調査・報告 学術調査  畜産の情報 2012年9月号

相次ぐ飼料生産基盤の設立
〜青森県における設立事例と農家評価〜

弘前大学農学生命科学部 助教 吉仲 怜・横田 香苗(現 住商アグリビジネス梶j




1.はじめに

 青森県においては、2003年の旧・らくのう青森農業協同組合(現・ゆうき青森農協酪農支所)による食品製造副産物利用型TMRセンター設立以降、上北地域において地域農家が運営する粗飼料自給型TMRセンターが相次いで設立された。これらは比較的隣接した地域に、三つのTMRセンターが運営されているという状況にある。

 本報告では、各センターの相互の関係性の視点から、それぞれの運営実態をみていくこととする。

2.青森県の酪農の現状

 青森県における乳用牛飼養頭数は一貫して減少を続けており、2010年では1万3900頭と30年前の半分以下の水準となっている。また、生乳生産量は1990年の9万6928トンをピークに減少し、2010年は7万1870トンとなっている(図1)。
図1 青森県における生乳生産量の推移
資料:農林水産省 牛乳乳製品統計
 同様に、青森県の酪農家戸数も減少を続けており、2009年は301戸と1980年の5分の1以下に減少している。なお、青森県の酪農生産は上北地域に集中しているが、事例の位置する東北町の酪農家戸数は74戸、六ケ所村は53戸(2007年)である。

 一方で、乳用牛の一戸当たり飼養頭数は増加傾向にあり、青森県では1980年の18.4頭から2006年には51.7頭まで拡大している。

この規模は北海道には及ばないが、都府県の一戸当たり頭数を上回る水準である。

 自給飼料基盤については、牧草、青刈りトウモロコシともに、収穫量は1990年をピークに減少している(図2)。特に2005年以降、牧草の収穫量の減少が顕著である。一方、牧草の作付面積自体は1500ヘクタールの減少に留まっている。
図2 青森県 飼料作物収穫量の推移
資料:農林水産省 飼料作物調査


3.相次ぐTMRセンターの設立

(1)らくのう青森TMRセンター

(1)設立の経緯

 らくのう青森TMRセンターは、旧・らくのう青森農協が事業主体となって青森県で初めて設立した。2003年4月より稼働し、地域食品製造業の食品製造副産物や輸入乾草等を原料とした発酵TMRの製造、供給を行っている。

 らくのう青森TMRセンター設立の構想ができたのは、2001年9月のことである。当時の組合長の「地域酪農全体の課題である粗飼料不足の解消のためには、食品製造副産物を利用したTMR事業を行うべき」という考えから、農協役員やTMRの利用希望農家、関係機関によってTMR研究会が設立された。当時、地域の酪農家は県内で生産されるリンゴジュース搾り粕(以下、リンゴ粕とする)を、嗜好性が良い飼料として利用していた。しかし、生産の季節変動や保存性等の問題から、TMRセンター設立が望まれていた。このような中で、らくのう青森TMRセンターの構想が具体化した。

(2)運営実態

 らくのう青森TMRセンターの月産能力は1000トンであり、テント倉庫2棟や固定式ミキサー等の施設、機械が整備されている(表1)。
表1 らくのう青森TMRセンター 施設概要
資料:ヒアリング調査より作成
 TMR原料は食品製造副産物のリンゴ粕、豆腐粕、しょう油粕、ビール粕、キノコ菌床粕と、配合飼料やオーツヘイ、小麦ストロー等の輸入飼料である。リンゴ粕と豆腐粕、しょう油粕はそれぞれ県内の食品製造工場より販売供給されており、ビール粕は茨城県のビール工場、キノコ菌床粕は宮城県等から購入している。2010年度の利用量はおおよそリンゴ粕1899トン、豆腐粕757トン、しょう油粕532トン、ビール粕559トン、キノコ菌床粕536トンで合計4282トンとなっている。2010年度のTMR販売量は5858トンであることから、原材料の約7割を食品製造副産物によって賄っていることになる。

 発酵TMRにおけるリンゴ粕利用のメリットは、日持ちの良さである。リンゴ粕を配合したらくのう青森の発酵TMRは、日持ちが良く、配送後1週間ほど変敗しない。そのため県外からもリンゴ粕を配合した発酵TMRの人気が高い。

 TMR製品は主に4種類で、用途に合わせて成分内容が設計されている(表2)。設立当初は、農家段階における自給粗飼料との併用を目的とした発酵セミTMR「青森セミTMR」がメインの製造規格であったが、現在は「青森ウェット」がメインとなっている。「青森ウェット」は食品製造副産物と小麦ストローといった粗飼料を主体として配合飼料を含まない発酵ウェット飼料で、自給乾草やサイレージといった粗飼料の補足飼料として利用されている。

表2 らくのう青森TMRセンター 製品規格
資料:ヒアリング調査より作成

(3)成果と今後の展開

 2011年時点でのTMRの販売先は、農協組合員約120戸のうち常時利用農家が29戸、後述するデイリーサポート北栄とデイリーサポート吹越を通した利用が31戸で、生産量の3分の2がこれら県内の利用農家に販売される。農協組合員の利用には常時利用の他、冬期の飼料不足を補うための利用や、牧草収穫が終わり自給飼料を確保するまでのつなぎとして利用する農家もいる。また、生産量の3分の1は岩手、秋田、宮城等県外の酪農家に販売されている(図3)。

図3 らくのう青森TMRセンター 販売量推移
資料:ゆうき青森資料より作成
 しかし販売量は2005年の8635トンをピークに年々減少を続けており、図出していないが、2011年は5000トン程度まで減少した。その要因の一つは、一頭当たり給与量設定の変更である。設立当初の計画では一頭当たり給与量をおよそ30kg/日と設定していたが、実際の給与量と乖離していたため、現在は10kg/日に変更している。またもう一つの要因は、デイリーサポート北栄、デイリーサポート吹越の設立の影響である。いずれも完全TMRの製造センターとして設立したが、近年は自給飼料生産の拡大により、らくのう青森TMRの利用量が減少している。特にデイリーサポート北栄では2006年の1500トンをピークに、2011年利用量は240トン程度にまで減少している。

 このため工場の月産能力1000トンに対して2011年の月生産量は450トンに留まっている。したがって、今後新規利用農家の呼び込みによる工場稼働率の向上が必要な状況にある。

 2010年にらくのう青森農協は他農協と合併しゆうき青森農協となった。これによりJA管内の酪農家組合員戸数は122戸に増加した。そのため、今後旧・らくのう青森農協以外の酪農家組合員に対してのTMR利用の普及が課題といえる。

(2)デイリーサポート北栄

(1)設立の経緯

 (農)デイリーサポート北栄(以下、DS北栄とする)は、青森県上北郡東北町北栄地区の酪農家によって設立された組織である。自給飼料の牧草、デントコーンをグラスサイレージやデントコーンサイレージ、乾草に調製し、らくのう青森TMRセンターのセミTMRなどの購入飼料を混合した完全TMRを製造、供給している。

 組織の前身は、1950年代後半より新農村建設事業において入植した農家で各地につくられた、トラクター利用組合である。北栄地区でも、1960年に北栄トラクター利用組合が設立したが、これがDS北栄の母体となっている。

 らくのう青森TMRセンターの稼働後、セミTMRは北栄地区の酪農家でも利用が進んでいたが、自給粗飼料と混合し完全TMRとして利用するにはTMRミキサーの導入が必要であった。しかし組合員は経産牛頭数が20〜60頭の中小規模農家が主体となっており、個人でのTMRミキサー導入は負担が大きい。こうした農家から、完全TMR化する施設の要望が高まっていた。

 また、2004年の家畜排せつ物法施行により糞尿の堆肥化利用が求められる一方で、デントコーンの作付面積は年々減少傾向にあり、飼料生産現場における堆肥処理が困難な状況にあった。デントコーンの栽培管理は牧草に比べて労力を要するため個人では取り組みにくいが、コントラクター組織の取り組みとして期待が寄せられた。

 こうした背景のもと、2004年3月に北栄地区の酪農家、旧・らくのう青森農協等が中心となって「TMR推進委員会」が立ち上げられた。2004年時点でトラクター利用組合の組合員は40名程度であったが、その内参加意向を示した14名で2005年にDS北栄が設立された。運営方法や土地利用等における合意形成を経て2005年より施設整備を開始し、2006年1月にTMRセンターが稼働した。
表3 デイリーサポート北栄 事業概要
資料:デイリーサポート北栄資料より作成
(2)運営実態

 DS北栄の主な施設はバンカーサイロ15基、飼料調製庫である。1日当たり800頭分相当のTMR生産能力があるが、2011年時点で利用頭数は500頭程度となっている(表3)。酪農家へのTMRの配送は、運搬用トラック2台によってバラ輸送されている。そのためTMRは日持ちがせず、年中無休で一日一回参加農家へ配送する必要がある。バラ輸送は各農家の牛舎まで配送されるため、農家の給餌作業に対する省力効果を上げているとのことである。

 DS北栄設立当初の参加農家は14戸で、うち4戸はDS北栄への参加のために北栄トラクター利用組合へ加入した。設立に携わった14戸の無償供出農地は5ヘクタールで、無償供出農地以外でDS北栄に利用権を設定している農地には、1ヘクタールにつき5000円の利用料が参加農家に支払われる。また、2006年の稼働以降2戸の酪農家が参加している。新規参加農家には無償供出の農地を6ヘクタールとしている。

 飼料生産作業や草地管理作業はすべてトラクター利用組合に委託され、サイレージや乾草といった自給粗飼料がDS北栄に供給される。そのため、参加農家の出役はバンカーサイロに牧草やデントコーンを詰め込んだ後のビニール掛け作業のみである。一方、牧草に関しては各農家で個人管理している牧草地も一定程度ある。これは育成牛用等の乾草の確保である。DS北栄でもTMR用として自給牧草の乾草を生産しているが、各農家では飼料生産機械を一式保有しており、乾草単体として利用する分は農家が個別で生産する形となっている。

 飼料設計は参加農家同士の話し合いで決定される。自給飼料のグラスサイレージ、デントコーンサイレージを主体とし、乾草で水分を調整する。購入飼料はらくのう青森のセミTMR、配合飼料、ビートパルプ、輸入乾草等である。

 DS北栄における旧・らくのう青森農協のセミTMRの利用量は、TMRセンターが稼働した2006年をピークとして減少を続けている(図4)。当初はセミTMR利用を目的の一つとしていたが、2011年現在のセミTMR利用量は20トン/月程度である。この理由として、TMRセンター方式によってデントコーンサイレージ、グラスサイレージといった自給飼料の確保が十分に行われるようになったことがあるが、セミTMRの購入価格が高い点も影響している。

図4 デイリーサポート北栄におけるらくのう青森TMRの購入量
資料:ゆうき青森資料より作成
(3)成果と今後の課題

 DS北栄の設立による成果には、地区内の土地利用の改善が挙げられる。TMRセンター方式の導入で、デントコーンの栽培管理が一括して効率的に行われることにより、デントコーンの増産とふん尿の堆肥化利用に効果があった。デントコーン作付面積は、設立以前の2004年で30ヘクタールだったが、2005年には150ヘクタールにまで増加している。また堆肥利用率も2004年は45%だったが2005年以降100%利用できている。

 また、DS北栄では農地の土壌管理に重点が置かれている。TMRセンター管理の農地に加えて参加農家の個人管理農地においてもDS北栄による施肥管理、土壌改善が行われ、牧草の品質改善に効果を上げている。またこのことにより、栄養バランスの良い土壌作りが経営の改善に繋がるという意識が、参加農家間で共有され始めているという。

 一方、課題は参加農家の増頭志向が低くTMRの販売量が伸び悩んでいることである(図5)。TMRセンターの設備上、利用頭数800頭が適正規模だが、現在の利用頭数は500頭程度に留まる。また、地域内の酪農家戸数は減少を続けている。そのため、個別農家の増頭を進めていきたい一方、地区内農家の共同経営牧場設立の構想もあるという。

図5 デイリーサポート北栄 TMR販売量の推移

資料:ヒアリング調査より作成

(3)デイリーサポート吹越

(1)設立の経緯

 (株)デイリーサポート吹越(以下、DS吹越とする)は、2006年に青森県上北郡六ケ所村において、(農)吹越台地飼料生産利用組合の酪農家15戸により設立された。DS北栄と同様の粗飼料自給型TMRセンターとしては、県内2か所目となる。

 DS吹越の施設・機械の所有者である(農)吹越台地飼料生産組合は、共同での農地造成を主な事業として、1980年に組合員132名で設立した。その後1988年までに国有林野等全体面積470ヘクタール、うち草地面積375.2ヘクタールの農地造成を完了し、組合員に分配した。組合員は個人で農業機械を保有して草地管理を行うが、組合員同士で作業を手伝い合うという互助的な関係にあった。

 また、1984年には県内で最初にロールベーラによる牧草の収穫技術とラッピング技術を導入し、乾草やサイレージの安定した生産を支援するなど、草地の利用管理の技術発展にも貢献している。その結果、組合員は経営規模を拡大しており、2009年時点で組合員の飼養頭数は80〜150頭規模となっている。

 一方、増頭によるふん尿の処理問題は他地域と同様に障壁となっていた。このような状況の中で、2005年に組合員より「耕畜連携といって畑作農家にふん尿を処理してもらうのではなく、自分達の家畜のふん尿は自分達で処理し自分達で活用するべき」と、堆肥をより大量に投入できるデントコーンを共同で栽培しTMR化するというTMRセンターの構想が提案された。組合員全員での検討の中で参加希望者を募り、最終的に15戸でDS吹越を設立することとなり、2009年5月よりTMRの供給を開始した。

(2)運営実態

 DS吹越はらくのう青森TMRセンターの隣に立地している。DS吹越の設立に当たり、組合は100万円、参加農家は1戸当たり150万円を出資した。設立以降、参加農家戸数の増減はない。

 センターの主な施設は、TMR調製棟(事務所を含む)、グラスサイレージやデントコーンサイレージを調製するバンカーサイロ20基、TMR原料保管庫である。生産能力は1日当たり90トンで、2011年現在で1日45〜50トンのTMRを生産している。施設整備に当たっては畜産担い手育成総合事業を活用し、総事業費約9億2000万円をかけバンカーサイロやTMR調製棟等を整備した(表4)。
表4 デイリーサポート吹越 事業概要

資料:吹越台地飼料生産利用組合資料より作成
 飼料生産における草地管理作業は、主に参加農家の出役で行われる。出役は時給制で、個人所有のトラクター等農業機械を使用し機械賃貸料が支払われる。出役作業は堆肥散布や肥料散布、播種、刈取り等である。一方牧草の積込やダンプによる運搬、デントコーン収穫、バンカーサイロへの詰込・踏圧は地域の土木建設業等に委託される。その理由は、第一に牧草地はセンターから30キロメートル程離れているため、収穫した牧草の運搬は外部委託する方が効率的であるという理由から、第二にサイロの詰込・踏圧に当たって機械のオペレーターにおける技術が要されることからである。(図6)。
図6 吹越台地の位置


 2011年の自給飼料作付面積は牧草(サイレージ用)186ヘクタール、デントコーン143ヘクタールで、収穫量はそれぞれ2699トン、3068トン、反収は1.6トン、2.1トンである(表5)。

表5 デイリーサポート吹越 飼料生産状況(2011年度)

資料:吹越台地飼料生産利用組合資料より作成

 牧草は、グラスサイレージの他に乾草に調製される。個別農家においては育成牛の飼養や個体別の栄養調整としても乾草が利用されるが、DS北栄と同様に個人管理の牧草地を保有している。

 TMRの主な原料は、自給飼料のグラスサイレージ、デントコーンサイレージ、乾草と購入飼料の配合飼料、ビートパルプ、輸入乾草、稲ホールクロップサイレージ、らくのう青森TMRセンターのセミTMRである。TMRメニューは見直しを繰り返し、2012年1月時点では乳配入りと乳配無しの2メニューを製造している。

(3)成果と今後の課題

 2011年のTMR販売量は1月当たり1067トンで、1日当たりでは900キログラムのTMRパックで50本程度の生産量である。TMRは2次発酵を抑えるために圧縮梱包され、農家に配送してからも一定期間品質を保持したまま保存することができる。TMRは運送会社によって参加農家に配送され、各農家でTMRを主体として乾草等を加えて利用される。

 DS吹越におけるらくのう青森TMRセンターからのTMR購入量は、2009年では1050トン、2010年は827トンとなっており、自給飼料の増減に応じて補足的に利用されている(図7)。

図7 デイリーサポート吹越におけるらくのう青森TMRの購入量

資料:ゆうき青森資料より作成

 DS吹越設立以降、参加農家15戸のうち9戸が飼養頭数を増やし経営規模を拡大した。2006年から2010年にかけて、参加農家15戸の総飼養頭数と出荷乳量は一貫して増加しており、頭数は376頭の増加、年間出荷乳量は1435トンの増加となっている(図8)。
図8 デイリーサポート吹越参加農家(15戸)における年間出荷量と飼養頭数の推移

資料:吹越台地飼料生産利用組合資料より作成
 このような規模拡大が行われた背景には、ふん尿処理問題の解決に加えて、TMRセンターへの参加によって個別農家の施設更新においても補助事業等が活用できたことがある。参加農家はこれらを活用して搾乳ロボットや自動給餌機といった高度機械を導入することにより、経営規模を拡大することができた。

 一方、参加農家の増頭によってTMRセンターでは飼料が不足する事態となっている。そのため現在の15戸以上に参加農家を増やすことはできず、また設備の生産能力面からも個別農家の乾乳牛や育成牛の分までTMRを供給できない状況である。

 また収穫後のサイレージ調製において、不良サイレージが発生し廃棄するものもあるという。そのため、サイレージ調製における良質化による自給飼料の確保が課題となっている。

(4)青森県上北地域におけるTMRセンター組織間の現状

 このように、青森県上北地域においては農協主体のらくのう青森TMRセンター、東北町の酪農家によるDS北栄、六ケ所村の酪農家によるDS吹越という3つのTMRセンターが、各々の設立背景を持ちながら独自の運営を行っている(図9)。

図9 青森県におけるTMRセンター関係図

資料:(社)配合飼料供給安定機構『エコフィードを活用したTMR製造利用マニュアル』
    及び調査より作成
 また、本文中でも示したとおり、各TMRセンターの利用実態は異なる。そのため、2つのセンター間で飼料を融通する構想も生まれている。今後、地域をまたいだ動きとして注目したい点である。

4.農家評価から見る青森県粗飼料自給型TMRセンターの性格

 以下では、事例としたTMRセンター参加農家への聞き取り調査を通して、それぞれのTMRセンターに対する評価をみていく。

(1)デイリーサポート北栄参加農家のTMRセンターに対する評価

1) 調査農家の経営概況

 北栄地区は経産牛20〜60頭、育成牛30頭未満の中小規模酪農家が中心であり、120頭規模の大規模経営が一戸ある。聞き取り調査は、大規模経営農家(K1)と、経産牛40〜60頭の中規模農家(K2、K3)、40頭未満の小規模農家(K4、K5)に行った。

 表6に、調査農家における経営概況を示した。各経営における労働力は、大規模経営のK1を除いて家族労働力が主体である。中規模農家のK2、K3は3人、小規模農家のK4、 K5は夫婦2人の家族労働となっている。

 経営耕地面積は10〜30ヘクタール程度で、その内TMRセンター供出以外の個人管理面積は3〜12ヘクタールである。DS北栄では参加農家はすべての農地をTMRセンターに供出しているのではなく、一定の個人管理草地を保有している場合が多い。これは育成牛の飼養や乾乳牛の飼料成分調整等に要する乾草を確保するためである。一方、デントコーンは栽培管理や収穫作業の負担が大きいことから、TMRセンターが全作付農地の栽培管理を担っている。
表6 デイリーサポート北栄 飼料生産状況
資料:ヒアリング調査より作成
 年間出荷乳量は、大規模経営のK1は1100トンとなっており、その他の経営は300〜500トン規模である。1頭当たり平均乳量については、K4、K5は8000キログラム、K1、K2、K3は9000キログラム前後の水準となっている。

 飼養形態はスタンチョンやチェーンストールといったつなぎ飼い方式が主である。給餌機は自動式や自走式の導入が進んでいるが、TMRミキサーについてはK1以外は導入していない。ただし、DS北栄による完全TMRの供給があるため、各農家ではTMRミキサーを導入せずにTMRを給与することが可能となっている。

 表7にTMRセンターの利用状況と飼料の生産状況、利用状況について示した。参加時期は、K2以外は設立時より利用を開始しており、K2のみ設立より1年後に自家生産分のデントコーンサイレージの在庫を使い切ってからの参加となっている。

 TMRセンター利用以前はデントコーンサイレージを個人で生産、調製している農家が3戸あるが、TMRセンター利用以後はTMRやデントコーンサイレージはTMRセンターからの購入にシフトしている。これは各農家のデントコーン生産、サイレージ調製の省力に繋がっている。
表7 デイリーサポート北栄 TMRセンターの利用状況と飼料生産・利用について
資料:ヒアリング調査より作成
2) TMRセンターに対する参加前後の評価

 K1はらくのう青森TMRセンターの設立時の試験給与にも協力するなど設立に関与しており、DS北栄の設立に向けて主体的に取り組んできた。またK5は自身の高齢化もあり、酪農経営を継続していく上では個人で全ての労働作業を賄うことに負担を感じ、DS北栄への参加を決めたという。

 期待した効果として多く挙げられたものは給餌作業の省力効果である。完全TMRの導入によって分離給与よりも作業回数が減少するという省力効果は、参加農家にとって大きなメリットであったことがわかる。また高齢農家では草地管理や堆肥処理等の労働負担の軽減を望んだという声も聞かれた。加えて、飼養管理において通年で安定した飼料内容が確保できるという点も期待が大きいとみられた。

 一方、参加以後の効果として評価が高い点は、給餌作業の省力効果と乳量の増加である(表8)。給餌作業の省力効果では、1日の給与回数は変わらないが1回の給与における作業回数が従来の分離給与と比べて減ったものや、サイレージの調製や取出しが省力化したとする評価があった。
表8 デイリーサポート北栄 TMRセンターに対する参加後の評価
資料:ヒアリング調査より作成

 一頭当たり年間乳量は1000〜1500キログラムの増加が見られ、現状で8000〜9000キログラムの水準となっている。

 草地管理や堆肥処理の作業については、それぞれ3戸から楽になったとの評価があった。これらはトラクター利用組合に委託されTMR代金に含まれるため、K1では飼料費は上がったが労働負担が減少するため経営費全体としてみれば下がっているという評価であった。また、デントコーンの生産がDS北栄で一括管理されるため、K5ではデントコーン生産を個人で管理しトラクター利用組合に作業を委託していた時に比べて費用はかからなくなったと評価している。

(2)デイリーサポート吹越参加農家のTMRセンターに対する評価

1) 調査農家の経営概況

 DS吹越における聞き取り調査は、参加農家15戸のうちF1、F2、F3、F4、F5について行った。F1からF4は参加農家の中でも大規模層である。

 表9に調査対象農家の経営概況について示した。調査対象は、飼養頭数100〜300頭規模の大規模農家が中心である。うちF1、F2は法人経営で、雇用者数はそれぞれ5名、3名である。F3、F4、F5は家族経営で労働力は2〜4名である。

表9 デイリーサポート吹越 調査農家の経営概況

資料:ヒアリング調査より作成

 F1、F2、F3はフリーストール牛舎による経産牛飼養を行っており、F4は経産牛の飼養には個体管理を重視してタイストール牛舎を使用し、育成牛と乾乳牛をフリーストール牛舎で飼養している。また、事業補助を活用して搾乳ロボットや自動給餌機、エサ寄せロボットも導入されている。一頭当たり年間平均乳量は8000〜9000キログラムであり、平均産次数がおおよそF2が2〜3産、F4が1.5産、F5が2.5〜2.6産となっている。

 表10にTMRセンターの利用状況と飼料給与の実態を示した。DS吹越においては、参加農家15戸は稼働時よりTMRの利用を開始しており、参加農家数の増減はない。経産牛にはTMRを主体として乾草を補足的に給与し、配合飼料で栄養調整するといった形態で飼料を給与している。F1はフリーストール牛舎でTMRと乾草を経産牛に自由採食させており、F4ではタイストール牛舎でTMR、配合飼料、乾草を給与している。乾草は個人管理草地において生産されているが、F4のみ乾草を自家生産せず近隣農家より購入している。
表10 デイリーサポート吹越 TMRセンターの利用状況と飼料生産・利用について
資料:ヒアリング調査より作成
2) TMRセンターに対する参加前後の評価

 参加以前に期待した効果をF3、F4、F5の3者について見ると、期待の高かった点は給餌作業の省力効果、草地管理の負担減少、堆肥処理の省力効果であった。参加農家の中には増頭計画のある経営が多かったことから、作業負担の軽減やふん尿の堆肥化利用に対する期待が大きい。

 表11に、TMRセンターへの参加以後の評価をF3、F4、F5の3名について見ると、評価があった点は搾乳成績と堆肥処理への効果であった。乳量はF5においては増加し現在 9000キログラム/頭・年を超えているとしているものの、F3、F4は乳量の目立った増加は無いが、季節変動の縮減や個体間格差の縮小といった効果があり、結果として成績にプラス効果となっている。また、堆肥処理の効果としては共同作業となったため省力化したという評価や、デントコーンの栽培が増加したため堆肥が処理できるようになったという評価があった。

表11 デイリーサポート吹越 TMRセンターに対する参加後の評価
資料:ヒアリング調査より作成
 参加前評価において期待の高かった給餌作業の省力効果については、作業F3、F4は楽になったとの評価であり、自動給餌機の導入により不断給餌が行われTMRの特性が十分に生かされている。一方F5は手作業での給餌のため、TMRによる省力効果はあまり感じられないようであった。また草地管理作業については評価が分かれ、F4、F5は繁忙期においても都合が合わせやすい、天候を気にしなくてもよくなった等共同作業のメリットがを意識している。一方F3は、TMRセンター以前に個人で管理していた農地が10ヘクタール程度と小規模である。そのため共同化によって作業面積が拡大したことに対する負担や共同で行わなければならない除草剤散布作業等に対して反対に負担が増えたとの評価であった。

(3)TMR センターへの農家評価の比較

 最後に、両地域の農家調査をまとめておきたい。

 まず飼養頭数規模は、DS北栄では最大で180頭、最小で50頭程度であるのに対し、DS吹越は100頭から300頭規模と頭数規模条件が異なる。DS吹越の大規模経営においては、既に法人化している経営や今後の法人化を検討している経営もみられるが、DS北栄においてはK1を除いて規模拡大傾向や法人化の意向は見られなかった。

 生産成績については、平均乳量はどちらも8000〜9000キログラム/頭・年の水準であり大きな差はない。しかし飼養頭数の差から、出荷乳量には大きな開きが見られる。

 飼料給与の実態を見ると、DS北栄、DS吹越の間でその内容にあまり差は無く、経産牛にはTMRを主体として配合飼料を補助的に給与し、育成牛、乾乳牛には自家生産の乾草を主体的に給与している。乾草の生産は個人管理の農地で行うという経営が多く、TMRセンターによる飼料供給のみですべての飼料を賄ってはいない。その理由は、乾草を購入することによる飼料費負担が大きいこと、TMRセンターで全農家分の乾草の生産がカバーされていないことであり、そのためTMRセンターへ参加後も個人の草地管理は継続され、飼料生産機械は保有されていた。

 DS北栄においてはデントコーンの作付割合が高く自給飼料が豊富に確保されており、TMRの他にデントコーンサイレージ単味での供給もある。これは育成牛や乾乳牛に対して主に給与されている。一方、DS吹越では各農家の増頭により自給飼料が不足気味であるという意見もあり、TMRの供給に不足が生じる状況となっている。

 参加農家は元々TMRセンターに関心を持っている農家や積極的な参加意向の強い農家が集まっている。期待された効果としては給餌作業の省力化と堆肥処理への効果が目立つ。給餌作業の省力化については、各経営において多頭化が進んだために限られた労働力の中で負担が増してきたこと、堆肥処理への効果については、増頭による大量のふん尿の発生が地域環境に対する問題となっていたことが背景と考えられる。

 以上より、それぞれの地域におけるTMRセンターの位置づけは異なるとみられた。まずDS北栄では、参加農家の増頭志向がそれほど高くない中で、TMRセンターが個別農家の経営改善に向けた中心的な役割を担っている。TMRセンターを中心として土地利用の改善が行われたことに加え、飼料生産の面からも個別農家の経営改善が図られている。

 一方、DS吹越では、TMRセンターを土台として各経営が個別に規模拡大、経営改善を行っている。TMRセンターの設立要因として、増頭の障壁となるふん尿処理問題の解決という動機があったことからわかるように、デントコーンの作付拡大によってふん尿処理問題が解決されたことは、規模拡大に向けた地域の酪農構造の変化を生んでいる。

5.おわりに

 青森県における相次ぐTMRセンターの設立実態を俯瞰ふかんした。青森県では、自給飼料の活用と飼料基盤の確立を図るべく、食品製造副産物活用型TMRセンターを中心とした地域飼料資源利用システムが確立されている。しかし、現状において、粗飼料自給型TMRセンターが設立したことにより、各地域に動きがみられた。粗飼料自給型TMRセンターの二者は単なるTMR製造供給センターではなく、参加農家の個別の経営にも影響力を持ち、各経営の発展に貢献している。このことは、地域農家がTMRセンターという目的意識のもとで組織化したことの副次的な効果と言える。

 常に時代の変化にさらされる酪農経営にとって、TMRセンターという組織化の動きは、地域農業者による主体的な取り組みとして重要な役割を果たしている。青森県においては、食品製造副産物活用を含めて今後更なる飼料基盤の強化が期待される。地域農業者の意欲と主体性が保たれる限り、酪農支援組織としてのTMRセンターは発展を続けることができるであろう。

 追記:本研究は、「平成23年度畜産関係学術研究委託調査」によるものです。本稿執筆に際して、調査の御協力を頂いたゆうき青森農協酪農支所、デイリーサポート吹越、デイリーサポート北栄および農畜産業振興機構の各関係者に対して、記して感謝の意を申し上げます。


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