調査・報告

平成22年度家畜排せつ物利活用
優良事例調査結果の概要

調査情報部


【要約】

 家畜排せつ物については、その利用推進を図るとともに、バイオマスの利用促進の観点から、高度利用等を推進していくことが重要となっている一方、有機農業の推進に関する施策を総合的に講じていくという観点から、耕種農家における堆肥等の利用促進が求められています。

 このため、平成22年度家畜排せつ物利活用優良事例調査委託事業では、全国に紹介するにふさわしい5事例を選び、調査を実施したところです。

 ここに紹介する事例では、柔軟な発想を持ち、創意工夫に満ちた取り組みがなされていることから、農畜産業関係者が経営を進める上での参考になるものと考えています。

 また、調査報告の全文につきましては、機構ホームページ(http://www.alic.go.jp)で掲載しております。

 事例紹介、現地確認等にご協力いただきました各都道府県ならびに関係団体の皆さまには御礼申し上げます。

〔調査事例先〕

 1.豊里町有機肥料(とよさとちょうゆうきひりょう)センター(宮城県登米市豊里町)

 2.上郷堆肥組合(かみごうたいひくみあい)(茨城県久慈郡大子町)

 3.荒砥北部粗飼料生産機械化組合(あらとほくぶそしりょうせいさんきかいかくみあい)
(群馬県前橋市泉沢町)

 4.有限会社神農素(しんのうそ)(長野県中野市若宮)

 5.株式会社東部(とうぶ)コントラクター(鳥取県若葉台南)

〔調査委員〕

   猪股 敏郎(いのまた としろう)氏 財団法人日本土壌協会 専務理事

   亀岡 俊則(かめおか としのり)氏 特定非営利活動法人 バイオガスシステム研究会 理事長

   須藤 純一(すどう じゅんいち)氏 酪農学園大学 特任教授

   寳示戸雅之(ほうじとまさゆき)氏 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構

 畜産草地研究所 草地多面的機能研究チーム長

〜 耕畜連携の拠点施設と位置付けた
「豊里町有機肥料センター」の取組み 〜

☆調査先のプロフィール

・名称:豊里町有機肥料(とよさとちょうゆうきひりょう)センター

・代表者氏名:センター所長 千葉修

・所在地:宮城県登米市豊里町外三番江28

・組織形態:法人組合

・構成員数:39戸
(酪農16戸・肉用牛繁殖8戸、肉用牛肥育13戸、養豚2戸)

 ※組合員の飼養頭数 1,096頭(平成21年度)

・ふん尿処理:4,278トン/年(平成21年度)
(調査日 平成22年11月11日〜12日)

□調査のポイント

・転作の団地化と固定化による営農の効率化と有機質の供給拠点としての有機肥料センター。

・良質堆肥を生産するためのルール作りと運用の徹底。

○亀岡委員の着目

→ 耕畜連携を核とした大規模転作団地の固定化による安定的営農体系の確立。

 宮城県登米市豊里地区は、登米市の最南端に位置し、豊かな水資源と肥沃な土壌に育まれ地域一帯が平坦な土地で約1,000ヘクタールを有する広大な水田地帯である。畜産も他の地域に対して飼養頭数も多く、古くから堆肥と稲わら交換による耕畜連携が進められていた。

 平成11年に制定された家畜排せつ物法の野積み禁止に伴い数戸の畜産農家による堆肥センター設置の要望が旧豊里町役場に申請されたのがきっかけとなって現在の有機肥料センターが設置された。有機肥料センター設置の条件として堆肥の利活用を進めることを第一条件とし、その目標として堆肥処理のルールを定め品質が均一な良質堆肥を生産し、有機肥料センターを核として水田転作の団地化を進め、同時に団地を固定化して営農の効率化を図り生産性を高めるなどの取組みを条件とされた。この仕組みづくりには行政と農協の指導のもと畜産農家と耕種農家の連携強化を進め、「有機なる大地」として現在の大規模で耕畜連携を実践されている先進的な事例である。

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【有機肥料センター利用組合の佐々木会長(向かって左)とセンターの堆肥を利用し、玄米の部においてH21農林水産大臣賞を受賞された佐藤氏】

〜 中山間地で有機質供給と自給飼料増産を見指し、
地域活性化を図った取組み 〜

☆調査先のプロフィール

・名称 上郷堆肥組合(かみごうたいひくみあい)

・代表者氏名:代表 戸辺久夫

・所在地:茨城県久慈郡大子町上郷405

・組織形態:任意組織

・構成員数:3戸で開始。

・堆肥生産:200トン(平成21年度)
(調査日 平成22年11月24日〜25日)

□調査のポイント

・厳しい土地条件のもと地力増進に向け、耕種農家の要望から始まった堆肥づくり。

・林野率8割を超す中山間地で土地を集積し、自給飼料増産を目指す。

○寳示戸委員の着目

→ 安定したモミガラ堆肥生産と耕畜ネットワーク。

 上郷堆肥組合(戸辺牧場)の堆肥はモミガラと固液分離した乳牛ふん尿を原料に、適切な水分調整と撹拌という基礎的な技術をしっかり守ることによって安定生産を達成している。微生物資材の投入をきっかけとした「丁寧な管理」の成果である。固液分離した牛ふん、モミガラ、ふすまを混合し、半月に1回程度、1.5km離れた堆肥舎へダンプで運搬している。

 撹拌頻度は1日に1回、2〜3ヵ月で安定堆肥を完成させている。これをさらに貯留ヤードで切返しを続け(2回/月)、1〜2ヵ月で最終製品とする。一部はふるったのち袋詰めも行う。いずれの過程においても丁寧な作業が行われているのが一つの特徴である。

 戸辺氏のネットワークは母校(大子第一高校)の同窓生で構成する「若葉会」が基本である。この酪農部会を立ち上げ、りんご農家(例えば岡田りんご園)やナシ農家等との関係を強化し、中でもりんご農家からの要請である「紋羽病対策を兼ねたオガクズを使わない堆肥」に着目した。

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【代表の戸辺さん一家】

〜 飼料イネ栽培を軸とした耕畜連携の取組み 〜

☆調査先のプロフィール

・名称:荒砥北部粗飼料生産機械化組合(あらとほくぶそしりょうせいさんきかいかくみあい)

・代表者氏名:組合長 山田高則

・所在地:群馬県前橋市泉沢町559

・組織形態:任意組織

・構成員数:3戸
(酪農家1戸、耕種農家2戸)

・堆肥施肥:800トン/年(平成22年度見込み)
(調査日 平成22年12月14日〜15日)

【代表の耕種農家の山田氏(向かって右)と酪農家の須藤(すとう)氏】

□調査のポイント

・飼料イネおよび麦発酵粗飼料の地産地消を目指す地域型コントラクターの取組み。

・発酵飼料調整の技術改善を重ね実証することで、仲間を増やし耕畜連携の取り組みを拡大。

○須藤委員の着目

→ 堆肥活用による耕畜連携の定着と飼料イネ、飼料ムギWCSを活用、新たな堆肥化方式を探求。

 前橋市は、赤城山南麓と関東平野の接点にある群馬県を代表する畜産の盛んな地帯である。特に荒砥地域の水田は二毛作が盛んであり、野菜作の枝豆やブロッコリー、ホウレンソウの産地でもある。一方、赤城山山麓周辺を中心に酪農や養豚などの畜産経営が多く展開している。しかし、従来から耕畜連携は不十分であり、むしろ皆無に近かった。

 このような状況下で同級生でもある農業後継者の山田氏(耕種経営)と須藤氏(酪農経営)が、堆肥の利用を契機に試行錯誤を繰り返しながらその効果を認め、地域における堆肥活用による耕畜連携を目指した取り組みである。

 地域では耕種農家は水田や野菜作の連作で有機質肥料を求めていた。しかし、堆肥運搬や散布作業などの機械利用面での壁があった。こうした中で水田転作地への飼料イネ栽培の機運が起き、堆肥活用へ進展したもので機械利用組合の設立によって可能になったものである。

 現在では、地域の畜産農家が集落営農組織の遊休水田に堆肥を散布し、コントラクターが飼料イネと飼料ムギの収穫調製後に酪農家へ発酵イネWCSとして供給するというシステムが定着してきていることが評価できる。

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〜 異業種との連携によりエコフィードを利用した
養豚経営と地域の特産品にマッチした堆肥づくり 〜

☆調査先のプロフィール

・名称:有限会社神農素(しんのうそ)

・代表者氏名:代表取締役 丸山隆英

・所在地:長野県中野市若宮564番地3

・組織形態:有限会社

・主な事業:養豚経営
(母豚65頭、種豚5頭、肥育豚1,100頭)、飼料製造(豚用発酵飼料5トン/日)、肥料製造および販売

・堆肥生産 500トン/年

・HP http://www.nakazawa-co.com/goods2.html
(調査日 平成22年12月9日〜10日)

【代表取締役の丸山氏】

□調査のポイント

・食品規格外品の循環利用を核とした養豚経営。

・地域の特産物である果樹の特性に合った堆肥づくり。

○猪股委員の着目

→ 地元農家のニーズに沿った堆肥生産とその施用効果の調査を実施。

 有限会社神農素は元々建設業を行っていた企業が養豚業に参入するに当たって立ち上げたもので、大変厳しい経営環境の中で現在、展望の開ける経営を行っており、現在、生産されたた堆肥は順調に販売できている。

 それが可能となった要因としては、①食品廃棄物を飼料として活用し、養豚経営で最も大きな生産コストを占める飼料代を節減できたこと、②飼料化に当たっては酵母菌を活用し発酵飼料とし、嗜好性、消化効率を上げ品質の良い豚肉生産や悪臭軽減などが実現できたこと等とともに、異業種からなる「信州eループ事業協同組合」による食品規格外品の安定確保や堆肥施用効果調査等の支援を得つつ事業を進めることができたことが挙げられる。

 特に評価できる点としては、①地元果樹農家の求める腐熟度が良く、低成分の堆肥が生産できたこと、②果樹の指導的農家に堆肥を試験的に利用していただき、その良さを認識もらうとともに、施用効果の調査を実施しデータ整備していることである。

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〜 水田地帯で資源循環型肉牛生産のシステム化を
実現した(株)東部コントラクター 〜

☆調査先のプロフィール

・名称:株式会社東部(とうぶ)コントラクター

・代表者氏名:社長 鎌谷一也(組合長兼務)

・所在地:鳥取県鳥取市若葉台南7丁目108−12

・組織形態:農業生産法人
(鳥取県畜産農業協同組合出資法人)

・主な事業:イネ発酵粗飼料栽培の作業請負

・HP http://www.torichiku.or.jp/
(鳥取県畜産農業協同組合)
(調査日 平成22年11月29日〜30日)

【東部コントラクターの皆さん】

□調査のポイント

・堆肥・飼料イネ(WCS)の活用により稲作の安定と酪農経営の維持。

・イネ発酵粗飼料の利用で、コスト削減と安全性の確保。

・耕作放棄地への飼料イネ作付けで耕作放棄の防止。

○須藤委員の着目

→ 堆肥活用による飼料イネ栽培を媒介とした耕畜連携の促進により、遊休地利用と地域環境保全に貢献し、耕畜林連携へと進展。

 平成12年に鳥取県畜産農業協同組合は、畜産の振興方向の一つとして循環型畜産生産を目標として定めた。その背景として輸入飼料依存に伴う各種の伝染病(口蹄疫など)、海外の気候や為替変動のリスクなど国外における各種の変動に左右されない安定した畜産経営の確立があった。一方、平成13年から転作田への飼料イネ栽培が行われ、地域産飼料として畜産経営に利用され始め地域循環型経営へと展開していた。

 当地域の経営規模はきわめて小さく兼業農家が多いため、小規模経営への作業支援が不可欠になり平成14年より鳥取市内等4地域に任意のコントラクターが組織されていた。平成19年には、委託作業の増加による作業や経理事務の効率化のため、各コントラクターを吸収再編した株式会社東部コントラクターが設立され専任職員を置く体制になり、地域の水田農家と畜産を結ぶ支援組織の体制が形成された。

 耕畜連携に畜産への敷料を供給する林業を加えた耕畜林連携へと進展していることが大きく評価できる。

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