海外駐在員レポート  

カナダの酪農事情〜牛乳乳製品の消費動向・消費拡大策を中心に〜

ワシントン駐在員事務所 中野 貴史、上田 泰史


  

【要約】

 カナダの酪農は、牛乳乳製品の輸入を制限し、国内需要を前提とした厳格な生乳供給管理制度を有している。酪農への参入には、高額な生乳供給数量(クォータ)の購入が必要となることから容易ではないが、参入した後は、この制度の下、生産者は、生乳生産量が割り当てられ、政府からの直接補助金交付なしに再生産可能な十分な対価を得ている。

 一方、移民政策によりカナダの人口は増加し、牛乳の飲用習慣のない民族の割合が増えており、一人当たりの消費量は減少している。こうした状況の下、政府および生産者団体による消費拡大策が行われており、消費が躍進するチョコレート牛乳が、けん引役として期待されている。

1.はじめに

 美しい自然に囲まれた牧場にしょうしゃな自宅が建ち、カナダの酪農家にあくせく働くイメージはない。生産者保護的なカナダの酪農制度は、国外からの輸入を制限し、国内需要を賄う生乳生産を基本とした生乳供給管理制度の下で成り立っている。2008〜2009年の国際乳価の暴落で、隣国の米国の生産者は乳価低迷に苦しんだが、カナダの生産者は厳格な制度により安定した経営を継続することができた。

 本稿では、カナダの酪農を概観するとともに、牛乳乳製品の消費動向および消費拡大策について紹介する。

2.カナダ酪農の現状

(1)生乳生産の概要

 カナダは日本の27倍という広大な国土を有し、10の州と3つの準州から成る。しかし、国土の多くは北極圏、ツンドラ地帯に属するため、国民の8割は南方の米国との国境線から200km以内圏に居住している。首都オタワは、ほぼ稚内市と同緯度になり、カナダ最大の都市トロントは札幌市と同緯度となる。

図1 カナダ州別地域

 広大な土地を抱えながらもカナダの人口は、約3400万人と日本の3割程度で、人口の7割は、首都オタワ、大都市トロント、モントリオールを抱える東部に集中している。

 2009年8月1日現在の酪農家戸数は、13,214戸と、前年度に比べ2.7%の減少となった。酪農家の戸数は、小規模層を中心として漸減傾向で推移しており、10年前(1999年)の約2万戸からは約4割減、35年前(1975年)の約8万戸と比べると6分の1以下に減少した。

 また、州別に見ると、ケベック州およびオンタリオ州の東部2州で81.2%を占めている。さらに、ケベック州だけで49.1%と、カナダの半数近く酪農家が分布している。

 乳用牛飼養頭数は、2010年1月1日現在98万1千頭と、ほぼ前年並みとなっているが、長期的には減少傾向にあり、この10年では、99年の115万7千頭から15.2%減少した。

 州別に見ると、ケベック州およびオンタリオ州の東部2州でカナダの69.8%を占めるが、戸数シェアより小さい。 これは、カナダの酪農家1戸当たり乳用牛飼養頭数が72頭であるのに対し、ケベック州は56頭と最も小さいためである。ケベック州の場合、広大な土地の下、大規模な酪農経営が可能な西部の新興州と異なり、小規模な家族経営体がまだ残り、処理施設を自ら所有する経営が多く、施設の能力内で乳牛を飼養する傾向があると言われている。また、兼業農家が多いことも小規模経営が存続している理由の一つである。しかしながら、100頭以上飼養する生産者戸数が最も多いのも同州であり、規模拡大も少なからず行われている。

図2 酪農家戸数と1戸当たり平均生乳生産量
資料:CDC

 2008年度(8月〜翌年7月)の生乳出荷量は約782万トンと、前年度に比べ1.0%の減少となっているが、長期的には、1980年度の750万トンから増減を繰り返しながら微増傾向で推移している。 これは、1頭当たりの乳量の増加が乳用牛飼養頭数の減少よりわずかに上回っているからである。1頭当たりの平均乳量は1990/91年度の5,624キログラムから2008/09年度の7,998キログラムに42.2%増加し、直近では、日本の8,011キログラムとほぼ同じ水準である。

 2008年度の生乳生産量を仕向け先別に見ると、飲用向け304万トン、乳製品向け476万トンとなり、飲用:加工の仕向け比率は40%弱:60%強と、日本とはほぼ逆になっている。ちなみに、ケベック州およびオンタリオ州の東部2州で飲用乳の60%以上、加工向け生乳の75%以上が処理されている。

図3 生乳生産量の推移
資料:CDC
図4 州別飲用牛乳生産量の割合(2008年度:281万4千トン)
資料:CDC

(2)輸出入の動向

 生乳供給管理制度の下、国外からの輸入は制限されるとともに、国内需要に合わせて生乳が生産されるため、乳製品の輸出は原則として限定的なものとなっている。

 しかし、乳脂肪に比べ需要が少なく恒常的に余剰となる無脂乳固形分、つまり脱脂粉乳は、国際価格水準で計画的に輸出に仕向けられている。国内価格より安い国際価格の輸出向け生乳が増えれば、生産者の受取乳価は少なくなる。ただし、国内価格より低価格での輸出が補助金付き輸出と認定されたため、WTO協定により脱脂粉乳の輸出量には上限が設定されている。

 1999年以降乳製品の貿易収支はマイナスとなっている。これは脱脂粉乳の輸出に関して上限が課されている中、カナダドル高により輸入しやすい為替環境が働いていたからと言える。

図5 乳製品の輸出入額の推移
資料:Statistics Canada

 2009年の主な乳製品の輸出は、最多はチーズで輸出額の27.3%を占め、続いてアイスクリームの25.9%、ホエイ製品の12.5%、乳製品調製品の11.9%、脱脂粉乳の10.7%と続く。仕向け先としては、中東が全体の35.0%を占め、続いてEUを除く欧州が23.1%、アジアに15.2%、EUに11.3%と続く。

図6 乳製品の種類別輸出額の割合
資料:Statistics Canada

 一方、乳製品の輸入に関しては、チーズが最も多く44%、次いで乳たんぱく製品の16%、カゼイン等の11%と続く。

図7 乳製品の種類別輸入額の割合
資料:Statistics Canada

 カナダの酪農産品の輸出品目として特徴的なものに生体牛、精液、受精卵といった遺伝資源の輸出がある。2009年の乳製品の輸出額は2億3千万カナダドル(約188億6千万円:1カナダドル=82円)であるのに対し、これら遺伝資源は9900万カナダドル(約81億円)と決して少なくない。なお、2008年の遺伝資源の輸出額は過去最高を記録しており2009年の1.8倍であった。2009年の最大の輸出先は米国で全体の30.8%を占め、次いでロシアの13.5%、オランダの6.7%と続く。日本は第6位になるが、かつては米国、英国に次ぐ輸出先であった。

図8 遺伝資源の輸出額の推移
資料:Statistics Canada

3.カナダ酪農制度の概要

(1)サプライ・マネジメント(生乳供給管理)

 カナダの酪農政策は、3つの柱からなる。第1は加工原料乳の価格支持、第2は生乳の供給管理であり、第3は関税割当制度による乳製品の輸入規制である。すなわち、価格を支持するためには、輸入を含めた供給量の規制が条件となることから、カナダの酪農制度は、国内需要を前提とした生乳の供給管理制度となる。

 生乳供給管理の目的は、乳製品の国内需要および一定の計画的輸出を含めた加工原料乳の生産を確保することである。カナダは、このような加工原料乳の供給管理を1970年代初期に導入した。制度導入の背景には、それ以前の50年代〜60年代にかけて、需要、供給ともに不安定であり、生産者や加工業者により収入の格差も極めて大きかったという事情がある。このように、市場の安定化のために生乳供給管理制度は導入された。

 飲用・加工を合わせた全体の生乳供給管理は、連邦政府と州政府の合意に基づく全国生乳出荷計画を通じて運営されており、その運営主体はカナダ生乳供給管理委員会 (CMSMC)が担っている。CMSMCは、各州の生産者および州政府の代表者からなっており、消費者、乳業者および生乳生産者の全国団体の代表が、それぞれ投票権を持たないメンバーとして参加している。

 CMSMCは、毎年、加工原料乳の全国生産目標である市場出荷割当(MSQ)を設定する(日本の限度数量に相当)。MSQは、需要の変動に応じて修正できるよう、常にモニターされ、2カ月毎に調整される仕組みとなっている。

(2)生乳供給管理制度の運用実態

 生乳供給管理制度の運用は連邦政府と州政府により分担されている。州政府の独立性は高く、細かくは州毎にその仕組みが異なっている。 よって、生乳の州内の取引については州政府が所管し、州間取引および国際貿易が連邦政府の所管事項となっている。広大な国土を有するカナダにおいては、基本的に飲用向け生乳の州域を越える輸送は困難であることから、結果的に、州政府が飲用乳の供給管理を、連邦政府が加工原料乳の供給管理を、それぞれ連携をとりながら所管する仕組みとなっている。

 このうち、飲用乳については、州政府により法的権限を与えられた州政府機関、生産者により運営されているミルク・マーケティング・ボード(MMB)またはその両者により運営され(以下「MMB等」という。)、州によりその運営主体は異なる。加工原料乳については、連邦政府関係機関であるカナダ酪農委員会(CDC) により運営されている。しかしながら、CDCは、個々の農家の加工原料乳の出荷割当については、州政府に委託している。このため、州政府の役割は、実質的には、州内の飲用乳価格の決定と加工原料乳をも含めた生乳供給数量(クォータ)の管理になる。

 MMB等 は、個々の生産者の生乳供給数量を正確に管理するため、すべての生乳生産者に対してライセンスを発行し、その管理を行っている。また、全国生乳出荷計画に基づき、州の飲用乳クォータを設定し個々の生産者に対して割り当てるとともに、州に配分された加工原料乳のMSQをさらに個々の生産者に対して割り当てている。さらに、MMB等は、生産者から生産されたすべての生乳を一元的に購入し、それを個々の乳業メーカーに販売する一元集荷多元販売を行っている。

 カナダの生乳供給管理制度の特徴の一つとして、個々の生産者間のクォータの売買等がある。同一州内においては、MMB等が仲介機関となって、クォータの取引が自由に行われている。取引の方法は、株式の取引と同様で、公開市場においてクォータを売りたい生産者と買いたい生産者が、それぞれ希望数量と希望価格を伝え、両者がバランスする価格で売買が成立する仕組みとなっている。

 それでは、クォータは具体的にどれぐらいの生乳量になり、どれぐらいの価格になるのだろうか。1クォータとは、乳脂肪を1キログラム生産できる1日当たりの生乳生産量と定義されている。2008年の生乳の平均乳脂肪率は3.8%であるので、1日当たりの生乳生産量は、1キログラム÷0.038=26.3キログラム、年間では26.3キログラム/日×305日=8,022キログラムとなり、ほぼ搾乳牛1頭分の生乳生産量となる。つまり、1クォータは搾乳牛1頭を飼養する権利と言える。1クォータの価格は2007/08年度においては全国平均で28,205カナダドル(約231万円)となっている。カナダの酪農生産者の平均飼養頭数は72頭であるので、72頭の乳用牛を飼養するために購入するクォータは72×28,205=2,030,760ドルとなり、1ドル≒82円とすると約1億7千万円となる。つまり、72頭の飼養規模の酪農を始めるためには1億7千万円分のクォータを購入しなければならない。これは、新規参入の大きな障壁となっている。しかし、逆に72頭を飼養している酪農家が離農のためクォータを売却すると1億7千万円を手にすることができることになる。退職金としては潤沢な額と言えよう。

(3)乳製品の支持価格

 CDCは毎年12月中旬、生産者や加工業者等関係者による助言、CDCによる生産費調査結果、市場条件、酪農をめぐる環境の変化および経済事情を考慮し、翌年2月1日から適用される乳製品の支持価格を設定している。支持価格は、物価等の変動があった場合には適宜見直しが行われることとなっており、最近では、2008年に飼料穀物や燃料費の急騰を受け9月からの価格を見直した。

 乳製品の支持価格は、効率的な生乳生産者が生産した加工原料乳に、加工業者の推定マージン等を加えて、バターおよび脱脂粉乳について設定される。生産費調査の農家選定に当たっては、まずは各州における1戸当たり平均生乳生産量を求め、平均値の60%以下の少量生産者およびコストの高い上位30%の非効率的生産者を除外している。CDCの生産費調査に基づく2008年の生乳100キログラム当たりの費用は、68.47ドル(5,615円)となっている。

表1 生乳100kg 当たり生産費
資料:CDC

 CDCの定める乳製品の支持価格は、乳製品価格が下落した時のCDCの買上価格になるほか、季節要因による需給調整のためにCDCが実施する乳製品売買プログラムにおいても採用されている。毎年、ほぼ買い上げた量を売り渡しているが、バターについては、期首の適正水準とされる1万2千トンをターゲットに在庫を保有している。

(4)生乳の仕向け先別乳価

 生乳の用途別分類は、まずは5段階に分けられ、それがさらに18に細分類されている。生産者から集乳したMMB等は、乳業メーカーに対して18分類毎の価格で生乳を販売する。用途別の分類は、まずは大分類の「1」は飲用乳およびクリームで乳価算出の算式に基づいて各州で算出される。「2〜4」は加工原料乳でCDCの支持価格を参考に各州で算出される。「5」はその他で、特別プログラムや輸出用の乳価となっている。

表2 生乳の用途別分類表
資料:CDC

 個々の生産者には、プールされた、つまり平均化された乳価が支払われる。乳価については従来の州単位から広域合併が進められ、現在は東部5州(プールP5:Eastern All Milk Pooling 5)および西部4州(WMP:West Milk Pooling)を単位として管理されている。96年8月から先行して実施しているプールP5は、オンタリオ州、ケベック州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州およびプリンスエドワード島の5州からなり、WMPには、マニトバ州、サスカチュワン州、アルバータ州およびブリティッシュコロンビア州が参加している。

 広域化の前提として、各州における基準や規則の統一が必要となることから、P5およびWMPでは、衛生基準、生乳の用途別分類基準、成分等に基づく生乳価格の決定方法、クォータの管理方法などが定められている。

 P5においては、クォータの州間取引が実施されていることに加え、輸送コスト、プロモーションコストがプールされるなど、WMPなどに比べ多くの点で統一化が先行している。なお、現在ニューファンドランド州がP5への参入の意向を示し、検討委員会が立ち上げられている。P5とWMPは年2回、意見交換会を行い、乳価算出に係る専門的な知見を交換している。ちなみに、この会合の結果、オンタリオ州で使われていた飲用乳の乳価算出の算式が2010年2月から2年間全国で採用されることになった。

 なお、生産者の受取乳価については、乳成分や細菌数などによってプレミアムの付加(増額)やディスカウント(減額)が行われる。

(5)乳製品の輸入規制

 カナダの酪農制度は、乳製品の国内需要を国内生産で賄うという考えが基本となっている。 そのためには、乳製品の輸入規制をせざるを得ないが、95年のUR農業合意以降は、国境措置として、それまで輸入を制限するために用いられてきた量的規制措置が関税割当に置き換えられることとなった。過去の輸入実績相当の数量までは低税率が適用されるものの、その水準を超える輸入に対しては、200〜300%相当の高い2次税率が適用されることとなっている。この2次税率は、UR農業合意の実施期間である6年間に15%削減された。

(6)乳製品の輸出プログラム(IREPとSMCPP)

 本来、国内需要を前提とした生乳生産体制のため積極的な輸出は想定していない上、国際競争力が弱いので輸出志向型となっていない。しかしながら、カナダ外務国際貿易省の再輸出用輸入プログラム(IREP:Import for Re-Export Program)によりカナダ産乳製品の輸出は増加している。IREPは、輸出志向のある乳業メーカーが安価な輸入牛乳乳製品を原料として商品を製造し、それを輸出するプログラムである。IREPにより輸入された牛乳乳製品は、全輸入牛乳乳製品の約4分の1を占めるが、製造された商品は輸出され、国内市場には出回らないので生乳供給管理制度に影響を及ぼさない。

 このほか、CDCに特例乳価プログラム(SMCPP:Special Milk Class Permit Program)がある。このプログラムは、(米国からの)輸入乳製品に対抗できる乳価での乳製品生産を目的とするものであるが、輸入品に対抗できるということは国際競争力(少なくとも米国に対して)があることを意味するため、輸出プログラムにもなっている。SMCPP向け乳価は、チーズ用には米国のクラスⅢ(チーズ向け)、チーズ用以外には米国のクラスⅣ(バター・脱脂粉乳向け)の乳価が為替換算されて設定されている。また、製菓用乳製
品には、主要乳製品輸出国の乳価が参考にされている。米国の乳価より国際価格の方が安価な現状ではIREPの利用の方が多く、2008/09年度のSMCPPの利用は前年度を6.9%下回る生乳換算で65.6万トンにとどまった。SMCPPは後述するが、カナダ産生乳を使用した乳製品等製造プログラムであることから、カナダ産生乳の消費拡大策にもなっている。

4.牛乳乳製品の消費動向および消費拡大策

(1)牛乳乳製品の消費動向

 本項に入る前に、カナダの人口動向について触れておこう。多くの先進国では少子高齢化の影響から人口が減少している傾向にあるが、カナダでは毎年30万人ほど増え続けている。これは、ひとえにカナダの移民政策によるものと言える。カナダは建国以来、移民の受け入れを国力の源としてきた。かつては、欧米系の民族を中心に受け入れてきたが、現在は要件が適えば民族の区別なく希望する者を受け入れている。その結果、近年は、受け入れる移民の大半がアジア系となっている。欧米系カナダ人は、多くの先進国同様に少子高齢化の傾向があるが、新カナダ人の出生率は高く人口に占める非欧米系の比率は急激に高まっている。

図9 カナダにおける人口の推移
資料:Statistics Canada
図10 非欧米系カナダ人の人口の推移
資料:Statistics Canada

a.牛乳の小売事情

 カナダにおける飲用牛乳の販売形態として特徴的なのはビニール袋入りの牛乳が挙げられる。正確にはカナダ東部でみられる容器形態だが、飲用牛乳の約7割が東部で生産されているので、ビニール袋入りの牛乳は、カナダを代表する牛乳容器と言っても良いだろう。容量は4リットルで、ブランド名の表記された外装の中には3本の透明のビニール袋に入った牛乳が入っており、これをそのまま水差しに入れ片隅を切って使う。ビニール袋入りはこの4リットルもののみ存在し、他には紙パックの2リットル、1リットルのものや500ミリリットルのプラスチックボトルなどがある。ビニール袋入りは牛乳を多く消費する家族世帯に購入されているとされる。これは、4リットルというスケールメリットから単価が安いこと、3つに小分けされているため順に開封していくことで新鮮さが保たれる上、最後まで4リットルの容量が冷蔵庫を占有しないことも消費者に喜ばれている理由と言われている。さらに製造コストも安く、環境にやさしい容器となっている。この4リットル入り牛乳は、5.49ドル(450円)で販売されていた。

 一方、カナダ西部では4リットルのビニール袋入り牛乳は販売されておらず、代わりに東部では見られない4リットルのプラスチック容器入り牛乳が売られている。これは、米国の代表的な容器である1ガロン(3.87リットル)入りのプラスチック容器に相当するものと言える。ちなみに、カナダでは米国と異なりメートル法を使っているのでリットル表示となっている。

スーパーに陳列される牛乳
最下段がビニール袋入り
ビニール袋入り牛乳は4リットル
中には1.3 リットルの透明のビニール袋 入り牛乳が3本入っている
小袋は水差しに入れて使う

 また、牛乳を大量に消費しない夫婦2人世帯などには2リットル、1リットルの紙パック牛乳が購入されているとみられる。

4リットルのプラスチック容器入り牛乳


b.牛乳の種類

 カナダでは、乳脂肪3.25%の普通牛乳、2%牛乳、1%牛乳、無脂肪牛乳の4種類が販売されている。普通牛乳は全脂牛乳(Whole Milk)またはホモ牛乳(Homogenized Milk)と表示されているが、乳脂肪分は3.25%に調整されたものがほとんどで、成分無調整牛乳は一般的には見られない。これら4種類を合わせた販売量はこの10年間ほぼ横ばいで推移しているが、その構成は異なっている。消費者の低脂肪志向から乳脂肪のより低い1%牛乳と無脂肪牛乳は生産を増やす一方、普通牛乳と2%牛乳の生産は減少している。普通牛乳の生産はこの20年で約60%減少し、2%牛乳も約40%減少している。しかしながら、販売量が最も多いのは約5割のシェアを占める2%牛乳で、次いで1%牛乳(シェア約24%)、普通牛乳(約15%)、無脂肪牛乳(約12%)と続いている。健康志向の高まりから低脂肪へのシフトはあるものの嗜好性からある程度の乳脂肪が求められていることがうかがえる。

c.消費動向

 飲用牛乳の消費量を見ると、人口は大きく増加している中、販売量に変化がないことから一人当たりでは減少している。これは、豆乳やミネラル・ウォーターなどとの競合に加え、前述の通り人口の増加要因となっている新しいカナダ人はアジア系が多く、牛乳を飲用する習慣があまりないことが要因とされている。

 カナダ人の一人当たりの牛乳の消費量は、2006年は年間83.4リットルであり、日本の同34.7リットルと比べるとはるかに多いが、豪州(113.2リットル)、EU(90.2リットル)より少なく、米国(81.2リットル)並みの水準となっている。

 オーガニック牛乳の生産は、牛乳生産量の3%にも満たないが、2008/09年度は前年度比17.6%増と躍進しており、2000/01年度と比較すると7.3倍にもなっている。オーガニック牛乳はさらなる需要拡大が期待されている。

 カナダでは、チョコレート牛乳の消費が大きく伸びている。2004年から直近の2009年までの6年間で販売量は12.2%増えている。飲用牛乳の中で最も伸びている1%牛乳が同期間において6.7%の伸びであるのでチョコレート牛乳はその2倍近い伸び率を記録している。飲用牛乳全体に占めるシェアは7.0%とまだ小さいものの一人当たりの消費量では、無脂肪牛乳の消費量に肉薄している。

 続いて乳製品の消費動向を見てみよう。

図11 牛乳の種類別生産量
資料:Statistics Canada
図12 チョコレート牛乳とオーガニック牛乳の生産量
資料:Statistics of the Canadian Dairy Industry

①クリーム

 クリーム全体の消費としては、2000年以降は増加基調で推移してきたが、2008年は景気後退で減少し、2009年にはわずかに盛り返している。種類別(乳脂肪5〜10%、15〜18%、32〜35%、サワークリームの4分類)では、コーヒーに入れる15〜18%といわゆる生クリームの32〜35%は堅調だが、サワークリームの減少幅が大きく全体の伸びを押さえている。

図13 クリームの種類別生産量
資料:Statistics Canada

②バター

 バターの1人当たり消費量は、動物性脂肪が敬遠されマーガリンへシフトしたことなどから減少し、1988年の3.71キログラムから1997年には2.63キログラムまで減少した。しかし、1998年から2004年にかけて、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸の健康被害説やバターの風味が見直されて消費が増加した。2005年以降は、バターの価格の上昇とともに需要は減少傾向で推移している。

図14 バターの1人当たり消費量の推移
資料:Statistics Canada

③ヨーグルト

 ヨーグルトの1人当たり消費量は、1998年からの10年間で2倍以上に伸びた。これは、プロバイオティクスの流行でヨーグルト飲料を中心に消費が増大していることによる。なお、従来の形態のヨーグルトの需要も根強い。

図15 ヨーグルトの1人当たり消費量の推移
資料:Statistics Canada

④チーズ

 チーズの1人当たり消費量は、ナチュラル・チーズの消費がけん引役となり、増加基調で推移している。

図16 チーズの1人当たり消費量の推移
資料:Statistics Canada

(2)政府による消費拡大策

 国内需要に見合う生乳生産を旨とするカナダにとって、生産者の所得確保には、国内需要を維持しなくてはならない。連邦政府機関であるCDCと生産者団体であるカナダ酪農生産者連盟(DFC)が官民それぞれの立場で消費拡大に取り組んでいる。

 CDCは、バターや脱脂粉乳など国産乳製品を使用した商品の開発などを通じて乳製品の利用増加を図っている。具体的には、①加工食品の原料に脱脂粉乳などの無脂乳固形分を使用した商品開発プログラム、②低価格に設定されたカナダ産生乳を原料に使用した乳製品等を製造する特例乳価プログラム(SMCPP)、③国内市場向けの新商品開発を目的として食品加工業者に乳製品を提供するプログラム、④国産生乳100%使用のアイスクリーム製造補助プログラムなどを実施している。

(3)生産者団体による消費拡大策

 各種広告や料理コンテストなどを通じて販売促進活動を展開するのは生産者団体のDFCである。DFCの代表的な消費拡大策を次に紹介しよう。

「カナダ産生乳100%」のロゴマーク


a.カナダ産生乳100%運動

 日本と同様、消費者の国産志向は強い。しかしながら、世界的なブランド食品の進出により国産品のシェアが奪われている状況も同様に起こっている。個々の商品を見れば国産品の使用量は小さいが、積み重ねていけば少なくはない。そこで、国産品を食べようという一見保護主義的なアプローチである「カナダ産生乳100%運動」を実施している。

 この運動は、2009年の3月に始まった。背景には、リーマンショックを皮切りに世界経済が後退し、カナダ経済も停滞し消費が落ち込む中、カナダ産の牛乳乳製品の差別化を図って消費を伸ばそうという思いから始められた。隣国米国の牛乳乳製品が意識されており、合成ホルモン(rBST)を使用していないことなど、国産の新鮮さに加えて安心面をアピールしている。

 カナダ産生乳を100%使用した牛乳乳製品には「カナダ産生乳100%」のロゴマークが表示され、現在、30以上の乳業メーカーが参加し、2000以上の商品が対象となっている。

 高品質の国産牛乳乳製品を選択したいという消費者の思いも強く、まだこのプログラムの評価はされていないが、生産者にも消費者にも好評を得ている。

・チョコレート牛乳の消費拡大運動

 チョコレート牛乳は、糖質とたん白質を同時に摂取でき、スポーツ選手が飲用するのにふさわしい飲み物として栄養面を強調して宣伝されている。また、チョコレート牛乳を子供の時に飲用すると、その後の牛乳消費量が多くなる傾向があるという調査結果もあり、今後の飲用牛乳の消費拡大のけん引役になると期待されている。

スポーツ選手を意識したチョコレート牛乳の広告
図17 牛乳等の1人当たり消費量の推移
資料:Statistics Canada

5 おわりに

 牛乳乳製品はカナダ国民にとって基本食品と認識されており、国民はその対価を払うことを受け入れている。その結果、酪農家は十分な収入を得、補助金なしで安定した経営を享受している。牛乳に限って言うと、1リットル当たりの小売価格は1.37ドル(113円)と隣国の米国の0.93USドル(79円)と比較すると、やや高い。

  7月に行われたカナダ酪農生産者連盟(DFC)の総会に出席していた70頭を飼養する生産者に、現在の乳価水準について感想を求めたところ、酪農という生産活動の対価として十分な価格であり満足しているとの回答を得た。果たして、このように回答する酪農家は世界中にどれだけ居るのだろうか。

  しかしながら、カナダの酪農経営は、厳格な生産調整の下で乳製品の輸入制限や買い上げが行われていることで成り立っていることを忘れてはならない。今後の国際交渉の中で、カナダの酪農制度がどのような対応を迫られることになるのか。現在、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加についてカナダ政府は、関心を示しているとの情報があるが、加入に当たっては、現行の酪農制度が大きな障害になることは間違いない。カナダ政府がどのような対応をとるのか、注目されるところである。

 前述したが、この制度の存続には需要の維持が不可欠である。そして需要の維持拡大は我が国にとっても重要な共通の課題である。カナダにおけるチョコレート牛乳の消費が拡大している実態は、我が国でも参考になるのではないだろうか。カナダではチョコレート牛乳は飲用牛乳として分類され、乳価も牛乳と同じクラス1の乳価となっている。成分的にも牛乳にチョコレートが加味されているだけなので、牛乳としての成分はそのまま保持される。また、糖質もあるためスポーツ選手の飲料として最適であると宣伝されている。さらに、子供の時にチョコレート牛乳を飲用すると、そうでない子供に比べて牛乳を多く飲む傾向があるという調査結果が我が国にも当てはまるとしたら、なおさら興味深い。

  カナダにおける2009年のチョコレート牛乳の販売量は、牛乳販売量のわずか7.6%にすぎないが、無脂肪牛乳の販売量と比較すると66.3%にまでなる。チョコレート牛乳の今後の消費動向に注目したい。


 
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