畜産需給部 需給業務課
【要約】当機構では、食肉の販売動向を把握するため、年に2回、小売店や卸売業者に対し、食肉の取扱割合や販売見通しについてアンケート調査を実施している。今回、平成24年度下期(10〜3月)の販売意向について、9月上〜中旬に量販店、食肉専門店及び卸売業者の協力を得て、調査を実施した。本稿では、24年度下期における牛肉の販売意向について、最近の牛肉需給動向を踏まえて、その概要を紹介する。 1.最近における牛肉の需給動向(1)平成24年4〜8月の牛肉生産量は、と畜頭数の増加により増牛肉生産量は、平成20年度をピークに減少傾向で推移していたが、平成24年度の前年同期比(4〜8月累計、部分肉ベース)を見ると6.4%増加している。と畜頭数を種類別に見ると、和牛は平成20年度以降増加傾向で推移している。乳用種は、生乳の減産型計画生産などの影響で、子牛の出生頭数が減少したことから、平成21年度までは減少したものの、22年度以降は増加に転じている。交雑種については、平成22年度、23年度と2年連続で前年度を下回ったが、24年度は前年同期比(4〜8月累計)で3.4%増加している(図1)。
(2)米国産牛肉の輸入が増加傾向牛肉輸入量は、米国産を中心に増加傾向で推移しており、平成24年度は前年同期比(4〜8月累計)で14.8%増と、近年の円高・ドル安が輸入への追い風となっている。また、輸入量全体の4分の3を占める豪州産については、現地相場高や豪ドル高などの影響から減少傾向で推移していたが、平成24年度は前年同期比(同)で1.3%の増加となっている(図2)。
(3)枝肉卸売価格は放射性セシウム検出問題前の水準にほぼ回復牛肉の枝肉卸売価格を見ると、平成24年9月の価格(速報値)は、東京市場では和去勢A−4がキログラム当たり1,683円(前年同月比17.1%高)、交雑去勢B−3がキログラム当たり1,119円(同18.8%高)、乳去勢B−2がキログラム当たり599円(同36.4%高)となり、各品種とも放射性セシウム検出問題(以下「セシウム問題」という。)の発生以前の水準までほぼ回復している(図3)。
(4)近年の牛肉の家計消費量は横ばいしかしながら、近年の家計消費量では、平成23年7月に発生したセシウム問題による消費の低迷から、徐々に持ち直してはきているものの、まだ問題発生以前の水準にまでは回復していない。なお、単価の安い鶏肉は増加傾向にあるが、豚肉は、セシウム問題による牛肉の代替需要の反動から、平成24年7月以降前年同月を下回って推移している。(図4)。
2.小売店における24年度下期の販売見通しこのような状況の中、当機構では今後の食肉の販売動向を把握するため、平成24年度下期(10〜3月)の販売意向について、9月に量販店と食肉専門店を対象にアンケート調査を実施した。・量販店…全国の主要量販店26社を対象に行い、25社から回答を得た(回収率96.2%)。 ・食肉専門店…全国の食肉専門店60社を対象に行い、59社から回答を得た(回収率98.3%)。 なお、食肉専門店においては、今回の調査より対象店舗を変更しているため、データの連続性に 留意する必要がある。 (1)最近の食肉の取扱割合調査時点における食肉の取扱割合(重量ベース)については、量販店では概ね牛肉3割、豚肉4割、鶏肉3割といった構成になった。この割合を前回調査(平成24年2月、3月)と比較すると牛肉は8ポイント増加している一方、豚肉と鶏肉がそれぞれ減少している。平成23年7月に発生したセシウム問題の影響が緩和し、豚肉や鶏肉へ一時シフトした消費が戻ってきたものとみられる。一方、食肉専門店では、牛肉4割、豚肉4割、鶏肉2割という構成であり、銘柄牛などの品揃えが量販店より充実している分、牛肉の割合が高くなっていると思われる(表1)。
(2)販売促進の機会平成24年度下期(10〜3月)の販売促進の機会については、量販店では和牛肉について「回数を増やしたい」とする割合が最も高く、また、国産牛肉についても4割近くが「回数を増やしたい」と回答していることから、下期は国産品の販売に力を入れたいという意向が見て取れる。食肉専門店では、全ての区分において「これまでと同様」とする割合が最も高いが、和牛肉においては「回数を減らしたい」より「回数を増やしたい」の割合が上回っていることから、食肉専門店においても、下期は和牛肉の販売に力を入れたい意向であるといえよう。 なお、輸入牛肉については、量販店、食肉専門店ともに「これまでと同様」の割合が最も高かった(表2)。
(3)平成24年度下期の牛肉販売見通し平成24年度下期(10〜3月)の販売見通し(重量ベース)については、量販店においては、和牛肉の販売は「増加」が67%と最も高い割合を示し、前回調査(平成24年2月)の減少から増加へと転じている。また、国産牛肉でも「増加」が58%と最も高く、前回調査より46ポイント増加している。(2)の販売促進の機会の調査結果とも相まって、下期は国産品の増加が見込まれている。一方、食肉専門店における食肉の販売見通しは、全ての区分において「同程度」が最も高い割合を示している。しかしながら、和牛肉は減少より増加の割合が上回っていることから、食肉専門店においても下期は和牛肉の増加が見込まれているといえよう(表3)。
(4)販売拡大に向けての対応このような販売見通しの下、今後の牛肉の販売拡大に向けてどのような対応を考えているか調査したところ、量販店においては「調理方法や料理の提案」が17件と最も多く、次いで「低級部位や切落しの強化」が15件と多かった。一方、食肉専門店においては、「販売促進の機会のさらなる拡大」が29件と最も多く、次いで「調理方法や料理の提案」が27件という結果となった。また、「銘柄牛肉の品揃え強化」の回答件数が23件と比較的多いことから、量販店と異なった販売展開で対応する様子が伺える(表4)。
(5)最近の消費者の牛肉に対する意識平成23年7月に発生したセシウム問題以降、牛肉の消費が一時低迷した。このことを踏まえ、最近の消費者の牛肉に対する意識について、昨年度と比べどのように変化していると感じたか調査したところ、「安全・安心への関心」と「国産の産地への関心」については、「大変高くなった」から「変わらない」までの割合を合わせると量販店、食肉専門店共に9割以上を占め、現在でも消費者はこれらへの関心が強いことが伺える。また、「セシウム検査への関心」についても、「大変高くなった」から「変わらない」までの割合を合わせると量販店で7割、専門店では9割以上を占め、現在もなお消費者は関心を持っていると考えられる。 さらに、「低価格・節約志向」について見ると、「大変高くなった」から「変わらない」までの割合を合わせると量販店、食肉専門店共に9割以上を占め、依然として低価格・節約志向が続いていると思われる(表5)。
(6)飼料穀物価格の高騰により食肉仕入価格が上昇した場合の対応最近、米国の干ばつによりトウモロコシなどの飼料穀物価格が高値で推移していることから、今後、生産コストの上昇等から食肉の仕入価格が上昇した場合、どのような対応を考えているか調査したところ、量販店では各畜肉共「その肉を使った付加価値のある新商品の導入」が最も多く、次いで「特売価格を引き上げる」とした回答が多かった。このことから、量販店においては、畜肉に関係なく統一した対応をとる様子が伺える。なお、食肉専門店では、各畜肉共「通常小売価格を引き上げる」が最も多かった。これに次ぐ対応はまちまちであり、各店舗で工夫を凝らすものと思われる(表6)。
(7)牛レバー販売・提供禁止の販売面での影響厚生労働省より平成24年7月1日から生食用牛肝臓(牛レバー)の販売・提供が禁止されたことから、販売面における影響について調査したところ、量販店では牛レバー自体を扱っていない等の理由から全店とも「影響はなかった」という回答であった。しかしながら、食肉専門店では半数以上の33件が「影響はなかった」と回答があったものの、19件は「影響はあった」としており、具体的な影響としては売上の減少、客数の減少が多数であった。また、「加熱すれば安全であり、栄養、効果等についてTVや新聞等でもっとアピールしてほしい」といった意見もあった(表7)。
3.卸売業者における24年度下期の販売見通しさらに、卸売業者においても9月に下期(10〜3月)の販売意向についてアンケート調査を実施した。・卸売業者…全国の主要卸売業者19社を対象に行い、16社から回答を得た(回収率84.2%)。 (1)平成24年度下期の牛肉販売見通し卸売業者の平成24年度下期(10〜3月)の販売見通し(重量ベース)については、全ての区分において「同程度」であるとの回答が過半数を超えた。しかしながら、前回調査と比較すると、和牛肉、国産牛肉共に「増加」のポイントが増加していることから、国産品の増加が見込まれている(表8)。
(2) 部位別の販売見通し部位別の販売見通しについては、「増加」の割合が高かったのは、和牛肉では「かた」「かたロース」のほか、高級部位である「サーロイン」「ヒレ」の4部位であった。また、国産牛肉では「かた」「かたロース」の割合が高く、和牛と国産牛で「かたロース」の割合が高いのは、これからのしゃぶしゃぶやすき焼きなどの鍋料理需要による増加を見込んでいるためと考えられる。一方、「減少」の割合が高かったのは和牛肉と国産牛肉の「ばら」であった。焼肉にはこの部位を一般的に使うことから、季節的な減少を見込んでいると思われる(表9)。
(3)牛レバー販売・提供禁止の販売面での影響卸売業者に対し、同様に生食用牛肝臓(牛レバー)の販売・提供禁止の影響について調査したところ、9件が「影響はあった」と回答があった。影響の具体的な内容は、「ほぼレバーの販売がゼロになり、他の焼肉商材にも影響があった」といった売上や客数が減少した旨の回答が多数であった(表10)。
4.24年度下期の牛肉需給動向(1)牛と畜頭数は減少の見込み独立行政法人家畜改良センターの「全国の牛の種別・性別の出生頭数」(牛個体識別全国データベース)から推計すると、24年度下期のと畜頭数は、前年同期比で、和牛、交雑種、乳用種共にそれぞれ減少すると見込まれる。特に和牛については、平成22年4月以降、宮崎県で発生した口蹄疫による殺処分の影響を受け、牛の出生頭数は減少傾向で推移していることから、他の品種に比べ減少幅が大きいと見込まれる(図5)。
(2)冷凍品輸入量は減少の見込み当機構が10月に開催した牛肉輸入動向検討委員会によると、平成24年度下期(10〜3月)の牛肉輸入量は、冷蔵品については前年同期並み、冷凍品については前年同期を下回ると見込んでいる。この要因として、米国の干ばつによる飼料穀物価格の高騰により原産地価格の上昇が予想されていること、国内の在庫量が多いため(8月末の牛肉推定期末在庫量10万6千トン、前年同月比6.8%増)輸入を抑制することなどが考えられる。5.おわりに平成23年4月に発生したユッケ食中毒事件、さらに同年7月に発生したセシウム問題により、昨年度の牛肉消費は低迷した。特にセシウム問題発生後は、牛肉消費量や枝肉卸売価格は大きく低迷した。今年9月の牛枝肉卸売価格を見ると、セシウム問題発生以前の水準にほぼ回復したものの、今回のアンケート調査結果では、量販店、食肉専門店共に消費者の「国産の産地」や「セシウム検査」への関心の高さが伺える結果となった。また、アンケート調査を実施した期間中の9月5日、内閣府の食品安全委員会プリオン専門調査部会は、米国、カナダ産牛肉の月齢制限を20カ月齢から30カ月齢に引き上げるなどの規制緩和を容認した。今後、同委員会は10月10日まで募集していたパブリックコメントの結果を踏まえて厚生労働省へ答申することになるが、月齢制限が緩和された場合の今後の牛肉の販売動向への影響が注目されるところである。 こうした中、今回のアンケート調査では、量販店と食肉専門店では国産品を中心に販売に力を入れていくとの結果が得られたことから、国産品の安全・安心性をアピールしつつ牛肉の消費拡大が図られることを期待したい。 |
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