世界の鶏卵生産立地の変動と消費拡大の展望 |
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東海学院大学 学長 杉山道雄 (国際鶏卵協議会経済統計委員) |
畜産を取り巻く畜病情勢は厳しい。BSE、口蹄疫、鳥インフルエンザなど全畜種において病気に国境がない状況になっているからである。農畜産物生産の自給率をとっても一国の計画で果たせるものではなく、国際環境の中で考える必要がある。その意味で『畜産の情報』は国際情報がふんだんに提供されるかけがえのない雑誌である。今回鶏卵を取り上げ、世界的視野から位置づけ、さらに長期的経過の中から鶏卵生産の展望を試みてみよう。ここでドイツ・べチタ大学のハンス・ウイルヘルム・ヴィントフォルスト教授の分析に沿いながら、今までの変動と予測を紹介してみよう。 世界の鶏卵生産立地彼によれば世界の鶏卵生産量は2006年に6111万トンで牛肉の生産量よりやや多く、豚肉や鶏肉より少ない。具体的分析を2005年を見れば、鶏卵生産量は5962万トンでアジアが61%、欧州が17%、北米は9%であった。しかしこの状態は20年前までは欧州、米国など先進国が半分以上を占めていたが2000年を境として先進国から発展途上国への立地移動が起きたといえるのである(拙著:世界のたまご経済―2000年の展望、富民社、1993年)。またヴィントフォルスト氏の見解と分析も『世界畜産立地変動論―2015年の展望、筑波書房、2010』で明らかにしている。 鶏卵生産の立地移動は一国の中でもみられた。1970年代から80年代にかけて日本の鶏卵産地も太平洋ベルト地帯から、東北や南九州などへ南北分化の様相を示したし、米国においても“アメリカの卵かご”と呼ばれた中西部の鶏卵産地は1950〜60年代にアメリカ南部へ立地移動し、鶏卵産地の南進化と呼ばれた。(拙著:アメリカの養鶏経営の展開と垂直的統合、明文書房、1980年刊)。 このような背景から鶏卵生産が先進国から途上国へ移動する変動要因は先進国における生産力や技術力が高いにもかかわらず、別の要因が働いている。それは農業生産を川上とすれば川下の消費者の購買力、消費力が大きい。さらに欧米でのケージ飼育禁止など動物福祉問題や飼料作物のエネルギー作物化などに関わっている。逆に発展途上国では成長する人口、しかも若年人口の増大、それに基づく経済成長と購買する消費力の増大である。 日本の鶏卵生産量は約250万トンで安くて美味な鶏卵先進国であったが、2006年にメキシコの一人当たり消費量340個に追い越された。中国における1980年当時鶏卵生産量は250万トンであったがその後毎年増加し、2005年には2130万トンと日本の9倍となった。インドは羽数において日本を追い越している。 このような新興国の発展により先進国から途上国へとりわけ、アジア諸国が鶏卵生産の中心地となったのである。それでは今後の世界の鶏卵生産はどのようになるであろうか。 世界の鶏卵消費の発展ヴィントフォルスト氏は川上といわれる農業の生産技術や生産力よりもむしろ川下である消費力に注目している。鶏卵消費量は人口増加、ことに若年人口(若年人口による経済発展もある)と鶏卵を購入可能な経済水準を要因としてとり上げている。 彼によれば世界の2005年から2015年迄の人口増加予測は7億8千万人であるがアジアが4.5億人、アフリカが2.2億人に対し、北アメリカが3200万人増加、オセアニアも4百万人増加であるがヨーロッパは4百万人の減少である。 一人年あたり鶏卵消費量も世界平均は9.8kgであるがアジアは10kg、欧州は13.9kg、北米は15.3kgでアジアでの急成長が見られる。そこで人口と一人当たり消費量をみると全体の消費量が算出され、2015年までの10年間に合計1200万トンの増加とした。 したがって2015年の世界の鶏卵生産量は7200万トンとなるという、ことにアジアが鶏卵消費と生産の中心地となるであろう。
むすび彼はアヒル卵やガチョウ卵などを含めた家禽卵全体ではなく鶏の卵を中心に分析している。OECDの分析は家禽卵であったとし、アメリカの食料農業政策研究所(FAPRI)の報告には鶏卵は含まれていない。そのため、精力的にきめ細かく分析した。こうして鶏卵の概念を明確化した上で、川上(農業生産)をけん引とするのではなく、むしろ川下の消費者目線で食卓を眺めながら川上である農業を見ることが大切であることを示している。また川上での先進国でのケージ禁止や穀物のエタノール化などが鶏卵消費量に影響を与えているだろう。
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