バター、クリームを中心とする旺盛な域内需要が背景に
ZMBが公表した統計資料によれば、2010年6月のEU27における生乳生産量は前年比1.8%増となり5月からの増産基調が継続した結果となった(図9)。これは、バター、クリームを中心とする旺盛な域内需要が生産を促す形となったものと考えられる。
図9 EU27における月別生乳供給量の推移 |
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資料:ZMB
注:各月の日数を365/12に補正。 |
表4は、2010年1月から5月までの乳製品の生産量を示したものである。このうち、バターについては、2010年春に顕在化したひっ迫に伴い、政府が保有していた介入買入在庫の放出が同年6月から実施されるとともに、バターの増産が行われているところであるが、2010年第1四半期における生産が低調であったこともあり、2010年5月までの累計値では、前年同期比で6.5%減という状況にある。2009年3月以降バターおよび脱脂粉乳の介入買い入れが実施され、域内市場価格が回復し、安定した価格での販売が期待できるバター、脱脂粉乳の生産志向が高まったということも考慮にいれる必要はあるが、依然としてバターの供給量は需要量に追い付いていないと考えられる。
生乳価格は1年6カ月ぶりに100キログラム当たり30ユーロの水準を突破
このような中、生乳価格についても堅調に推移しており、オランダの生産者団体であるLTOが公表した域内主要16社の生乳価格の平均値は2010年6月時点で100キログラム当たり30.23ユーロ(約3,416円:1ユーロ=113円)となった(図10)。この値は、酪農危機の真っただ中であった前年同月の値を22%上回るものであり、同30ユーロを上回ったのは2008年12月以来実に18カ月ぶりのこととである。現時点においては、当地の農業専門誌上においても「酪農危機 (Dairy crisis)」という用語を目にすることはなく、生産者団体による道路封鎖などの実力行使もまったく行われていない状況にあり、現在は2009年に顕在化した「酪農危機」から脱却し新たな局面に入ったと考えられる。
図10 EUにおける生乳価格の推移 |
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資料:LTO
注:主要16乳業の単純平均値。 |
表4 EU における乳製品生産量の推移 |
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資料:ZMB |
脱脂粉乳の市場は軟調で推移
バターの卸売価格は、2010年6月より介入買入在庫の放出が行われたことに伴い上昇が鈍化しているものの、前述のとおり依然として需要量に供給量が追い付いていない状況にあり、2010年7月時点においても上昇基調で推移している(図11)。
図11 バターおよび脱脂粉乳の介入買入単価と
域内価格の推移 |
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資料:ZMB
注:バターはオランダのブランドバター、脱脂粉乳ドイツの
飼料グレードの卸売価格をそれぞれ指標とした。 |
一方、脱脂粉乳の卸売価格については、国際市場における脱脂粉乳需要が落ち着き、国際価格が軟調傾向で推移していることを受け、同様の動きを示している。これまで実施された介入買入在庫放出のための合計4回の入札において脱脂粉乳はいずれも全量不落となっているが、合計19万トンを超える介入買入在庫が将来の放出に備えていることに加え、乳製品市場が低調となる夏のバカンス時期に突入したことから、この軟調傾向は当面継続すると予想される。
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