話題  畜産の情報 2013年4月号

国際酪農連盟
ワールド・デイリー・サミット2013
開催に当たって

国際酪農連盟日本国内委員会 常任幹事 細野 明義


1.国際酪農連盟の設立と使命

 国際酪農連盟(International Dairy Federation; IDF)は、1903年、世界規模での酪農乳業界を代表する唯一の団体としてベルギー国ブルッセルにおいて設立された。その目的は、利益を追求せず、国際的な酪農乳業分野における科学的、技術的および経済的発展を推進することにある。IDF憲章とも言うべき独占禁止宣言文には“IDFならびにIDFの諸委員会に関わる我々は、自らの名において独占禁止法に抵触するいかなる話や、活動や、行為に加わらない”と明記しており、非政治的、非利益国際団体であることを誓っている。

 IDFは、上記目的に係わる科学的専門的知識及び学識を発信することにより消費者の栄養、健康及び幸福に寄与し、良質な生乳の生産と乳製品の開発・普及に努めている。その目的達成のために採られている活動分野は、(1)酪農、(2)製造技術、(3)経済・市場、(4)食品規格、(5)理化学分析、(6)微生物・衛生、(7)添加物・汚染物質、(8)栄養・健康などである。これらの他に国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission)、国際標準化機構(International Organization for Standardization; ISO)、国際獣疫事務局(World Organization for Animal Health; OIE)などの国際機関における諸活動に対する枢要な連携機関としての役割を果たしている。

 上記の分野に係わる重要課題はIDFの中に設けられている常設委員会や特別作業部会で審議される仕組みになっており、例えば、動物の健康と福祉、異常気象や環境に係わる問題、飢餓と肥満の問題、世界人口が2050年には90億に達することに対する酪農・乳業の持続性の追及、食の安全性などの課題が挙げられる。さらに、セミナー、シンポジウム、カンファレンスを開催し、特定課題について議論することも定期的になされている。中でも表題のワールド・デイリー・サミットは世界中のIDF関係者が一堂に会し、その時々の課題について横断的かつ総合的に議論し、また科学情報を発表する場になっており、ホスト国を設けて1年に1回開かれる一大イベントである。

 その他、IDF賞を始めとする種々の賞を設け、酪農・乳業分野で優れた成果を挙げた人や、IDFの発展に寄与した人に対し賞を与えている。また、“IDF Bulletin”など様々の出版物を出版すると共にインターネット(ウェブサイト)を通じて膨大な情報を会員に発信している。

 IDFへの加盟は国単位で行われ、2012年現在、正会員国は40カ国、準会員国は13カ国になっている。準会員国は投票権を持たないが、IDFの活動に参加し、サービス(出版物の受理等)を受けることができる。また、IDF本部に納める年会費はその国の生乳生産量により決定されている。準会員国の年会費は正会員国の年会費の27.5%となっている。現在、IDF会長はニュージーランドのJeremy Hill 氏(任期2012-2016年)が勤めている。

 なお、IDFでは英語とフランス語を公用語にしており、IDFのロゴマーク(図1)には「国際酪農連盟」の英語表記(IDF)とフランス語表記(FIL)が記されている。
図1 IDFのロゴマーク

2.国際酪農連盟日本国内委員会

1)誕生の経緯

 国際酪農連盟日本国内委員会は1952年発足の日本酪農科学会議(Japan Dairy Science Council; JDSC)を前身母体にしている。1956年、ローマで開催された第14回国際酪農会議において日本のIDF加盟が認められた。それに伴い、JDSCの名称を日本国際酪農連盟(National Dairy Federation of Japan; NDFJ)と改称し、初代会長に東京大学教授であった佐々木林治郎氏が就任した。二代会長に就任した中江利郎氏(日本乳業技術協会理事長)はNDFJの組織基盤の充実に渾身の努力を払った。三代会長に就任した東京大学教授であった津郷友吉氏はNDFJを一層発展させるべく法人化への努力を払い、1962年に社団法人の認可を農林大臣より受けるに至った。また、1972年には東京で年次会議(現在のワールド・デイリー・サミット)を開催し、国際社会におけるNDFJの声価の向上に努めた。津郷友吉氏に代わって四代会長に就任した檜垣徳太郎氏(当時参議院議員)はNDFJの中央官庁や畜産振興事業団(現 農畜産業振興機構)との関わりを強化し、畜産振興事業団から出資を受けるなどNDFJの財政の強化に努めた。また、1991年にはNDFJにとって2回目のホスト開催となるIDF年次会議を東京で盛大に執り行っている。こうした活動を通じてNDFJが我国における酪農・乳業の発展に側面的貢献を果たしてきたことの意義は大きい。

 一方、2000年に森喜朗内閣のもとで行政改革大綱が公表され、翌年には行政改革推進本部が置かれ、それまでの1府22省庁は1府12省庁に再編された。この編成に呼応して、酪農分野の諸団体にも再編・統合が求められ、農林水産省主導のもとに乳業団体総合の検討がなされた。NDFJも例外ではなく、社団法人日本国際酪農連盟たるNDFJは財団法人日本乳業技術協会と2004年中に統合を完了することが決定された。それを受け、2004年4月、NDFJは社団法人を返上し、(財)日本乳業技術協会の中に独立した組織として位置づけられて新たな歩みを始めた。呼称も従来の(社)日本国際酪農連盟を改め国際酪農連盟日本国内委員会(Japanese National Committee of International Dairy Federation; JIDF)とし、会長に佐野宏哉氏(元水産庁長官)が就任した。組織上は(財)日本乳業技術協会の常務理事が国際酪農連盟日本国内委員会の常任幹事を兼ねることにより、法人の一体性を具現させたかたちをとるが、活動的にはJIDFの独立性と独自性は担保されている。2013年4月1日より日本乳業技術協会は財団法人から公益財団法人に移行予定になっているのに伴い同法人内でのJIDFの位置付けは図2に示すようになるが、JIDFの活動の独立性と独自性は従来となんら変わることはない。現在、海野研一氏(元農林水産省構造改善局長)がJIDFの会長に就任している。

図2 (公財)日本乳業技術協会での国際酪農連盟日本国内委員会の位置付け
   (2013年4月1日以降)(予定)

2)活動内容

 JIDFの活動に対応して次の専門部会を設けている。

 (1)酪農専門部会
 (2)製造技術専門部会
 (3)経済・市場専門部会
 (4)食品規格専門部会
 (5)理化学分析専門部会
 (6)微生物・衛生専門部会
 (7)添加物・汚染物質専門部会
 (8)栄養・健康専門部会

 さらに、コーデックス食品規格活動に対応する専門部会として下記を設けている。

 (1)コーデックス乳・乳製品部会
 (2)コーデックス栄養・特殊用途食品部会

 各専門部会は10名前後の委員から構成され、それぞれに部会長、副部会長、書記を置き、部会長主導のもとに活動を行っている。また、これら部会を統括する役として専門部会代表を置き、各専門部会を統括している。具体的には専門部会代表が議長となり専門部会長会議を年に2回開催し、IDFならびにJIDFの活動を各専門部会長が活動の全体像を理解する仕組みをつくっている。

 また、IDF」の総会、事務局長会議、各常設委員会、ワールド・デイリー・サミット、分析ウイーク等への出席者やコーデックス部会会議のテクニカルアドバイザーとして出席した人達による国際会議出席者報告会を毎年1回開催している。さらに、「JIDF広報」、「国際酪農連盟年次報告」をはじめ数種の出版物を刊行(一部CD化)し、JIDFの個人会員ならびに団体会員に配布している。これらの活動の他、JIDF光岡賞を設けて学術上の優れた業績を通じて世界の酪農乳業の発展に貢献した人に対し授与している。このJIDF光岡賞は2007年にIDFメチニコフ賞を受賞した東京大学名誉教授 光岡知足博士がその授賞金を全額JIDFに寄贈されたお金を基金として設立したものであり、2012年度までに5名の方々に授与している。

3.ワールド・デイリー・サミット2013

1)目的と使命

 国際化が進む中で、我国の酪農・乳業が広く日本国民の生存の在り方に係わっていることの認識に立脚するとき、これからの酪農・乳業は、食料需給、飼料、環境、エネルギー、家畜の疾病予防と家畜福祉などの諸問題について国際社会と協調していかなくてはならない。JIDFがホスト国になりIDFワールド・デイリー・サミット2013を開催し、我国のみならず、同じ課題を抱える世界の国々の人達とそれぞれの産業技術やシーズ研究の成果を発表し、話合うことは諸課題の解決の上で極めて重要である。世界中から関係者が横浜に集い、日本はもとより多くの国々における酪農・乳業界に活力が生まれる結果を導き出すことを最大の目的としている。とりわけ、我国が2011年3月11日に蒙った東日本大震災で罹災された人々はもとより、日本人の多くが強く感じた心の痛手と失速力を回復させる上でこのサミットが大きな力を与えてくれることを願い、また同時に世界各国から寄せられた尊い支援に対し報恩の証としてこのサミットを捉えたいとする関係者も多い。この意味からも今年開催される横浜サミットの意義は極めて大きい。

2)開催に至る経緯

 日本がIDFに加盟して以来、前記したように過去2回にわたりIDFワールド・デイリー・サミットを開催し、IDFの一員である確固たる地位を国内外に築き上げてきた。さらに、2004年に(財)日本乳業技術協会の中に独立した委員会としてJIDFが誕生して以来、その活動は一層活発になり、多くの日本人関係者がIDFワールド・デイリー・サミットに参加し、また講演等の機会が多くなったことに加え、IDF本部ならびに各国の関係者との人的交流が以前にも増して活発になってきた。

 さらに、2006年には学術上の優れた業績を通じて世界の酪農乳業の発展及びIDF事業に貢献した人に対して授けられるIDF賞を上野川修一博士(東京大学名誉教授)が授賞し、アジアから初めての受賞者となった。また、前記したように2007年には腸内細菌に関して最も優れた研究業績を挙げた科学者に授与されるIDFメチニコフ賞が光岡知足博士(東京大学名誉教授)に授与された。これらの慶事はJIDFの活動の中でも最も輝かしい実績であり、各国に強い印象を与え、JIDF会員からもさらなる発展を願い、IDFワールド・デイリー・サミットの開催を期待する機運が高まった。同時に、IDF事務総長からも日本でワールド・デイリー・サミットの開催について度々打診があり、JIDFとして真剣に検討するに至った。結論として2009年にベルリンで開催されたIDF総会で2013年に横浜で開催することが正式に決定された。

3)サミット内容の概要

 IDFワールド・デイリー・サミット2013は今年10月28日(月)〜11月1日(金)の5日間、パシフィコ横浜及びパンパシフィック横浜ベイホテル東急(共に、横浜市西区みなとみらい)でJIDFとIDFが共催のかたちで開催する。後援は厚生労働省、農林水産省、独立行政法人農畜産業振興機構、ならびに横浜市となっており、現在開催に向けて諸準備がなされている。
サミット会場

 横浜サミットのロゴマークは図3に示すとおりであり、デザイナー今西和政氏により制作されたものである。開催準備には大会組織委員会(委員長 田中要 株式会社明治顧問)が当たり、準備の具体的な作業を進めるために三つの小委員会(企画小委員会、財務・広報小委員会、プログラム小委員会)が大会組織委員会の中に設置されている。 今回開かれるサミットのテーマは“Rediscovering Milk”であり、日本語による惹句は《牛乳の再認識―母なる大地の贈り物―》となっている。

 世界の酪農・乳業のトップリーダーによるリーダーズフォーラムを始め、酪農政策・経済、酪農科学、子供とミルク、農場管理、環境対策、家畜の健康、栄養・健康、マーケティング、食品安全の分野における講演、ポスター発表さらにはツアー、展示など多彩なプログラム構成になっている(表1)。
図3 IDFワールド・デイリー・サミット2013の
    ロゴマーク
表1 サミット日程の概要
 世界の酪農・乳業の祭典でもあるIDFワールド・デイリー・サミット2013の詳細とサミットへの参加の仕方については、同サミットのホームページ(http://www.WDS2013.com)に掲載しているので是非ご覧戴きたい。

(プロフィール)
細野 明義(ほその あきよし)

 東北大学農学部卒業、同大学院(前期)修了。信州大学助手、助教授を経て、1985年に教授。この間、カナダNRC博士研究員としてカナダ農務省食料科学研究所に留学。JICA長期派遣専門家としてインドネシア国ボゴール農科大学での教育に従事。1989-1997年信州大学農学部長。1997-1999年信州大学共通教育センター長。2001年より日本乳業技術協会常務理事。2004年より国際酪農連盟日本国内委員会常任幹事。信州大学名誉教授。1999年日本農学賞受賞。

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