調査・報告

コントラクターの現状と展望および課題
〜北海道十勝の状況を一つの例としてこのテーマを考える〜

畜産・飼料調査所 御影庵 主宰 阿部亮
討論会参加者:泉谷孝一、泉谷哲人、林敬貴、原仁、山田洋文
町智之、古川研治、前塚研二、小澤崇洋、渡邊敏弘



【要約】

 北海道十勝地方では、年々コントラクター設立数の増加に伴い、コントラクターへの作業量や作業内容への期待が拡大しつつある。今後も酪農の規模拡大は図られると予想される中、コントラクターを維持・発展させるためのコントラクター関係者による討論会を実施した。そこでは、コントラクター運営の課題として、地域農業振興とのタイアップを前提としたコントラクター組織の財務健全化と農家の利用料金に対する理解、オペレーターの技術向上等々、諸課題が浮かび上がってきた。

−はじめに−

 農林水産省「コントラクターをめぐる状況」によると、平成20年度のコントラクターの組織数は全国で522事業所であり、酪農の作業の一部を外注(アウトソーシング)するという先駆的な仕事が開始された頃の、平成5年の47事業所からみると、その普及・拡大の勢いには、目をみはるものがある。都府県では耕畜連携の橋渡し、稲発酵飼料の栽培と利用、乾田でのトウモロコシの栽培とサイレージ利用、そして北海道では牧草サイレージやトウモロコシサイレージの調製、あるいはコントラクターとTMRセンターの連携の場面での活躍が伝えられている。大袈裟な言い方にはなるが、コントラクター無しには地域の酪農・農業は持続できないという地域もある。しかし、コントラクターの経営基盤、技術基盤、社会的な評価は現在、必ずしも確固としたものではない。

 平成22年11月11日と12日に、北海道十勝のコントラクターの関係者が集まり、調査資料の検討、専門家及び利用者である酪農家からの意見聴取、それらを基礎とした総合的な討議等を内容とする検討会を開催した。本稿はこの検討会の取りまとめであり、文責は阿部が負う。本稿の中にコントラクターの運営・維持について参考になることを見いだしていただければ幸いである。

 なお、以下に検討会にご参集いただいた方々の氏名を記して、謝意を表する次第であります。泉谷孝一・泉谷哲人(泉谷牧場)、林敬貴(有・清水町農業サポートセンター)、原 仁・山田洋文(北海道総合研究機構十勝農業試験場)、町智之・古川研治・前塚研二・小澤崇洋・渡邊敏弘(十勝農業協同組合連合会)(敬称略)

−国内の飼料をめぐる現状−

1.穀類の供給と酪農の現状

 2月1日のトウモロコシのシカゴ商品取引所における価格(3月限、1ブッシェル25.4キログラム)は6ドル66セントとなった。往事(平成18年秋以前)の2〜3ドルに比べると、約2倍以上、3倍にも近い価格で、新たな価格水準到来の時代になったのではないかと言われている。今後の穀類の世界的な需要拡大、生産地の水の問題、異常気象の頻発等々を考えると、乳牛飼養における輸入穀類への依存度を中長期的に、計画的に減少させて行かねばならない。

 日本の乳牛の乳量は経年的に増加してきた。平成20年には、全国の経産牛の平均乳量は8,011キログラムと8,000キログラムの大台を超えている。それは主に乳牛の育種改良と穀類の給与(エネルギーの増給)によってもたらされている。しかし、穀類の多給は他方で乳牛の消化器障害の多発、過剰な体脂肪の蓄積といった負の側面をももたらせ、それが繁殖成績の悪化、代謝疾病の増加、乳牛の短命化につながり、酪農経営を圧迫している。

 乳牛は反芻家畜である。嗜好性の高い、採食量が多い、繊維消化性の高い牧草・飼料作物を満度に乳牛に給与し、そこから多くの牛乳を得るとともに、健全な飼養下で、乳牛が与えられた寿命を全うするような飼養体系を構築することが、次代の日本酪農の使命であろう。

 それでは、我が国の粗飼料供給はどうなっているのであろうか。都府県の酪農家は、搾乳牛に対して輸入乾草が必需品となっている。平成15年〜20年の間、毎年195万トン〜234万トンのベール乾草を米国、豪州、カナダ等から輸入している。しかし、輸入イネ科乾草の品質は良くなく、上に述べたような望むべき高い繊維消化性を持つものではないのである(阿部亮、畜産の研究、62巻6号、2008)。輸入穀類だけではなく、輸入イネ科乾草からの脱却もこれからの日本酪農の課題である。

 平成22年7月に策定された家畜改良増殖目標では、乳用雌牛の能力に関して、現在の8,000キログラムの乳量を平成32年には8,000〜9,000キログラムまで増加することとしている。

 この中で飼料の利用性については、「自給飼料基盤に立脚した酪農経営を実現するため、泌乳持続性の改良と併せて、個別の牛の飼料給与や放牧等に関するデータ収集の充実強化を図り、飼料利用性の向上を推進する」としている。一方、平成22年3月に策定された食料・農業・農村基本計画では、飼料作物の生産量について、平成20年度の435万トンを平成32年には527万トンにするという目標を掲げている。平成20年の粗飼料の総供給量は554万トンであるから、これは「粗飼料の自給率を100%にする」ということになる。

2.牧草・飼料作物の作付面積の推移

 日本の牧草・飼料作物の栽培面積は高度経済成長・畜産物生産量の拡大政策と歩調を合わせて昭和40年代の前半から増加を続けていたが、平成2年にピークを迎え、その後は減少に転じていた。これが近年の飼料増産施策により、ようやく減少に歯止めがかかりつつある。平成2年の栽培面積は全国で1046千ヘクタール、北海道が613千ヘクタール、都府県が432千ヘクタールである。平成20年についてみると、全国で902千ヘクタール、北海道が602千ヘクタール、都府県が300千ヘクタールである。北海道はピーク時の98%を維持しているが、都府県ではピーク時の69%と約30%近くの減少となっている。

 都府県酪農は昭和50年代半ばから、夏作トウモロコシ、冬作イタリアンライグラスを中心とする通年サイレージ調製・給与体系を定着させ、拡大してきた。それが、何故、平成2年以降、低調になってしまったのか。そのことを考察したうえで、次代の施策を推進して行かねばならないであろう。筆者は、その理由を以下の諸要因が複層的に作用した結果であると考えている。「酪農家一戸当たりの乳牛飼養頭数の増加による飼料生産への労働配分の縮減」、「高齢化」、「夏作トウモロコシと冬作イタリアンライグラスの収穫・調製作業に要する2重装備とその経済負担」、「配合飼料依存の高泌乳牛飼養への傾斜の反面、牧草・飼料作物の乳牛用飼料への価値認識の希薄化」、「安価な輸入乾草調達の機会増加を可能とする社会・経済的な環境」、「酪農は土−草−家畜という理念優先から、経営優先、高位・効率主義への方向転換」等々である(阿部亮、畜産の研究、64巻3号、2010)。これは都府県の通年サイレージ調製・給与システムを念頭に置いた整理であるが、この中には、当然、北海道酪農にも当てはまる問題が多くある。

3.自給飼料増産に向けた行動計画とコントラクター

 10年後の政策目標に対してどのような方策・方法で臨み、牧草・飼料作物生産の失地を回復し、自給飼料主体の乳牛飼養形態を構築し、現在の泌乳量レベルの維持・向上を図ってゆくのか、ここでは、先ず、農林水産省の飼料自給率向上に向けた行動計画(平成21年度)を見てみよう。

 行動計画の対象は以下の4つである。

行動計画の主な4つの柱

 舎飼いの乳牛を想定した場合、作目では稲発酵飼料(稲ホールクロップサイレージ)、トウモロコシサイレージ、牧草サイレージが主な飼料として具体的にイメージされる。そして、サイレージ調製の担い手としてコントラクターへの期待が大きい。また、酪農家の更なる軽労化、飼料給与の合理化のために、コントラクターとTMRセンターの協調もうたわれている。

 飼料生産・調製コントラクターの利用は上記した、「通年サイレージシステムの退潮の理由」をカバーする性質のものでもある。表1により日本のコントラクターの発展段階について事業組織数、利用戸数、受託面積を通して見てみよう。

表1 コントラクターの組織数、利用農家数および受託面積の推移
資料:「コントラクターをめぐる状況 平成22年2月」農林水産省

 どの調査項目についてもその数値は経年的に増加し続けている。全国の組織数を比較すると平成5年から15年間で11倍になっている。平成20年2月現在(農水省「畜産統計」より)の北海道の乳牛飼養農家戸数(8,090戸)のうち、飼料生産受託畜産農家(表中ではコントラクター利用農家)戸数は、全体では8,074戸、うち酪農家は7,824戸が利用し、割合をみると、それは96.7%となる。一方、都府県の場合には、平成20年2月現在の乳牛飼養農家戸数は16,310戸で、飼料生産受託畜産農家戸数は、全体では11,778戸、うち酪農家は1,592戸が利用したことから、飼料生産委託の農家比率は13.5%と、北海道に比べてかなり低いという現状にある。

 平成20年度の522事業所の経営形態は農協が53組織、有限会社が87組織、株式会社が27組織、公社が19組織、農事組合法人が53組織、営農集団等が282組織と、農業者自らが組織する営農集団等の数が最も多い。また、この年度の全国の作業内容別の受託面積の比率は、飼料収穫作業が52.1%、耕起等作業が4.3%、堆肥散布作業が13.9%、稲わら等収穫作業が13.2%、飼料生産関連作業が13.2%、耕種作業等が14.7%であった。

資料:「コントラクターをめぐる状況 平成22年2月」農林水産省

 コントラクターの組織数と経年(平成5〜18年)との関係は直線式がよく当てはまり、その相関係数は北海道が0.974、都府県が0.907と、ともに有意(P<0.01)である。直線回帰式から5年後の平成27年の組織数を予測すると、北海道では平成18年の165事業所が274事業所に、都府県では平成18年の282事業所が444事業所に増加するとみられる。

―十勝における農業と酪農の現状−

4.十勝の農業と酪農

 以上、酪農経営を背景に日本全体の飼料供給状況と牧草・飼料作物の振興政策およびコントラクターの発展の概要を述べてきたが、これからは、北海道十勝のコントラクターの状況を具体的な例として紹介したい。その目的は、十勝のコントラクター事業展開の中から、コントラクター事業への参入、あるいは事業の維持に参考となる側面を拾い出し、活用していただくことにある。

 最初に十勝の農業について紹介する。十勝の農業は畑作4品といわれる小麦、豆類、馬鈴薯、てん菜の畑作生産と酪農・肉用牛飼養が中心であり、十勝の農業産出額は北海道全体の22.8%(平成18年)を占めている。作付面積(平成18年)で最も大きいのは牧草で71,354ヘクタールであり、次いで小麦の47,700ヘクタール、てん菜の29,400ヘクタール、馬鈴薯が23,600ヘクタール、豆類の23,040ヘクタール、サイレージ用トウモロコシの15,387ヘクタールと続く。

 農業人口は平成7年が40,744人、平成12年が35,373人、平成17年が31,166人と減少しているが、この間の耕地総面積の減少率は2%と少ない。酪農について見ると、戸数では平成7年が2,590戸、平成18年が1,880戸、平成19年が1,820戸と、この間、年間平均64戸の割合で減少しているが、頭数では、平成7年の212,000頭が平成19年には215,100頭と増加の傾向にある(2009十勝の農業、平成21年9月、北海道十勝支庁)。自給飼料は年間を通じて多くの酪農家が牧草サイレージとトウモロコシサイレージの併給与を行い、平成21年における経産牛の平均乳量は8,566キログラム/年である(平成21年十勝畜産統計、十勝農業協同組合連合会、平成22年3月)。

5.十勝におけるコントラクター事業の展開

 平成2年以降の1990年代は、酪農経営の規模拡大が進展するのにともない、酪農家の労働軽減と良質な粗飼料の安定生産を目的とした農作業受委託事業の取り組みが十勝管内の各地で始まった。十勝には19の市町村があるが、現在、どの市町村でもコントラクターのサービスが受けられる状況となっている。先に、北海道ではピーク時(平成2年)に対する牧草・飼料作物の作付面積の減少率が都府県と比べて非常に少ないことを述べたが、それは、このような動きが一つの要因としてあると考えてよいであろう。

 平成21年には事業者数が22となり、十勝農業協同組合連合会(十勝農協連)を事務局として、十勝地区農作業受委託事業協議会(会員34)が設立されている。協議会では、「講演会」、「牧草サイレージ収穫調製技術研修会」、「現地視察研修会」、「調査」、「実務者会議」等が行われて、技術向上とコントラクター経営の維持に関する研さんが行われている。表2には、牧草サイレージとトウモロコシサイレージの調製における平成17、20、21年度の実績を示す。牧草のべ面積、トウモロコシ収穫面積ともに経年的に増加の方向にある。協議会の前身である十勝管内農協農作業受委託事業研究会では、コントラクター利用作付面積について、全栽培面積に対する利用率目標値を設定しているが、牧草の平成24年目標値の20%は平成21年には19.1%とほぼ達成し、トウモロコシでは平成24年の40%の目標値は平成21年に既に41.1%と前倒しで達成している。これらの数値は、「コントラクターなしに十勝の飼料生産はやってゆけない」という状況に向かっていることを物語っていよう。

表2 十勝の牧草とトウモロコシの収穫・調製におけるコントラクターの実績(ヘクタール)
(十勝地区農作業受委託事業協議会)

 受託作業の料金設定は時間単位と面積単位の両方があるが、事業所毎に異なり、十勝統一単価というようなものはない。コントラクターへの委託の場合、牧草サイレージの調製は、以下の通りである。

牧草サイレージの調製工程

 この工程でサイレージの品質に対して大きな影響を及ぼすのが踏圧の部分で、密度が高く埋蔵されることが発酵品質を良くし、乳牛の採食性を高めることになる。そのために、搬入トラックの台数とサイロの容積から圧縮係数を計算し、酪農家に情報提供をしている事業体もある。

 十勝農協連の町氏は、コントラクターが農協等の営農指導部門との連携によって利用農家に対するアドバイス機能(コンサルタント機能)を持ち、同時にその機能の向上や、上記の良質サイレージ調製のための詰め込み密度などの情報提供、草地更新に関する貢献についても重要と述べている。

 ある調査によれば、十勝の牧草地の約半分が裸地であり、シバムギやリードカナリーグラスといった雑草が優先していると報告されている。そのような低生産性を改善するためには、草地更新が一番効果的な手法であるが、費用面がネックとなり更新率は6%程度である。中には20年以上も更新されていない草地もある。そこで、コントラクターが持つべき機能として、以下のことが考えられる。

 「コントラクターは草地への堆肥散布や土壌改良材の施用も請け負っている。コントラクターが草地の整備・維持管理を担うことで、合理的かつ効率的な草地整備が推進可能になる。具体的には、①植生調査や土壌診断を行い、対策が必要な場合には、農家にアドバイスする、②土壌の排水性改善、pH改善に係わる作業を効率的に実施する、③GIS(Geographic Information System:地理情報システム)とマッピングシステムを用いた圃場管理を行う」。

−十勝管内における具体的事例−

6.(有)清水町農業サポートセンター

 次に、有限会社・清水町農業サポートセンター(以下、センター)の活動を通して十勝のコントラクターの姿を見ていただく。

 平成9年に町内の農家の要請により、町と農協が支援する「農作業受委託協議会」が設立され、平成13年に農協、公社、個人農家(8人)の出資によって、現在のセンター組織が法人組織として独立した活動を開始するようになった。フォレージハーベスター、トラクター等42台の機器を装備し、牧草・トウモロコシの播種・収穫作業、堆肥散布、スラリー散布、小麦ワラのロール作業、豆類(大豆、小豆)の収穫、耕起と整地、てん菜の移植、融雪剤の散布等を行っている。

フォレージハーベスター

 清水町の総農家数413戸の中で、コントラクターを利用している農家数は170戸前後であり(平成19年度)、平成22年の牧草とトウモロコシの収穫受託面積は2,350ヘクタールで、平成18年頃から急増している。牧草・トウモロコシの収穫作業はサイロ詰めまでで、踏圧・密封の作業は農家の仕事という形が基本的であるが、踏圧作業の一部は土木・建築会社に委託している。

 スタッフ(オペレーター等)は常雇用が6名、アルバイトが1名、農家の子弟等の臨時雇用が数名という規模である。

 マネージャーの林氏は常々、コントラクターの運営と維持に関して以下のようなことを主張している。

1)最も大切なことは、地域農業を衰退させないよう、地域のリーダーが農業をどのように位置付け、その将来像を作り上げるかである。

2)地域農業の将来像を策定する中で、「担い手」と「コントラクター」の相対的なパワーを考慮しつつ、コントラクターの任務(作業の種類、面積、作目、仕事の精度、責任作業地域等)を検討し、コントラクターの地域社会における存在価値を明確にすることが次に必要である。

3)そのような地域社会の負託と自己の責務の両面から、コントラクターは企画力、交渉力、判断力、技術力を向上させる方向に向かう必要がある。

4)地域社会はコントラクターに対して地域産業を支える組織としての責任を負わせることになるが、同時に農協や市町村役場は、組織の育成・強化を推進する責任を持つことになる。地域農業に必要なコントラクターの組織維持のために、コントラクターに市町村・農協が保険をかけるような仕組みなど、工夫していただきたい。

5)コントラクターの経営者は、コントラクターの設立と維持・運営に関して理念をもって行動することが前提で、その下で従業員は高度な技術と経験を持って任務を遂行することが望ましい。作業機械は堅牢かつ能力の高いものを備え、種々の活動に要する経費は原則農業者からの出資で賄うこととし、不足の部分は上記のような形で農協や市町村が補填するという仕組みを備えておく。

6)新たな収入源の確保として、コンサルタント機能の付加がある。草地の維持・更新、牧草の品種の選定と刈り取り作業スケジュールの提案等々、考えられる仕事は種々あるが、現在の仕事と、酪農家の反応を考えながら、今は模索中である。

 以上がセンターの現状と今後の維持・運営に関するマネージャーの理念である。

7. 泉谷牧場

 次に、利用農家の立場からコントラクター組織の状況をみてみよう。(有)清水町農業サポートセンターへ作業を委託している清水町の泉谷牧場は、両親、息子夫婦、娘の5人で雇用労働力なしに平成22年11月現在で490頭の乳牛を飼養している。経産牛は300頭で、1頭当たりの年間乳量は9,200〜9,300キログラムの高い水準である。

泉谷牧場の外観

 牧草とトウモロコシの作付面積は借地を含めて、牧草栽培面積が65ヘクタール、トウモロコシが55ヘクタールである。牧草地ではチモシーを栽培し、年3回の刈り取りを行っている。追肥と播種およびスタックサイロの踏圧は自家作業として行っているが、刈り取り(細切)、スタックサイロまでの輸送はコントラクターに依頼している。牧草の刈り取りは朝早くから行い、10時くらいまでの軽い予乾をしてサイロに詰め込む。牧草の収穫作業は3日間で終了する。牧草の収穫作業はコントラクターでは1番草の場合、1日25ヘクタール前後の処理が可能である。牧草の切断長は1番草が12mm、2番草が14mmである。トウモロコシは播種と収穫の両方をコントラクターに依頼している。収穫はコントラクターがコーンクラッシャーを使用しているため、子実デンプンの消化性の高い、そして、乳牛の反芻胃に対する物理的な機能を保持したサイレージが調製できている。

 粗飼料の搾乳牛への給与量は、牧草サイレージが18〜25キログラム/日、トウモロコシサイレージが17〜19キログラム/日である。TMR(混合飼料)調製のためには、牧草サイレージの乾物中の粗蛋白質含量は14%程度が望ましいが、ここ数年は11〜12%程度であり、不足の分は輸入のアルファルファ乾草で補っている。草地の更新は自力で4〜5年に一度の頻度で実施している。

 泉谷牧場がコントラクターへの作業委託を開始したのは平成9年からである。委託する以前は、共同でハーベスターを持ち、夜中まで収穫作業をし、夜中に飼料を給与して、翌朝早く、またハーベスターに乗るというパターンであった。コントラクターを利用している現在では、搾乳牛80頭程度の規模が300頭まで増加することができたにもかかわらず、昼前は11時に仕事を終え、夕方4時まで、ほとんど牛舎には行かない。家族はそれぞれに仕事を分担してゆとりを持ちながら、その部署の仕事に責任をもって行っているという状況である。現在は5人体制であるが、2〜3日間ならば、3人でフル稼働して対応することも可能であり、その間に息子夫婦が子供達を連れて旅行することもできる。

8.コントラクターを利用することの利点

 今回の検討会では、「コントラクターを利用することの利点」について、次のような点が指摘された。

討論会の様子

1)栄養成分の向上

 十勝農協連農産化学研究所では、清水町の牧草サイレージとトウモロコシサイレージについて、コントラクターが刈り取り調製したもの(委託)と、農家自身が刈り取り調製したもの(自力)の化学組成と発酵品質の比較を行った。その結果、牧草サイレージについては、①一番草では乾物中のTDN含量は委託(64サンプル)と自力(82サンプル)の平均値で60.1%と60.0%で違いはないが、粗蛋白質含量では委託が11.6%、自力が10.7%とコントラクター利用のサイレージが高い値を示した。②牧草サイレージの発酵品質では委託が自力の乳酸含量、Vスコアの値よりも高く、逆にアンモニア態窒素含量、酪酸含量は自力が委託よりも高く、嗜好性の面では、コントラクター利用のサイレージが優れていると考えられた。③トウモロコシサイレージでは委託(81サンプル)のデンプン含量が乾物中27.1%であり、自力(58サンプル)の26.4%よりも少し高い値を示した。

2)品質の安定と向上

 先に述べたようにコントラクターによる大型・高性能なハーベスターを使用した収穫作業では、牧草サイレージは微細切(泉谷牧場では12〜14mm)される。長いままのロールベールサイレージ(自家作業)からコントラクターに切り換えた所では、微細切によって乳牛の採食量が増加し、サイレージの品質も適期の短期間での調製のため品質自体も変動が少なく安定しているため、乳量が増加している。

3)機械導入による作業効率向上

 多くのコントラクターは、トウモロコシサイレージ調製時にコーンクラッシャーをハーベスターに装着している。コーンクラッシャーはハーベスターの細断装置(カッター・シリンダー)の後段に装着されるもので、トウモロコシの子実を破砕してデンプンの消化率を高めることができる。これにより、ある程度枯れあがり、子実の硬くなったトウモロコシでもその効果は十分に発揮される。そのため、従前のように刈り取りの時期を気にしながらの作業計画をより余裕のある、幅を持たせた作業スケジュールの設定を可能としている。

4)配合飼料給与量の減量

 コーンクラッシャーを通したトウモロコシサイレージは残食が減るという農家の評価を受けている。また、茎葉もすり潰すため、サイレージの品質を落とさずに切断長を長くできるため、乳牛の第一胃に対する物理的な機能を維持され、第四胃変位が少なくなる。この結果、トウモロコシサイレージの多給が可能となり、配合飼料をその分だけ減量することができる。

5)高品質な粗飼料

 以前は一番草の処理に約1カ月を要していた。それが、今ではコントラクターを利用することによって数日で終了する。長期間での作業は草地による品質の変動を生じ、それによって、乳牛の健康や乳量・乳質がサイロの変わる度に、変動し、農家経営の恒常性維持に悪影響を与えてきたが、コントラクターでの短期間での処理がその弊害を除去している。

6)十分な個体観察

 牛の個体観察時間が長くなり、その結果、繁殖成績が向上している。

7)ゆとりある労働

 息子さんの労働時間が軽減されるようになったことで、彼自身の「考える時間」を長くしている。若い人が将来のことを考える時間を、少しでも長く与えるということは、とても重要なことである。忙しい、忙しいでは、人間はマイナス思考に陥ってしまう(泉谷牧場)。さらに、子弟の教育、例えば塾に通う、その送り迎えをする時間・余裕が生まれ、それは、ひいては農業者の知的なレベルを一層高めることにつながる。

8)農作業中の事故激減

 現在、農作業の事故が社会的な問題となっているが、何人かの農家が協調して共同作業で牧草・飼料作物の収穫作業をする場合、事故・怪我が発生する危険が高くなりがちである。ひとたび事故が発生すれば、作業が滞ってしまうばかりでなく、経営の存続をゆるがす大問題となってしまう。コントラクターの場合、管理された中での作業が徹底されているため、格段に事故のリスクは少ない。

9)地域雇用を提供

 地域の土建業や運送業の人達の仕事・就業の機会を増やすことができる。

10)家庭内労働の平準化

 酪農婦人の労働負荷低減に強く寄与している。一度コントラクターに加入すると、いくら主人が「コントラクターの利用を止めよう」と言っても、婦人が反対する。主人が草地や畑の作業に出てしまうと、婦人の牛舎内の仕事量が増え、一日中、牛舎にいるような状況となるからだ。

−今後のコントラクターの展望と課題−

9.コントラクターの展望

 個別経営の規模拡大は今後も続くと考えられ、規模拡大が続く限りコントラクターの需要も拡大する。酪農は戸数減少が見込まれるが、農家にやる気があり、外作業をある程度外部委託すれば、更なる拡大が可能な状況にある。こうしたことから、今後もコントラクターに対する需要は続くであろう。しかし、大規模農家を中心に自ら作業を行うという所もある。これはコントラクター能力が、請け負った仕事量の拡大に追いつかない地域で発生しており、今後もこの傾向は続くと思われる。

 酪農の場合、TMRセンターとコントラクターの関係・連携についての分析と考察も必要である。現在、道内には40カ所のTMRセンターがあり、毎年5カ所程度増設されている。最近事業展開を始めたTMRセンターは、外作業については、コントラクターへ発注するケースが増加している。最初は5〜6戸の酪農家が集まり、皆で牧草を作って利用するという形態が多かったが、最近では10戸程度の利用農家によるTMRセンターの開設が多い。構成員の高齢化もありサイレージの調製とセンターへの原料供給は、コントラクターへの委託を前提したTMRセンター事業を開始するという所が増えてきている。TMRセンターに加入することによって、経済効果が強く現れるのは中小規模の酪農家と放牧農家である。放牧農家は冬場の飼料確保が困難であるが、冬の飼料をTMRセンターから供給して貰うことによって、夏には自分の草地の草を十二分に採食させ、高乳量を得るということが出来るようになる。

 このような事例からもわかるように、今後もTMRセンターは、粗飼料供給を請け負うコントラクターとして需要が高まるであろう。それによって、中小規模の酪農家と放牧酪農家が恩恵を享受するという形が増加しそうである。

 畑作では、戸別補償など施策の動きにより、作付作物の面積が大きく変わるというリスクがある。コントラクターの作業内容として大豆、小豆の収穫とてん菜の移植が多く、これからは堆肥の散布などで需要増加の可能性があり、今後もまだまだ需要が見込める。施策が安定すると、需要がキッチリと計算でき、作業内容や計画立案が中長期的に構築できる。

 コントラクター活動を研究テーマの一つとしている北海道立総合研究機構十勝農業試験場の山田研究員は、センターの運営に必要な事項として以下のようなアドバイスをしている。

1)合理的な料金設定と農家の理解

 農協の指導事業の一環としてコントラクター作業を行っている所では、収支がゼロでもよいし、赤字の場合には、組合員のための仕事と判断され、農協自身が補填することが出来るが、清水町のセンターのように有限会社の場合には、独立した法人であり、そうはいかない。作業に要する諸経費は年毎に変動する。地域の実情に合わせた合理的な料金を設定し、その理由を丁寧に農家に説明し、理解を得ることが必要である。

2)畑作物の収穫作業の受託

 現在、6〜9月に作業のピークがあるが、10月下旬を過ぎると作業量が一気に減少する。そのため、組織の拡大に当たっては核となる作業をもう一つ作ることが重要である。それは、大豆を始めとした畑作物の収穫作業などが考えられる。

 さらに、コントラクターの守備範囲の拡大について、十勝農業試験場の原研究主幹は、冬期間の酪農ヘルパー業務への参加を提案している。十勝管内のほとんどのコントラクター組織では、冬期の約2カ月間、オフの状態になる。その間、何をするか。最も効率の良いのが人間の技術力だけを基盤とするヘルパーの仕事である。現在、酪農家の搾乳ヘルパーの利用は年間を通じて平準化してきている。冬場60日間に酪農家が遠い所まで旅行に出かける、少し長期間の休みをとるということを習慣づけるようにしたらどうであろうか。そうなると、休みの間の作業の全てを酪農ヘルパーの陣容だけでは出来ないところから、コントラクターがその間、搾乳の支援に向かうということを考えてみてはいかがであろうか。当然、その場合、飼料給与も作業の中に組み込まれる。

10.コントラクターの課題

 本稿のまとめとして、検討会で出された意見を参考に、今後のコントラクターの維持・発展のための課題を整理する。ここに掲げた課題は、北海道・十勝地方、特に酪農経営を顧客として活動する視点から整理したものであるが、全国あるいは酪農以外の畜種を含めた場合にも該当するものがあると考えられる。これらの課題の克服により、コントラクターが地域の畜産・農業にとって欠かせないサービス事業体としてますます発展することを期待したい。

1)需要予測の策定

 前述したように、コントラクターの維持・発展には、地域の農業振興計画とのタイアップが必要であるが、そのためには、地域の酪農家の去就について定量的な調査を行い、今後の酪農生産能力を推定することが必要である。それによって、コントラクターの中長期的な機器導入等の戦略が策定できる。もう一つは、需要が大きくなった場合のコントラクター間の調整についても計画しておかねばならない。地域に複数のコントラクターがある場合には、地域で発生する作業の分担、仕分けをどのようにするかが重要な課題となる。民間系と農協系が並立する場合、料金の多寡によって農家の移動が起こることもある。そうして安価な方に流れた場合に、その受託先が能力拡大のため新規の設備投資を行って、その結果料金が改定され高くなってしまい、農家が以前の受託先に変更したい、という事態が発生することが意外に多い。かかる自体の際には、従来の受託先で受け入れる能力がない場合には、その農家の存廃の問題にまで発展する可能性がある。

2)利用料金体系の策定と理解促進

 ここでは、財務諸表の公開と説明が大切である(財務諸表とは、企業外部の利害関係者に、企業の財政状態や経営成績に関する情報を開示するために定期的に作成される書類である(広辞苑))。財務諸表を細かいところまで揃えて公開しているコントラクターはあまりない。公開することによって農家に自分で作業を行った場合との比較を促し、多少高くても、「コントラクターに頼んだほうがよい」と理解してもらうことが必要である。

3)オペレーターの確保

 オペレーターの技術の習得と向上も重要である。①オペレーターには、良質なサイレージを生産するための理論的な理解や、機械操作などの技術の習得が求められ、一人前になるためには2、3年が必要である。一方、現場では即戦力の人材が必要とされている。(有)清水町農業サポートセンターの林氏が、「農業系の学校や専門学校で取り組めないか検討していただきたい」と述べているように、公的な機関でオペレーターの育成ができないであろうか。②また、長期間のオペレーター確保のためには、給与の保証も必要であろう。それだけでなく、業務の範囲を拡大し、意欲の維持も図ることが望ましい。

4)財務の健全化

 利用農家の負担、地域の負担を満度に行ってもコントラクターの経営がマイナスになることもある。その最たる場面が機械の更新である。今後は、一つの考え方として、農家の生産費に基づく支払能力とコントラクターの運営上の料金の受け入れ能力の差額を補填してもらうという考え方はいかがであろうか。そうでなければ、次の機械の更新を控えて、コントラクターを大きくするために合併せざるをえない場面もでてこよう、その場合、効率はよくなるであろうが、効率を上げるために、「この仕事は出来ない」と仕事を切ってしまうという事態も予測される。例えば、「2番草には手をつけない」ということある。そうなると、コントラクターの意味、地域を発展させるという意義が全うできなくなる。コントラクターの活動に必要な経費の額をということを国民に広く知ってもらう努力が必要に思う。

 


元のページに戻る