大切にしたい酪農ヘルパー制度 |
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日本大学生物資源科学部 教授 小林 信一 |
酪農経営にとって、なくてはならないものとなっている酪農ヘルパーが、岐路に立たされている。酪農ヘルパー利用日数の全国合計は、平成17年度の262,935日をピークに減少に転じており、20年度では242,207日となっている。酪農家1戸当り年間利用日数は、同時期に17.2日から17.5日まで若干増加したが、ほぼ横ばいの状態が続いている。 酪農ヘルパーは、酪農家の休みを確保するための自主的な組織として各地で生み出され、全国協会が設立され、各県の組織と助成制度が整備されてからでも20年が経過した。平成21年現在、全国で339の酪農ヘルパー組織(うち北海道99、都府県240)があり、酪農家の9割以上が酪農ヘルパーを利用できる体制になっている。 ヘルパーの利用目的は、冠婚葬祭や休養の他、家族旅行、子どもの学校行事参加など家族団らんのためなどが多い。また、近年増加しているのは、事故や病気理由の利用がある。傷病が重篤で入院が長期にわたる場合は、これまでならば離農をせざるを得ない場合も、ヘルパーによって経営存続が可能になった例が各地で見られる。傷病時利用には、酪農家が互助組織を作って、国などの助成も受けて、長期入院などのためにヘルパーへの支払い料金が多額にならないようにするための割引制度がある。 ヘルパー利用日数が減少に転じた主要な要因としては、酪農家戸数の減少があげられる。17年度までは、戸数の減少を1戸当り利用日数の増加がカバーして、総利用日数は増加し続けてきたが、最近は戸数減少のスピードが1戸当たりの利用増加を上回ったためと言える。酪農家戸数減少の背景には、酪農経営悪化や将来見通しの不透明感があるが、このことは存続している酪農家がヘルパー利用を抑制する要因にもなっている。 こうした利用日数減少の中で、ヘルパー組織の経営も厳しい状況に置かれている。利用組織の収支は、利用料金によってかろうじてヘルパー員の給与などの人件費を払える状況で、人件費以外の費用は国や自治体、農協などの助成によってやりくりしているのが実態である。来年度から国の助成が変更され、26年度には現行の助成が大きく見直されることになっている。また、自治体の助成も財政悪化などを受けて減少しており、組織の運営経費、ヘルパー養成経費そして傷病時割引などの経費の支払いについて、自助努力がさらに必要となっている。 傷病時互助制度は、高齢化のため傷病発症率が高まっている酪農家が安心して経営を続けるためのセーフティネットである。20年度にこの制度を利用したのは、32都道府県の1,002人で、平成9年度から現在までの累積では1万人近くに達する。高齢化・後継者不足を理由とした酪農中止が増えている現状を考えると、なんとしても残したい制度である。 酪農ヘルパー組合の経営改善のために、組合側も組織の統合などを進めてはいるが、決定的な解決策とはなっていない。利用料金の値上げは、酪農経営自体が厳しさを加えている中で、利用日数を減少させる結果になりかねない。組合によっては、搾乳・給餌作業以外の牧草収穫、堆肥散布などの酪農作業や、乳牛検定、衛生検査などの業務を取り入れているところもあるが、収益の柱になるには至っていない。 農業ヘルパーの先進国であるヨーロッパでも助成金は徐々に減らされてきてはいるが、助成金の全廃によって全国協会がなくなり、ヘルパー制度が一時期機能停止となってしまったスウェーデンの轍を踏まないためにも、官民一体となった早急な取組が必要だろう。その際に、傷病時互助制度とヘルパー員の養成については、今後も公的助成が強く望まれる。ヘルパー員養成については、農業系教育機関などで資格を伴ったヘルパー養成講座を立ち上げることも一案だろう。学生のみならず、一般の方も参加可能とすることで、酪農ヘルパーの存在を知らしめるとともに、即戦力をヘルパーとして送り込むことができれば、ヘルパー組織の養成費用の負担軽減にも繋がる。 また、酪農ヘルパーの果たす役割として重要であり、今後ますます期待されるものとして、酪農ヘルパーの酪農への新規参入ということがある。専任酪農ヘルパーは、平成21年8月現在1,179人(うち北海道500人、都府県679人)であるが、平成元年以降でも100名以上が新規参入を果たしている。ヘルパー経験者の酪農への新規参入は、欧州にも見られない日本独特のもので、酪農の後継者を作りだすという面から酪農ヘルパーの意義と役割を評価することも重要である。 さらに、農協の将来を考えるときに、生産段階での支援をより重視した総合支援組織へ転換し、組合員との濃密な関係を取り戻すことが急務であると考えるが、その際酪農ヘルパーは大きな戦力になるだろう。先進的なある酪農協で、ヘルパー経験者を営農指導部長に抜擢している例がある。多くの役割を持ったヘルパー制度を、今後も大切に育てたいものだ。 |
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