【要約】
日本とEUは2013年2月、両国・地域にとって10年ぶりとなる牛肉の輸出入の解禁を発表した。景気の後退などにより牛肉消費が伸び悩む中で、新たな輸出市場の拡大が期待されるところであり、生産者を含め食肉関連業界にとっては、このチャンスを十分に生かしていくことが求められている。EUの主要牛肉生産国のフランスの状況を取り混ぜながら、EUの牛肉生産の概要などを報告する。
はじめに
2013年2月1日、日本とEUは10年ぶりとなる牛肉の輸出入の解禁を発表した。今回、EU加盟国の中で日本への牛肉輸出が解禁されたのは、フランスとオランダであり、フランスは「30カ月齢以下」、オランダは「12カ月齢以下」牛から産出されたものがそれぞれ対象となる。EUから日本への牛肉輸出は、BSE(牛海綿状脳症)の発生・拡大を期に2000年(平成12年)から禁止、また、日本からEUへの牛肉輸出も日本のBSEの発生により2001年(平成13年)から禁止されていた。
EUは、加盟28カ国で5億人を抱える巨大な市場であり、経済力も高いことから、日本産牛肉の魅力的な輸出市場となる可能性を秘めた地域の一つである。
一方、EUでは、牛肉は基本的に需給均衡型の産品とみられていたが、2008年のリーマンショックを契機とした景気後退により、フランスやドイツなどの主要牛肉生産国を中心に牛肉消費が伸び悩み、特にフランスでは、若年層を中心に牛肉離れが進んでいる。このため、域内の需給バランスが崩れつつあることから、日本向け牛肉輸出の解禁を足がかりに、輸出を拡大したいとの意向がある。
このような状況を踏まえ、前半は「EU・フランスの牛肉生産概況」、後半は「フランスの対日輸出に向けた取り組みおよび日本産牛肉の捉え方」について、現地の食肉関係者の話などを交えながら取りまとめた。
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肉牛の放牧風景:フランス北西部 |
1.EUの牛肉生産概況
(1)生産動向
現在、EUの加盟国は、今年7月に新たに加盟国となったクロアチアを加え28カ国であるが、牛肉の生産は加盟国により状況が大きく異なる。2012年の牛の飼養頭数をみると、EU全体で8710万1500頭であり、うち最も多いのはフランス(1905万2000頭)で、次いでドイツ(1250万8000頭)、英国(972万6000頭)、アイルランド(625万3200頭)、イタリア(609万1500頭)と続き、この5カ国でEU全体の牛肉生産のおよそ6割を占めている(表1)。また、多種多様な気候や文化を反映して数多くの品種が飼育されているが、代表的なものとしては、アイルランドで生産されるアイリッシュビーフ、英国のスコットランドで生産されるスコティッシュビーフ、フランスのシャロル地方原産のシャロレー種などが、高級牛肉として位置づけられている。なお、牛の飼育頭数を5年前(2007年)と比較すると、EU全体で3.1パーセント減となり、特に主要生産国のイタリアでは7.4パーセントとかなりの減少となっている。主な要因としては、酪農部門からの供給頭数の減少(乳牛の泌乳量増加に伴う飼育頭数の減少)、また、景気の低迷により食肉の消費が安価な豚肉、鶏肉へ移行していることなどが挙げられる。
表1 EUの牛飼養頭数 |
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資料:Eurostat
注:クロアチアは、7月1日よりEUに加盟。
2012年は概算値 |
2012年のと畜頭数(子牛を含む。以下同じ。)は、EU全体で2736万6000頭となった。最も多いのはフランス(495万1000頭)で、ドイツ(365万5000頭)、イタリア(352万9000頭)、英国(267万2000頭)、スペイン(230万9000頭)と続き、この5カ国でEU全体のと畜頭数のおよそ6割を占める(表2)。酪農が盛んなEUでは、雄を中心に乳用牛が重要な牛肉の供給源となっており、と畜頭数のおよそ30パーセントを乳用牛が占めている。
表2 EUの牛と畜頭数 |
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資料:ZMB
注:国内外のと畜頭数合計、2012年は概算値 |
2012年の牛肉生産量(子牛肉を含む。以下同じ。)は、EU全体で769万6000トンとなった。最も多いのはフランス(147万7000トン)で、ドイツ(114万5000トン)、イタリア(98万1000トン)、英国(88万3000トン)と続き、この4カ国でEU全体の牛肉生産量のおよそ6割を占める(表3)。
また、肉牛1頭当たりの平均と畜重量は約280キログラムと小柄であるが、フランスや英国では肥育期間が長い牛が好まれるのに対し、イタリアやスペインでは若齢牛を好む傾向が強いなど、各国で状況は異なる。また、子牛肉の消費も多いことから、これもと畜重量に反映されている。
表3 EUの牛肉生産量 |
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資料:ZMB
注:2012年は概算値 |
(2)消費動向
2012年のEUの牛肉の消費量(子牛肉を含む。以下同じ。)は、EU全体で774万4000トンとなった(表4)。これは5年前(2007年)と比べ8.4パーセント減少している。EUの1人当たり年間牛肉消費量も同様に10.5パーセント減となり、牛肉の消費量は減少傾向で推移している(表5)。EUでは、2000年にフランス、ドイツ、スペインなどでのBSE問題の拡大を期に、消費者の間で牛肉の安全性に対する疑念が広がり、2001年をピークに牛肉消費が激減した。しかし、その後の牛に対するトレーサビリティの法制化や牛肉生産に対する検査体制が確立されたことで、消費は再び増加に転じていたが、2008年の金融危機に端を発した景気後退により、再び減少に転じている。
なお、1人当たりの年間牛肉消費量は、加盟国により大きな差があり、最も多いのは、デンマーク(26.9キログラム)、次いでスウェーデン(25.4キログラム)、フランス(24.3キログラム)と続く。また、最も少ないのは、豚肉消費が多いハンガリー(2.8キログラム)である(参考:日本の1人当たり年間牛肉消費量は6.0キログラム)。
表4 EUの牛肉消費量 |
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資料:ZMB
注 1:2012年は概算値
2:消費量=食物消費+飼料+工業的利用+損失 |
表5 EUの1人当たり年間牛肉消費量 |
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資料:ZMB
注 1:2012年は概算値
2:消費量=食物消費+飼料+工業的利用+損失 |
(3)牛肉の輸入および輸出
EUの牛肉市場は、若干の域外輸出を伴う需給均衡型となっている。基本的には、フランスやドイツなどの主要国で生産された牛肉がイタリアや旧東欧諸国などの域内に向けられ、余剰分をロシアなどの域外に輸出するという構造である。また、高級部位などについては、南米など域外からも輸入している。
BSE問題の拡大以降、EUからの牛肉輸出は減少し輸入が増加する傾向にあったが、2010年には、為替相場が主要通貨に対してユーロ安で推移したため、輸出が大きく伸びたことで純輸出国となった(図1)。
図1 牛肉輸出入数量の推移 |
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資料:欧州委員会
注:2012年は概算値である。
生体牛含む。 |
2012年のEU域外への輸出量(子牛肉を含む。以下同じ。)は19万トンとなった(表6)。主な輸出先はロシア、クロアチア(クロアチアは2013年7月1日にEUに加盟)、スイスである。また、これら国々へは、主にポーランド、ドイツから輸出される。
2012年のEU域外からの牛肉輸入量(子牛肉を含む。以下同じ。)は17万6000トンとなった(表7)。主な輸入先は南米のブラジル、アルゼンチン、ウルグアイで、この3カ国でEU全体の牛肉輸入量の約7割を占める。また、近年、米国、ニュージーランド、豪州からも高級部位を中心に輸入が増加している。
表6 EUの牛肉輸出量 |
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資料:ZMB
注 1:2012年は概算値
2:製品重量ベース |
なお、EUは安全性などの観点から、成長ホルモンを使用している牛肉の輸入を禁止しているが、「高級牛肉無税枠(成長ホルモン未使用肉)」が拡大されたことで米国からの牛肉輸入量は増加となっている。
EU域外からの牛肉輸入量が多い国はイタリアやオランダであり、その数量は両国の国内消費量の10パーセント前後を占めている。一方、主要牛肉生産国であるフランスでは、この割合が0.4パーセント程度であり、加盟国によってその状況は異なる。
表7 EUの牛肉輸入量 |
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資料:ZMB
注 1:2012年は概算値
2:製品重量ベース |
(4)EU域内の貿易状況
2011年のEU域内の牛肉貿易状況をみると、輸出が多いのはオランダ(36万8000トン)、アイルランド(34万1000トン)、ドイツ(30万6000トン)、フランス(24万4000トン)である(表8)。一方、輸入量が多いのは、イタリア(38万8000トン)、フランス(27万トン)、ドイツ(26万7000トン)となっている。これら各国は、総じて、輸出国であり輸入国であるが、アイルランド、ベルギーは、生産に比べて消費人口が少ないことから輸出が多く、反対にイタリアやギリシャは輸入が多くなっている。
表8 EU域内の牛肉貿易状況 |
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資料:France AgriMer d'apres Douanes |
2011年のEU域内の生体牛(300キログラム以上)の貿易状況をみると、輸出が多いのはフランス(13万3000頭)、チェコ(4万8500頭)、アイルランド(3万4000頭)である(表9)。一方、輸入が多いのは、イタリア(13万1700頭)、オーストリア(6万8000頭)となっている。
表9 EU域内の生体牛貿易状況 |
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資料:France AgriMer d'apres Douanes |
生体牛の域内取引は、輸出国の主な輸出先が決まっており、フランスはイタリアへ、アイルランドは英国へ、チェコはオーストリアへと、それぞれの地理的条件が影響している(図2)。
図2 EUの生体牛取引の流れ |
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資料:聞き取りにより機構作成 |
2.フランスの牛肉生産概要
前述のとおりフランスは、EUの中でも牛肉生産、牛肉消費が多く、EUの牛肉市場の中で重要な地位を占めている。
(1)主な肉用牛
フランスの牛肉は、乳肉兼用種として牛乳生産と食肉生産の両方を担うホルスタインなどの乳用種と肉用牛の2つに分けられる。代表的な肉用種はシャロレー種、リムーザン種などであり、ホルスタインとこれら肉用牛を合わせると、フランスの牛肉生産の7割弱を占める。
品種別の飼養頭数をみると、乳用種のホルスタインが最も多く全体の32パーセント(245万6000頭)を占め、次いで肉用種のシャロレーが同20パーセント(158万9000頭)、リムーザン(106万3000頭)がこれに続く(表10)。また、2011年のと畜頭数をみると、乳牛が全体の49パーセント(195万7000頭)を占めており、牛肉生産の約半分は酪農部門からのものとなる(表11)。このため、生乳生産と牛肉生産は密接に関係しており、前述のとおり、近年の搾乳牛の泌乳量増加で乳牛の飼養頭数が減少していることから、牛肉生産に向けられる供給頭数も減少傾向にある。
表10 フランスの品種別牛飼養頭数
(2012年1月1日時点) |
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資料:Geb 「Chiffres cles 2012」 |
表11 フランスのと畜頭数 |
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資料:Geb 「Chiffres cles 2012」 |
(2)輸出の動向
2011年のフランスの牛肉および生体牛の輸出入状況をみると、ともに輸出が増加基調で推移している(表12)。なかでも生体牛の輸出は、2000年のフランスでのBSE問題の拡大で大きく減少したが、牛トレーサビリティの厳格化など安全面を強化したことで、BSE以前の水準にまで回復してきた。
表12 フランスの牛肉、生体牛の輸出入状況 |
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資料:Geb 「Chiffres cles 2012」 |
フランスでは、牛肉に対する消費者の嗜好の一つとして、健康、新鮮さをイメージする「赤色」を好む傾向が強いとされている。このため、一般的には肉色が淡いとされる若齢牛よりも一定の肥育期間を要した肉牛が好まれる。その結果、イギリス、ドイツなどからこれらの肉牛を輸入し、国内消費が少ない若齢牛などは、イタリア、スペインなどへ輸出される。
また、子牛肉も好まれているが、価格面から高級品として位置づけられている(図4)。例えばフランスでは、一般的な去勢牛が枝肉価格で100キログラム当たり410ユーロ(約5万3000円、1ユーロ=130円)前後で取引されているのに対し、子牛肉(8カ月齢以下でと畜されたもの)は同650ユーロ(約8万5000円)前後と約1.5倍の価格差がある(図5)。EUでは子牛肉に一定の需要があるが、近年は、脂肪分が少ないなど健康志向の影響で、その人気が高まっている。
図4 子牛肉および牛肉価格の推移(EU) |
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資料:欧州委員会
注:雄牛及び去勢牛はR2とR3グレードのEU加重平均 |
図5 加盟国別子牛価格の推移 |
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資料:欧州委員会 |
(3)対日牛肉輸出への取組み
2012年2月1日の日本向け牛肉輸出の解禁を受けてフランスでは、日本市場への進出に関心が高まっている。フランス側の狙いとして、日本の輸入牛肉市場は、既に米国や豪州産が一定の位置を確保しており、またこれらの牛肉は、フランス産に比べて価格が安いことから、都市部の高級レストラン、ホテルなどを対象に、子牛肉などを売り込みたい模様である。
フランス産食肉の輸出を振興するフランス食肉輸出協会(GEF:Groupement d’Export Français)で、日本市場での取り組みなどについて話を聞いた。
フランス食肉輸出協会(GEF)は、2011年に生産者、と畜・加工業者、流通業者などの共同出資により設立された団体で、フランス産食肉の輸出促進を目的としている。輸出マネージャーのキャロル・ドウムル氏は、「日本市場への輸出解禁に際し、試食会などを通じて日本側の感触を調査したところ、和牛を食べなれている日本人からも、フランス産の牛肉に対して高い評価を得た。また、日本側は、子牛肉への関心が非常に高いことから、フランスにしかできない子牛肉の生産を売りに、日本市場への輸出を開始したい」と輸出に向けた意気込みを明らかにした。
同協会によると、フランスの子牛肉は、大きく分けて次の2通りの生産形態がある。
(1)母乳を中心として飼育する伝統的な生産によるもの。この飼育方法は、主にリムー
ザン地方で行われており、生後5カ月まで母牛と同居させ母乳を中心に育てられる。
また母牛には、穀物飼料をいっさい与えず、良質牧草のみとすることから品質の高
い母乳が子牛に与えられる。子牛肉は、明るい色のものが高品質とされ、この飼育
方法による子牛肉には、ラベルルージュ(フランスの公認の認証で、優れた品質を
保証するものである。)の認証が与えられる。
(2)粉乳などを用いて大量生産を行うもの。
当然、価格も約1.3〜1.5倍程度の開きとなり、(1)により生産された子牛肉が高値で
取引される。
GEFでは、日本側の意向も踏まえつつ、(1)の伝統的な生産による子牛肉の輸出を先行したいとの考えである。
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また、同氏は、日本市場の魅力として、「日本の衛生・品質基準の高さは、世界でもよく知られており、その日本に対してフランス産牛肉を輸出できることが、他の輸出国、特に中東やアジアの国々対して大きなアピール材料となる」とし、日本向け牛肉輸出の解禁を足がかりに、世界市場への輸出を伸ばしたい、との意向を表した。さらに、「当協会が設立された2年前まで、フランスは自国の農産物を積極的に輸出することに関心がなかったが、金融危機や景気後退により国内市場が低迷していることから、輸出市場の重要性を強く認識しており、市場調査やコーディネイターを配置するなどして、輸出先のニーズに応えた商品を開発、輸出していきたい」と語った。GEFでは、日本以外の輸出の可能性として、高級品の需要があるドバイなどの中東諸国を視野に入れている。また、サウジアラビアがフランスに対して行っている牛肉の輸入制限を解除すれば、有力な市場として期待が持てるとみている。
3.日本産牛肉の捉え方
(1)フランスの牛肉消費
フランス人は何を食べるのか。アフリカ系移民などが多いフランスでは、出身国や宗教、また、生活様式などにより食をひとくくりでまとめるのは難しいが、食肉に関して、パリやフランス地方都市の様子を眺めると、いわゆる日本の高級レストランで提供されるような「フランス料理」は一般的ではなく、主に鶏や豚のロースト、そして牛肉のステーキが伝統的に食されているようだ。近年は、食生活の多様化や家族構成の変化、また、景気後退の影響などにより、家庭での料理は、より安価で調理が簡単なパスタなどに変わりつつあるとされているが、普段着で利用するビストロなどの手頃なレストランの定番メニューは、やはり牛肉のステーキがその中心に位置している。
フランスの食肉関係者に言わせると、フランス人は赤身肉を好み、しかも、柔らかさを兼ね備えたものが最高とのこと。一般的なレストランでステーキを注文すると、最低300グラムはありそうな赤身のステーキが出てくる。これを老若男女がさも当たり前のように平らげる。ここ数年、フランス国内の牛肉消費量は減少傾向にあるが、その存在感は色あせていない。
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食肉関係者によれば、良質な牧草で育てることで、
適度な肉汁と柔らかさを持った牛肉が産出されるという。 |
(2)「KOBE BEEF」と「WAGYU」
では、この牛肉大国で、日本産牛肉はどの程度認識されているのだろうか。前述の食肉関係者に対して日本産牛肉のイメージを訪ねたところ、一様に「KOBE BEEF(神戸ビーフ)」という答えが返ってきた。実際に本物を食べたことはないが、「高いが美味しい牛肉」というイメージを持っているとのこと。パリ市内の食肉小売店でも、日本人と分かると「KOBE BEEF」の味について感想を求められることが度々あった。前述のGEFによれば、フランスの各地の食肉小売店や高級レストランなどを含めた食肉関係者の間では、「KOBE BEEF」に対する一定の認知度があるとしている。
一方、「和牛」については、「WAGYU」としての認知度はある程度広まっているとされているが、それが日本固有のものではなく、むしろ高級牛肉の代名詞として認識されているようだ。
現在、パリ市内の高級レストランでは、メニューに「WAGYU」を載せるところが出てきており、その数は、徐々に増えているとのこと。また、フランス国内には、日本の和牛の遺伝子を用いた「WAGYU」肥育農家が数軒あり、南米から輸入される「WAGYU」と同様に、フランス国内に供給されているとのことである。
(3)日本産牛肉へのニーズ
日本の牛肉については、「KOBE BEEF」としての一定の認知度がある中で、今後、日本産牛肉をフランスに輸出する場合、どのようなニーズがあるのか。現地の食肉関係者の話をまとめると、家庭用のテーブルミートとしての利用は、おそらく価格面から困難であり、外食向けとしての利用、特に高級レストランが主なターゲットになるとの見方が多い。
伝統と文化に重きを置くフランスでは、食に関して一定の文化を持ち、また、自国産農畜産物への愛着も強い。このため、米国系ハンバーガーチェーンなどをはじめとするファストフードへの抵抗感が強く、EU加盟国の中でもこれら業種の展開が比較的遅れている国の一つである。
一方、日本に対しては、フランスと同様、文化と伝統がある国として一定の高評価が持たれ、日本食に対しても、健康的なイメージから、寿司を中心に食生活への浸透度合いは高い。また、日本食レストランも国内各地に広がっており、これらを中心に日本の牛肉料理であるしゃぶしゃぶやすき焼き、また、焼き肉による提供も一定の需要が期待できるとみている。
ただし、様々な「WAGYU」が取り扱われる中で、日本産牛肉に対する正しい理解を得るためには、品質の安定・確保に加え、その特性を利用者にアピールすることが重要とされている。特に、フランス国民は赤身肉を好むことから、高級レストランなどに対しては、和牛の赤身部位などを用いた料理メニューの提供も欠かせないとしている。
おわりに 日本とEUそれぞれの牛肉輸出入の解禁により、双方にとって新たな牛肉輸出市場開拓の道筋が広がることになった。フランスでは、日本への輸出を足がかりに、今後の各国市場への展開を広げる予定としており、一方、日本にとっても、今後、フランスのみならず、英国などへの輸出が期待されるところである。
景気後退や消費志向の変化などにより牛肉消費が伸び悩む中で、これら輸出拡大の動きが、新たな市場の確立につながるよう、生産・加工・流通・消費の各分野において、この解禁のチャンスを十分に活かしていくことが求められている。今後、日本産牛肉の輸出促進に向け、各国・地域の牛肉需要などを中心に調査を進めたい。
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