調査・報告

乳用種牛肉の一貫生産・販売システムについて(下)
〜北海道チクレン農業協同組合連合会の取り組み〜

農林水産政策研究所 国際食料情報分析官 加藤信夫※


【要約】

 乳用種牛肉の生産は、飼料価格が高騰する中、格付等級と相場の低下が顕著となっており、厳しい経営を強いられている。このような中、消費者団体を主な販売先とする北海道の農協連の事例(国内最大級の乳用種牛肉の一貫生産・販売のビジネスモデル)を調査したので、その結果を前号に引き続き紹介する。

1 生活クラブ向けの販売とニーズのフィードバック

 北海道チクレン農業協同組合連合会(以下、「農協連」という)の現在の販売量のうち、生活クラブ生協連合会(以下、「生活クラブ」という)に代表される消費者団体向けは全体の40〜45%程度で、残りが加工メーカー、外食店向けなどであったが、以前は消費者団体向けが半分以上(約55%)を占めていた。最近では販売力がある加工メーカー向けが農協連の増頭分を吸収して増加している。しかし、BSEの発生によって販売量が大きく減少した苦境時に農協連を支えたのは、生活クラブであった。2008年にようやくBSE前の販売水準に回復したが、リーマンショックで再び販売量が落ち込み、最近では価格を下げても高級部位(カタロース、ロース、ヒレ)を中心に販売が困難なケースが増えている。

 札幌工場で加工された製品(レトルトの牛丼の具、コンビーフ缶など)は、農協連指定の運送業者の冷凍車で、生活クラブの飯能デリバリーセンター(以下、「飯能DC」という)に搬送される。一方、北見工場で製造された冷蔵原料肉(真空パック)は、フェリーを使って週2回(水曜日と日曜日)、農協連と協同会社の竃k海道チクレンミート(以下、「チクレンミート」という)の千葉工場に配送される。千葉工場は牛肉のみの取り扱いであり、95%が生活クラブ向け(福祉クラブ分を含む)である。配送された冷蔵肉は千葉工場で挽肉、ブロック肉、スライス肉のアイテム別にカット・パック加工される。工場に水曜日着の原料肉は倉庫に保管後、土曜日から300〜400のボックスミート分を、日曜日着の原料肉は月曜日から水曜日にかけて500〜600ケース分を加工し、週単位で約1,000ケースを処理する。

 北見工場から出荷データが事前に千葉工場に送信され、千葉工場で輸送中の積み込みミスなどないか荷受け後、確認し、5頭分の個体識別番号をひとまとめにして、ロット番号を付与する(台車の各段に5頭分の各部位を乗せる)。

 後述のように生活クラブと農協連との協議により数量と価格が決定される。

 生活クラブからの消費財の発注は毎週日曜日に千葉工場になされ、翌週の土曜日から順次、加工され、その日のうちに生活クラブの飯能DCに搬入される。翌日には組合員向けのピッキング(小分け)が行われ、生活クラブの各単位生協に配送され、3日目には組合員に配送される。組合員への配送は冷凍・冷蔵車、を利用するほか、保冷剤を使って配送される場合もある。

 千葉工場には北見工場からの受入数量に応じたキログラム当たりの加工料が農協連から支払われる。生活クラブから千葉工場に対しての具体的な消費財の発注を受けると、各部位の使用量が自動的にわかるしくみとなっている。基本部位の組み合わせは北見工場で行うが、詳細は千葉工場で行われ、部位需給バランスを図ることが経営上、極めて重要となっている。生活クラブはかつて5〜7名の共同班購入が多かったためフルセットでの発注が基本であったが、現在は個人班購入となっているのでパーツ注文となっている。このため、受入原料肉の重量に対する製品の歩留率は84〜85%である。

 製品アイテム数は最大で52〜53、毎日、20アイテム程度を製造しており、ステーキ、カタバラ・スライスが定番である。最近増えたアイテムは、牛丼用スライス(バラ、モモ、カタ)、角切りタイプ1の製品であり、使いやすく、調理の手間が省けることが増加要因である。最近ではヒレ、ロースなどの高級部位の需要が減っていることから、例えば、販売価格を下げるため、3枚入りのステーキ肉(500グラムパックで3,000円)を月に1回は2枚入りパックに置き換えるなどの工夫を行っている。単位生協の組合員の高齢化が進んでいることもあり、夏場の焼き肉やバーベキューなどの需要は少なくなっている。鍋物としてのしゃぶしゃぶ用、さらに煮込み用(すね肉など)などは冬場需要、高級部位は12月などに需要のヤマはみられるが、季節需要のヤマが年々低くなり、年間平準化の傾向が強まっている。なお消費期限は、組合員の手元に届いた段階で最低3日間あることを条件としている。

 農協連による生活クラブ向けの販売努力と組合員のニーズのフィードバックについては、(1)解体講習会(部分肉を配送センターに持ち込み加工を実演。併せて牛肉の生産状況等説明)、(2)組合員との意見交換(年間20回程度)、(3)牛肉学習会(生産から加工まで状況説明。内容は上記講習会と同様。年間10回程度)、(4)牛肉試食会(生活クラブ祭りなどに参加し試食を行う。同様の牛肉の生産に係る説明等を行う。年間7〜8回程度参加)、(5)牛肉定例会議(生活クラブ職員を交えた事業計画と実績、クレーム発生状況、販売促進の方法などについての打合せ。年間4回)の開催、を通じて行っている。

農協連による生活クラブ向けの宣伝情報

1 サイコロ(ヒレ、ロース)、モモ一口カット、カレー・シチュー用(どの部位でも利用可)。

2 生活クラブの牛肉の購買状況

 毎月の生活クラブ向け売上額は、精肉が1億2千万円(牛肉約50トン相当)、加工品が2,500万円〜3,000万円で、平均重量で割り戻して計算すると、年間牛3,800頭分(2008年に4,000頭を割り込む)を生活クラブが購入していることになる。牛肉の購入形態は、以前は一頭買い(バランス買い)が基本であったが、最近では組合員が注文する部位が多様になり、部位バランスが崩れてきている。このため、農協連側は部位の利用バランスを牛丼用などの加工品で調整しており、上述のように年4回の農協連との定例会において、部位バランス、製品開発(モモを使った製品開発など)などの諸問題について打ち合わせを行っている。

 組合員が高齢化し、若い世代の加入率が落ちている中、長引く景気低迷の影響により、相対的に単価の高い牛肉の購入量は芳しくない。これまでは、牛肉消費が落ちる分、安価な豚肉、鶏肉にシフトしていたが、現在では豚肉も鶏肉もさほど伸びていない。地域別でみると埼玉県や神奈川県は購入額が多いが、牛肉は価格を下げても消費が戻らず、苦戦している。スーパーでは安価な輸入牛肉に消費者が走っている。

 組合員は2週間分をまとめて注文(注文期間は1週間)し、翌々週に消費財を受け取る(牛乳は週2回)。組合員からの注文はOCR(光学文字認識)で受注し、飯能DCで一括処理し、配達表を単位生協にフィードバックするシステムとなっている。

 消費材は、注文量がある一定以下になると見直しており、加工食品は見直しの対象となる場合が多い。そのほか、生産者からの提案で変更することもある。農協連の商品では、牛丼の具、コンビーフ缶に人気があり、精肉では以前はロースが購入されたときもあったが、最近は「スライス牛丼用」、「カタバラ・スライス」、「ひき肉」などのスソ物(切り落とし用)がよく出る。

生活クラブの販売チラシ(抜粋)

3 生産・加工経費と生活クラブとの価格調整

 一頭当たりの肥育コスト(減価償却費、薬品代などの除く)のうち、素畜代は3割弱、配合飼料費が6割強であり、両者でコストの約9割を占める。最初のヒアリング時(2010年6月)の乳用種の枝肉相場を600円/キログラムとすると、粗収入は約23万円(枝肉重量420キログラムで計算)であるが、マルキン(肉用牛肥育経営安定特別対策事業)があっても赤字状態である。マルキン補てんについてはバイヤーなどに周知されているので、その分の引き下げ圧力がある。

 部位ごとの係数は毎月、販売先の加工メーカーが販売状況をみて決められる。販売先によっては、「一頭買い」のところもあり、この場合は歩留係数で割り戻す。

 流通・加工費は20年間変わっていないため、資材費が上昇したときは苦しくなる。加工メーカーの部分肉のカット料はキログラムあたりは2桁(百円未満)であり、中には本州までの運賃込みのところもある。通常の分割程度であればキログラムあたり20〜30円であり、スジ引き、あるいは「4分の1セット」など歩留まりが大きく低下する加工の場合は、30円から高いもので120円ほど上乗せする場合もある。和牛は枝肉価格が高いので歩留まりとカット料がポイントとなるが、農協連はあくまでも生産に主眼を置いている。

 販売先との価格交渉で「歩留まり」はある程度、考慮されているが、「資材費」や「処理時間」については要望どおりにはなかなかいかない。価格ばかりにこだわっていると牛が流れないため、素牛の導入数と連動する肥育牛の処理頭数を重視することもある。

 生活クラブ向けの価格は、かつては生産費積み上げ方式により設定されていたが、景気減退の中、最近ではそれが難しくなってきている。しかし、生活クラブは今も生産費の重要性を最も理解してくれている販売先である。これに対して、加工メーカー向け販売価格は基本的に東京並びに大阪枝肉市場の加重平均により算出される。市場相場が低迷すると国からの補てん金(マルキンなど)があるものの、生産費を大きく下回る条件で販売しなければならないことがある。

 生活クラブの組合員に対する販売価格は、農協連の生産費見合いの価格に粗利益率(GPR)を加味したものとなる。たとえば1パック800円で供給、25.0%のGPRを入れる場合は、800円/P÷75.0%=1,067円/Pとなる。両者の価格交渉については、生活クラブが毎年4回開催する定例会で協議を開始し、3月に農協連から生産費を提示し、5月に枝肉価格を決定し、その後の事務レベルでの検討を経て、7月の連合消費委員会(毎月開催)で改訂価格を決定する。この委員会は総会に次ぐ意志決定会議であり、消費材に関すること、規格、価格、事業の取り組みなどを決定する権限を有している。実際の価格の改定は11月からであるが、この間の合意形成の過程は開示し、新価格は商品販売の4カ月前に組合員に提示する。

4 一貫生産・販売システムを支える要因

 この一貫システムは、農協連とチクレンミート、生産農家(預託農家)、農協連会員農協、主な販売先である消費者団体により構成されており、以下の3つの要素により成立している。すなわち、(1)素牛導入者や肥育農家(預託農家が主)が固定化されており、預託システムにより農家は飼養管理のみに打ち込め、健康な牛作りのための飼養管理が徹底されていること、(2)肉用牛は食肉センターのみで処理され、安全性の根幹であると畜・解体・加工施設に従事する職員の高い意識と技術が維持されていること(生産ラインをオープンにし顧客と直接接する機会が多いことが意識向上につながっている)(3)販売先として生産費を理解する消費者団体向けのシェアが高く(40〜45%)、下記の販売努力とニーズのフィードバックがなされていること、である。

5 一貫生産・販売システムの課題

 どの牛肉のサプライチェーンも同様であるが、昨今の厳しい経済情勢を背景とした牛肉(特に高級部位)消費の低迷、それによる各流通段階における中間在庫が増加する中、農協連の一貫生産・販売システムであっても生産費を基本とした価格設定が難しくなっている。末端価格への「国産プレミアム」の付加、加工賃やと畜料金の引き上げを行えるような状況にはなく、加工メーカー向けの価格(すなわち量販店向け価格)に至っては値下げ圧力が強まっている。

 このように取引価格が非常に厳しい状況にもかかわらず、飼料価格やエネルギーコスト、トレーサビリティなど安全対策にかかる経費、パーツの細分化などによる流通・加工経費の上昇により、生産費は上昇基調にある。

  農協連によれば、牛肉自由化以前はノーマルカットでフルセットが中心であったが、大手加工メーカーの主な顧客が量販店となった頃からパーツの細分化が要求されはじめた。最近では店舗での取り扱いやすさを考慮した各ロイン系部位(ヒレ、リブロースなど)を2分割ずつし、1頭で4つのロインセットを求められることもある。分割の際には脂肪を除去する整形(特殊カット)作業を行うが、これにより歩留まりが落ちる。処理頭数が増えると粗収入は増えるが、最近の注文傾向を踏まえれば複雑なカット作業が増え、歩留まりが低下する可能性が高いので、コスト管理の徹底や加工料の交渉は経営上、非常に重要となる。

 以上のように「コスト高、相場安」の状況で収益性は大変厳しいものがあるため、不需要部位の販促は緊要な課題のひとつである。農協連では、余剰部位は加工メーカーが利用しやすいよう札幌工場においてカット加工して供給しているが、取引価格は東京と大阪市場の価格をベースに決められ、かつ値下げ圧力が強い。かつては夏場には焼肉用部位が、年末にはロイン系(高級部位)部位の引き合いが強くなる「季節需要」がみられたが、現在は季節需要の上下動が小さくなり、全体の需要量がかなり落ち込んでおり、品余りの傾向が続いている。加工品向け原料として利用可能な冷凍肉の開発努力も行っているが、牛肉は原料価格が高いため思うように進まず、実際は納品価格を下げて処理している状況にある。

 コスト高、相場安の対策として付加価値製品の開発が考えられるが、牛肉は加工アイテムに広がりを持たせることが難しいこと、原料の高い牛肉を使った加工品は価格競争力が低いこと、が販売促進の障害となっている。

6 今後について(農協連の見方)

 事業拡大の可能性については、一貫生産・販売システムの処理対象となる肥育牛(経産牛を含む)が増える見込みはなく、農協連自身が肥育牛を増やせるかどうかにかかっているが、現在の相場傾向、資金繰りの厳しさ、と畜料金の引き上げの難しさから、現状維持の方向を考えている。酪農も先行き不透明であることから、2009年から経産牛の出荷頭数が減っている。しかし、一方で施設改修はいずれかの時点で行わなければならないが、上記のような高コスト・低収益構造の中では施設改修は難しい。飼料コスト削減のためのデントコーンの作付け、食肉センターのコストダウンも限界がある。

 ホームページなどで製品の付加価値を積極的にPRしつつ、製品の価値を小売側に理解させる努力は継続したいが、実際は牛肉のおいしさなどの価値を見極め、高く売る努力をしている小売業者が極めて少ないため、国産の付加価値を売価に反映させる「国産プレミアム」を認めてもらうのは容易なことではないとのことであった。乳用種牛肉は生産費を基本とした価格形成が行えればよいが、現状では消費者団体を含めて残念ながら実効性は低い。

 食品スーパーとは直接取引したいが、デリバリーと代金回収(特に個別スーパー)の問題があるので、結局、全国物流網を有する加工メーカーに頼らざるを得ない状況にある。

おわりに

 年間1万頭以上のブランド牛を一貫生産・販売システムの下で処理している事例は他にはない。農協連会員の生産者は一貫システムおよび上記消費者団体との交流会などを通じて、これら情報がフィードバックされていることが持続性のある経営につながっているものと考える。一般論であるが、多くの肉用牛生産者は養牛と枝肉相場には高い関心を持っているが、と畜以降の管理状況と実需者の評価までは関心が及んでいない。

 農協連グループの一貫システムでは、脂肪交雑が少ない健康的な赤肉を生産してきているが、和牛、交雑牛を含む牛肉の販売傾向が変化する中にあって、乳用種牛肉については3等級の格付けを得るのは難しく、外観からすれば輸入牛肉と競合する可能性が高いので、価格交渉においては非常に厳しい状況にある。このため、良質な素牛導入と出荷牛の確保、加工ラインの改善、不需要部位を含めたバランスのよい牛肉販売の努力(商品開発、PRの強化)などが求められている。

 最近の牛肉の消費動向は確かに厳しいものがあるが、実際、川上から川下までの事例調査してみると、国産牛肉の購買者の購買行動を小売側で分析して販売努力をしているスーパーの事例や、格付けにこだわらず、おいしい国産牛肉を配送する卸売業者が産地と消費地との調整役として機能している事例では、国産牛肉の販売は順調に推移している。このように農協連タイプの生産者主導、あるいは卸売業者などが主導する一定規模のサプライチェーンの構築と経営の安定化を図っていくことは、適正な価格形成や消費拡大の側面からも重要であろう。

 ここ2年間にわたる生産からと畜・加工、販売に至る現地調査を通じて、牛肉については川上、川中、川下のいずれの流通段階も厳しい経営状況にあるが、中でも川中に位置すると畜・加工場や卸売業者が最も厳しい状況下にあると推察している(価格スプレッドを用いた内部分析の結果)。さらに量販店を中心としたパーツ発注の増加、加工施設の老朽化、ロジスティック・コストの増大などの本文で触れたような各種課題に直面している。これら加工・流通事業者は、生産者、地域経済・雇用などの面で、多大な貢献をするとともに、安全な食肉を販売先まで届ける重要な役割を担っている。と畜場や加工場は系統、商系の多数の企業・団体によって運営されており、一定の流通合理化は必要であるが、経済原則によって大消費地のと畜場だけが生き残り、地方のと畜場が次々と廃業に追い込まれることになれば、肉用牛生産や酪農地域の生産基盤に大きな打撃を与えかねない。

 牛肉の川中部門は複雑な流通構造となっており、調査報告も極めて数少なく光が当たりにくい部門となっているが、本部門についてのサプライチェーンの実態にかかる情報を関係者間で共有できるようにすることは、的確な各種政策を設定する上でも重要であると考える。

(※)現:生産局畜産部畜産振興課


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