需給解説

牛肉の販売意向調査の結果(22年度下期)
〜量販店での和牛の販売促進は拡大へ〜

食肉生産流通部 食肉需給課長 藤野 哲也、同課長代理 小田垣諭司

【要約】

 牛肉全体の生産量は減少傾向にあるが、和牛生産量は増加傾向で推移している。輸入牛肉は、米国産はドル安の影響などから増加傾向、豪州産は現地価格の上昇の影響などから減少傾向で推移している。牛肉卸売価格が低迷している中、量販店では和牛の販売促進の拡大意向を持っており、高級部位の値ごろ感も後押しし、チラシ掲載はステーキ用が上位を占めた。卸売業者は、消費者の節約志向に合わせた切り落としなどの低級部位に加え、かたロースなどの冬場の鍋物需要に合わせた販売を見通している。

 牛肉の主要な需要先の一つである外食産業の売り上げが低迷する中、牛肉の家計消費量は、内食の増加により平成21年度に増加したものの、消費者の節約志向を受けて、22年度に入り再び減少傾向で推移している。一方で、消費者の低価格志向の高まりから、より安い食肉、また、同じ食肉でもより安い部位を求める傾向が続いているため、牛枝肉卸売価格は下落傾向で推移している。

 今年度下期の牛肉の需給について、量販店、卸売業者、生産者団体、輸入商社へのインタビューやアンケートを実施したので、その概要を報告する。

1 牛肉生産量は、和牛が増加も全体では減少

 牛肉生産量は、20年度をピークに21年度は前年度を0.3%下回った。22年度も前年同期(4〜8月累計)で見ると1.0%下回っており、減少傾向で推移している。

 と畜頭数を種類別に見ると、交雑種を含む乳用種全体では減少傾向で推移しているものの、和牛が19年度以降増加傾向で推移している。中でも、乳用種は、生乳の減産型計画生産などの影響で、子牛の出生頭数が減少したことなどから、牛肉の生産量全体としては減少となった(図1)。

図1 種類別と畜頭数の推移
資料:農林水産省「食肉流通統計」

 また、牛肉輸入量について見ると、米国産を中心とする北米産の輸入が増加傾向で推移しており、最近のドル安も輸入への追い風となっている。しかし、輸入量全体の4分の3を占める豪州産については、現地価格の上昇などの影響から、減少傾向で推移しており、22年度全体で見ると、前年同期(4〜8月累計)では2.0%の増加にとどまっている(図2)。

図2 国別牛肉輸入量の推移
資料:財務省「貿易統計」

2 量販店は和牛の低価格部位の販売促進が主流に

 家計消費量を見ると、単価の安い鶏肉は依然として増加傾向にあるものの、牛肉については、前年同月の比較では5月以降減少に転じている(図3)。しかしながら、和牛の卸売価格を見ると4年前のB2、B3クラスの価格で現在のA4クラスの食材が手当できる価格帯にまで下がっており、和牛が手ごろな価格で購入可能な状況となっている(図4)。

図3 家計消費量の推移(全国一人あたり)
資料:総務省「家計調査」
図4 去勢和牛の卸売価格の推移
資料:農畜産業振興機構調べ
表1 首都圏量販店のチラシでの和牛の取扱い
資料:農畜産業振興機構調べ。首都圏の大手量販店3社の週末を含むチラシをとりまとめ
注:1  掲載数は3社の合計、また、指数は、①文字のみは1点、②写真付きは1.5点、③目玉商品としての取扱いは2点として週の平均指数を算出   
2 ロイン系はかたロース、リブロース、サーロインを含む。

 当機構職員が居住する首都圏において量販店のチラシにおける和牛の取扱いを調査した結果が表1のとおりである。

 チラシは日曜日の特売が記載されているものを毎週取りまとめたものであり、チラシの取扱いに応じて、①文字のみは1点、②写真付きは1.5点、③目玉商品としての取扱いは2点としてその注目度を指数化して計算した。

 なお、このチラシのデータは、サンプルが3社と極端に少ないこと、また、職員の居住地も地域がばらばらなことから、あくまで参考程度であることをあらかじめお断りしたい。

 これによると、まず、食肉の週平均掲載数を見ると、鶏肉が減少している一方、国産品の価格が下落している牛肉、豚肉ともに増加傾向となっている(図5)。畜種別の掲載回数は、おおむね牛肉、豚肉、鶏肉の順となっており、牛肉を品種別に見ると、和牛が最も多くなっていることがわかる(図6)。

図5 首都圏大手量販店における食肉のチラシ掲載回数の推移

資料:農畜産業振興機構調べ
図6 首都圏大手量販店における牛肉のチラシ掲載回数の推移
資料:農畜産業振興機構調べ

 和牛のチラシ掲載内容を見ると、部位別ではこれまでロイン系が圧倒的に多くなっていたが、最近になって、ももの特売を組む回数が増えつつある。和牛のチラシ掲載の回数が増加する中で、量販店では、和牛の中でも、より安価な部位を積極的に販売するようになっているものとみられる。

 機構のPOS調査を見ても、和牛肉の販売量の減少幅は牛肉全体と比較して小さくなっており、販売面では健闘していることがうかがえる。和牛の部位別販売シェアを見ると切り落とし(小間切れ、挽き肉を含む。)が最も多いが、ロイン系(かたロースを含む)に代わって、もものシェアが大きく伸びていることがわかる。このことから、量販店が、和牛で特販を組むに当たっても、消費者の節約志向に合わせたアイテムを重点的に絞り込むなどの戦略が採られているものと考えられる(図7)。

図7 POSにおける和牛の部位別販売シェアの推移
資料:農畜産業振興機構調べ

3 食肉専門店の22年度下期販売見通し…牛肉は引き続き「減少」がトップ

 平成22年度下期(10〜3月)の食肉の販売見通しについて、食肉専門店を対象にアンケート調査を実施したところ、牛肉において「減少」とした回答が45%と最も多く、次いで「同程度」が43%となった(表2)。「減少」の回答割合は前回調査の55%から10ポイント減少したものの、その回答を種類別に見ると和牛の減少を挙げた者が半数を占め、最も高かった。専門店での牛肉の種類別取扱割合を見ると、和牛が56%と過半を占め、銘柄牛などの品揃えが量販店より充実している専門店にとっては、引き続き厳しい状況が続くものとみられる。

表2  22年度下期(10〜3月)の販売見通し(専門店、重量ベース)
(単位:%)
注:1  アンケートは9月に全国の主要食肉専門店60社を対象に行い、全社から回答を得た。
   2 ( )は、平成22年3月調査結果

 販売見通しを「減少」と見込む食肉専門店に、その理由を尋ねたところ、「景気悪化」とした割合が7割超と最も高く、景気低迷の長期化が影響しているものと考えられる。

4 量販店の食肉販売見通し

(1)最近の食肉の販売動向…牛肉の取扱割合がわずかに増加

 平成22年度下期の食肉の販売動向などについて、量販店での見通しを9月上旬にアンケート調査した結果、調査時点における量販店での食肉の取扱割合(重量ベース)は、牛肉28%に対して、豚肉42%、鶏肉30%となった。この割合を前回調査(22年2月)と比べると、豚肉、鶏肉がわずかに減少し、牛肉のシェアが増加している(表3)。

表3 最近の食肉の取扱割合(量販店、重量ベース)
(単位:%)
注: アンケートは9月上旬に全国の主要量販店28社を対象に行い、全社から回答を得た。
( )内は平成22年2月調査結果。
表4 食肉における販売促進の機会(量販店)
(単位:件数)
注: アンケートは9月上旬に全国の主要量販店28社を対象に行い、全社から回答を得た。
( )内は平成22年2月調査結果。

(2)販売促進の機会…下期は和牛肉の販売促進に向けて意欲的

 量販店における平成22年度下期の食肉の販売促進について、アンケート調査を行ったところ、和牛肉については「回数を増やしたい」とする回答が半数以上の15件に上った。和牛肉の卸売価格が低下傾向で推移していることから、販売促進を実施しやすい環境が整っていることが影響しているものと見込まれる。

 国産牛肉と輸入牛肉については、「これまでと同様」とする回答が最も多いものの、牛肉全般について見れば「回数を減らしたい」とする回答が少ないことから、量販店における和牛を中心とした積極的な販売促進が期待される(表4)。

(3)下期の量販店の牛肉販売見通し

 平成22年度下期の量販店における食肉の販売見通しを見ると、和牛の販売は、前回調査で「減少」を見込むものが最も高かったが、今回調査では「増加」が50%と最も高い割合を示しており、減少から増加へと見通しが一転している(表5)。

表5 平成22年度下期(10〜3月)の販売見通し(量販店、重量ベース)
(構成比単位:%)
注:( )は、平成22年2月調査結果

 そこで、今後の食肉の販売拡大に向けてどのような対応を考えているか尋ねたところ、牛肉においては「低級部位や切落しの強化」が19件と最も多く、次いで「販促機会のさらなる拡大」が17件という結果となった。

 また、自由記述の中では「『良いもの、美味しいもの』といった肉質に対するニーズは確実にあるので高級部位もしっかり品揃えし、一方で低価格に対してのニーズにも対応していく」や「販促強化は実施していくが、価格だけを重要視せず、コーナー展開、育成商品を明確にし、意思のある売り場作りに取り組む」−との回答もあった。

 これらのことから、量販店では、消費者の節約志向に対応した低価格商品の品揃えとともに、和牛を中心とした牛肉の販売拡大にも力を入れるものと期待される(表6)。

表6 食肉の販売拡大に向けての対応(量販店)
(単位:件数)
注:複数回答

5 卸売業者の牛肉販売見通し

(1) 品種別の販売見通し…国産牛肉は「同程度」

 主要食肉卸売業者にも同様にアンケート調査を行ったところ、22年度下期の販売見通しは、前回調査と同じく国産牛肉、輸入チルドおよび輸入フローズンが「同程度」であるとの見方が過半数を超えた。

表7  平成22年度下期(10〜3月)の牛肉販売見通し(卸売業者)
(構成比単位:%)
注:1  アンケートは9月上旬に全国の主要卸売業者19社を対象に行い、14社から回答を得た。
   2  ( )は、平成22年2月調査結果

 しかしながら、和牛については前回調査と比較すると「減少」が15ポイント減少し「同程度」が15ポイント増加して46%となっている。これも、和牛の卸売価格の下落による値頃感によるものと考えられる(表7)。

(2) 部位別の販売見通し…和牛のかたロースなどが増加

 部位別の販売見通しについて、「増加」の割合が高かったのは、和牛、国産牛、輸入チルドの「かたロース」と和牛、国産牛の「切り落とし」であった。「かたロース」の割合が高いことは、これからのしゃぶしゃぶやすき焼きなどの鍋物需要による増加を見込んでいると考えられる。また、引き続き「切り落とし」の割合が高いことは、今後も続く消費者の節約志向を反映しているものと考えられる。

 一方、「減少」の割合が最も高かったのは和牛、国産牛、輸入チルドの「ばら」で、「増加」を見込む者はいないが、「減少」と「同程度」が拮抗した結果となっている。

 また、高級部位である「サーロイン」、「ヒレ」について見ると、前回より「減少」する割合が減っており、今後の販売が下期において増加することを期待していることがうかがえる(表8)。

表8 平成22年度下期(10〜3月)の牛肉部位別販売見通し(卸売業者)
(単位:%)
注:( )内は、平成22年2月調査結果

 併せて今後、牛肉の消費が増加する要因を尋ねたところ、「国産牛肉のさらなる価格低下」が7件と最も多く、消費者の節約志向にあわせた販売展開が続くものと見込まれる。

6 今後の輸入は減少の見込み

 輸入牛肉については、外食産業の売上が減少する中、輸入牛肉の需要も減少している一方で、生産量の減少に伴う原産地価格の上昇が見込まれている。

 ドル安によるメリットを享受できる米国産牛肉については、現地の肥育牛価格は22年1月以降前年同月を上回って推移しているものの、最近のドル安により現地価格の値上分は相殺できる水準に達している。しかし、今後、季節的に20カ月齢以下の日本向け輸出条件に合致した牛が減少するため、輸入量の大幅な拡大には寄与しないのが現状である。

 また、豪州においても、現地の肥育牛価格が上昇していることに加えて、米ドルに対して割高感のある豪ドルの為替の影響もあり、先高感が否めないものと見込まれている。

 このことから、今後の輸入量は、前年同期と比較して、冷蔵品は豪州産牛肉の値上がりからわずかな減少が、また、冷凍品は加工用需要が横ばいで推移することから同程度若しくはわずかな減少が見込まれている。

 一方、日米の実務担当者レベルでの米国産牛肉をめぐる技術的会合が去る9月に開催された。これは平成19年8月以来、約3年ぶりに日米交渉が再開されたことになる。交渉の焦点は、現在「20カ月齢以下」としている月齢要件であるが、仮に「30カ月齢以下」といった緩和が実現すれば、北米からの輸入量に大きな影響を与えることから、今後の動向が注目されるところである。

7 おわりに

 牛肉生産量は、独立行政法人家畜改良センターが公表している個体識別データによる出生頭数に基づき、22年度下期にと畜適齢期を迎える肉牛を推計すると、去勢和牛は前年同期からやや増加するものと見込まれる。

 しかしながら、22年4月20日に宮崎県内の牛飼養農場において確認された口蹄疫は、発生から292例を数えるまでに拡大した。宮崎県における牛の処分頭数は、68,266頭に上ったものの、宮崎県のみならず全国の畜産関係者の尽力もあって幸いにも県外への拡大は防がれ、4カ月後の8月27日に終息宣言が行われた。

 口蹄疫による消費への影響は、関係者による適時的確な情報提供などからほとんど見られていない。しかしながら、今後の肉用牛生産については、わずかではあると見込まれるものの、その影響は避けられないものと考えられる。

 一方、下期の販売意向調査では量販店において、枝肉価格の低迷から和牛を中心に販売拡大に力を入れていく結果が得られた。このため、消費者にとっても安全・安心で高品質な国産の牛肉を安く購入できる機会がますます増えていくものと考えられる。

 今後の冬場にかけての鍋物需要の盛り上がりに期待したいものである。


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