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2009年以降の中国の畜産物需給の現状
〜堅調な価格推移と輸入乳製品に対する旺盛な需要〜

調査情報部調査課 課長代理 平石康久


  

【要約】

経済概況
●人口増加の伸びは鈍化しているが、当分の間、経済成長が続くとみられる。消費者物価上昇率(インフレ率)が低く抑えられている一方、収入は増加していることから、今後とも各種生活資材に対する需要は増加するものとみられる。

豚肉
●2〜5頭飼養の小規模生産者が出荷頭数の3/4を占めている。
●消費量は約5000万トン。輸入量は20万トン程度で主にデンマークやカナダなどから輸入されているが、2008年には44万トンの輸入(この年は5割が米国からの輸入)が行われた。今後しばらくは生産量の増加により需要に対応していくものとみられる。
●都市部と農村部の1人当たりの消費量の差は比較的少ないが、農村部での消費は2007年の価格高騰前の水準まで回復していない。1人当たりの消費量は日本よりも多い。
●豚肉調製品は日本のほかASEAN諸国にも一定の輸出量がある。ただし、全体の輸出量は2008年以降減少している。ソーセージ類はほとんどが日本向け。
●国民生活上特に重要な生活必需品とみなされ、国家備蓄などによる価格管理の対象となっているほか、生産者に対する支援も行われている。

牛肉
●消費量は580万トン。輸入量は2万トンで限定的。輸入先国は南米。
●飼料費をはじめとする生産コストの増加などにより、ほかの食肉に比較して価格は高止まりしており、消費が伸び悩んでいる。長期的にも食文化の違いから消費の伸びはほかの食肉に比較して抑制的であるとみられている。

鶏肉
●豚肉同様、消費が順調に拡大。消費量は1200万トン台で、輸入は米国を中心に40万トン程度。
●米国産鶏肉に対してアンチダンピング税が課されており、輸入量は大幅に減少する見込み。ブラジルやアルゼンチンからの輸入量は米国産を代替するほどではない。国内生産はインテグレーターの発達などにより好調。
●鶏肉調製品は日本向け輸出がほとんど。余剰部位となるむね肉などは国内マーケットで消費できるのが強み。EUへの調製品輸出量が増加する気配が見える。

酪農・乳製品
●生乳生産は3000万トン程度に回復するが、2008年のメラミン事件前の生産量3500万トンには届かない。需要も同程度。
●都市部と農村部の消費量に大きな差がある。今後、農村部に牛乳・乳製品の消費が定着すれば、需要が伸びる余地がある。
●旺盛な需要に対応して乳製品の輸入が急増。ニュージーランドが主な輸入先国(ホエイは米国)。特に全脂粉乳の輸入量は2011年には40万トンに達すると予想されている。これは世界の全脂粉乳の輸出量の1/4を占める量であり、かつ一時的な増加とも考えにくいことから、世界需給に一定の影響を与えることが予想される。

 2009年の国際連合食料農業機関(FAO)統計によると、中国は世界の生産量の内、牛肉で10%、豚肉で47%、鶏肉で14%、牛乳で6%を占める畜産物の大生産国である。

 同国は牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳・乳製品ともほとんどが国内生産により需要が賄われているが、近年は貿易量が増加する傾向にある。

 国民生活上重要な豚肉については、2007〜2008年にかけての飼料などのコストの上昇や豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS、中国名では青耳病)発生により価格が高騰した。その後価格は下落したものの、旺盛な需要を背景に発生前に比べて堅調に推移しており、一般の物価よりも価格が上昇していることから、政府は備蓄在庫の買い入れ・放出を行うなど、需給コントロールに注意を払っている。牛肉、鶏肉の価格も堅調である。

 乳製品については、2008年9月に発生したメラミン事件で大きく落ち込んだ国内産乳製品への需要はいまだ回復途中であり、輸入乳製品に対する需要が旺盛であることから、輸入量が増加するとともに輸入品の価格は上昇している。

 以上のような中国の畜産物需給について、各種統計、米国農務省(USDA)などに基づき、報告を行う。

表1 消費者価格分類指数
(2006年を100とした場合)

資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」より機構作成
 注:2010年の指数は月別指数の1〜11月の単純平均

Ⅰ 経済概況

 近年、人口の増加は鈍化しており、年率0.5%程度にとどまっている。一方で都市部に籍をもつ人口は年々3%近く増加している。一人っ子政策の影響から総人口に占める14歳以下の割合は年々減少している。

 経済面でみると、実質GDPの成長率は9%を上回って推移しており、1人当たりの名目GDPの伸びも大きく、成長は続いている。一方、消費者物価上昇率は政府による物価抑制の努力もあり、2007年に4.8%、2008年に5.9%と上昇したものの比較的低位で推移しており、統計上はインフレの懸念は抑えられている。

 為替レートは徐々にではあるが、元高ドル安にシフトしている。

 2009年の実質GDPの成長率については、過去数ヵ年より伸び率は低いが成長は持続しており、2010年は2009年より好転するとみられている。2011年は国際通貨基金(IMF)によればさらに高くなり、10%を超えることが予測されている。

表2 中国の主要な経済指標
資料:JETRO「中国 基礎的経済指標」(更新日2010年11月22日)、通商弘報(2011年1月5日付)、中国統計年鑑から機構作成
原資料:実質GDP成長率、名目GDP総額、消費者物価上昇率、失業率、輸出入額、対日輸出入額、直接投資受入額:中国国家統 計局 “中国統計年鑑”(2010)
一人当たりのGDP(ドル):IMF“World Economic Outlook Database”
為替レート:IMF “IFS”CD−ROM
2010年予測は中国社会科学院他
図1 中国の省別地図
資料:JIRCAS((独)国際農林水産業研究センター)ホームページ「中国の主要食料の生産と消費データベース」より

Ⅱ 中国の農業・畜産関連主要指標について

 農業総生産額は2000年から2009年の期間でみると、毎年10.3%程度の伸び率で推移している一方、畜産生産額は11.4%と農業の平均を上回って推移している。

 過去のデータでは肉類の生産量は豚肉・牛肉の生産量の伸びは比較的低い一方、牛乳の生産量が大幅に拡大していた。しかし2009年以降のデータでは、豚肉は高い生産量の伸びを示す一方、牛肉の生産量は減少に転じ、牛乳の生産量は2008年に起こったメラミン事件の影響により、2009年は減少した。

 食肉の消費は豚肉が重要な食材であり、ついで鶏をはじめとする家禽肉、牛肉が続いているが、豚肉が消費量の2/3をしめている。

表3 中国の農業・畜産関連主要指標について
資 料:農畜産業振興機構編「中国の酪農と牛乳・乳製品市場」および中国国家統計局ホームページ

原資料 :中国国家統計局「中国統計年鑑」、中国農業部「中国農業統計資料」
 注1:第二次全国農業センサス(2006年12月末現在)の結果に基づき、2006年のデータについて修正が行われたことから、2005年以前と2006年以降の数値は連続しない。
   2:年平均伸び率は2000年〜2009年にかけての伸び率(乳牛飼養頭数は2008年、家禽肉およびその他食肉は2007年まで)

Ⅲ 畜産物の品目別需給動向

1. 豚肉

 中国では従来から農家の副業として2〜5頭程度の豚を飼養し、排せつ物をたい肥として利用してきた。近年は大規模な専業経営の養豚農場も都市近郊を中心に増加しているものの、このような副業経営は、出荷頭数に占める割合が3/4と大きな地位を占めている。

 豚肉の生産量は2007年の飼料価格高騰やPRRS発生時を除いて、ほぼ一貫して増加傾向にある。

 主要生産省は四川省や湖南省といった長江に近い省に大産地があり、それに河南省、山東省が続く構造となっているが、その他の多くの省でも生産が行われている。

表4 2009年省別豚肉生産量
単位:万トン、%
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」

(1)2009年以降の豚肉生産と供給

 2010年は南部生産地での春季の干ばつや全土で起こった夏季の洪水にもかかわらず、前年からの飼養頭数の増加もあり、5000万トンと前年に比較して増加するとみられる。

 2011年の豚肉生産量は前年比2%増の5150万トンと予測されている。

 こうした増産は、経済成長に伴う需要の増加が背景にあるが、生産の伸びを抑える可能性がある要因としては、高い飼料価格や家畜伝染病の発生、2010年に決定された母豚への補助金の廃止が挙げられる。

図2 省別の豚肉生産状況
資料:JIRCAS「中国の主要食料の生産と消費データベース」より
表5 豚肉の需給データ
単位:千頭、千トン、年間kg/人
資料:USDA FAS “Livestock and Products Annual, 2010”
注1:2010年は推計値、2011年は予測値。
  2:枝肉重量ベース。
  3:貿易量にはHSコード02類のほか、16類等の一部品目(ハム・ソーセージ等の豚肉加工品)も含まれる。

(2)豚肉の消費動向と価格

 豚肉の消費量はほかの食肉と比較して都市部と農村部の差が少ないことが特徴である。これは自家消費用の豚を飼育する農家が多いことが原因として考えられる。

 都市部の1人当たり購入数量は年間20キログラム程度で推移しているが、農村部の消費量は2007年の価格高騰時に消費が落ち込んだ後、回復するには至っていない。

 なお、この数字は家計消費のみであり、日本(18.6kg(2008年粗枝肉ベース。以下同じ))よりも多くの豚肉を消費している。

 また、生産される豚肉のうち、2009年のデータでは18.5%が加工向けであり、ほかの食肉に比べ、加工仕向け量が多いことも特徴である。

表6 1人当たり豚肉消費量の推移
(単位:kg/人)
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
注1:都市部は購入数量、農村部は消費数量である。
注2:中国統計年鑑の購入量・消費量は、家計消費のみ計上されており、外食や加工原料としての利用は含まれていない。以下同じ。

 豚肉価格は2006年以前は1キログラム当たり10元〜12元程度で推移していたが、①特に2006年上半期の値下がりにより飼養頭数が減少したこと、②主産地で発生したPRRSの影響で飼養頭数の減少に拍車がかかったこと、③同時期のトウモロコシ価格の高騰や原油高など生産資材のコストが大幅に上昇したことなどの原因から、2007年および2008年に大幅に上昇した。飼養頭数の回復や政府による備蓄在庫の放出などにより、2009年の価格は前の2年に比較して下がったが、依然として高い水準であった。

表7 豚肉価格の推移
(単位:元/kg)
資料:中国農業部「中国農業発展報告」(菜籃子産品卸売価格)
  注:豚後肢肉の卸売価格である。

(3)豚肉の貿易

 豚肉の輸入は2010年に20万トン、2011年に21万トンと増加すると見込まれている(調製品含む)。冷凍豚肉の最大の輸入先国はデンマークである。米国からは2008年に大量の輸入が行われたが、2009年に急減した。このほか豚肉価格が堅調に推移していることから、2010年で70万トン程度のくず肉の輸入が行われている。

表8 豚肉および同調製品貿易
豚肉(生鮮、冷凍)輸入量

単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0203

 輸出は2010年に25万トン、2011年には28万トンに増加すると予測される。

豚肉(生鮮、冷凍)輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0203

 豚肉調製品およびソーセージ類は日本が一番の輸出先国である。日本向け輸出は中国産食品に対する抵抗感がやや弱まるとともに、低価格志向が続いていることから、2010年は若干であるが輸出が上向く傾向がみられる。

豚肉調製品輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード160249
ソーセージ類輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
注:HSコード1601

(4)豚肉に関する政策

 母豚への補助金は、2007年の豚肉価格の高騰に対応したもので、2009年後半に1頭当たり50元(650円。2010年12月末TTSレート1元=13円で計算。以下同じ)から100元(1300円)に増額されたが、2010年前半の供給過剰およびそれに伴う価格低迷を招いたことから2010年に廃止された。

 なお、中国政府は2010年前半の価格下落に対して推定17万トンの在庫買い入れを4月〜7月にかけて3回行ったとみられる。同時期に地方政府による買い入れもあったもようである。ただし、後半(確認できた月は11月)に入って放出も行っている。

 また、中国政府は2010補助金年度(7月〜6月)、適正な在庫水準を確保し、生産規模の拡大を通じた安定供給を行うため、大規模養豚生産者に対して総額3.7億元(48億円)の規模の支援を行うとともに、高品質な繁殖豚の生産のため6.5億元(85億円)の予算を措置した。

 一方、地方政府レベルでも母豚改良のための1頭当たり年間40元(520円)の補助、家畜保険として生産者が12元(156円)拠出した場合、1頭当たり60元(780円)の補助が行われている。

 そのほかにも中国政府はすべての養豚生産者が行う、口蹄疫、PRRSおよび豚コレラワクチン接種費用に対し、全額補助している。

 現在、全国に21,000あると畜場の再編・統合も行われている。

2. 牛肉

 中国の牛肉生産の歴史は新しく、90年代に入り役畜の飼養から本格的な取り組みがはじめられた。しかし、北京、四川、上海、広東料理などの伝統的な中国料理において、食材として牛肉が利用されることはあまりなく、牛肉消費は世界的に見ても低い水準にある。生産農家も零細な経営が多い。

 牛肉の生産は黄河流域の河南省や山東省、その北に位置する河北省の主要産地に続き、北部の内モンゴル自治区、吉林省で盛んである。

(1)2009年以降の牛肉生産と供給

 飼養頭数およびと畜頭数は減少傾向にある。これは牛肉価格が高止まりし比較的安価な豚肉へ消費が流れているうえ、飼料費などの生産コストが増加していることから、肉牛農家の収益が圧迫されているためである。

表9 2009年省別牛肉生産量
単位:万トン、%
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
図3 省別の牛肉生産状況
資料:JIRCASホームページ「中国の主要食料の生産と消費データベース」

 ある報告では中国において肥育期には1日あたり粗飼料(草)4〜6kg、配合飼料2.5〜4kgを消費するとしている。

 このことにより、特に肉牛飼養農家の8割を占める小規模生産者にとっては、飼養期間が長く収益を上げるまで時間がかかるという特質もあり、生産意欲を減退させる結果となっている。

 中国で2番目に大きな生産省である山東省聊城市における事例では、地域のほとんどの肉牛農家が赤字経営となったため、飼育頭数が31万頭から7万頭へ激減し、10ヵ所あったと畜場のうち9ヵ所が閉鎖されたとの報告もある。

 2011年の牛肉生産量も引き続き減少傾向で推移し、前年に比較して2%減の545万トンと予測されている。

 今後の見込みについて、一部では他の食肉と比較して飼料効率が高くない牛肉の生産を中国がどの程度まで自給していけるのか、懸念を持つ声も聞かれる。

表10 牛肉の需給データ
単位:千頭、千トン、年間kg/人

資料:USDA FAS“Livestock and Products Annual, 2010”
注1:2010年は推計値、2011年は予測値。
  2:枝肉重量ベース。
  3:中国統計年鑑の数字とは一致しない
  4:貿易量にはHSコード02類のほか、16類の一部加工品も含まれる。

(2)牛肉消費と価格

表11 1人当たり牛肉消費量の推移
(単位:kg/人)
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
  注:都市部は購入数量、農村部は消費数量である。

 食生活上の習慣もあり、中国では牛肉の消費量は少なく1人当たり年間消費量は2キログラム〜2.5キログラム、全体の消費量も4キログラム程度であり、日本の消費量9.0キログラムに比較しても半分以下しかない。所得水準の高い台湾でも他の食肉に比較して牛肉の消費量は少なく(4.5キログラム程度)、食生活に起因する制約から牛肉の消費の伸びは、他の食肉に比べ緩やかであるとみられている。

 生産される牛肉のうち、加工用途向けは2009年のデータでは、5%と推測されている。

表12 牛肉価格の推移
(単位:元/kg)
資料:中国農業部「中国農業発展報告」(菜籃子産品卸売価格)

 2008年以降も価格は高止まりして推移しているため、2010年も消費量は横ばいもしくは減少する見通しである。なお、価格は不需要期である夏に下がり、需要がピークを迎える1〜2月の旧正月時期を中心に冬季に価格が上昇するサイクルとなっている。

(3)牛肉の貿易

 中国の牛肉輸入量は生産量に比べわずかであるが、毎年増加している。レストランやホテルなどの高品質の牛肉需要に対するものと思われる。

 牛肉の輸出量(調製品等含む)は減少傾向にある。中国産食品の安全性に対する懸念の高まりや、他国産との競争の激化によるものである。

表13 牛肉および同調製品貿易
牛肉(冷凍)輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0202
牛肉調製品輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード160250
牛肉(生鮮・冷凍)輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0201および0202

3. 鶏肉

 中国のブロイラー生産は、1970年代末の農政改革を契機として大きく発展し、豚肉に次ぐ食肉として消費されるとともに、輸出産業としても位置付けられるようになった。海外資本を導入したインテグレーションによる契約生産に基づき、海外の優良品種や生産技術の導入を行った経営も見られる。

 しかし1998年以降生産過剰により価格が低迷したため、国内需要が多く中国人の好みに合う風味や歯ごたえのある在来鶏が導入されている。在来鶏と輸入鶏との交配による品種改良も盛んであり、鶏肉生産の約半分がこの改良種により行われている。

(1)2009年以降の鶏肉生産と供給

 鶏肉(ブロイラー)の生産量は2010年に1260万トン、2011年には1300万トンに増加するとみられる。飼料価格は高止まりしているが、旺盛な需要を反映した堅調な価格により、生産者の増産意欲は高い。2010年2月から実施されている米国産鶏肉に対するアンチダンピング税も増産要因となっている。

 旺盛な需要に対応するため、インテグレーターは契約農家からの仕入れ単位を従来の2000羽から5000羽以上に拡大するとともに、一歩進んで自社農場化するなど生産現場の統合を強めている。

表14 鶏肉(ブロイラー)の需給データ
単位:千頭、千トン、年間kg/人
資料:USDA FAS “Poultry and Products Annual, 2010”
注1:2010年は推計値、2011年は予測値。
  2:鶏の足先(モミジ)は含まない。
  3:中国統計年鑑の数字とは一致しない
  4:貿易量にはHSコード02類のほか、16類の一部加工品も含まれる。

(2)鶏肉消費と価格

 都市部の購入数量は農村部の消費量の2倍以上で推移しているが、日本の消費量15.2キログラムに比較すると少ない。

 2009年のデータでは、生産量のうち15%程度が加工用に仕向けられていると推計されている。

 2007年以降価格は上昇し、2008年には1キログラム当たり13元に達したが、牛肉などに比べると上がり幅も小さく、価格水準も相対的に低いため、需要は増加傾向にある。

表15 1人当たり家きん肉消費量の推移
(単位:kg/人)
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
  注:都市部は購入数量、農村部は消費数量である。
   :鶏以外の家きん肉も含まれる。
表16 鶏肉価格の推移
(単位:元/kg)
資料:中国農業部「中国農業発展報告」(菜籃子産品卸売価格)

(3)鶏肉の貿易

 2010年の輸入量は前年から大幅に減少することが予測されているが、これは米国産鶏肉に対するアンチダンピング課税が大きな要因である。ブラジルやアルゼンチンからの輸入により、一定程度代替されているが、例えばアルゼンチンは中国で好まれる手羽先等部位(mid wings)を十分には供給できないなどにより、米国産の落ち込みをカバーするほどではない。

 2010年の輸出量は前年から増加すると予想される。このうち、調製品は8割以上を日本に輸出される。余剰部位となるむね肉について、EUへ輸出するタイとは異なり、国内市場への販売により消化している。ただし、2010年を見ると、英国やオランダへの輸出が増加している。

表17 鶏肉および同調製品貿易
鶏肉(生鮮、冷凍)輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0207
鶏肉(生鮮、冷凍)輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
注:HSコード0207
鶏肉調製品輸出量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
注:HSコード160232

4. 牛乳・乳製品

 改革開放政策が実施されて以降、中国の酪農・乳業は急速に発展してきた。経済発展に伴う生活水準の向上による都市部を中心とした食生活の西洋化や、政府などによる普及啓発活動もあり、牛乳の消費は拡大している。
 
  一方、乳牛の改良や飼養管理、衛生管理、飼料確保、酪農家の集約化に加え、コールドチェーンほか流通体制の整備など、今後に向けての課題も多い。

 学校給食制度は存在する。しかしその普及率は低く、給食とは切り離されて、たとえば午前10時に提供されるなど、日本とは異なるものである。

 生乳の生産は内モンゴル自治区、黒竜江省など北部の省が大産地であり、ついで北京周辺の河北省、河南省などが続いている。

 中国の乳用牛は、3分の2がホルスタイン種とその交雑牛などで、3分の1程度がシンメンタール種、在来牛である黄牛タイプの三河牛種・草原紅牛種などの純粋種であるといわれる。このうち最も頭数が多いのは、黄牛雌牛とホルスタイン雄牛の交雑種に、さらにホルスタイン雄牛を累進交配して作出された中国黒白花牛(Chinese Black and White)と呼ばれる品種である(中国ではホルスタイン種の血統が87.5%以上のものを中国ホルスタインと呼んでいる)。しかし、乳牛の改良や飼養管理技術などが先進国に比べてまだ遅れている上、乳肉兼用種も飼養されていることなどから、乳牛の生産性はまだ低く、中国の1頭当たり年平均生乳生産量は約3,500〜4,200キログラムとされている。

表18 2009年省別生乳生産量
単位:万トン、%
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
図4 省別の生乳生産状況
資料:JIRCASホームページ「中国の主要食料の生産と消費データベース」

(1)2009年以降の生乳・乳製品生産と供給

 2011年の生乳生産量は前年比5%増の3050万トンになると予想されているが、2008年のメラミン事件前の水準3500万トンまでは回復していない。

 生乳価格はトン当たり3000元前後と堅調のため、生産者は外国産乳牛の導入を増加させる傾向にあり、2010年には前年の2倍に当たる9万頭が輸入されると予想されている。

 一方で2010年に入ってからも散見される乳製品へのメラミン混入のニュースにより、国産乳製品の消費の伸びは抑えられている。そのため、2008年以降の粉乳消費量の増加の多くは輸入乳製品の増加によるものである。

 粉乳生産については、全脂粉乳が2010年に前年比2%増の100万トン、2011年にも同5%増の105万トンに増加することが見込まれている。これは全脂粉乳を利用する製品(ヨーグルト、アイスクリーム、パン、製菓、特定ユーザー向け調製粉乳など)の販売が好調であるためである。

表19 生乳の需給データ
単位:千頭、千トン、年間kg/人
資料:USDA FAS “Dairy and Products Annual, 2010”
注1:2010年は推計値、2011年は予測値。
  2:中国統計年鑑の数字は一致しない。

(2)乳・乳製品の消費と価格

 牛乳類(日本でいう牛乳、成分調整乳、加工乳、乳飲料など。以下「ミルク」という。)の消費は2010年に前年比4%増加し、2011年には同6%増の1310万トンに達するとみられている。脱脂粉乳の消費は2010年に前年比18%増、2011年には同7%増の15万6千トンに達するものとみられる。これは脱脂粉乳の最大仕向け先である育児用調製粉乳製造者からの引き合いが強いためである。

 都市部の購入数量と農村部の消費量は極めて大きな差があり、都市部で一定程度浸透した乳・乳製品の消費はまだ農村部で広く受け入れられていない状態であることが推察される。一方、2006年以降減少している都市部の購入量と比較して、農村部は増加する気配があることから、今後農村部での消費が増加すれば、消費量が大きく増加することが考えられる。

 生乳生産者価格は地域により大きく違っているが、2007年のデータでは1キログラム当たり黒竜江省で1.82元、河南省で2.80元であった。2010年には3元程度の価格になっている。

表20 1人当たり乳・乳製品の消費量の推移
(単位:kg/人)
資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」
  注:都市部の数値は、ミルク・粉乳・ヨーグルトの数値を、それぞれ1:7:1のウェイトで生乳換算した合計値。

(3)品目別動向

①ミルク

 ミルクを製造する会社は全国で2000社以上存在する。UHT乳(日本でいうLLミルク)が、2009年において73%のシェアを占めている。

 以前は内モンゴルの伊利(Yili)や蒙牛(Mengniu社)に代表される生産地立地型乳業メーカーによるUHT乳と、消費地立地型の光明乳業(Bright Dairy)社(上海)や北京三元(San Yuan)社(北京)に代表される乳業メーカーによるパスチャライズドミルク(LTLT法及びHTST法によるもの)との間で激しい競争があった。しかし現在はいずれのメーカーもそれぞれUHTおよびパスチャライズドミルクを製造しているため、両タイプのミルクの優位性をめぐる論争は見られなくなっている。

 ミルクの消費は以前の2ケタの伸び率からは鈍化している。そのためメーカーは、各種成分添加したミルクやオーガニックミルクを市場に投入するなど差別化を図っている。

 ニュージーランド、豪州、フランスといった海外資本によるブランドも徐々にスーパーマーケットなどでみられるようになってきている。

②チーズ

 2003年から市場は毎年20%程度の伸び率で拡大している。良質のたんぱく質やカルシウムの摂取源としての認識が中間層を中心に広がるとともに、ピザレストランなどの発展も伸びに貢献している。市場に出回るチーズのほとんどは輸入チーズである。チーズの中でスプレッドタイプは35%程度とみられる

 国内大手乳業もチーズ製造に参入し始めた。

③ヨーグルト

 ヨーグルトの市場も拡大を続けている。

 ほとんどのヨーグルトは粉乳を原料に生産されている。

④粉乳

 粉乳の生産量は2007年にピークを迎え、2008年以降生産額ベースでは減少している。一方輸入は好調であった。

 また、育児用調製粉乳の販売は着実に増加し、その市場は欧州、米国、豪州などの多国籍企業の独壇場となっている。

表21 脱脂粉乳および全脂粉乳の需給
脱脂粉乳
単位:千トン
資料:USDA FAS “Dairy : World Markets and Trade”
注1:2010年は暫定値、2011年は予測値。
全脂粉乳
単位:千トン
資料:USDA FAS “Dairy : World Markets and Trade”
注1:2010年は暫定値、2011年は予測値。

 脱脂粉乳の輸入は育児用調製粉乳製造者からの強い需要によって2011年には10万トンに達するものとみられる。国産生乳由来の製品に対する消費者の懸念が背景にあり、原料をすべて輸入品に切り替えたメーカーも存在する。

 全脂粉乳の輸入は2010年に前年より90%増加し、2011年にも24%増加の42万トンに達するとみられる。42万トンという数字は世界の全脂粉乳の貿易量の1/4を占めるうえ、輸入の増加は一時的な現象ではないことから、世界市場に与える影響は大きいものと予想される。脱脂粉乳および全脂粉乳ともニュージーランドと豪州が輸入の大部分を占めている。

 タイト感のある国産生乳の供給と、消費者の安全性に対する懸念から、当分の間、粉乳の輸入は継続するものと予測されている。

 ホエイについては、2010年は前年比若干減少する見込みである。これは、ホエイ価格が上昇したために、乳糖を混合した調製品へ需要がシフトしたことによる。

表22 乳製品貿易
脱脂粉乳輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード040210
バター輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0405
チーズ輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0406
全脂粉乳輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード040221
ホエイ輸入量
単位:トン
資料:GTI社“Global Trade Atlas”
  注:HSコード0404

5. 関税

 中国の畜産物に関する関税は冷凍牛肉で25%、乳製品では6〜15%と比較的低率な関税となっている。中国政府による報告では、畜産物を扱う国家貿易企業はWTOに対して報告されていない。

 なおニュージーランドとのFTAが締結されていることから、畜産物の関税は同国に対して、一定の移行期間を経て廃止することとなっている。

表23 代表的な畜産物の中国の輸入関税とNZとのFTAによる関税削減スケジュール
単位:%
資料:WTO“Situation of Schedules of Concessions in Goods”、NZ外務貿易省“New Zealand China Free Trade Agreement”

(参考文献)

・USDA FAS GAIN Report “China - Peoples Republic of, Livestock and Products Annual” 2010年9月24日付け(CH10055)
・USDA FAS GAIN Report “China - Peoples Republic of, Poultry and Products Annual” 2010年9月30日付け(CH10056)
・USDA FAS GAIN Report “China -Peoples Republic of, Dairy and Products, Annual” 2010年9月30日付け(CH10058)
・USDA FAS “Dairy : World Markets and Trade”2010年12月
・中国国家統計局「中国統計年鑑2010」
・農畜産業振興機構編「中国の酪農と牛乳・乳製品市場」
・農畜産業振興機構「年報」「畜産」(海外編)
・農畜産業振興機構 谷口清「中国の豚肉価格の動向とその背景」畜産情報
・農畜産業振興機構 谷口清「中国の豚肉備蓄制度」畜産の情報


 
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