海外トピックス


インドネシア牛肉自給率向上の取り組みと同国の牛肉輸入に与える影響


1.牛肉供給をめぐる概況

 インドネシアは人口2億4千万人と世界で4番目の人口大国であり、人口増加、経済発展に伴い食肉に対する需要が増加すると見込まれている。

 中でも牛肉については、国内生産を増加させて対応するため、インドネシア政府は2010年から2014年の5カ年を期間とする自給率向上プログラムに取り組んでいるところである。

 一方、豚肉については、イスラム教徒が多数を占める国であることから、需要が限られているおり、鶏肉については飼料を輸入に依存している状況にある。

 このため、食肉の生産を拡大するにあたって、農業副産物の利用や草地、パーム林や水田を利用した放牧など、輸入飼料に頼らず国内資源を活用した肉牛の生産拡大が期待されているところである(同国の飼料協会によれば、輸入飼料のうち、肉牛、酪農に向けられる配合飼料の割合は1%に満たず、牛のほとんどが国内資源を利用した飼養であると推察される)。

 同国の牛肉供給は、

 ①国内での繁殖-肥育(廃用役畜含む)によるもの

 ②海外より生体牛を輸入して、国内フィードロットにおいて肥育したもの

 ③輸入牛肉そのもの

 によって賄われてきた。特に②の肥育素牛を輸入し、国内で肥育する方法は、繁殖農家が零細で、子牛の安定供給や大幅な供給の増加が見込めないこと、消費者はスーパーでなく、地元小売市場(ウェットマーケット)でと畜直後の牛肉を購入することが多いこと、牛肉そのものの輸入に比べ、国内産業への経済効果が見込まれること、海外でと畜される牛肉に比べ消費者の信頼感が高いことなどから、近年増加傾向で推移した。

表1 インドネシア肉牛に関する需給データ
単位:千頭、千トン
資料:インドネシア農業省「自給率向上プログラムに関する資料」、「畜産統計」他
注:水牛は除外されている
  :2010年以降は目標ベース

2.牛肉消費

 牛肉消費量は表2のとおりである。消費量は年々増加しており、今後も人口の増加や1人当たり消費量の増加、観光客や駐在員需要により、全体の消費量が増加することが予想される。

表2 インドネシアの牛肉消費量
単位:千人、千トン、kg/ 1人年
資料:人口はFAO推計、牛肉消費量はインドネシア農業省「畜産統計」
注:牛肉消費量は減耗後の数字

 また、1年のうち、牛肉消費はラマダン(断食を行う月)明けの祭り(イド・アル=フィトル。今年は9月10日予定。ヒジュラ暦と呼ばれる太陰暦の一種が採用されているため、毎年10日前後早まる。)においてピークを迎えるとされるが、日常生活においても、バソ(Bakso)とよばれる肉団子をはじめとする消費も盛んで、牛肉に対する消費者の消費意欲は高い。

肉団子スープ露店。インドネシア語では、Bakso
と表記し、スープの具として食されることが多い。

3.生体牛および牛肉輸入と関連する制度の問題

 インドネシアの牛肉および生体牛輸入は、基本的にBSEおよび口蹄疫清浄国からの輸入に制限されており、豪州からの輸入が太宗を占めている。ブラジルの一部州からの牛肉輸入は制度上認められているが、実績はまだない。

 FAOの統計では牛肉の自給率については9割程度となっているが、輸入生体牛由来の牛肉も含んでおり、これを除いた自給率は6割程度である。

 生体牛については近年、豪州からの輸入が増加しており、2005年は26万頭であったものが、2008年には57万頭、2009年には2008年輸入実績を超える頭数が輸入されたとみられている。

 生体牛の輸出については、インドネシア政府(農業省)からの許可が必要とされている。なお輸入許可証の発行には、1頭当たりの生体重が350キログラム以下であること、輸入後60日以上飼育されなければならないとの条件が付されている。

 業界関係筋によれば、昨年までは輸入許可証については、申請ベースで発行され、特段の制限はなかったとされているが、今年に入り自給率向上プログラムに基づき総枠が定められたことおよび国内の需給事情を勘案するようになったことから発行が制限されているもようである。

 また、今年7月時点で、自給率向上プログラムで定められた生体牛26万頭分はすべて、輸入牛肉枠74千トンについても56千トンが既に輸入されたということであり、今後の需要期であるラマダン明けの大祭に向けての供給が、どのように措置されるのか注目する必要がある。

 同時に、従前はかならずしも厳密でなかった350キログラムの体重制限や60日間の肥育義務についても今年に入って厳しい検査が行われるようになったと言われている。

 検査の厳格化の背景には、現政権の命題である自給率の向上のほか、国内の生体牛相場の下落も影響しているもようで、現地報道では、輸入された生体牛が肥育されることなくと畜されること(と畜直行牛)が、価格低落の原因とする論調もみられる。

 これらのことからも、今後ともインドネシア政府は業者に対して輸入条件の順守を強く求めることになるとみられる。

4.まとめ

 インドネシアでは、牛肉に対する需要は大きく、今後も増加傾向で推移すると見られるが、これまで牛肉消費の増加に対し、生体牛輸入および短期間の国内の肥育による牛肉供給が一定の役割を果たしてきた。しかし、今年に入り輸入許可証の発行が滞るようになり、今後の見通しが不透明なものとなっている。

 インドネシア政府は、増産や生産者の所得確保に留意する一方、国民生活上関心の高い牛肉について供給と価格の安定を図らなければならない難しい立場に立たされている。

 インドネシアが主要輸入先国としている豪州は日本の主要牛肉輸入先国であることから、豪州国内の牛肉需給を通じた日本への影響についても注視していく必要があると思われる。

 


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