海外情報  畜産の情報 2012年11月号

ブラジルのトウモロコシ生産の現状
南部パラナ州を中心に

調査情報部 岡 千晴

  

【要約】

 米国産トウモロコシ価格が高騰する中、日本でもトウモロコシ調達の多角化が急速に進んでいる。特に、トウモロコシ生産が年2回でき、かつ潜在的な輸出余力が大きいブラジルに注目が集まっている。

 2011/12年度のトウモロコシ生産量は、第1期作(夏作)が干ばつなどの影響を受けたにもかかわらず、第2期作(冬作)の生産量が大幅に増加したことにより、7300万トンと過去最高記録を更新した。さらに、トウモロコシ輸出量は生産量の大幅な増加や価格上昇によって前年度比72%増の1600万トンへと急増している。
 
 しかし、輸出拡大に対して、いわゆる「ブラジルコスト」と言われる道路混雑や滞貨・滞船、港湾ストライキなどが発生し、物流が停滞する事態も起こっている。今回、トウモロコシの主要生産地かつ大消費地でもある南部地域を中心にブラジルのトウモロコシ生産の現状と輸出拡大に対する課題などを整理するとともに、ブラジルの輸出余力などについて報告する。

T.はじめに

 米国の干ばつによるトウモロコシの減産予測に端を発し、シカゴ相場が高騰している。そこで、世界的に需要の高まるトウモロコシの供給国の一つとして注目を集めているのが、2011/12年度(10〜翌9月)の生産量が過去最高を記録したブラジルである。

表1 トウモロコシ需給動向
資料:ブラジル食糧供給公社(CONAB)
 ブラジルは、2000年まではほとんどトウモロコシを輸出しておらず、近隣諸国から輸入する年もあった。2001年に輸出国に転じた後も、国内の畜産分野の旺盛な需要によって、輸出量は生産量の2割程度に留まっていた。しかし、ブラジル食糧供給公社(CONAB)は、米国の減産による国際的なトウモロコシの需給ひっ迫感がある一方でブラジルのトウモロコシ生産量は前年度比26.7%増と大幅な増産が見込まれていることから、2011/12年度のトウモロコシの輸出量は生産量の約3割を占める1600万トン(同71.8%増)にのぼると予測した。
図1 トウモロコシ輸出量の推移
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)
 シカゴ相場が6月中旬から上昇に転じて以降、ブラジルのトウモロコシ相場もこれに引きずられるかたちで上昇傾向にはあるものの、依然として価格差はあり、トウモロコシ輸出が急増している。7月の輸出が前年同月実績の5倍を超えたのを皮切りに、8月、9月と2カ月続けて、単月でみた輸出量の過去最高記録を更新した。また、日本もその主要輸出先の一つとなっている。

 米国産トウモロコシに輸入量の約90%を頼っている日本でも、ここ数年ブラジルからのトウモロコシの輸入量が増加し、2011年にはブラジル産トウモロコシの割合が7.6%にまで増加した。さらに今年、米国が干ばつで不作となり価格が高騰するなか、輸入トウモロコシに占めるブラジル産の割合はさらに高まるものとみられる。
表2 日本のトウモロコシ輸入量の推移(国別)
資料:財務省「貿易統計」
 輸出向けトウモロコシの生産増加が期待されるブラジルの中でも、南部はトウモロコシの主要生産地であると同時に、畜産が盛んなトウモロコシの大消費地でもある。南部3州の中でも、パラナ州は国内最大のトウモロコシ生産州であり、かつ、トウモロコシ生産とブロイラーを中心とした畜産との統合を図っている。このような戦略を推進することにより、内陸部の都市の養鶏場や食肉処理施設において雇用が創出されている。このような状況を踏まえ、本報告ではブラジルのトウモロコシ生産および輸出の状況を概観するとともに、本年6月に実施した現地調査で得られた知見を基に、ブラジル国内外の需給に影響を与えるパラナ州を中心にブラジルのトウモロコシ事情を報告する。

 なお、本稿中の為替レートは1レアル=38.7円(9月末TTS相場)を使用した。
図2 ブラジル地図
資料:機構作成
図3 トウモロコシ生産量(2011/12年度)
資料:食糧供給公社(CONAB)
図4 飼料用トウモロコシの消費内訳(2011年)
資料:Sindirações
図5 ブロイラー用飼料内訳(2011年)
資料:Sindirações

U.ブラジルのトウモロコシ生産

1 年2回のトウモロコシ生産が可能なブラジル

 ブラジルでは、トウモロコシは第1期作(夏作)と第2期作(冬作)の年2回作付けが行われる。第1期作トウモロコシは、全州で作付けされているが、南部の生産量が全体の約3〜4割を占める。また、中西部や南部では、大豆などと競合関係にある。地域によって組み合わせは異なるが、連作障害を避けるために大豆や綿花、フェイジョン豆(インゲンなど豆類の総称)などとの輪作が行われる。第2期作トウモロコシは、前作(夏作)として作付けした大豆の収穫直後には種される。

 第2期作はブラジルの公用語であるポルトガル語でSafrinha(サフリーニャ)とも呼ばれる。これは「わずかな収穫」といった表現であり、以前は第2期作の生産が微々たるもので重要視されていなかったことを表している。しかし近年、このサフリーニャの作付面積および単収の増加が著しく、年々存在感を増している。特に2011/12年度は、第1期作が減産となったものの、第2期作の大幅な増産によって、トウモロコシ生産量は過去最高となった。第2期作は、米国を中心とする北半球の主要生産地域の端境期に収穫・輸出が可能であることや、年2回生産することにより干ばつなどの天候リスクを分散できるといった特徴がある。ただし、第1期作は全国的に生産が行われる一方、第2期作の生産可能な地域は、土壌水分や積算温度の関係で国内の一部に限られており、主要生産州である中西部のマットグロッソ州と南部のパラナ州で第2期作生産量の6割以上を占めている。

図6 クロップカレンダー
資料:米国農務省(USDA)、CONABを参照に機構作成。
 注:主な成育期間は、大豆105〜135日間、トウモロコシ第1期作120〜150日間、トウモロコシ第
    2期作90〜150日間である。
 他方で、中国を中心とする国際的な需要の高まりから、大豆の作付面積の増加は著しく、これと競合する第1期作トウモロコシの作付面積は緩やかに減少傾向にある。ただし単収は、2001/02年度と2011/12年度を比較すると約1.5倍となっており、生産量は、2011/12年度は干ばつの影響から減産となったものの、増加傾向にある。さらに大豆の後作として生産される第2期作トウモロコシは、作付面積の増加に加え、2011/12年度は単収が10年間で約2.5倍となっており、第1期作と第2期作を合わせたトウモロコシ生産量の増加に貢献している。単収の増加は、優良品種の導入、施肥量の増加などが要因である。
図7 第1期作トウモロコシ作付面積と生産量の推移
資料:CONAB
  注:2010/11年度は暫定値、2011/12年度は推定値。
図8 第2期作トウモロコシの作付面積と生産量の推移
資料:CONAB
 注:2010/11年度は暫定値、2011/12年度は推定値。
図9 トウモロコシ第1期作と第2期作の単収の推移
資料:CONAB
 注:2010/11年度は暫定値、2011/12年度は推定値。

2 上昇傾向にあるトウモロコシ価格

 ブラジルのトウモロコシ価格はシカゴ相場の動きとほぼ連動している。米国農務省による生育状況悪化の報告を受け、干ばつへの懸念が表面化し、6月中旬から高騰し始めたシカゴ相場につられて、ブラジル国内のトウモロコシ価格も上昇し、その後も高値が続いている。北半球のトウモロコシ不足により、需給ひっ迫感があることやブラジルをはじめとする南半球のトウモロコシ価格が北半球に比べ安いこと、前年、トウモロコシの代替作物として利用された小麦の価格が高騰していることによって、ブラジル産トウモロコシへの需要が高まり、トウモロコシ国内価格も上昇傾向にある。
図10 トウモロコシ価格の推移
資料:シカゴ先物取引所(CBOT)
    サンパウロ大学農学部応用経済研究所(CEPEA)
 注:シカゴは期近、サンパウロは現物の価格。
 シカゴ相場の高騰を受け上昇する国内の飼料価格によって、ブラジルでも鶏肉や豚肉の生産コストが上昇しており、ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)によると、9月の鶏肉生産コストは10キログラム当たり23.8レアル(921円)と、2012年1月と比較して33.7%高となっている。今後、生産者価格、卸売価格ならびに小売価格への転嫁が進むとみられる。
図11 ブロイラー生産コスト(生体10kg当たり)
資料:ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)
注1:2010、2011年は通年平均。2012年は1〜9月平均。
 2:パラナ州の生産コスト。

3 2011/12年度のトウモロコシ生産量は過去最高を記録

 ブラジル食糧供給公社(CONAB)によると、2011/12年度のトウモロコシ生産量は、前年度比26.7%増の7273万1000トンと過去最高を記録した。

 第1期作トウモロコシの生産量は同3.1%減の3386万9000トンであった一方、第2期作は同73.0%増の3886万2000トンとなった。第1期作は、2011年11月〜2012年1月にかけて起こったいわゆるラニーニャ現象によって、主要生産地域である南部を中心に干ばつとなり、単収が大きく低下した。第2期作は、第1期作の減産の影響により、トウモロコシ価格が堅調に推移し、農家の生産意欲が高まったため、作付面積は同23.1%増と大きく増加した。さらに、高単収が望める品種や肥料への投資が進んだこと、栽培期間を通じて天候に恵まれたことから、単収は同40.5%増の1ヘクタール当たり5.1トンと大幅に増加した。この結果、生産量は同73.0%増の3886万2000トンと、第1期作の減産分を補って余りある水準となった。例年であれば、第1期作の生産量の方が第2期作よりも多いが、今年はこれが逆転し、第2期作の生産量がトウモロコシの総生産量の53.4%を占めた。
図12 トウモロコシ生産量の推移
資料:CONAB
 注:2010/11年度は暫定値、2011/12年度は推定値。
表3 地域別トウモロコシの生産動向(2011/12年度)
資料:CONAB
 2011/12年度の生産量は過去最高となったものの、干ばつの影響によって北東部や南部のいくつかの州では、トウモロコシ生産量が大幅に減少した。現在、国内のトウモロコシ需給のアンバランスが深刻な問題になっており、中西部や南部のパラナ州といった生産量が大幅に増加した地域から、トウモロコシが不足する地域に供給することが、政府によって計画されている。
図13 2011/12年度トウモロコシ生産量
資料:CONABデータを基に機構作成
注1:PR パラナ州、SC サンタカタリーナ州、RS リオグランデドスル州。
 2:パーセンテージは前年度比増減率、↑は前年度比増、↓は前年度比減を表す。

4 シカゴ相場高騰から輸出量も過去最高の見込み

 CONABは、2011/12年度のトウモロコシの国内消費量を前年度比4.4%増の5061万トンの微増と見込む一方、輸出量は同71.8%増の1600万トンと予測している。6月中旬以降のシカゴ相場の高騰に伴い、世界的にトウモロコシの需給はひっ迫しており、米国産より安価で、第2期作トウモロコシの収穫の最中であったブラジルのトウモロコシ輸出量は、7月に前年同月の5.3倍と急増した。さらに8月には単月の輸出量としては過去最高であった2010年9月の記録を大きく更新する626万トンとなった。そして、9月も前年同月比90.8%増の314万5000トンと、8月に続いて過去最高記録を更新した。2012年1〜9月の輸出量はすでに941万トンに達し、今後も前年同月を上回る勢いで推移すると見込まれることから、2012年の輸出量は大幅に増加するものとみられる。さらに、2011年はドル安レアル高で推移していた為替相場が、2012年はドル高レアル安傾向が強まっており、これも輸出の追い風になるとみられる。
図14 トウモロコシ輸出量の月別推移
資料:ブラジル開発商工省貿易局(SECEX)

5 改善を要する輸送能力

 トウモロコシの生産量および輸出量が大きく伸びるブラジルだが、一方で生産地から輸出港までのインフラ整備や輸出港の荷役能力不足などが輸出のボトルネックとなっている。

 ブラジル国内の輸送は主に、幹線道路を使ったトラックによる陸送である。このため、トウモロコシや大豆の収穫時期になると、港近くの幹線道路は混雑し、渋滞も珍しくない。中西部など内陸部の新興農業地域では、道路の未舗装・未整備が問題となっているが、幹線道路が整備されている南部であっても、交通量の増加に道路整備が追いついておらず、場所によってはキャパシティの2倍を超える交通量があるとされる。さらに、輸出港に到着した後も、港湾の荷役能力の不足が慢性化しており、収穫期には主要港で港湾の沖合に荷の積み込みを待つ滞船が100隻を超えることも珍しくない。これに加え2012年には、給与などの改善を求める連邦政府職員、港湾労働者やトラック運転手によるストライキが起こり、輸出手続きや荷役作業に混乱や遅れが生じた。

 このように、ロジスティクスや労働ストライキに加え、複雑な税制、事前手続きの遅れなど、いわゆる「ブラジルコスト」の問題をいかに解決するかが、今後のトウモロコシ輸出を左右するとみられる。
図15 幹線道路網
資料:ブラジル運輸省
図16 鉄道網
資料:ブラジル運輸省
 注:点線は、計画中または建設中の路線。

6 2012/13年度は大豆の作付面積が増加する一方、第1期作トウモロコシは減少

 第1期作トウモロコシと大豆の生産は競合関係にあるが、CONABは、2012/13年度は大豆の作付面積が前年度比7%増の2675万ヘクタールとなる一方、第1期作トウモロコシの作付面積は同7%減の700万ヘクタールとなると予測している。気象条件が良好であれば、2012/13年度の第1期作トウモロコシの単収は1ヘクタール当たり4.6トン、生産量は3220万トンとされる。これは前年度の単収よりは高いが、作付面積が減少するため、生産量は前年度比減となる見込みである。

 国内のトウモロコシ価格は高水準で推移しており、これは2012/13年度も継続するとみられる。このため、生産者は第2期作トウモロコシをできるだけ早期に作付できるように前作の大豆の作付時期を例年より早めているが、実際の作付けは第1期作の動向次第である。
図17 大豆とトウモロコシの作付面積の推移
資料:CONAB
注1:2010/11年度は暫定値。2011/12年度、2012/13年度は推定値。
  2:第2期作トウモロコシの1976/77〜1978/79、2012/13年度はデータなし。

トウモロコシを大きく上回る大豆の収益性

 2012/13年度の作付面積は、大豆が大幅に増加することが予測されている。この理由として、大豆のほうがトウモロコシよりも大幅に収益性が高いことが挙げられる。これは高止まりしている大豆価格がこのまま堅調に推移するとされる2012/13年度には、特に顕著となるとみられる。

 大豆と第1期作トウモロコシの作付面積が競合するパラナ州の1俵(60キログラム)当たりの生産コストを比較すると、トウモロコシが21.3レアル(824円)であるのに対して、大豆はこれを上回る27.5レアル(1,064円)となっている。しかし、販売価格はトウモロコシよりも大豆が大幅に高いことから、単位面積当たりの収益性はトウモロコシを上回る。このため、利益率はトウモロコシが20.7%、大豆が63.0%と試算される。このように、2012/13年度も価格は高水準で推移するとされ、ブラジル食糧供給公社(CONAB)は、ブラジル全体の大豆生産量は過去最大の8025万トンと予測する。

 一方、トウモロコシおよび大豆の世界最大の生産国である米国では2012/13年度の収益率は、ブラジルと逆で、トウモロコシの収益率が大豆を大きく上回っているため、大豆の作付面積が減少することが予測される。
表4 パラナ州の2012/13年度のトウモロコシと大豆の収益率予測
資料:CONAB「Estudos de Prospecção de Mercado Safra 2012/13」

V.最大の生産州パラナについて

1 トウモロコシ生産および消費の盛んな南部

 トウモロコシ生産について、南部は第1期作および第2期作を合わせたトウモロコシ総生産量の約3〜4割を占める。中でもパラナ州の生産量は南部の7割、全国の2割を占め、全国第1位の生産量を誇る主要生産州である。同州では、豊富なトウモロコシ供給量を利用した鶏肉および豚肉の生産も盛んで、世界各国に輸出されている。同州には、日本向け輸出を行っているパッカーも存在する。ちなみにブラジルでは、牛は牧草肥育が主体であり、穀物消費量に占める割合は少ない。
表5 鶏、豚、牛の飼養頭羽数およびトウモロコシ生産量(2011年)
資料:Informa Economics FNP
 パラナ州、サンタカタリーナ州、リオグランデドスル州の3州からなる南部は、面積が57万6410 平方キロメートルで国土の約6.8%を占め、移民国家であるブラジルの中でも、特にヨーロッパからの農業を目的とした移民の多くが渡った地域である。古くから都市が形成され、人口は全国の14.3%を占める。また南部は、中小規模の生産者による農業協同組合が数多く存在することも国内の他の地域と異なっている。1戸当たりの所有面積は100ヘクタール以下が9割以上を占め、中西部と比較すると生産規模は比較的小さいものの、高い生産性や、飼料穀物生産と鶏肉生産など、耕種と畜産を組み合わせる複合経営によって収益性を高めている。
表6 ブラジルの農家の所有面積
資料:ブラジル農務省(MAPA)
 パラナ州は南部の最北に位置し、面積は19万9700平方キロメートルとブラジル全体の2.3%を占める。同州は、トウモロコシや小麦、鶏肉の生産量は国内第1位、大豆は第2位、豚肉や乳製品は第3位と、農畜産業の盛んな州であり、2011年の州内の農業産出額は504億レアル(1兆9505億円)となった。また、パラナ州は、1戸当たりの所有面積が50ヘクタール以下の中小規模の生産者が全体の約7割を占める。また、生産者の3分の1は農協の組合員である。
表7 パラナ州の農業産出額(2011年)
資料:パラナ州農務局
 注:増減率は対前年比。

2 2011/12年度のパラナ州のトウモロコシ生産は大幅な増加

 2011/12年度に南部では第1期作トウモロコシの栽培期間中に干ばつが起こった。CONABによると、リオグランデドスル州のトウモロコシ生産量は、前年度比42.1%減と深刻な被害が出た。一方、パラナ州では、単収は同14.5%減となったものの、作付面積が同27.3%増であったことにより、第1期作の生産量は同8.8%増の657万9000トンとなった。このため、2011/12年度の第1期作生産量についても全国第1位の地位を保った。一方、第2期作については、南部で唯一の生産州であるパラナ州の生産量は、同66.7%増の1033万8000トンと全国で第2位の生産量となった。この結果、同州の総生産量は、同38.1%増の1691万7000トンで第1位となり、ブラジル全体の生産量の増加に貢献した。  パラナ州はトウモロコシだけではなく大豆生産も盛んで、ブラジルの生産量の16.4%を占める。ただし、2011/12年度の大豆生産はトウモロコシなどとの輪作の関係などによって、作付面積が減少したことに加え、2011年の干ばつによって生産量は3割減となった。

 第2期作トウモロコシ生産のためには、生育期間の短い品種の大豆を用い、大豆収穫直後にトウモロコシを作付けする必要がある。2011/12年度はパラナ州では大豆が減産となったことで収穫が早く終了したことも、第2期作トウモロコシの作付面積の大幅な増加につながった。さらに、パラナ州は冬期に小麦生産が行われるが、ブラジルが加盟している南米南部共同市場(メルコスール)により、域内の関税が無税のためアルゼンチンから安価な小麦が輸入できることなどから、ここ数年、収益性の悪い小麦生産から価格が堅調なトウモロコシへの転作が進んでいる。これを受け、2011/12年度の同州の小麦の作付面積は3割減となった。
表8 トウモロコシの生産動向(2011/12年度)
資料:CONAB
表9 パラナ州の穀物の生産動向(2011/12年度)
資料:パラナ州農務局
  注:増減率は対前年度比。

飼料からトレーサビリティを行うC.Vale農協の鶏肉生産

 今回訪問したパラナ州西部のパロチーナに位置するC.Vale農協はブラジルの農協の中で第2位、2億7864万レアル(107億8337万円)の売り上げ規模を誇る。C.Vale農協の売り上げのうち、2割超が鶏肉で占められており、飼料穀物生産から鶏肉生産までの垂直統合を行い、日本や中国、EU、中東など、世界50カ国に鶏肉を輸出している。同農協の食鳥処理能力は1日当たり50万羽だが、訪問時には処理能力の65%程度の同32万5000羽の処理を行っていた。飼料原料の多くを占めるトウモロコシは年間100万トン近い生産量があり、全て同農協自身で生産している。飼料穀物から鶏肉の生産過程全てを同農協で管理しているため、鶏肉のトレーサビリティがあることを強みとしている。さらに所有する食鳥処理場はISO9001やHACCAPといった国際認証を取得している。

 同農協では、2001年から日本向けに鶏肉を輸出しており、多くの人員を日本向けのラインに割いていた。日本向け鶏肉は他の輸出先に比べてカット数が多いなど手間がかかるため、全体の15%の人員を割いていたが、2012年に十数台の脱骨機を導入することにより、これを5%に減らすなどコスト削減に努めている。脱骨作業を手作業で行っていた時は、力が必要なため腱鞘炎になる労働者も多かったという。脱骨機を導入することで、こういった重労働を減らすことにもつながっている。

 同農協の食鳥処理場で生産する鶏肉の約15%は加工に仕向けられている。さらに他の3農協と協力して、共通ブランドを作り、共同出資による生産・販売を行うなど、大手パッカーに対抗した生産を行っている。

 内陸部で鶏肉生産を行うC.Vale農協は製品の鉄道輸送へのシフトにも力を入れており、パロチナ近くのカスカベルにある鉄道ターミナルに冷凍倉庫を所有し、一部については既に港までの鉄道輸送も行っている。

図18 C.Vale農協が所有する穀物サイロ
1日当たり2,900トンの配合飼料を生産。
図19 2012年に導入された脱骨機
図20 日本向けライン
図21 国内向け鶏肉調製品
共通ブランドのFrimesa(フリメーザ)のマークで販売されている鶏肉調製品。


3 2012/13年度パラナ州の第1期作トウモロコシ作付面積は減少見込み

 パラナ州の2012/13年度の作付面積は、大豆が大幅に増加する一方、競合する第1期作トウモロコシは減少が予測されている。

 パラナ州農務局によると、大豆の作付面積は前年度比3.8%増の456万6000ヘクタールとなり、生産量は同38.3%増の1499万トンが見込まれている。ただし、エルニーニョ現象による天候悪化懸念によって、過去最高であった2010/11年度の生産量を下回ると予測されている。パラナ州における大豆価格は、米国の大豆減産予測とシカゴ相場の高騰の影響を受け、2011年に比べて7割以上も高騰している上に、大豆の先渡契約は前年同期の6%から今年度は20%と3倍超の量に達している。

 ただし収益性は大豆のほうが高いものの、トウモロコシの価格が前年比19.7%高となっていることや大豆生産などにおける連作障害を防ぐため、トウモロコシの作付けを選択する生産者も多くいることなどから、生産量は前年度比3.8%増の683万トンと予測されている。さらに地域によっては、大豆収穫後に第2期作トウモロコシの作付けも可能なため、トウモロコシの生産量減少が小幅に留まる可能性がある。

4 畜産の盛んな南部

 南部は全国のブロイラー飼養羽数の約55%、豚飼養頭数の53%を占める。今回、現地調査を行ったパラナ州は、ブロイラー飼養羽数が全国で最も多く、鶏肉の生産額は2011年に65億レアル(2516億円)となっている。連邦政府の輸出許可認定を受けた食鳥処理場は州内に31カ所あり、うち8カ所は農協が所有する施設である。EU(うち12カ所)、中国(6カ所)向けに加え、イスラム圏向けにハラル認定を取得している食鳥処理場も24カ所ある。

 パラナ州の農業生産において、鶏肉生産は雇用創出など重要な位置を占めているが、それは特に内陸部の都市で顕著である。しかし現在、飼料価格の高騰、労働力不足などの問題などによって生産コストの上昇が大きな課題となっている。さらに、2011/12年度のトウモロコシ生産量は前年度より増加したものの、飼料費の高騰が生産コストを押し上げている。
表10 2012/13年度のパラナ州の生産予測
資料:パラナ州農務局
注1:第2期作トウモロコシなど冬作の予測はデータなし。
  2:増減率は対前年度比。
表11 パラナ州の農業産出額の推移
資料:CONAB、パラナ州農務局
表12 パラナ州のブロイラー生産コスト(生体10kg当たり)の推移
資料:ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)
  注:2012年は1〜9月の平均値。
 パラナ州の鶏肉生産は内陸部が中心であり、約600キロメートル離れた東沿岸部のパラナグア港から輸出される。前述の通り、ブラジルでは港湾までの国内輸送にトラックを利用するのが一般的であるが、輸送費が高くつくことや、幹線道路での車両混雑が課題となっている。この解決策の一つとして、全国的に鉄道を整備する計画があり、運用が開始されている路線もある。南部は全国に先駆けて鉄道が整備された。パラナ州でも西部から東部を結ぶ鉄道が整備されており、輸送の効率化や輸送費の軽減が図られている。
図22 パラナ州鉄道網
資料:機構作成
  注:点線は計画中。
 この一例として、西部のカスカベルから中央部のグアラプアバまでの250キロメートルを結ぶFerroeste(フェフォエスチ)とよばれる鉄道がある。この沿線にある4農協(Copacol、Lar、Coopavel、C.Vale)は、カスカベルの集積ターミナルに穀物サイロや冷凍施設などの設備を所有し、鶏肉や穀物の鉄道輸送を行っている。また、4農協は2012年4月、カスカベルの冷凍倉庫などの建設に5000万レアル(19億3500万円)を投資することを発表した。これにより、輸送費が25トン当たり1,700レアル(6万5790円)から1,200レアル(4万6400円)に軽減することが期待されている。併せて、60両の貨車の購入も計画しており、グアラプアバより先の他社の鉄道に乗り入れを行い、パラナグア港までの飼料穀物などの輸送に加えて、輸入肥料をパラナグア港から州西部まで輸送する予定である。今後、鉄道網を飼料穀物の生産の盛んな中西部に向かってさらに拡張する計画もあり、トラックによる陸送から輸送運賃の安い鉄道輸送に転換することで国内輸送のボトルネック解消に大きな役割を果たすとされる。
図23 カスカベルの集荷ターミナル建設現場

W.おわりに

 ブラジルは、2001年のトウモロコシ輸出国への転換から10年を経て、主要輸出国となった。2011/12年度のトウモロコシ生産量が過去最高となることに加え、米国の減産が追い風となり、輸出量も記録を更新する見込みである。

 一方、国内においては道路や港湾といったロジスティクスのキャパシティ不足や飼料穀物価格の高騰、大豆作付との競合など、トウモロコシ生産や輸出に影響を与える要因も数多く存在する。

 年2回の生産が可能なことや単収の増加によって、ブラジルのトウモロコシ生産量は、今後、さらに増える可能性が高い。ロジスティクスについて、全国に先んじて南部では鉄道輸送を本格化させ、今後も拡張を計画しているように、トウモロコシの生産量の増加と輸出量の増加に徐々に対応する動きが出てきている。政府もトウモロコシの規格やロジスティクスの強化などトウモロコシ輸出に力を入れていると伝えられている。これらを鑑みると、米国産トウモロコシに依存する日本の輸入先としてブラジルは非常に魅力的な選択肢の一つと期待される。

 また、トウモロコシ生産および鶏肉生産を牽引するパラナ州は、ブラジル全体の需給にも影響を与える州である。特に、2011/12年度はトウモロコシ生産量が大幅な増加となり、生産量が減少した南部他2州に対する供給地にもなっている。日本は、同地域からトウモロコシはもちろん、鶏肉を多く輸入していることからも、今後もパラナ州は注目に値する。2012/13年度のトウモロコシ作付けはすでに始まっており、予測された作付面積の3割はすでには種が終了しているという。収益性の良い大豆の作付状況や天候などを含め、ブラジルのトウモロコシ生産を担う同州の動向を引き続き注視したい。


 
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