調査・報告

共生するブロイラー産業と鶏ふん発電(宮崎県)
〜新たなビジネスモデルが生み出す「グリーン電力、肥料販売、雇用創出」〜

調査情報部 調査役 藤間 雅幸


1.はじめに

 畜産県である宮崎県では、家畜、家きんの飼養頭羽数が膨大なことから、その処理に苦労している。たい肥化処理、炭化処理などは進められているが、家畜排せつ物管理の適正化が義務付けられ(注1)、野積み保管や素掘りなどが禁止されるに伴い、「どげんかせんといかん!」という畜産関係者の間で広まった「危機ばね」をきっかけに、鶏ふんを燃料とするバイオマス発電事業が動き始めた。

 鶏ふんの火力発電所であるみやざきバイオマスリサイクル株式会社(以下「みやざきバイオマスリサイクル発電所」という。)は、県内の養鶏農家、ブロイラー会社、電力関連会社の共同出資により立ち上げられ、平成17年5月から電力を供給している。

 鶏ふんを燃料とするバイオマス発電施設としては国内最大級の規模で、電力のみならず、鶏ふん焼却に伴い発生する焼却灰を肥料原料として販売している。また、発電所は雇用を生み出し、鶏ふんから電力、肥料、雇用という新たなビジネスモデルを展開している(写1)。

 本稿では、ブロイラー経営の「現場」の視点に立つことで、同発電所がどのようなビジネスモデルで成り立ち、ブロイラー経営の安定にどのような役割を果たしているのかというのが問題意識である。また、本件を整理することで、農畜産業関係者に広く役立てられるヒントを提供できれば有益であると考えている。

写1:鶏ふん発電所。鶏ふんは手前の貯蔵サイロに保管され、その後、奥の焼却ボイラーに運ばれる。

2 家畜、家きん排せつ物の情勢と鶏ふん発電の概要

(1)家畜排せつ物の情勢について

1)増加する家畜排せつ物

 宮崎県畜産課(以下「畜産課」という。)では、県内の家畜・家きん飼養頭羽数とその排せつ量から、平成18年度を基準として10年後の同27年度の家畜・家きん排せつ物発生量を見通している(表1)。

表1 宮崎県の家畜排せつ物発生量と見通し

 これによると、平成18年の家畜・家きん排せつ物発生量は447万トン、10年後の同27年は477万トンとされ、発生量は、10年間で約30万トン増加するとしている。なお、この数量は、霞が関ビルの約3杯分に相当することになる。

 畜産課によると、家畜・家きん排せつ物発生量は見通しを上回るペースで増加しているとしており、平成21年2月1日の飼養頭羽数から見込んだ同年の家畜・家きん排せつ発生量は、平成18年を17万トン上回る464万トンと見込んでいる。今後、単純に、このペースが続くならば、平成27年までの向こう6年間だけで、30万トン以上の家畜・家きん排せつ物が発生することになる。

2)基本スタンスは農地への還元

 畜産課によると、同県では「家畜排せつ物の利用の促進を図るための計画(平成20年3月)」を策定し、多様なエコ資源を利用した資源循環型畜産を推進している。このことを受け、家畜・家きん排せつ物の利活用については、農地への還元を基本スタンスとした上で、①家畜排せつ物のエネルギー変換、②ニーズに即したたい肥のさらなる高度利用を二本柱にして、バイオマス資源利活用についての取り組みを推し進めているとしている。(表2)。

表2 宮崎県の家畜排せつ物利用状況と見通し

 たい肥は、作目により投入量が異なる。10アール(1反)当たり、アスパラガスでは10〜15トンと多目になるが、キャベツ、飼料作物などは4〜6トン、コメなどでは食味に影響することで0.5トンと少ない。

 新たに発生する霞が関ビル約3杯分(約30万トン)の家畜・家きん排せつ物について、たい肥化された後の重量を約半分の15万トンとし、農地へのたい肥投入量を10アール当たり2.5トンと仮定した場合、延べ面積では6,000ヘクタールの農地が必要であり、この面積は山手線の内側部分に相当することになる。

(2)鶏ふん発電の概要について

1)発電所は国内最大級

 みやざきバイオマスリサイクル発電所は、鶏ふんを燃料とする発電所としては、国内最大級のバイオマス発電施設である。発電所は、宮崎県中部の川南町に位置し、鶏ふんは北部は高千穂方面から、また、南部は都城方面から集められ、収集範囲が宮崎県内全域であるため、物流コストの面から考えると地の利を得た場所に建設されている。

 発電所は、宮崎県内の養鶏農家(3組合)、ブロイラー会社(4社)、電力関連会社からの出資(出資金は1億円(出資比率:農家・ブロイラー会社58%、電力関連会社42%)により、平成15年5月に設立され、平成17年5月から電力を供給している。

 この発電所のスキームは、安定した鶏ふん供給により成り立っている。発電所に持ち込まれる鶏ふんは、1日当たり約440トン、年間で約13万2千トンであり、その鶏ふんから11,350キロワットの電力が生み出されている。また、焼却に伴い年間約13,000トンの焼却灰が発生するが、これは肥料原料として販売している(図1)。

図1 鶏ふんから発電までの流れ

 みやざきバイオマスリサイクル発電所によると、この発電量の大きさをイメージするため、一般家庭で消費する1カ月当たりの平均的な電力量を300キロワットアワーとした場合、年間17,000〜18,000戸相当の電力量が賄われているとしており、このことは、鶏ふんから千代田区の世帯数(20,786世帯(平成17年))に相当する年間消費電力量が発電されていることになる。なお、発生した電力のうち、発電所内で電力を消費するため、その電力を除いた約9,000キロワットが販売されている。

 発電所の焼却ボイラーは、24時間稼働し、年間の稼働率は90%前後と高水準である。鶏ふんは30メートルの高さの焼却ボイラーで燃焼され、電力は、焼却ボイラーで発生する高温、高圧の蒸気(圧力6メガパスカル、温度450度)により、タービンを回転させ生み出されている。動力発生の原理は蒸気機関車と同じで、燃料が違うだけである。

 焼却ボイラーの温度は、炉底から離れるに従い1,000度から850度と低下しており、燃焼効率の向上を図るため、鶏ふんの水分含有率は43%程度が適当とされている。このため、鶏ふんを積んだトラックの搬入時に検査が行われ、鶏ふんの水分含有率が50%を上回る場合は、水分含有率を引き下げない限り搬入できない仕組みになっている。なお、燃料となる鶏ふんは、前処理を施すことなく鶏舎から直接運ばれている(写2)。

写2:発電所に搬入される鶏ふん。
  水分含有率が確認される。

 鶏ふんによる発電方式は先進的であるため、焼却ボイラーの管理などには高度な技術が要求され、また、鶏ふんを滞りなく受け入れるために、その運営は緊張感を持って行われている。なお、発電施設はイギリスの鶏ふん発電所をモデルにしている。

2)地球温暖化対策に貢献する「グリーン電力」

 発電の燃料には、石炭などの化石燃料を用いずカーボンニュートラル(CO2の増減に影響を与えない性質)となる鶏ふん(バイオマス資源)を焼却していることから、その発電は、発生電力量相当の化石燃料が削減されていることになる。

 このように、太陽エネルギー、風力などと同様、再生可能エネルギーから生み出される電力は、循環型社会の構築と地球環境の保全に寄与していることから、「グリーン電力」と呼ばれており、電気そのものの価値に加え、CO2を削減しているという環境価値は、電力料以上に高く評価されている。

 みやざきバイオマスリサイクル発電所によると、鶏ふんによる地球温暖化の原因とされるCO2排出削減効果は、年間6万5千トン〜7万トンとしており、このCO2排出削減効果の環境価値は、別個に取り出し売買するという方法を採らず、法律(RPS法、注4)に基づき電力料金の中に含めることで提供している。

 また、発電所は、新たな雇用の創出に貢献している。従業員は36名(うち、外部委託23名)、総務、営業、現場管理の部門については地元住民を中心に雇用する一方、専門性が求められる運転業務、保守業務、技術管理の部門などの電力業については、出資者である西日本環境エネルギー株式会社(九州電力株式会社を親会社とする100%出資子会社)から出向者を受け入れている。

 みやざきバイオマスリサイクル発電所によると、平成17年の運転開始から4年目の平成21年度に単年度での黒字化が図られ、今後3年後程度を目安として累積損失の解消を目指した経営を進めるとしている(表3)。

表3 みやざきバイオマスリサイクル株式会社の概要

3)鶏ふん発電に向けた取り組みのきっかけ

 鶏ふん発電に向けた取り組みのきっかけは、平成11年11月に家畜排せつ物法が施行されたことに端を発するが、その一方で、地球温暖化防止に向けた社会的な追い風が吹いていたことである。

 バイオマス発電は新エネルギーとして平成14年1月に追加(注3)され、平成15年4月には、電力会社などの電力小売事業者に対しバイオマスなどの新エネルギーによる発電量を割り当てた上で、自らによる発電または購入することが義務化(注4)されたことである。

 発酵たい肥化施設、炭化施設などの処理施設の設置は進んでいたこともあり、発電所側としては「将来、養鶏農家が減少した場合、本当に発電の維持に必要な数量の鶏ふんは集まるのだろうか」と、また、生産者側としては「農業が併せ持つ持続的経営(サステナビリティー)と企業的経営は相容れるのだろうか」などの心配事は尽きなかったようで、投資額が大きいこともあり、新たな投資による発電所建設についての決断を下すまでには、関係者の苦労は大変であったようである。

 しかし、最終的に建設に向けて背中を押した背景には、永続的な経営安定を求める生産者の「危機ばね」が強く働いたことにあるとしている。

4)畜種により異なる「ふん」

 畜種によりふんの性格は異なる。また、どの畜種の排せつ物でも、水分を蒸発させることで発熱量は持ち合わせるが、臭いという新たな問題が発生することになる。

 ブロイラーは、おがこの上で飼われ(平飼い、写真3)、排せつ物はおがこと混ざるため、水分含有率は高くても50%程度にとどまり、得られる発熱量は一般ごみ並みに高いとされる。なお、乾燥し過ぎても焼却ボイラーの温度を上昇させ過ぎるために適当でなく、また、暑さに弱いブロイラーのために夏場には鶏舎内に水をまく必要があることから、鶏ふんの水分含有率は、夏と冬は高目で、春と秋は比較的低目になる傾向がある。

写3:ブロイラー鶏舎

 採卵鶏は、採卵鶏がケージで飼われ、おがこが用いられていないため、排せつ物はケージの下で塚のような形状を呈し、水分含有率は80%程度に高くなる。このことが、焼却ボイラー温度の低下につながり、燃料としては適当とされていない。なお、おがこを用いる肥育牛の排せつ物の水分含有率は60%以上であり、豚の水分含有率は80%〜90%とほとんどが水分である。

 これらの排せつ物については、前処理として水分を蒸発させるか、ほかの焼却物と混合し水分含有率を低下させることで燃料としての可能性は高まることから、焼却排熱などを利用し、経費をかけずに水分を蒸発させる方法が検討されているようである。

3 ブロイラー経営から見た鶏ふん発電の役割

(1)たい肥処理を足掛がかりに、露地野菜栽培、ブロイラー経営を始める

 鶏ふん発電の果たす役割について、露地野菜栽培とブロイラー経営を手掛ける農業生産法人有限会社エイアンドエフの山下栄専務(昭和47年生、平成10年就農)に話をうかがった。

 当農業生産法人は、みやざきバイオマスリサイクル発電所への出資者であり、創業者である父親の山下壽社長は、同発電所の立ち上げに参加したことが縁となり、副社長を務める。現在、当農業生産法人の実質的な経営は、息子である山下栄専務に引き継がれている。

 昭和61年からたい肥処理などを扱う有限会社山下商事を設立したが、鶏ふん処理を始めたのは、排せつ物処理を手掛けたことから、鶏ふんの搬出、清掃作業の依頼が増えたことによる。依頼の背景には、養牛、養豚農家では、通常、朝、夕の給餌の合間などを利用し農家自らが舎内の排せつ物に対応するが、インテグレーションが進むブロイラー産業では、鶏ふんの搬出、清掃作業を早め生産性を高めることが優先されていること、また、搬出、清掃作業を外部に委託することで追加となる経費負担が発生しても、インテグレーション全体で経営を捉えていることから、追加経費を薄めることが可能であることによる。

 たい肥と鶏ふん処理に関わったことで、平成13年に農業生産法人を設立し、露地野菜栽培を始める。農地は30ヘクタールを所有、従業員は6名であったが、景気の低迷による雇用情勢から、また、農業ブームということもあり、平成20年には、新たに4名(北海道から1名、東京から2名、地元から1名)を採用している。

 露地野菜は、春野菜としてスイートコーンを、また秋冬野菜としてキャベツ、ブロッコリー、レタスを作付けしている。農場には5月出しのスイートコーンが栽培されており、今年は雨が多く、日照時間が短い天候であることから、収穫時期の遅れが気に掛かっている。

 ブロイラー生産を始めたのは、露地野菜よりも利益が見込めるとの考えからで、ブロイラーの生産羽数は、当初1回転当たり3万羽規模であったが、鶏ふん発電が始まったことで、現在19万羽規模に増羽しており、年間総羽数は110万羽規模である。従業員は5名、山下専務によると、ブロイラー飼料に飼料用米を検討し始めたとしている。

(2)たい肥販売は苦悩の連続

 家畜排せつ物によるたい肥化は、水分調整後、発酵機により2週間程度で仕上げている。保管場所がないと新たな家畜排せつ物は受け入れられないため、たい肥がさばけていかないことには、家畜排せつ物の回収は難しくなる。

 家畜排せつ物は産業廃棄物扱いのため、搬入先から処理費、流通経費、人件費相当を含む諸経費をもらい販売している。販売というと、それなりの利益を得るものと思われがちであるが、搬入先からの経費だけでは処理費用が十分に賄われにくく、特に、ホームセンターなどへの肥料販売では、包装費などの新たな経費が発生することから、販売していると言えば聞こえはいいが、なかなか割に合う商売ではないとしている。また、この地域では、畜産が盛んであるため、大規模農家では、大抵、たい肥化施設を所有しており、たい肥は無償で引き取ってもらえればありがたい状況にある。このこともあり、たい肥を販売し利益を上げることは容易なことではないようである。

 また、たい肥は、悪臭や窒素分を多く含む(特に鶏ふん)ことから、田畑への過剰投与により、井戸水など地下水を汚濁するという環境問題を起こすこと、加えて、農村地域の高齢化から、化学肥料などに比べ取り扱いに手間取ることが、たい肥販売の向かい風としている。

(3)ブロイラー経営、年間での回転数が勝負の分かれ目

 ブロイラー経営は、ひなを飼育して市場に出荷するまでの2カ月弱(50〜55日)の間に3キログラムの鶏肉を生産することになる。飼料効率から考えると、概ね2キログラムの餌で1キログラムの鶏肉が生産される勘定であり、6キログラムの餌から、3キログラムの鶏肉が生産され、2.0〜2.3キログラムの排せつ物が発生している。

 飼育法は、オール・イン・オール・アウトと呼ばれ、同一鶏舎で一斉にひなを導入し育てた後、同時期にブロイラーを出荷することから、鶏舎から鶏ふんが出ないことには次のひなが入れない仕組みである。農家は生産性を高めることだけに作業を集中しており、ひなの育成率と飼料効率など生産効率を上げるための管理には注意深い目配りが求められ、飼料価格の高騰を吸収するための努力は大変なものである。

 オール・イン・オール・アウトの年間回転数は、多いところでは7回転程度するそうであるが、この地域ではおおむね5.0〜5.5回転とされ、当農業生産法人は5.5〜5.7回転としている。

 生育日数は、夏場、冬場で若干の違いが見られるそうであるが、ブロイラーを出荷し、ふんを出し、鶏舎を洗浄し、消毒を行い、次のひなのためのおがこの準備など、一連の入れ替え作業に、通常、2週間から20日間程度要する。このため、この日数をいかに短くするかが勝負の分かれ目としている。

 この地域の平均的な鶏舎では、1棟200坪当たり9千〜1万羽が飼養され、1養鶏農家の経営規模は平均4〜5棟としている。鶏ふん発生量は1棟当たり20トン程度となり、一年間でこの5倍程度の鶏ふんが発生することを考えると、夫婦2人で対応できる数量でないことは容易に想像できる。これに加え、周辺住民との折り合いもあり、資金面と精神面の負担は大きいものがある。

 鶏ふん発電のおかげで、ブロイラー経営は、定期的に生み出される鶏ふん処理への心配が取り去られ、経営にまい進できる安心感が得られているとしており、増羽など規模拡大にもつながるとしている。また、鶏ふん発電による二次的な効果として、農家単位での鶏ふん処理の設備投資が抑えられ、環境問題など周辺住民に対する精神的な負担も軽減されているとしている(写4)(写5)。

写4:ブロイラー出荷後に運び出される鶏ふん
写5:集められた鶏ふんはトラックに

(4)問題意識を共有したことで、競争相手が互いに手をつなぐ

 電力は、焼却燃料としての鶏ふんが安定して確保されなければ、計画的に供給することはできない。このため、この鶏ふん発電のスキームで特筆すべきことは、ブロイラー生産者が、鶏ふんを処理しなければならないという問題意識を共有することで、互いの利害関係を乗り越え、商売上の競争相手と折り合いをつけたことにある。このことからも、ブロイラー経営における鶏ふん処理が、いかに厄介な問題であるかがうかがい知れる。

 なお、発電所は、1日当たり440トン、年間13万2千トンの鶏ふんが確保されるように、一方、搬入先は、間違いなく受け入れが担保されるように、発電所と搬入先との間では、供給契約を定めている。

 また、発電所の運営は、電力供給による電気料金、肥料原料としての焼却灰の販売料金および出資比率を勘案した搬入数量に応じた取扱料などにより成り立っている。

(5)鶏ふんは焼却により10分の1に減量化

 焼却灰は鶏ふん重量の10分の1程度に減量される。このように、焼却することで減量化を図れることが焼却の利点の一つとして挙げられている(写6)。

写6:鶏ふん焼却後の焼却灰

 注)ボトムアッシュ灰(左)は、ボイラーの炉底から回収される砂状の灰、フライアッシュ灰(右)は、バグフィルターにより回収されるパウダー状の灰である。なお、焼却灰の約9割はフライアシュ灰。

 発電所では、焼却灰の販路を持っていないこともあり、鶏ふんの搬入元が搬入数量見合いの焼却灰を有償で引き取っている。なお、焼却灰は1トンサイズのフレコンバッグに納められ、1日当たり440トン程度を焼却していることから、発電所では、毎日、44本程度のフレコンバッグが作り出されている(写7)。

写7:フレコンバックに詰められた焼却灰

 山下栄専務によると、焼却灰については、当初、包装材料であるフレコンバッグの経費を負担しなければならないこと、産業廃棄物扱いになるため埋め立てするにも経費がかかること、また、アルカリ性分が強く中性する場合にも経費がかかることから、「どげんしたらいいかこんなもん!」と、取り扱いには頭を悩ませていたとしている。

 しかし、平成20年7、8月頃から、焼却灰を取り巻く状況は好転し、引き合いは徐々に強くなり、一昨年の平成21年2月頃には引取価格の7倍以上の高値を付けたとしている。

 ボイラー焼却の過程で、鶏ふん中の窒素成分は窒素酸化物となり消失するが、残った焼却灰には、リン酸成分が20%程度、カリ成分が15%程度含まれている。山下専務によると、肥料原料の国際価格が高騰し、特にリン酸の国際価格は、肥料原料の主要輸出国である中国が輸出規制したことも影響し、大きく値を上げたのではないかと見ており、焼却灰の価値がこのように認められるとは思ってもいなかったようである。

 山下栄専務によると、荷動きは、現在鈍いとしているが、我が国の肥料原料は輸入に頼らざるを得ない環境にあるため、今後、販路は広がるものとの考えである。また、県内の鶏ふんの大部分が焼却され、県内での鶏ふん流通が見られなくなっていることから、鶏ふん発電は、鶏ふん以外の家畜排せつ物の流通の拡大に大いに貢献しているとしている。

4 おわりに

 鶏ふん発電事業のきっかけは、畜産業、電気業のそれぞれに課せられた新たな法律の枠組みを始まりとするが、みやざきバイオマスリサイクル発電所では、畜産業、電気業という異業種が、業種の「垣根」を乗り越え見事に共生し、どちらか一方の存在なくしては成り立たない構図が示されている。

 また、このビジネスモデルで特筆すべきことは、鶏ふん発電に関わるプレイヤーが、従来の慣例にとらわれない柔軟な発想を持ち合わせていることである。競争相手となるブロイラー生産者は、鶏ふんを処理するという問題意識を共有したことで、互いの利害関係を乗り越え折り合いをつけたこと、一方、電力事業者は、鶏ふんという新たな再生可能エネルギー資源にチャレンジしたことである。

 ブロイラー生産者は、経営に専念することができ、環境問題などからも解放され、電力事業者は、電力を供給することの利益に加え、燃料原料として化石燃料を用いずカーボンニュートラルな資源である鶏ふんを焼却することで、CO2の削減義務に貢献する「グリーン電力」という新たな環境価値を生み出している。

 他県から搬入する場合の取り扱い、焼却に伴う取扱料、また、リスク回避としての予備炉など、乗り越えなければならない課題はあるが、ブロイラー経営と鶏ふん発電は、車の両輪として存在し、利益を上げることにより「ウィン・ウィン」の経営が築かれている。

 低炭素化社会実現に向けた時代の追い風は、今後大きくなることはあっても小さくなることは見込まれない。この新たなビジネスモデルは、家畜排せつ物対策のオプションの一つとして、ますます求められていくことになるのであろう。

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 執筆に当たりましては、宮崎県農政水産部畜産課、みやざきバイオマスリサイクル株式会社、宮崎環境保全農業協同組合、農業生産法人有限会社エイアンドエフ、有限会社山下商事の皆さま(訪問順)に、大変お世話になりました。この場を借りまして、心から御礼申し上げます。


注1)家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律
(平成11年11月施行、5年間の移行期間後の平成16年11月から完全実施)

注2)本稿では、宮崎県の家畜飼養頭羽数などについて、ブロイラー経営と鶏ふん発電がテーマであること、また、家畜排せつ物発生量の状況を把握するという意味で、口蹄疫発生前の数字を用いている。

注3)新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(平成14年1月施行令改正)

注4)電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)(平成15年4月施行)

 


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