需給解説

豚肉の販売意向調査の結果(22年度上期)について
〜22年度上期も引き続き国産豚肉の販売増加を期待〜

食肉生産流通部 食肉需給課長 藤野 哲也
同課長代理 小田垣諭司

 豚枝肉卸売価格(東京・大阪加重平均「省令」規格)は、生産量の増加などから下落傾向が続いているため、量販店での特販品目として国産豚肉が広く定着するようになった。このため、これまで特販で使われていたチルド豚肉の輸入量は、昨年度で見るとすべての月で2万トンを超えていたものの、21年度(4〜2月)において輸入量が2万トンを上回ったのは、わずか2カ月にすぎない。

 先月の牛肉に続いて、今月は、豚肉の22年度上期の需給について、量販店、卸売業者、輸入商社へのインタビューやアンケートなどを実施したので、その概要を報告する。

1 国産豚肉の在庫量は、供給量の増加から高水準

 まず、現在の豚肉需給をめぐる状況について見てみたい。

 豚肉生産量については、21年度(4〜2月)で見ると841,224トン(部分肉ベース)と前年同期を4.4%上回っている。生産量は、21年3月以降12カ月連続で前年を上回っており、飼養頭数の増加やサーコウイルスワクチンの使用による事故率の低減などから、生産量は2年連続で前年度より増加することが見込まれる。

 一方、豚肉輸入量については、国内生産量の増加による輸入豚肉の需要減少などを受けて減少しており、21年度(4〜2月)で見ると628,416トンと前年同期を▲16.3%と大幅に下回っている。輸入量は、21年2月以降13カ月連続で前年を下回っており、3年ぶりに前年度を下回る結果となった。

 このような中、当機構の食肉の保管状況調査による豚肉の在庫数量を見ると、国産豚肉の相場低下により、輸入量が抑制された結果、輸入品在庫は取り崩しが進み、減少傾向で推移している。特に、21年11月には5年振りとなる1万3千トン台にまで減少した。一方、22年2月末現在での国産品の豚肉推定期末在庫量は約2万8千トンと依然として高水準にあり、生産量の増加を反映した結果となっている(図1)。

図1 豚肉推定期末在庫数量の推移
資料:農畜産業振興機構調べ

 豚枝肉卸売価格は、当機構の畜産業振興事業により、21年10月から豚肉の調整保管事業が実施された効果などから、21年11月以降は安定基準価格であるキログラム当たり400円を超えて推移している(図2)。

図2 豚枝肉卸売価格の推移
資料:食肉流通統計ほか
注:省令規格:東京・大阪加重平均、直近月は速報値

2 量販店による販促機会…米国産豚肉は減少

 国産豚肉については、低迷が続いており、価格面のみから考えれば相当な値頃感が出ているものと考えられる。

 当機構調査の豚肉の卸売価格(仲間相場)の国産および米国産のロースの価格の推移を見ると、いずれも下落傾向が続いているものの、国産の下落率が米国産より大きくなっている。

 このような価格の低迷を受けて量販店での豚肉の販売動向はどうなっているのであろうか。

 当機構職員が居住する首都圏における量販店のチラシにおける豚肉の取扱いを調査した結果が表1、表2のとおりである。

表1 首都圏量販店のチラシでの国産豚肉の取扱い
表2 首都圏量販店のチラシでの米国産豚肉の取扱い

 チラシは、21年4月から22年2月の間で、日曜日の特売が記載されているものを毎週取りまとめたものであり、チラシの取扱いに応じて、(1)文字のみは1点、(2)写真付きは1.5点、(3)目玉商品としての取扱いは2点としてその注目度を指数化して計算したものである。

 なお、このチラシのデータは、サンプルが3社と極端に少ないこと、また、職員の居住地も地域がばらばらなことから、あくまで参考程度であることをあらかじめお断りしたい。

 豚肉のチラシ掲載内容を見ると、国産豚肉ではチラシ掲載回数は、21年8月中旬以降の豚肉価格の下落を受けて9月以降増加傾向で推移している(図3)。

図3 首都圏大手量販店における
豚肉のチラシ掲載回数の推移
資料:首都圏の大手量販店3社の週末を含むチラシ

 一方、米国産豚肉の掲載回数は国産豚肉の特販機会の増加から減少していることがわかる。

 部位別で見ると、国産豚肉はロイン系がメインとなっているが、米国産はロイン系に加え、ヒレやばらなど種類が多く、また、用途別で見ると、国産は「薄切り」、米国産は「かたまり」が多くなっている。

 なお、当機構調査のPOSの千人当たり販売数量を見ても、輸入豚肉は21年9月以降前年同月を下回って推移しているので、量販店では、米国産豚肉の掲載の回数を減少させる中で、国産豚肉の特販に積極的に取り組んでいることがうかがえる(図4)。

図4 POSにおける豚肉の産地別・
部位別販売動向の推移
資料:(独)農畜産業振興機構調べ

3 加工品の国産仕向けは増加へ

 ソーセージの1人当たり家計消費量を総務省「家計調査報告」から見ると、食肉全般では消費量が伸びているものの、支出金額では減少するという傾向を示しているが、単価が安いソーセージについては、消費量、支出金額とも増加しており、消費者の低価格志向を反映した結果となっている(図5、図6)。

図5 1人当たりソーセージの家計消費量の推移
資料:総務省「家計調査報告」
図6 1人当たりソーセージの家計消費支出金額の推移
資料:総務省「家計調査報告」

 また、21年度(4月〜1月)のハムの生産量は、家計消費量の増加などから前年同期を1.3%上回っているが、その内訳を見るとロースハムの生産量がかなり増加している。豚肉の加工仕向肉量の国産比率は2割程度と低いものの、国産冷凍品在庫の増加や価格の低下を受けて国産物の数量が拡大傾向で推移しており(図7)、ハムの中でもより付加価値の高いロースハムの生産量が増えているものと考えられる。なお、昨年のお歳暮商戦での贈答用の加工品需要は、不況の影響から伸び悩んでおり、今後の動向が注目される。

図7 国産豚肉の加工仕向け肉量及びロースハムの生産量の推移(前年同月比)
資料:日本ハム・ソーセージ工業協同組合調査

4 食肉専門店での見通し−「21年度下期と同程度」と見込む

 専門店の22年度上期(4〜9月)の販売見通しでは、豚肉は45%が「同程度」としている。なお、牛肉は「減少」するとした専門店は55%を占めており、牛肉においては引き続き厳しい状況が続くものと見込まれる(表3)。

  販売見通しが「減少」と見込む専門店に、その理由を尋ねたところ、牛肉、豚肉とも「景気悪化」とした割合が約7割と最も高く、景気低迷の長期化が影響している。

表3 22年度上期(4〜9月)の販売見通し(専門店、重量ベース)
(注)アンケートは3月に全国の主要食肉専門店60社を対象に
行い、60社から回答を得た。

5 量販店の豚肉販売見通し−「21年度下期と同程度」と見込む

 平成22年度上期(4〜9月)の量販店における食肉の販売動向のアンケート結果によれば、豚肉の販売は「同程度」とする回答が最も高く47%、次いで「増加」が36.5%となっている(表4)。

表4 平成22年度上期(4〜9月)の販売見通し(量販店、重量ベース)
(注)アンケートは2月に全国の主要量販店28社を対象に行い、
28社から回答を得た。

 21年9月調査と比べ、「増加」が5.5ポイント減少し、「同程度」が24ポイント増加したものの、下期に引き続き豚肉は好調な売れ行きが期待される。

 食肉全体で見ると、比較的単価の安い豚肉と鶏肉は、「増加」の割合が高いが、単価の高い牛肉は「減少」とする割合が高く、この傾向は前回調査と変わらず、依然として低価格志向が続くことがうかがえる。

6 卸売業者の豚肉販売見通し−「21年度下期と同程度」と見込む

(1)種類別の販売見通し

 主要食肉卸売業者にも同様にアンケート調査を行った。平成22年度上期(4〜9月)の販売見通しは、すべての品目で「同程度」の割合が高い。特に国産については「増加」の割合が減少し、「同程度」の割合が増加し8割弱を占めており、国産相場安により拡大した国産品の販売量が維持されるものと考えられる(表5)。

 また、輸入チルド及び輸入フローズンについては、21年9月調査とは異なり、「減少」より「増加」の割合が上回っており、輸入品の販売量が増加すると期待していることがうかがえる。

表5 平成22年度上期(4〜9月)の豚肉販売見通し(卸売業者)

(2)仕向け先別の販売見通し

 仕向け先別の販売見通しを見ると、増加する仕向先としては、国産では家計消費向けとする回答が最も多く、次いで集団給食向けが多い。これは、低価格により需要が増しているものと思われる。

 また、輸入チルドにおいては家計消費向けとする回答が最も多く、輸入フローズンにおいては加工用向けが最も多く、次いでファストフード及びファミリーレストラン向けとなっている。輸入品が本来の仕向先であったテーブルミートや業務向けの流通が、今後は回復する見通しとなっている。

(3)部位別の販売見通し

 部位別の販売見通しについては、おおむね「同程度」との回答が多かった。「増加」の割合が高かったのは、国産の「かた」と「切り落とし」のみで、消費者の低価格志向を反映して価格の安い低級部位が増加すると見込まれている(表6)。

表6 平成22年度上期(4〜9月)の豚肉部位別販売見通し(卸売業者)
(注)アンケートは2月に全国の主要卸売業者18社を対象に行
い、14社から回答を得た。

7 輸入から国産への切替え−枝肉価格が420円/kgが最も多い

 安価な輸入チルド豚肉と比較して国産豚肉が扱いやすくなる枝肉価格、すなわち輸入品と国産品の切替わる価格の目安を聞いたところ、量販店、卸売業者ともにキログラム当たり420円という回答が前回同様、最も多い結果となっている(表7)。

表7 輸入チルドと比較して国産が扱いやすいと思う豚枝肉価格

8 22年度上期の豚肉生産量はやや上回ると予測

 農林水産省「食肉流通統計」によると、豚肉のと畜頭数は平成21年3月以降前年同月を上回って推移しており、サーコウイルスワクチンの効果などから、21年度下期(10〜2月)は前年同期比2.3%とわずかに増加している。

 今後のと畜頭数の動向については、肉豚生産出荷予測(農林水産省食肉鶏卵課 平成22年3月31日公表)によると、4〜6月期は前年同期と比べて同水準で推移すると予測されているが、過去5年平均で比較すると103%とやや上回るものと見込まれている(表8)。

表8 豚のと畜頭数と出荷予測

9 輸入は引き続き減少見込み

 21年度(4〜2月)の豚肉の輸入量は、前年同期を16.3%下回って推移した。

 輸入形態別で見ると、チルド、フローズンともに輸入量は、大きく減少しており、国内生産量の増加による枝肉価格の下落の影響を大きく受けた結果となっている。

 それでは、今後の輸入はどのように見込まれるのであろうか。輸入商社からの聞き取りなどから、予測すると、22年度上期のチルド輸入量は、およそ112千トン(前年同期比▲3.4%程度)、フローズン輸入量は、217〜230千トンで前年同期から4.8%程度減少するものと見込まれる(表9)。

表9 豚肉の輸入状況

 輸入商社からは、国産枝肉卸売価格の低下により、輸入豚肉から国産豚肉への代替が一巡する中、輸入豚肉への需要の高まりがあまり期待できないことに加えて、今後、輸入主要先である北米やデンマークでの生産量の減少や為替要因などから先高感が見込まれるため、輸入量は、引き続き減少するとの意見が多く聞かれた。

10 まとめ

 量販店、卸売業者、専門店のアンケート結果を見ても、22年上期の販売見通しは21年下期と「同程度」との回答が多かった。豚肉卸売価格の低下により、21年下期に販売量が拡大し、22年上期は拡大した販売量がそのまま維持するとのことは、展望としては明るいものと言える。

 国産品と競合する冷蔵品の輸入量は、国産豚肉価格の下落から低水準で推移している。量販店が国産豚肉への転換を進めた結果、現在のチルドの輸入量は1万7千トンの前後にとどまっている。これは、輸入豚肉の需要量の最低水準と言えるところまで落ち込んでいる結果と言えるのではないだろうか。

 一方で、養豚生産者にとって、現在の豚枝肉価格水準が十分なものとはいえないのも現実である。今後の生産基盤を確保するため、需要に見合った生産が求められている。

 このような中、農林水産省では新たな食料・農業・農村基本計画が3月30日に閣議決定されたところである。この中で、豚肉の分野において克服すべき課題として「産肉・繁殖能力の向上、飼養管理技術の高度化」と「国産豚肉の加工・業務用仕向量の拡大」が示されており、更なる消費者の国産豚肉志向の拡大、定着をさせるため、今後の取り組みに期待したい。


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