オバマ政権にとって地球温暖化に対する対応は最優先事項の一つに挙げられており、米国議会下院では2009年6月26日に、「米国クリーンエネルギー・安全保障法案」(以下「下院法案」という。)が可決された注。
その後、上院では9月30日に「米国クリーンエネルギー・雇用・電力法案」(以下「上院法案」という。)が提出されたが法案可決の目処は立っていない状況にあり、今週に入って、上院において新たな法案を提出する動きもみられている。
これらの動きを踏まえ、米国の気候変動法案の審議の状況と今後の見通しについて現状を報告する。
注:下院法案の概要については「畜産の情報2009年9月号」海外駐在員レポート
「米国の地球温暖化対策と畜産業界への影響について」参照
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/sep/gravure01.htm
下院法案と上院法案の相違点
下院法案は、審議の最終段階で農業を温室効果ガス削減に貢献する取り組みとみなすなど農業に有利に働くように修正が加えられたことから、全国生乳生産者連盟(NMPF)などの一部の農業団体から支持を得ることとなった。しかしながら、上院気候変動法案では下院法案のような農業への配慮が不十分なため農業部門からの反発が強い。下院法案と上院法案には次のような相違点がある。
(1)温室効果ガスの削減目標は2005年を基準年として、2020年までに下院法案では17%削減としているのに対し、上院法案では20%としている。
(2)農業関係の温室効果ガス削減に係る取り組みに対する対価を、金銭で授受できるオフセット・プログラムの管理が、下院法案では米国農務省(USDA)と明確に規定されているが、上院法案では大統領が決定することになっており、米国環境保護庁(EPA)が関与する可能性を有している。
(3)下院法案では大気浄化法に基づくEPAの関与を排除しているが、上院法案では温室効果ガスを2万5千トン未満を排出する事業体に対するEPAの権限を保持している。
難航する上院での審議
上院で可決されるには6つの小委員会で承認を得なければならず、これまでエネルギー天然資源委員会と環境・公共事業委員会で承認されている。しかし、環境・公共事業委員会では、共和党の全委員が欠席する中で承認されるなどほかの委員会でも困難な審議が予想されている。財政委員会では、公聴会は開かれているものの審議にはまだ入っていない。
農業委員会でも公聴会の計画はあるが審議の予定は立てられていない。そのような中、農業委員会のメンバーを含む民主党議員から11月4日に、下院法案のオフセット・プログラムと類似した農業のオフセットに係る別の法案が提出された。この法案に対してNMPFは即日謝辞を表明している。また、3月2日には上院法案の起草者の1人を含めた超党派の3人による新たな法案起草の表明もあった。この法案の内容はまだ流動的であるが、下院法案と上院法案の根幹となる温室効果ガスの排出権を取引するキャップ・アンド・トレード方式の代わりに、排出する二酸化炭素に課税する内容が含まれるのではないかと言われている。
今後の法案成立の見通し
上院で法案が承認された後は、両院協議会で両法案の統一が図られることになるが、気候変動法案の成立に向けては困難な道のりが予想される。今後の法案成立については、以下の状況などから、今年中の成立は困難とする見方も多い。
(1)1月の上院議員補選で民主党が敗れ、上院の絶対安定多数である60議席を割ったこと
(2)昨年12月のコペンハーゲンでのCOP15で、2013年以降の温室効果ガス削減の枠組みが決まらなかったこと
(3)議会では医療保険改革の議論が優先され環境問題が後回しにされていること
(4)今冬は首都ワシントンなどで記録的な大雪が降るなど冷え込み、地球温暖化の関心が薄らいでいること
(5) 経済が依然として低迷し失業率が高い中、中間選挙の年に国民に新たな負担を強いることになる気候変動対策法案を推進することは難しいこと
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