牛肉を食べないことや、役畜である牛を食用とする習慣がなかったことといった、信仰および価値観による影響を受けていること、が挙げられる。

 2008年の牛肉消費は前年より0.2%増加した約125万頭、18万トン(枝肉重量ベース)となった。これは、経済・政治状況が不安定に推移したため、国民が消費に慎重になったためである。また、より安価な豚肉、鶏肉、魚介類といった代替品があるため、消費量の増加はわずかな量にとどまった。

 国内で生産された肉牛はほぼすべて国内で消費される。輸入については、一部は合法的に輸入されるが、生体や解体処理された形で密輸入されるものもある。2009年の消費量は、前年比で横ばいと予測される。
表12 牛肉の生産量、輸出入量、消費量の推移

(3)輸出

 2004年から2008年までの5年間で、生体牛の輸出は年平均2.1倍と大幅に増加した。大部分はマレーシア、ラオス、カンボジアなどの隣国に輸出されている。

 2008年の生体牛輸出は前年の約7千頭、輸出額約3728万バーツ(約1億624万円)から頭数で約9倍、輸出額で約12倍増加し、約6万頭、4億3700万バーツ(約12億4500万円)となった。これは国内の生体牛価格が非常に安いため、良質なタイ産牛肉の需要がある隣国への市場拡大が行われたためである。

 2008年の牛肉、牛肉調製品の輸出は、前年の輸出量約300トン、輸出額2714万バーツ(約7735万円)からそれぞれ73.8%、50.7%減少した約70トン、1339万バーツ(約3816万円)となった。なお、調製品の原材料の大部分は海外から輸入され、缶詰に加工後輸出されており、ほとんどはコンビーフなどの製品として日本に輸出されている。

 2009年の生体牛の輸出量は前年比で増加の傾向にある一方、牛肉、牛肉調製品の輸出量は減少傾向にあると予測される。

(4)輸入

 2004年から2008年までの5年間で、生体牛の輸入頭数は年平均43.7%の減少傾向にあった。大部分はミャンマーからの輸入である。

 2008年の生体牛輸入は国内需要が低迷したため、前年の約1万3千頭、輸入額6325万バーツ(約1億8千万円)からそれぞれ24.5%、20.9%減少して約1万頭、約5千万バーツ(約1億4千万円)となる見込みである。

 一方、2004年から2008年までの5年間で、牛肉および牛肉調製品の輸入量は年平均8.6%の増加傾向にあった。牛肉の大部分は豪州、ニュージーランドから、牛肉調製品は豪州、ブラジル、米国から輸入された。

 2008年の牛肉および牛肉調製品の輸入は、数量が約1千7百トン、金額が約3億7524万バーツ(約10億7千万円)であり、前年の約1千9百トン、約3億2901万バーツ(約9億4千万円)と比較すると輸入量は10.3%の減少、輸入額は14.1%の増加となる見込みである。

 2009年の生体牛、牛肉および牛肉調製品の輸入は、前年比で減少すると予測される。これは経済、政治状況が不安定なことから、国内市場があまり活気づかないためである。観光客数も減少するとみられることから、消費は横ばいもしくは減少となり、輸入量も減少するであろう。
表13 肉用牛、牛肉の輸出入量、輸出入額の推移

(5)価格

 OAEによると、2004年から2008年までの5年間で、生体牛農家販売価格は年平均3.1%の低下となった。これは、牛肉需要が依然として高いものではないためである。また、経済・政治状況が不安定なことにより国民は支出により慎重だったためでもある。農家販売価格は、今後さらに低下傾向が見込まれている。

 2008年の農家販売価格は、前年のキログラム当たり47.65バーツ(約136円)から7.6%低下した同44.03バーツ(約125円)となった。生産量の増加に比べ需要が伸び悩んだため、肉牛市場は活気づかなかった。また、南部の国境地帯から安価な牛肉が密輸入されていると言われており、これが、国内の牛肉市場に影響を与え、生体牛価格を下落させたとも言われている。

 一方、2004年から2008年までの5年間で、生体牛輸出価格は年平均2.0%の上昇となり、2008年を見ると前年比で31.2%と大幅に上昇した。

 2004年から2008年までの5年間で、牛肉お よび牛肉調製品の輸出価格は年平均19.1%の上昇となり、2008年を見ると前年比で88.6%上昇し、キログラム当たり約191.3バーツ(約545円)となった。

 この5年間の生体牛輸入価格は年平均5.4%の上昇傾向となり、2008年を見ると前年から4.8%の上昇となった この5年間で、牛肉および牛肉調製品の輸入価格は年平均19.1%上昇した。輸入牛肉は、高級市場での需要に対応するための、国内生産でまかなえない高品質のものであった。2008年の牛肉および牛肉調製品の輸入価格は前年比27.2%上昇し、キログラム当たり217.80バーツ(約621円)となった。

 2009年の生体牛農家販売価格は前年並みと予測される。消費がまだ限定的であること、生体牛および牛肉が継続して輸入されることから、国内の肉牛および牛肉価格が上昇することは難しく、さらに、経済、政治状況はさらに不安定感を増しているため、肉牛価格にも影響を与えると見込まれる。

 また、2009年の生体牛輸出価格は前年比上昇、牛肉および牛肉調製品輸出価格は前年並み、輸入価格は生体牛、牛肉および牛肉調製品とも2008年比上昇と予測される。
表14 牛肉の農家販売価格、輸出、輸入価格の推移

6.採卵鶏

(1)生産

 2004年から2008年までの5年間で、鶏卵生産量は年平均9.3%の増加となった。これは、飼養方法や規模といった、採卵鶏の飼養方式が急速な発展を遂げたためである。2004年のHPAIの発生後、MOAC畜産局が設定した基準を満たすため、それまでの開放型農場から、気化冷却装置で気温を管理する閉鎖型農場への転換が進んだ。

 2008年の生産量は、農場の規模拡大および飼養方法の改善により、ケージ採卵鶏の生産能力が向上したことから、前年の89億9千万個から4.1%増加し、93億6200万個となった。平均産卵数は、1羽1年当たり288個から4.2%増加し、同300個となった。

 2009年の鶏卵生産量は、前年並みの伸びとなる見込みである。この理由として、(1)首相府の規定に従い設置された採卵鶏・製品開発方針委員会(Egg Board)が、関係者の遂行指針とするための2008〜2012年度採卵鶏戦略において、鶏卵の生産過剰問題を解決するため、生産とマーケティングが合致するよう遂行計画を定めていること、(2)同委員会が、原種鶏および種鶏の輸入量をそれぞれの年に応じ管理すると決議したこと、(3)飼料原料、石油価格の上昇に伴う生産コストの上昇に対応するため、採算性の悪化を増産により相殺しようとする意向がはたらくことが挙げられる。OAEは、2009年の生産量を2008年比5.3%増の98億5600万個と予測している。

(2)消費

 鶏卵生産の96%が国内で消費されている。2004年から2008年までの5年間で、消費量は年平均8.4%拡大した。

 2008年の消費量は、前年の87億5千万個から2.8%増加し、89億9200万個となった。唯一の安価なたんぱく質食品である鶏卵の消費拡大運動などさまざまな需要増進対策が継続的に行われたことが、需要が増加した理由の一つである。この運動は、消費者が依然として鶏卵のコレステロールについて懸念を持ち、消費が頭打ちになっていることから実施され、鶏卵消費の良い点、悪い点について示しながら、栄養に関する正しい知識の普及が行われた。なお、タイにおける1人1年当たりの鶏卵消費量は拡大はしているものの、2008年で平均136個と、中国の330個、日本の323個、台湾の320個と比較すると非常に少ないと言える。

 2009年の鶏卵消費量は、2008年から増加すると予測されている。生産量の増加に加え、消費拡大運動の継続的な実施による鶏卵消費に対する消費者の安心感が増したことがその理由である。
表15 鶏卵の生産量、輸出量、消費量の推移

(3)輸出

 生鮮鶏卵の輸出量は生産量の約4.0%に当たるものの、国内価格を維持するための過剰分の放出にすぎないことから、年による変動が大きい。輸出量の80〜85%を占める香港が主要輸出市場である。2004年から2008年までの5年間、生鮮鶏卵の輸出量は年平均58.9%増、輸出額は同77.9%増となった。これは、新市場が拡大したためである。また、この5年間の鶏卵調製品(全卵液、卵黄液、卵黄粉など)の輸出量はで年平均10.5%増、輸出額は同14.2%の増加となった。主要輸出市場は日本である。

 2008年の生鮮鶏卵の輸出は、前年の輸出量約2億4千万個、輸出額7億4千8百万バーツ(約21億3千2百万円)から、それぞれ54.2%増、13.8%増の約3億7千万個、約8億5千1百万バーツ(約24億2千5百万円)となる見込みである。また、鶏卵調製品の輸出は、2007年の輸出量約2千8百トン、輸出額約1億8千3百万バーツ(約5億2千2百万円)から、それぞれ14.3%増、20.4%増の約3千2百トン、約2億2千1百万バーツ(約6億2千9百万円)となる見込みである。

 2009年の生鮮鶏卵および鶏卵調製品の輸出は増加すると予測されている。その理由は、鶏卵生産販売輸出業者協会が、特に商品品質の条件が厳しい主要市場である香港において、Pack Brandという統一ブランドを確立し、タイ産生鮮鶏卵の付加価値を高め、輸出市場を拡大したことにある。香港の消費者は品質の良い鶏卵、特に、中国産鶏卵と比較し高品質であると認められているタイ産の鶏卵を求めているためである。
表16 鶏卵および鶏卵調製品の輸出量、輸出額の推移

(4)価格

 2004年から2008年までの5年間で、鶏卵の農家販売価格は年平均1.8%上昇した。HPAIの発生後、消費者の鶏卵消費に対する不信感の高まりなどから、鶏卵価格は非常に激しく変動した。

 2008年の鶏卵価格は、前年の1個当たり2.06バーツ(約6円)から13.1%上昇して2.33バーツ(約7円)となった。これは、生産コストの約65〜68%を占める飼料費が、継続的な原 油価格の上昇、バイオマスエネルギーへの利用拡大などに伴い、主要な飼料原料であるトウモロコシ価格の高騰を反映して上昇した結果、鶏卵の生産コストが上昇したためである。

 また、2004年から2008年までの5年間で、生鮮鶏卵、鶏卵調製品の輸出価格はそれぞれ年平均6.2%、3.3%上昇した。

 2008年の生鮮鶏卵の輸出価格は、前年の1個当たり3.12バーツ(約9円)から26.3%低下し、同2.30バーツ(約7円)となった。鶏卵調製品の輸出価格は、前年のトン当たり約6万4千5百バーツ(約18万4千円)から5.4%上昇し約6万8千バーツ(約19万4千円)となった。

 2009年の鶏卵農家販売価格は、前年並み、または上昇すると予測している。その理由は、Egg Boardが関係者の遂行指針とするため定めた、2008〜2012年度採卵鶏戦略の中で、(1)生産が需要を上回った場合は、生産量を削減するため、大規模飼養者にケージ飼い採卵鶏を特定期限までにとう汰するように協力を求める、(2)同時に、国内の価格水準を維持するため、国民の鶏卵消費の運動を継続的に行うとともに、外国への過剰分放出を促進する、といった各種対策を規定したためである。このような対策により、鶏卵価格の低下、農家単位では解決が困難な周期的な生産過剰などの問題の解決につながると考えられる。
表17 鶏卵の農家販売価格、輸出価格の推移


 
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