調査・報告  畜産の情報 2012年12月号

豚肉の販売意向調査の結果(平成24年度下期)について

畜産需給部 需給業務課


【要約】

 当機構では、食肉の販売見通しについて、本年9月上〜中旬、量販店、食肉専門店及び卸売業者の協力を得てアンケート調査を実施した。前月号では牛肉について報告したが、本稿では平成24年度下期(10〜3月)における豚肉の販売意向について、最近の豚肉需給動向を踏まえ、その概要を報告する。

1.最近における豚肉の需給動向

(1)国産豚肉のと畜頭数は、平成24年度上期はわずかに増加

 豚のと畜頭数は、平成23年度は、前年の猛暑による受胎率の低下から前半は前年同月を下回って推移したものの、8月以降は受胎率低下の影響が解消し、前年同月を上回って推移したことから、年度全体では1651万頭(前年度比0.5%減)と前年度をわずかに下回った。平成24年度上期(4〜9月累計)においては800万頭(前年同期比1.7%増)とわずかに増加している(図1)。
図1 豚のと畜頭数の推移
資料:農林水産省「食肉流通統計」

(2)豚肉輸入量は、平成24年度上期は冷凍品が減少

 豚肉輸入量は、平成23年度は、東日本大震災後の豚肉加工品需要の高まりから増加し(80万3009トン、前年度比4.5%増)、2年連続で上回った。

 なお、平成24年度上期は、38万3582トンと前年同期を2.0%下回っている。(図2)。
図2 国別豚肉輸入量の推移
資料:財務省「貿易統計」
 一方、平成24年度上期は冷凍品の代替として、豚肉調製品の輸入量が増加している。特に、かた調製品は6万1501トン(前年同期比15.9%増)と、かなり大きく増加している(図3)。
図3 豚肉調製品およびソーセージの輸入量
資料:財務省「貿易統計」
  注:各統計品目番号は、もも調製品    1602-41-090
                 かた調製品   1602-42-090
                 その他調製品 1602-49-290
                 ソーセージ    1601-00-000

(3)豚肉の推定期末在庫量は、平成23年度以降横ばいで推移

 豚肉の推定期末在庫量は、高水準であった平成22年8月以降、全体では概ね16〜18万トンの間で推移している。なお、平成24年9月末の推定期末在庫量は、国産品は2万2295トン(前年同月比2.9%増)、輸入品は15万6988トン(同12.1%増)、全体では17万9283トン(同10.9%増)と、冷凍品輸入量の増加などから3カ月連続で積み増している(図4)。
図4 豚肉の推定期末在庫量の推移
資料:農畜産業振興機構「食肉保管状況調査」

(4)豚枝肉卸売価格は、平成24年度上期は前年同月を下回って推移

 豚枝肉卸売価格(東京・大阪市場、省令規格(極上・上)の加重平均)は、平成24年度上期は前年の猛暑の影響も緩和し、と畜頭数が増加したことから前年同月を下回って推移した。しかし、平成24年10月の枝肉卸売価格は402円(7.8%)となり、9カ月ぶりに前年同月を上回った(図5)。
図5 豚枝肉卸売価格の推移
資料:農林水産省「食肉流通統計」ほか
  注:省令規格、東京・大阪加重平均、直近月は速報値

(5)豚肉の家計消費量は、平成24年度上期ではわずかに減少

 我が国では、豚肉は47%が家計で消費され、25%が加工品に仕向けられ、28%が外食や学校給食等の業務に使用されている(農林水産省畜産部生産局食肉鶏卵課「平成23年次食肉の消費構成割合」)。

 このうち、割合の高い家計での消費については、総務省「家計調査報告」によると、全国1人当たりの豚肉消費量は、平成20年度以降、増加傾向で推移してきた。しかし、平成24年度上期では、前年に発生した牛肉からの放射性セシウム検出問題(以下「セシウム問題」という。)による代替需要で増加した反動もあり、約2.9キログラムと前年同期比0.7%減とわずかに下回った。なお、豚肉より単価の安い鶏肉については、約2.2キログラムと前年同期を9.7%上回っており、消費者の経済性志向を反映して順調に消費が伸びている(図6)。
図6 豚肉および鶏肉の全国1人当たり消費量の増減(前年同月比)
資料:総務省「家計調査報告」
 また、主に豚肉の加工品であるソーセージの家計消費量については、平成20年度以降、増加傾向で推移しており、平成24年度上期でも約900gと前年同期を1.1%上回っている。ソーセージ消費量の増加の背景には経済性志向に加え調理の簡便性によるものと考えられる(図7)。
図7 ハムおよびソーセージの全国1人当たり消費量の増減
資料:総務省「家計調査報告」

(6)POSの販売動向調査による豚肉の販売量

 また、当機構が実施しているPOS調査(レジ通過1000人当たり)においても、豚肉販売量については、平成23年度は7月に発生したセシウム問題により、食肉消費が牛肉から豚肉や鶏肉にシフトしたため、前年度を上回った。しかしながら、平成24年度に入ると、牛肉の消費が回復するにつれ豚肉販売量の伸びは鈍化し、8月以降は前年同月を下回るようになった。その結果、平成24年度上期の豚肉の月平均販売量は32.5キログラム(前年同期比0.1%減)と前年並みとなっている。

 このうち国産豚肉の販売量を主な部位別で見ると、大部分の部位が前年並みか減少している中、「小間切れ・切り落し・うす切り等」のみ平成24年8月以降も引き続き前年同月を上回っており、平成24年度上期の月平均販売量は5.3キログラム(同10.7%増)とかなりの程度上回っている。これは「小間切れ等」の平均販売単価が、前年同期と比較してさらに安くなっていることが影響していると考えられる(図8)。
図8 POSにおける国産豚肉の主な部位別販売動向の推移(前年同月比)
資料:農畜産業振興機構調べ

2.小売店における平成24年度下期の豚肉販売見通し

 前月号の牛肉の販売意向調査に引き続き、9月に量販店と食肉専門店を対象とした平成24年度下期(10〜3月)の販売意向のアンケート調査結果について報告したい。

・量販店…全国の主要量販店26社を対象に行い、25社から回答を得た(回収率96.2%)。

・食肉専門店…全国の食肉専門店60社を対象に行い、59社から回答を得た(回収率98.3%)。なお、食肉専門店においては、今回の調査より対象店舗を変更しているため、データの連続性に留意する必要がある。

(1)平成24年度下期における販売促進の機会

 平成24年度下期における販売促進の機会については、量販店では国産豚肉は「回数を増やしたい」とする割合が58%と最も高く、食肉専門店でも33%が「回数を増やしたい」と回答していることから、下期は国産品の販売に力を入れたいという意向が見て取れる。

 なお、輸入豚肉については、量販店、食肉専門店ともに「これまでと同様」の割合が最も高かった(表1)。


表1 平成24年度下期における販売促進の機会

(2)平成24年度下期の豚肉販売見通し

 平成24年度下期の販売見通しについては、量販店では国産豚肉の「増加」の割合が46%と前回調査と比べると16ポイント減少したものの、依然として高い割合となっていることから、下期も増加が見込まれている。

 一方、輸入豚肉は「減少」の割合が52%と前回調査と比べると40ポイント増加しており、輸入豚肉は減少が見込まれている。牛肉のセシウム問題による代替需要が弱まる中で、国産豚肉を主体として販売する姿勢が伺える(図9、図10)。

 なお、食肉専門店においては、国産豚肉も輸入豚肉も「同程度」の割合が最も高い結果となった(図11)。

図9 量販店における国産豚肉販売見通し(重量ベース)
注:過去の調査結果も記載
図10 量販店における輸入豚肉販売見通し(重量ベース)
図11 食肉専門店における豚肉販売見通し(重量ベース)
注:専門店においては過去の調査データはなし

(3)販売拡大に向けての対応

 このような販売見通しの下、今後の豚肉の販売拡大に向けてどのような対応を考えているかについては、量販店においては「調理方法や料理の提案」が18件と最も多く、次いで「惣菜や味付け肉の強化」の15件、「低級部位や切り落としの強化」の13件という順になった。

 一方、食肉専門店においては、「調理方法や料理の提案」が30件と最も多かったが、次いで「銘柄豚肉の品揃え強化」が26件、「販売促進の機会のさらなる拡大」の24件という順となった。

 量販店、食肉専門店ともに調理方法や料理を提案することにより顧客を取り込もうとする一方で、量販店では惣菜や味付け肉の品揃えと低価格商品の充実を、食肉専門店では銘柄豚肉の販売と販売促進機会の拡大を図るなど、牛肉の販売意向調査の結果と同様にそれぞれ違った販売戦略で対応する様子が伺える(表2)。
表2 豚肉の販売拡大に向けての対応
注:複数回答

(4)飼料穀物価格の高騰により食肉仕入価格が上昇した場合の対応

 最近、米国の干ばつによりトウモロコシなどの飼料穀物価格が高値で推移している。今後、生産コストの上昇等から豚肉の仕入価格が上昇した場合、どのような対応を考えているか調査したところ、牛肉の販売意向調査と同様の結果となった。

 量販店では、各畜肉とも「その肉を使った付加価値のある新商品の導入」が最も多く、次いで「特売価格を引き上げる」とした回答が多かった。このことから、量販店においては、畜肉に関係なく統一した対応を採る様子が伺える。

 なお、食肉専門店では、各畜肉とも「通常小売価格を引き上げる」が最も多かった。これに次ぐ対応はまちまちであり、各店舗で工夫を凝らすものと思われる(表3)。
表3 飼料コスト高により仕入価格が上昇した場合の対応
 当機構では、このアンケート調査とは別に食肉販売状況(小売価格)調査の中で、同じ調査対象店舗(全国の主要量販店26社および食肉専門店60社)に対して毎月の特売回数について調査している。

 平成24年度上期の結果を見ると、量販店は食肉専門店より特売日数が多い傾向にある。このことから、量販店では日常的に低価格で商品を販売することで集客を図っていることが伺える。前述の結果を踏まえると、特売価格が売り上げに与える影響が大きいことから「特売価格を引き上げる」とした回答が多かったものと考えられる。

 なお、通常時との売行きを比較すると、量販店より食肉専門店の方が「多い」の割合が高くなっている。このことから、食肉専門店では特売日数を限定することで集客を図り、その販売効果も出ていることがわかる(表4)。
表4 24年度上期における豚肉の特売日数と売行きの比較
資料:農畜産業振興機構調べ

3.卸売業者における平成24年度下期の販売見通し

 卸売業者においても、9月に平成24年度下期の販売意向についてアンケート調査を実施したので併せて報告したい。

・卸売業者…全国の主要卸売業者18社を対象に行い、14社から回答を得た(回収率77.8%)。

(1)平成24年度下期の豚肉の販売見通し

 卸売業者における平成24年度下期の販売見通し(重量ベース)については、全ての区分において「同程度」の割合が最も高かった。しかし、前回調査と比較すると、国産は「増加」が23ポイント増加していることから、卸売業者においても下期は国産豚肉の増加を見込んでいる(図12、図13、図14)。
図12 卸売業者における国産豚肉の販売見通し(重量ベース)
注:過去の調査結果も記載
図13 卸売業者における輸入冷蔵豚肉の販売見通し(重量ベース)

図14 卸売業者における輸入冷凍豚肉の販売見通し(重量ベース)

(2) 部位別の販売見通し

 部位別の販売見通しについては、「増加」の割合が高かったのは国産の「かたロース」と「ばら」であった。「かたロース」と「ばら」の割合が高いのは、時節柄しゃぶしゃぶなどの鍋料理需要を見込んだものと考えられる。また、「ヒレ」についてはいずれの区分においても「同程度」が8割を超えており、高級部位の販売が伸びにくいことを示唆している(表5)。
表5 平成24年度下期の豚肉部位別販売見通し(卸売業者)

4.平成24年度下期の豚肉供給見通し

(1)豚と畜頭数は増加の見込み

 農林水産省「食肉流通統計」における毎月の豚のと畜頭数の傾向から下期のと畜頭数を予測すると、平成24年度下期は増加になるものと見込まれる(図15)。
図15 豚肉のと畜動向と予測
資料:農林水産省「食肉流通統計」、農畜産業振興機構調べ
 また、農林水産省が毎月公表している「豚肉生産出荷予測」においても、平成24年度下期は増加を見込んでいる。

(2)冷蔵品の輸入量は増加の見込み

 当機構が10月に開催した豚肉輸入動向検討委員会によると、平成24年度下期の豚肉輸入量は、前年同期と比べて冷蔵品は上回り、冷凍品は下回ると見込んでいる。飼料穀物価格の高騰により現地価格が上昇し、買い付けが厳しくなることが懸念されており、冷凍品においては、定率の従価税(関税率20%)で輸入できるシーズンドポークなどの調製品に代替をして輸入するものと見込んでいる。

5.おわりに

 量販店、卸売業者の平成24年度下期の販売見通しでは、国産豚肉の「増加」を見込んでいる割合は、輸入豚肉の「増加」を見込んでいる割合をそれぞれ上回り、国産豚肉の販売に力を入れていくとの結果となった。

 このような中、国産豚肉の需要の増加が期待できる一方で、卸売業者においては、輸入冷蔵豚肉と比較して国産豚肉が扱いやすい価格は、枝肉キログラム当たり420円という回答が36%と最も多く、消費者の経済性志向がさらに継続することを反映していることが伺える。

 一方、昨今の飼料穀物価格高により仕入れ価格が上昇した場合の対応について、量販店や食肉専門店に尋ねたところ、食肉の特売価格や小売価格を引き上げるとの回答が多かった。今後は、飼料穀物価格高騰による影響も併せ食肉の販売動向について見ていきたい。

 


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