阿蘇草原、あか牛の再生をかけた |
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全日本あか毛和牛協会 理事長 穴見盛雄 |
九州の中央、熊本県北部に位置する阿蘇地域には、広大な草原が広がっています。この草原は、平安時代から続くといわれ、畜産のための放牧や採草、野焼きなど、人の関与によって維持されてきた草原、草地であり、人の手を加えず放置されれば、瞬く間に灌木が茂る林地となってしまうものです。 阿蘇草原が維持され、すばらしい景観を享受できたのは、多くの人の手によって維持存続されてきたことによるものであり、家畜の餌を供給するだけでなく、観光資源として、さらに、多様な動植物が生息・生育する特有の生態系を有する世界的な資産であり、自然と人間が共生する文化遺産の象徴として、失ってはならないものです。 しかし、阿蘇草原を守ってきた褐毛和種(通称「あか牛」という。)は、昭和50年代には、県内で約7万頭を超える繁殖雌牛が飼養されていましたが、畜産業の低迷や黒毛和種への転換により、現在は飼養頭数が約11,000頭まで減少し、あか牛飼養農家戸数も約21,000戸から約1,300戸まで減少したことにより、放牧や採草地としての利用が減ってきていました。特に、畜産農家は、戸数の減少とともに、高齢化、後継者不足により、野草地の維持管理の担い手が少なくなっていました。このように、家畜の餌としての利用の減少、担い手の不足により、放牧や採草を行うことができず、野焼きだけを行う草地や野焼きの管理が行われず低灌木が進入した草原が増えています。 あか牛は、熊本県のほか北海道、秋田県、岩手県、宮城県、埼玉県、徳島県、福岡県、長崎県などで飼養されていますが、全国的に見ても、全国の飼養頭数2万6千頭まで減少し、黒毛和種の飼養頭数185万頭に比べ希少な品種となっています。 一方、阿蘇草原の荒廃に危機感を抱いた国、県、市町村、環境団体が一体となり、阿蘇草原再生協議会を平成17年12月に発足し、阿蘇の草原再生に取り組むこととなりました。また、同協議会では、この取組を加速化させるため、平成23年度から阿蘇草原再生募金を広く一般から募集して、放牧や野焼き等の支援を開始しています。 このような中、褐毛和種を再興するため、全国の褐毛和種生産者が一体となり、一般財団法人全日本あか毛和牛協会(以下、「協会」という。)を平成23年3月に設立しました。協会には、あか牛を愛する熊本県知事蒲島郁夫氏を最高顧問、北海道であか牛を飼育し、協会設立に尽力いただいた神内ファーム神内良一氏を特別顧問に迎え、あか牛の地位向上を目指し、「褐毛和種も和牛である」ことを啓発普及するため、「あか毛和牛」と呼ぶことにしました。 協会は、使命であるあか毛和牛の地位向上を図るため、あか毛和牛の特徴である牧草や野草など粗飼料による放牧飼育に適していることを生かし、健康にストレスのない環境で育てることで、「良い赤身肉」が生まれることを徹底的に追求することとしました。 あか毛和牛のこの特徴は、「Natural、Juicy、Healthy」の3つのキーワードで表され、母牛と共に放牧され、牧草など国産粗飼料をたくさん食べて、自然の中でストレスなく育てられること、赤身肉が多く、やわらかでうま味豊富でジューシーであること、余分な脂肪を含まずヘルシーであることです。 協会では、まず、「良い赤身肉」を生産するための厳格な基準づくりに着手しました。 現行の脂肪交雑を重視した枝肉格付けとは別に、枝肉の赤身割合、国産粗飼料の給与、ストレスの少ない放牧などを要件とした独自の評価基準を策定しました。この基準は、表1のとおり、生産者の飼育基準、枝肉の基本条件、給与飼料及び飼育方法などに別れています。生産者の飼育基準は、飼料を毎日定刻に給与すること、自由に飲水できる設備を有すること、牛房の1頭当たりの面積は5.4平方メートル以上など飼養・衛生管理を加えたものになっており、あか毛和牛生産認定農場すべてに適用しています。
協会では、この取組を広く周知啓発するため、平成23年11月には、東京都内ホテルにおいて、マスコミや食肉関係者を招いたプロモーションを実施し、同年12月から、全国に向けてテレビCMやBS放送を活用してあか毛和牛の特徴をPRしているところです。また、協会は、食肉関係者を対象とした試食会や商談会を開催し、その成果として、平成24年1月には、東京都の大手食肉販売店との商談が成立し、同年2月には新たな評価基準に基づき生産された「1つ星」の牛肉が販売されることとなりました。 このような取組により、熊本県内の褐毛和種の子牛価格は前年度より約10%高く推移しており、枝肉価格も回復し、高く取引されています。 今後も、協会ではあか毛和牛の魅力に関する情報を全国に発信し、褐毛和種の増頭や放牧による阿蘇草原の維持につなげられるよう全国の関係者が一体となって取り組んでいくこととしています。
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