台湾・財団法人中央畜産会 企画・情報調査 部長 王佑桓
【要約】
台湾は、牛を農耕に用いてきたことなどを背景として、牛肉を食する文化がなかった。このため、牛肉生産量はわずか6千トンで、国内消費の9割以上を豪州や米国等からの輸入に依存している。
肉牛の主要品種は、政府の酪農振興政策により、乳牛(ホルスタイン)の雄又は去勢牛である。また、牛肉は鮮度が重視され、と畜後直ちに販売される。地域的に嗜好の違いがあり、北部・中部では乳牛の雄、南部では去勢牛が好まれる。 現在、国内の牛肉消費は、都市部の若い世代を中心に伸びてはいるものの、依然として安価な輸入牛肉が市場を占めている。 今後、政府による生産履歴(TAP)・台湾優良農産物(CAS)の認証制度や食肉業者に対する衛生管理の徹底による取組みが浸透することにより、国産牛の消費も増えていくことが見込まれる。 1.はじめに 台湾は、ポルトガル語で「麗しい島」の意味である「フォルモサ(Formosa)」とも呼ばれれる。台湾の国土の美しさを形容する。国土の総面積は約3万6千平方キロメートル、地勢はユーラシア大陸の東南の端に位置し、沖縄とは約600kmの距離にある。台湾海峡を挟んで約200km先に中国大陸とも向かい合う。 2.農林水産業の生産構造 農林水産業の生産構造は、農業、林業、畜産業、水産業に大別される。最近10年間では、畜産の生産額は農業に次いで多い。2010年をみると、農林水産業全体の総生産額(4263億元・1元=2.65円)のうち、畜産の生産額(1446億元)は3割強を占めた。(図1)
3.肉牛産業の歴史的背景 牛の飼養は、台湾に入植した際に田畑を耕すため、導入したのが始まりである。この当時、水牛、黄牛、交雑種が主に飼養されており、役用として役割を終ると、食用出荷されていた。
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肉牛生産現場(交雑種) |
肉牛生産現場(ホルスタイン) |
2006年以降、政府は牛肉の生産履歴(TAP)・台湾優良農産物(CAS)制度を積極的に推進している。現在、TAPやCASの認証マークが貼られた牛肉が大型量販店や生鮮食料品スーパーで販売されている。
TAP及びCAS認証の宣伝ポスター(台湾市内の大型量販店) |
国産牛肉の陳列 |
国産牛肉専門販売店 |
同販売店の冷蔵ケースの陳列 |
2010年の統計によると、食肉輸入量は約35万トンであった。内訳は、家きん肉が約13万トン(シェア36.8%)、牛肉が約11万トン(同31.4%)、豚肉が約8万トン(同23.7%)、羊肉が約3万トン(同7.9%)、その他(家きん肉を加工したものなど)が約1万(同0.3%)であった。
台湾は安価な家きんの肉(骨付きもも、外国では消費されない手羽等の部位)を中心に、輸入に依存する傾向が高まっている。(表2)
表2 台湾の食肉輸入量 |
資料:農業需給年報(行政院農業委員会) |
牛肉輸入解禁は1975年。政府が輸入冷凍牛肉の国内市場への販売を許可したことが始まりである。生産コストの高い国産牛肉の需要は落込み、比較的価格優位性のあった輸入牛肉はシェアを拡大していった。現在でも国産牛肉のシェアは1割も満たない。2010年の食料需給年報によると、国産牛肉の自給率は5.5%と低いものである。
財政部関税総局の税関輸出入資料によると、2011年の牛肉輸入先国(輸入額ベースでのシェア)は、オーストラリア(39.6%)が首位で、アメリカ(31.9%)、ニュージーランド(21.7%)となり、3カ国で9割を超える。ニカラグア、パナマ、カナダなど(約6.8%)からも輸入されている。
なお、アメリカ産はラクトパミン問題の影響で、2012年の輸入量は大きく落ち込むものとみられる。
オーストラリア産牛肉(台北市内大手デパート) |
「和牛」表示された輸入牛肉(台北市内大型量販店) |
これまで、牛肉を食べる人が少なかったため、牛肉の消費量は豚肉や家きん肉と比べ非常に少なかった。また、牛肉価格は豚肉や家きん肉より高く、広く家庭で料理する頻度も少ない。これらが消費低迷の要因ともなっている。
2010年の1人当たりの年間食肉消費量は約76kgで、豚肉が最も多く約37kgで、次いで家きん肉が約32kgとなる。一方、牛肉は約5kgと、食肉消費量全体の約6.5%にとどまっている。(表3)
表3 台湾の一人当たりの食肉消費量 |
資料:農業需給年報,行政院農業委員会 注:その他の項目の0.0は百グラム以下の値 |
牛肉麺(台湾南部) |
牛肉麺の拡大写真 |
一般的に国民の生活水準が向上すると、食品の選択基準もそれに応じて変化する。つまり、選択基準が「量」から「質」へと変化する。台湾も同様といえよう。
ラクトパミン問題やBSEの影響により、消費者は牛肉の安全性により一層関心を持つようになっている。
しかし、価格も依然として、消費行動に大きく影響しているのも事実である。都市部に住む若者は牛肉に抵抗感がないが、価格の安い豚肉を選択する傾向が依然としてある。一方で、国産志向も強い。「価格を考えなければ、7割の消費者が輸入牛肉よりも国産の牛肉を買いたい。」という調査結果がある。女性の就業率が高い台湾では、今後一層の所得向上に伴い食品を選ぶ際、価格面の考慮は比較的小さくなるものとみられ、国産牛肉の消費量が増加するものと考えられる。
一方、消費者の多くが量から質への転換する中、国産牛肉の大半は屋台市場で消費されている。輸入牛肉は冷蔵・冷凍で輸入されるため、コールド・チェーンのある大型量販店や生鮮食料品スーパーで取扱っている。前述のとおり、政府による品質管理の取組みなどにより、コールド・チェーンが広く構築されることが期待され、輸入牛肉の需要が高まるものとみられている。
牛肉の安全性、衛生面がより確実に保証されてきており、国産牛肉の消費量は今後伸びていくものと考えられる。
参考資料及び文献:
1.行政院農業委員会農業統計年報
2.行政院農業委員会農業需給年報
3.財政部関税総局税関の輸出入資料
4.台湾省政府農林庁台湾畜産獣医事業(養牛編)
5.中央畜産会養牛産業60年の出来事実録
6.台湾肉牛産業発展協会写真提供
7.豪州食肉家畜生産者事業団写真提供
8.劉添仁、ケ意満(2011年6月) 「調理師の観点から見た国産牛肉市場の研究」、北台湾学報第34期
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