需給解説

豚肉の販売意向調査の結果(22年度下期)
〜量販店は国産豚肉の販売増加に期待〜

食肉生産流通部 食肉需給課長 藤野 哲也、同課長代理 小田垣諭司

【要約】

 平成22年度下半期の販売意向について、①量販店、②専門店、③卸売業者に対し、アンケート調査を実施した。22年度上半期は生産量増による国産品の増加、フローズン輸入品の増加により、豚肉推定期末在庫数量は過去最高に積み増された状態にある。このことから、季節的要因による国産豚肉価格の下落から、①量販店は販売促進を拡大する意向を、②専門店は長引く景気低迷の影響が大きいとして上半期と同程度の販売を見込む。③卸売業者は国産品の家計消費向けや集団給食向け販売の増加を期待していることが分かった。  

 平成22年の夏場における豚枝肉卸売価格(東京・大阪加重平均「省令」規格)は、猛暑の影響による肉豚の成育遅れの影響などから生産量が昨年度より減少したため、高水準となった。生産量は、平成20年度以降増加傾向で推移したため、豚肉価格が下落し、国産志向が強まった。その結果、チルド豚肉の輸入量は減少しており、21年度は20年度を17.9%下回った。輸入量は、22年度に入り、前年度よりは増加しているものの、依然として低水準で推移している。

 先月の牛肉に続いて、今月は、豚肉の22年度下期の需給について、量販店、卸売業者、輸入商社へのインタビューやアンケートなどを実施したので、その概要を報告する。

1 国産豚肉の在庫量は、依然高水準

 豚肉生産量は、22年度(4〜9月)で見ると43万3千トンと前年同期を1.5%下回っている。生産量は、21年度に前年度を4.6%上回ったが、22年度5月以降は、猛暑による肉豚の成育遅れや宮崎県で発生した口蹄疫の影響などにより前年同月を下回って推移している。しかしながら、20年度と比較すると、4.8%上回っており、生産量自体は高水準で推移している。

 一方、豚肉輸入量は、国内生産量の増加による輸入豚肉の需要減少などを受けて21年度に前年度を下回ったが、22年度(4〜9月)で見ると40万4千トンと前年同期を15.1%とかなり大きく上回っている。ただし、20年度同期と比較すると、5.0%下回っており、輸入量は低水準で推移している。

 当機構の食肉の保管状況調査による豚肉の推定期末在庫量を見ると、フローズン豚肉の輸入量が一時的に増加した結果、輸入品在庫は積み増しされたが、国産品の在庫は4月以降3万トン台と最高水準を維持している。このため、7、8月の豚肉の推定期末在庫量は、18年7月以来4年ぶりとなる20万7千トン超と依然として高水準にある(図1)。

図1 豚肉推定期末在庫数量の推移
資料:農畜産業振興機構調べ

 豚枝肉卸売価格は、国産の在庫量は多いものの、猛暑の影響もあって肉豚の出荷が遅れたため、夏場は、高水準で推移している(図2)。

図2 豚枝肉卸売価格の推移
資料:食肉流通統計ほか
  注:省令規格、東京・大阪加重平均、直近月は速報値

2 POSの販売動向…ひき肉を除き豚肉販売量は減少

 当機構職員が居住する首都圏における量販店のチラシにおける豚肉の取扱いを見ると、国産豚肉のチラシ掲載回数は、昨年から増加傾向で推移しており、量販店での国産豚肉の販促機会が拡大しているものと考えられる。

 しかしながら、当機構のPOS調査のレジ通過1,000人当たりの豚肉販売数量は、22年2月以降前年同月を下回って推移している。品目別に見ると、国産豚肉の販売は減少する一方、昨年と比較して堅調で推移している豚枝肉卸売価格の影響から、輸入豚肉の販売が増加している。

 ところで、国産豚肉の部位別販売数量を見ると、22年度(4〜9月)に前年同期を上回っているのは、ひき肉のみであり、さらに、1割以下の減少にとどまる部位はかたロースのみとなっている。これは、ひき肉の平均販売単価がほかの部位と比べて安価であることに加えて、前年同期と比較しても下落していることが影響しているものと考えられる。かたロースの平均売買価格は、昨年度とほぼ同程度となっているが、単価が上昇したももなどの販売の落ち込み幅が大きくなっている(図3)。

図3 POSにおける国産豚肉の部位別販売動向の推移(前年同月比)
資料:農畜産業振興機構調べ

 国産豚肉の平均販売単価は、昨年の豚枝肉卸売価格の下落により全般的にかなり低下していたが、消費者がより価格に敏感に反応する傾向が強まっているものと考えられる。

 また、総務省「家計調査報告」による1人当たり家計消費量を見ると、食肉全般では消費量、支出金額とも前年同月を下回って推移しているが、単価が安いソーセージについては、支出金額は減少しているものの、依然として消費量が増加しており、これも消費者の低価格志向を反映しているものと見込まれる。

3 加工品の国産仕向けは増加へ

 豚肉の加工仕向肉量の国産比率は、全体の2割程度と低いものの、国産冷凍品在庫の増加などを受けて、国産の数量が拡大傾向で推移している(図4)。22年度(4月〜8月)の豚肉の加工仕向肉量は、家計消費量の増加などから前年同期を2.4%上回っているが、中でも国産は同7.0%の増加となっており、年末のお歳暮用など贈答用の加工品需要の伸びが期待される。

図4 国産豚肉の加工仕向肉量およびロースハムの生産量の推移(前年同月比)
資料:日本ハム・ソーセージ工業協同組合調査

4 食肉専門店での見通し−「22年度上期と同程度」と見込む

 平成22年度下期(10〜3月)の専門店における食肉の販売動向のアンケート結果によれば、22年度下期の販売見通しでは、豚肉は「同程度」と見込む回答割合が47%と最も多かった。また、「減少」するとした専門店は36.5%を占めており、前回調査とほぼ同様の結果となった。(表1)。

表1 22年度下期の販売見通し(専門店、重量ベース)
(単位:%)
(注)( )は、平成22年2月調査結果

(注)アンケートは9月に全国の主要食肉専門店60社を対象に行い、全社から回答を得た。

 販売見通しが「減少」と見込む専門店に、その理由を尋ねたところ、「景気悪化」とした割合が約7割と最も高く、牛肉同様に景気低迷の長期化が影響しているとしている。

5 量販店の豚肉販売見通し−国産豚肉は半数が「増加」と見込む

 平成22年度下期の量販店における食肉の販売動向のアンケート結果によれば、国産豚肉の販売は、「増加」とする回答が最も高く50%、次いで「同程度」が39%となっている(表2)。

表2 平成22年度下期の販売見通し(量販店、重量ベース)
(単位:%)
(注)( )は、平成22年2月調査結果

(注)アンケートは8月に全国の主要量販店28社を対象に行い、全社から回答を得た。

 22年2月の前回調査と比べ、「増加」が4ポイント増加し、「同程度」が7.5ポイント減少しており、下期の販売増加が期待される。

 一方、輸入豚肉の販売は、「減少」とする回答が最も高く45%、次いで「同程度」が33%となっており、22年2月調査と比べ、「減少」が19ポイント増加する結果となった。

 豚肉の販売見通しを見ると、国産品の「増加」の割合が高く、逆に輸入品の「減少」を見込む者が多かった。この傾向は前回調査と同様であり、消費者の国産志向の高さを反映しているものと見込まれる。

 そこで、今後の食肉の販売拡大に向けてどのような対応を考えているか尋ねたところ、「低級部位や切落しの強化」が20件と最も多く、次いで、「総菜や味付け肉の強化」が18件、「販促機会のさらなる拡大」が15件、「少量パックの充実」が14件と続く結果となった(表3)。

表3 食肉の販売拡大に向けての対応(量販店)
(単位:件)
注:複数回答

 量販店では、消費者の節約志向に対応した低価格商品の品揃えや少量パックの充実を図るとともに、国産志向に対応した国産豚肉の販売拡大にも力を入れるものと期待される。

6 卸売業者の豚肉販売見通し−輸入豚肉は「同程度」と見込む

(1)種類別の販売見通し

 主要食肉卸売業者にも同様にアンケート調査を行った。平成22年度下期の販売見通しは、国産品が「増加」、「同程度」の回答割合がそれぞれ43%と同じであったが、輸入品については、「同程度」の割合が高かった。特に国産については「増加」の割合が20ポイント増加しており、今後の豚枝肉卸売価格の下落を見込んで国産販売量が増加するものと期待していることがうかがえる(表4)。

表4 平成22年度下期の豚肉販売見通し(卸売業者)
(単位:%)
(注)( )は、平成22年2月調査結果

 また、輸入品の販売量は、「同程度」との見方が多く、輸入チルド、輸入フローズンともに、前回調査とほぼ同様の結果となった。

(2)仕向け先別の販売見通し

 仕向け先別の販売見通しを見ると、増加する仕向先としては、国産では「家計消費向け」とする回答が最も多く、次いで「集団給食向け」が多かった。これは、国産志向の高まりを受けて、今後の価格下落による需要喚起を期待しているものと思われる。

 また、輸入チルドにおいては「家計消費向け」とする回答が最も多く、次いで「ファミリーレストラン向け」となっている。

 輸入フローズンにおいては「加工用向け」が最も多く、次いで「ファストフード向け」、「ファミリーレストラン向け」となっている。輸入品の主要仕向先であるテーブルミートや業務向けについては、増加を予想している結果となっている。

 一方で、減少する仕向先としては、「食堂・レストラン向け」、「ホテル・旅館向け」を挙げる回答が多かった。1人当たり客単価が比較的高いこれらの業種向けは、景気悪化を受けて、今後も厳しい状況が続くとの見通しを持っているものと考えられる(表5)。

表5 平成22年度下期の豚肉仕向け別販売見通し(卸売業者)
(単位:件数)
注:複数回答、( )は平成22年2月調査結果

(3)部位別の販売見通し

 部位別の販売見通しについては、おおむね「同程度」との回答が多かった。「増加」の割合が高かったのは、国産と輸入チルドの「ロース」と輸入フローズンの「かた」となっており、単価が高い「ロース」の売上げ増加に期待していることがうかがえる(表6)。

表6 平成22年度下期の豚肉部位別販売見通し(卸売業者)
(単位:%)

(注)アンケートは8月に全国の主要卸売業者19社を対象に行い、15社から回答を得た。

7 輸入量は今後減少見込み

 21年度の豚肉の輸入量は、国内生産量の増加による枝肉価格の下落の影響を大きく受け、チルド、フローズンともに大きく減少し、全体では前年度を15.1%下回った。

 22年度上期については、チルドは引き続き減少傾向で推移している一方、フローズンについては、現地の生産減少に伴う先高感から大幅に増加し、在庫積み増しが行われた。

 それでは、今後の輸入はどのように見込まれるのであろうか。輸入商社からの聞き取りなどから、予測すると、22年度下期のチルドの輸入量は、およそ114〜117千トンで前年同期をかなり上回る一方、フローズンの輸入量は、211〜243千トンで前年同期をわずかに下回るものと見込まれる(表7)。

 輸入商社からは、チルドについては、輸入豚肉への需要の高まりがあまり期待できないことから、それほど増加することは見込まれないが、今後の国産枝肉卸売価格の動向いかんであるとしている。

 また、フローズンは、国内での在庫数量が上期で積み増しされたことに加えて、今後の現地価格の上昇等による先高感から減少を見込む意見が多かった。

表7 豚肉の輸入状況
(単位:千トン)
資料:財務省「貿易統計」、農畜産業振興機構調べ

8 まとめ

 専門店、量販店および卸売業者のアンケート結果を見ると、22年度下期は22年度上期と比較して豚肉の販売量は、「増加」または「同程度」との見通しとなっているが、特に国産豚肉の販売量が増えることを期待しているとの回答が多かった。

 国産品とテーブルミートで競合する冷蔵品の輸入量は、国産豚肉の生産増加などから昨年度以降低水準で推移している。量販店が国産豚肉の販売促進に力を入れた結果、現在のチルドの輸入量は、月平均1万8〜9千トンの前後にとどまっている。これは、輸入チルド豚肉の需要量としては、最低の水準となっていると考えられる。

 一方で、農林水産省「食肉流通統計」によると、豚肉のと畜頭数は、平成22年5月以降前年同月を下回って推移しており、猛暑の影響などから、22年度上期(4〜9月)は前年同期比1.3%とわずかに減少しているものの、生産量および在庫の水準は依然として高い。消費者の国産志向が高まっている中にあって、今後の国産豚肉の販売動向が注目される。


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