過去最大の予算規模ブラジル農務省(MAPA)はル―ラ政権最後となる2010/2011年度農業プラン(農期:2010年7月1日〜2011年6月30日)を発表した。これによると、今農期は安定経済による持続的な農業開発が現実となり、過去最大の生産が予想されるとし、農産物最低保証価格の据え置き、営農融資に係る貸付限度額の引き上げ、環境へ配慮した低炭素排出型農業プログラムの新設、生産地での農産物貯蔵インフラや中規模農業者に対する支援の拡充、などの計画が盛り込まれ、予算は前年を8.1%上回る総額1000億レアル(約4兆9000億円:1レアル=49円)と過去最大の規模となる。
なお、ブラジルの主な農業政策としては、農業者所得確保のための農産物価格保証および農業者支援のための農業融資がある。農業プランはこれら農業政策を推進するための計画であり、毎年、対象となる農産物・地域や、それらの最低保証価格・1農業者あたりの融資限度額・年利・償還期限・プログラムなどが政府で決定される。このプランは、農産物の生産開始前に決定され、その年の作付の方向性を誘導する政策手段ともなっている。 営農融資における貸付限度額の引上げ営農融資において、農業者は、主要農畜産物の「営農」開始時に、作付費、維持管理費、収穫費など生産に係る全ての工程に要する費用を対象として、貸付限度額まで年利6.75%※で融資が受けられる。 2010/11年度の貸付限度額はいずれも前年より引き上げられ、予算額は販売融資を合わせて前年を14.1%上回る756億レアル(約3兆7044億円)となる。なお、これは市中銀行の融資元金に対する利子を年利6.75%まで調整するために充てられ、融資元金とはならない。 ※:2010年6月時点で、ブラジルの政策金利は10.25%、市中銀行の年利は約27%。
販売融資の基礎となる最低保証価格は前年据え置き販売融資において、農業者は、収穫後の「販売」時に、資金回収のための売り急ぎによる供給増の結果、市場価格の暴落が起きるリスクを低減するため、生産者や精製・加工業者が供給調整のために行う在庫保管費や販売経費を主な対象とし、農産物を担保に融資(連邦政府貸付金(EGF))が受けられる。また、主に中西部など保管施設が未整備、かつ市場までのアクセスが不利な生産地における農産物の滞留を回避するための助成金(農産物流通助成金(PEP))や、市場価格が大きく低迷した際の政府買い上げ制度(連邦政府買い上げ制度(AGF))も維持されている。 これらの融資が基礎とする最低保証価格については、今年は全ての農産物において前年同額とされた。MAPAによれば、技術の進歩などに伴う生産性の向上により生産コストの低減が見込まれることから、最低保証価格が据え置かれても農業所得の向上は実質的に確保できるものとされている。
投資融資は前年比28.9%の大幅増投資融資については、農業分野における温室効果ガス(二酸化炭素)の低減を目的として、農業生産と環境保全を両立させる生産システムを推進する低炭素排出型農業プログラム(ABC)が新設された。 ABCと同じ持続的農業生産分野では、近年のバイオエネルギー需要による増産強化の必要性から措置されているサトウキビやオイルヤシの植林に係る持続的農牧生産振興プログラム(PRODUSA)や、森林回復植林プログラム(PROPFLORA)について、今回は中規模農業者でも利用しやすいように融資条件の緩和など内容の改訂が行われた。 また、農業者の競争力を強化するため農場内に貯蔵施設の整備を促進するかんがい・貯蔵促進プログラム(MOERINFRA)や、中規模農業者の安定生産に係る中規模農業者支援国家プログラム(PRONAMP)※もそれぞれ拡充された。 このようなことから、予算額は前年を28.9%と大幅に上回る180億レアル(約8845億円)となる。 ※:小規模農業者に対しては、このプログラムとは別に、ブラジル農地開発省(MDA)により、家族農業強化プログラム(PRONAF)(2010/2011年度160億レアル(約7840億円))が予算措置されている。
一方で融資利用が困難な状況は継続する見込みこのように、2010/2011年度農業プランは従来から進めてきた農産物価格保証制度と農業融資を充実させるため、これまでにないほどの潤沢な資金が用意された。しかしながら、利用する農業関係者の反応としては、貯蔵インフラや中規模農業者支援は評価するものの、慢性的な流通インフラの整備の遅れや農業生産の構造的な問題を無視しており、資金供給の拡大に基づいた現行の農業プラン自体に限界があるとの指摘も少なくない。 ブラジル最大規模の生産者団体であるブラジル全国農業連盟(CNA)の推定によれば、2010/2011年度の営農・販売融資の必要見込み資金は1520億レアル(約7兆4480億円)とされ、本プランの756億レアル(約3兆7044億円)では必要額の5割にも満たない。さらにCNAは、問題として、本プランにおける各種融資の利用率が低いと予測される点を挙げている。前年の2009/2010年度農業プランでは、2008年の国際金融危機以降、一般的に融資資金が不足し市場金利が上昇する中、特に農業者にとっては利子の安い農業プランの利用を優先的に選択すると期待された。しかし、利用率は営農・販売融資の予算規模662億レアル(約3兆2438億円)に対して多く見積もっても約75%であると推定されることから、CNAは現行スタイルの農業プランによる資金供給は農業者のニーズを的確にとらえていないと分析する。投資融資も同様に約55%が利用されたにすぎないと推定される。CNAは農業政策の抜本的な見直しの必要性を認識しており、2010/2011年度農業プランも前年と同様に利用率が伸びないという構造的課題は解決されていないと指摘する。 農業者のニーズにあった利用しやすい融資の提供がカギ近年、ブラジル農畜産物は生産・輸出部門で世界をリードし、さらなる競争力の強化が求められる中、耕種、果樹、園芸、畜産と広範囲にわたる農業分野を、一つの農業プランで推進することはもはや限界が生じているのかもしれない。 同国の農業は、外資の投入、企業の統合・合併など大規模農業者の台頭がみられる中、いまだ多くの中小規模農業者によって維持されている傾向がある。このような状況を踏まえ、MAPAは2010/2011年度農業プログラムにおいて、予算の増額や融資要件の見通しなどを通じて、中規模農業者の継続営農を支援するとした。この農業プランによる融資が農業者のニーズに合致し、利用しやすい融資が提供されることを期待したい。 |
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