調査・報告  畜産の情報 2013年8月号

養豚経営体における飼料用米活用に
係る取り組みについて

畜産経営対策部 養豚経営課



【要約】

 わが国の養豚経営は、利用する配合飼料の原料の大半を輸入に依存しているため、海外穀物相場の高騰によって受ける影響が大きい。このため、飼料自給率を向上させるとともに、地域農業の維持発展にも寄与する飼料原料として、飼料用米が注目されている。
 養豚経営課では、飼料用米を活用する有限会社ビクトワール、株式会社フリーデン大東だいとう農場、有限会社ポークランド、菖蒲谷しょうぶだに牧場の4事例について調査を行い、それらの特徴を分析した。飼料用米を利用したことによる効果として、稲作経営のモチベーション向上や地域農業の活性化が共通してみられた。また、取り組みを拡大させるためには、流通、保管体制の整備や飼料用米利用のインセンティブの付与、耕畜の連携強化、小売業者と消費者の理解醸成などが必要である点が明らかとなった。

1.はじめに

 全国の耕地面積の半分以上を水田が占めるわが国の農業にとって、一見、水田で飼料を生産することが飼料自給率向上への近道のように思われる。しかし、水田の主要作物である食用米と輸入トウモロコシの価格には約5倍の開きがある上に、そのまま飼料として用いることは不可能である。そのため、これまで飼料生産としての水田利用は、子実と茎葉を一緒に用いる稲発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)生産や水田放牧としての利用などに限られていた。

 こうした中、国産飼料の増産を図るさまざまな取り組みが実施されているが、昨今大きな注目を集めているのが、飼料用米の活用である。

 本稿では、飼料用米生産の取り組み、飼料用米を給与した肉豚生産および豚肉販売の状況について事例調査を行い、地域農業への貢献、今後の取り組み拡大のポイントなどについて、概要を取りまとめた。

2.飼料用米生産の概要

 各調査事例の取り組み内容を紹介する前に、飼料用米生産の概要について整理しておく。

(1)拡大する飼料用米生産

 飼料用米は、多くの場合、生産調整が行われている水田を利用して生産される。生産調整を行いつつ、水田本来の作物である稲を栽培できることが、麦・大豆などの畑作物による転作と大きく異なっており、作付けメリットとして、(1)既存の稲作体系と同様の農機具を利用できるため、新たな投資が不要、(2)畑作物の連作障害を回避できる、(3)食味や玄米品質が重視されないことから排水不良田や未整備水田を利用できる、などが挙げられる。

 飼料用米の作付面積は、近年急速に拡大している(表1)。平成16年頃は、一部の高付加価値的な取り組みにとどまっていたが、ここ数年、国際穀物価格の高騰による輸入トウモロコシとの価格差の減少、国による支援の充実などにより、作付面積が急拡大している。特に、22年は前年の3.6倍、23年は同2.3倍と、作付面積が拡大している。
表1 飼料用米の作付面積

資料:16年度の数値は農林水産省「米粉用米・飼料用米の生産をめぐる状況(平成22年3月)」
     17年度以降の数値は、農林水産省「飼料をめぐる情勢(平成25年6月)」

(2)飼料用米生産に対する支援

 飼料用米生産の取り組みに対する支援としては、平成22年度から「水田利活用自給力向上事業」が実施され、これにより、飼料用米を生産する稲作経営に対し、国から10アール当たり8万円が交付される。さらに、飼料用米の稲わら利用など耕畜連携に取り組むことで、同1万3000円が追加交付された。これらの支援は稲作経営に向けたもので、需要者である畜産経営と出荷・販売契約を締結し、飼料用米として出荷・販売することが要件となっている。

 なお、25年度から上述の交付金はいずれも、経営所得安定対策のうち「水田活用の直接支払交付金」となり、これまでと同額が支払われる。

(3)飼料用米の利用の流れ

 生産された飼料用米は、翌収穫時まで長期保管できるよう、水分率を15パーセント以下に調整され、カントリーエレベーターなどで貯蔵される(図1)。乾燥調製は、保管場所に集めてから乾燥機にかける方法の他、燃料費節約のため、ある程度ほ場において立毛乾燥させる方法がある。

 乾燥調製された飼料用米は、随時飼料工場へ運ばれ、飼料に配合される。配合においては、豚の消化速度を考慮し、未消化分を極力出さないよう、破砕処理などの加工が行われる。大規模養豚経営などでは、飼料会社を経由して配合飼料を購入するケースが多く見られるが、一部の中小規模経営においては、飼料会社を経由せず、自家で破砕するなどして、経営内で加工・調製するケースも見られる。

 豚への飼料用米の給与は、後述するように養豚経営体により給与期間、配合割合はさまざまであるが、肥育後期に、配合割合5〜15パーセント前後のものを給与する取り組みが標準的である。飼料用米を給与された豚は、銘柄豚などとして市場に流通し、消費者の元へと届けられる。
図1 飼料用米を活用した肉豚生産のフロー図

資料:聞き取りをもとに機構作成

3.調査地における飼料用米活用の取り組み

 養豚経営体を中心として飼料用米を活用している取り組みとして、有限会社ビクトワール(北海道美瑛町、以下、ビクトワール)、株式会社フリーデン大東だいとう 農場(岩手県一関市、以下、フリーデン)、有限会社ポークランド(秋田県小坂町、以下、ポークランド)、 菖蒲谷しょうぶだに牧場(岐阜県、揖斐川いびがわ町)を調査した(調査時期:平成24年11〜12月)。飼料用米活用の取り組み主体の概要は以下のとおりである。

(1)ビクトワールは、コープさっぽろが取り組む飼料用米活用プロジェクトにおける養豚部門担当
 として、飼料用米を給与した豚肉生産を行っている。両者は従前より産直豚肉の取引を行って
 いたが、その品質をさらに高める形で取り組んでいる。
図2 有限会社ビクトワールの取り組み主体の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成
(2)フリーデンは、養豚における飼料用米活用の先駆的事例の一つといえる。岩手県一関市にある
 大東農場において、地域農業活性化を目的として協議会を設立し、地元の米を利用して豚肉を
 生産している。
図3 株式会社フリーデンの取り組み主体の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成
(3)ポークランドは、フリーデン同様、地域貢献や地域循環を経営理念に掲げ、地元鹿角産の米を
 使用することに強いこだわりを持っており、生活協同組合(生協)のパルシステムと連携して豚肉を
 販売している。
図4 有限会社ポークランドの取り組み主体の概要

資料:聞き取りをもとに機構作成
(4)菖蒲谷牧場では、完全な国産(県産)飼料の製造を目標として、自身または近隣地域で生産され
 た米を調達し、自家配合飼料の原料の一つとして飼料用米を利用している。
図5 菖蒲谷牧場の取り組み主体の概要


資料:聞き取りをもとに機構作成

4.調査地における飼料用米の生産・流通

(1)作付け品種の違い

 調査地では、多収の専用品種を作付けしている事例と、食用米品種を作付けしている事例があり、地域の事情により品種の選び方が異なっている。

ア.専用品種を選択した事例

 専用品種を作付けしている事例はフリーデン、ポークランド、菖蒲谷牧場である。専用品種が選択された主な理由は、食用米に比べて耐倒伏性があり多収であることと、食用への転用を防止するためであった。稲作経営にとって、飼料用米の販売価格は食用米に比べて安価であるため、いかにして生産コストを抑え、かつ収量を向上させるかが所得向上のポイントとなり、地域の気候などに適した品種を選定することが非常に重要である。

 フリーデンとポークランドでは、共に東北向け専用品種の「ふくひびき」を中心に作付けしており、菖蒲谷牧場では「モミロマン」を作付けしている。

東北地方向け専用品種「ふくひびき」
食用米と比較して耐倒伏性に優れている
イ.食用米品種を選択した事例

 これに対し、ビクトワールとコープさっぽろの取り組みでは、収穫などの段階において食用米に飼料用米品種が混入することを防止するため、食用品種である「ほしのゆめ」や「ななつぼし」などを飼料用として作付けしている。加えて、既存の専用品種では北海道の気候に適さず成育が悪いため、道内栽培に適した食用品種を作付けしているという実情もある。

(2)作付面積の推移

 調査地における飼料用米の作付面積は、国からの交付金による効果もあり、いずれもここ数年増加しているが、今後の作付面積については頭打ちの気配がある。

 その要因としては、現時点での未利用地は、飼料用米の作付けが難しい条件不利地や、荒廃が進み原状復帰が困難な耕作放棄地であるため、作付面積の拡大に限界が生じつつある点が大きい。ただし、菖蒲谷牧場のように、飼料用米の保管庫を増やすことにより作付面積の増加を検討しているところもある。
表2 飼料用米の作付状況


資料:聞き取りをもとに機構作成
  注:ポークランド欄の作付面積については、JAかづの管内全体で生産された面積

(3)飼料用米の流通と利用

 稲作経営から養豚経営体に至るまでの飼料用米の一般的な流通経路は、前述のとおりであるが、今回の調査事例においても、各経営での給与飼料は、飼料用米を配合した購入飼料が3事例で、自ら単味飼料を攪拌機などで混合して自家配合飼料を製造する経営体は、菖蒲谷牧場のみであった。

 飼料用米の販売価格は、事例により差が出ているが、輸送・調製保管コストを稲作経営側が負担している場合は、コストに見合うよう販売価格を設定しており、平均的な稲作経営の手取りは飼料用米1キログラム当たり10〜20円程度と推測される。

 収穫した籾の調製保管は、カントリーエレベーターなどの保管庫で行われる。飼料用米を生産することで、既存倉庫の稼働率が向上する場合もあるが、通常、食用米の保管が優先されるため、別途飼料用米用の倉庫を借りなくてはならず、食用米よりコストがかかる事例も見受けられた。

 また、菖蒲谷牧場では、経営者自身も稲作を行っており、収穫作業や保管庫への搬送などの作業を稲作経営から請け負い、連携関係を構築することで、安定的な供給を得られている。
フリーデン大東農場の飼料サイロ、
飼料米飼料の文字が記載されている
菖蒲谷牧場における飼料用米の収穫

5.飼料用米を給与した豚肉の生産

(1)米を5〜15パーセント配合した飼料を肥育後期に給与

 飼料用米を肉豚に給与するに当たり、その給与割合と給与期間がポイントとなる。

 給与割合は5〜15パーセントの事例がほとんどだが、ポークランドでは、10パーセントを基本としつつも、一部で28パーセントまで給与割合を上げて生産を行っている。さらに、菖蒲谷牧場では、豚の嗜好や肉質への影響を考慮しつつ年々割合を上げていき、現在は60パーセントと高くなっている(表3)。
表3 飼料用米の給与割合と給与期間など


資料:聞き取りをもとに機構作成
 給与期間は、肥育後期に該当する120日齢から給与を始める事例が多い。豚を出荷するタイミングがおおむね180日齢なので、約60日間、飼料用米が配合された飼料を給与することになる。

 1頭の豚が出荷されるまでの約6カ月の間にどのくらいの米を採食したかを表す、1頭当たり飼料用米給与量は、給与割合と給与期間によって決まる。最も給与量が多かったのは菖蒲谷牧場で、1頭当たり約150キログラムという結果であった。

 給与割合や給与期間は事例によってさまざまであるが、それらをどの程度に設定するかは、給与割合と仕上がり肉質との相関関係を示す試験結果や、生産コストを基に決めているところが多い。フリーデンやポークランドでは、小売りサイドなどと連携して、給与割合や給与期間に基づく、食味試験を実施し、現在の配合割合に至っている。

 また、飼料用米は、飼料原料の一つであるトウモロコシの代替として利用されることが多く、国際穀物相場や飼料用米配合飼料の製造コストなどを踏まえて、その配合割合や給与期間が判断されている。
飼料用米を含む配合飼料

(2)豚の嗜好性や管理方法に大きな変化はない

 豚の飼料用米の嗜好性については、給与割合にかかわらずおおむね良好、または変化なし、との声が聞かれた。飼養管理方法についても、通常の配合飼料を与える場合に比べて大きな変化は見られないとのことであった。飼料用米は、玄米を粉砕して配合されているが、ポークランドは粉砕した原料に熱を加えてペレット状にすることで、消化不良への対策をとっている。加工分のコストは増加するものの、消化および増体が良くなるなどの肥育成績が向上しているとのことであった。

(3)オレイン酸の増加とリノール酸の減少

 飼料用米を給与することによる肉質の変化については、ほとんどの事例で「脂身が白くなる」との回答があり、フリーデン、菖蒲谷牧場では、「食味がさっぱりとして良い」といった声も聞かれた。

 オレイン酸の増加およびリノール酸の減少が肉質に与える影響については研究段階であるが、オレイン酸は旨みと関係しているとも言われている。オレイン酸と旨みとの関係が明らかになれば、飼料用米の給与により豚肉の旨みが増すといったことにもつながり、飼料用米給与へのインセンティブがさらに働くと考えられる。

6.飼料用米を給与した豚肉の販売と消費者の反応

(1)飼料用米を給与した豚肉の販路

 飼料用米を給与した豚肉(以下、飼料米豚肉)の販売ルートは、生協経由(生協)、独自に開拓した販路(独自)の大きく2種類に分類できる(表4)。
表4 飼料米豚肉の販売先


資料:聞き取りをもとに機構作成
ア.生協販路

 生協販路の事例のうち、ビクトワール、ポークランドは、以前から生協との産直取引があり、新たな試みとして、飼料用米を給与した豚の生産を開始した事例である。生協の組合員には食料自給率や国産農産物に関心を示す消費者も多く、取り組みの意義についても理解を得やすいといえる。

 ビクトワールは、地産地消活動の一環で、平成13年頃からコープさっぽろから産直取引として、「美瑛豚」の生産を依頼された。その後、23年から飼料米豚肉「黄金そだちの美瑛豚」の生産に切り替え、現在は札幌市や旭川市を中心に道内17店舗で販売されている。

 ポークランドは、平成10年からパルシステムと産直豚肉の取引を行っていたが、飼料用米を利用することで食料自給率の向上や食の安全性をPRできるという同社とパルシステム両者の考えから飼料用米への取り組みを開始した。23年以降は、産直豚肉の全てを飼料米豚肉に切り替えた。

 パルシステムでは、飼料米豚肉を「日本のこめ豚」のブランドで販売しており、ポークランド生産の豚肉もその一つとして扱っている。さらに、23年からは飼料用米の配合割合を28パーセントに上げた豚肉を「秋田美豚」として、同社の直売所などで販売している。
コープさっぽろにおける「黄金そだちの美瑛豚」販売の様子
ポークランドの直売店で販売されている「秋田美豚」
イ.独自開拓販路

 フリーデンは、平成18年から関西圏で店舗展開しているエイチ・ツー・オー リテイリンググループの阪急オアシスなどで、「やまと豚米(まい)らぶ」を販売している。同社で取り扱うことになったきっかけは、飼料米豚肉の食味の良さや、飼料用米生産が循環型農業や休耕田の有効活用につながる、という点であった。

 平成18年当初、関西圏において飼料米豚肉を販売しているスーパーはほとんどなく、競合小売業者との商品差別化につながる、という意図もあった。

 菖蒲谷牧場は、一般の市場出荷に加えて、移動販売車による注文販売やJA直売所の他、道の駅でも豚肉や自家製加工品を販売している。地域の消費者を購買層の中心として獲得しており、地産地消の取り組みを実践している。また、消費者の要望に応じた部位の詰め合わせをするなどのサービスも行っており、一定の固定客をつかんでいる。

(2)飼料米豚肉の販売戦略

 ビクトワールは、飼料米豚肉のうち、およそ4割を「黄金そだちの美瑛豚」として販売し、残り6割は産直豚や一般豚として販売される(表5)。これらの割合は、コープさっぽろの需要量で決められるが、「黄金そだちの美瑛豚」として出荷できない肉豚は、他の一般的な豚肉と区別されずに販売されるため、プレミアムを付加することができていない。なお、「黄金そだちの美瑛豚」は、コープさっぽろで販売される他の国産豚肉と比較して1割程度高い販売価格が設定されている。

 フリーデンは、大東農場で生産した肉豚の7割を、飼料米豚肉「やまと豚米らぶ」として販売しているケースである。豚肉を販売する阪急オアシスの売場では、同社が発行する販売指定店証明書の掲示や取り組み紹介パネルの設置に加えて、飼料用米ほ場の映像を放映するなどして、飼料米豚肉である旨を全面的にPRしている。販売価格は、一般的な豚肉より高く設定されており、一般豚の国産ロースの販売価格が100グラム当たり264円、バラが188円であるのに対し、「やまと豚米らぶ」は338 円、バラが258円となっている注1。売り場の担当者によると、こうした価格設定を可能にしているのは、阪急オアシスの元々の購買ターゲットである50〜60代を中心とした固定客と、「やまと豚米らぶ」の購買層が合致しているためとのことであった。なお、残りの3割は同社の銘柄豚「やまと豚」として販売されているという。

「やまと豚米らぶ」販売の様子。
阪急オアシス店頭では販売指定店証明書も展示

 ポークランドの「日本のこめ豚」を販売するパルシステムは、同社のホームページで飼料米豚肉として紹介しており、一般の豚肉より高値で販売しているが、その販売量は年間契約で3万頭程度と決めている。それ以外の飼料米豚肉については、「桃豚」というポークランド独自ブランドで販売され、プレミアムは付加されていない。

 菖蒲谷牧場の自家販売やJA直売所などでの販売については、飼料米豚肉として販売されるが、その量は全体出荷量の20パーセントにとどまっている。残りの肉豚は市場出荷され、一般豚の扱いとなる。JA直売所での販売価格は、ロース(しゃぶしゃぶ用)が100グラム当たり240円、バラ(スライス)が192円となっている注2。なお、自家販売は、現在の取扱量が精一杯という状況である。

 このように、いずれの事例も販売先との契約や米産地指定の困難さ、需要量の限界などの要因により、飼料米豚肉を販売する上で制約が生じており、飼料米豚肉の販路をいかにして確保するかが、今後の展開の鍵を握っている。

注1:平成24年12月18日時点の阪急オアシス販売価格
注2:平成24年12月7日時点のJA直売所販売価格
表5 各経営体の出荷頭数と飼料用米を給与した頭数など(平成23年度)


資料:聞き取りをもとに機構作成
注 1:頭数は概数
  2:フリーデンの数値は大東農場分

7.まとめ

(1)地域農業への効果

 調査結果から、飼料用米の活用が地域農業の維持発展にどのような効果を与えているかを考察した。

ア.稲作経営のモチベーション向上


 第一に、飼料用米の作付が稲作経営の水田利用に対するモチベーションを高めており、地域の休耕田の解消につながっている。これまで「調整水田」、「休耕田」とされていた水田に再び作付けが行われるようになり、本来の水田機能を取り戻した。

 作付けが増加したことで、作付け可能な水田はほとんど利用済である旨の回答が多く、今後は作付面積の伸び率の鈍化が懸念されるものの、水田利用率の向上に飼料用米活用が果たした役割は大きいといえる。

イ.地域農業活性化

 第二に、産業としての地域農業の活性化に貢献している点である。今回の事例に見られるように、飼料用米の産地を指定することで、特定の地域に対する農業維持発展の意味合いが強まることとなる。

 交付金は稲作経営に支払われるため、養豚経営体にとっては、飼料用米の給与を開始して直ちに所得が向上するものではない。消費者へのPRや理解醸成、小売や稲作経営などとの連携といったことを、時間をかけて実施して初めて、その成果として販売価格への付加価値の上乗せが可能となる。

 すなわち、ただ単に所得向上の手段として飼料用米給与を検討するのは得策ではない。地域農業全体への貢献を視野に入れ、取り組みに関わる全ての者が、地域の農業や水田などを守っていくという意識を持ってこそ達成できるのである。

(2)取り組みを拡大させていくには

 新たに飼料用米の生産と活用に取り組む際、あるいは既に取んでいる経営体がさらなる拡大を図る際に、参考となるポイントを挙げてみる。

ア.飼料用米の流通・保管体制の整備

 まず、飼料用米の流通・保管体制の整備およびコストの低減である。食用米と飼料用米の販売価格には5倍以上の開きがある注3ものの、栽培管理方法に特段の違いがあるわけではない。

 一方で、飼料用米の急激な生産量増大に対して、流通・保管の体制整備が追い付いていない部分がある。既存のカントリーエレベーターは食用米の保管だけで満杯であり、飼料用米用に別途保管庫を用意する必要があるなど、流通体制整備には改善の余地がある。

注3:23年産の米価は東日本大震災の影響を受けているため22年産の価格を使用して比較

イ.飼料用米利用インセンティブの強化

 第二に、養豚経営体に対する飼料用米利用インセンティブの強化である。飼料用米生産を行う稲作経営に対しては、国から10アール当たり8万円の交付金などが支払われることから、一定の所得計算が可能だが、養豚経営体がインセンティブを得るには、以下のいずれかの方法が考えられる。

 (1)飼料用米を含む配合飼料価格を一般の配合飼料と同等価格で仕入れて、飼料用米給与というプレミアムを付けて販売する、(2)飼料用米配合のコスト上昇分を肉豚販売価格へ転嫁する、の2方法である。

 養豚経営体にとってベストな選択は(1)の方法にように一見思われるが、飼料を「安く買う」ためには、稲作経営への交付金の支払いが現状では必要条件となる。稲作農家との関係を考慮し、取り組みを持続させるには、消費者に高価格で販売することへの理解を求めて、(2)の方法を取ることが最も望ましい。

ウ.稲作経営と養豚経営体双方が納得する関係構築


 第三に、稲作経営と養豚経営体との連携強化である。これは前述と重複する部分もあるが、耕畜双方が納得する価格で取引が行われることが最も望ましい。そのための方法として、一つは、生産者以外に行政や研究機関なども構成メンバーに入れた協議会を設立する方法が挙げられる。もう一つは、両者の歩み寄りのために、第三者的な立場のコーディネーターを間に入れる方法がある。前者については、フリーデンが行政、大学などと「飼料用米生産プロジェクト委員会」を設立し、稲作経営が再生産可能な飼料用米購入価格を設定している。コープさっぽろも飼料用米活用プロジェクトを立ち上げ、生産者と消費者双方の意見を取り入れている。後者については、ポークランドとJAかづのの関係のように、JAが飼料用米生産と養豚双方の支援に当たり、飼料用米の需給や要望の調整を行っている。1つのJA組織が行っているため、伝達もスムーズである。

 また、菖蒲谷牧場が実践している直接稲作経営と連携を図る方法は、コーディネーターを介さずに生産者同士が直接的に関係を構築しているケースであるが、養豚経営体の稲作用機械保有などの条件があり、どの経営体でも実行可能なものではない。しかし、自家配合施設を既に整備している経営体も多く存在することから、JAやコーディネーターの協力を得て、飼料用米供給元である稲作経営をうまく見つけることができれば、取り組みの実現可能性は大きく向上する。

エ.豚肉の販路拡大と理解醸成

 飼料用米を給与した豚肉の販路確保については、小売、ひいては消費者の理解をいかに醸成するかがポイントとなる。今回の紹介事例のように、生産段階だけではなく、小売サイドと強い協力体制を敷くことができれば、飼料用米の活用に向けより良い環境が整う。つまり、稲作・養豚の双方で飼料用米生産・活用の将来的な必要性を見出すことができる。実際、フリーデンの取り組みでは、経営所得安定対策の交付金制度がなくなった場合の買取価格も設定済みである。

 また、生協組織と連携することで、生協がかねてより培かってきた組合員(消費者)へのPRが可能である。飼料用米活用の取り組みへの理解も早く、安定した販売量の確保や付加価値の追加も行いやすい。

 今後、飼料用米活用に取り組まれるそれぞれの経営体においては、異なる課題があり状況に応じた解決策の考案が必要であるが、国産の飼料用米の利活用により、自給率の向上および地域農業の発展などに資するためにも取り組みのさらなる広がりを期待したい。

 本稿において、事例として紹介させていただいた各養豚経営体の方々はもとより、お忙しい中本調査に御協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。

参考資料

1.(独)農業・食品産業技術総合研究機構,「飼料用米の生産・給与技術マニュアル<2011年度版>」

2.熊谷宏・大谷忠『飼料用米の生産と豚肉質の向上』農林当家出版、2009年

3.小沢亙・吉田宣夫『飼料用米の栽培・利用』創森社、2009年

4.農林水産省「飼料月報(平成22年度)」「米穀の取引に関する報告(平成22年産)」
 
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