調査・報告 専門調査  畜産の情報 2012年2月号

北海道十勝における飼料生産・供給の現状と課題

畜産・飼料調査所 御影庵主宰 阿部亮



【要約】

 北海道十勝における乳牛と肉用牛に対する飼料生産と供給の現状、および課題を3事業所(十勝農業協同組合連合会、タイセイ飼料株式会社、新得町農業協同組合)からの聞き取り調査を基礎にとりまとめた。十勝農業協同組合連合会では、飼料生産ほ場(牧草とサイレージ用トウモロコシ)の植生等実態と、それを基礎とした草地の質的な改善のための取り組みを紹介した。タイセイ飼料株式会社については十勝管内あるいは道内各地からの食品製造副産物を多用したTMR(混合飼料)製造と供給の状況、そして、飼料会社の理念について紹介した。新得町農業協同組合では個人経営の酪農家の経営力向上のために、全国に先駆けてコントラクターとTMRセンターを結合させた事業を推進しているが、本報告ではその経緯と現状を紹介した。

はじめに

 北海道酪農における生産費調査では物材費の約57%を飼料費が占める(平成20年)。農業の生産性向上が言われる中で、牛乳生産力の向上を維持しながら、この部分をいかに低減させるかは重要な課題である。平成23年10月、北海道十勝の飼料生産と供給の現状を調査するために、3つの事業所で聞き取りを行った。①十勝農業協同組合連合会(以下「十勝農協連」という)では、太田雄大氏、町智之氏、古川研治氏、高木正季氏、廣川雄哉氏に、②タイセイ飼料では境田一郎氏、松本哲朗氏に、③新得町農業協同組合では佐々木直彦氏と中山直紀氏(十勝農業改良普及センター十勝西部支所)にレクチャーをいただいた。

 本調査報告はこれらの皆さんの協力の下に作成されたものである。感謝申し上げる次第であります。

1.都府県酪農との比較で見る北海道酪農

 北海道の酪農と都府県の酪農には種々の面において大きな相違がある。先ず、都府県で生産された生乳の多くは飲用に向けられるのに対して、北海道で生産された生乳の場合、飲用向けは20%と少なく、加工原料(脱脂粉乳、バター)が約40%、生クリーム向けが30%、チーズ向けが約10%である(全酪新報、2036号)。

 生産基盤について見ると、飼養戸数では都府県が1万3500戸、北海道が7500戸と都府県が多いが、飼養頭数では北海道の82万7900頭に対して、都府県は63万9400頭と、北海道の方が多い。また、平成22年から23年の1年間の間における飼養戸数の減少率は都府県が5.6%なのに対して、北海道では2.5%と異なる。

 飼養頭数の多少は当然のことながら、牛乳生産量にも反映し、平成22年度の生乳生産量は北海道が389万7200トンに対して、都府県は373万3600トンと北海道が全国牛乳生産の半分強を担っている。

 また、北海道酪農と都府県酪農の個別酪農家の生産基盤を平均値として比較すると、一戸当たりの経産牛の飼養頭数は北海道が63.6頭、都府県が33.2頭と都府県は北海道の約半分の経産牛頭数規模である(農林水産省「畜産統計」平成23年2月1日現在)。

 次に、本稿の主題である飼料生産について見る。昭和40年代以降、日本全体の飼料作物の作付面積は増え続け、平成2年にピークを迎える。高度経済成長期の昭和40年の飼料作物作付面積50万9千ヘクタールが平成2年には104万6千ヘクタールと約2倍に拡大するが、その後は減少し続け、平成20年には90万1500へクタールと縮んでしまう。

 しかし、北海道は縮まなかった。平成2年の北海道の飼料作物の作付面積、61万3400ヘクタールに対して平成20年は60万1800ヘクタールと2%の減少に止まっている。その間に離農者は多くいた。しかし、離農跡地を新規就農者や近隣の酪農家がカバーして、粗飼料生産を続け、平成20年でみると、全国の飼料作物作付面積の66.8%を北海道が占めている(平成20年)。

 都府県酪農は粗飼料生産基盤をかなり急激な速度で減少させてきた。例えば、関東地域で見ると、平成2年には75.3千ヘクタールの飼料作物作付面積が平成20年には43.8千ヘクタールと42%も減少させている。

 都府県酪農は牧草サイレージやトウモロコシサイレージを輸入乾草に置き換えてきた。平成18年後半からは配合飼料原料のトウモロコシの輸入価格が上昇したが、その時には飼料の値上がりが輸入乾草にも及んでいる。平成16年にはキログラム当たり40円で購入できたチモシー乾草が、平成20年の夏には同54円に、11月には同60円以上となり、多くの酪農家は窮地に立たされた。

 都府県酪農に比べると北海道酪農豊かな飼料生産基盤をは持つ。それが、両者の最も違うところかもしれない。

2.十勝酪農の姿

―地域により給与形態に差―

 北海道の酪農は大きく草地型酪農と畑作酪農に分けられる。粗飼料生産の面からいうと、草地型酪農は牧草サイレージあるいは放牧草の給与が主体であり、畑作酪農は牧草サイレージとトウモロコシサイレージの両方の給与が行われる。

 平成22年における十勝全体の牛群検定農家における自給飼料給与形態の比率をみると、(トウモロコシサイレージ+牧草サイレージ)が60.4%、牧草サイレージ主体が24.5%、(トウモロコシサイレージ+乾草)が9.3%である(十勝農協連酪農畜産課調べ)。

資料:十勝総合振興局HPより

 しかし、詳細に見ると地域によっての特徴が観察される。十勝は中央(帯広市、芽室町、音更町、幕別町)、山麓(新得町、上士幌町、足寄町、陸別町)、中央周辺(中札内村、更別村、士幌町、池田町、清水町、鹿追町、本別町)と沿海(幕別町忠類、大樹町、広尾町、豊頃町、浦幌町)の4地域に地政学的に区分されるが表1に示したように山麓地域では牧草サイレージ主体給与の比率が高くなり、中央地域ではトウモロコシサイレージと牧草サイレージの併給が多い。

 牧草の飼料化手法として現在は乾草よりもサイレージがはるかに多いが、歴史的に見ると過去には乾草調製が多く、平成元年当時はトウモロコシサイレージに乾草を併せて給与する酪農家の比率は53.1%と非常に高かった(十勝農協連酪農畜産課調べ)。

 それでは、牧草サイレージの調製形態はどうのようであろうか。平成22年、最も多いのがロールベーラでの梱包(1,437戸)、次いでバンカーサイロ(863戸)、タワーサイロ(539戸)と続く。

 先に北海道の飼料作物作付面積の推移について述べたが、十勝の現状はどうであろうか。そのピークはやはり平成2年に迎えるが、その時の面積85,844ヘクタールは平成22年には88,394ヘクタールと3%程度増加している。そして、88,394ヘクタールの78%に牧草が、22%にサイレージ用トウモロコシが栽培されている。

表1 十勝の地域毎の自給飼料の給与形態比率(%)
資料:平成22年十勝農協連酪農畜産課作成対象牛群検定農家1096戸

−トウモロコシサイレージ−

 トウモロコシの作付面積は昭和53〜60年頃の間には十勝全体で1万9千〜2万1千ヘクタールであったが、その後は減少傾向にあり、平成7年以降平成18年まで、その面積は1万5千〜1万6千ヘクタールの水準にあった。

 トウモロコシサイレージは穀実を含み、自体が濃厚飼料的な特性を持つ。昭和40年代後半の石油ショック、輸入穀物高騰の余波が冷めやらぬ昭和50年代の初頭には、そのような濃厚飼料的な性質を持つトウモロコシサイレージが泌乳量の増加に対応して作付け、調製されたが、その後の輸入トウモロコシの安定・安価な供給により、粗飼料因子をより多く含む牧草への指向が高まり、トウモロコシの作付面積が減少してきたと考察することもできる。

 しかし、平成18年後半からの輸入トウモロコシ価格の高騰にともない、再び濃厚飼料的自給飼料としてのトウモロコシへの注目度が高まり、平成22年には1万9452ヘクタールと作付面積が伸びてきている。トウモロコシの栽培で、近年、特徴的なことは酪農家の畑作農家へのトウモロコシの委託栽培がある。

−委託栽培の増加−

 管内の5〜8農協が酪農家と畑作農家を仲介して受委託栽培を実施する面積−酪農家戸数−畑作農家戸数は、平成18年度が順に148.5ヘクタール−14戸−36戸、平成22年度には634.3ヘクタール−55戸−108戸と増加の基調にある(十勝農協連酪農畜産課調べ)。

 飼料生産の外部委託の一形式と考えることができよう。飼料生産の外部委託については、十勝地方のコントラクターの活動状況を昨年、本誌(「畜産の情報」、2011年3月号)に紹介したが、平成22年における一番牧草とトウモロコシの収穫・サイレージ調製の実績は、牧草が1万3570ヘクタール、トウモロコシが8493ヘクタールであり、十勝全体の作付面積に対する比率では、牧草が19.7%、トウモロコシが43.7%であり、トウモロコシのコントラクター依存割合が非常に高い(十勝農協連企画室調べ)。

−乳牛飼養の実態−

 それでは、乳牛飼養の状況はどのようであろうか。平成17年から平成22年の5年間の間における変化を見る。

 酪農家戸数は1835戸から1621戸と214戸、12%の減少、飼養頭数は21万6231頭から21万7670頭へと1439頭、7%の増加、酪農家一戸当たりの飼養頭数は118頭から134頭へと16頭、14%の増加である。

 規模の拡大が進んでいるが、平成22年と前年、平成21年の個人経営における規模別階層の異動をみると、200頭以下の階層が53戸減少しているが、200頭以上の階層で10戸の増加が見られ、全体の47%が100頭以上の規模を持つ。一方、共同経営(31戸)では、1千頭以上の階層が前年よりも2戸増加し、共同経営全体の約26%を占めるに至っている。

 牛舎の形態についてみると、搾乳牛では、調査農家1482戸の中で最も多いのが「繋ぎ飼い」で66%、次いで「フリーストール」が31%であり、「ルーズバーン(フリーバーン)」は3%である。

表2 十勝管内24農協の牛乳生産、飼料畑利用形態等諸表
資料:「平成22年 十勝畜産統計」平成23年3月発行 十勝農業協同組合連合会

3.各事業所の訪問調査

 前項では十勝の酪農情勢を概括的に述べたが、このような状況の中で、飼料の生産と供給の場面ではどのような問題、あるいは新しい「うねり」があるのであろうか。よりフォーカスを絞り定めた調査を3つの事業所において行った。

 最初に帯広市にある十勝農協連において、十勝酪農の全体的な概況(前述)をお聞きするとともに、ここでは主に牧草とトウモロコシの栽培・調製の現状と課題についてのレクチャーを受けた。次に、音更町のタイセイ飼料株式会社を訪れ、食品製造副産物を多用したTMRの生産と供給に関する事業内容についてお聞きした。最後の新得町農業組合ではコントラクターとTMRセンターを結合させた新しい飼料生産と供給の取り組みの経緯と現状についてお聞きした。

4.十勝農協連

1)プロジェクト「飼料アップとかち運動」

 十勝農協連では自給飼料の単位面積当たり収量と栄養的な品質を向上させるためのプロジェクト、「飼料アップとかち運動」を平成21年から立ち上げ、管内の農協、農業改良普及センター、畜産試験場、種苗販売業者等の協力を得ながら種々の取り組みを推進している。その主な内容は草地植生の実態調査、飼料用トウモロコシ栽培実態調査、土壌改良研修会、草地更新の実演会等であり、その成果の書誌情報としての提供や、発表会も逐次行われている。

 以下、その内容について紹介する。

2)草地の植生とその改良

 十勝農協連ではこのプロジェクトの3年間の間に10市町村の2,769ほ場で植生調査を実施している。その結果を表3に示す。

表3 十勝における草地植生の実態(10市町村、2,769ほ場、平成21〜23年)
資料:十勝農協連酪農畜産課
  注:収量調査は平成22年、1番草の66ほ場

 十勝農協連の古川氏は以下のように話す。「一番の問題としては草地での雑草の割合が高いということです。冠部の被度では43%が雑草ですし、裸地の割合も12%もあります。ほ場の分布を見ても牧草割合が70%を超えているほ場は32%しかなく、50%を超えているほ場は46%と5割を切ってしまっています。その結果、牧草の収量や栄養価が低下している、そういう十勝の草地の問題点がこの調査から明かになりました。雑草ではシバムギとリードカナリーグラスの二つが最も厄介です。これらは地下茎型の雑草で草地をどんどん浸食します。写真1で見られるようにシバムギの根部はものすごい量です。この根が地中にはびこっているのですから、草地の更新をしても除草剤でも殺しきれない、また根が出始めて、更新しても経過年数が短い間に、また元の植生に戻ってしまうという難しさがあります。しかし、何とかしなければなりません。少しでも植生を良くするためには草地更新は必要なのですが、完全更新ではコストと手間も大変です。農協連では出来るだけ安く、簡易更新を活用して植生改善をしてゆければよいだろうということで種々の形態の更新方法の実演会を現地でデモンストレーションをかねて行い、その効果を調べてきました。造成または更新2年目の草地での効果を検証したところ、プラウ耕を省略してロータリーで表層攪拌を行って播種するというやり方によって、一番草で3トン以上の収量が確保できるということが証明され、これからもこの方法での草地更新を推進してゆこうと考えています」。

 古川氏はさらに続けて、播種する牧草の品種についても言及する。「十勝はチモシーが主体で更新する時にはチモシーにマメ科草を組み合わせるか、チモシーの単播にするかのどちらかなのですが、地下茎型雑草にチモシーは弱いのです。ですから、更新しても、また雑草に負けてしまいます。そこで、雑草の侵入が少なく、また栄養価の高い草地の造成を、という観点から、昨年からは多草種混播草地の現地試験を始めました。草種構成はチモシー、オーチャードグラス、メドフェスク、ペレニアルライグラス、イタリアンライグラス、白クローバー、赤クローバー、アルファルファと多様です。現在のところ、収量はよい状況にあります」。

チモシーとシバムギの根部
(十勝農協連酪農畜産課撮影)

3)トウモロコシの栽培実態 プロジェクトの成果

 「飼料アップとかち運動」のプロジェクトの中で、平成21、22年の2年間に十勝10市町村、314ほ場でトウモロコシの栽培調査を実施しているが、その概要と課題を整理すると以下のようになる。

−播種本数の増加−

①播種本数は品種やメーカーによって異なるが、標準的推奨本数は10アール当たり8000本といわれている。調査の結果、約40%のほ場でその本数には達しておらず、先ず、播種本数を多くして収量を増加させる余地があることが確認された。

―欠株率の減少−

②次には、しっかりと種を播く、つまり欠株の問題がある。規模が大きくなって、トウモロコシの栽培面積が広くなると、プランターの走行速度が速くなって、精密に播けない、種がはじけ飛んで、疎な播種になってしまうということも起きる。調査の結果、全体の40%前後のほ場で欠株率が10%を超えていた。そこで、収量のロスが生じる。作業上の問題が収量に関わってきている。

③欠株率が10%以上のほ場では栽植本数が7,000本に達しておらず、収量抑制の主要因がこの部分にあることが分かった。

−ほ場間格差の是正−

④栽植本数と収量の関係を見ると、基本的には正比例の関係にはあるが、同じ本数レベルでもほ場間の格差が大きい。これは肥培管理や土壌の条件、気象条件、排水の問題、そしてこれらの条件とも関係する病害の問題を考えてゆかねばならない。

−肥培管理の徹底−

⑤十勝農協連ではトウモロコシ増産対策を営農課題として掲げ、トウモロコシの栽培支援を行っているが、その中ではトウモロコシの分肥・追肥の改善効果を検討している。良好な生育を促進させるためには適正な肥培管理を必要とするからである。農協連が行っている具体的な支援は、農家がトウモロコシの栽培において追肥・分肥を行う場合、あるいは石灰資材を散布する取り組みについては、実績面積に応じて助成金をだすというものである。このような事業によって「基本的な栽培技術」を浸透させてゆこうという狙いがある。

⑥十勝ではトウモロコシの生育を阻害する要因としてすす紋病の被害が昔から言われてきたが、良好な生育をしている植物体ならば、そのような病気に対する抵抗性も増すだろうと考え、分肥・追肥・石灰施用を奨励している。

−効果的な根腐れ病対策−

⑦今年(平成23年)、十勝管内ではトウモロコシが急速に枯れ上がるという根腐れ病の被害を受けたほ場が多くあった。その原因はいくつか考えられるが、栽培面からいえば、基本的な肥培管理や排水対策をしっかりと行い、良好な生育を獲得することが必要と考えられる。

−土壌改良の必要性−

⑧土壌調査の結果、pHの低いほ場の割合が30%近くあり、上述したように石灰資材の施用を行って土壌pHの矯正をしてゆかねばならないと考えている。

4)十勝農協連における質疑

 一連のレクチャーを受けた後に、いくつかの問題について質疑を行ったが、その要約を以下に示す。

①コントラクターについて

・コントラクターへの自給飼料生産委託は今後、ますます増えるであろう。特に、TMRセンターの設立においては、粗飼料の調製をコントラクターに任せるという動きがあり、そのような形がTMRセンターの増加とともに増えてゆくのではないか。

・また、配合飼料価格の高騰に伴ってトウモロコシサイレージの給与量が多くなってきている。飼料設計をすると、トウモロコシサイレージを20〜25キログラム加えると、濃厚飼料の割合を高くしなくとも目標の乳量水準を確保出来ることが多い。それを可能にするのが、コーンクラッシャーである。これはトウモロコシの破砕処理という新しい調製作業機であるが、クラッシャーにかけるとトウモロコシサイレージの切断長を長くすることができ、多給しても消化器障害を起こさない。現在、十勝のコントラクターはほぼ全てが、この機器を搭載しており、酪農家の要望に応えている。

・コントラクターの機能については、単に栽培・収穫の仕事を農家に換わって実施するというだけではなく、草地管理をも含めたコンサルタント機能が求められており、十勝管内のある農協は、コントラクターが柱になって草地の管理をしてゆくという方針を打ち出している。

②酪農家の飼料生産についての意識

・今、飼料価格が上昇しているからトウモロコシサイレージの面積を拡大するという、そういう面もあることは確かだが、そこにとらわれないようにしている。そこにこだわり過ぎると、トウモロコシの輸入価格が下がると、また元に戻ってしまう。やはり、酪農の基本は粗飼料であるという原点に立って考え、各種の事業を推進している。

・草地・トウモロコシ畑管理の重要性を認識している人とそうでない人の差は大きい。自給飼料の量と質が低い水準では、それが経営の足を引っ張るということは歴然としてある。良いものをしっかりと取れば経営を良くすることが出来ることを理解している人は、計画的に草地更新を行い、生産性の上がる栽培管理を考え、私たちも教わることが多い。しかし、多くの人は牛舎の周りの畑は気にかけるでしょうが、牛から離れた草地というのは目が届きにくいのではないでしょうか。

・草地の状態やトウモロコシの欠株、そういう観察努力が後回しになってしまっている。「貴方の草地にはシバムギが多いですね」という問いかけに、「これシバムギ???」という場面もある。

・「飼料アップとかち運動」の中では、酪農家と施肥改善や、草地管理についての個別相談会を行っているが、「こういう結果ですよ、現状は」と言うと、「エエッツ!」と驚くのです。状況を把握し、現状を認識していないのですね。

・生産者そのものが草地を見なくなっている。大規模化に伴いゆとりがなくなり草地に行くことが少なくなっている。大規模経営ではない生産者もコントラクターに収穫・調製を依頼するようになってから、今までは管理のために草地を見にいっていたものが見にいかなくなってしまった。これが、これからの課題です。

十勝農協連関係者による会議の様子

5.タイセイ飼料株式会社
−ユーザー需要に合わせたセミTMR製造−

 タイセイ飼料は平成4年の創業であるが、当初は配合飼料メーカーの子会社としてスタートした。その後、平成12年には現在の境田氏が取締役社長として独立し、十勝の中心部、音更町でTMRの生産、配合飼料の販売、単味飼料の販売、飼料添加剤の販売、輸入乾草の販売を行っている。

 今回の調査の主対象はTMRの生産と供給であるが、何といってもこの会社の特徴は食品製造副産物を使用したセミTMRを製造していることにある。平成10年からビール粕を活用したTMRを製造し、顧客の信頼を得、基盤を作ってきたが、それを基礎として現在では多様な食品製造副産物を用いた18種類の発酵TMRを生産し、主に十勝と釧路の酪農家、肉用牛肥育農家、そしてTMRセンターに供給している。

 TMRの製造は農家からの、「牧草を混ぜて欲しい」、「発酵飼料を作って欲しい」等の要望が、スタートの動機となっており、現在まで試行錯誤の連続であったという。

1)食品製造副産物の種類

 平成23年度の第1、2四半期(4月〜9月)には18種類のTMRを3,033トン生産しているが、その大部分は発酵セミTMRである。その理由はユーザーの多くが牧草サイレージやトウモロコシサイレージを持っており、その人達はサイレージの採食量を高めるような飼料(製品)を望んでいるからである。供給先は個人経営の酪農家が23戸、酪農の法人経営体が12組織、個人経営の肉牛農家が12戸、肉用牛法人経営体が5組織、そしてTMRセンターが3組織である。

 とてもユニークなのはTMRの商品名に農場の名前が冠せられていることである、例えば、広野ビールサイレージや、加藤ミックスなどである。

 今年の上半期で生産量の多い「ランドピール(1,186トン)」と「にんじんランドピール(480トン)」ではどのような食品製造副産物・農産物規格外品が使われているかを紹介しよう。

 ランドピールでは、ピール皮(ジャガイモの皮)、粉砕小麦(規格外小麦)、アミノコール(ビール発酵廃液濃縮物)、ビートパルプ、ビール粕、ジャガイモ粕(ジャガイモのカット刃に付着したデンプン)等であり、にんじんランドピール2では、にんじん粕(ジュース絞り残さ)、ポテトピール(ジャガイモの皮)、デンプン粕、アミノコール(前出)末粉・粉砕小麦(規格外小麦)と多様である。

 これらの材料は十勝管内を始めとして、富良野市、千歳市からも搬送される。

TMR原料の説明をする鏡田取締役社長

2)畜産農家からのニーズへの対応

 先にも述べたが、牛の飼料摂取量を高めるような発酵TMRの製造に最大限の工夫をするが、同時に農家への飼料設計を行っている。上記2種類のTMRについての飼料分析値が筆者の手許にあるが、そこには一般成分含量、TDN含量、デタージェント分析1)成分含量、蛋白質の分画成分量、糖・デンプン含量が示され、日本飼養標準にも、NRC飼養標準2)にも適用できる形が整っている。

 同時に、農家の粗飼料分析も行い、飼料設計と飼料給与診断が日常的に行われ、農家の経営改善に対しての貢献がなされている。生産現場に営業マンが出かける時には簡易水分計を持ち歩き、サイレージの水分を測定して、飼料設計の補正を行っているとのことであった。

飼料のカビ毒を独自に検査

 筆者がもう一つ、感心し、興味を持ったことに、粗飼料のカビ毒の検査を会社の分析室で行っていることがあった。

 周知のごとく、現在、飼料に発生したカビが生産するマイコトキシンの家畜への影響が懸念されているが、ここではデオキシニバレノール(DON)3)とアフラトキシン4)の定性分析がキットを用いて行われていた。

注)
1)デタージェント分析:界面活性剤で煮た後に残る残さの量から飼料の消化のしやすさを分析

2)各国では各々の立地条件に合わせて独自の飼養標準を作成しており、米国学術会議NRC(National Reseach Council)の家畜栄養委員会で作成された飼養標準書

3)主にフザリウム属のかび(赤かび)が産生するトリコテセン系のかび毒。トリコテセン系のかび毒による人や家畜に対する中毒症状としては、食欲の減退、嘔吐、胃腸炎、下痢などの消化器系への症状や、免疫機能の抑制等が知られており、催奇形性や発癌性を有するとの報告もある。

4)アスペルギルス属等のかびが作り出す毒の一種。アフラトキシンM1、M2はそれぞれアフラトキシンB1、B2を摂取した牛の乳中に代謝物として出現する

3)食品製造副産物の需給

 利用する食品製造副産物は質の良いものを有価で購入している。会社では廃棄物処理の資格を保有しているが、それを行使して廃棄物として食品製造副産物を逆有償で入手したことはない。有価物として購入しているところから、品質の悪い物を返品することもある。これからのことを考えると原材料の供給が不安定であることが、やはり心配である。顧客は安定した製品の継続的な供給を望むからである。例えば、ビールの消費が停滞するとビール粕やアミノピールの量が少なくなる。また、ビールの種類が多様化して、コーンスターチ等の原料が多くなってくると、麦芽が少なくなり、その結果ビール粕の廃棄量が少なくなっている等の問題がある。

 食品製造副産物を畜産の飼料として使うこと、これはしなくてはならないという信念で仕事をしているが、片方では、配合飼料の価格とのバランスも必要である。

 何がなんでも発酵飼料を使ってもらうというのではなく、あくまでも顧客の経営を最優先とした考えでいる。

4)経営の理念

 ここでは境田氏が掲げる「タイセイ飼料の基本10カ条」を紹介しよう。

①お客様の要望や困ったことを知る。

②知り得たこと、見つけ出したものを解決する。周りを引きずりまわす。全く畑違いのことは、担当者・適任者に伝える。見つけ出しただけで終わってしまっては見つけられないより悪い。伝えた先が実行したか、確認するまでが仕事。

③新しいことにチャレンジしての失敗、前向きの失敗、積極的な行動だったがその結果生まれたミス、早い対応を心がけた結果の失敗(但しスピード違反は論外)に対しては、寛容を持って処する。

④怠慢・遅延、偽り、報告・相談無し等によって生じたミスや、初歩的な同じ失敗の繰り返しについては厳しく対処する。

⑤仕事は自ら創る。人から言われたことであっても最良の方法を考えて逆提案をする。

⑥気を配る。頭を使う。われわれはサービス業である。自分の担当以外は知りませんという態度は厳禁。皆、全てタイセイという体の一部なのだ。

⑦軸足はお客様に置き、メーカーを活用する。決してメーカーの手足にはならない。

⑧計画と責任は表裏一体。責任をもって計画を立案し、立てた計画には責任がともなう。その責任には、社員や家族のみならず、協力会社の生死もかかっている。

⑨自分の仕事に自信を持つ。自信は、日々の研鑽と成功・失敗の積み重ねからしか生まれない。

⑩やることはやる。やるときはやる。やれるだけ(一所懸命)やる。特に、やるときは今すぐだ。誠実さはスピードで表現される。

−すぐに専門家に相談−

 境田氏のモットーは、「職員が酪農家や肉牛農家の現場に入ること、そこで、問題は何か、求められている物は何か」をつかんでくることだという。そして、その問題の解決策を講ずる場合には、大学の先生、共済組合の獣医師、農業改良普及センターの専門家に相談するという姿勢を貫いているという。

5)十勝の飼料生産等についての課題 −良質サイレージ製造と高品質生乳の評価−

 筆者は最後に境田氏に、現状の十勝の飼料生産、酪農のありかたについて、日頃の考えていることをお話願った。以下はその要約である。

−サイレージ、品質のばらつき−

①十勝はトウモロコシのサイレージが出来る。それが大きな特徴であるが、その品質にバラツキが大きいことが問題である。コントラクターの作業などで、バンカーサイロに次から次へと運んできて詰め込むために、踏む作業が追いつかずに、材料の踏圧が十分ではなく、サイレージの発酵品質が低下してしまうという問題が出てきている。

−競争原理のはたらく多元集荷−

②牛乳の集荷は一元集荷である。その良い面と悪い面が牛乳の場合にはあるが、私は多元集荷が良いと思っている。一元集荷では競争原理が働かない。生産者は高く買ってくれる所に売りたいし、良質の生乳と評価し高く買い取ってくれる所に売りたいという気持ちがあると思う。

③食品製造副産物についても、例えばビートパルプや屑小麦(規格外品)についても同様の問題として寡占化がある。

6.新得町農業協同組合

 新得町農業協同組合は他に先駆けてコントラクターとTMRセンターを結合させ、現在、14戸の酪農家がその恩恵に浴している。どうして、このような組織・システムを農協として構築し、推進してきたか、最初に立ち上げの時からこの事業を推進してきた営業部酪農課佐々木氏にその経緯をお話いただいた。

新得町農業協同組合の佐々木氏(右手前)からの説明

1)コントラクター・TMRセンター結合組織設立の経緯

 「新得町は十勝では山麓地帯にあるために、昔から農協では酪農を推進してきました。平成6〜7年にかけて、数個の酪農家が協力して大型の法人組織を立ち上げるようになってきました。メガファームの誕生です。法人組織になりますと、分業制をとり、それぞれの部分にエキスパートを配置するようになります。繁殖管理、疾病管理、飼料管理等、専門的な対応ですね。その結果、乳量も増加し、法人組織はうまく滑りだしました。一方で、町全体の酪農家戸数は次第に減ってきます。農協としても一定の乳量水準を維持しなければなりませんから、酪農家は増頭に向かって進み始めます。しかし、今まで通りの小規模頭数と同じ生産体制では、労働環境を始めもう限界にあるのではないかという議論がでてまいりました。また、牛乳生産水準でも、法人組織が1万キログラムを搾っているのに対して個人の経営では7〜8千キログラムと低調でありました。農協では、個人経営に目を向けねばならないということで、先ずコントラクターの設立を検討し始めました。酪農家における牧草の収穫調製作業やトウモロコシの収穫調製作業には一カ月半くらい要し、主人は畑仕事にとられ、その間は奥さんの酪農家の仕事量が増え、大変でした。また、飼養頭数が増えたことに加えて、離農跡地をカバーしていったために、牧草地の面積も拡大してゆきます。平成14年くらいですか、そのような労働過重を軽減させようと、コントラクター設立運営協議会を酪農家の皆さんと立ち上げました。私も農協マンとしてこの組織に参加しました。平成17年にコントラクター組織が農協主導のもとに立ち上がるのですが、平成22年度、町内46戸の中の23戸、約半数がコントラクター組織に加盟しています」。佐々木氏の話は続いてTMRセンター設立の経緯に進む。

 「コントラクター設立の議論の中で、個人経営の酪農家の支援はコントラクターだけでよいのか、という話しになってきました。法人化というのはそんなにどんどんと進むものではない。そのような中で、分業化を進めて酪農家の支援をする方策としてTMRセンターを考えることになったのです。当時は、TMRセンターは北海道には数カ所しかありませんでした。興部、士別、大樹などのTMRセンターを見せてもらいながら新得にも『乳牛の給食センター』を創ろう、酪農家には酪農の仕事に特化してもらおうと、コントラクターの立ち上げと同時にTMRセンター設立の準備に取り組みました。最終的には14戸の酪農家が参加するTMRセンターが平成17年に立ち上がりました。この14戸はコントラクターの組織にも加盟しています。TMRセンターの立ち上げには個人、法人であればそれ相応の担保能力のあるものでなければ参加することは出来ませんが、農協事業の場合には、そうではない、経営力の弱い人でも参加できるという利点があります」。

2)組織の運営、仕事の内容

 コントラクターとTMRセンターの仕事の内容とその運営方法は以下の通りである。

①事務局は農協内にあり、担当職員を配置している。コントラクター事業では農協の職員として4人が雇用されている。収穫作業時には運送業者に委託し、利用者も作業に参加することがある。

②組織の運営に関しては農協事業として業務は農協が担当しているが、コントラクターについてはコントラクター運営委員会が、TMRセンターについてはTMRセンター利用協議会が経営の任にあたっている。収支はその中で合わせる仕組みをとっている。

③カバーする飼料作物作付面積は、コントラクター部門全体では6カ所の少ないほ場に850ヘクタールの土地がまとまって集積しているために作業が効率的に行われている。その中の250ヘクタールでTMRセンター向けの一番牧草の収穫・調製が行われている。細切されたサイレージ原料はTMRセンター付属のバンカーサイロに貯蔵される。一番草の作業は1週間くらいで、個人で行う場合の半分程度の時間で終わっている。

バンカーサイロで作業中の担当職員たち

④コントラクター会員外の利用については、コントラクターの部門では播種、収穫、除草剤散布、追肥、整地、サイレージ踏圧など様々な仕事を行っている。それが必ずしもセットで一貫して行なうという条件での利用に限定はされない。例えば堆肥散布とか、除草剤散布などの、部分的に作業に携わるだけでも、コントラクター組織に加盟していない酪農家は、コントラクターの恩恵を受けることができる。そういった、単一作業をも含めると、町内酪農家の約70%はコントラクターを利用していることになる。

⑤TMRの種類:TMRは一日48トンほど製造されるが、これで乳牛1000頭分強をカバーしている。その種類は搾乳用(40キログラム日乳量の乳牛対応)、搾乳用(35キログラム日乳量の搾乳牛対応)、育成牛用、乾乳前期用、乾乳後期用5種類であり、飼料設計はバンカーサイロの粗飼料が新しいものに変わる都度、農業改良普及センターの専門家が実施している。

3)参加酪農家の現状と今後の問題

 コントラクターとTMRセンターの結合形態で事業が平成17年に発足してから、今年で6年目になる。この間、事業を担って来られた佐々木氏に、現状と今後の課題について述べていただいた。一部、農業改良普及センターの中山氏の談話も含まれる。

 「14戸の酪農家が利用するTMRセンターの草地ですが、発足当初、やはり草地更新をしっかりとやっている人とそうではない人がいました。その結果、ほ場による収量のバラツキもありました。それを運営協議会でほ場の一括管理を行うということで、種々の事業を利用しながら、250ヘクタールの草地を毎年50ヘクタールずつ更新してきました。その結果、最近では収量も増加し始め、同時にトウモロコシサイレージの作付面積も増やしてきましたので、TMRの生産量も安定してきています。また、平成18、19年は牛乳の生産調整がありましたため、乳牛の頭数が減少し、飼料量に余裕が出てきて、その分を町内の酪農家に販売することもできました。余剰飼料を販売することで、センターの経営面に潤いを持たせることが出来ていますし、供給を受けた酪農家からも感謝されていますね。草地更新によって収量が増加しましたが、サイレージの発酵品質もよくなっています。大きなバンカーサイロを大型機械でしっかりと踏圧していることの現れかと考えています。飼料の質は上昇しているのですが、未だTMRセンター利用農家は法人組織の牛乳生産成績には追いついておりません。これは農場システムや管理の体系、作業精度の差によるのではないかと考えています。法人での運営によって、粗飼料の質や、飼養管理の質が高まっているのではないかと思います。

 経年的に見ますと乳量は確実に伸びてきています。けれども、飼養頭数が伸びない。14戸の農場の中でそれぞれの農場システムに問題があるのです。例えば、繁殖管理であるとか、高品質の牛乳を出荷するための乳質改善の取り組みが一段落すると通常であれば次に頭数を増やそうか、ということになります。飼料生産、飼料給与の課題・問題は確実に解決され、楽になっていますが、そういった弱い部分にまで各農場が手を伸ばしきれないでいるのです。」「組織の運営、経営収支はどうですか」の質問に対して佐々木氏は以下のように答えて下さった。

 「農協としては事業に赤字を出すことは許されませんから、償却費、人件費等の諸経費については、単年度の修理費をも計上しながら、利用の実績に合わせて、キログラム当たりの利用料金を徴収しています。当初はキログラム当たり4円と考えていたのですが、平成22年は3.2円をいただいています。町からの助成もあり、低い水準で抑えられていると考えています。また、酪農家側でも、14戸が一件、一件、別々にやっていた時と比較して、その時の飼料価格との比較では、利用料金を含めても安く買えています。」この2、3年、センターを利用して良かったという酪農家の声が聞こえるようになったことに喜びを感じます、と佐々木氏は着実に成果を上げていることを語ってくれた。

終わりに

 本稿では、北海道十勝の飼料生産と供給に携わる事業所・組織の考え方と、それに基づく実践活動を紹介してきた。今回の聞き取り調査を通じて、組織は「ヒトである」ということも改めて認識した。熱意ある人達との懇談は筆者の心を豊かにしてくれた。ご協力いただいたことに感謝するとともに、今後の酪農の維持発展に貢献されんことを願う次第である。

【参考文献】

 「平成22年十勝畜産統計」「平成23年3月 十勝農業協同組合連合会」

十勝清水の耳より情報

十勝清水町の町おこし名物「牛たま丼」
(国道沿いのレストランにて)

 十勝清水町では十勝若牛(通常、ホルスタイン去勢牛は19〜20カ月齢の出荷であるが、十勝若牛のと畜・出荷月齢は14カ月である)を地元名産として地域の飲食店とタイアップし消費拡大に取り組むなどPR活動を行っている。

 やわらかい赤身肉のステーキがとろふわ卵の上にどっさり盛られている。食べ歩きも楽しいと、地元でも大変好評の「牛たま丼」。

 ぜひ、ご賞味ください。


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