調査・報告 経営動向  畜産の情報 2012年2月号

酪農家の力の結集
〜北海道におけるTMRセンターの事例〜

畜産経営対策部 酪農経営課 課長補佐 喜多龍一郎 曽根結




【要約】

 北海道における酪農は、生乳生産量が伸び悩む一方、飼料価格は高止まり、その経営環境は厳しい。酪農家は生乳生産量の増加と費用の削減に心血を注いでいるが、個々の酪農家が単独でできる努力にも限界がある。
  近年、集団の力でそうした課題に対処する動きがあり、その1つの形態であるTMRセンターが北海道各地で設立されている。今回調査した2つのTMRセンターの構成員は、TMRセンターを利用することによって、それまで抱えていた課題を解消して経営が安定し、さらなる飛躍を目指している。今後はTMRセンター自体の経営の安定が課題となる。

1.北海道酪農の現状

(1)生乳生産の状況

 農林水産省の牛乳乳製品統計によると、平成22年度の北海道の生乳生産量は、猛暑等の影響もあり389万7千トン(前年度比0.9%減)となっている(図1)。

図1 北海道の生乳生産量、酪農家戸数の推移
資料:農林水産省「畜産統計」、「牛乳乳製品統計」

 1戸当たりの飼養頭数は増加傾向にあるが、酪農家戸数が減少し、搾乳牛1頭当たりの実搾乳量は7,856キログラム(同0.6%減)と、これは5年前の平成17年度と同程度の水準である。

(2)所得の状況

 搾乳牛1頭あたりの所得は、12万8,028円(前年度比17.1%安)となっている。表1を見ると、平成22年度の主産物収益が減少し、乳牛償却費等に係る費用が増加したことにより、所得が減少しているのがわかる。

 特に、飼料費は平成22年度に若干減少したものの、配合飼料価格の高止まりの影響により依然高い水準にある。生産費用における割合も約52%と半分以上を占め(図2)、飼料費の増減は所得に大きく影響する。さらに、乳牛償却費の約20%に次いで、農機具費が高い割合で占め、これら3つをあわせると生産費用の4分の3を超える。

表1 搾乳牛通年換算1頭当たりの収益性
 資料:農林水産省「農業経営統計調査」
  注:生産費用は、生産費総額から家族労働費、自己資本利子及び自作地地代を控除したものである。
図2  北海道の搾乳牛通年換算1頭当たりの生産費用の割合
資料:農林水産省「農業経営統計調査」

(3)労働時間の状況

 労働時間についても飼料の調理・給与・給水に多くの時間が割かれていることがわかる。図3を見ると、1頭当たりの労働時間は90.24時間となっており、その内訳は、搾乳及び牛乳処理・運搬が約50%を占めているが、次いで、飼料の調理・給与・給水が約20%となっている。

図3 搾乳牛1頭当たりの労働時間
資料:農林水産省「農業経営統計調査」

 生産基盤の維持・拡大のためには、自給飼料のさらなる活用等による飼料費の抑制、作業の外部委託化又は共同作業化等を通じた労働時間の削減など、現在の北海道の酪農家が対処すべき課題は多岐にわたる。近年では、数戸の酪農家が寄り集まって集団の力でそれらの課題の克服を目指そうという動きが見られるが、その1つの形態がTMRセンターである。北海道における最初のTMRセンターが平成10年に紋別郡興部町において設立されて以来、TMRセンターは平成20年度までにその数を35に増やしている。TMRセンターに期待される効果はさまざまだが、先に示した飼料費や農機具費を削減し、労力軽減につながるTMRセンターへの期待は大きい。

資料:農林水産省「コントラクターをめぐる状況」

 本稿では、野付郡別海町に所在する2つのTMRセンターを調査し、それぞれの設立までに至る経緯や現在の運営状況を報告するとともに、酪農家がTMRセンターの利用を通してそれぞれが抱える課題をいかに克服しているかを報告する。

2.TMRセンターの設立から運営まで

(1)別海町の酪農〜道内産生乳の1割を生産〜

 今回調査に伺った有限会社デイリーサポート別海及び有限会社ウエストベースが所在する別海町は根室管内の中央部に位置し、人口は約1万6千人(6,321戸)の町である。年間の平均気温は5〜7度程度と非常に冷涼な気候であり、夏の暑い時期でも20度を超える日はそう多くない。冬場になると朝晩の冷え込みが厳しく、1月は最低気温がマイナス15℃以下まで下がる日が続くこともある。

 別海町では、もともとバレイショなどを中心に畑作が行われていたが、冷害等による凶作のために次第に衰退していく。その一方で、昭和29年に根室管内全域が酪農振興法により集約酪農地域に指定され、昭和30年代の根釧パイロット事業、昭和40年代の新酪農村建設事業等によって、日本を代表する先進的大型酪農経営が展開されるようになる。

 このように別海町の基幹産業の1つとなった酪農は、年間の生乳生産量が約48万トンと、北海道全体の生乳生産量の約1割に相当するまでに成長している。

(2)有限会社デイリーサポート別海

①概要

 有限会社デイリーサポート別海は、別海町市街地に近接した場所に位置する。平成13年に設立され、平成14年からTMRの供給を開始した。同センターの構成は総勢13名で、そのうち8名が出資者、4名が出資者の後継者、1名が相談役である。平成13年の設立当時の出資者は7名であったが、設立翌年に1名が酪農経営への新規参入と同時に同センターへの加入を果たしている。

資料:別海町役場HPより

 同センターでは、JAや関係機関の助言を受けながらも、その運営に係る意思決定は構成員による話し合いによりなされ、構成員以外の経営体との資本的及び人的な繋がりはない。

 同センターでは牧草の収穫、サイレージ調製、TMR調製及び搬送を一貫して行い、その収益は構成員へのTMRの販売に拠っている。ただし、TMR調製に使用するサイレージ以外の飼料は飼料会社からの購入価格で構成員に販売しているため、実質的にはサイレージの販売代金が唯一の収益源であり、その販売価格は、構成員からの牧草の買取代金に資材費、人件費その他センターの運営に係る経費のすべてを加算して、センターの収支の均衡が図られる水準で設定されている。

②設立の背景、設立までの経緯

 同センターの構成員はもともと近在において2〜3名のグループで共同作業を行っていた仲間であり、また、機械の更新や後継者問題など各人が抱える酪農経営に係る課題について日ごろから相談し合う間柄であった。そんなとき、ある雑誌に掲載された当時TMRセンターの走りであった有限会社オコッペフィードサービスの記事が目に留まり、そこから、各人が抱える課題に対する解決策としてのTMRセンター発足へ向けて話し合いが始まったのである。まず、話し合いを始めるに当たっては、これまで一国一城の主としての自負と責任を負ってきた各人の個性がぶつからないようになるべく自己主張を抑えて、TMRセンターの設立という大きな目的に向かって協力し合うこととした。しかし、構成員はこれまでに共同作業などを通して培った固い絆で結ばれており、そうした心配は杞憂に終わっている。

 構想からセンター設立までに要した期間は1年ほどで、構成員間の話し合いは、資金の調達方法、組織の運営形態、調達機械の選定など多岐にわたり、その間の技術的及び経営的な観点からの助言者としての役割はJAべつかい(当時)が担った。構成員のうちには元JAの職員もおり、両者間での意思の疎通は円滑に行われている。設立準備に当たっては構成員とJA職員とで有限会社オコッペフィードサービスの視察を行って事業についての勉強を進めるとともに、補助事業の活用の可能性などについて検討し、事業の継続性についてのシミュレーションを重ねた。その継続性が客観的にも明らかとなったことから、JAから融資を受けて、平成13年7月についに有限会社デイリーサポート別海が設立されたのである。

③事業の運営

(ア)出資金、借入金

 センター設立に要する費用と当座の運転資金を350万円程度と見込み、設立時の構成員7名が50万円ずつ出資して総額350万円をセンターの資本金(設立翌年に新規加入者1名分50万円を増資)とした。また、施設及び機械の導入に係る資金については、補助事業の活用で賄った部分以外の必要額として約7,000万円をJAからセンターが借り入れ、構成員に対するTMRの販売収益から返済している。

(イ)施設、機械

 当センターは近隣の古くからの知り合いが集まって組織されたものであり、構成員の牧草地は半径3キロメートル圏内に集積している。TMRセンターの設置場所の選定については、当初は、調製したTMRの配送の利便性の観点などから、その集積された牧草地の中心に設置を予定していた。しかし、建設予定地としていた場所が中山間地域等直接支払制度の対象農用地に該当していたため、その場所を避けて中心から少しずらして設置したが、配送の利便性はなお確保されている。

 整備したバンカーサイロの数は9基で、その後、新たな構成員の加入及び構成員の飼養頭数の増加に応じて、平成17年にバンカーサイロ2基を自己資金により追加整備した。当センターにおいては構成員の飼養頭数を勘案して施設の規模を設定しているため、サイレージの供給に過不足は生じない。

 機械については補助事業を活用して導入しているもののほか、一部はこれまで各構成員が使用していた機械を借り上げて使用しており、各構成員の機械関係経費の削減に寄与している。

(ウ)草地管理、収穫作業

 集積した牧草地については、これまで土地の境界に設置していた牧柵及びバラ線を撤去することにより、大型機械での作業や、これまでは収穫が難しかった牧柵に沿った部分の牧草も利用することが可能となり、作業の効率性及び経済性を確保することができた。牧草の収穫作業は1日当たり50ヘクタールほどを実施し、1週間ほどですべての収穫作業及びバンカーサイロへの搬入を終える。個人経営ならば収穫作業から同規模のバンカーサイロへの搬入までには1本当たり1週間程度を要するが、大型機械による連続作業及び構成員の出役で集中的に作業を行うことにより、同センターでは1日から1日半で完了している。1本のバンカーサイロで約1,000トンのサイレージを貯蔵することができ、全構成員で消費される飼料の50〜60日分の良質で均質なサイレージの供給が可能だ。また、バンカーサイロによるサイレージの調製のほか、乾乳牛用及び育成牛用の牧草並びに土地条件により大型機械が入れない湿地において収穫される牧草についてはロールサイレージを調製している。

 牧草の品種はチモシー、クローバー及びアルファルファで、牧草の更新は毎年30ヘクタールほど行い、牧草に含まれる栄養価の減少の度合いを勘案して7〜8年で更新している。この間、関係機関は月1回開催される同センターの定例会に出席し、牧草の更新、雑草の駆除、土壌分析などに関する専門的な情報を提供して同センターの経営を技術的に支援しており、今後も同様の支援を継続していくとのことである。

バンカーサイロ1本で50〜60日分のサイレージの供給が可能

(エ)サイレージ、TMR、配送

サイレージをバンカーサイロから取り出してTMRを調製

 当センターにおいては牧草サイレージに配合飼料、大豆かす、ビートパルプのほか、カルシウム、ビタミン剤等を混合してTMRを調製している。TMRの設計は外部に委託し、農家ごとと乾乳牛用の計9種類を調製している。また、TMRに混合するサイレージが1番草主体から2番草主体のものとなるときには再設計を行い、通年で均質なTMRの供給に努めている。なお、TMRの調製に係る費用については、農家ごとに飼料設計してもそれほど掛かり増しにはなってはいない。また、TMRに混合する資材については、発注ロットの大型化及び数社による入札を実施している。同センターでは、センターから各農家までの距離が短く、悪天候等によりTMRを配達できないリスクが軽減されていること、また、TMRの調製及び配達を外部に委託したことにより、構成員の休日取得のためにTMRを作り置く必要がないことから、敢えて高額な設備である圧縮梱包器を導入せずにバラ配送を行うことによりコストを抑えている。

④TMRセンター設立の効果

 TMRセンターの設立による効果については、収益面では良質のサイレージの調製と農家ごとに設計されたTMRの給じ効果から設立以来、経産牛1頭当たりの乳量が減産型の計画生産及び猛暑等の影響を受けた時期を除いては順調に伸びていること(図3)及び飼料調製に係る労働時間の減少を、増頭を通じて出荷乳量の増加に充てることができたことであり、いずれも各構成員の増収に貢献している。費用面では上述した各構成員の機械関係経費及び購入飼料費等の削減が挙げられる。

配送されたTMRと給じ車
給じされたTMR
図3 乳量、経産牛頭数、及び平均産乳量の推移
資料:有限会社デイリーサポート別海

 また、労働時間の減少そのものも大きな効果の一つであり、それを一番感じているのは構成員の配偶者であるとのこと。これまでは夫と共に牧草地に出て作業をしていたが、現在ではそうした姿は見られない。構成員は牧草の収穫期以外は午後4〜5時までには帰宅して搾乳作業に取り掛かることができるようになった。さらに、働きやすい環境が整い、各構成員の経営が安定してきたことから、設立当時の出資者の中にはすでにその経営を後継者に引き継いでいる者もおり、世代交代がスムーズに行われている(表2)。

表2 組織化前後の経営状況
2010.12.31現在
資料:有限会社デイリーサポート別海

  注:FS:フリーストール、 FB:フリーバーン、 NS:タイストール、 ST:スタンチョン


⑤課題及び今後の展開

 同センターは今年で設立11年目を迎え、機械の更新及びその資金の手当てについて検討すべき時期にきており、今後も同センターが事業を継続していく限りはこの課題がついて回ることになる。その解決策として現在は自社で行っている収穫作業等を外部委託化することも選択肢の1つであり、また、センターとしての今後の展開の可能性を探るため、育成牛の預託事業や農業生産法人化などについても研究を重ねているとのことである。

(3)有限会社ウエストベース

①概要

 有限会社ウエストベースは、平成19年4月に設立され、構成員へのTMR供給は、平成20年10月から開始された。

 同センターの施設・機械は、JA西春別(当時)が国等の補助事業を活用し整備したものである。有限会社ウエストベースは、JA西春別から施設等の貸付を受けて同センターの運営を行っており、年に2〜3回程度開催されるJA西春別と同社による「TMRセンター運営委員会」において運営方針を決定している。

 同センターの構成員は、西春別地区の酪農家である。JA西春別が同地区の酪農家に加入希望を募り、18戸が加入した。各構成員は同社にあるそれぞれの部に配置され、役付となっており、役職手当も支給されている。これは、一人一人が組織の一員として考え、行動するようになることを目的としている。有限会社ウエストベース取締役の宮坂氏は、「ただの酪農家のおっちゃん」が組織運営できるための人材育成も兼ねていると話す。

 なお、運営そのものを同社が行う体制をとっているのは、生産者側にまかせることで、よりスムーズな経営判断ができるよう配慮された結果である。

②設立の背景、設立までの経緯

 別海町西春別地区では、平成15年に労働力不足等による離農を解消する方策として、「西春別デイリー支援システム構想」を樹立した。この構想では、農業経営の分業化を柱としており、草地の一元管理による過重労働の軽減、大型機械の使用による作業の効率化を図ることとし、TMRセンターの設置を掲げている。

図5 TMRセンターの組織概要
JA西春別は平成21年に合併し、道東あさひ農業協同組合(JA道東あさひ)西春別支所となっている。

 JA西春別はこの構想を受け、平成17年7月TMRセンターの実情を知るため、農協役職員と酪農家による視察団を結成して、現地視察を実施した。翌月には「TMRセンター構想を考え・育てる会」を発足し、視察や勉強会を開催する。さらに平成18年に、「TMRセンター設立運営委員会」を設置し、平成19年には、国等の補助事業の活用が正式に決定し、運営組織となる有限会社ウエストベースが設立された。

③事業の運営

(ア)敷地の確保

 有限会社ウエストベースは、バンカーサイロ15基、配合飼料タンク14基、飼料調製庫1棟、廃汁タンク1基を有している。

 当初は、市街地と隣接する場所に建設する予定だったが、住民の理解を得ることが出来ず、新たな敷地確保が必要となった。しかし、同社の前代表取締役の松本氏が保有する畜舎建設予定地を、JA西春別に貸借することで無事に確保された。

(イ)資金の確保

 施設等の整備は、JA西春別が国等の補助事業を活用して行い、建設事業費は約10億円(補助金約7億円、自己負担約3億円)にのぼる。JA西春別は、同社から施設使用料として、それぞれの施設の耐用年数ごとに応じた額を毎年徴収している。

 同社が事業展開していくための運転資金については、構成員からの出資金及びJA西春別からの借入により確保した。構成員からの出資金は、平成18年設立当初と平成21年の追加出資を合わせて1戸当たり50万円である。さらに、平成22年から平成26年までの5年間で、年間50万円/戸の追加出資を受ける予定だ。

(ウ)施設の設計

 現在の施設は、JA西春別職員が、施設の規模やレイアウトを作成し、構成員から意見を聞き取ったほか、すでに稼働している他のTMRセンターの話を参考に調整した。さらにそのレイアウトを基に、建設コンサルタントが設計を行い、同職員や構成員と最終調整を行った上で建設に至ったという。

 同社代表取締役の吉川氏は、よく考えられた設計であると話す。例えば、バンカーサイロ間の幅(作業用通路)は、作業効率を考慮し20メートル確保された。当初、構成員からの意見もあり、この幅を15メートルにして別の目的に使用することを提案したが、建設コンサルタントから「大型車両を2台使用した場合、作業効率が悪くなる」と指摘され、採用に至らなかった。施設が完成し、実際に運用を始めて指摘内容が正しかったことを実感したそうだ。

図6 施設全体及び概要
AとBはバンカーサイロ。右下の赤い部分は配合飼料のタンク。刈り取った牧草の詰込、取り出しはA→Bの順に行う。

(エ)草地管理、収穫作業

 同社は、肥料散布等の草地管理と収穫作業を平成20年4月から実施している。当該作業は、同社のコントラ部(構成員4名とアルバイト1名)により行われるが、忙しいときには、他の構成員が出役する。しかし、他の構成員の出役が増加したことで乳牛の個体管理に影響がみられるようになり、同社では構成員への負担軽減を目的として、平成23年度からコントラ部で行っていた作業を外部委託した。この結果、同社は、総務部、TMR部、圃場部、コントラ部の4部編成から圃場部とコントラ部を統合し生産部とする3部編成に変更された。

(オ)TMR調製、配送

 同社のTMR調製、配送は、約10名の人員を要するため外部委託している。これは、構成員による作業の場合、急な休暇等で人員不足となり当該作業に支障をきたすことが懸念されたためだ。外部委託であれば、不足する人員は委託先で確保され、TMRを遅滞なく構成員の元へ届けることが可能となる。

 また、同社では、構成員が西春別地区内に点在していることを考慮して、TMR配送に「圧縮梱包」を採用した。「圧縮梱包」は、TMR約900キログラムを圧縮し、真空状態で梱包するもので、貯蔵できる時間が長くなり、作り置きが可能となる。そのため、冬の吹雪やTMRセンターが休みの前にまとめて構成員に配送しても安定した品質が保持される。

(カ)TMRの販売単価

 同社の主な収入は、TMRの販売によるものである。そのTMRの販売単価は、サイレージ調製にかかった費用と配合飼料等の購入代金を、調製されたサイレージの量で割って決定される。

④TMRセンター設立の効果

 TMRセンター設立の効果については、他のTMRセンターと同様、労力の削減や乳量の増加、乳牛増頭等が期待されている。労力の削減については、飼料調製に係る負担のほか、同社では圧縮梱包による配送を取り入れているため、牛への給じの際に、飼料庫からの運搬が容易となり作業負担の軽減につながっている。また、構成員全員がほぼ同じ飼料を利用しているため、飼料の要因以外に起因する畜産技術について、構成員間で情報交換を行うことで全体の乳量の底上げを図ることも可能になってくる。しかし、同社が期待したこれらの効果のうち、乳牛増頭については思うような成果があがっていない。その要因には、個体乳量の増加に伴う疾病の発生により、乳牛の更新頻度が増えたことなどがあるという。

圧縮梱包されたTMR。1個約900キログラムで個装される。
TMRの給じ風景。運搬が容易で給じしやすい。

⑤課題及び今後の展開

 有限会社ウエストベースは、現在借入金等の償還が厳しくなっており、この状況を解消することが課題となっている。

 同社は、平成20年4月以降に開始した草地管理、収穫作業にかかった資材費・肥料代等を自社ですべて負担し、不足分については借入を行っている。その際の負担分は、同年10月以降に開始したTMR販売で賄うこととしており、販売が順調にいかなければ、償還が厳しくなる。

 同社のTMRの販売単価は、先に述べたとおり、サイレージ調製にかかった費用等と調製されたサイレージの量で算出される。つまり、調製されたサイレージの量が多くなると販売単価は安くなり、構成員が購入しやすくなる一方で、売れなければ同社の収入に影響を及ぼす要素も含まれている。サイレージの量については、一般農家からの要望により増えた借地草地があり、当初計画より増加している。その一方で、乳牛の増頭が思うように進まず、TMR販売量が伸び悩んだことでサイレージに余剰が生まれ、収入に影響を及ぼしているという。同社では、今年度、構成員の1人が搾乳を中止したこともあり、当初策定した5か年計画を見直し、借地の返還を検討するという。

 さらに同社の宮坂氏は、別の視点からもTMRセンターの課題をあげる。今後、経営環境が変化した時に個々の酪農家が生き残るためには、国内の他の地域や外国産とも差別化を図ることが必要だという。そのために、TMRセンターが持つ土壌、飼料や個人の搾乳に関する各データを有効活用し、生産履歴が残る生乳生産を行うことにより、差別化を可能にし、生き残るための手段としたいと話す。

 このように、設立3年目を迎える同社において、運営の安定化が最重要の課題である。TMRセンター設立により期待された効果が、それぞれの構成員の経営安定や所得向上につながる一助となることで、生産意欲の向上だけでなく、後継者や新規就農を考える人たちへの門戸を広くすることができるのではないだろうか。

3.おわりに

表3 (有)デイリーサポート別海と(有)ウエストベースとの比較

 今回の調査ではその規模や運営形態などが異なる2つのTMRセンターを見てきたが、それらの構成員は、それぞれの地域において与えられた自然条件や経営環境などを最大限に生かしながらそれぞれに合った方法でセンターを運営していた。有限会社デイリーサポートのように、構成員が地縁的及び血縁的に繋がっており、牧草地もまとまって所在しているようなところでは、JA等の助言を受けながらも基本的に自社ですべてを意志決定する方が経営の自由度が増し、また、収穫作業や配送に係るコストも抑制することができるのではないだろうか。一方、有限会社ウエストベースのように、構成員数が比較的多く、牧草地が点在しているようなところでは、今回のJAが担ったような旗振り役の存在が有効であり、また、施設が巨大になればその運営に係るリスクも高まることとなることからそれをしっかりと管理していく運営委員会のような体制も必要となろう。今後、同社の経営が安定し、TMRセンターの効果が広く知られるようになれば、加入者の拡大を見込むことができる。さらに、他地域へのTMR販売ルートを確保することができれば、施設の有効利用と安定的な販売にもつながっていく。安定したTMR販売により同社の経営が安定するだけでなく、個々の酪農経営安定に向けた一助となるTMRセンターとして期待できるのではないだろうか。

 酪農経営を取り巻く環境が厳しい中、それぞれの事例が示しているとおり、TMRセンターは酪農家が抱える様々な課題に対する複数の解を一挙に提供しており、今後もTMRセンターの設立は続くものと思われる。

 最後に、今回の取材にご協力くださったホクレン、JA道東あさひ、有限会社ウエストベース及び有限会社デイリーサポート別海の関係者の方々には心から御礼申し上げます。


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