2009年における日本からの農林水産物・食品輸出額は、伸び悩み傾向にある中、畜産物(食肉及び牛乳乳製品など)は唯一増加した。輸出合計金額は351億円と、農林水産物全体では農産物輸出額の約8パーセントを占め、前年に比べて2.7%の増加となっており、畜産物が輸出促進のけん引役を果たしていることが分かった。
我が国農林水産物・食品の総合的な輸出戦略
近年、世界的な日本食の広がりやアジア諸国等における経済発展に伴う富裕層の増加等により、高品質な我が国の農林水産物・食品(以下「農林水産物等」という。)の輸出は拡大傾向で推移してきた。農林水産省によると、2004年には、農林水産物等の輸出額(アルコール飲料、たばこ及び真珠を除く)は2,954億円であったところ、2007年の輸出額(同)は4,337億円に増加しており、3年間で約1.5倍になっている。しかしながら、2008年は、年初来の水産物の輸出の減少に加え、秋以降は、世界的な景気後退や円高の進行等の影響により、輸出をめぐる環境は相当厳しいものとなっており、輸出の本格的な拡大には世界経済の回復が必要な状況である。
我が国にとって農林水産物等の輸出は、国内生産力の強化を通じて食料安全保障に資するとともに、各種地域振興施策とも相まって、地域経済の活性化にもつながっていくものと期待される。また併せて、農林水産物等の輸出は、日本と諸外国との経済的な結びつきを強化するとともに、日本食文化の海外への情報発信を合わせて行うことにより、世界各国の人々に日本に対する親しみと理解を深めてもらうことにも結びついていくものである。このため、厳しい輸出環境の中でも、引き続き、我が国農林水産物等の海外販路を維持し、充実を図るべく努力する必要がある。特に畜産物については2010年4月20日に、宮崎県において口蹄疫の疑似患畜の1例目が確認されOIE(国際獣疫事務局)の非清浄国に分類されたことから牛肉などの偶蹄類の動物の肉などは輸出停止となった。今後は10月の清浄国への復帰申請へ向けて、さらに、来年2月のOIE科学委員会で国際的に清浄国の認定を受けることへの取り組みが中心となり、輸出再開へ向けた各国との2国間協議が開始されることになる。
表1 我が国の農林水産物・食品輸出額の推移 |
(単位:億円) |
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資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成。
注:1)農産物はたばこ、アルコール飲料を、水産物は真珠をそれぞれ除いた額である。
2)農産物、水産物にはそれぞれ加工品を含む。
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今般、財務省貿易統計により2010年3月までの輸出データをもとに、昨年に引き続き、過去10年間の主要な畜産物の輸出状況を同統計から概観したい。なお、文中のグラフのデータは財務省「貿易統計」からであり、文末に表2として今回使用した統計番号等を示した。
また、農林水産省の取りまとめた我が国の農林水産物・食品輸出額の推移は、表1のようになっている。この中の農産物に畜産物は含まれ、2009年の食肉及び牛乳乳製品などの輸出合計金額は351億円となっており、農産物輸出額の約8パーセントを占めており、農林水産物全体では伸び悩み傾向の中、前年に比べて2.7%の増加となっている。
1 牛肉
2000年3月に口蹄疫、2001年9月にBSEが発生し、多くの国が日本からの牛肉輸入を中止したが、その後、口蹄疫は清浄化され、BSEについても状況が改善されたことから、2005年末に米国が輸入を再開し、香港も2007年5月に輸入が解禁された。また、2008年1月にマカオ、2009年5月にシンガポールが日本産牛肉の輸入解禁をした。現在は、我が国で2010年4月に口蹄疫が発生したことから輸出可能な国及び地域はマカオと香港の2地域のみである。
(1)冷蔵牛肉【0201.30-000】
輸出量は近年増加傾向で推移している。輸出量別の輸出先国では香港(50%)、米国(35%)、シンガポール(12%)と上位3国でおよそ9割を占める。輸出金額で輸出量を割った単価あたりでは、アラブ首長国連邦やバーレーンが上位を占める(図1、2)。
図1 冷蔵牛肉の輸出 |
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図2 冷蔵牛肉の輸出先(2009年度)(単位:トン) |
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(2)冷凍牛肉【0202.30-000】
2009年度の輸出量は大きく伸び、前年度のおよそ3割増加し、冷蔵牛肉以上の数量となった。輸出先国では、ベトナム・香港・マレーシアなど東南アジア向けの輸出が大部分を占め、特にベトナムにおいては、およそ9割強となっている。海外の富裕層を対象とした動きのものと考える。
図3 冷凍牛肉の輸出 |
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図4 冷凍牛肉の輸出先(2009年度)(単位:トン) |
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2 豚肉
冷蔵豚肉の輸出はほとんどなく、輸出の中心は調整品である。2009年度の冷凍豚肉の輸出数量は前年度に比較して大きく下回った。いずれも香港が主要輸出先となっている。
(1)冷凍豚肉【0203.29-000】
2005年度以降回復基調であり、2008年度はピークとなったが、2009年度は前年の3割程度まで落ち込んでいる。これまで輸出先の中心は香港となっていたが、ベトナム向けにも多く輸出されるようになった(図5、6)。
図5 冷凍豚肉の輸出 |
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図6 冷凍豚肉の輸出先(2009 年度)(単位:トン) |
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(2)豚肉調製品【1602.49-000】
近年は300トン台で推移しているが、過去10年間で見ると減少傾向で推移している。2009年度の主な輸出先は香港とベトナムである(図7)。
図7 豚肉調製品の輸出 |
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3 鶏肉
食肉の中で最も大量に輸出されている。
(1)冷凍鶏肉【0207.14-000】
2004年1月に国内で鳥インフルエンザが発生したことから、2004年度に輸出量は大きく減少した。その後、回復に向かい、2009年度にはおよそ1万トンの水準となった。輸出先はベトナムと香港でおよそ9割を占める(図8、9)。
図8 冷凍鶏肉(分割)の輸出 |
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図9 冷凍鶏肉の輸出先(2009年度)(単位:トン) |
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(2)鶏肉調製品【1602.32-000】
2003年度に400トンを超える輸出がなされたが、そのうちの約280トンが鳥インフルエンザを理由とするタイ向けのシップバックであった。2009年度には280トンを超える輸出がなされた。これまで輸出のおよそ9割が香港向けであった(図10、11)。
※シップバックとは、輸出された貨物が相手国に受け入れられずに返送されること。
図10 鶏肉調製品の輸出 |
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図11 鶏肉調製品の輸出先(2009年度)(単位:トン) |
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4 鶏卵【0407.00-000】
鶏卵(殻付き)の輸出は2003年以降順調に伸び、2009年度に前年のおよそ7割増加したが、輸出先は全て香港であった(図12)。
図12 卵(殻付き)の輸出 |
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5 牛乳・乳製品
過去10年間、総じて順調な輸出の伸びを示している。
(1)牛乳【0401.20-000】
この10年間で輸出量が10倍以上に増加した。特に2009年度の伸びは大きく、前年度の2倍近くになった。中国の粉ミルクをきっかけに、食の安全性に対する関心の高さが日本からの輸出の追い風になったと考えられる。輸出先は香港が9割強となっている(図13、14)。
図13 牛乳の輸出 |
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図14 牛乳の輸出先(2009年度)(単位:トン) |
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(2)プロセスチーズ【0406.30-000】
2002年度以降、順調に輸出量を拡大していたが、2008年度以降減少傾向にある。2007年から2008年前半にかけた乳製品の国際価格の高騰などが依然として回復していないものと考えられる。輸出先は台湾、香港で全体の7割強を占めている(図15、16)。
図15 プロセスチーズの輸出 |
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図16 プロセスチーズの輸出先(2009年度)(単位:トン) |
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(3)アイスクリーム【2105.00-000】
2004年度を底に、輸出量が回復していたが、2009年度には減少に転じた。輸出量のおよそ6割を台湾とシンガポール向けが占めている(図17、18)。
図17 アイスクリームの輸出 |
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図18 アイスクリームの輸出(2009年度)(単位:トン) |
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表2 主要な畜産物の輸出状況(2009年度) |
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資料:財務省貿易統計から作成
黄色部分を対象とした。 |
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