1.はじめに
台湾のソーセージは、国民が好んで食する食材の1つである。ソーセージはその由来などから二種類に大別される。
1つは「中式香腸(中華風ソーセージ)」と称されるもので、起源は16世紀に福建省や広東省から台湾に移住した人によってもたらされたものである。
1949年以降、国民党政府が台湾に移り、中国各地から百万もの人が台湾に移住した。これを契機に、中華風ソーセージは台湾国内に急速に広まっていった。
中華風ソーセージは、台湾の食肉加工製品の中で最も長い歴史を持ち、国内消費は最も多い。中華風ソーセージは、世代に関係なく広く好まれており、正月の贈答品としても用いられる。また、一般家庭はもちろん、屋台の食材やフォーマルな会食の場でも提供される。このため、その種類や価格は幅広く、歴史に裏付られた台湾のソーセージ文化の一端が垣間みれるであろう。
次に、ホットドックやフランクフルトなどに代表される「西式香腸(西洋式ソーセージ)」である。起源は戦後、台湾に駐留するアメリカ軍や宣教師などの西欧人から洋式ソーセージの製造方法が伝えられことによるものである。当初、小規模工場で生産していたが、1968年、日系企業が合弁会社の設立を契機に生産が拡大し、国内市場に流通し始めた。この時の日本由来の西欧式ソーセージの製造方法は現存する最古の資料となっている。
本稿では、「中華風ソーセージ」のレシピをベースに消費者のニーズに合せて多彩な食材を用いた「台湾ソーセージ」について紹介する。
図1 古代のソーセージ製造法(灌腸法)が記載された文献 |
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資料:Savic et al. 1998
注:南北朝時代(紀元前420-589年)の北魏の「斉民要術」
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2.中華風ソーセージ
伝統的な「中華風ソーセージ」は半乾燥型のソーセージで、塩漬け肉独特の風味をもつ。その製造方法は、(1)豚の赤身肉と背脂を細かく切るか、ミンチ状に挽く。(2)赤身肉に調味料(食塩、砂糖、香辛料等)を入れて混ぜ、日陰の涼しい場所で熟成させる。(3)赤身肉に味がつき粘着性がでたら、塩漬された赤身肉と背脂を混ぜ、豚の腸に詰める。(4)冷暗所につるし、適度な温度と湿度の下、発酵作用により熟成させる。
図2 伝統的な中華風ソーセージ |
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一部の地方では、常温でも保存するため水分含有率を低く抑え、塩分含有量を高めた「蝋(ろう)腸」や「肝(きも)腸」と呼ばれる塩漬け特有の香りが強いソーセージもある。
昔は、台湾では旧暦の正月前に、多くの家庭が自家製の中華風ソーセージを作っていた。最近では工場で製造され、ソーセージの風味や保存期間が調整できるようになった。
その結果、消費者のし好に合せた様々なソーセージを製造できるようになり、製品の多様化が進んでいる。市場競争も激しくなったこともあり、豚以外の食肉や、水産物などを材料としたソーセージや、包装工程の新技術により未乾燥のソーセージもある。
中華風ソーセージの基本的な製造法をベースに、多彩な食材を使用したソーセージが開発され、大衆から愛される「台湾ソーセージ」が誕生した。
3.台湾ソーセージ
台湾ソーセージの基本的な成分は通常、原料肉(赤身肉、脂身)、砂糖、食塩、穀物酒(もち米やもちアワなどで醸造した酒)、香辛料(五香粉、白コショウ、甘草粉、玉桂粉、丁香粉)等である。
台湾ソーセージの主な特色は、多彩な材料、しっかりした歯ごたえである。さらに、しっとりと濃厚な脂肪の粒は舌触りがなめらかでありつつも、決して脂っこくはない。酒と香辛料の絶妙な配合により独特な味わいと香りが生まれる。
表1 台湾ソーセージの基本成分 |
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資料:台湾中央畜産会
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(1)多彩な材料:
伝統的な中華風ソーセージは、豚の赤身肉と脂、それに香辛料を加えて、塩漬けするものであった。台湾ソーセージは鶏肉、鴨肉、鵞鳥(ガチョウ)の肉、イカ、サクラエビ、とびこ、マグロ、干貝、エリンギ、アズキ、コンニャク、豆腐、紅麹、山胡椒、桂花(キンモクセイ)、漬物、漢方薬材等の多種多様な材料を用いる。
酒、香辛料は、香りと味を作りだす重要な要素である。最も合う酒は米酒だが、コーリャン酒、紹興酒あるいはイチゴ酒を使えば、それぞれの酒が持つ独特の香りと口当たりが醸し出される。
図3 紅麹紹興ソーセージ |
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(2)赤身肉の加工:
赤身肉の加工で大切なのは、結着性と保水性である。加熱処理を工夫し、塩溶性タンパク質に結着性や保水性を与える。これにより、ソーセージ全体の歯ごたえを実現し、調味料の味がしっかり定着する。
台湾ソーセージに用いる生鮮肉のpH値は5.8〜6.4で、結着性を保ち、切り分けが容易なソーセージができる。また、乾燥後の水分含有率40〜45%が台湾で最も好まれるソーセージとなる。
(3)脂身の加工
台湾では、一般にソーセージを焼いて食べることが一番多い。このため、適度に脂肪と酒類を含んでいると香りが立ち、歯ごたえや舌触りもよい。乾燥工程も重要で、均一に乾燥すると、表面に肉汁や油脂がしみ出し過ぎることもなく、赤身肉の赤い色と脂肪の粒のコントラストが彩やかになる。これが台湾ソーセージの特徴でもある。
脂肪は1〜1.5cmの大きさの粒状に切るのが最もよく、豚の背脂が一番よい。
低脂肪であることを強調するために、コンニャクの粒を脂肪の代わりに使うメーカーもいるが、コンニャクだと結着性が劣り、ソーセージを切った時にばらばらになりやすい。
(4)商品の包装形態:
ソーセージは脂肪の含有量が高いため、油脂の酸化や細菌の増殖を抑え、ソーセージの風味と色つやを保つ工夫が必要である。いまでは真空パックや窒素ガス充填パックを用いることでおいしい台湾ソーセージとなっている。
台湾の消費者は商品を選択する際、商品の中身を確認する傾向が強く、窒素ガス充填パックは商品を圧迫することなく商品の形態を確認できるメリットがある。
また、窒素ガス充填パックは、宣伝のフレーズや図柄を印刷することもできるため、メーカーからのニーズは高い。
他方、真空パックは、保存期間が長くソーセージの酸化を防ぎ、コストも低く抑えらる。ただし、商品が圧迫されるデメリットもあり、真空パックは主に冷凍保存の製品に利用されている。
伝統的な市場や量販店またはスーパーマーケットでは、包装をせずに冷暗所に吊るされて、そのまま売られているソーセージをしばしば目にすることもある。
台湾ソーセージの価格は原料、包装、ブランドによって異なる。冷蔵用の窒素ガス充填式の包装のソーセージは通常、高価格となっている。これは包装材料費が高いためで、豚肉ソーセージ1kgあたり300〜320台湾元(1元=3円:900〜960円)と、真空パックの製品(同280〜300台湾元(740〜900円))よりも割高である。
図4−1 窒素ガス充填パックされた商品 |
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図4−2 窒素ガス充填パックされた商品(スーパーマーケット陳列風景) |
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図5−1 真空パックされた商品 |
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図5−2 真空パックされた商品(スーパーマーケット陳列風景) |
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4.台湾ソーセージの豊富な種類
最も大衆的な台湾ソーセージは、豚肉を中心とした素材の味そのままにしたものである。
図6 大衆的な台湾ソーセージ |
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台湾ソーセージは非常に人気があり、主食としてもおつまみとしても食され、大人にも子どもにも人気がある。このため、市場規模は大きく、市場の潜在性もあり、メーカーは新製品投入やブランド化などにより販売拡大を目指している。豊富な種類のソーセージが販売される要因でもある。
(1)香料ソーセージ:
香料は基本的に主要原料ではないが、風味、歯触り、舌触りに影響を与える影の主役である。製品に多彩な変化を与える重要な要素である。香料は風味の大家、ひいては厨房の利器であり、香料の調製は一種の芸術である。
メーカーは多彩な香辛料を使って、素材の味を生かしたソーセージを作り出している。代表的な例としては、五香ソーセージ、辛味ソーセージ、馬告ソーセージ(台湾の原住民がよく使う調味料の山胡椒を使ったもの)、桂花ソーセージ、レモンソーセージ、黒胡椒ソーセージ、三星葱ソーセージ、茶葉ソーセージがある。
最近、ローズマリー、ラベンダー、バラ、麻辛、人参花等の香料を使った台湾ソーセージも登場している。
(2)薬膳ソーセージ:(500〜700台湾元/kg)
台湾でここ数年の間に登場し、消費者の間で人気となっているのが、発酵食品の優れた香りと甘みを具えた紅麹ソーセージである。紅麹は中国人にとって貴重な漢方薬材で、養生の作用を持つと言われている。紅麹の紅色素は亜硝酸塩の代わりに食肉製品に添加することが可能である。この他、「酒釀(発酵させたもち米)」を材料として用いる酒釀ソーセージも、紅麹ソーセージに似た香りと甘みを持っている。
薬膳ソーセージは、特定の消費層の中で人気が高く、漢方薬材、コーリャン酒をベースとするソーセージである。養生の作用があり、消化しやすく、脂っこくない等の特徴が強調されている。
図7 紅麹ソーセージ |
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図8 古代の麹の製造方法 |
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資料: (潘子明、2009.9.科学発展期刊、441期)
注:台湾の紅麹は、鄭成功の時代に、福建省から海を渡って台湾の酒造りの匠に受け入れられたと言われている。 |
(3)水産物ソーセージ:(350〜560台湾元/kg)
台湾各地の特産である水産物を材料とする台湾ソーセージは、独特な外観、食感、香り、風味を持っている。製造の全工程を15℃以下の低温に保たなければならない。このソーセージは豚肉、豚の脂肪をベースとし、イカ、とびっこ、桜えび、クロマグロあるいは棒鱈等などがある。
図9 イカソーセージ |
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(4)家禽ソーセージ:(300〜600台湾元/kg)
七面鳥肉ソーセージは、七面鳥の胸肉またはもも肉を原料とし、低脂肪、低カロリーで、脂っこさがなく、加熱すると香りがよく、肉汁が出て、肉質もジューシーでぷりぷりとした食感が特徴である。
台湾で育った3〜3.5kg以上の土番鴨(地鴨)を原料とするソーセージもある。加熱すると、みずみずしく柔らかくて香りがよく、さっぱりと口触りもよい。
新鮮な鵞鳥(ガチョウ)肉を使ったソーセージは低油脂、低カロリーで、味もしっかりして食感もいい。新鮮な羊の腸が使われており、焼くと皮がぱりぱりになる。
(5)もち米ソーセージ:
もち米ソーセージは、もち米を豚肉、干しエビ、紅葱酥(揚げシャロット)、シイタケ、調味料等と混ぜて豚の皮につめ、水で煮れば出来上がる。香菜、ピーナッツパウダー、台湾風ピクルス、生ニンニク、バジル、黒胡椒ソース等も材料とし用いられるので、食感も豊かである。
図10 大腸包小腸 |
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注:もち米ソーセジを使った大腸包小腸は大きなソーセージで小さなソーセージを包むという意味で特に屋台で人気。
1つ50〜70台湾元(1元=3円:150〜210円)である。
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5.おわりに
台湾の人々は、ソーセージを目にし、口にするにつけ、中秋節(※)に家族が集まってソーセージを焼いて食べ、正月を楽しく過ごしたりする時を思い起こす。
台湾ソーセージは食感がよく、風味が優れ、台湾の伝統的食文化を代表する食品である。新しい製品が次々と開発されて、創意工夫も加えられ、国内外問わず人気が高い。国内市場では、メーカーが新商品開発に余念がなく、新商品を求めて、新しい食材や新しい組み合わせを次々と見つけ出し、消費者に更に多くの驚きと喜びをもたらそうとしている。
海外市場では、現在では加熱済みソーセージを日本向けに輸出している。また、香港、中国、シンガポール等に対しても、ソーセージ製品の輸出を成功させており、今後多くのメーカーは台湾独自の様々な台湾ソーセージ(図11、12)で海外市場を開拓し、美味で多彩な台湾ソーセージでブームを起こしたいと考えている。
(※)中秋節とは旧暦の8月15日(10月4日)で、家族が集まり月をめでる中国や台湾の祭日。
図11 広東風ソーセージ |
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図12 真珠ソーセージ |
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日本における台湾産ソーセージの輸入量
我が国の台湾産ソーセージ(HSコード:1601)の輸入量は、1990年代年間300〜500トン程度で推移し、1996年には1400トンに達した。しかし、1996年3月に台湾で口蹄疫が発生した影響で、1998年にゼロとなった。現在、台湾の主力であった冷凍豚肉(1996年輸入実績16万トン)は輸入停止されたままである一方、ソーセージは加熱処理済のみがここ数年輸入量は回復しほぼ横ばいで推移している。
日本では台湾ソーセージは主に、中華料理店などで提供されており、スーパーマーケットでは見かける機会が少ない。このため歴史ある台湾ソーセージの多彩な味や芳じゅんな風味に接することがあまりない。
台湾ソーセージは、いにしえのレシピをベースに、いまの世代に合せたものへと変化する柔軟性を持っている。近い将来、日本の食文化も取り入れた台湾ソーセージがおめみえするかもしれない。
図13 日本における台湾産ソーセージの輸入量 |
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資料:貿易統計 |
【調査情報部 宗政修平】
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