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米国のトウモロコシおよび畜産物需給見通し
―米国農業観測会議から―

調査情報部 藤井麻衣子


  

【要約】

米国の2011年のトウモロコシ需給は、前年に引き続きひっ迫し、期末在庫率は歴史的低水準になると見込まれる。食肉の供給については、鶏肉生産量が前年増となったものの、牛肉および豚肉の生産量の減少により相殺されると予測される。
  米国農務省ヴィルサック農務長官は、米国が今後の農業において取り組むべきテーマとして、「海外貿易の促進」、「生産性の向上」、「再生可能エネルギー燃料」を掲げ、特に今後は、輸出における他国との競合が予想されるなど、新たな市場を選択し、米国の農産物の海外輸出の促進が重要であると示した。

1 はじめに

 米国農務省(USDA)は本年2月24日、25日、米国農業観測会議(Agricultural Outlook Forum 2011)を開催し、「現在の戦略と今後の展開(Today’s Strategies & Tomorrow’s Opportunities)」との副題の下、米国における主要農産物の生産、消費、輸出入などの需給状況や今後10年間(2011〜2020年)の長期見通しを公表した。

 この会議は、毎年、この時期にUSDAの主催で行われている。農産物の需給見通しが示されるとともに、食料・農業にかかわるさまざまな議論が行われ、スピーカーは、ヴィルサック米農務長官やグラウベルUSDAチーフ・エコノミストなど、政府関係者に加え業界関連者からも多数が参加した。

 農業観測のほか「リスク管理(Risk Management)」、「海外貿易(Foreign Trade)」、「持続可能な農業(Sustainable Agriculture)」、「土地保有と収入(Land Tenure Issue & Income)」、「環境保全(Conservation & Environment)」といった議題で討議が行われた。

 このうち、ヴィルサック米農務長官が示した米国が今後取り組むテーマおよび、トウモロコシ・主要畜産物の概要について報告する。

 なお、畜産物需給の見通しについては、3月16日以降に更新された数値を掲載している。

2 2011年に米国農業が取り組むテーマ

 今回の会議冒頭の講演において、ヴィルサック長官は、FTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などの貿易協定を拡大し、貿易障壁の除去や税関手続きの改善に取り組んでいく姿勢を強調した。また、世界人口の増加に伴う需要増加に対応するため、農産物の生産性を高めていく必要があることを示した。その発言の概要は以下のとおりである。。

(1)米国農産物の貿易促進

 米国の農産物を積極的に海外市場へ輸出促進してくことが重要であり、2011年の輸出額(1355億ドル(11兆4千億円:2011年3月末TTSレート1ドル=84円換算))は過去最高となった2008年(1149億ドル(9兆7千億円))を超えると予測されている。FTAが果たす役割も重要であり、米韓FTAを批准すれば農産物の輸出額がさらに18億ドル(1512億円)拡大するとみられている。また、コロンビアおよびパナマとのFTAの批准も農産物の貿易拡大に有効である。農産物の輸出拡大の障害となる他国の貿易障壁については、取り除くための取り組みを引き続き続けていくことが大切である。

 オバマ大統領が推進している国家輸出戦略(National Export Initiative)の一環として、TPP貿易交渉の推進に尽力していかなければならない。また、特にアジア各国への牛肉輸出における貿易障壁の除去に取り組んでいかなければならない。

 USDAは輸出に重点を置いており、輸出促進を戦略的に進めている。それには、米国産農産物にとって大きな市場となる国を選択し、それらの国に対して注力していくことが重要である。インドネシアとベトナムは今後拡大見込みのある市場と考えており、今年後半に農務長官が訪問予定である。また、衛生植物検疫措置については、科学的根拠に基づいた検証を行うことが必要である。

図1 米国農産物の輸出額の推移
資料:USDA
  注:会計年度(10月〜9月)

(2)生産性の向上

 世界人口は増加基調にあり、増える食料需要に対し、どう対応するか考える必要がある。生産者は生産性向上のための取り組みを単独で行うことは難しいため、科学者、生産者、政治指導者はお互い協力しつつ考えていかなければならない。

 技術革新を通じて化学肥料への依存の軽減、水の使用量の削減、現在生産を行っていない地域での生産を可能にすることなどは、増加する世界の需要に応えるために重要である。

 短期的に見ると、食料価格の高騰に対しては、農業観測会議のような会議を行い、情報を共有することによって対応することができるが、情報発信の少ない諸外国に対しては在庫と生産量の情報が提供されるよう願っている。

 長期的に見ると、食品価格は堅調に推移するとみられ、上記のような技術革新の成果を利用しつつ、農産物の生産性を上げることが重要となってくる。

(3)再生可能エネルギー燃料

 石油価格が高騰しており、再生可能エネルギーの利用を促進し、石油依存から脱却する必要がある。再生可能エネルギーは、米国のエネルギー安全保障の観点から非常に大切であると理解している。国内で消費される石油の60%を輸入に頼っており、不安定な中東情勢の展開によっては、石油価格は上昇することが懸念される。エネルギー源の多様化、エネルギー安全保障の強化、環境・農村開発目的への対応から、再生可能エネルギー燃料の国内生産を拡大することが重要である。

3 トウモロコシの2011年の見通し

(1)作付面積・生産量

 トウモロコシの2011/12年度(2011年9月〜2012年8月)作付面積は前年より380万エーカー(152万ヘクタール)上回る前年比4.3%増の9200万エーカー(3680万ヘクタール)と予測された。なお、3月31日公表の作付意向面積では、9218万エーカ(3687万ヘクタール)となり、1944年以降において過去2番目になるとされている。

 1エーカー当たりの収量は前年比5.8%増、8.9ブッシェル(0.2トン)上回るため、生産量は前年を12億8300万ブッシェル(3259万トン)上回る、137億3千万ブッシェル(3億4874万トン)と予測される。


図2 主要穀物の作付け面積の推移
資料:USDA
  注:2011年は作付意向面積値。

(2)消費量

  用途別に見ると、エタノール向けが前年より5千万ブッシェル(127万トン)増の50億ブッシェル(1億2700万トン)と、1990年代後半以降では最小の伸び率となる。ガソリンの国内消費が鈍化する中、米環境保護局(EPA)は2001年以降の車に対しエタノール混合率15%のガソリン(E15)の使用を承認したが、すぐには浸透しないというのが業界の見方である。飼料等用途使用量は、豚向けや鶏向けは価格の上昇から、牛向けも飼養頭数の減少からいずれも減少し、合計では前年より5千万ブッシェル減の51億5千万ブッシェル(1億3081万トン)とされる。輸出需要は強く、前年より5千万ブッシェル増の20億ブッシェル(5千万トン)と見込まれている。今後、輸出先市場においてはアルゼンチンとの競合が見込まれる。
図3 トウモロコシの用途別需要の推移
資料:USDA

(3)在庫

 期末在庫は、前年より1億9千万ブッシェル(483万トン)増となるが、8億6500万ブッシェル(2197万トン)と依然として低水準となることが見込まれており、期末在庫率は6.4%と、昨年に続き95年以来の低水準である。また、1ブッシェル当たりの生産者平均販売価格は前年より0.2ドル(約16円)上回る5.60ドル(約470円)と予測されている。

 なお、国際価格の上昇が続いており、シカゴ市場の先物相場(期近物)は4月11日、一時1ブッシェル当たり7.8ドル(655円)台と過去最高値を更新した。

図4 トウモロコシの期末在庫の推移
資料:USDA

4 畜産物需給の見通し

(1)牛肉:肉牛・牛肉ともに供給は減少

1)飼養頭数

 2011年1月1日現在の総飼養頭数は前年を1.4%下回る、9258万2千頭となった。2008年以降減少局面にあるキャトルサイクルは、今後の肉用牛生産の指標となる繁殖雌牛頭数が前年を約2%下回っていることや、2010年の子牛生産頭数も1950年以降で最小となっていることから、飼養頭数の減少は今後も続くと見込まれる。


2) 生産量

 2011年の牛肉生産量は、フィードロット飼養頭数の減少やと畜頭数の減少から前年を
0.9%下回る1182万7千トンと見込まれる。

図5 牛肉生産量の推移
資料:USDA

3)輸出

 輸出量は、前年比5.5%増の1100万トンとみられる。アジア市場向けが引き続き好調であると期待されるが、国内の供給が減少しているため輸出量の拡大は限定的となるとみられる。

図6 牛肉輸出量の推移
資料:USDA


4)生体価格

 生体牛の供給不足および輸出需要の増加により、主要5市場の肥育牛価格は100ポンド当たり平均105〜111ドル(キログラム当たり194〜206円)と前年の同95.38ドル(同177円)をかなり上回る見込み。

図7 肥育牛価格の推移
資料:USDA
  注:ネブラスカにおける去勢牛チョイス級、1,100〜1,300ポンドの相対取引価格


(2)豚肉:生産量は前年を上回る中、肥育豚価格は堅調で推移

1) 飼養頭数

 2011年3月1日現在の豚総飼養頭数は、前年を0.5%上回る6396万4千頭となった。繁殖豚頭数は前年比0.5%減の579万頭となっており、1腹当たりの産子数は、衛生環境の改善などから前年を上回って推移したが、2011年3月以降の子豚生産頭数は母豚頭数の減少により、横ばいないし減少基調で推移すると見込まれる。

2)生産量

 2011年の豚肉生産量は、1頭当たりの枝肉重量の増加により、前年比0.6%増の1023万5千トンと予測される。しかし、飼料価格の高騰が続く場合、2011年第4四半期には生産者は肥育豚を早期出荷するとみられるため、1頭当たりの枝肉重量は減少すると見込まれる。

図8 豚肉生産量の推移
資料:USDA


3)輸出量

 2011年の輸出量は、世界経済の回復や米ドル安の好輸出環境により、過去最高となった2008年の記録を上回る前年比10.6%増の212万1千トンと見込まれる。今後は、口蹄疫発生により豚肉供給が減少する韓国向け輸出が増加することが期待される。

図9 豚肉輸出量の推移
資料:USDA


4)生体価格

 2011年の肥育豚価格(赤身率51-52%)は、100ポンド当たり平均59〜63ドル(キログラム当たり109〜117円)と1982年以来の高値となる。これは、生産の増加を上回る輸出需要の増加が見込まれることによる。

図10 肥育豚価格の推移
資料:USDA

(3)鶏肉:輸出量は前年に引き続き減少

1)生産量

 飼料価格高騰や需要の減退により生産者は、2009年に自主的に減産を行ったが、2010年に需給が改善し、ブロイラー向けひなの導入羽数が増加したことから、2011年の鶏肉生産量は、前年を1.4%上回る1698万5千トンと見込まれる。

図11 ブロイラー生産量の推移
資料:USDA



2)輸出量

 強い輸出需要およびドル安の追い風もあり、もも4分体(レッグクォーター)の価格は堅調に推移する。しかし、2011年の輸出量は、年後半の減産に伴い価格が上昇するため、価格志向型市場での競争力が低下することから、前年を下回る301万6千トンと予測される。国別では、ロシアが関税割り当てを2010年の78万トンから35万トンに削減したことから減少し、同国向けについてはブラジルなどの輸出国との競合が予想される。


図12 ブロイラー輸出量の推移
資料:USDA


3)価格

 2011年の鶏肉卸売価格(丸どり(中抜き))は、生産が多い前半は価格が抑えられるが、生産が減少する後半は前年の水準を上回り、平均では、前年の1ポンド当たり平均82.9セント(キログラム当たり154円)より安い同81〜86セント(同150〜159円)と見込まれる。

図13 丸どり卸売価格の推移
資料:USDA

(4)牛乳・乳製品:生乳生産量、価格ともに前年を上回る


1)飼養頭数

 2010年の酪農家1戸当たり平均所得は前年の平均7万ドル(588万円)から、21万ドルまで回復した。2011年は、13%以上下落し、18万4千ドル(1546万円)になると予測される。2010年の酪農家の経営状況は、2009年と比べて2010年は改善したものの、同年の下期には増頭傾向が控えめとなった。

 なお、2011年の経産牛飼養頭数は前年から5万頭上回る915万頭と見込まれる。

2)生産量

 1頭当たりの生乳生産量も2011年には上昇すると見込まれるが、昨年の2.8%の上昇率に比べ、1.1%と控えめな上昇率になっている。

 2011年の生乳生産量は、景気回復に伴い、乳製品の強い需要が期待され、生乳生産量は、8890万トンまで増加すると見込まれている。

 また乳製品生産量も、経済の好転に伴う国内需要の増加を反映し、乳脂肪分ベースでは、前年の0.4%増と比べ2.2%増と増加率が上昇し、無脂乳固形分ベースでは同3%減少だったものが、3%増と増産に転じると予測されている。

3)生乳価格

 輸出競合相手国が増加するにもかかわらず、景気回復により内需の拡大が見込まれることから、2011年の乳価は昨年よりも上昇し、100ポンド当たりの全生乳平均価格は、前年の16.29ドル(キログラム当たり30円)
をかなり上回る18.10ドル(同34円)になると予測される。

5 おわりに

  2010年の米国農産物を取り巻く状況は、世界的な食料価格の高騰、ひっ迫するトウモロコシ需給、飼料価格の高騰により厳しいものであった。会議の副題となる、「現在の戦略と今後の展開」とは、農産物の積極的な海外輸出の促進と、生産性の向上を目指そうという米国の決意でもあるとも思われる。

 オバマ大統領は2010年の一般教書演説において、2014年までに輸出量を2倍にする目標を示した。米韓FTAや、交渉会合参加国が米国を含め9カ国にも上るTPPなどの自由貿易交渉については、輸出の拡大による雇用創出効果が期待されていることもあり、米国政府は積極的に取り組む姿勢である。

 USDAは、中国、インド、東南アジアなどの新興国を今後の重要な輸出先国として期待する一方で、米国は他国産品との競争にさらされており、他国の状況を把握することが重要との認識でいる。

 本年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でのTPP交渉の妥結を目標に進めるTPP、また、世界各国におけるFTAの締結など、さらに統合が加速する世界経済の中で、米国はどのように輸出を促進していこうとするのか、特に牛肉を含む日本への農産物輸出に対するスタンスはどうなるのか、という点について2012年に期限が切れる農業法の議論の進展と併せて注目していきたい。

(参考資料)
米国農業観測会議2011年
http://www.usda.gov/oce/forum/index.htm


 
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