海外情報  畜産の情報 2012年4月号

米国農畜産業の展望
−2012年米国農業観測会議から−

調査情報部 北米チーム 中野 貴史、前田 絵梨
畜産経営対策部 肉用牛肥育経営課 丸吉 裕子


  

【要約】

 米国農務省は、2012年米国農業観測会議においての2012年の食肉等の需給動向について以下のとおり予測した。

牛    肉:飼養頭数の減少を反映し牛肉生産量は前年比4.2%減。輸出量は過去最大を記録した前年を0.8%下回る。肥育牛価格は供給減により前年の最高価格を更新する。

豚    肉:肥育豚の飼養頭数が同1.7%増。わずかに増える枝肉重量を反映し、豚肉生産量は同1.9%増。輸出量は過去最大を記録した前年を1.2%下回る高水準に。肥育豚価格は前年の最高価格をわずかに下回る。

鶏    肉:生産調整により鶏肉生産量は同2.8%減。輸出量は過去最大を記録した前年をさらに0.9%上回る。鶏肉卸売価格(丸どり)は前年を3.8%〜10.1%上回る。

酪    農:経産牛頭数は前年をわずかに下回るものの1頭当たりの乳量が同1.4%増となるなど生乳生産量は同0.9%増。生乳生産の増加により生乳生産者販売価格は、前年を7.1%〜10.6%下回る。

トウモロコシ:作付面積は同2.3%増の94百万エーカー。単収は1エーカー当たり164ブッシェル。この結果、生産量は前年を15.5%上回り過去最大となる。消費は飼料向けが増えるがエタノール向けは減少。期末在庫は、前年度の2倍超となり生産者平均販売価格は5.00ドルに低下。

1.はじめに

 米国農務省(USDA)は、2月23日〜24日の2日間、米国農業観測会議(Agricultural Outlook Forum 2012)(以下「フォーラム」という。)を開催し、2012年の米国の農畜産物の需給見通しを公表した。

 フォーラムは、米国内外の農業関係団体、政府関係機関、大学等研究機関など2千名を超す出席者を迎えて開催された。

 フォーラムでは、80名以上の有識者が2012年の米国農業の観測をメインテーマに25のセッション(世界の食料安全保障、貿易、金融市場、経済開発、環境保全、エネルギー、地球温暖化、食品の安全、産地直結、後継者問題等)に分かれ広範囲な分野について発表が行なわれた。

 今年は米国農務省の設立から150周年を迎える。8名の歴代農務長官が集まって「米国の農業を語る」というイベントも開催された。

2.拡大する食料の世界需要に応えるために

1)ヴィルサック農務長官:基調講演

 ヴィルサック農務長官の基調講演の要旨は以下のとおり。

・2011年の米国農業は農産物販売額と輸出額とも過去最高。

・2012年については、昨年締結した韓国、コロンビア、パナマとの3つのFTA、ロシアのWTO加盟、中国の輸入潜在力、TPPなどにより、農産物輸出は大いに期待でき、主要課題である牛肉などの不公正な貿易障壁、トレーサビリティ、BSE規則などは積極的に取組む。

・農家収入額については過去最高額となると見込む。

・2012年の不安定要素は、ヨーロッパ信用危機など世界経済不安、エネルギーコストの高騰などである。ただ、予算の制約はあるもののこのような経営リスクを回避するため、農作物保険の策定が必要。

・再生可能燃料については、この3年間で海外燃料への依存度を60%から50%に減らした。今後も削減に努める。

・調査研究については、非常に重要であり、将来の食料や燃料などの必要量を確保するために継続して取組む。

・そのほか、農業労働者不足を改善するため移民法の改革、後継者問題についての新規就農の仕組みに取組む。

基調講演を行うヴィルサック農務長官

(2)グラウバー首席エコノミスト講演

 USDAのグラウバー首席エコノミストによる国際貿易と米国農業経済の展望について講演があった。講演では、エタノールは税制優遇措置が昨年末に終了したことなどから、ガソリンとの混合はエタノールが価格の優位性を持ち続けないと進まない。昨年は過去最高となったエタノール輸出も今年は望めないとし、トウモロコシのエタノール向け利用量は減少する見込みと説明した。

(3) 歴代農務長官によるパネル・ディスカッション

 今年のフォーラムは米国農務省設立150周年記念ということでヴィルサック農務長官を司会に、シェイファー前農務長官(2008〜2009年)、ジョハンズ前々農務長官(2005〜2008年)、ヴェネマン(2001〜2005年)、グリックマン(1995〜2001年)、エスピィ(1993〜1994年)、ヤイター(1989〜1991年)、ブロック(1981〜1986年)の7名の歴代農務長官が一堂に会して、拡大する世界の食料需要、緊縮財政、新農業法、持続的農業、近代農業のあり方など米国の農業の将来について各人の見解が以下のとおり述べられた。

・ブロック元農務長官(レーガン政権):これから世界の人口が拡大し食料需要が大きく増大することは米国農業にとって好機である。現代の商業的農業に対して批判する者も多いが科学的知見に立って議論すべきであろう。また、持続的農業を主張する者も多いが、その手法では世界の人口を維持できない。

・ヤイター元農務長官(ブッシュ(父)政権):ブロック元長官に賛成。輸出の一層の拡大が必要。TPPは現政権にとって最優先事項として進めるべきである。

・エスピィ元農務長官(クリントン政権):米国農業の現在の課題は予算である。厳しい財政事情であるが、安易に予算の削減が行われ、必要な政策が行われないことを危惧する。

・グリックマン元農務長官(クリントン政権):研究開発予算に大きな関心を寄せている。農産品の生産性の向上に向けたさらなる技術革新や農業資源の保全に対する予算を確保しなければならない。

・ヴェネマン元農務長官(ブッシュ政権):世界人口の拡大に見合う農産物の生産ができるのかという疑問や、気候変動や水の問題、飢餓人口と過食・肥満人口の問題もある。これらを解決するための研究予算を確保しなければならない。

・ジョハンズ前々農務長官(ブッシュ政権):莫大な財政赤字である現在、食料安全保障問題は国家の安全保障問題に直結する非常に重要な事項となった。世界で起きている貧困対策の解決に向けて努力しなければならない。

・シェイファー前農務長官(ブッシュ政権):多くの新興国の経済発展に伴い食料需要が増大している状況下で、限られた資源の中で食料生産を拡大していくためには我々の英知を結集して対応していかなければならない。

ヴィルサック農務長官と7名の歴代農務長官
7名の歴代農務長官
資料:USDA

(4)プレゼンテーション

 

多くの有識者らがプレゼンテーションする中で特に注目するのは、食肉大手パッカーのタイソン・フーズ社スミス社長であった。同氏は、食肉の生産にパラダイム・シフト(考え方の転換)が起きているとし、従来、食肉の生産減少は需要の減退に基づくものとされてきた。現在は、需要があるにもかかわらず飼料費や燃料費などコストの上昇に合わせて生産者が生産量を減少させた結果、消費量が減少していると主張した。そして、世界の人口増加とともに拡大する食料需要に見合った食料生産をしなければならず、行き過ぎた動物福祉への取組みや遺伝子組換えなどに対する消費者の過度の不安を“食品無学”と呼ぶ。業界は、FDA(米国食品医薬品局)により科学的に安全と認められたものを生産しており、将来の食料需要に合わせて生産を拡大していく必要性があることを力説した。

タイソン・フーズ社 スミス社長

3.2012年農畜産物の需給見通し

(1) 牛肉:生産量の減少により生体牛価格は高騰

1)飼養頭数

 2012年1月1日現在の牛飼養頭数は、前年を2.1%下回る9076万9千頭となった。繁殖雌牛の頭数は、3911万2千頭で、前年同期を2.2%下回り、肉用繁殖雌牛頭数は1962年以降最少となった。2011年の子牛生産頭数は3531万3千頭となり、1950年以降で最も少ない頭数となった。子牛生産頭数は2012年も減少が予想し、米国の牛飼養頭数は、2012年も減少すると予想される。

 しかしながら、生産者に後継牛確保の動きが見られ、更新用肉用未経産牛は前年より1.4%増えている。2014年以降に肉用牛飼養頭数は増加すると見込まれる。

2)生産量

 2012年の牛肉生産量は、前年を4.2%下回る1138万5千トンと見込まれる。2012年の肉用牛と畜頭数は、ほぼ5%減少すると予想される。一方、2012年後半に期待される飼料価格の低下を背景に、平均枝肉重量は1.4キログラム(3ポンド)以上増えておよそ350キログラム(772ポンド)と見込まれる。

図1 牛肉生産量の推移
資料:USDA

3)輸出量

 2012年の輸出量は、前年を0.8%下回る125万6千トンと予想される。2011年は、輸出量が21%増の126万6千トンを記録した。これは、米国内で牛肉価格は上昇したものの、世界経済の回復基調を背景とした需要増と、米ドル安の恩恵を受けて輸出競争力が高まったためである。

 輸出先では、特にアジアの需要の強さは2012年も続く見込みである。

図2 牛肉の輸出量の推移
資料:USDA

4)価格

 2012年の主要5市場の肥育牛価格は、100ポンド当たり平均121ドル〜129ドル(キログラム当たり約218円〜232円:1ドル=82円)と、2011年の記録的な平均価格同114.73ドル(約207円)をさらに上回るものと見込まれる。素牛の供給減少と輸出需要の高まりにより、2011年に肥育牛価格は10%以上上昇した。2012年の肥育牛の供給が減少するにつれて、肥育牛価格は引き続き上昇するものと見込まれる。

図3 肥育牛価格の推移
資料:USDA

(2) 豚肉:輸出は昨年の記録をわずかに下回るものの高水準に

1)飼養頭数

 2011年12月1日時点の豚総飼養頭数は、6593万頭で、前年よりも1.5%増加した。繁殖豚頭数は、わずかに増加し580万頭を超えた。繁殖豚頭数は2011年全ての四半期で増加したが、その増加割合はわずかなものであった。

 2011年第4四半期まで母豚分娩頭数は増えなかったが、一腹当たりの産子数の増加が母豚分娩頭数の減少分を相殺した。一腹当たりの子豚頭数は、2010年から平均で約2%増加し、第2・3四半期には一腹当たり10.03頭を記録した。結果として、2011年の子豚頭数は1.3%増となり、史上2番目に多い1億1520万頭となった。
 2012年の飼養動向については、一腹あたりの子豚頭数は昨年と同じ水準で推移すると見込まれるので、上半期の子豚頭数は、前年比2%弱増のおよそ5800万頭と見込まれる。この上半期の子豚頭数の増加に伴い、2012年のと畜頭数は増加する。2012年下半期には、母豚分娩頭数は1%弱増加し、一腹当たりの子豚頭数もわずかに増加し、2012年下半期の子豚頭数は2〜3%程度増と見込まれる。

2)生産量

 2012年の豚肉生産量は、1052万3千トンと、2011年よりも1.9%増加すると見込まれる。と畜頭数はおよそ前年比2%増と予想される。平均枝肉重量については、飼料価格が後半に弱含むことが期待されることから昨年をわずかに上回る93.4キログラム弱と予想されるが、さらなる増体は見込まれない。

図4 豚肉生産量の推移
資料:USDA

3)輸出量

 2011年の輸出量は前年比21%増の235万トンとなり、2008年の記録を更新した。輸出先国別にみると、主要10カ国のうち3カ国は前年より減少したが、韓国向け輸出は2倍となり、中国向け輸出は3倍以上となった。その他、日本、ロシア、カナダ、豪州向けもドル安により大きく伸びた。

 輸出量の増加要因は、多くの輸出先国での経済回復、米ドル安、家畜の伝染病の発生による輸出先国での生産量の減少などが挙げられる。

 2012年の輸出量については、米ドル安が続くことから、高水準で推移するものと見込まれる。しかし、韓国では国内生産の回復、ロシアも国産豚肉との競合や、関税割当ての引き下げによる他の輸出国との競合が厳しくなり減少すると見込まれる。よって、2012年の豚肉輸出量は、過去最高となった2011年を1.2%下回るものの、およそ232万トンと予想される。

図5 豚肉の輸出量の推移
資料:USDA

4)価格

 2012年の肥育豚価格(赤身率51−52%、生体ベース)は、100ポンド当たり平均63ドル〜67ドル(キログラム当たり約113円〜121円)と予想され、過去最高だった前年の同66.11ドル(同約119円)を下回ると予測される。 

 高水準にある輸出需要は続くものの、生産量の増加が価格の抑制要因となると見込まれる。しかしながら、牛肉・鶏肉については生産量の減少で価格の上昇が見込まれることから、豚肉は相対的に価格競争力を維持するとみられる。

 2012年の豚肉小売価格はポンドあたり平均3.4ドル〜3.5ドル(キログラム当たり約612円〜630円)と予想され、昨年の同3.43ドル(同約618円)を上回る見込み。
図6 肥育豚価格の推移
資料:USDA

(3)鶏肉:生産量の減少などにより鶏肉卸売価格は上昇の見込み

1)生産量

 2011年は飼料価格が高値で推移する中、生産者販売価格が低調であった。このため、生産者は同年下半期からブロイラー向けひな導入羽数を減少させることで鶏肉生産を抑えてきた。

 2012年1月のブロイラー向けふ卵個数は前年同月を7%下回る水準となっており、生産調整は2012年第3四半期まで続くとみられる。しかしながら、2012年後半以降、飼料価格の下落が見込まれることから、第4四半期以降の生産は増加に転じるとみられる。

 2012年の鶏肉生産量は、前年比2.8%減の1638万トンと見込まれる。
図7 ブロイラー生産量の推移
資料:USDA

2)輸出量

 2011年の輸出は、ロシア向けは制限的な関税割当により減少し、中国向けも引き続き禁止的高関税により増加の見込みはうすいものの、米国の最大の輸出先国であるメキシコへの輸出量は初めて45万トンを超え、香港、アンゴラ等向けは前年よりも増加した。また最近、上位6カ国(メキシコ、香港、ロシア、アンゴラ、カナダ、キューバ)以外の国のシェアが拡大し、数量も増加しており、輸出先が多様化していることに加え各国からの需要も強まっていることがうかがえる。

 2012年においては、鶏肉生産量が減少することに伴い価格が上昇すると見込まれることから、前年ほどの輸出量の伸びは期待できないものの、輸入国の経済発展と米ドル安により、輸出量は過去最大となった前年を0.9%上回る320万トンと見込まれる。
図8 ブロイラーの輸出量の推移
資料:USDA

3)価格

 2012年の鶏肉卸売価格(丸どり(中抜き))は、前年から続く鶏肉の減産に加え、牛肉価格が高値で推移することから安価な食肉として需要が強まると予想され、2011年の1ポンド当たり79セント(キログラム当たり約142円)を上回る平均同82〜87セント(同約148〜157円)と見込まれる。

図9 丸どり卸売価格の推移
資料:USDA

(4) 酪農:所得の低下により飼養頭数は減少も、生乳生産量は過去最高

1)飼養頭数

 2011年の酪農家1戸当たり平均所得は、前年比51.7%増の24万ドル(約1960万円)を記録するなど経営状況が大きく好転したことから、酪農家は意欲的に牛の導入を進めている。しかしながら、生乳生産量の増加により乳価が低調に推移する一方、2012年上半期までは飼料価格が高値で推移すると見られることから2012年の同平均所得は17万6千ドル(約1438万円)まで低下すると予想される。このため、2012年の経産牛飼養頭数は、前年の所得拡大を背景にした上半期の増頭傾向が維持されるものの、前年を下回る919万頭と見込まれる。

図10 経産牛の飼養頭数
資料:USDA
2)生産

 2011年の生乳生産量は、高い乳価と米ドル安による米国産乳製品の高い国際競争力を背景に、前年比1.8%増の8899万4千トンを記録した。2012年については、経産牛飼養頭数が前年をわずかに下回るものの、1頭当たり乳量が前年比1.4%増加することが予想されることなどから、生乳生産量は前年比1.5%増の9026万4千トンと見込まれる。

図11 生乳生産量の推移
資料:USDA

3)輸出

 乳製品輸出量については、世界的な景気回復を背景に各国からの乳製品需要が高まり、特にアジアおよびメキシコからの強い需要が見込まれる。特に中国は、人口増および収入の向上と併せ、食品の安全志向の高まりを受け、中国産乳製品の需要が落ち込んでいることから、2012年においても米国産乳製品は前年に続く旺盛な需要が見込まれる。ただし、2012年においては、オセアニア諸国、アジア等で生産量の拡大が予想されることから、国際価格が弱含むため米国産乳製品の国際競争力が低下し、乳製品輸出量は乳脂肪分ベースで391万トン、無脂乳固形分ベースで1464万6千トンと共に前年を下回ると見込まれる。

4)生乳価格

 2011年の生乳生産が増加基調で推移したことから、乳価は同年終盤から低下しはじめた。この傾向は2012年上半期まで続くとみられ、2012年の100ポンド当たりの全生乳平均価格は、2011年の100ポンド当たり20.14ドル(キログラム当たり約36円)を下回る、同18.00〜18.70ドル(同約32〜34円)と見込まれる。

図12 乳価の推移
資料:USDA

(5) トウモロコシ:過去最大の生産量により期末在庫は2倍に

1)作付面積・生産量

 トウモロコシ価格の高水準を背景とした高い収益への期待を反映して、トウモロコシの2012/13年度(2012年9月〜2013年8月)作付面積は前年より210万エーカー(85万ヘクタール)上回る9400万エーカー(3800万ヘクタール、前年比2.3%増)と、1944年以降で最大となる見通しである。

 1エーカー当たりの収量は、1990年から2010年までの傾向値から164ブッシェルと算出している。これは、天候の影響で単収を大きく下げた前年を16.8ブッシェル上回る。
 この結果、生産量は過去最大となる142億7000万ブッシェル(前年比15.5%増)と予測している。

図13 主要穀物の作付け面積の推移
資料:USDA
注:その他(ソルガム、大麦、オーツ、米、綿花)
2)消費量

 トウモロコシの生産量の拡大により価格が弱含む中、飼料等向けは、肥育素牛の減少と後継牛確保の動向から牛用は減少するが、豚用と鶏用はそれ以上に増えて、その結果、前年を6億ブッシェル上回る52億ブッシェルになると予測している。また、世界経済の緩やかな回復と食肉需要の継続的拡大から、米国産トウモロコシへの世界各国の強い需要に応えて輸出向けは2億ブッシェル増(11.8%増)の19億ブッシェルとした。エタノール向けは、ブラジルのサトウキビ由来エタノール生産の回復に伴うエタノール輸出の減少とガソリン消費の減少見込みから、前年を5000万ブッシェル下回る(同1.0%減)49億5000万ブッシェルと予測している。ガソリンの国内消費は鈍化し、エタノール混合率10%のガソリン(E10)向けの利用量の上限にきている。米環境保護庁(EPA)は、2001年以降の車に対しエタノール混合率15%のガソリン(E15)の使用を承認しているが、実用化までにはまだ時間がかかると見られている。

図14 トウモロコシの用途別需要の推移
資料:USDA

3)在庫

 期末在庫は、旺盛な消費があるものの、前年より2倍超となる16億1600万ブッシェル(4105万トン)となり、期末在庫率は12.0%と昨年の2倍近い水準になると予測している。
 また、1ブッシェル当たりの生産者平均販売価格は前年より1.20ドル(約96円)下げて19%安となる5.00ドル(約400円)と予測している。

図15 トウモロコシの期末在庫の推移
資料:USDA

4 おわりに

 今回のフォーラムでは、2012年のトウモロコシは過去最大となる生産量が予測された。期末在庫は2011年の2倍を超える水準となり、価格も弱含むものとされている。しかし、単収を傾向値で算出していることに留意すべきである。天候次第で2009年のように傾向値を大きく上回る場合も、2010年・2011年のように大きく下回ることも想定される。今後、春先の作付時の天候、その後の生育期の天候に注目が集まるだろう。

 また、牛肉については2年連続の干ばつにより牛飼養頭数がさらに減少し、生体牛価格、牛肉小売価格も高騰している。今後、肉用牛繁殖農家が牛群再構築に動き出すかどうか、こちらも今年の天候が注目されている。

 なお、フォーラムに出席した後、オクラホマ州の肉用牛繁殖農家と米国最大の肉用子牛市場であるオクラホマ家畜市場を訪れた。訪問した農家では、昨年の干ばつの影響を受けて903頭の繁殖雌牛を252頭にまで削減したとのこと。干ばつの影響の大きさを再認識した。この他、オクラホマ家畜市場でも、干ばつの影響により夏から秋にかけて軽い体重の子牛の出荷が多くみられた。

 フォーラムでは、今後の拡大する世界の人口の食料需要を満たす食料生産増産の必要性が語られた。

 世界の食料生産のメインプレーヤーである米国農業であるが、天候によりその動向は大きく左右される。現行の2008年農業法は今年で終期を迎えることになり、次期農業法では、天候不順の影響を和らげるセーフティ・ネット対策などが検討される。米国政府は莫大な負債を抱えており、次期農業法においても厳しい予算の制約の中で検討が進められることになる。

 世界食料需要が増加する中、米国の農業の位置付けが益々重要となってきており、今後の農業政策の方向性を注視していきたい。

オクラホマ家畜市場

 
元のページに戻る