海外情報  畜産の情報 2012年12月号

輸入が急増する中国の トウモロコシ需給事情

調査情報部 審査役 河原 壽

【要約】

 中国のトウモロコシ需給は、畜産業の発展による飼料用需要の増加、工業用(でん粉・アルコール)需要の増加によりひっ迫し、2009/10年度以降は輸入国に転じたことから、国際需給に対する中国の需給状況の影響の拡大が懸念されている。

 景気後退を背景に、飼料・工業用需要は緩やかに増加すると推測されるが、小麦価格の上昇からトウモロコシ価格が小麦価格を上回る逆転現象の終息も推察され、拡大した小麦の飼料用需要がトウモロコシ需要へ戻る可能性が高く、輸入量が増加すると推測される。中国のトウモロコシ需給の動向が世界のトウモロコシ需給に与える影響は、今後も拡大すると見込まれる。

 食糧供給を優先させる中央政府の工業用需要の抑制政策の動向が注目される。

はじめに

 中国のトウモロコシ生産は、国務院 国家食糧安全中長期計画綱要(2008−2020年)によると、2020年段階において基本的に自給を確保するとされている。しかし、現在の中国のトウモロコシの需給は、2009/10年度(10月〜翌9月)は干ばつ等の天候不順による不作により輸入国に転じて以来、生産が回復するも畜産業の発展による飼料用需要の増加、でん粉やアルコール生産における工業用需要の増加により消費量が生産量を上回る状況となっており、2011/12年度の輸入量は523万トンと大幅に増加した。

 トウモロコシ需要の増加は人口が減少に転じる2030年まで継続し、2020年には1000万トンに達するとの予測もあり、中国のトウモロコシ需給が世界のトウモロコシ需給に与える影響は、今後ますます大きくなると予測される。

 また、トウモロコシ需給のひっ迫によるトウモロコシ価格の高騰は、代替飼料である小麦の飼料用需要の増加をもたらし、また、大豆からトウモロコシへの作物転換による大豆の作付面積の減少をもたらしており、小麦および大豆の需給にも大きな影響を与えている。

図1 トウモロコシ輸入量の推移
資料:GTI社、Global Trade Atlasより作成
 本稿では、中国におけるトウモロコシ需給がひっ迫した要因を分析するとともに、今後の需給動向を考察する。

 なお、本稿中の為替レートは、1元=13.07円(10月末日TTS相場)を使用した。

1.トウモロコシの生産動向

 トウモロコシの作付面積は、価格高騰により他品目に比べ収益性が向上したため、大豆などの他作物からの転換が進み増加傾向にある。特に、黒龍江省のトウモロコシ作付面積は、大豆からの転換により2006年には吉林省、山東省を上回り、中国最大のトウモロコシ生産省となった。しかし、黒龍江省における大豆からの転換によるトウモロコシ作付面積の増加は、北部地域では気象条件の制約からトウモロコシの栽培は難しいことから、2015年には作付面積の増加は限界になるとの見方もある。国営企業傘下のコンサルタント企業の中華糧網によると、2011年作付面積は前年比2.9%増であったが、2012年では同1.8%増と推計されており、トウモロコシ作付面積の増加傾向は、鈍化していくものと予測される。

図2 トウモロコシ作付面積の推移
図3 トウモロコシ生産量の推移
資料:中国統計部「中国統計年鑑」

2.トウモロコシの需給動向

(1)生産・消費動向

 図4は、中華糧網による2012年9月現在のトウモロコシ需給の動向である。

 2009/10年度は、生産量が干ばつなどの天候不順による不作から大幅な減産となり、中国は輸入国に転じることとなった。2010/11年度の作況は平年並み、2011/12年度は豊作であったが、堅調な消費量の増加により消費量が生産量を上回り3年連続して輸入国となった。2012/13年度は病虫害等により減産した地域もあったものの、全体では作付面積の増加もあり生産量は増加する見込みである。

(2)輸入動向

 中国飼料行業信息網によると、国および地方政府によるトウモロコシ備蓄量は4000万トン前後であったが、2009/10年度は不作により2010年の備蓄量は701万トンに激減した。このため、中央政府は飼料用トウモロコシの安定供給を図るため、2010年に米国から備蓄用に約150万トンを輸入した。

 2011/12年度の輸入増加の要因としては、国内価格の上昇により、輸入価格(通関後)と国内価格の価格差が縮小し、2011年10〜12月の3カ月間においては輸入価格が国内価格を下回ったこと(注1)、東北地域(黒龍江省、吉林省、遼寧省)から南部の消費地への輸送(北糧南運)コストなどの問題があり、南部地域では安価な米国産の輸入が利益につながるという状況が輸入急増につながった。

 2012/13年度は、豊作であった前年度を上回る生産が見込まれるものの、消費量は生産量を上回ると予測されており、4年連続して輸入国となると見込まれている。一方、経済の低迷により消費量は減少することも予測され、輸入量は予測されている500万トンを下回る可能性もある。

図4 トウモロコシの需給動向(2012年9月現在の予測)
資料:中華糧網HPにより機構作成
注:10月〜翌9月

3.トウモロコシ需給ひっ迫の要因

 トウモロコシの消費量は、畜産物の生産拡大を背景に飼料用需要が大幅に増加しており、飼料用需要の増加はトウモロコシ需給ひっ迫の最大の要因となっている。また、工業用需要もでん粉およびアルコールの生産の増加により堅調な伸びを示している。特に、2010/11年度においては、アルコール生産の増加が著しくなっている。
図5 トウモロコシの消費動向(2012年9月現在の予測)
資料:中華糧網、中国淀粉工業協会(でん粉生産量)により機構作成
  注:でん粉用トウモロコシ消費量は、2007年9月「トウモロコシ高度加工業健全発展に関する指導
    意見の通知」で示されたでん粉歩留まり率68%により、中国淀粉工業協会公表のでん粉生産
    量から換算した推計値である。

(1)飼料用需要の拡大

 第一の要因は、畜産業の発展による飼料用需要の増加である。中国飼料工業協会信息中心(情報センター)によると、2011年の飼料生産量は、前年比11.5%増の1億8000万トン(2010年1億6200万トン)、このうち配合飼料は同15%増の1億4900万トン(同1億3000万トン)と大幅に増加し、濃縮飼料、添加剤混合飼料は前年並みとなっている。配合飼料の中でも、養豚、養鶏用の配合飼料の生産の増加が著しく飼料用需要増加の主な要因となっている。

 中央政府は飼料用需要の拡大に対して、わら、酒かす、食品加工副産物の飼料化などの非穀物資源の利用拡大、DDGS(トウモロコシの絞りかす)の利用など飼料原料の多様化を図る計画であるが、その利用は進んでいない模様である(2012年現地調査)。
図6 飼料生産量の推移
資料:中国農業部「農業統計年鑑」、中国飼料工業協会信息中心より機構作成

(2)トウモロコシ由来でん粉糖生産の増加

 第二の要因は、砂糖価格の高騰によるトウモロコシ由来のでん粉を原料とする代替甘味料、異性化糖の生産増加である。中国では、でん粉の生産は95%以上がトウモロコシを原料に生産されていることから、砂糖価格の上昇により、価格の安い代替甘味料である異性化糖の生産が増加し、その原料であるトウモロコシの需要が増加した。
図7 異性化糖の生産量の推移
資料:中国農産品加工業年鑑、中国軽工業年鑑

(3)アルコール生産の増加

 第三の要因は、トウモロコシ由来のアルコール生産の増加である。トウモロコシの工業用需要は、でん粉生産が60〜65%、アルコール生産が35〜40%を占め、アルコール生産のうち70〜80%が白酒用、20%はエタノール生産と推定されている。主なアルコール需要である白酒の生産量は増加傾向となっており、2010年の生産量が大幅に増加している。現在の白酒は、13〜14%を原酒、84%をアルコールを用いて製造していると言われている。白酒の消費増加は、トウモロコシの工業用需要の増加をもたらしている。

 一方、穀物から生産される燃料用エタノール生産量の推移をみると、トウモロコシ由来の燃料用エタノール生産は、トウモロコシの需給のひっ迫を背景に、河南省、吉林省、安徽省、黒龍江省の4省に制限され生産されていることから、緩やかな増加となっている(注2)

 しかし、中国飼料行業信息網(業界情報ネット)によると、穀物から生産されるタンパク質27%以上のDDGS飼料の生産量は200万トン、このうちトウモロコシ由来のDDGS飼料は60万トン(30%)と推定されている。3トンのトウモロコシから生産されるDDGSは0.9トンと推定されていることから、200万トンのトウモロコシが燃料用エタノールとDDGS生産に使用されていることとなる。

 中国新能源網(新エネルギーネット)の燃料エタノールに関する記事(2011年4月掲載)によると、燃料エタノールの原料とされていた陳化糧(3年以上の貯蔵により、アフラトキシンに汚染されたトウモロコシ)は需給ひっ迫により消滅し、燃料用エタノールは新穀を用いて生産されている。200万トンに達する新穀を原料とする燃料用アルコール生産も、最近の輸入量増加の要因の一つと考えられる。
図8 白酒、燃料用エタノールの生産動向
資料:中国糖酒年鑑、中国軽工業年鑑
注:燃料用エタノール生産量は、かんしょ由来のエタノールおよび広西自治区
で生産されるキャッサバ由来のエタノールが含まれる。

4.トウモロコシ価格高騰の影響

(1)低下する在庫消費比率、国内価格高 騰による小麦飼料用代替需要の増加

 飼料用および工業用需要の増加により、トウモロコシの需給はひっ迫し、消費量に対する在庫量の割合(在庫消費率)は、年々低下しており、2000年12月現在の73.2%から2011年12月現在では20.4%まで低下したと推計されている。このため、トウモロコシ価格は、新穀の出荷が始まる9月頃に一時的に低下するものの、上昇傾向は継続している。

 さらに、小麦国内価格がトウモロコシ価格に比べ安価となったことにより、小麦の飼料用代替需要が増加し小麦の需給がタイトとなっている。

 図9は、二級トウモロコシと三級小麦価格の推移を示したものであるが、小麦価格も上昇傾向にあるものの、2011年5月以降、トウモロコシ価格が小麦価格を上回って推移している。トウモロコシ価格と小麦価格の差額はトン当たり200〜300元(2,600〜3,900円)となり小麦代替需要が進んだ。2012年9月調査における養豚企業の配合割合は、トウモロコシ価格同2,500元(3万2500円)に対し小麦価格同2,300元(2万9900円)と小麦価格がトウモロコシ価格に比べ安価であったことから、トウモロコシ60%が30%に減少し、小麦の配合割合は0%から30%に増加した。

 トウモロコシ価格と小麦価格の逆転現象により小麦の飼料用代替需要が増加しているが、逆転現象が解消された場合には、小麦の飼料用需要は減少し、トウモロコシ需要は増加するため、小麦の需給動向がトウモロコシの需給動向に与える影響の拡大が懸念されている。
図9 トウモロコシおよび小麦価格の動向
資料:中華糧網より機構作成
図10 小麦の需給動向(2012年9月現在の予測)
資料:中華糧網より機構作成
  注:2012/13年度(7月〜翌6月)は、第2四半期の天候不順および病虫害の
    発生により減産となる見込みである。
図11 小麦の消費動向(2012年9月現在の予測)
資料:中華糧網より機構作成

(2)零細畜産農家の淘汰

 トウモロコシ価格の高騰は、酪農生産者における飼養頭数の減少、酪農および養豚の零細農家の淘汰をもたらしている。2012年5月の内蒙古自治区呼和浩特市の飼養頭数780頭、うち搾乳牛370頭の規模の大きな酪農場の調査では、近隣の農家はトウモロコシ価格の高騰から飼料確保が困難となり淘汰されつつあった。当該酪農場においても、乳質および乳量の向上が求められる中で、自社で手当できるトウモロコシ(借地での自社栽培および契約農家からの購入)は20%程度であることからトウモロコシ価格の上昇が経営に与える影響は大きなものであった。また、2012年9月の河北省石家庄市の事例では、乳業メーカーへの牛乳販売価格キログラム当たり2.9元(38円)に対し飼料購入価格同2.8元(36円)と収益が見込めず、企業では飼養頭数の削減、零細農家では廃業が進んでいる模様である。

(3)農産物国内価格の上昇

 トウモロコシ価格の高騰は、他の農産物価格にも大きな影響を与えている。農産物加工企業が農家から買付ける場合には、買付価格はトウモロコシがもたらす収益を基準に決定され、農産物生産企業が農家や村から賃貸借により農地を集積する場合は、地代がトウモロコシ栽培の収益を基準に決定されている。トウモロコシ価格の高騰は、農産物の買付価格や地代の上昇をもたらし、農産物価格の上昇を招いている。

(4)大豆の作付面積・生産量の減少、輸入増加

 大豆からトウモロコシへの作物転換の増加(注3)により、大豆の作付面積および生産量は減少傾向にある。中国は世界最大の大豆輸入国であるが、生産量の減少により輸入量は増加傾向にある。中国の世界の大豆需給に与える影響は、トウモロコシ需給のひっ迫により拡大している。
図12 大豆輸入量の推移
資料:GTI社、Global Trade Atlasより作成

5.2012/13年度トウモロコシ需給の見通し

(1)期首在庫予測

 2012年10月のUSDAの予測によると、2012/13年度の期首在庫量は5940万トンと推計されている。

 中国飼料行業信息網の記事によると、国、地方政府におけるトウモロコシ備蓄量は4000万トン前後であったが、2010年には701万トンに激減(注4)したため、中央政府は2010年に飼料用トウモロコシの安定供給のため157万トンを輸入し、2011年は172万トン、2012年は9月までで411万トンが輸入された。

 また、中国農業部市場と経済信息司(市場経済情報局)の2012中国農産品市場報告によると、政府が国家備蓄用に国内市場から買い付ける買付備蓄は、2010/11年度に約2500万トンが買い付けられて以降、2011年1月に計画されたものの、買付価格が市場価格をトン当たり0.03〜0.05元(0.4〜0.7円)下回ったことから買付備蓄はわずかであった(注5)。2011/12年度においては、2011年12月14日〜2012年4月30日における買付備蓄が計画されたが、当該期間の二級トウモロコシの最低市場価格がトン当たり2174.46元(2万8300円)と、国家糧食局が公表した二級買付価格、黒龍江省産同2000元(2万6000円)、内蒙古自治区・遼寧省産同2040元(2万6500円)、吉林省産同2020元(2万6300円)を上回ったことから、前年度同様、買付量はわずかであったと推察される。一方、国家備蓄の放出は、2011年にはトウモロコシ価格高騰を背景に564万トン放出されたものの、2012年1〜9月においては放出されていない。したがって、2012/13年度期首における国家備蓄量は最大で約3377万トンと推計される。なお、中国飼料行業信息網の民間コンサル企業の記事(2012年9月)によると、2012/13年度期首の国家備蓄量を3000万トンと推計している。

 2012/13年度の期首在庫量が5940万トンとすると、貿易企業や加工企業などによる備蓄(社会的備蓄)は2000万トンを超えると推計される。

 2011/12年度における民間企業の買付数量は、飼料・工業用需要量の堅調な拡大を背景に増加したとされており、社会的備蓄の増加、国家備蓄の減少が指摘されており、中央政府の需給調整機能の低下が懸念されている。

(2)生産予測

 干ばつの発生地域は主に西南部(雲南省、貴州省、四川省)であったため、トウモロコシ主産地の東北部(黒龍江省、吉林省、遼寧省)における影響は一部地域であった。また、アワヨトウ虫幼虫発生は、クロルピリホスなどを用いた防除により、8月17日現在、発生面積373万ヘクタールのうち79.3%に当たる297万ヘクタールの防除を実施し、大量発生の抑制を完了し重大な影響はないとされる(中国農業部)。この結果、大豆などからの転換による作付面積の増加もあり、豊作年であった2011/12年度( 1億8000万トン)を上回る生産量1億8200万トン (8月の東北・華北地方の病虫害、東北地方・山東省の台風による減産を加味)と予測されている(中華糧網)。

(3)消費・輸入量予測

 2012/13年度の消費量は、飼料および工業用需要の増加傾向が継続し、前年度(1億8200万トン)を上回る1億9000万トンと予測され、消費量が生産量を上回ると予測され、この結果、輸入量は500万トン(2011/12年度523万トン(注6))と予測されている(中華糧網)。

 一方、養殖業(畜産、養殖魚)におけるトウモロコシ需要の増加は、(1)トウモロコシ価格高騰、飼料価格の上昇による畜産業の利益率の低下から飼養頭数の減少がみられること、(2)景気低迷による食肉需要の減少が予測されることから、緩やかなものとなると予測される。また、工業用需要においては、(1)2012年9月におけるでん粉企業の稼働率は65%(8月45%)、アルコール企業の稼働率は43%と依然として低いこと、(2)でん粉企業では少しの利益を上げているが、アルコール企業はトン当たり120元(1,560円)の損失となっている(黒龍江農業信息網)ことから、工業用需要の増加率も緩やかになると予測される。

 2012/13年度の輸入量は、貿易企業や加工企業などの備蓄の増加および飼料および工業用需要の増加率の低下により500万トンの予測を下回ることも考えられる。しかしながら、2012/13年度に入り、トウモロコシ価格は、需要低下、新穀の順調な入荷により下落しており、トウモロコシ価格が小麦価格を下回れば、小麦の飼料用需要の減少にともないトウモロコシ需要は増加する。

 今後のトウモロコシ価格および小麦価格の動向が注目される。

6.中長期のトウモロコシ需給の見通し

(1)大豆からの転換による作付面積の増加は鈍化する見込み

 中華糧網によると、 2011/12年度(全国)は、作付面積が前年度比2.9%増、生産量は平年作であった前年度を上回る(前年度比9%増)。2012/13年度は、豊作であった前年に比べ作付面積が同1.8%増、生産量は同1.1%増と見込まれている。しかし、最大のトウモロコシ産地となった黒龍江省の大豆からの作物転換によるトウモロコシ作付面積の増加は、北部地域では気象条件の制約からトウモロコシの栽培は難しく2015年が限界となるとの見方もある。大豆からの転換によるトウモロコシ作付面積の増加傾向は、今後、緩やかなものとなると予測され、トウモロコシ生産量も緩やかな増加となると予測される。

(2)消費量は増加傾向が継続するも、増加率は低下

 景気の低迷から消費量の増加率は緩やかとなるも、飼料および工業用需要の増加傾向は継続し需給はタイトな状況が続くと推察される。人口が減少に転じるとされる2030年が、需給の分岐点になると予測される。

(3)小麦政府最低買付価格の上昇によ逆転現象の終息

 小麦の需要は増加傾向が継続しており、小麦価格は新穀が入荷する7月前後の季節変動による低下を除き上昇基調が継続している。また、小麦は政府による最低買付価格政策が実施されており、最低買付価格(三級)は、2011年産トン当たり1,900元(2万4700円)、2012年産同2,040元(2万6500円)、2013年産同2,240元(2万9100円)と毎年引き上げられている。2013年度(7月〜翌6月)の小麦価格は同2,240元を上回ることとなろう。また、小麦の最低買付価格は、2014年産以降も消費拡大および原油価格の上昇などによる生産資材価格の上昇を背景に、農家の生産維持・拡大を図るため引き上げが予測される。

 一方、トウモロコシ価格(二級)は、2012年9月に入ってトン当たり2,378元(3万900円)の最高価格をつけた後、新穀が入荷した9月下旬には同2,348元(3万500円)に下落した。この下落は季節変動による下落と推察されるが、トウモロコシ価格の高騰は、畜産業においては飼料価格の上昇、工業用需要においては原料価格の上昇による生産コストの上昇を招いており、レーショニング(価格高騰による需要の減退)による価格調整(下落)が始まると推察され、中長期的にはトウモロコシ価格が小麦価格を上回る逆転現象は終息すると推察される。
図13 農業生産資材指数および消費者物価指数の推移
資料:中国統計局、中国統計年鑑より2003年=100として算出
 トウモロコシの飼料用需要量は約1億1000万トン、小麦の飼料用需要量は約2000万トンと推計されていることから、トウモロコシの飼料用需要量の1/5近くの小麦が飼料用として供給されている。小麦価格がトウモロコシ価格を上回れば、小麦の飼料用需要が減少し、その減少に相当するトウモロコシの飼料用需要が増加することとなる。

(4)中長期的なトウモロコシ需給

 中国のトウモロコシ需給は、景気低迷やレーショニングにより調整局面に入ると推察されるが、消費量は長期的には景気動向に影響されながらも、食生活の洋風化などの進展により人口が減少に転じる2030年まで増加傾向が継続すると推察される。また、生産量も作物転換による作付面積の増加が緩やかとなると推察されることから、ひっ迫した需給状況が継続すると推察される。

 一方、中期的にはトウモロコシと小麦の価格の逆転現象が小麦の政府最低買付価格の上昇、堅調な需要増加により解消されると推測されることから、小麦の飼料用供給の減少、トウモロコシの飼料用需要の増加により、輸入数量が増加する局面が生じると推測される。 中国のトウモロコシ需給は、世界のトウモロコシ需給に対し、大きな影響をおよぼすと推測される。

 現在中国政府は、総消費量に対する工業用消費量の割合を目標である26%以内に抑制し(2007年9月「トウモロコシ高度加工業健全発展に関する指導意見の通知」)、飼料消費の拡大に対しては、非穀物資源の利用拡大、DDGSの利用など飼料原料の多様化を図りつつ(2011年9月19日中国農業部「飼料工業“十二次五カ年”発展計画」)、基本的には自給体制を維持する方向(2008年11月国務院「国家食糧安全中長期計画綱要(2008−2020年)」)である。最近の総消費量に対する工業用消費の割合は約30%と推定されており、飼料用需要の動向とともに、今後の工業用需要の抑制政策の動向が注目される。

注1:2012年中国農産品市場報告

注2:燃料用エタノール政策は、畜産の情報2011年12月号「中国におけるトウモロコシの需給動向」を参照されたい。

注3:大豆からトウモロコシへの作物転換の増加の状況および要因については、畜産の情報2011年12月号「中国におけるトウモロコシの需給動向」を参照されたい。

注4:国家糧食局統計資料によると、国有糧食(食糧:穀物、豆・芋類)企業の2010年(1〜12月)におけるトウモロコシ買付数量は3333万6500トンであったのに対し、同販売数量は6454万7700トンと、3121万1200トンの大幅な売り越しであった。

注5:農業部市場と経済信息司の2012中国農産品市場報告によれば、2011年1月に一定量の補充を計画したが、入庫価格が市場価格を下回ったため多くの貯蔵庫では補充ができなかったとしている。

注6:GTI社、Global Trade Atlasによる2011/12年度(10月〜翌9月)の輸入量


参考資料
2011中国糧食発展報告
2012中国農産品市場報告、中国農業部 市場経済信息司 編


 
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