話題

農業分野における衛星画像の利用

北海道立総合研究機構中央農業試験場 農業環境部長 志賀弘行

 近年、国や自治体において統計や調査業務が合理化のために縮小されており、農業の現状を正確に捉えることが次第に困難となりつつある。また、農家レベルでも農地の賃貸借の進展や法人化に伴う集団化などによって、ほ場の特性を熟知して管理を行うことが難しくなっている。このような情勢の下で、衛星による地球観測は、多様な波長の電磁波により広域を定期的に観測できる特性があり、農業分野における有望な情報収集手段の一つである。

 ヨーロッパ連合(EU)の例では、共通農業政策の中の直接支払い制度において衛星画像等を用いた作付け状況のチェックが1993年から開始され、現在ではEU全域で運用されている。2004年と少し古い数字であるが、EU15カ国における直接支払いの申請数は年間約300万件以上、延べ1億ヘクタール、予算総額は250億ユーロに及ぶという。直接支払いにあたっては、適正な補助金の支出のために、申請の少なくとも5%に対して確認検査を行うことが92年の規定で定められ、検査の前段における作付面積の測定に1メートル前後の地上解像度を持つ高分解能衛星画像が利用されている。申請されたほ場面積と画像計測による面積の差が許容範囲にない場合には、検査官による現地ほ場の査察が行われる仕組みとなっている。衛星による撮影コストは空中写真を上回るものの、データ処理の容易さと大面積をカバーする能力に優位性が認められている。

 我が国の農業分野での衛星画像利用は1990年代末まではデータ取得の不確実性や空間分解能の不足により、ごく一部の事例にとどまっていたが、衛星センサの増加および能力の向上、農業現場でのほ場情報システムの整備など利用環境の改善を背景に、次第に本格的な普及の動きが広がっている。

 良食味米生産への活用事例では、食味に強く影響する各ほ場の米のタンパク質含量を衛星画像などから推定し品質管理に反映することで、販売力の強化を目指す取り組みが北海道、宮城県、新潟県、石川県、佐賀県などの農協、市町村で行われている。また、北海道の芽室町では、小麦の収穫作業への活用が行われ、成熟期前の画像から畑ごとの収穫適期予測マップを作り、コンバインと小麦乾燥調整施設を効率的に稼働させることで、収穫・乾燥経費の削減に成功している。てん菜では、十勝地域における湿害の把握などの事例があり、最近ではほ場内の地力の変動に対応した施肥に役立てようという試みがなされている。

日本の陸域観測技術衛星「だいち」の合成開口レーダー画像による飼料用トウモロコシほ場の抽出例
(北海道中標津町の一部)。赤(トウモロコシ)と白(その他作物)は、衛星の情報と実際の作付けが
一致した箇所。画像の東西は約12km。(提供:JAXA 解析:RESTEC、衛星データ利用推進委員会)

 これまでの衛星画像利用事例は、主に可視・近赤外域を対象とした光学センサを用いたものが多く、地域や季節によっては雲の影響により狙った画像が得られないという不確実性があった。この光学センサの弱点を補うものが、能動型マイクロ波センサである。この分野ではカナダのレーダーサット衛星が有名であるが、2006年に打ち上げられた日本の陸域観測技術衛星「だいち」にも、光学センサに加えてマイクロ波を用いた合成開口レーダー(PALSAR)が搭載されている。

 農林水産省統計部は、日本全土の水稲作付面積を衛星データ等から把握するための手法開発を進めており、2009年度に開始した「水稲作付面積調査における衛星画像活用事業」では、合成開口レーダーを主とした観測を想定している。また、宇宙航空研究開発機構の衛星利用促進活動における解析例(写真)では、PALSARを用いて酪農地帯の飼料用トウモロコシを高精度で識別できるという結果が得られており、今後の利用場面の拡大が期待される。

志賀 弘行(しがひろゆき)

北海道大学農学部卒業。昭和58年より北海道立中央農業試験場、北見農業試験場および道農政部に勤務。
平成20年 中央農業試験場環境保全部長、22年より現職。
農業分野における環境保全、土壌管理、作物の生産環境評価、衛星情報の農業利用などの研究に取り組む。


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