海外トピックス


牛肉消費大国アルゼンチンの肉牛価格が半年間で50%超上昇


2009年の牛飼養頭数は過去最低であることが判明

 アルゼンチン動植物衛生機構(SENASA)は3月15日、2009年10-12月期の口蹄疫ワクチン接種頭数を公表した。これによると、牛の飼養頭数は、2002年のワクチン接種開始以降、最低の約5192万頭と、ピーク時(2006年同期6130万頭)より約15%減少していることが判明した(注)。特に、牛の生産地帯であるパンパ周辺地域(ブエノスアイレス州、サンタフェ州、コルドバ州、エントレリオス州、ラパンパ州)では2006年同期の4700万頭に対し、2009年同期は約20%減の3771万頭と大幅に減少している。
  

注:アルゼンチンでは、全国の牛の飼養頭数に関する正式なデータが公表されていない。このため、一般的に、口蹄疫対策の一環として年2回行われる全頭ワクチン接種の頭数から全国の牛の飼養頭数を類推把握している。

 この原因として、アルゼンチン牛肉・牛肉副産物産業および取引会議所(CICCRA)では、干ばつにより牧草の確保が困難なため肉牛の増体が見込めないことや政府の牛肉政策に対する不信などから、2008〜2009年に生産者が食肉供給の主力となる繁殖牛、去勢牛を大量に早期出荷したためとしている。この結果、2009年の牛肉生産量は過去最高となった(※)

※「2009年の牛肉輸出額は過去最高(アルゼンチン)」(平成22年2月15日付海外駐在員情報)を参照

口蹄疫ワクチン接種頭数(≒牛飼養頭数)
資料:アルゼンチン動植物衛生機構(SENASA)
注1:各年とも第2回目(10月〜12月)のワクチンを接種頭数
注2:パンパ周辺地域=ブエノスアイレス州、サンタフェ州、コルド
バ州、エントレリオス州、ラパンパ州

肉牛生体価格が半年間で50%超の高騰

 このような中、パンパ地域では、2009年10月以降、それまでの干ばつから一転、降水に恵まれたことから牧草が順調な生育を見せ、肉牛の増体肥育に最適な環境となった。生産者は増体を見込んで出荷を保留したため、と畜頭数は徐々に減少し、2010年2月は、2009年10月(約140万頭)から25%超の減少となる約105万頭(推定)となった。また、政府は、国内の牛肉価格上昇を抑制するため、輸出許可証の発行を少なくしたことから、同年同期の牛肉輸出量は約42千トンから約22千トンに45%超の減少となった。

と畜頭数の推移
資料:アルゼンチン牛肉・牛肉副産物産業および取引会議所(CICCRA)
注:2010年2月は推計。
牛肉製品別の輸出量
資料:アルゼンチン動植物衛生機構(SENASA)
注:製品重量ベース

 一方で、国内における牛肉消費量は年々確実に増加し、2009年の一人当たりの年間消費量は過去最高の73.1キログラムとなった。

 このようなことから、国内の牛肉需給は大きくバランスを崩し、顕著な供給不足状態にあるとみられる。実際、牛肉の主力となる去勢牛の国内用生体価格を2009年10月と2010年3月で比較すると、キログラム当たり2.91ペソ(約70円、1ペソ=24円)から同4.83ペソ(約116円)の約66%高となった。同様に輸出用では同3.77ペソ(約90円)から5.78ペソ(約138円)の約53%高となった。

牛肉消費量
資料:アルゼンチン牛肉・牛肉副産物産業および取引会議所(CICCRA)
注:2010年はCICCRAによる推定
肉牛生体価格の推移
資料:国家農牧取引監督機構(ONCCA)
注:「価格」は、去勢牛24か月齢未満400-500kgを対象とした毎月
10日の価格。
参考:1ペソ≒24円

 現在、当地エコノミストの間では、アルゼンチンにおける2010年の物価上昇率は生活必需品を中心に15〜25%と予測されており、今後、さらなるインフレの加速が長期に続く場合は、ハイパー・インフレーションになることも懸念されている。上述のとおり、肉牛生体価格は国内用および輸出用ともに半年間で50%超の記録的な高騰を示しており、現在起こっているインフレを牽引しているとの声もある。

2010年に肉牛頭数を確保することは困難と予測

 今回の状況を畜産経営コンサルタントのイリアルテ氏は次のように分析する。「これは一種のバブルのようだ。明らかに牛肉供給量の減少が原因であり、畜産ストック(繁殖牛や去勢牛などの飼養頭数)の大幅な減少が問題となっている。国内価格は国内消費の圧力により上昇し、枝肉価格はアルゼンチンではキログラム当たり3ドル(約285円、1ドル=95円)、米国では同3.1ドル(約295円)、ブラジルでは同2.7ドル(約257円)、ウルグアイでは同2.55ドル(約242円)となっている。このため、牛肉業者は輸出を行わなくとも国内市場で十分収益を確保出来るため、今年は政府からの輸出許可は不要という意見が業者から聞かれた。政府はこれまでにさまざまな介入を行ってきたが、そもそも国内市場の需要を満たすだけの肉牛頭数を確保することが困難なため、頭数が回復するまで「待ち」続けるしかなく、即効性のある対策は打てない。アルゼンチンの場合、肉牛頭数を現在のような状況から以前の状態に戻すには、2年間の猶予が必要であり、2010年に肉牛の安定供給を望むことは難しい。」

 このような状況から、フィードロット農場では肥育素牛の購入が行えず稼働率が下がり、食肉パッカーでは工場の稼働停止を行うなど企業経営や労働条件の見直しを余儀なくされている。また、CICCRAは、世界一の牛肉消費大国アルゼンチンにおいて、2010年の一人当たりの年間牛肉消費量は、前年比約20%減少となる59.0キログラムと予測している。

 以上のように、2009年の牛飼養頭数の大幅な減少が、さまざまな形で影響を与えはじめている。


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