海外情報  

米国における最近の飼料穀物の情勢
―2011/12年度産トウモロコシの需給動向―

調査情報部 調査役 上田泰史


  

【要約】

  米国農務省(USDA)は5月11日、今年初めてとなる2011/12年度産の飼料穀物の生産予測を公表し、その中で、トウモロコシ生産量を対前年8.5%増の135億500万ブッシェル、期末在庫を同23.3%増の9億ブッシェルと推測した。期末在庫率は6.7%と前年度産の5.4%より改善しているものの、依然として低い水準にある。

 今後は、収穫までの天候の状態が相場を左右する大きな要因となるが、その他にも、米国内の飼料需要やエタノールに対する税制措置など、相場に影響を与える要因が認められる。トウモロコシの大部分を米国に依存する我が国としては、今後も米国のトウモロコシの需給状況や関連政策などを注視する必要がある。

1.はじめに

 米国のバイオエタノール政策によりトウモロコシのエタノール需要が増加したことなどから、トウモロコシ価格は2006年後半より上昇を続け2008年6月には7.5ドル台と過去最高値を更新した。その後、トウモロコシの増産、世界的不況による需要減退、金融危機による投機資金の流出などにより先物相場は3〜4ドル台で落ち着きを見せていたが、2010年6月末より、再び上昇に転じたところである。本レポートでは、どのような要因がトウモロコシ相場を押し上げたのかを分析するとともに、2011/12年度産(9月〜8月)の需給動向、今後相場に影響を及ぼす要因などについて報告したい。

図1 トウモロコシの用途別需要の推移
資料:USDA
  注:2010/11は見込み値。2011/12は推計値。

2.トウモロコシの先物相場を押し上げた要因

 昨年4月末に米国イリノイ州を訪問し、市場関係者と意見交換する機会を得た。その際、2010/11年度産のトウモロコシ価格の見通しについて、「今年(2010年)の作付けは非常に順調だ。大きく天候が崩れなければ、需給について心配はない。価格も高騰することはないであろう」とのコメントが得られた。その当時のトウモロコシのシカゴ市場の先物相場(期近物)は3ドル中頃にあり、上述のコメントは一部の意見ではなく関係者における当時の共通認識であったかのように思われる。しかし、相場は6月末までは横ばいで推移したものの、それ以降反転し上昇を続け、今年の4月11日には、1ブッシェル当たり7.8ドル台と過去最高値を更新するに至った。一年前の予測とは全くかけ離れた状況に直面している。なぜ予測が外れてこのような状況に陥ったのか、どのような要因が相場を動かしたのか、昨年から本年4月末までの1年間を振り返り説明したい。

(1)トウモロコシの先物相場を動かした3つの局面

ファースト・インパクト(2010年6月30日公表のUSDA統計)

 相場に大きな影響を与えた最初の要因は、USDAが2010年6月30日に公表した「Acreage」と「Grain Stock」である。

 「Acreage」では毎年6月30日、その年のトウモロコシの作付面積が公表される。例年、この統計が公表されるまでは、次年度産のトウモロコシ生産量の算出には3月1日時点の作付意向調査の結果が活用されるが、公表後は、当該数値が作付面積の基礎データとなる。2010/11年度産の場合、「Acreage」の作付面積は、意向調査時と比べアイオワ州やネブラスカ州など主要生産州での減少を受けて、928千エーカー減の8千790万エーカーとされた。7月に公表された世界農産物需給推計における2010/11年産トウモロコシの生産量の予測値は、この 「Acreage」に基づき、前月予測値比1億2500万ブッシェル減の132億4500万ブッシェルに下方修正された。

 「Grain Stock」では、毎4半期末(3月、6月、9月、12月)に、当該月1日現在の穀物在庫数値が公表され、このデータを参考に、トウモロコシの期末在庫が推計されている。2010/11年の場合、6月1日現在のトウモロコシ在庫は市場関係者の予想を下回る数値が公表されたので、その後の世界農産物需給推計において、2009/10年産のトウモロコシ期末在庫が前月予測値比1億2500万ブッシェル減の14億7800万ブッシェルに、あわせて2010/11年度産トウモロコシの期末在庫も2億ブッシェル減の13億7300万ブッシェルに下方修正された。

 この2つの統計数値が公表された昨年6月30日、トウモロコシの先物相場は8営業日ぶりに反発し、7月の先物は29.25セント高の354.25セントで終了した。この2つの統計によって、市場関係者は、今後のトウモロコシ需給はタイトになる可能性が高いとの感触を得たものと思われる。

表1 2010/11年度産トウモロコシ作付面積
(単位:百万エーカー)
資料:USDA。ただし、市場関係者の数値はインフォーマ・エコノミクス社からの聞き取り

 なお、ロシア、ウクライナなどが干ばつにより夏頃から小麦を含む穀物等の輸出を禁止したことなども、夏以降の穀物相場を押し上げる要因となった。

セカンド・インパクト(2010年10月8日公表のUSDA統計)

 2番目の要因は、USDAが10月8日に公表した「Crop Production」におけるトウモロコシ単収の下方修正である。それまで、1エーカー当たり162.5ブッシェルと見込まれていた単収は6.7ブッシェル引き下げられ155.8ブッシェルとされた。これは、単収が全米2番目の生産州であるイリノイ州で最大となる14ブッシェルの引き下げ、国内最大の生産州のアイオワ州でも10ブッシェルの引き下げなど、多くのコーンベルト諸州で8月前半の高温による土壌水分の減少などで単収が大きく引き下げられたことが要因となっている。この修正によって、生産量は前年度産を下回ることになり、期末在庫も、前月予測値を2億1400万ブッシェル下回る9億200万ブッシェルとなった。

 この統計数値が公表された10月8日、トウモロコシの先物相場は急騰し、12月の先物は30セント高(ストップ高)の528.25セントで終了した。市場関係者は以前より、USDAの単収見込みは高すぎるとの見通しを持っていたが、今回の修正は、予想を上回る引き下げであったため、「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれた。これ以降、先物は5ドルを超える水準で推移することになり、米国産トウモロコシの供給不安や南米の天候不安などから3月上旬には7ドル台に達した。

表2 2010/11年度産トウモロコシの在庫
(単位:百万ブッシェル)
注:USDA。市場関係者の数値はインフォーマ・エコノミクス社からの聞き取り

サード・インパクト(2011年3月31日公表のUSDA統計)

 3番目の要因は、USDAが3月31日付け「Grain Stock」において、2010年12月〜2011年2月の消費量が前年同期と比べ3.2億ブッシェル増加したことにより、2011年3月1日時点のトウモロコシ在庫が前年を15%下回る65.2億ブッシェルと公表したことである。

 この数値は市場関係者の予想をかなり下回ったため、3月31日のトウモロコシ先物価格は反発し、5月切りは30セント高(ストップ高)の693.25セントで終了した。翌日も5月切りが736セントと続伸し、その後、先物は7ドルを超える水準で推移することになった。

(2)ボトムライン:相場の押し上げはファンダメンタルズの脆弱性に起因

 これまでの説明で明らかなことは、相場を押し上げる環境をつくった原因はUSDAの各種統計数値にあるということである。相場の急激な上昇について投機資金の影響があることは言うまでもないが、供給に係るファンダメンタルズの脆弱性が、相場の押し上げのきっかけとなったことに注目すべきであろう。

 また、堅調なトウモロコシ需要も、高値で推移する相場を支えた要因の一つである。今年3月1日現在の在庫が関係者の予想を下回るものとなったのは、昨年6月以降価格が強含みで推移したにもかかわらず、トウモロコシに対する需要が減退しなかったことを表している。トウモロコシ需要は、エタノール向けと飼料向けとに大分されるが、前者は原油価格の高騰および法律に基づく使用義務(2010年120億ガロン)、後者は畜産物を含む好調な輸出需要や、堅調な米国内の畜産物価格などに牽引されているものと推測される。なお、原油価格の上昇や輸出の増大は、ドル安に支えられているという側面があることも忘れてはいけないであろう。

 表3に直近1年の2010/11年度産トウモロコシの「供給」と「需要」の予測データを示した。昨年5月をゲームのスタートと位置付ければ、「供給」と「需要」のどちらがゲーム・チェンジャーとみなされるかは明らかである。

表3 2010/11年産トウモロコシの予測数値の変遷
(単位:百万ブッシェル)
資料:USDA

 このほか、相場の押し上げに大きな影響を与えた要因としては、昨年末のブッシュ減税延長法案の成立に伴うエタノール税制措置の1年延長がある。これにより、ブレンダー(エタノールをガソリンに混合する業者)に対する消費税相当納付額の減額(エタノール1ガロン当たり45セント)と輸入エタノールに対する関税(同54セント)が引き続き措置された。これらはいずれも国産エタノール利用の促進に資するものであり、相場押し上げの要素の一つになったものと推測される。

図2 トウモロコシのシカゴ相場(期近物)の推移
資料:シカゴ先物相場

3.2011/12年産の飼料穀物等の需給動向

 米国農務省世界農業観測ボード(USDA/WAOB)は5月11日、2011/12穀物年度(2011年9月〜2012年8月)における国内外の主要農作物の需給見通しを以下の通り公表した。

(1)トウモロコシ:米国産は過去最高の生産量を記録するものの在庫率は依然として低水準

 生産量は対前年比8.5%増となる135億500万ブッシェルと予測される。同年度の作付面積については、3月末に公表された作付意向調査の数値である前年度比4百万エーカー増の92.2百万エーカーが用いられている。単収については、2月時点では過去20年間のトレンドから推計された1エーカー当たり161.7ブッシェルが採用されたが、コーンベルト地帯の天候不順による影響を加味し3ブッシェル引き下げられ、158.7ブッシェルとされた。なお、今回公表された生産量は過去最高となる数値である。

 一方、国内消費量は、前年度をわずかに上回る115億ブッシェル(前年度比0.04%増)と予測される。用途別に見ると、エタノール向けについては、ガソリン消費量の緩やかな増加やエタノールの輸出需要を踏まえて50.5億ブッシェル(同1.0%増)に増加する一方、飼料等向けはDDGSの代替利用などが進んでいることなどから、51億ブッシェル(同1.0%減)とわずかに減少すると見込まれる。また、輸出向けについては、アルゼンチンなどにおいてトウモロコシの増産が見込まれることから、18億ブッシェル(同5.3%減)に減少すると見込まれている。

 また、今回公表された需給見通しにおいては、2010/11年度産の期末在庫についても前月予測値から5500万ブッシェル引き上げられ7.3億ブッシェルとされた。これは、市場関係者の予測(5.65〜7.0億ブッシェル)を超える上方修正であるが、USDAは、「前月の想定より、輸出が5000万ブッシェル落ち込み、輸入が500万ブッシェル増えた結果」とコメントしている。

表4 米国におけるトウモロコシの需給見通し
(2011年5月11日米国農務省公表)
資料:USDA/WAOB「World Agricultural Supply and Demand Estimates」
  注:年度は、各年9〜8月

 期末在庫は、期首在庫の上方修正に加え、生産量が増加し消費量が減少すると推測された結果、前年度比23.3%増の9億ブッシェルと予測される。在庫率も前年度の5.4%から6.7%に改善するものの、依然として記録的に低い水準であるため、ブッシェル当たりの生産者平均販売価格は、前年度の5.1〜5.4ドルを大幅に超え過去最高となる5.50〜6.5ドルになるものと推測される。

 世界におけるトウモロコシ生産量は、前年度比6.4%増の8万6773万トンと予測される。特に、アルゼンチン、旧ソ連邦諸国(FSU-12)において、それぞれ前年度比18.2%増の2600万トン、同36.4%増の2532万トンとなる見込みである。また、近年輸入を増加させている中国については、前年度の生産量が前年度比2.4%増と見込まれるため、輸入量は前年度と比較して100万トン減の50万トンにとどまると推測される。

表5 世界各国におけるトウモロコシの需給見通し(2011年5月11日米国農務省公表)
資料:USDA/WAOB「World Agricultural Supply and Demand Estimates」
  注:年度は、世界各国の穀物年度

(2)大豆:生産も在庫も減少

 米国の大豆生産量は、前年度を1.3%下回る32億8500万ブッシェルと予測される。トウモロコシへのシフトなどにより大豆の作付面積は140万エーカー引き下げられ7660万エーカー(前年度比1.0%減)になる見込みであり、減産の大きな要因となっている。単収については、1エーカー当たり43.4ブッシェル(同0.2%減)と前年度並みに据え置かれた。

 これに対し、大豆総消費量は、前年度を0.5%下回る33億1000万ブッシェルと見込まれる。用途別に見ると、国内搾油向けが500万ブッシェル増えて16億5500万ブッシェル(同0.3%増)となったものの、種子等向けは1000万ブッシェル減の1億1500万ブッシェル(同8.0%減)、輸出向けも中国の強い輸入需要にもかかわらず競合する南米の輸出増の影響により、15億4000万ブッシェル(同2.5%減)といずれも前年度から減少すると予測される。

 このように大豆については、消費量の減少よりも生産量の減少幅が上回るため、期末在庫は前年度より1000万ブッシェル減(前年度比5.9%減)と予測される。また、ブッシェル当たりの生産者平均販売価格は、生産減と在庫減を受けて前年度の11.40ドルよりさらに上昇して12.00〜14.00ドルになると予測される。

表6 米国における大豆の需給見通し
(2011年5月11日米国農務省公表)
資料:USDA/WAOB「World Agricultural Supply and Demand Estimates」
  注:年度は、各年9〜8月

(3)小麦:米国の生産は天候不順の影響などにより減少する見込み

 米国の小麦生産量は、前年度比7.5%減の2043百万ブッシェルと推測される。作付意向調査によれば、小麦の作付面積は前年度比8%増の58百万エーカーが見込まれるものの、コロラド州、カンザス州、テキサス州、オクラホマ州における干ばつにより、冬小麦、特にHard Red Winter(HRW)小麦が前年度比25%程度落ち込むことにより、全体の生産量は減少が見込まれる。

 一方、国内消費量は、前年度比5.1%増の1240百万ブッシェルと見込まれる。用途別に見ると、食料向けは人口増加などに伴い前年度比6%増、飼料等向けは、飼料需要の小麦へのシフトや飼料向けに適した小麦の増産などを踏まえ、同29.4%増になると見込まれる。また、輸出向けについては、ロシア、ウクライナなどで小麦生産が増加することなどから、前年度と比べ2億2500万ブッシェル減少し、10億5000万ブッシェルになると見込まれる。

表7 米国における小麦の需給見通し
(2011年5月11日米国農務省公表)
資料:USDA/WAOB「World Agricultural Supply and Demand Estimates」
  注:年度は、各年6〜5月

 期末在庫は、期首在庫および生産量の減少により、前年度比16.3%減の7億200万ブッシェルと見込まれる。在庫が改善しないため、ブッシェル当たりの生産者平均販売価格は、前年度の5.65ドルを大幅に超え過去最高となる6.80〜8.20ドルになるものと推測される。

4.今後のトウモロコシ相場に影響を与える要因

 このように、2011/12年度産トウモロコシの需給について初めての見通しが発表されたところであるが、今後はこれをベースに、需給両面のファンダメンタルズや政策の動向などさまざまな要因が先物相場に影響を与えることになる。以下に、今後注目すべきポイントについて整理した。

(1) 供給サイドの要因

① 天候

 穀物の生産は天候に大きく左右されるが、トウモロコシの場合、重要なポイントとなるのは、作付期に当たる4月中旬〜5月下旬、受粉期に当たる7月上旬〜8月上旬の天候状況である。

 今年はコーンベルト地帯の多雨の影響で作付が大幅に遅れている。とりわけ、同地帯の東部に位置するインディアナ州などの遅れが目立つ。農家は、降雨の影響によりトウモロコシの作付ができなければ、作付時期が遅い大豆にシフトする行動をとることから、トウモロコシの作付面積が減少する可能性がある。一方で、大豆とトウモロコシの価格差が縮まりトウモロコシ作付のインセンティブが高まっていることから、作付時期が多少ずれ込んだとしても、農家はトウモロコシを選択するとの見方もある。いずれにしても、トウモロコシの作付面積については、6月30日に公表される「Acreage」において明らかとなる。ただし、作付が大幅に遅れた場合、実態が正確に反映されないこともある。

表8 トウモロコシの作付進捗状況
資料:USDA/NASS

 また、十分な単収を確保するために重要となる受粉については適度な水分が必要であり、高温乾燥(ホット&ドライ)は不完全な受粉につながる。5月後半に作付した場合、受粉期が最も暑い7月下旬〜8月上旬になることなどから単収が減少する可能性があることにも注意すべきであろう。

② 前年度産の在庫水準

 USDAは2010/11年度産トウモロコシの期末在庫について、3月1日現在では予想を大幅に下回っていたにもかかわらず、翌4月では値を据え置き、さらに5月では上方修正を加えた。USDAとしては、「トウモロコシに対する飼料需要の小麦へのシフトや、2011/12年度産トウモロコシの先取り」という考え方が在庫設定の根底にある。しかしながら、市場関係者の中には、USDAの在庫水準は高すぎるとの見方もある。2010/11年度産トウモロコシの期末在庫の引き下げは2011/12年度産トウモロコシの期首在庫引き下げに直結し、当該年度の期末在庫の下げ要因になる。2010/11年度産の場合、昨年6月末の在庫引き下げが相場押し上げのきっかけの一つともなったことから、6月末に公表される「Grain stock」が注目されるところである。

(2)需要サイドの要因

①米国内における需要:需要減退の可能性
(飼料需要)

 現在の価格水準では、トウモロコシの飼料需要の小麦へのシフトが一定程度起こっているものと考えられる。4月の世界農産物需給推計の月次報告では、2010/11年度産について、年度後半におけるトウモロコシから小麦への飼料需要のシフトを考慮し、飼料等向けが50百万ブッシェル下方修正された。また、5月の月次報告においても、小麦の飼料利用の増加を想定し、2011/12年度産小麦の飼料等向けが前年度より5000万ブッシェル引き上げられた。

 冬小麦にはSRW(Soft Red Winter)とHRW(Hard Red Winter)の2種類があるが、飼料としてもっぱら利用されるのは、品質が落ちるSRWである。5月11日に公表された「Crop Production」によると、2011/12年度のSRWの生産量は前年度比79.6%増と大幅な増産が見込まれる。SRWの作付地域は南東部および中西部に集中していることから、主に鶏、豚の飼料として利用されることが推測される。しかしながら、豚肉及び鶏肉は、国内及び輸出需要などに支えられ堅調な価格を維持していること、飼料成分を途中で変更することは容易でないことなどから、小麦飼料への転換については、USDAの想定通り進まないとする意見もあることに留意する必要があろう。

図3 冬小麦の作付地域
資料:USDA/FAS
  注:黄色い数値は生産シェア(%)

(エタノール需要)

 エタノール需要については、原油価格が高水準で推移している昨今の状況において、現行水準のトウモロコシ価格では減退しないと言われている。インフォーマ・エコノミクス社(米国の農業コンサルタント)の試算によれば、エタノール価格が1ガロン当たり2.6ドルであれば損益分岐点となるトウモロコシ価格は8ドルを超える水準とされる。

 図4に示すエタノールの一日当たり生産量の推移では、特段の減少傾向は認められない。4月中旬から下旬にかけての生産の落ち込みについては、ガソリン価格の高騰に伴いガソリンに対する需要減退が起き、それに連動してエタノールの需要が一時的に減少したとする見方が適当であろう。

図4 一日当たりエタノール生産量の推移
資料:Renewable Fuels Association, USDA

②輸出需要
(トウモロコシの輸出需要:中国の動向)

 昨年より、米国産トウモロコシ輸入におけるメインプレーヤーとして、中国の動向が注目を集めている。中国は、経済発展に伴う畜産物需要の高まりなどから、米国からのトウモロコシ輸入を増やし、2010年には前年の約10倍に当たる146万トンを米国から輸入した。今後の中国の輸入動向について、アメリカ穀物協会のドア会長兼CEOが本年4月、「世界的にトウモロコシ在庫が十分な状況にあれば、中国は年間5〜7百万トン輸入する可能性を持っている。今年も、本年8月末までに2〜3百万トンの購入があるのではないか」とコメントするなど、米国トウモロコシ関係者の期待は高まっている。しかしながら、中国政府は本年4月、非飼料用トウモロコシに対する増値税免除を6月末まで停止すると発表したほか、金融機関に対して、非飼料用トウモロコシの購入に対する資金の貸し付けを停止するよう要請した。中国が今後もトウモロコシの輸入を続けるのかどうか、動向を注目すべきであろう。

表9 米国産トウモロコシの国別輸出量の推移
(単位:千トン)
資料:USDA/FAS
表10 米国産DDGSの国別輸出量の推移
(単位:トン)
資料:USDA/FAS
  注:関税コード2303300000(BR WR, DTLR, GRN)

 また、中国は米国産DDGSについても輸入を急激に増やしているところであるが、中国政府は現在、米国産のDDGSにアンチダンピングの可能性があるとして調査を実施している。中国については、DDGSの輸入にも着目する必要がある。

(エタノールの輸出需要)

 エタノール輸出の伸びは、堅調な米国内のエタノール需要を支える一つの要因になっている。米国産エタノールの輸出が好調な理由としては、ブラジルにおいて、砂糖価格の高騰からサトウキビの砂糖仕向けが増加したため、サトウキビ由来のエタノールの輸出余力がないことなどが挙げられる。インフォーマ・エコノミクス社によれば、2010/11年度における米国のエタノール輸出量は前年度比166%増の7億ガロンを記録した。しかし、来年度は砂糖価格が軟化しブラジルのエタノール生産が増加することにより、米国のエタノール輸出が落ち込むのではないかとの見方もある。米国の場合、エタノール輸出量は生産全体の5%程度であるため、需給への影響は限定的であるものと推測される。一方で、投機ファンドなどはエタノール輸出の落ち込みに敏感に反応するので、相場の下げ要素になる可能性があるとの意見もある。

(3)米国の政策動向

①バイオエタノールに対する税制措置

 トウモロコシ価格が高騰する中、昨年末に本年12月末までの延長が決定された、ブレンダーに対する消費税相当納付額の減額(エタノール1ガロン当たり45セント)、輸入エタノールに対する関税(同54セント)への風当たりが強くなっている。このため、本年末に税制措置が現行どおり延長される可能性は非常に低い。

 エタノール反対派のコバーン上院議員(共和党、オクラホマ州選出)は数名の議員とともに、これら措置を本年6月末に完全に打ち切る法案を提出している。同議員は「消費税控除はブレンダーに直接お金を配っているようなもので、国民の負担は年間60億ドルに達するが、最近のアイオワ州立大学の試算によれば、これら税制措置は国民の負担に対してわずかな国内雇用を新たに作り出しているにすぎないことが分かった。現下の財政状況やガソリン価格の高騰などを踏まえれば、エネルギーコストと食品価格の上昇に加担する措置を続けることは無責任である」とコメントしている。なお、当該税制措置の撤廃は国産エタノールの需要減につながるとみられることから、トウモロコシ相場にとっては、下げ要素となる可能性が高い。

 これに対して、トウモロコシ由来エタノール推進派のコンラッド上院議員(民主党、ノースダコタ州選出)およびグラスレイ上院議員(共和党、アイオワ州選出)は、税制措置を2016年まで延長する見返りに、原油価格に連動した消費税控除の段階的な削減などを内容とする法案を提出している。この法案に対して、昨年末の税制措置延長の検討の際には一枚岩でなかった関連団体が一斉に支持を表明している。年末に向けたエタノール関連税制措置をめぐる議論の中で、同法案を軸に検討が行われるのかどうか、注目されるところである。

 なお、議会ではエタノール反対派と推進派双方の議論が活発化しているが、オバマ政権が従来のエタノール推進政策を大幅に転換する気配は認められない。ヴィルサック農務長官は5月5日の記者会見において、「厳しい財政状況に直面しているが、エタノール推進政策は地域の雇用創出に貢献しているほか、ガソリンの値上がりを緩和する効果がある。オバマ大統領も現時点ではエタノールに関する補助金をカットする対策に関心はない。」とコメントした。

②土壌保全事業(CRP)見直し

 土壌保全事業(CRP、Conservation Reserve Program)は1985年農業法により導入された。土壌侵食を起こしやすい農地および環境的に脆弱な耕作地の所有者が政府との間で特定の耕作地を10〜15年間休耕するなどの契約を結ぶことにより、奨励金を受け取る内容となっている。同事業の対象面積は、2010年7月の段階で31.3百万エーカーとなっている。

 近年、トウモロコシなどの作物価格が高いことから、CRPの対象となっている休耕地を事業途中で解約して耕作地に戻すインセンティブが高まっている。しかし、事業を中途解約する場合、土地の所有者はそれまでに受け取った奨励金に加えて、金利相当分とペナルティ(受け取った奨励金×25%)の支払いが課せられており、このペナルティが解約の妨げとなっている。

表11 CRP対象面積(2009年10月31日現在)
(単位:エーカー)
資料:USDA/FSA

 このような中、CRPの中途解約を促進し穀物作付面積の増加を図るため、26名の下院議員は連名でオバマ大統領あてにレターを発出し、CRPの対象地についてペナルティ免除を本年5月1日までに認めるよう要請した。このレターについて政府側は特段のコメントを出していない。ルーカス下院農業委員会委員長、ステビナウ上院農業員会委員長はともに、「ペナルティ免除によって耕作地に復帰する土地が出てくれば、環境保全が必要な土地がCRPの対象となりやすくなる」と見直しに前向きなコメントをしており、今後、ペナルティ免除の動きは、益々強まることが予想される。

 各州のCRPの対象面積については、テキサス州、モンタナ州など小麦産地のシェアが大きいことから、ペナルティが免除された場合、穀物では小麦の生産が最も増加する可能性が高い。このほか、コーンベルト地帯のミネソタ州、アイオワ州、イリノイ州も一定のシェアを占めていることから、トウモロコシ生産の増加要因ともなるであろう。

 しかしながら、CRPの見直し議論は、2011/12年度産トウモロコシの作付には間に合わないので、見直しが最短で行われたとしても、2012/13年度産の生産に影響を与える要因となる。

③米国政府の量的金融緩和策第2弾(QE2)

 連邦準備制度理事会(FRB)は昨年11月より量的金融緩和策第2弾(QE2)を実施し、米国債を買い入れ大量のドルを市場に供給している。現時点ではQE2は予定通り6月末に終了する確率が高いものと見込まれている。トウモロコシをはじめ商品市況の上昇には、QE2などによる金融の緩和が大きく影響しているとも言われており、QE2終了前後の先物市場における投機資金の動きに注目すべきであろう。

5.おわりに

 トウモロコシをはじめとする穀物の価格動向については、需給のみならずエタノールなどのエネルギーや投機資金の動きなどさまざまな要因が複雑に絡み合っており、今後の動向を正確に見通すことは困難である。しかしながら、本レポートの最初の項目で述べたように、市場が大きく変動する時は、ファンダメンタルズにおいて関係者の予想を覆すような動きがあることが多い。今後も継続してUSDA の各種統計数値を分析することが重要である。

 2011/12年度産トウモロコシについては、記録的に少ない期首在庫からスタートすることから、ここ数年の状況と比較すれば、需給の変動を吸収する緩衝領域の幅が非常に小さい一年になると言えるであろう。ファンダメンタルズが脆弱な状況において、天候不順などにより供給が不安定になれば、一気に相場が上振れする可能性もある。しかしながら、現在のトウモロコシ相場の水準は、作付の遅れなどの天候不順を一定程度織り込んだ上で形成されている可能性も高く、天候が良好となり収穫が順調に進んだ場合には、相場の弱含みが続く状況も出てくるであろう。

 いずれにしても、トウモロコシの大部分を米国からの輸入に依存している我が国としては、安定的な輸入を確保するため、今後とも、米国のトウモロコシ需給について注視することが必要である。


 
元のページに戻る