調査・報告

乳用種牛肉の一貫生産・販売システムについて(上)
〜北海道チクレン農業協同組合連合会の取り組み〜

農林水産省 農林水産政策研究所 国際食料情報分析官 加藤信夫


【要約】

 乳用種牛肉の生産は、飼料価格が高騰する中、格付等級と相場の低下が顕著となっており、厳しい経営を強いられている。このような中、消費者団体を主な販売先とする北海道の農協連の事例(国内最大級の乳用種牛肉の一貫生産・販売のビジネスモデル)を調査したので、その結果を2回に分けて紹介する。

1 はじめに

 筆者は最近2年間にわたり、国産牛肉の生産力強化と長期低迷する消費拡大に資するため、当所の客員研究員である安部新一 宮城学院女子大学教授の協力を得て、国産牛肉の生産から加工・販売まで流通全体の構造、各流通段階の問題分析と価格形成の実態などについて調査・研究を行ってきた。

 当調査は2010年6月から2011年2月にかけて、生産から販売まで連結した優良なサプライチェーンを形成している北海道チクレン農業協同組合連合会(以下、「農協連」という)を対象に、コスト構造、販路拡大の努力などについて、事実関係の確認を含めて複数回の聞き取り調査を実施した。なお、本稿のすべての図表は、聴き取り調査の結果を踏まえて筆者が作成したものである。

 農協連は、1974年に北海道に入植した開拓農家が組織した開拓農協を母体に設立された組織であり、2010年5月末決算で約140億円の事業実績を上げている。20年以上も前から乳用種牛肉などの一貫生産・販売システムを基本とする六次産業化の取り組み、および我が国でBSEが発生した以前からトレーサビリティを実行している。ブランド牛(乳用去勢牛)の預託頭数は乳オスの全国出荷頭数の約5%(12,500頭)を占め、地産地消レベルの小規模な事例が圧倒的多数を占める六次産業化事例の中、大規模なフードシステムとして機能している希な事例である。

 肉用牛の生産から牛肉加工・販売までの一貫システムは、農協連と協同会社の(株)北海道チクレンミート(以下、「チクレンミート」という)、生産農家(預託農家)、農協連会員農協、主な販売先である消費者団体により構成されている。

2 農協連の発展の経緯

 当初は、畑作と酪農からスタートし、その後、乳牛から生まれた子牛を利用して肥育素牛の生産を開始し、全国開拓農業協同組合連合会(全開連)の指導を受けながら乳用種の肥育を開始した。当初は帯広市と池田町のと畜場で枝肉を販売するだけであったが、このままでは単なる食肉問屋と化してしまうことから、自ら枝肉の加工・販売まで行うこととなった。1982年7月に遠軽町にチクレンミートを協同会社として設立し、同年12月に同町のと畜場に併設して加工場(遠軽工場)を設置した。

 さらに2次加工から販路体系を強化するため、1984年11月、札幌市に(株)北海道チクレン直販(以下、チクレン直販という)、1985年10月にその本社と札幌工場を新設した。1987年6月には旧チクレンミートとチクレン直販を合併し、現在のチクレンミート(農協連が79%出資する株式会社)を設立した。チクレンミートは1996年11月、札幌新工場、2003年7月に札幌第2工場を竣工し、これにより高次加工品を含む製造・販売体制が確立した。その基本業務は牛肉を中心とする食肉のカット・加工業務および製品販売である。

 北見市のと畜場が併設されている卸売市場に1985年、加工場を開設、2000年4月には北見市から卸売市場(と畜場)の無償譲渡を受けた。これらによりチクレン・グループ(以下、グループという)による肉用牛の生産から牛肉の加工、販売までの「一貫生産・販売システム」が確立した。

北見食肉センター(と畜・解体)および北見工場(一次加工)の全景

3 消費者団体との関係構築の経緯

 現在の主な販売先である生活クラブ生協連合会(以下、「生活クラブ」という)との関係構築の経緯にして触れたい。1978年6月の東京総代会で「生活クラブ設立10周年記念事業」のひとつとして消費者の求める健康な赤肉生産を自ら行うことが決定された。すなわち、単に食品を消費する消費者ではなく、「生産する消費者」を目指すこととなった。

 これを受け、1979年に積丹半島に肉用牛の肥育牧場である古平牧場の用地確保を行い、80年代から本格的な建設を行った。当初は外国種(アンガス種、シャロレー種など)の肥育に挑戦したが、最終的にはアンガス種を牧草で肥育することになった。しかし、当地は急斜面で天候が不順で、冬季は大雪に見舞われるため牛の増体が悪く、ヨトウムシによる牧草の被害も発生した。1979年から3年間にわたり肥育事業に挑戦したが、技術的なバックグランドを持たない生活クラブの力のみでは存続困難との結論に至った。

 このため生活クラブは牧場を売りに出すか、畜産専門の農業団体に経営を委託するかの選択に迫られ、最終的に同じ赤肉生産を手がけていた農協連と1982年6月に業務提携することになった。この結果、アンガス種は農協連が引き取り、雄武町で肥育されることになり、生産された牛肉を生活クラブが買い取るシステムに合意することになった(図1)。

図1 生活クラブと農協連との関係

 当初は、遠軽工場で加工された冷凍肉を生活クラブに販売していたが、冷蔵肉の需要が高まったため、1990年11月、千葉県に首都圏フードセンター・小見川工場(現在の千葉工場で、土地、建物、一部機材は農協連所有)を設立し、その結果、販売量が飛躍的に伸びた。千葉工場の設置により、大消費地に近い場所で消費者ニーズを踏まえた最終加工を行い、新鮮な牛肉を消費者に迅速に届けるシステムが完成した。グループの組織体制を図2に示した。

図2 チクレングループの牛肉の一貫生産・販売の組織体制

4 農協連による一貫生産・販売システム

 グループの一貫生産・販売システム(図3)は、① 素牛導入者や肥育農家(預託農家が主)が固定化されていること、②肉用牛は北見工場のみで処理されること、③ 販売先として生産費を理解する消費者団体向けのシェアが高く(40〜45%)生産費ベースの取引がなされていること、などにより成り立っている。ただし、一貫システムであるがゆえに、最近のように小売価格が低迷し、販売数量も減退する厳しい状況の中では、出荷・販売に苦慮する場合が多々あると聞く。

図3 「チクレン・フレッシュビーフ」の生産から販売までのフローチャート

 素牛は基本的に道内(道北、道東)の会員農協の酪農家から導入する。農協連会員農協管内の酪農家(326戸)の中から、肥育素牛(ヌレ子)として農協連に供給されている。2009年度の素牛の導入実績は8,402頭(平均月齢7.3カ月、体重305キログラム)で農協連会員農家分が47%(3,953頭)、残りのほとんどは地域のJA分である。

 農協連による素牛の購入価格は、① 道内の市場価格、 ② 初生牛価格、飼料代、預託料、その他経費の積み上げ(預託方式)、 ③ 原価(生産費)積み上げ、 のいずれかに基づいて決定されている。

 「チクレン・フレッシュビーフ」を生産する肥育農家は26戸である。このうち、預託農家は23戸であり、すべて乳用去勢肥育である。残りの3戸は自前の牛を飼養している(表1)。

表1 「チクレン・フレッシュビーフ」生産農家の内訳

 肥育方式は「素牛導入肥育型」と「スモールからの一貫肥育型」に分かれる。

 「チクレン・フレッシュビーフ」として販売するためには、① 乳用種であって北海道産の牛肉であること、② 配合飼料に抗生物質およびホルモン剤が添加されていないこと、③ 指定配合飼料(主原料のとうもろこしおよび大豆油粕はNon−GM(非遺伝子組み換え))を使用すること、が条件となり、会員農家は農協連以外には出荷しない約束になっているが、等級、月齢などの縛りはない。Non−GM飼料については、供給できる飼料会社が限られ、原料プレミアムも付加されるなど、常の飼料価格と比べてトンあたり5,000円程度割高とのことであった。

 農協連によれば、養牛事業は相当程度の資金が必要であり、かつ資金が長く寝るので、単協による運用は難しくなってきている。かつて、管内では借入金増大による、先行き不安から離農者が増えた時期があった。このため、農協連が牛の相場変動などによるリスクを負うこととし、1986年に佐呂間町から預託事業を開始した。農協の合併が進む中で、肉用牛を400頭飼養すれば億単位の借金を背負うことになり、肉用牛事業は農協にとっても負担が大きくなる。

 農協連は配合飼料と素牛(双方とも現物供与)を預託農家に供給し、預託農家は生産資材(敷料、畜薬など)と粗飼料を負担する。生産者の預託料は、生産意欲向上のため枝肉重量(基準値は410キログラム)に連動させており、肥育成績(平均枝肉重量)が良いほど預託料が増加するしくみとなっている。なお、預託牛を死亡させた場合やとう汰した場合には、肥育期間に応じた預託料が支払われる。

 他方で一般の肥育農家に対しては、東京、大阪食肉市場の枝肉相場、消費者団体向けの価格を考慮し、枝肉代金を支払う。

 「チクレン・フレッシュビーフ」の生産に携わる肥育農家(26戸)の2009年度の出荷頭数は9,961頭、これ以外に、農協連で取り扱う肥育牛は、その他の一般肥育農家分の1,294頭および経産牛を出荷する農家(出荷頭数905頭)がいる。その他北見食肉センターでは、農協連会員以外の酪農家が所有する経産牛を5,545頭処理している。

 農協連への全肥育牛の出荷頭数に占める預託牛の割合は、2009年度実績で約90%(経産牛を含めると約80%)である。毎月生産される牛肉の内訳は、おおむね、乳用種去勢牛900頭、アンガス種 20頭、交雑種 20頭、の計約940頭で、このほかに年間40頭程度の日本短角種の受け入れがある。

 預託農家は、原則として農協連の預託牛のみを飼育する約束になっており、預託牛の飼育に集中できる預託農家の成績は改善されている。預託のメリットは、農家が相場および資金繰りに気遣いせずに、牛の飼養管理に集中できることにある。すなわち、農協連が経営上のリスクを負い、農家は牛作りに専念するという分業体制が成立することになる。預託経営は、市場相場に左右されない収入の見通しが立てやすいことから、ほとんどの預託農家では後継者が確保されている。預託農家の一層の経営安定のため、リサイクル敷料の活用、牛の事故率の低減、牛肉の市場価格に影響されない安定的な生産方式の確立が緊要の課題である。

 飼養管理は、高格付けを狙うのではなく「良質粗飼料の供与を通じての牛の腹作り」を目指し、モネンシン(イオノフォア抗生物質)を使わないことを基本としている。19カ月齢、420キログラムの成牛までモネンシンなしで育てているが、販売先にはその価値がなかなか理解されていない状況にある。

 農家が利用する粗飼料(チモシーまたはオーチャードグラス)は系統内で自給できる乾草が主体である。預託農家のひとつである北海畜産農業協同組合の美生ファームは、2008年からデントコーンサイレージを委託生産しており、肥育前期に給与している。平成15年から農協連の預託農家となった(有)肉牛工房ゆうあいファームの伊藤浩市代表取締役(乳用種1,040頭と交雑種350〜360頭を飼養)によれば、肥育牛の飼料管理は前期が勝負であり、この時期に良質な粗飼料を給与し、健全な胃作りを行うことが健康な牛作り上、不可欠とのことであった。

 全体的な飼養管理の課題としては、不況で特に冬季に敷料のおがくずが手に入らないことが挙げられる。このため、間伐材や流木からおがくずを作る米国製の機械を会員農協が購入して、佐呂間町の預託農家(太田正直氏)に設置した。

5 と畜・解体・加工および販売

 と畜・解体は北見市にあるチクレンミートの食肉センター、部分肉加工(1次加工)は隣接する北見工場で行われている。

 牛の1日当たりのと畜枠は92頭(以前は52頭)であり、午前は牛、午後は豚をと畜している。農協連所有の牛は、すべて北見の工場で、1日50頭弱(月当たり約1,000頭)と畜・加工される。その他は30頭弱(月当たり約500頭以下)を処理している。枝肉から部分肉への加工は農協連からの「委託加工」の形で行われているため(枝肉の所有権は農協連に帰属)、農協連はチクレンミートに対して部分肉製造数量に応じた加工料を支払っている。

食肉センター内

 食肉センターの生産ラインの職員は系統組織であるが故に、農家の生活を支えているとの高い意識の下、技術的にも牛・豚どのラインでも対応できるようになっている。作業上の問題(ラインの流れが滞る問題など)については自発的に職員間での話合いが行われ、改善措置が採られている。このため、作業内容には自信を持っており、と畜・解体ラインを含めて外部者にもオープンにしている。

枝肉保管庫

 枝肉は隣接する北見工場に運ばれ、1日目は−2℃で保管、翌日格付された後、さらに0℃の倉庫で保管し、カットされる。格付けする際に、千葉工場、加工メーカーなど仕向け先に振り分けられる。通常、月末在庫は140〜150頭である。牛の場合、13部位が基本で、通常のカットで42(半丸)、多いと100部位以上になる。当工場の加工部門は、①牛の加工(内臓を含む)、②豚の加工、③骨殻(スープ)加工(本社向けのデミソース、カレー、ビーフエキス用)の3部門で構成されている。

 北見で加工された部分肉は札幌工場と千葉工場の他、加工メーカー、卸売業者などに納品される。札幌工場には主として生活クラブ向け加工品の原料肉(冷凍パーツ・パック)が運ばれ、レトルトの牛丼の具、コンビーフ缶などに加工される。

札幌工場(2次加工)内

 生活クラブ向けの加工品は「チクレン・フレッシュビーフ」のみから生産され、コンビーフ缶も牛肉と塩と牛脂だけで製造され、不要な添加物は一切使用禁止である。その他、道内のスーパー、個人への宅配販売分などの冷蔵肉パーツもある。原料肉(ロース、切り落とし)の販売は道内スーパーA社が主である。荷姿はパーツとトレーパックの2種類で、取引量は月に200キログラムからトン単位である。加工メーカーへは基本的に冷蔵肉のフルセットで供給するが、夏場の焼肉需要に対応したバラ肉などパーツも販売している。製品内容は、生鮮肉、缶詰、総菜、レトルト製品など、合計で千数百のアイテムとなる(表2)。

表2 主な販売先と商品(豚肉加工品を含む)

 課題としては、アイテム数が増加する傾向にはあるが、コストとスペースの関係で人を増やせないことが挙げられた(その結果、パート残業で対応している状況)。また、交通の便が悪いため、必要な時には求人をしても人が集まらないことが今後の心配事である。コストの内容については、人件費、システム開発・維持管理費、加工にかかる機材費が含まれる。

(次号へ続く)

(※)現:生産局畜産部畜産振興課


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