話題

「食のグローバル化」
生産者と消費者をつなぐ物流の役割

独立行政法人農畜産業振興機構 監事 堀 邦夫

グローバル化の進展

  経済のグローバル化の進展に伴い、国民生活を取り巻く環境も大きく変化しています。グローバル化は、人・物、サービスが世界中を駆け巡り、国際的な依存関係が強まり、国民生活に大きな影響を及ぼしています。

 現在、私達の身の回りには海外からの製品が溢れていますが、食材も例外ではなく、その多くを海外に依存しています。

 記憶に新しい中国産の冷凍餃子事件は、食に対する信頼を大きく揺るがし、消費者が改めて食の安全について真剣に考える機会になりましたが、さらに驚かされたことは、日本の食材が如何に海外に依存していたかを知らされたことではないでしょうか。そのことは小麦や大豆、肉類など、いわゆる一次産品の食料だけでなく、一般家庭で手軽に調理されている冷凍食品までが輸入食品であったことの驚きです。これら多くの輸入食材は、今や一般家庭のみならず、外食や中食(市販弁当、惣菜等の料理品)などの業務用や、さらには各種の施設や学校給食用としても日本の食生活全般に浸透しており、日本の食文化を大きく変えつつあるのが実態です。このことは外食産業における低価格化の動きが、安価で良質な食材の安定調達を求めて輸入食材を増大させてきたこと、また中食産業においても安価な食材を求めるなど、同様の動きをしていることも大きな要因でしょう。

 このような状況にあって、私達が日々利用しているスーパーなどの店頭にも、実に多くの輸入の冷凍食品や生鮮野菜・果物など多種多様な食材が、一見しただけでは国産品と見分けがつかない規格統一、包装で、かなりの棚スペースを占有し、整然と並んでいるのを目にします。

食のグローバル化

 しかしながら、その現実に対し消費者は、特に疑問を抱いていないのが実態ではないでしょうか。まさにこれが食のグローバル化の現実なのでしょう。

 このように輸入食材が、私達の日常生活の中に浸透しているにもかかわらず、消費者はそれらの流通のこととなると、あまり気に掛けたことはないと思います。食材が流通・加工の工程を経て外食・中食の料理品となり、またそれらがスーパーやコンビニや小売商店などの店頭に並ぶまでには、実は「物流」という流通インフラが機能して初めて成り立っているのです。すなわち、物流は生産者と消費者をつなぐ架け橋の役割を果たしていると言えます。

 この機会に、普段あまり表舞台に出てこない物流について、その物流が果たしている役割に少し陽を当ててみたいと思います。

 さて、食のグローバル化にあって、食材がどのようにして海外から日本に輸送され、その後、国内の流通・加工の工程を経て、我々の食卓に届いているのでしょうか。そこには、輸出入の通関を含む輸送・包装・荷役・保管・流通・加工、そして物流情報などのいわゆる物流インフラが介在して初めて可能となっています。すなわち、食のグローバル化は、物流が機能してはじめて進展しているとも言えます。

SCM(サプライチェーン・マネジメント)

 食のグローバル化における物流の役割を述べるとき、ビジネスプロセスの最適化を目指すサプライチェーン・マネージメント(SCM)のことに一言触れなければなりません。

 SCMとは、製造業や流通業など複数の企業にまたがる原材料の調達・製造から流通・加工の工程を経て、消費者に届くまでの流れを供給の連鎖(サプライチェーン)として捉え、その連鎖を個別最適ではなく全体最適化することによって、企業の経営効率を高める経営管理の手法のことです。すなわち、SCMとは、消費者の需要に基づき、必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給することを目的として、その為にIT技術を用いて「物の流れ」と「情報の流れ」を適切に管理することにより、調達から供給に至る連鎖の最適化を目指すことです。

 そこで物流に求められるのは、SCMという企業の経営戦略を支える役割、すなわち、輸送・包装・荷役・保管・流通・加工の全工程を通して、SCMという全体最適化を図るための一役を担うことです。

 海外からの食材が、ごく当然のごとく、産地や加工工場から消費者に届けられているのは、物流を含めたSCMによる適切なる管理がなされているからです。

物流インフラ

 輸送については、航空機・船舶・自動車のいずれの輸送モードにかかわらず、鮮度管理など食材の特性に対応した容器や機器類、たとえば、冷凍コンテナ・通風コンテナなどの設備や保冷車両など輸送技術の向上、さらには保管・仕分けなどの拠点施設の充実が国内外で図られており、またSCMに不可欠な物の流れを管理する情報インフラの高度化が進められています。近年のIT革新により情報コストが大幅に低減され、情報の共有が容易なIT環境が整ってきており、貨物のリアルタイムでの追跡管理や遠隔地在庫管理システム等のサービス品質の向上など、まさにSCMの根幹となるITインフラがますます高度化されています。

 そのような環境にあって物流業者は、情報ネットワークの構築を進め、グローバル化におけるSCMの一役を担って最適物流の提供を目指しています。このことにより消費者に海外からの食材を含めた製品の安定的かつ効率的な提供が行われているのです。

環境に優しい物流へ

 一方、地球環境問題への対応が喫緊の課題といわれる今、最適化を目指しながらも環境にも配慮した物流が求められる時代に入ったことは確かです。

 国内の事情に目を向けてみますと、日本の社会は、少子高齢化の進展や女性の社会進出が進み、社会構造の変化に伴い国民の生活環境も大きく変化し、消費者ニーズがますます多様化しています。

 これらの構造変化により、食材の購入についてもスーパー、小売商店などに加え、近くのコンビニの利用や産地直送、ネット通販、買い物代行などの利用者が一層増えるものと思われます。その結果、販売側、消費者のニーズがますます多様化し、それに対応した輸送が求められてきます。少量・多頻度輸送、定時輸送や保冷・冷凍輸送など、従来に増して多くの車両を必要とする非効率な輸送が余儀なくされ、都市部の交通渋滞や二酸化炭素の排出などがより深刻な問題になることが懸念されます。この現象は個人の購買に限らず、製造業者や流通業者による在庫圧縮などによるコスト削減対策としての定時・多頻度輸送の要求が厳しくなるなど、非効率な輸送の増加が、より問題となっています。このことを裏返せば、これからは環境に配慮し、二酸化炭素の排出抑制のための積載効率の向上、鉄道や船舶利用へのモーダルシフト、共同輸配送などを効率的に進めながら、時代の要請に対応した物流を目指して行くことが一層求められるということです。「食」と「物流」を考えるとき、効率だけではない、環境にも優しい物流が求められる時代に入ったことを、この機会に知って頂けたら幸いです。

 まず手始めに、有限のエネルギーを使って作られ、運ばれてきた食材は使い切ることから始めましょう。


 

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