調査・報告 専門調査

グローカル資源の利活用により発展する畜産経営
〜ローカル・エコフィードとグローバル資源の融合〜

中村学園大学 教授 甲斐諭


【要約】

 畜産は元来、捨てられる資源を有効利用し、畜産物として人々の豊かな食生活の営みに貢献してきた。高度経済成長を経て、飼養方法は諸外国から飼料穀物を輸入・給与する方法に転換し、近代的な畜産経営を展開することで、畜産は発展した。現在は新たな飼養方法への転換が求められている。大規模畜産経営にとっては、どのような飼養方式、経営形態に移行すべきか、さらに阻害要因は何かを解明すべく、九州の大規模牧場2カ所について実態調査を行った。その結果、両経営ともローカル・エコフィードを最大限活用するために、グローバルな資源の利用を図るなど、グローカル(glocal)な経営展開がポイントであることが分かった。大規模低コスト経営には、「ローカル・エコフィードとグローバル資源の融合」というグローカルな行動が必要であることが示唆された。

1.はじめに

 農林水産省が平成22年3月に公表した「食料・農業・農村基本計画」によれば、供給熱量ベースの総合食料自給率は平成20年度の41%から32年度には50%に引き上げる計画である。そのためには飼料自給率(TDNベース)を、同期間に26%から38%に引き上げる必要があると指摘されている。さらに、同年7月に公表された「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」によれば、輸入飼料への依存体質から脱却して、自給飼料を有効活用し、食料自給率の向上と環境負荷を低減させるような酪農及び肉用牛生産に転換することが重要で、しかも地域や経営における生産条件、生産者の創意工夫や主体性を活かした多様な経営の実現を図らなければならないことなどが強調されている。筆者も同感である。

 かつて英国の肥育牛経営を調査したとき、ジャガイモ、落ちたリンゴ、食品工場から持ち込んだビスケットのくず、パンの耳などが飼料として給与されていた。スイスのエメンタールチーズ用の生乳を生産している酪農家を訪問したときも同様の光景を見た。また、アメリカの繁殖牛農家ではトウモロコシを収穫したあとの畑に牛を放牧して落ち穂拾いをさせていたし、フィードロットではバイオエタノールを生産した後のトウモロコシ粕を飼料に利用していた。彼らの畜産形態の違い、発想の違いを痛感した。国土から乖離した我が国の畜産の在り方を考えさせられた。

 そもそも畜産がなければ捨てられていた資源を有効利用し、人のためになる畜産物に転換する機能を持っているのが家畜である。そのような飼養方式が本来的な家畜の飼い方であろう。だが、日本では高度経済成長過程で、諸外国から飼料穀物を輸入し、それを給与して「近代的」な畜産経営を展開し、畜産は「発展」してきた。だが、その飼養方式が日本の食料自給率を引き下げる主因の一つになっていると広く認識されるようになり、いま、その転換が強く迫られている。

 とは言え、長く続けてきた輸入飼料依存型畜産経営を転換するには時間が必要であろう。果たして現在の日本の大規模畜産経営は、上記の反省に立った飼養方式、経営形態に移行しようとしているのであろうか、実態調査を通して何が本来的な畜産の在り方の阻害要因であるのか、展開条件は何かを検証してみる必要がある。そのような思い、問題意識を持って日本を代表する約5千頭弱の乳用牛を擁する酪農経営のホンカワグループと約4千頭の肥育牛を飼養する肉用牛経営のすすき牧場を再訪した〔1〕〔2〕。冒頭に調査結果を要約しておこう。

 両経営は必ずしも地元のローカル資源のみを利用している訳ではなかった。ホンカワグループは焼酎粕などのローカル・エコフィードを利活用してTMR(Total Mixed Ration:完全混合飼料)を製造しているが、そのために日本では大量に入手しにくい乾牧草を米国やカナダなどから輸入していた。また、すすき牧場も菜種油の搾り粕などのローカル・エコフィードや地元の飼料用イネを飼料として利活用するとともに、肥育もと牛は特定の豪州の契約農場から輸入していた。

 両経営ともローカル・エコフィードを活用するために、グローバルな資源の利用を図るなどグローカル(glocal)な経営展開に挑戦し、成功していた。これらの事例は大規模低コスト経営を成功させるには、「ローカル・エコフィードとグローバル資源の融合」というグローカルな行動が必要であることを示唆している。

2.ローカル・エコフィードを活かすためにグローバル資源を輸入して発展したホンカワグループ

(1)ホンカワグループの沿革

 現在、大分県日田市に本部を置くホンカワグループは①有限会社本川牧場、②株式会社ホンカワ、③J-アグリ株式会社、④J-AGRI CORPORATION、⑤有限会社本川牧場/天瀬、⑥HONKAWA VINA.,CO.LTDから構成されている。本グループは55年の歴史を持つ。その小史を振り返ってみよう〔3〕

 現社長の父親が1955(昭和30)年に乳用牛を導入したのが本グループの出発点である。1974(昭和49)年までは、日田市内の住宅地で30頭のつなぎ牛舎で経営していた。

 1975(昭和50)年に農業構造改善事業により半額補助を受け、農地の取得と農業機械の購入のために5,000万円の借金により、同市内の誠和町美濃台に移転し、同年5月に60頭の搾乳牛用のフリーストール・ミルキングパーラー併設牛舎を建設した。農地取得資金は20年間で返済する計画で借りて近隣農地を購入し、乳用牛は徐々に100頭まで増頭した。

 1979(昭和54)年有限会社本川牧場を設立し、法人経営にした(資本金200万円)。1986(昭和61)年に代表取締役を現社長の本川角重氏に変更している。翌87年に後述の発酵TMRを製造販売する株式会社ホンカワを設立(資本金1,000万円)し、89(平成元)年にはTMR工場を建設している。また、92(平成4)年には畜産環境対策事業により堆肥舎を建設している。

 1993(平成5)年頃、今後、5〜6年で搾乳牛を300〜500頭にして完全雇用の経営にする希望を持っていた。折しも配布された認定農業者制度に関するパンフレットに法人経営は5億円まで融資可能と書いてあったので、借りることにした。5年計画を策定することが必須であったが、市役所や県の普及員と相談して計画書を作成し、認定農業者の認定を受けることができた。1996(平成8)年に農業経営基盤強化事業により牛舎(4割補助)・パーラー棟(2割補助)を新築した(経産牛355頭規模)。98(平成10)年には有限会社本川牧場の資本金を1,000万円に増資、社員寮を新築している。99(平成11)年には育成牛300頭の牛舎を新築し、2002(平成14)年には海外から牧草などを輸入販売するJ-アグリ株式会社を資本金1,000万円で設立するとともに畜産経営活性化事業で和牛繁殖・育成牛舎を新築し、さらに隣県の熊本県阿蘇の草地で初妊牛放牧を開始している。

 2000(平成12)年に経営者夫妻が米国の酪農経営を研修する機会があり、ロータリーパーラーを見て、これの導入を決意した。しかし、ロータリーパーラーの導入設置には約1億4,000万を要すると知ったので、更なる多頭化が必要になり、牛舎を新築して規模拡大を図った。再び認定農業者制度を活用してロータリーパーラー導入を具体化し、2003(平成15)年には約1,500頭になった搾乳牛を新設したロータリーパーラーとへリングボーンパーラーで搾乳できるようにした。

 同年には米国のカリフォルニア州に関連会社J-AGRICORPORATIONを設立し、牧草の買い付けと日本への輸出を本格化した。また、堆肥処理施設も新築している。

 2006(平成18)年には大分県日田市天瀬町塚田に農地を購入し、翌年には放牧と白ネギの栽培を開始した。さらに2009(平成21)年にはベトナムのビタン市にHONKAWA・VINAを設立し、ドライバカス、バカスサイレージなどを製造し、日本に輸出を開始している。

(2)ホンカワグループの構成員の現況

①有限会社本川牧場

 以上のホンカワグループの本体は本川牧場であるが、それは大分県日田市大字高瀬に立地している。代表者取締役は本川角重氏である。資本金は1,000万円であり、年商は約22.8億円である。業務内容は①生乳の生産販売、②初妊牛の販売、③子牛の育成及び販売、④肉用牛の育成肥育販売、⑤発酵牛ふん堆肥販売(バラ・15kg袋入り)である。

 総面積40ヘクタールの広大な大地に、最新設備を設置し、衛生的な環境で牛群・飼育設計をコンピューターで監理し、高品質な生乳を生産している。将来的に頭数を増やす計画もあり、さらなる品質の向上に多方面から取り組んでいる。

 上記のように本川牧場は55年前の乳用牛の初飼養から現在では経産牛1,900頭、育成牛1,200頭、和牛繁殖牛250頭、肥育牛(交雑種など)1,500頭合計4,850頭(預託を含む)の大規模経営に発展している。

 環境保護のためにISO14001、生乳・ネギの食品安全のためISO22000を取得している。

ホンカワグループの経営拠点である本川牧場

②株式会社ホンカワ

 代表取締役は本川角重氏であり、所在地は大分県日田市大字高瀬である。資本金は1,000万円、年商は44.9億円である。業務内容は飼料販売・産業廃棄物収集運搬処分業・運送業であり、取扱品目は発酵TMR製造販売(乳用牛用と肉用牛用)、濃縮焼酎粕販売、牧草の輸入・販売である。2004(平成16)年には横浜市に横浜支店を設置するなど業務の拡大を目指している。

③J-アグリ株式会社

 代表者取締役は本川角重氏であり、北部九州営業所が福岡県朝倉市に、南九州営業所が宮崎県都城市に、中国営業所が広島県安芸高田市にある。資本金は1,180万円、年商は58.2億円である。業務内容は牧草やその他飼料全般の販売であり、主な取扱品目は米国から輸入するスーダンヘイ、アルファルファヘイなど、カナダから輸入するカナダチモシーなど、豪州から輸入するオーツヘイなど、ベトナムから輸入するバカス、バカスサイレージなどである。他にスタンチョン、TMRミキサー(SUPREM社製)などの酪農機器全般を販売している。

④J-AGRI CORPORATION

 代表者取締役は本川角重氏であり、所在地は米国・カリフォルニア州である。資本金は12万ドル、年商は1,980万ドルであり、業務内容は牧草と酪農機器の輸出である。主な取扱品目は米国から輸入するスーダンヘイ、アルファルファヘイなど、カナダから輸入するカナダチモシーなど、スタンチョンなどの酪農機器全般である。

⑤有限会社本川牧場/天瀬

 代表者取締役は本川角重氏であり、所在地は大分県日田市塚田天瀬である。総面積は270ヘクタールであり、業務内容は乳牛の放牧育成、5ヘクタールの農地での白ネギの生産と販売である。

 環境保護のためにISO14001、生乳・ネギの食品安全のためISO22000を取得している。

⑥HONKAWA VINA.,CO.LTD

 代表者取締役は本川角重氏であり、所在地はベトナムのHau Giang省ビタン市である。資本金は1億円であり、業務内容は3ヘクタールの土地でドライバカス、バカスサイレージ、ココナッツウエスト、パインサイレージの製造販売である。

(3)有限会社本川牧場の特長的な取組み

①畜産公害対策

 牛舎の設計段階より、糞尿が場外や地下に漏出しないように牛床の施工を行なっている。牧場の牛舎は、汚水(尿)が牛舎から外に出ることが無いよう掃除はもちろんのこと、適度に乾燥した状態を作るように管理している。これは牛の蹄の病をはじめ様々な疾病の予防につながっている。搾乳では、衛生のために洗浄を行なうが、搾乳機をはじめ生乳が通る配管から貯蔵タンク、搾乳室の全てを衛生的に維持、管理する為に洗浄を行なっている。この時の洗浄排水は全て場内に設置している浄化槽に送り、処理後放流している。牛舎内の糞や糞で汚れた敷き料は、併設している堆肥舎に搬入し、発酵させ完熟堆肥(肥料)にしている。

本川牧場取締役専務の本川氏(右)と筆者(左)

②生乳の衛生管理

 生乳を貯蔵するタンクと生乳が通る配管を設置している部屋は、必要以上に人の出入りが無いよう設計段階から配慮して建造されている。搾乳時の牛の乳頭の洗浄をはじめとする搾乳技術の徹底、搾乳機器の徹底した洗浄、生乳の急速冷蔵や出荷までの衛生管理を行ない、食品衛生基準HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害分析重要管理点)方式を取り入れた設備と管理を行なっている。また、牛の疾病予防と牧場内の衛生管理のため、場内の見学は一部制限している。

③品質方針

 牛に愛情をもって接し、衛生的であるべき生乳の生産に携わっている事を念頭におき作業に取り組んでいる。

④環境方針

 人が食料として利用出来ない植物性残さを主体とした飼料を家畜に与え、人が必要とする食料を生産する農業の仕組みをさらに強化している。家畜の糞尿や、植物性残さを効率的に発酵させ地域の耕種農家に有機堆肥として供給し、地力改善と生産性向上に貢献している。

 持続可能な社会の実現の為に、自主的改善を継続し、法規制を守り、環境汚染を未然に予防し、環境負荷の低減に努めている。その実現のため環境目的と環境目標を定め、1年に1度環境方針とともに見直すことにより、環境改善活動を継続的に行い、環境汚染の予防を図っている。

 環境方針を全従業員が認識し、自主的に環境方針に沿った行動を行うように、従業員教育の周知徹底を図っている。「環境汚染を未然に防止し、環境負荷の低減に努める」をスローガンに全社的に環境安全に取り組んでいる。スタッフ全員が一丸となった結果 ISO 9001・14001 の認証を取得している。

(4)ホンカワグループを成長させた要因

 以上のようにホンカワグループは1955(昭和35)年から今日まで55年間で、乳用牛約5千頭の日本を代表する大規模酪農経営に発展してきている。その要因を考察すると次の4点が指摘できる。

①ローカル・エコフィードを取り入れた生乳生産のコストダウン

 ホンカワグループの母体である有限会社本川牧場の最大の特長は、立地条件が飼料基盤に恵まれていないこともあり、その初期の段階から地域資源であるミカンや焼酎の搾り粕などを飼料として利活用して、コストダウンを図ってきたことである〔1〕

 生乳は、牛肉のように品質を高め付加価値を付けて高価格を追及することができない農産物であるので、酪農経営はエコフィードを利活用して生乳生産のコストダウンを図ることが有力な経営戦略になる。近年、エコフィードの用語が用いられる以前から未利用資源の有効利用を実践したローカル・エコフィード利用の先駆者である。

 ちなみに、経営者の本川夫妻は経営理念を地域との共生が重要と考え、

 ・地域や自然環境を大切にします。
 ・地域に立脚する環境づくりに取組みます。
 ・未利用資源の有効利用をすすめます。
 ・循環型農業を進め地域に貢献します。
 ・農家(FARMER)から農家をモットーに。

を掲げている。

②多頭化・多角化による経営規模拡大への強い意志

 酪農経営は多頭化による生乳生産のコストダウンが可能であることもあり、常に本川夫妻は多頭化を追求してきている。パイプライン方式から多頭化によりロータリーパーラー方式に搾乳方式を進化させ、生乳生産のコストダウンを図っている。

 生乳生産のみならず、経営の多角化も追求している。受精卵移植を利用した和子牛生産、自ら開発したローカル・エコフィード活用技術によるTMR飼料製造会社の設立、TMR飼料の販売会社の設立、TMR製造に不可欠な乾牧草の海外買付け会社の米国での設立、バカスなどを製造販売する会社のベトナムでの設立、自家堆肥を利用した白ネギの栽培などの経営多角化を展開している。本川夫妻の英知と勇気には感動させられる。

③緻密な計画と補助金の活用

 多頭化や多角化には巨額の資金が必要であるが、公的補助金を上手に活用している。それも大きな能力である。過去に農業構造改善事業、畜産環境対策事業、農業経営基盤強化事業、畜産経営活性化事業を活用し、適切な運用により、また順調な資金の返済により公的機関から信頼を得て、それが更に次の補助金の受け入れに繋がったものと推察される。

  綿密な計画を策定する必要があったのは、一般銀行を介しての事業の展開があったことが指摘される。県や市町村役場職員、農協職員に計画策定を委ねるのではなく、一般銀行と相談しつつ自ら計画を策定してきたことが経営者としての能力を涵養したものと推察される。

④グローカル・エコフィードの製造販売

 地域から排出される焼酎の搾り粕などを利用したTMR製造には大量の乾牧草が必要であるが、我が国では大量の乾牧草を入手することが困難である。そこで米国とカナダから乾牧草を、ベトナムからバカスなどを輸入している。

 地域から排出される焼酎の搾り粕などを資源化するために、不足する乾牧草を輸入し、グローカル商品を製造販売している。ローカル資源を有効活用するには、グローバル資源との融合が必要であることをこの事例は示唆している。

株式会社ホンカワのエコフィード輸送車

3.グローカルな閉鎖系サプライチェーン構築により 安全な牛肉生産を展開する
株式会社すすき牧場

(1)株式会社すすき牧場の沿革と現況

 筆者が、福岡県宗像市に立地する株式会社すすき牧場(以下、すすき牧場)をはじめて訪問したのは42年前の1968(昭和43)年であった。以来、先代社長(薄照康氏)と現社長(薄一郎氏)から御交誼を頂き、いままで幾度となく訪問する機会を得てきた〔2〕

 すすき牧場は、先代社長が1947(昭和22)年に現在地に入植し、稲作を営みつつ乳用牛を飼養し畜産を開始したのが始まりである〔4〕。終戦後に国有地の払い下げを受け、森を開墾して牧草地を作り、規模拡大を図ってきた。63年間に親子2代で乳用牛1頭から約4千頭規模の肥育牛経営に発展している。その沿革は次の通りである。

 1970(昭和45)年に肉牛(乳牛雄)の飼育を開始し、1973(昭和48)年には農事組合法人薄農場を設立している。1976(昭和51)年に北海道の足寄事業所を開設し、また1983(昭和58)年に上士幌事業所を開設して、1990(平成2)年には北海道で肉用牛繁殖を開始している。1991(平成3)年、牛肉自由化が開始され、高級牛肉生産の必要性を痛感する。

 1997(平成9)年には豪州より肥育もと牛の導入を開始し、生協への牛肉契約販売を開始した。2001(平成13年)にBSEが国内で確認され、牛肉の市場価格が暴落したが、生協取引価格は市場価格の動向に左右されず、生協との取引の重要性を再認識した。

 事業を福岡の農場に集約する為、北海道での事業(上士幌事業所・足寄事業所)から2004(平成16)年に撤退している。2007(平成19)年には組織変更により株式会社すすき牧場へ改称するとともに、中央畜産会の生産情報公表JAS牛肉認定を受け、現在に至っている。

 現在、すすき牧場は24ヘクタールの牧場で、豪州から導入した肉専用種肥育もと牛を約4千頭飼養し、年間約3千頭の肥育牛を出荷している。従業員は22名(生産現場+事務+肥料営業)である。年商は、牛肉販売額が年間約18億円であり、堆肥販売が約1億円の計19億円である。

すすき牧場代表取締役の薄氏(左)と筆者(右)

(2)閉鎖系サプライチェーンにおける肥育もと牛導入と牛肉販売先

 すすき牧場牛は、アンガス系統種(母牛血統)と肉専用種(父牛血統)を掛け合わせた肉専用交配種である。最長飼養地が“すすき牧場”であることを確認した上で、国産(福岡県産)と表示をしている。ただし、子牛の出生地が豪州であることを、市場出荷ではなく生協(約40%)とスーパー(約60%)出荷であるので、消費者により正確な情報として伝える努力をしている。

 すすき牧場牛は、次の経路を経て、消費者に届けられている。

①豪州の繁殖農場(閉鎖系もと牛導入先:アグリザーブ農場とハモンド農場)

 ニューサウスウェールズ州のアグリザーブ農場で生後10カ月程度まで哺育・育成する。当農場は、すすき牧場のみを出荷先として限定した農場であるので、すすき牧場の繁殖部門担当農場と理解される。両者は「消費者にとって安全・安心で美味しい牛肉を作る」という共通の目的で、考えが一致し、生産情報・肉質・価格などの全ての情報をオープンにして、信頼関係をもって生産に取り組んでいる。当牧場から年間約2,000頭の肥育もと牛を輸入している。それに加えてタスマニア州のハモンド農場から年間約1,000頭を導入している。ちなみに、主な牛肉の出荷先であるパルシステム生活協同組合連合会にはアグリザーブ農場から導入したもと牛の牛肉に限定して出荷している。

ハモンド農場から導入されたことを証する耳標

②豪州の検疫農場(約30日間の係留による検査)

 アグリザーブ農場からトラック輸送で14時間程の所にある検疫検査の為の専用農場で疾病等の異常がないことについての確認を行っている。

③船舶での輸送(約15日間の海上輸送)

 子牛を輸送するための専用の船舶で、ブリスベーン港から日本まで輸送される。

④日本での動物検疫所(約15日間の係留による検査) 

 農林水産省管轄の動物検疫所で、疾病等の異常がないことを確認する。動物検疫所は主に福岡県の施設を使用している。

⑤すすき牧場(約16〜18カ月の肥育)

 福岡の動物検疫所からトラック輸送で1時間程度を経てすすき牧場に運び、すすき牧場で約16〜18カ月間最終出荷まで肥育を行う。肥育もと牛の関税は1頭当たり3万8,520円であり、牧場渡し価格は1頭当たり20〜25万円である。

 牧場の管理には2002(平成14)年以降HACCP方式を導入し、衛生管理を徹底している。

⑥と畜場と処理・加工

 と畜頭数の割合は、福岡市中央卸売市場内でのと畜70%、宮崎県えびの市20%、その他10%である。

 と畜場と処理・加工場では、日本食肉格付協会の格付に基づき、㈱パル・ミート向けの個体を選畜し、㈱パル・ミートの指定するカット規格に基づいて加工、指定する場所まで輸送して納品している。加工した牛肉及び外箱には、10桁の牛個体番号の記載を行い、外観上の識別を容易にするためにさらに外箱にパルシステムブランドの「薄一郎牛」のスタンプを押印している。

⑦販売先(閉鎖系販売先)

 年間約3,000頭の販売先は40%が生協(パルシステム生活協同組合連合会、大阪いずみ市民生協など)、60%が関東と愛知県、関西のスーパーへの直接販売である。卸売市場出荷はない。

アンガス系統種(母牛血統)と肉専用種
(父牛血統)を掛け合わせた肉専用交配種

(3)BSEを契機にしたローカル・エコフィード利用による安全な牛肉生産(閉鎖系飼料調達先の確保)

 BSEを契機に、市場出荷中心では価格暴落による影響が大きいことを知り、生協との取引を強化し始めた。しかし、それには飼料内容を充分に把握できるローカル・エコフィード利用が不可欠であることを再認識する。

 そのためには閉鎖系のローカル・エコフィードの確保が必要になるが、宗像市内には大手の食品企業がないので、地元の範囲を福岡県内と隣県に拡大して、おからを供給する豆腐メーカー、搾り粕を供給する菜種油、日本酒、焼酎、ウイスキーの各メーカーなどの食品・飲料企業と契約を結び、新鮮でトレースバックできるエコフィードの確保に努力している。

 安定した品質・量の確保をするためには、食品工場との相互理解が必要になる。例えばおからは水分量が多く、腐敗しやすいため豆腐工場で排出された段階で乳酸菌を添加してもらうことや、すすき牧場から引き取りトラックを手配することにより、飼料への活用を実現している。

 上記の閉鎖系調達先から購入したおから・焼酎粕・モルト粕・ビール粕・ウイスキー粕・醤油粕・米ぬか等を混合して自家製の乳酸菌発酵飼料を製造し、給与している。乳酸菌発酵の主な目的は、保存性を高め、飼料の栄養価値を高め、牛の嗜好性を高めるためであり、さらに、牛肉の脂質に良い影響を与えると考えられている。

 以上のローカル・エコフィードと後述の粗飼料に加えて飼料会社から購入する配合飼料を混合して、飼養ステージに応じて1頭あたり一日12〜16キログラム程度を給与している。配合飼料の原料は、2002(平成14)年以降Non-GMO・ポストハーベストフリーのものを使用している。

(4)ローカル粗飼料の利用と環境に配慮したふん尿処理

 2002(平成14)年から自給飼料として粗飼料の栽培を本格化し、現在では飼料用米、飼料用イネ(wcs)を生産している。特に飼料用米の栽培には積極的に取り組み、昨年は約100ヘクタールに作付し、約700トンを収穫している。

 最近、牧場に隣接して7ヘクタールの離農跡地が購入できたので、粗飼料の生産拡大を図っている。また地域の農家では後継者不足により、耕作放棄地が拡大する可能性があるので、今後は地域農家との連携により飼料用米の栽培面積を200ヘクタールに拡大する予定である。

 生協の組合員が牧場に度々訪問してくるので、一段と環境に配慮した牧場管理を展開していきたいとの希望を持っている。

 牛舎から発生するふん尿は、オガクズや粉砕した木の皮に吸着させて発酵させた後、堆肥または敷料として利用している。発酵堆肥は50%が農協系統などを通して外部販売され、40%が戻し堆肥として利用され、10%が内部の粗飼料生産に利用されている。

(5)今後の展望〜さらに閉鎖系サプライチェーンを強化する動き〜

 すすき牧場は、2001(平成13)年の我が国におけるBSE発生を契機に安全な牛肉の生産方式に大きく転換し、それを付加価値の手段として生協契約販売に傾斜している。

 その手法は閉鎖系サプライチェーンマネジメントである。肥育もと牛を豪州の特定の牧場に限定し、飼料の一部は供給元の明確な地元の食品企業から提供されるローカル・エコフィードであり、粗飼料の一部は地元の農家と連携した飼料用米である。そして牛肉の販売先も生協を中心に特定のスーパーに販売している。

 今後、現社長は更に閉鎖系サプライチェーンを強化したい意向を持っており、肥育もと牛を少しでも自給するために繁殖和牛の飼養を開始している。また、飼料もエコフィードも地元産を多用するために地元農家や地元食品企業との連携を強化している。

4.むすび

 小稿では、2つのグローカルに活躍する大規模畜産経営を分析した。第1事例のホンカワグループは、地元の焼酎メーカーの搾り粕などを有効利用し、生乳生産のコストダウンを強みとして大規模化を図ってきた。しかし、大規模化に伴い地元の焼酎メーカーの搾り粕などを用いてTMRを製造するには海外の乾牧草が大量に必要になり、北米に進出して、直接乾牧草を輸入している。そして最近ではベトナムに進出してバカスなどを調達している。地元のローカル資源であるエコフィードを有効活用するには、グローバルに行動し、海外の副資材の直接調達が必要になったのである。

 酪農業はミルクプラントで各経営の生乳が合乳されるために、各経営は生乳生産において付加価値をつけにくい。大規模酪農経営にとっては生乳生産におけるコストダウンが有力な戦略になる。そのためにはグローカルに行動し、国内資源と国際資源を有効活用することが必要になっていることを本事例は示している。

 第2事例のすすき牧場は、BSEを契機に安全な牛肉を生産することが付加価値をつける手段と認識し、特定の豪州の契約農場からのみ肥育もと牛を導入し、地元食品メーカーからエコフィードを調達して、粗飼料も地元の農家と連携して飼料用米などを給与して安全な牛肉の生産に努めている。そして生産した牛肉も特定の生協とスーパーのみに出荷している。このように肥育もと牛、飼料、牛肉販売先を限定するなどグローカルな閉鎖系サプライチェーンを構築することによって、付加価値を高めている。

 現下の不況のもとでは牛乳や牛肉の価格を引き上げることは容易ではない。当面、コストダウンと付加価値の追求が各経営にとって重要課題である。そのためにはグローカルに行動する必要があると結論できよう。

参考文献

〔1〕甲斐諭「食品産業由来有機性資源のリサイクルと畜産経営の展開条件」『畜産の情報』2000年8月号

〔2〕甲斐諭「畜産経営における衛生管理の取り組みの実態と今後の課題〜農場段階のGAP(適正農業基準)とHACCP方式の導入の検証〜」『畜産の情報』2005年1月号

〔3〕株式会社本川牧場資料「HONKAWA CORPORATE PROFILE」

〔4〕株式会社すすき牧場資料「会社案内」

 


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