需給解説

日本からの畜産物輸出動向

調査情報部  審査役 斎藤 孝宏

 政府は、農業総産出額の減少や少子高齢化などによる国内市場の縮小が懸念されることから、新たな市場の開拓が重要であるとし、農林水産業が21世紀にふさわしい戦略産業に成長することを目指している。このため、農林水産物・食品の輸出額を2013年には1兆円規模とする目標が示された。また、2005年4月、国産の食品等の輸出を推進することを目的に、農林水産物等輸出促進全国協議会が設立され、官民一体となった取り組みが進められている。畜産物に関しても品質の高さや安全性などが評価されるとともに、経済の発展による富裕者階級の拡大などからアジアを中心に海外においてその需要が高まっている。

 当機構としても、上記協議会に参加するとともに、ホームページにおいて「畜産の情報」や「野菜情報」などに掲載された輸出促進に関する情報や、機構が支援している国内食肉の海外における需要・販路拡大を図るための「国産食肉等輸出促進事業」などの事業を紹介している。(http://www.alic.go.jp/international/export/index.html

 今般、財務省貿易統計により2009年3月までの輸出データが明らかになった。主要な畜産物の輸出状況を同統計から紹介したい。なお、文中のグラフのデータは財務省「貿易統計」からであり、文末に参考として今回使用した統計番号等を示した。

 また、農林水産省の取りまとめた我が国の農林水産物・食品輸出額の推移は次の表のようになっている。この中の農産物に畜産物は含まれ、2008年の食肉及び牛乳乳製品などの輸出合計金額は342億円となっており、農産物輸出額の約8パーセントを占めている。農林水産物全体では伸び悩み傾向の中、前年に比べて5割近い増加となっている。
表1 我が国の農林水産物・食品輸出額の推移
   注:1)農産物はたばこ、アルコール飲料を、水産物は真珠をそれぞれ除いた額である。   
      2)グラフの上段の数値は、農林水産物合計の輸出額である。
      3)農産物、水産物にはそれぞれ加工品を含む。


1 牛肉

 日本では、2000年3月に口蹄疫が発生し、また2001年にBSEが発生し、多くの国が日本からの牛肉輸入を中止した。その後、口蹄疫について清浄化が宣言され、BSEについても状況が改善されたが、一部の国では日本からの牛肉輸入を中止したままである。2005年末に米国が輸入を再開し、香港も2007年5月に輸入を再開し、2008年1月にマカオ当局が日本産牛肉の輸入解禁を公表した。

 また、2009年5月14日に農林水産省はシンガポール政府が日本の3施設を同国向け輸出可能施設として認定されたことを公表した。

(1) 冷蔵牛肉

 一時、輸出がほとんど途絶えていたが、近年、大きく伸びた。しかし、2008年度の輸出量は前年度を下回り、米国と香港のシェアが逆転した。

図1 冷蔵牛肉の輸出

図2 冷蔵牛肉の輸出先(2008年度)

(2) 冷凍牛肉

 2008年度の輸出量は大きく伸び、前年度の3倍近くになり、冷蔵牛肉以上の数量となった。依然として、ベトナム向けが中心となっている。

図3 冷凍牛肉の輸出

図4 冷凍牛肉の輸出先(2008年度)

2 豚肉

(1)冷凍豚肉

 過去10年間で、冷蔵肉の輸出のピークが2001年にあったが、これには英国での口蹄疫発生による※シップバック分が含まれる。2005年度以降回復基調であり、2008年度は前年の2倍以上となった。これまで輸出先の中心は香港となっていたが、台湾、カナダ、豪州向けと多角化している。また、2009年5月14日に農林水産省は、シンガポール政府が同国向け輸出可能施設として1施設が認定されたことを公表した。

  シップバックとは、輸出された貨物が相手国に受け入れられずに返送されること。

図5 冷凍豚肉の輸出

図6 冷凍豚肉の輸出先(2008年度)

(2) 豚肉調製品

 過去10年間では減少傾向で推移しているが、近年は300トン前後となっている。2008年の輸出先は香港向けが9割を占めている。

図7 豚肉調製品の輸出


3 鶏肉

 食肉の中で最も大量に輸出されている。

(1)冷凍鶏肉

 2003年には国内でも鳥インフルエンザが発生し、2004年度に輸出は大きく減少した。その後、回復に向かい、2008年度には7000トンを超える水準となっている。
図8 冷凍鶏肉(分割)の輸出
図9 冷凍鶏肉の輸出先(2008年度)


(2)鶏肉調製品

 2003年度に400トンを超える輸出がなされたが、そのうちの約280トンが鳥インフルエンザを理由とするタイ向けのシップバックであった。2008年度には280トンを超える輸出がなされた。これまで輸出のほとんどは香港向けであったが、中国とベトナムが相手先として加わった。

図10 鶏肉調製品の輸出
図11 鶏肉調製品の輸出先(2008年度)

4 鶏卵

 鶏卵(殻付き)の輸出は2003年以降順調に伸び、2008年度に前年の2倍に達したが、全輸出先は香港であった。
図12 卵(殻付き)の輸出


5 牛乳・乳製品

 過去10年間、総じて順調な輸出の伸びを示している。

(1) 牛乳

 通常は、高温処理され保存性の高いLL(ロングライフ)牛乳で輸出され、この10年間で輸出量が10倍以上に増加した。特に2008年度の伸びは大きく、前年度の約2.5倍になった。中国のメラミン問題が日本からの輸出の追い風になったと考えられる。

図13 牛乳の輸出

図14 牛乳の輸出先(2008年度)

(2) プロセスチーズ

 2002年度以降、順調に輸出量を拡大していたが、2008年度には大きく減少した。2007年から2008年前半にかけた乳製品の国際価格の高騰などが影響したものと考えられる。
図15 プロセスチーズの輸出
図16 プロセスチーズの輸出先(2008年度)


(3) アイスクリーム

 2004年度を底に、輸出量が回復していたが2008年度には若干のブレーキが掛かった。輸出量の5割を台湾向けが占めている状況は継続している。
図17 アイスクリームの輸出
図18 アイスクリームの輸出先(2008年度)
表2 主要な畜産物の輸出状況(2008年度)


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