調査情報部 中野 貴史
【要約】我が国の畜産は、飼料の輸入依存度が高く、飼料原料の大半を占めるトウモロコシは9割以上が米国産である。今般、トウモロコシ先物のシカゴ相場は高騰し最高値を更新した。幸い、東京トウモロコシ価格は2008年の高騰時と比較すると円高と原油安の恩恵によりシカゴ相場高騰の直撃は受けずに済んでいる。とはいえ、トウモロコシに代わる飼料の確保は日本の畜産の命題である。 米国では、エネルギー政策の後押しを受けてエタノールの生産が急速に拡大し、エタノール生産の副産物であるDDGS(トウモロコシ蒸留かす)の生産・利用も同様に拡大している。日本でも輸入し利用されているが、まだその数量は少ない。当初の問題とされた成分のばらつきや扱いにくさは、実際、飼料工場で大きな支障にはなっておらず、現時点では、輸入港における保管施設の確保と生産者に対する正確な情報の提供が当面の課題と考えられる。これらの課題を解決することで、日本においてDDGSの利用が進み畜産経営の改善につながることが期待される。 1 はじめに日本の畜産は、飼料原料の大部分を輸入に依存している。飼料原料の大半を占めるトウモロコシは需要量の9割以上を輸入に頼り、さらにその9割以上を米国に依存している。 トウモロコシ先物(期近物)のシカゴ相場はこの1年間で倍近くに高騰し、6月10日には2008年6月27日の最高値762セントを更新し、799セントを記録した。トウモロコシのシカゴ相場は、5年前まではブッシェル当たり2ドル台で推移していたが、米国のエネルギー政策によりトウモロコシのエタノール向け使用が増えるとともに上昇し、さらに、投機マネーも流入しトウモロコシ価格は高騰していく。需給のひっ迫懸念のある今年は一貫して6ドルを上回って推移している。 そこで、最近注目されてきたのがトウモロコシの蒸留かす(DDGS)である。DDGSはトウモロコシを原料にエタノールを生産したときの副産物である。米国では、エネルギー政策を受けて、トウモロコシを原料としたエタノール生産が急増した結果、副産物であるDDGSも量産されることとなった。DDGSは、トウモロコシより安価で、かつトウモロコシの成分が濃縮する家畜飼料として、米国内の畜産農家をはじめ世界各国で利用されることになった。 日本におけるトウモロコシの価格は2008年とは異なり、円高と原油安の恩恵により東京穀物商品取引所の取引価格が当時は5万円台を記録したのに比べると今般は3万円前後となっており、シカゴ相場高騰の直撃は受けずに済んでいる。とはいえ、今後、トウモロコシのシカゴ相場、為替相場、原油価格の変動により国内取引価格が2008年並みになることも想定され、トウモロコシに代わる安価な飼料を確保することは日本の畜産の命題の一つである。 日本のDDGSの輸入量は、この5年で10倍に拡大しているものの、絶対量は小さくその数量はトウモロコシの輸入量の2%程度にすぎない。輸入された当初のDDGSは、成分にばらつきがあり、輸送・保管でも脂肪分を多く含むため固結しやすかったことから、配合飼料原料として扱いづらいイメージがあった。このようなイメージが関係者の間で払拭されていないことも日本の輸入が伸びない要因の一つと考えられる。 高値で推移するトウモロコシや大豆ミールの依存度を下げ、より安価なDDGSを利用することは生産コスト削減が期待され畜産経営の安定のためにも有用である。そこで、本稿では今後の我が国の畜産経営の参考に資するため、米国におけるDDGSの生産実態や我が国の利用拡大の可能性について報告したい。
2 米国におけるDDGSの生産動向(1)拡大するエタノールの生産動向まず、DDGSを産出するエタノールの生産について概観する。エタノールの生産量は、中東への石油依存からの脱却および環境対策として掲げられたエネルギー政策により拡大し、2000年の16億ガロンから2010年には132億ガロンに急増した。これは2000年頃から環境対策としてガソリン添加剤としてエタノール需要が伸張する中、2005年8月のエネルギー政策法において、2012年までに年間75億ガロンのエタノールの使用を義務付けた再生可能燃料使用基準が定められた。その使用基準を上回るエタノールが生産される中、2007年12月に成立した新エネルギー法により再生可能燃料の使用基準が引き上げられ、これにより再生可能燃料は2020年までに360億ガロンの使用を義務付け、トウモロコシ由来のエタノールについても、使用義務量は2009年の105億ガロンから2015年には150億ガロンにまで増え、2022年までは同数量を使用することとされている。
この政策の後押しもあってエタノール生産は急増した。
エタノール生産工場には、ドライミル式とウェットミル式と2つのタイプがある。近年のエタノール生産の急増は建設コストが比較的安価なドライミル式工場の増加によるものである。2000年には31工場であったドライミル式工場は、2010年には、180工場と、10年間で約6倍に増えた。一方、ウェットミル式工場は2000年の8工場から2010年には13工場となっている。DDGSは、ドライミル式工場でのみ産出される。ドライミル式工場が増加したことも、DDGS生産増に寄与していった。 また、エタノール原料に使用されるトウモロコシのうち、ドライミル式工場への仕向け割合は、2000/01穀物年度(年度は、9〜8月。以下同じ)には全体の31.6%であったが、2010/11年度には89.4%に増加すると見込まれている。 ドライミル式とは、先ず最初に原料トウモロコシを粉砕し、それに水分を加えて発酵、蒸留というプロセスを経てエタノールを生産する方式で、副産物としてDDGSが生産される。トウモロコシの成分のほぼ3分の2を占めるでん粉が発酵してエタノールとCO2になり、残りの3分の1がDDGSとなる。つまり、DDGSは、トウモロコシに含まれるでん粉以外の成分がほぼ3倍に濃縮されることになる。よって、たん白質は10%から30%に、脂肪分は4%から12%に濃縮される。 なお、ウェットミル式とは、原料のトウモロコシを水に浸して胚芽、たん白質およびでん粉を分離してコーン油、コーンシロップ、コーングルテンフィード、コーングルテンミール、エタノールなどを生産する方式である。 (2)拡大するDDGSの生産動向ア DDGSの定義 DDGSは生産工程において異なる形態・成分を持つ。 図3はドライミル方式によるエタノールの生産工程のフローチャート図である。
本稿でDDGSとは、ドライミル方式によるエタノールの生産時に発生する副産物全般を指し、蒸留かすにシロップ(ソリュブル)を添加したものとしないもの、また、乾燥させたものとさせていないもの、さらにシロップのみを含めた以下のものとする。 ○DDGS(Distillers Dried Grains with Solubles、乾物88〜90%) ○DWGS(Distillers Wet Grains with Solubles、乾物30〜35%) ○MDGS(Modified Distillers Grains with Solubles、乾物45〜50%) ○DWG(Distillers Wet Grains、乾物30〜35%) ○DDG(Distillers Dried Grains、乾物88〜90%) ○CDS(Condensed Distillers Solubles、シロップ) イ DDGSの生産動向 DDGSの生産は、エタノールの生産が2000年台半ば以降急激に増えたのと同様に急増している。2010/11年度には3328万トンのDDGSの生産が見込まれており、2000/01年度の14倍、2005/06年度の4倍となる。2015年にエタノール生産が新エネルギー法の使用基準である150億ガロンに増産された場合、DDGSの生産は同年には3860万トンに増えると試算され、2022年まで同水準で推移するものと見込まれる。
次に州別のDDGSの生産動向をみてみる。DDGSは、エタノール生産の副産物であることから、州別のDDGSの生産動向は、エタノール工場の分布にほぼ一致する。 DDGSの生産は当初、ほぼコーンベルト地帯に限定されたが、次第にほかの地域へと拡大していった。エタノール製造業の高収益と政策によるエタノール消費拡大などを背景に、エタノール製造業にはトウモロコシ生産者も含めた多くの事業者が新規参入した。コーンベルト地帯以外のトウモロコシ生産地域でもエタノール工場の建設が相次ぎ、DDGSの生産地域は広がっていった。
(3)DDGSの成分・規格DDGSは、成分にばらつきがあると言われる。エタノール工場を指定せずに注文した場合、ディーラーは、数量を確保するために複数の工場から調達することがある。工場によって粉砕する粒子の大きさ、発酵方法、蒸留効率、乾燥工程、副産物に戻されるシロップ(ソリュブル)の量などが異なることから、DDGSの成分にばらつきが出てしまう。特定のエタノール工場からのみ調達する場合、基本的にはばらつきはない。また、エタノール工場に設置されている設備のメーカーは限定されていることから工場が異なっていても、同じ設備であれば工程を同一にすることで、ほぼ同一の成分を得ることが可能であろう。
また、原料のトウモロコシの成分は3倍に濃縮されるため、原料となるトウモロコシの成分のばらつきもDDGSの成分のばらつきの要因の一つになっている。 DDGSの規格化について米国農務省穀物検査・肉畜取引管理局(USDA/GIPSA)は2004年5月に、穀物調査審議会から、DDGSの飼料としての有用性をより高めるため、成分含有量の基準値を定めるなど成分規格の設定が必要である旨の答申を受けた。しかしながら、同年11月、エタノール工場、飼料業者、販売業者、研究者、畜産生産者から意見を聴した結果、種々さまざまなDDGSが生産されている現状から、現時点で統一規格を定めるのは時期尚早との結論に至っている。 産学一体となってDDGSを研究しているミネソタ大学の調査を紹介する。当大学の2009年3月と2010年8月に行われたDDGSの成分調査の結果は以下のとおりとなっている。
抽出数が異るので一概には言えないが、両サンプルの成分含有量を平均値で比較すると、たん白質と脂肪が明らかに減少している。また、含有量の下限と上限の幅が小さくなっているのも注目される。 2010年4月26日から始まったシカゴ商業取引所(CMEグループ)によるDDGSの先物取引では、DDGSの成分規格は表2の通り定められた。これと、ミネソタ大学の2回の調査結果を比べると、2009年3月時のものはすべてたん白質が規格外となる。2010年8月のサンプルは、CMEの規格に概ね適合するが、たん白質は一部、規格外となっている。DDGSの成分のばらつきから規格化の難しさが読み取れる。 ちなみに、CMEのDDGSの先物取引は、関係者の期待と注目を集めて開始されたが、種々さまざまなDDGSが生産・利用されている実態を反映しておらず、開始から1年と数カ月がたつが、取引は当初からまったく行われていない。 従来、コーン油はウェットミル式によるエタノール生産の副産物であるが、今般、コーン油価格が高いことから、コーン油をソリュブルから抽出しているドライミル式工場が増えている。これにより、コーン油を抽出した工場から生産されるDDGSは脂肪分が少なくなるという事態が起きている。 一般的なDDGSの脂肪分は約11%だが、コーン油を抽出すると約8%にまで減少する。また、最新の機械により3%程度にまで脂肪分を抽出するものもある。よって、今後もドライミル式工場の技術開発によってDDGSの粗脂肪含有量の低下など成分は変わりうることになり、このこともDDGSの規格化を困難なものにしている。
3 米国におけるDDGSの利用動向(1)DDGSの生産と利用DDGSはトウモロコシの成分である繊維質が多いことから、米国では当初、反芻動物である牛用の飼料として使用されてきた。また、形態としては、DDGSを乾燥する工程を省いた水分を含むウェット・タイプのDDGSが太宗を占め、これらはエタノール工場近隣の肉牛生産者で使用されてきた。 ウェット・タイプの消費期限は短く3〜7日程度と言われ、エタノール工場の約160km圏内の畜産農家に大方販売されている。近隣に肉用牛肥育生産者(フィードロット)のあるエタノール工場ではドライ・タイプの販売はせず乾燥施設を設置していないケースもある。肉牛農家の多いネブラスカ州では、生産されるDDGSのほぼ半分がウェットであると言われている。一方、再生可能燃料協会(RFA)によると、ドライ・タイプとウェット・タイプの比率は、2010年は6:4とドライ・タイプが主流で、水分は10%程度になっている。電気消費量の多い乾燥の工程を省略していることからウェット・タイプの価格は安く、いわゆるドライ・タイプの半値以下で取引されている。 DDGSには品質や成分のばらつき、扱いにくさなどがあるものの、米国の畜産農家は、この新しい安価で栄養豊富な飼料原料を受け入れ、その利点を享受してきた。DDGSの生産が増えるとともに国内消費は急激に拡大し、2005/06年度の835万トンから2010/11年度にはその3倍となる2466万トンと見込まれている。ただし、生産量に占める消費量の割合は海外からの堅調な需要を反映し89%から74%に縮小している。消費量の伸びを上回る生産が輸出に振り向けられている。
(2)DDGSの輸送DDGSは当初、近隣の肉牛生産者が、ウェット・タイプのDDGSを生産者自らのトラックにより引き取ってきた。その後、生産量の増加とともに輸送範囲が広がり、鉄道や河川の水運も利用されるようになった。一般的なDDGSの輸送として陸路による鉄道が挙げられる。この場合、DDGSの物性として、流れにくい「流動性(フロアビリティー)の低さ」が問題の一つとなる。これは、DDGSの脂肪分の高さによるものだが、十分に冷却されずに積み込まれた場合には固結する問題などが生じている。この結果、大手鉄道会社によってはDDGSの輸送時に荷主の保有する貨車を使うことを義務付けたりもした。
水運による輸送は、ミシシッピー川水系流域に設置されたコーンベルト地帯のエタノール工場において、ドライ・タイプの輸送に利用されている。 この艀(バージ)でミシシッピー川水系を下り、ニューオリンズ港から船舶で輸出というトウモロコシと同様の安価な輸送形態によりDDGSの輸出は拡大してきた。 もちろん、鉄道貨車で東西の海岸へ輸送され、そこから船舶でも輸出されている。 なお、船舶による輸送についてはスケール・メリットの点からバルク船による輸送が経済的だが、2009年9月、船舶保険会社がバルク船に積載するに当たってDDGSを危険貨物と取扱うことを決めたため、高額の保険料が課されることになった。その後、国際海事機関(IMO)の審判を経て、脂肪分11%以下、水分13%以下のDDGSは危険貨物として取扱わないと見直した。 (3)DDGSの畜種別利用割合DDGSは繊維質が多いことから反芻動物の飼料に相応しいとされてきた。中でも肉用牛については伝統的にトウモロコシが飼料として多く使われてきたので、その成分を引き継ぐ安価なDDGSの出現により、トウモロコシの代替として使用されてきた。乳用牛にとっては、DDGSはたん白質も多く含まれていることからトウモロコシに加え大豆ミールの代替割合も高い。豚と鶏については、DDGSが繊維質を多く含むことから給与量は限定的となっている。しかしながら、研究の進展とともに鶏用、豚用への利用も進んでいる。 この5年間では、多少の増減があるものの、米国における家畜飼料としてDDGSの8割は牛向けに使われている。2010年については、肉用牛向けの利用が41%、乳用牛向けの利用は39%となっており両者で80%となる。豚については10%で、鶏が9%、そして馬、羊、養殖、ペットなどの利用としてその他が1%となっている。
一方、各畜種におけるDDGSの普及割合(2007年)となると、乳用牛では96.1%となり極めて高いが、肉用牛では14.9%と低い。全米で消費されるDDGSの4割が肉用牛に利用されているものの、DDGSが給与されている肉用牛は全体の14.9%ということになる。エタノール工場近隣のフィードロット等においてはドライ・タイプより安価なウェット・タイプのDDGSを入手する地の利があったが、全国的にはDDGSの利用は広がっていない。一方、乳用牛については9割以上の高い利用率となっており、ドライ・タイプという全国に流通している形状での利用が肉用牛の場合と違って広く全米に普及したものと考えられる。 豚の普及率は35.0%、鶏では9.8%となっているが、普及率は増えている。
トウモロコシの主成分のでん粉はエタノールになり、残った成分は、単位重量当たりの含有量はほぼ3倍に濃縮されDDGSとなる。成分の組成が異るためトウモロコシを1対1ではDDGSに代替できない。また、この新しい飼料の様々な実証試験が行われており、各畜種毎の配合割合が検討されている。 全国トウモロコシ生産者協会(NCGA)とアメリカ穀物協会(USGC)が推奨している畜種別の配合割合を抜粋すると以下のとおりとなる。
例えば、トウモロコシの約3倍になるDDGSの脂質にはリノール酸が多く含まれているので、仕上げ期の肥育豚に高い割合で給与するとバラ肉の脂肪に軟化の傾向が表れ、ベーコンの生産に悪影響が出るなど、各畜種における悪影響の生じない配合割合が実証試験により検証されている。 (4)米国内におけるDDGSの利用拡大の可能性米国内でDDGSが多く利用されているコーンベルト西部のネブラスカ州、カンザス州、アイオワ州のフィードロットにおけるDDGSの使用率は高く、特にエタノール工場近郊の生産者は乾物割合が3割〜5割程度のウェット・タイプのDDGSを飼料として利用している。 かつて、コーンベルト地帯周辺は肉用牛の肥育地帯でもあった。その後、フィードロットの規模拡大に伴い、肉用牛の肥育地帯は南部平原へと移っていった。 ところが、DDGSがコーンベルト地帯周辺で供給されるようになると、全国的には減少傾向にあるフィードロット飼養頭数がこの地域で増加するという傾向が見られるようになった。 しかしながら、この肉用牛肥育地域のコーンベルト地帯への回帰傾向は、と場数の制約などもあり今後も継続するとは考えられていない。かつての南部平原への移動には、広大な土地や乾燥した天候など複数の要因によるもので、飼料コスト一つだけで引き戻すには十分ではない。 このほか、コーンベルト地帯周辺以外の地域においても、DDGSの生産量と消費量は増えている。ただし、コーンベルト地帯以外の地域での拡大がさらに進むかどうかは、輸送などのロジスティックの問題や価格の動向などにより、米国内の消費は必ずしもこれまでのペースで拡大するとは考えられていない。ウェット・タイプのDDGSは消費期限が3〜7日程度と短いことから、この消費期限を満たせないエタノール工場から遠方の畜産生産者は2倍以上の価格となる乾燥したDDGSを使用しなければならず、コストメリットが縮減してしまう。 4 DDGSの輸出動向(1)拡大する輸出量と輸出先2007年の世界のDDGS輸出量の伸びは前年比78.9%、米国は88.0%であり、翌2008年の伸び率も8割〜9割と、世界のDDGSの輸出量は急激に拡大した。この世界の輸出量の8割〜9割を米国が占めていることから、世界の輸出量の伸びは、ほぼ米国一国の伸びと言っても過言ではない。
一方、米国の輸出先を見てみると、2000/01年度は上位5カ国で輸出量の99.9%を占めていたが、2005/06年度には81.1%となり、2009/10年度には70.0%まで低下し、輸出量の増加は輸出先国の拡大を伴ってきたことが分かる。
(2)3大輸出先(中国、メキシコ、カナダ)の動向米国のDDGSの輸出先国として隣国であるカナダとメキシコは安定的にトップ2として推移してきた。メキシコの輸入は米国のみで、この5年間、2005/06年度の28万トンから2009/10年度の161万トンまで一貫して輸入量は拡大している。メキシコの潜在的な需要は、これをまだ大きく上回っていることから、この増加傾向は継続するものとみられる。 一方、カナダ向けもこの5年間、2005/06年度の11万トンから2009/10年度の106万トンまで一貫して増えている。カナダでのDDGSは豚向けが主な仕向け先となっており、肉用牛向けの使用が増えれば、米国からの輸入拡大の余地は大きいものとみられる。 この上位2カ国を飛び越えて、2009/10年度に輸出先国第1位となったのが中国である。中国は、2007/08年度以前は1万トン未満で輸入のない年度もあったが、2008/09年度に約10万トン輸入して15番目になり、翌2009/10年度には前年度の20倍以上の約220万トンを輸入して一躍トップになった。 中国向けの輸送はコンテナ輸送が主体となる。中国の対米輸出は活発な状況が続いている。海運会社は中国のコンテナ需要に応えるため、中国にできる限り多くのコンテナを集めたいという思惑から、米国から中国に向かうコンテナ使用料を格安としているという。この戻しコンテナを使って安価な輸送費でDDGSが中国へ輸出されているという特徴がある。 中国は、国内の経済成長とともに畜産物の需要が増大する中、家畜飼料用の国産トウモロコシや大豆ミール価格が高騰している。米国農務省経済調査局(USDA/ERS)は「中国南部は、トウモロコシの主産地の北部に比べトウモロコシ価格が著しく高い。中国国内の輸送費高が影響しているためだ。南部では米国からDDGSを輸入した方が安い」と述べ、中国国内で南部を中心にDDGSの代替需要が高まっている要因を分析した。DDGSは、中国国内のエタノール工場からも生産されているが、マイコトキシン(カビ毒)汚染が常に問題となる。米国産DDGSは価格面、品質面で有利に働いており、中国向けは今後も増加するものと考えられている。ところが、昨年末の12月28日、中国商務部は米国産DDGSに対してダンピング輸出の疑いがあるとして調査を開始したと発表した。これは、中国国内の国産DDGS製造業者が米国産DDGSにシェアを奪われたことを不満に申し入れたとみられている。 米国産DDGSの中国への輸入が調査によりダンピングと立証されると、アンチ・ダンピング税が加算されることになる。昨年末のダンピング調査開始の発表を受けて、2011年1月以降の中国向け輸出は5月までの累計で約46万トンと前年同期を41.8%下回っている。 米国の報道によると、7月に中国の調査団が米国においてダンピング調査を行ったが、ダンピングの事実はないとした。ただ、今回調査した米国におけるDDGSと中国に輸出されたDDGSの品質が同じDDGSという前提が付いた場合に中国政府がどのように判断するか、今後の動向が注目される。 (3)急伸するアジア諸国などの動きこの米国から生産される安価な新しい家畜飼料であるDDGSは、トウモロコシ価格が高騰する中にあって需要は強く、特に途上国や新興国が輸入を増やしている。 トルコ向けは2006/07年度には1万8千トンだったが、2009/10年度には57万4千トンと大幅に拡大して米国の輸出先の第4位になった。イスラム教国のため養豚は存在しないが、乳用牛と肉用牛と合わせて約150万頭飼養しており一定規模の需要が見込めることに加え、DDGSに係る関税が他の飼料原料より安いことから大幅に増加している。ベトナムは自給飼料の確保が困難であるため輸入飼料に依存しており、飼料原料の国内供給者と競合せずに新しい安価な輸入飼料への代替が進んだ。タイやインドネシアにおいては養鶏向け配合飼料原料にDDGSが組み込まれて輸入を増やしている。韓国の主なDDGSの利用は養豚と養鶏向けであり、ほかのアジア諸国と同様、価格メリットからDDGSへの切り替えが進んでいる。 (4)対日輸出の動向米国産DDGSの日本への輸出は、米国の新しい安価な飼料原料に触手を伸ばし2005/06年度の2.9万トンから2009/10年度の23.5万トンまで8倍に拡大している。ただし、2010/11年度は、2009/10年度は収穫期に雨が多かったことからカビ毒の1種である「デオキシニバレノール」(DON)に汚染されたトウモロコシが出荷され、DDGSの場合、カビ毒も3倍に濃縮されて残留し、飼料に許容される残留値を超えてしまうことになる懸念から減少すると見込まれている。また、バルク船での輸送に当たってIMOによりDDGSの成分の脂肪分と水分に制限が課されたことから、その条件を満たすDDGSの確保に制約があったことも輸出量減少の要因の一つとなっている。
2011/12年度については、2010/11年度産のトウモロコシは高品質と言われており、日本向けの輸出は増えるものと見込まれている。 5 DDGSの価格について(1)DDGSの価格決定DDGSの販売価格は、相対取引で決められており、DDGSの取引きされる市場はない。DDGSの生産がこの10年間で10倍以上に増え、取引参加者が急速に拡大する中、DDGSの価格はどのように決められているのか。 2010年1月にカンザス大学が公表した調査結果によると、回答のあった全国125工場のうち、DDGSの価格を決めるに当たって参考とした指標に、87%がシカゴのトウモロコシ先物、43%がシカゴの大豆ミール先物、16%がUSDAの公表価格、23%がその他、そして3%は「無し」と回答しており、44%が複数の指標を使っているとされた。
DDGSは、たん白源としては大豆ミールと代替し、カロリー源としてトウモロコシと代替される飼料原料であることから、DDGSの価格はトウモロコシと大豆ミールの両者の価格の影響を強く受けている。 しかしながら、両者の価格動向と連動してDDGSの価格は動いているものの、加えてDDGSの需給要因による価格の動きもある。例えば、DDGSの国内消費の8割が牛用で、そのうちの半分が肉用牛である。夏期の放牧時にDDGSの需要が減り、フィードロットの飼養頭数がピークを迎える冬期にピークを迎える。ただし、DDGSの国内消費の割合は年々減少して輸出割合が大きく拡大している中、この牛向け需要に限定した季節要因は今後、より限定的になる。
DDGSとシカゴのトウモロコシ先物、大豆ミール先物について各穀物年度の平均価格を見ると、DDGSは2006/07年度以降に供給量が拡大するとともに価格も下がってトウモロコシ先物価格を下回って推移していることがわかる。 (2)DDGSの価格メリット単位重量当たりの価格では、DDGSはトウモロコシをやや下回っている程度だが、DDGSにはトウモロコシの成分が約3倍に濃縮されていると考えると、その栄養価値は3倍になる。また、DDGSには粗たん白質が大豆ミールの約6割含まれている一方、価格は大豆ミールの5〜6割となっているため、単位成分当たりの価格で考えるとDDGSは割安な飼料原料と言える。ただし、ドライ・タイプの割合、容積当たりの重量がトウモロコシの7割程度のため、1.4倍程高い流通コストや、流動性の低さから場合によっては専用の施設の設置などのインフラ整備コストを考慮するとDDGSの価格メリットは縮小する。
6 日本における利用の現状と見通し(1)日本への輸送米国産DDGSの日本向け輸入は2006年(平成18年)に本格的に始まり、その後倍々ペースで増加し、2008年には21万トンとなった。そして、2009年は25万トン(15.1%増)となったが2010年は24万トン(2.3%減)と減少した。2011年は1〜6月の累計で18万トンと前年同期を47.8%上回っている。今年に入ってからの増加傾向は顕著で5月には単月の過去最高となる3万5千トンを輸入し、6月はそれを更新する4万6千トンが輸入されている。
DDGSの輸入に当たって、系統はニューオリンズにある関連会社の全農グレイン鰍通じてバルク船で輸入するなど有利に進めたが、近年は商系もバルク船での輸入を増やしており、本年は1〜6月の累計でバルク船の割合は74.9%と過去最高となっている。特に、5月および6月の直近2カ月では87.0%、88.6%とバルク船率がさらに高まっている。これは、国内での需要が増え、商系もバルク船での輸入が可能となってきていることを意味する。バルク船の割合が高まっているのは、国内需要増がある。バルク船の割合の高まりは相対的にDDGS価格が低下し、配合飼料としての利用が進むことが期待される。
なお、本年1〜6月のDDGS、トウモロコシ、大豆ミールの米国における取引価格と日本への輸入価格を比較すると、トウモロコシとDDGSの価格比が輸入DDGSでは縮小している。これは、DDGSの重量がトウモロコシの7割程度であるため輸送費がトウモロコシの約1.4倍に嵩み、また、荷役効率も7割程度に低下するため荷役コストも1.4倍程度増高しDDGSの輸入価格の上昇要因となっている。
(2)日本の利用状況日本のDDGSの輸入は、2006年のホクレン農業協同組合連合会による乳牛(酪農用および肥育用)への飼料から本格的に始まった。ホクレンは現在、年間約5万トンのDDGSを使用している。系統では、その後、採卵鶏用の飼料として九州から鶏卵の主産県へと広げて輸入を伸ばしていった。2010年は、日本の総輸入量約24万トンのうち約半分が系統の取扱となる。 DDGSの名称は、2004年8月30日に農林水産省は飼料原料に関する基礎的評価試験を終えて栄養価等の暫定値の公表時に「とうもろこしジスチラーズグレインソリュブル」とした。 日本では、米国の事例を参考に牛用の飼料から始められ、同時にほかの畜種向け飼料への利用の検討も行われた。豚やブロイラーにDDGSを高い割合で給与すると脂肪が黄色がかってしまう傾向が表れたため、両者への配合割合は低く抑えられた。これはトウモロコシに含まれる色素キサントフィルが3倍に濃縮されていることからトウモロコシよりも脂肪への色素の移行が強くなる。一方、このDDGSの色素成分移行の特徴が奏功したのが採卵鶏である。日本人は卵の黄身の色が濃いものを好む傾向があることから、これまで採卵鶏業者は卵の黄身が濃い黄色になるように飼料にキサントフィルを添加していたが、DDGSを配合することでキサントフィルの使用量を節約できることとなった。これにより、採卵鶏向けの利用が拡大した。 農林水産省「飼料月報」から日本の配合飼料にける畜種別のDDGSの使用割合を算出すると、日本では採卵鶏(育すう・成鶏用)が36.5%と最も高い、次いで乳牛の32.0%となる。和牛は伝統的な飼料の給餌が定着していることから肉牛は米国の41%に比べると9.7%という低い割合になっている。養豚向けが14%と米国の10%に比べてやや高いのは、DDGSを給与すると脂肪の軟化が表れるという影響を赤身肉が比較的多く含まれる日本のベーコンはほとんど脂肪だけという米国のベーコンほど受けないことによると考えられる。ブロイラー向けは7.8%と米国の9%と比較してやや少ないのは脂肪分が黄色がかってしまうことを敬遠したと考えられる。日本に独特なDDGSの利用としては、採卵鶏への利用率が高いことが際立っている。
(3)今後の利用拡大にあたってDDGSの輸入→港→配合飼料製造工場→生産者という流れに沿って、各時点でのDDGSの課題を考えてみる。 先ず、DDGSは輸入経費がトウモロコシと比較して割高である。DDGSはトウモロコシより7割程度軽いため、同じ容積を船舶に積載した場合、単位重量当たりの輸送料がトウモロコシより約1.4倍高くなる。また、DDGSの物性として流動性の低さが荷役コストを増加させてもいる。 次は日本における到着港での問題である。トウモロコシは輸入港に専用のサイロが整備されているが、流動性の低いDDGSは、トウモロコシ用のサイロを代わりに使うことはできない。DDGS用のサイロは少なく、輸入されたDDGSは倉庫に平積みされることが多い。そうなると今度は、大豆ミールと競合することになる。大豆ミールは近年輸入を伸ばしており、今後DDGSの輸入量を増やすには港湾における保管施設の確保が前提条件となる。 輸入トウモロコシは、我が国の畜産にとって生命線であり、長い歴史もあることから本邦到着後のロジスティックは極めて効率よく整備されている。そのトウモロコシと比較すると、上述のとおり、DDGSが工場に搬入されるまでの課題は多く、コスト高となってしまっている。 ホクレンくみあい飼料鰹\勝工場を調査したところ、当該工場は今年の6月に竣工した新しい工場だが、DDGSを使用するための特別な設備投資は特に行われていない。DDGS用の原料サイロは約60トンが2本あり、年間約1万トンのDDGSを取り扱っている。DDGSは流動性が低く使い勝手が悪いと言われるが、この工場においては特段の困難性はなく使用されており、工場での取扱いという点では課題となるべき事項は見当たらなかった。
また、本文1の(2)に記載したとおり1工場から生産されるDDGSは同じ工程で生産される限り原則として成分のばらつきはない。ホクレンでは、DDGSを5年前から特定の工場で生産されたものを使っているが、使用を始めた当初と比較すると変化はあるものの、現在の成分は安定しており使いにくさはないとのこと。 最後は生産者である。畜産物の品質への影響を懸念して新しい飼料原料の使用に抵抗があるのはやむを得ない。しかしこれは、生産者のメリットにもなることであるので、時間をかけて関係者による正確な情報の提供に期待したい。DDGSが原材料の表示区分では「ふすま」や「米ぬか」と同じ「そうこう類」と分類されるのも生産者に良くないイメージを与えているようだが、これも生産者の理解醸成を推進することにより克服を期待するところである。 (4)DDGSの代替メリットここでは、DDGSの価格の優位性についてトウモロコシおよび大豆ミールと比較して試算してみることとする。本年1〜6月の各飼料原料の平均輸入価格(円/トン)は表9のとおりとなり、これから「日本標準飼料成分表」に定められる粗たん白質(CP)、粗繊維(CF)およびリン(非フィチン)の各飼料原料1トン当たりの重量(kg)を算出し、そこからCP、CFおよびリン1キログラム当たりの価格を算出した。
粗たん白質(CP)1キログラム当たりの価格は、DDGSは大豆ミールをわずかに下回る程度だが、トウモロコシの28%程度の価格となる。次に牛の飼料に必要とされる粗繊維(CF)1キログラム当たりの価格で比較すると、DDGSは、トウモロコシの23%、大豆ミールの44%の価格となった。さらに、豚と鶏の飼料に必要なリン(非フィチン)1キログラム当たりの価格で比較するとDDGSは、トウモロコシの64%、大豆ミールの15%の価格となる。従って、これらDDGSが価格的に有利である飼料成分に着目し、飼料原料のトウモロコシと大豆ミールをDDGSに置き換えることにより飼料コストの低減が可能となるのではないか。 7 おわりにDDGSはトウモロコシや大豆ミールに1対1で置換されるものではないが、不足している栄養素を補給したりさまざまな飼料原料を組み合わせることで補正して、DDGSに置換することができる。これにより飼料コストの低減も図られることになる。 ただし、コスト削減になるからといってDDGSを無制限に使用できるというものでもない。例えば、DDGSはリジンが少ないことからリジン欠乏症にならないような配慮が必要である。また、硫黄が多く含まれているので反芻動物への多給は難しいという問題点もある。 このようなDDGSの性質を考慮しながらDDGSの利用促進による飼料コストの低減化を図っていかなければならないだろう。 米国ではかつて、エタノールの利益率が非常に高い頃はエタノール工場は副産物のDDGSの品質に対して特段の配慮はしなかった。しかし、エタノールの利益率が縮小するとDDGSの販売にも力点が置かれ、より高品質のDDGSを製造することに意識が向けられた。 エタノール工場の売上に占めるDDGSの割合が高まっているとはいえ、エタノール工場の最優先事項はエタノール生産にある。したがって、購入する側は、希望するDDGSを入手するためには、通常の取引よりも高い意識を持って製造側に自らの求めるDDGSを正確に伝える必要がある。求める成分のDDGSを安定的に購入するためには製造側との意思疎通が大事な要素である。 今後、インフラが整備されてDDGSの輸入拡大が可能となり、畜産生産者への正確な情報の提供が進み、この新しい飼料原料を利用することで経営改善に結び付くことを願って本稿をまとめることとしたい。 参考資料・USDA/ERS “Market Issues and Prospects for U.S. Distillers’ Grains Supply, Use, and Price Relationships”2010年12月 ・RFA “2011 Ethanol Industry Outlook” ・Kansas State University “Distillers Grain Industry Price Discovery & Risk Management”2010年1月 ・informa Economics “An Independent Review of US Grains Council Efforts to Promote DDGS Exports”2007年9月 ・University of Minesota “Distillers Grains By-products in Livestock and Poultry Feeds”http://www.ddgs.umn.edu/ |
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