★ 農林水産省から


新たな「酪農及び肉用牛生産の
近代化を図るための基本方針」について

農林水産省 生産局畜産部畜産企画課企画班
上山勝行

1 はじめに

 本年7月、新たな「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(以下、「酪肉近代化基本方針」という。)が策定・公表されたところです。

 酪肉近代化基本方針は、「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」に基づき、農林水産大臣が定めるものであり、酪農及び肉用牛生産等の今後の目指すべき方向性を示すものです。以下に、その概要を御紹介します。

2 新たな酪肉近代化基本方針の概要

第1 酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本的な指針

 我が国の酪農及び肉用牛生産は、牛肉や牛乳・乳製品という形で、日常の食生活を豊かにするおいしさを与えてくれるとともに、たんぱく質等の様々な栄養素の供給、また、地域の活性化や国土の保全等の多面的機能の発現、更には「土・草・牛」を通じた資源循環等といった重要な役割・機能を果たしています。

 こうした中、消費者のライフスタイルの変化や健康志向の高まり等といった状況を反映して、国民の畜産物に対するニーズが多様化しており、安全の確保といった面での期待も高まっています。その一方で、
(1)世界的に穀物需給がひっ迫基調で推移することが見込まれる中、我が国の酪農及び肉用牛生産は輸入飼料に依存していること
(2)景気の低迷等を背景として、畜産物の需要や価格が低迷していること
(3)今般、国内で大きな被害をもたらした口蹄疫等の悪性伝染病が、今後ともいつどこで発生するのか分からないこと
等といった問題が、国内外のリスク要因として存在しています(参考1)。

参考1

 このため、「第1 酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本的な指針」においては、
(1)小規模な家族経営をはじめ、意欲あるすべての生産者が将来にわたって経営を継続し、その発展に取り組むことができる環境を整備する観点から、畜産・酪農所得補償制度のあり方や導入時期の検討を行うこと
(2)規模拡大による効率化のみを追求するのではなく、加工・販売といった6次産業化への取組を含め、地域の特性等それぞれの置かれた環境を踏まえた多様な取組を行い、経営体質を強化すること
(3)今般の口蹄疫の発生を踏まえて、家畜衛生対策の充実・強化を図ること
(4)水田を有効活用した飼料用稲の生産拡大や、国産粗飼料の広域流通拠点の整備を図ること等を通じて、自給飼料の生産や利用を拡大すること
(5)畜産物に係る安全と信頼の確保や、多様化するニーズを捉えた消費拡大を図ること、また、畜産や畜産物に対する国民の理解を確保すること
等について盛り込んだところです(参考2)。

参考2

第2 生乳及び牛肉の需要の長期見通しに即した生乳の地域別の需要の長期見通し、生乳の地域別の生産数量の目標、牛肉の生産数量の目標並びに乳牛及び肉用牛の地域別の飼養頭数の目標

(1)生乳の地域別の需要の見通し(参考3)

参考3

 飲用向け需要量は、地域ごとの人口予測や他飲料との競合を見込んで設定しています。また、乳製品向け需要量は、国産ナチュラルチーズ等への需要拡大を考慮して、増加傾向で推移すると見込んで設定しています。
(2)生乳の地域別の生産数量の目標(参考3)

 近年の酪農経営の動向、自給飼料基盤の地域差、乳牛の能力向上等を考慮して設定しています。
(3)牛肉の生産数量の目標(参考4)

参考4

 牛肉の需要はわずかに減少すると見込まれますが、消費者の多様なニーズに対応した特色ある牛肉生産を推進するなどにより、可能な限り国産牛肉の生産を維持していくとの考えの下に設定しています。
(4)乳牛及び肉用牛の地域別の飼養頭数の目標(参考4)

  乳牛及び肉用牛の地域別の飼養頭数の目標については、酪農及び肉用牛経営の地域的動向、自給飼料基盤の地域差、生産性の向上等を考慮して設定しています。

第3 近代的な酪農経営及び肉用牛経営の基本的指標

 小規模な家族経営を含めた、意欲あるすべての経営が、主体性と創意工夫を発揮し、経営を発展させるよう促していくため、「第1 酪農及び肉用牛生産の近代化に関する基本的な指針」の方向性の下で、一定の立地条件の下での多様な酪農及び肉用牛経営の展開に資するよう、飼養形態や飼料生産体系等に係る様々な具体的取組を、酪農、肉用牛繁殖、肉用牛肥育経営ごとに、経営指標として例示的に設定しています。具体的には、規模拡大による経営の効率化のみだけではなく、家畜改良や飼養管理技術の向上を通じた生産性の向上を踏まえつつ、6次産業化による付加価値向上、地域の飼料資源を含めた国産飼料の積極的な活用、ヘルパー、コントラクター、TMRセンター等の支援組織の活用を通じた作業の外部化による省力化等の取組を織り込んで、設定しています(参考5)。

参考5

第4 集乳及び乳業の合理化並びに肉用牛及び牛肉の流通の合理化に関する基本的な事項

(1)集送乳及び乳業の合理化に関する基本的な事項(参考6)

① 更なる農業協同組合連合会や単位農協等の再編整備等により、集送乳業務の指定生乳生産者団体への集約・一元化を進めるなど、指定生乳生産者団体の一層の機能強化を図ること等を通じて、集送乳の更なる合理化を推進すること

② 酪農経営の創意工夫を活かした多様な生産形態に対応した流通体制の構築に配慮しつつ、稼働率の低い乳業工場の廃止・再編統合等を計画的に進めることにより、乳業の合理化を図ること

 等について盛り込んでいます。

(2)肉用牛及び牛肉の流通の合理化に関する基本的な事項(参考6)

参考6

 ① 肉用牛の公正な取引と適正な価格形成を確保するとともに、地域の肉用牛生産を支援する拠点施設としての家畜市場について、引き続き小規模な家畜市場の再編整備を図り、肉用牛流通の合理化を推進すること

 ② と畜解体から部分肉加工処理まで一貫かつ大規模に行う産地食肉センターについて、引き続き再編整備を継続し、牛肉の流通の合理化を図ること

 等について盛り込んでいます。

3 おわりに

 酪肉近代化基本方針は、生産者、消費者、マスコミ、学識経験者、流通関係者等から成る食料・農業・農村政策審議会畜産部会において、1年以上にわたる審議をいただきながら、まさに関係者の総意として作成されたものです。

 今後、酪肉近代化基本方針においてお示した、我が国の酪農及び肉用牛生産等の目指すべき方向性を、より地域の実情に即した具体的な内容とするために、都道府県、市町村、生産者、消費者、関連事業者及び関係団体等が適切な役割分担の下で、必要となる取組を一体となって推進することが何よりも大切であると考えています。

 最後に、ここに御紹介しました酪肉近代化基本方針の本文や食料・農業・農村政策審議会畜産部会における資料等は、農林水産省生産局畜産部のホームページに掲載しておりますので、ぜひ御覧下さい。 (http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/l_hosin/index.html


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