話題  畜産の情報 2013年8月号

OIEによる我が国の
「無視できるBSEリスク」の
国のステータスの認定について

農林水産省消費・安全局動物衛生課国際衛生対策室 
課長補佐(国際衛生企画班担当) 古田 暁人


 本年5月に開催された国際獣疫事務局(OIE)(注)総会において、我が国は、国際的なBSEの安全性格付け(BSEステータス)の最上位である「無視できるBSEリスク」の国に認定された。本稿では、これまで我が国が実施してきたBSE対策とOIEによるステータス認定の概要について紹介する。

(注)20世紀初頭の牛疫の世界的な広がりを背景として、1924年に28カ国の署名を得
   て発足した、世界の動物衛生の向上を目的とした国際機関。本部はフランス・
   パリで、178カ国・地域が加盟(平成25年5月現在)。

我が国が取り組んできたBSE対策について

 牛海綿状脳症(BSE)は、1986年に英国で初めて確認され、その後、英国での発生が急増し、1990年代には他の欧州各国に広がっている。BSEが牛の間で広まったのは、BSE感染牛を原料とした肉骨粉等を飼料としたことが原因とされているが、肉骨粉等の飼料利用の禁止等の対策を講じた結果、近年、世界での発生は大幅に減少している。

 我が国においても、2001年9月に初めて本病の発生が確認されたことから各種のBSE対策の強化を行ってきた。

 2001年10月から、と畜場でのすべての牛へのBSE検査の導入、特定危険部位(SRM:頭部(舌及び頬肉を除く。)、せき髄及び回腸遠位部)の除去・焼却(2004年2月からせき柱の食品への使用及び2004年6月から飼料用油脂原料としての使用を禁止)、肉骨粉を含む家畜用飼料の製造、販売および家畜への給与を法的に禁止した。

 2002年6月、BSE対策特別措置法が公布され、24カ月齢以上の死亡牛の届出を義務付け、死亡牛のBSE検査を2003年4月から開始(2004年4月から完全実施)した。

 2003年5月には、食品安全基本法が制定され、同年7月、食品安全のリスク評価を行う食品安全委員会が設置された。2004年9月、食品安全委員会において、BSEの評価・検証を行った報告書がまとめられたことを受け、同年10月、厚生労働省および農林水産省はと畜場でのBSE検査の見直し、飼料規制の強化等について諮問を行った。食品安全委員会の答申を受け、2005年8月、と畜場の検査月齢を全月齢から21カ月齢以上に改正(ただし、地方自治体は自主的な対応により全頭検査を継続)した。また、飼料の輸入および販売の届出義務の対象を拡大し、さらに牛用とその他家畜用飼料の製造段階での分離の義務化など飼料に関する規制を一層強化した。

 2011年12月、厚生労働省はBSE対策を開始して10年が経過したことから国内の検査体制や輸入条件等の対策全般について、最新の科学的知見に基づく見直しを行うこととし、食品安全委員会に評価を依頼し、2012年10月、食品安全委員会は厚生労働省に対し一次答申を行った。これを受け厚生労働省は、米国、カナダ、フランス、オランダ産牛肉等の輸入条件を2013年2月から見直し、国内におけるBSE検査月齢等を同年4月から見直した。さらに、同年5月の食品安全委員会による二次答申を受け、厚生労働省は、国内における検査月齢を同年7月から48カ月齢超へと見直した(地方自治体が独自に行っていた全頭検査も廃止)。

図1 BSEの発生サイクルの遮断
 これらの対策を講じてきた結果、出生年月で見た場合、飼料規制の実施直後の2002年1月に生まれた牛を最後にBSEの発生は確認されていない。

OIEによるステータス認定について

 OIEでは、加盟国からの申請に応じ、特定疾病のステータスの公式認定を行っており、BSEについては、「無視できるBSEリスク」の国、「管理されたBSEリスク」の国、「不明なBSEリスク」の国の3段階に分類している。

 「無視できるBSEリスク」の国の主な認定要件は、過去11年以内に自国内で生まれた牛でBSEの発生がないこと、有効な飼料規制(反すう動物由来の肉骨粉等が反すう動物に給与されない)が8年以上実施されていること、有効なサーベイランスが実施されていることとされている。我が国のBSE感染牛のうち、最後に生まれた牛は、2002年1月13日生まれであり、2013年1月14日に11年が経過していること、2001年10月の法に基づく飼料規制の開始から起算して、2009年10月に8年が経過していること、と畜場での健康牛および農場での死亡牛等に対するBSE検査を行っており有効なサーベイランスが実施されていることから、2013年2月には「無視できるBSEリスク」の国の認定要件を満たすこととなった。

 このため2012年9月、我が国は、OIEに認定申請を行い、2012年11月のアドホック・グループ、2013年2月の科学委員会の審議において、我が国が要件を満たしている旨の評価を得た。この評価を受け、本年5月26日から31日に開催された第81回OIE総会において、我が国が「無視できるBSEリスク」の国に認定された。

2013年5月のOIE総会でステータス認定書を受領する日本代表団。
左から、ヴァラOIE事務局長、シュヴァベンバウワーOIE総会議長、
川島動物衛生課長(首席獣医官)

 「無視できるBSEリスク」の国のステータス維持のためには、飼料規制および一定水準のサーベイランスを継続する必要があるが、我が国における死亡牛のBSE検査のあり方については、今般の認定を受け、具体的な検討を進めることとし、2013年度のレギュラトリー・サイエンス事業において、検討に必要となるこれまで蓄積された検査データの解析、新たな検査計画のシミュレーションを開始することにしている。

 今般の認定は、生産者の方々を始め、獣医師、レンダリング業界、飼料業界、と畜場、食肉加工業界、地方行政機関等、これまで長期間にわたり、我が国の厳格なBSE対策を支えてきたすべての関係者の不断の努力の成果であると考えている。

 また、我が国のBSE対策が国際的にも高く評価されたということでもあり、輸出協議を進める上での追い風となり、「攻めの農林水産業」の実現につながることが期待される。

 OIEへの申請書類も含め、我が国のBSEステータス認定に関する情報は、農林水産省の以下のウェブサイトに掲載されている。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/bse/b_status/index.html


(プロフィール)
古田 暁人(ふるた あきひと)

 1970年生まれ。1996年大阪府立大学農学部獣医学科卒業後、農林水産省入省。在ニュージーランド日本大使館書記官を経て2013年4月から現職。

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