2006年の森林面積は、1970年以前に比べ17.1%減少 地球上の酸素の約4割を供給しているとされ、「地球の肺」とも呼ばれているアマゾン森林(熱帯雨林)のうち約70%は、ブラジルの北部9州を中心に広がっており、同国の国土面積の約50%に相当する。1970年以前の同国のアマゾンの森林面積は、4,100,000平方キロメートルであったが、牛の放牧地や大豆の栽培地造成などのために森林が不法に伐採され、2006年は3,400,254平方キロメートルと当時に比べ17.1%も減少した。 その一方で、パラー州およびマット・グロッソ州の2007年の牛飼養頭数は、2000年に比べそれぞれ倍増の1530万頭(ブラジル地理統計院のデータ、以下同)、2560万頭となっており、この要因はアマゾン森林の不法伐採地における牛の飼養頭数増によるところが大きいとされている。 21カ所の農場および7社の牛肉パッカーなどを摘発 このような状況の中、パラー州の連邦検察(MPF)は、環境省管轄下の国立再生可能天然資源環境院(IBAMA)と共同で、同州内のアマゾン森林の不法伐採の調査と並行して、家畜輸送証明書と同州財務局に保管されている牛と牛肉および同製品に関する販売領収書などを照合し、牛の飼養から加工および販売までの流通ルートを突き止めた。その結果、MPFは、牛の飼養・販売目的でアマゾン森林南部地方の15万7,000ヘクタールを不法に伐採したとして、21カ所の農場で飼養している牛を差し押さえた。また、これらの農場から牛を購入しているベルチン社やミネルバ社など牛肉パッカー7社に対し、民事控訴権に基づき、アマゾン森林の不法伐採の責任があるとして、農場と合わせて総額21億レアル(約1071億円、1レアル=51円)の損害賠償を求める訴訟を起こした。 ウォルマート社は牛肉パッカーにさらに厳しい措置を実施 また、MPFは大手スーパーのウォルマート社、カレフール社、ヤポン・デ・アスーカル社およびボン・プレッソ社など69社に対し、アマゾン森林の不法伐採地で飼養した牛の肉および牛肉製品を調達した場合には共同責任を問う旨を通知した。これを受け、大手スーパーなどはパラー州のアマゾン森林の不法伐採地で飼養した牛の肉などの調達を中止すると発表した。 さらに、ウォルマート社は、アマゾン森林地域内に牛の処理加工場を有する大手牛肉パッカーのJBS社、マルフリグ社およびベルチン社に対し、同社に納入する牛肉などがアマゾン森林の不法伐採地で飼養された牛由来でないとする第三者機関による鑑定書の提出を要求すると同時に、第三者機関は同社が選択したリストの中から選ぶように求めパッカー側の同意を得た。 また、JBS社など大手牛肉パッカーなどが会員であるブラジル牛肉輸出産業協会(Abiec)も、全国規模の販売網を有する外資系大手スーパーや環境保護団体の強力な圧力を受け、アマゾン森林の不法伐採地で飼養した牛を購入しない旨の誓約書に署名した。なお、政府は今後6カ月以内に人工衛星を利用してパラー州の1万5,000の農場を監視するとしている。 農場や牛肉パッカーは交渉の結果、最終的に訴訟を免れる しかしながら、提訴された農場や牛肉パッカーは、その後の交渉の結果、今後パラー州内の不法伐採地では牛を飼養しない、またはそこからの牛は購入しない旨を記載した品行改善書(TAC)に署名することで訴訟を免れることとなった。この背景には、引き続き肉牛生産などの拡大を図りたいとするブラジル農務省や農業関係議員の働きかけがあったとみられる。ステファーネス農相は、不法伐採の原因が牛の放牧地造成によるところが大きいことを認める一方で、30年以上経過した不法伐採による放牧地を合法化することを支持し、政府はこれに向けて作業を進めている。 だがその一方で、環境保護団体の要望を受け入れた形で、アマゾンの国有地の一部は民間企業に譲渡できないようにするなどの規則整備に向けた作業も進めている。 環境保護団体などは今後の対策の進展に期待 アマゾンの不法森林伐採に対する防止策は従来、不法伐採した農場主に対して、生産活動の停止命令と罰金を課す川上対策のみにとどまっていた。今回のMFP とIBAMAによるアマゾンの不法森林伐採防止措置に反対する農業議員は、下院農業委員会でミンク環境相を喚問して激しく糾弾し、同相の辞任を要求する場面も見られた。しかし、環境保護団体などは、今後、牛肉パッカーと牛肉を販売するスーパーなどを取り締まる川下対策を推し進めることが、アマゾンの不法森林伐採に対する効果的な防止策になり得ると期待している。 |
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