海外トピックス


2010年鶏肉輸出は順調に増加(アルゼンチン)


2010年第1-3四半期の鶏肉輸出量は前年同期比30%以上増加

 食肉産業において牛肉が主体であるアルゼンチンでは、飼料となるトウモロコシや大豆かすなどの供給が十分にあることから、近年では鶏肉生産も盛んに行われ、世界的にも生産量、消費量および輸出量が上位10位内に入るまでに成長した。

表1 世界の鶏肉需給
(千トン)
資料:米国農務省(USDA)
  注:2009年は暫定値、2010年は予測値

 こうした中、アルゼンチン国家動植物衛生機構(SENASA)によれば、2010年第1〜3四半期(1〜9月)の鶏肉輸出は、数量約19.72万トン、全額約314.58百万ドル(約26739.3百万円;1ドル≒85円)と、前年同期(同14.33万トン、同約185.1百万ドル(約15733.5百万円))に比べ37.6%、70.0%の増加となった。

 特にベネズエラ向け鶏肉の輸出が数量・金額ともに大幅増(30倍以上)となったことについて、業界大手のノエルマ社社長ネストル・エッグス氏は、2009年秋にアルゼンチンとベネズエラはエネルギー資源と食品を中心とした2国間協力協定を結んだことから、2010年3月以降、毎月8000トン以上の輸出が行われるようになったとしている。両国とも冷凍丸どりが消費の主体であるため、鶏肉は協力協定の対象となっている。

表2 アルゼンチン産鶏肉の輸出
資料:国家動植物衛生機構(SENASA)

今後も生産量・輸出量ともに増加見込み

 2009年は生産量、輸出量ともに150.2万トン、17.3万トンと、2004年(86.6万トン、5.15万トン)に比べ前年比73.4%、同235.9%の増加となった。2010年も第1〜3四半期の実績から生産量は150万トンを超えると見込まれ、輸出割合も15.0%に及ぶ可能性がある。国内生産量増加に伴い、輸出割合も増加するなど、今後の輸出余力は十分とみられ、拡大する海外市場からの需要にも十分に対応可能と思われる。

図1 アルゼンチンにおける鶏肉の生産量と輸出割合
資料:アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)、国家動植物衛生機構(SENASA)、国家統計局(INDEC)

 国内生産が順調に増加する背景として、豊富な飼料、水、土地を利用した企業経営による生産のインテグレートの進展が挙げられる。CEPAによれば、現在では大手企業上位8社が生産量の70%強を占めるなど、鶏肉産業を支えているとのことである。地域別にみると、飼料となるトウモロコシの主産地であるエントレ・リオス州45.4%、ブエノスアイレス州42.2%となり、この2州で全体の90%弱が生産される。

表3 アルゼンチンにおける鶏肉需給の推移
資料:アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)、国家動植物衛生機構(SENASA)、国家統計局(INDEC)
  注:1ペソ≒21円

 一方、アルゼンチン国内でも鶏肉消費は順調に伸び、2009年の一人当たりの年間鶏肉消費量は33.4キログラムで2004年(21.6キログラム)と比べ54.6%の増加となった。一般的には「牛肉価格の高騰による代替食肉」が増加理由として挙げられるが、アルゼンチン養鶏加工協会(CEPA)では、鶏肉消費は牛肉価格が上昇した2008年より前から徐々に増加していることから、国民の嗜好の変化により、積極的に鶏肉が選択されていると分析している。このためCEPA傘下のブロイラー企業は、輸出向けのみならず、国内市場の拡大を見越した生産体制の強化を進めている。

日本向け輸出は2005年以降減少

 海外進出著しいアルゼンチン産鶏肉だが、鶏肉カット技術が普及していないため冷凍丸どりが輸出の主力となっている。このため、いまだに人的労力や機械投資を要するカット鶏肉は敬遠される傾向にある。日本向け鶏肉スペックは大きさ、形などが細かく指定されるなか、日本市場への主要供給国であったタイでの2004年の鳥インフルエンザ発生後、アルゼンチンでも日本向け輸出に取り組んだものの結局は軌道に乗ることなく、日本で輸入鶏肉市場の大半を獲得したブラジルとは対象的に現在まで減少傾向が続いている。

表4 アルゼンチン産鶏肉の日本向け輸出の推移
資料:国家統計局(INDEC)
  注:調整品を含む。

 アルゼンチン産鶏肉(冷凍丸どり)の対日輸出価格を試算したところ、日本での輸入価格(CIF)はキログラム当たり142.9円となる。日本国内でのカット処理、需要の少ないむね肉の活用など検討課題はあるが、価格だけをみれば大変魅力的な商品といえる。

図2 アルゼンチン産鶏肉(冷凍丸どり)の日本での輸入価格(CIF)(試算)
資料:アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)、財務省貿易統計、貿易業者(聞き取り)

 インテグレーションが進むアルゼンチンの鶏肉業界だが、ノエルマ社(前出)では、現在でも日本向けに胸骨剣状突起軟骨(通称「ヤゲン」といい、外食産業では「とり軟骨から揚げ」として販売)を月平均約10トン輸出している。同社はエントレ・リオス州ビジャ・エリサ市(ブエノスアイレス市から北へ約400キロメートル)を中心に半径200キロメートル以内に、種鶏場(原種鶏場(GPS)1か所(系統品種はコッブ80%、ロス20%)、種鶏場(PS)20か所)、ふ化施設2か所、肉用鶏飼育施設255か所、配合飼料施設1か所、食鶏処理施設1か所(1日当たり処理能力約13万羽)を配置する。出荷平均は日齢50日、体重2.7キログラムであり、1養鶏場での出荷回数は年間5.5回、え付け後の死亡率は4%となり、ベネズエラを主体に世界中へ輸出しているグローバル企業である。今後の輸出計画について社長ネストル・エッグス氏(前出)は、「来年までに処理羽数を1.5倍にし、国内需要はもちろん、ベネズエラ、EU、南アフリカ、中国などへの輸出もさらに増やしたい。日本向けの商品ももっと増産していきたい」としている。

図3 アルゼンチンのインテグレート・システム
資料:アルゼンチン農牧漁業省(MINAGRI)
図4 HACCCP導入により衛生的に管理され た処理施設
図5 ブエノスアイレスの輸出港まで鶏肉を トラック輸送(約500km)
図6 2万羽/棟が敷地内に10鶏舎
飼養管理者は出荷まで住込みで管理
図7 敷料はもみ殻(深さ20cm程度)
飼養密度は10羽/m2

今後の輸出拡大に期待

 アルゼンチンの鶏肉産業は、国内外の需要に対応するため、インテグレート化により近年著しく発展し生産規模を拡大してきた。インテグレーションによる企業は、衛生的に管理された施設を配備し生産体制も万全であることに加え、生産コストが低く競争力が高い商品を生産することから、今後、アルゼンチンの鶏肉輸出はますます増加していくとみられる。現在、日本の輸入鶏肉市場は90%以上がブラジル産で占められている。しかし、ブラジルでは、サジア社とペルジゴン社との合併により昨年誕生した巨大企業ブラジルフーズ社による寡占化が進んだ上、最近のレアル高や賃金の上昇から対日輸出価格の値上げを要求しているとも聞く。

 鶏肉は、日本国内で豚肉と並んで消費されている。鶏肉の安定供給の観点からもブラジル以外に輸入元を開拓することは喫緊の課題と思われる。今後、丸どりのみでなくブラジルのように鶏肉カット技術などを導入し日本市場にも参入できるようアルゼンチン鶏肉産業に期待したい。


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