調査・報告 専門調査  畜産の情報 2013年12月号

豚肉の系列内企業間6次産業化で成長する宮崎第一ファーム
〜口蹄疫禍から再出発した川南町の畜産企業の成長要因分析〜

中村学園大学 学長 甲斐 諭



【要約】

 6次産業化は、農林漁業者等が地域資源を活用して加工や販売などの新事業を創出することを意味するが、一般の農林漁業者は資金力と労働力と情報力の不足に直面し、6次産業化を展開できない状況になることも多い。本稿で取り上げた事例は、口蹄疫が発生した宮崎県川南町において、全ての豚を殺処分するという苦難を乗り越え、家族内で父親と息子達が協力して、豚肉の生産段階、加工・販売段階で別会社を設立し、系列内企業間の独立性と連携性を維持することにより、資金力と労働力と情報力の不足を補完し合い、好成績をあげている事例である。

1.宮崎県児湯郡川南町の畜産概要

 有限会社宮崎第一ファーム代表取締役の山道義孝氏(64歳)は、平成22年4月に口蹄疫〔1〕が発生した宮崎県児湯郡川南町において養豚業を営むと共に、同町内で別会社の豚肉専門加工販売外食店を開店し、さらに宮崎市においても別会社の加工販売店を開店し、安定経営を展開中である。

 川南町は宮崎県のほぼ中央部に位置し、東は日向灘、西は木城町、南は高鍋町、北は都農町と接している(図1)。町域は、東西約12キロメートル、南北約10キロメートルで総面積90.28平方キロメートルである。森林と農用地が総面積のそれぞれ約40パーセントを占め、温暖な気候と豊かな自然の中で、全国有数の食料生産基地となっている。

図1 宮崎県における口蹄疫発生関係市町と川南町の位置

資料:川南町役場提供資料より作成

 戦後、全国各地から農業を志す人々が同町に集まり、青森県十和田市、福島県矢吹町と並んで戦後の三大開拓地の一つとなっている。

 農林水産省「2010年世界農林業センサス」によれば、同町の総農家数は1,104戸であり、自給的農家戸数が228戸(20.7%)、販売農家戸数が876戸(79.3%)であった。同年の全国の販売農家数割合は64.5パーセントであるので、販売農家割合が高い農村であると言えよう。

 同町の家畜飼養状況は肉用牛と豚の飼養農家数が多い(表1)。畜産の生産額は149億6000万円(平成18年)であり、農業粗生産額の約7割を占める。そのうち豚は73億3000万円であり、自治体別では全国屈指の地位を占めている。

表1 川南町の家畜飼養状況

資料:川南町HPより作成

2.口蹄疫から復興しつつある川南町の畜産

 

 平成22年4月20日、隣町の都農町で1例目の口蹄疫が発生した。翌21日には川南町でも2戸(2、3例目)で発生し、28日には同町にある宮崎県畜産試験場(川南支場)でわが国で初めて豚への口蹄疫感染が確認された。その後も発生が続き、多数の牛と豚の殺処分を行うなど多大な犠牲を払ったが、官民を挙げた努力により、8月27日には130日続いた口蹄疫との戦いに終息宣言が出された〔2〕

  川南町では復興に当たり、養豚経営については、PRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群)の陰性証明を付けて出荷できるよう補助事業を実施するなど他県との差別化を図り〔3〕、肉用牛経営では、繁殖雌牛の飼養頭数目標を40頭と定め、子牛導入・保留する際、費用の1割(導入補助上限5万円、保留補助上限3万円、対象頭数15頭)を補助するなどの対策を講じた〔4〕

  こうした官民を挙げた復興努力により、平成25年4月現在、川南町の畜産は回復しつつある。殺処分した農家のうち新たに家畜を導入した農家の割合は、繁殖牛で56パーセント、肥育牛で70.6パーセント、酪農で83.3パーセント、養豚で59.6パーセントである(表2)。また、家畜処分数に対する導入頭数の割合は、それぞれ49.1パーセント、39.1パーセント、95.4パーセント、60.9パーセントとなっている。養豚業については約6割の回復途上にあると言えよう。
表2 川南町における家畜導入状況(平成25年4月現在)

資料:川南町役場提供資料より作成

 しかし、経営再開をする意欲を無くした経営中止農家も32.7パーセントおり、完全復興は難しい状況にある(表3)。その背景には経営者の高齢化や後継者不在のほか、飼料価格の高騰などがあり、畜産を取り巻く厳しい経済情勢も影響しているものと思われる。
表3 川南町における経営再開していない農家の意向(平成25年4月現在)

資料:川南町役場提供資料より作成

3.宮崎第一ファームの経営発展過程

 山道義孝氏は、昭和42年に高校卒業後埼玉県にて養豚の研修を積み、昭和44年には20歳を目前に母豚7頭規模から養豚経営を開始し、昭和47年に有限会社宮崎第一ファームを設立した。その後、徐々に規模拡大すると共に、昭和63年からオリジナル銘柄豚「あじ豚」の開発に着手した。

 平成元年には加工販売部門である株式会社フレッシュ・ワン(以下、フレッシュ・ワン)を設立(代表取締役は山道義孝氏)したが、法人設立当初の経営は必ずしも順調ではなく、初めての加工・販売の取り組みであったこともあり、苦労の連続であった。

 平成11年以降、3人の息子が経営に参画したことで、生産(宮崎第一ファーム)から加工・販売(フレッシュ・ワン)まで、経営の一貫体系を確立した。生産部門では平成12年には新たな豚舎を建設し、母豚450頭規模の一貫経営を確立した。また、販売部門では、平成18年にフレッシュ・ワンの直営店である「ゲシュマック」をオープンし、平成19年度に「あじ豚」の商標登録を取得した。

 平成21年度には、それまでの取り組みが高く評価され、第48回農林水産祭畜産部門で天皇杯を受賞し、また同年度には中央畜産会主催の畜産大賞事業経営部門でも最優秀賞を受賞した。

 しかし、順調であった経営は、農場とレストランが立地する川南町において口蹄疫が発生したため暗転した。山道氏の農場においても飼養していた全ての豚が殺処分されたのである。

 平成22年8月27日の「口蹄疫終息宣言」を受け、新たなスタートが切られ、11月1日に再度豚を導入してよいという許可が出された。それを契機に、同農場でも11月10日に豚の導入を始めた。経営を再開するに当たり、行政の強い指導もあり、後継者世代が中心となって、病気のない養豚地帯を作ることになったため、SPF(特定疾患不在)豚生産農場以外からの種豚導入ができなくなったことから、種豚導入先が制約された。そのため、東北地方のSPF豚生産農場から種豚を導入した。

 ちなみに、同農場の肥育豚出荷頭数は、平成20年度が8,885頭、21年度が8,841頭、22年度が口蹄疫の影響で2,862頭に減少、23年度は3,066頭、24年度は6,671頭であった。

 平成25年4月には、宮崎市内で次男が株式会社ミートスタイル(屋号は「あじ豚本舗」、以下、ミートスタイル)を設立し、「あじ豚」の精肉販売にも乗り出している。

4.宮崎第一ファームの経営の現状

(1)生産再開と品種・飼料による「あじ豚」ブランド確立

 平成22年4月の口蹄疫発生前、宮崎第一ファームの母豚飼養頭数は375頭、常時肉豚飼養頭数は約4,000頭、年間出荷頭数は約9,000頭であった。同年11月に、国からの経営再開資金などを活用して飼養を再開するに当たり、経営シミュレーションを行ってみたところ、母豚飼養頭数を以前の375頭に戻すと資金不足となることが想定されたため、規模を縮小して母豚飼養頭数300頭から再開することにした。

 農業従事者は代表取締役と妻(財務管理)および長男(39歳:専務取締役で農場責任者)と長男の嫁であり、加えて男性5人を常時雇用している。

 昭和46年の豚肉の輸入自由化により輸入豚肉との競争が激化し、その対策として規模拡大によるスケールメリットの追求が一般に奨励された。しかし、山道氏は規模拡大によるコスト削減よりも、テーブルミートとして消費者から選択される商品価値の高い豚肉を生産する道を選び、それを実現するために「あじ豚」の開発に取り組んだ。

 「あじ豚」はWLD豚の肉である。大ヨークシャー種(W)の雌にランドレース種(L)の雄を交配して生まれた交雑種(WL)を母豚として、これにデュロック(D)雄を交配して生まれた子豚を肥育して生産された豚肉であり、同一品種でも系統を吟味して肉質の斉一性の向上に努めている。

 飼料は飼料メーカーと共同開発したものを給与している。種々の単味飼料の組み合わせを検討した結果、トウモロコシや魚粉などの動物性飼料を一切使わず、マイロ、麦、キャッサバ、地元酒造会社の焼酎粕から生産した発酵飼料を主原料とした肥育仕上げ用飼料を開発した。その結果、柔らかくて、さっぱりした旨味の中にも甘味があり、消費者が敬遠する豚臭さを抑制した豚肉を生産することに成功している。
あじ豚生産グループで使用されている飼料

 「あじ豚」の旨み成分であるグルタミン酸相当量は100グラム当たり32ミリグラム(一般豚肉26mg)で、ドリップロスが0.5パーセント(一般豚肉1.1%)、オレイン酸42パーセント(一般豚肉37%)である。「あじ豚」は一般の豚肉より淡い肉色で、脂肪色も白く保水性に富み、ビタミンEを多く含み、肉質が柔らかく、ドリップが出にくい特性を持っている。

 農場ではクヌギの森から採取した土着菌を肥育豚舎のオガクズに混ぜて使用しているので、悪臭は大幅に改善されている。

(2)あじ豚生産グループの組織化による技術向上と外部交渉力強化

 「あじ豚」の生産には、山道氏を中心に、先代から付き合いのある4農場からなる「あじ豚生産グループ」が形成されており、飼養管理の統一、飼料の一括購入、価格交渉などを行っている。

 同グループは全戸に後継者がおり、グループで県外の食肉センターに行くなどの枝肉勉強会を頻繁に開催して、飼養技術の向上並びに飼料と枝肉の価格交渉力の強化に努めている。同グループの平成24年度(24年7月から25年6月)の年間出荷頭数は1万4316頭である(表4)。
表4 あじ豚生産グループの成績(平成24年7月〜平成25年6月)

資料:宮崎第一ファーム提供資料より作成

(3)収益性と原価および販売先

 宮崎第一ファームの損益計算書(平成24年1月1日から11月30日)を表5に示す(決算の都合上、11カ月間)。豚肉売上は約2億2000万円であり、育成豚売上と堆肥売上を加えると売上高は約2億3000万円である。

 一方、売上原価は約2億1000万円であるので、売上総利益は1573万円あるが、販売費および一般管理費が2550万円であるので、営業損益は977万円である。しかし、営業外収益が2713万円あるので、経常利益は1736万円であり、当期純利益は2038万円である。営業収益に占める当期純利益率は8.9パーセントとなっている。

 表5の当期製品製造原価(約2億1600万円)の内訳は、製造原価の57パーセントが飼料仕入であり、育成豚・子豚・資材仕入費が1587万円、賃金手当等が1403万円、その他(原価償却費、防疫費、と畜費等)が3854万円である(表6)。
表5 宮崎第一ファームの損益計算書(平成24年1月1日〜平成24年11月30日)

資料:宮崎第一ファーム提供資料より作成
表6 宮崎第一ファームの製造原価報告書(平成24年1月1日〜平成24年11月30日)

資料:宮崎第一ファーム提供資料より作成

 宮崎第一ファームで肥育された豚(出荷体重115kg)は鹿児島県の南九州畜産興業株式会社(以下、ナンチク)に出荷され、そこでと畜解体されて、関東・関西方面に販売されている。口蹄疫発生以前は、バイヤーが同農場から出荷される「あじ豚」のブランドを高く評価し、年間固定価格で購入してたが、口蹄疫で出荷できなくなっている間に顧客を奪われたため、ナンチクが販売に苦労している。平成25年1月から7月までに同農場から3,883頭が出荷されているが、そのうち914頭が系列内のフレッシュ・ワンとミートスタイルで加工販売されている。

(4)系列内企業間6次産業化の3つのメリットと直販比率向上を目標にした経営方針

 今後は、決して規模拡張するのではなく、生き残りのため系列企業内(フレッシュ・ワンとミートスタイル)での加工と販売を増やし、同農場の直販比率を上げることにより買い取り価格を安定させていきたいと考えている。この取り組みはまさに豚肉の系列内企業間6次産業化と言えよう。

 系列内企業間6次産業化のメリットは大別して3点ある。第1のメリットは枝肉販売価格の優位性である。宮崎第一ファームの枝肉価格は、平成25年3月までの年間固定価格(460円/kg)方式から主要市場価格に1キログラム当たり22.7円のプレミアムを上乗せして販売する方式に変更されている。

 豚肉の市場相場は夏には確かに高いが、秋口から低下しはじめ、冬を経て春まで低迷する。ちなみに、大阪市場の平成24年9月から25年8月までの直近1年間の加重平均価格(上物率75%、中物率25%)を試算すると442.3円となる。これに22.7円のプレミアムを上乗せすると465円になる。しかし、委託と畜費(1,900円/頭)と枝肉検査費(350円/頭)あわせて1キログラム当たり30円(1,900円+350円/75kg)が枝肉価格から差し引かれるので、435円が手取り価格となる。

 一方、系列内のフレッシュ・ワンとミートスタイルへの販売価格は、枝肉1キログラム当たり453円に年間固定しており、さらに前述の委託と畜費と枝肉検査費の30円を上乗せして483円で販売している。

 大阪市場出荷を想定した試算によれば、系列内企業への販売の方が枝肉1キログラム当たり18円有利になる。この差額分が系列内企業間6次産業化の生産段階の経済的メリットと言えよう。この経済的メリットが生産段階を安定させ、高品質の豚肉の安定供給を担保する仕組みになっていると考えられる。

 第2のメリットは、加工品精肉販売・外食段階で販売する豚肉の品質が高位安定していることである。フレッシュ・ワンとミートスタイルで販売されている豚肉は、全量が宮崎第一ファームで生産された「あじ豚」であるので、品質が高く、均一であり、薬剤使用量も非常に少なく安全性も保証されているため、安心して販売できるメリットが大きく、顧客からも信頼を得ている。

 第3のメリットは、加工品精肉販売・外食段階において仕入れる価格が年間を通して安定していることである。系列外の問屋から原材料の豚肉を購入すると、秋から冬は価格が安いものの、夏には高くなるなど仕入れ原価が変動するが、小売価格を季節により急変することができないため、経営を不安定にする。系列内企業間取引きではその点が改善されている。

 宮崎第一ファームでは、平成24年に肥育豚6,671頭出荷したが、系列内企業に販売した頭数は1,158頭であり、直販比率は17.4パーセントであった。平成25年1月から7月までの出荷頭数は3,883頭であったが、そのうち系列内企業に販売した頭数は914頭であり、直販比率は23.5パーセントになっている。枝肉市場相場は季節により大きく変動するので、生産段階を安定させるため、近いうちに直販比率を25パーセントに引き上げていき、将来は50パーセントに引き上げていく方針である。

5.フレッシュ・ワンの経営の現状

(1) 系列内加工販売専門部署としてのフレッシュ・ワンと直営店ゲシュマック

 山道義孝氏の三男であるゲシュマック店長の山道洋平氏は、全国食肉学校において食肉の解体・カットから加工までの基礎的技術を学び、さらに平成9年に同校卒業後、東京都武蔵野市にある村上商店に就職し、3年間にわたって、“マイスター村上”の下で修行した。更には村上氏の紹介で豚肉加工の本場ドイツ・ミュンヘンのソーセージ店に留学し、帰国後、フレッシュ・ワンに就職して、精肉・加工の仕事に従事して今日に至っている。洋平氏は本格派の豚肉加工技術者兼経営者である。

 直営店であるゲシュマックでは、「あじ豚」の加工品製造・販売、精肉販売、レストラン営業などを行っている豚肉関連商品総合店舗であり、消費者の人気が高い。レストランで食事をして、「あじ豚」の精肉、加工品を購入する客が多い。
山道義孝氏(左)と筆者
(後ろの建物は直営店ゲシュマック)

(2) フレッシュ・ワンの経営状況

 フレッシュワンの経営状況(平成23年12月1日から24年11月30日)は、年間販売額は約2億1000万円であり、売上原価は9470万円であるので、売上総利益は約1億1600万円となっている。しかし、販売費および一般管理費が約1億1500万円であるので、営業利益は90万円に過ぎない。だが、営業外収益があるので、当期純利益は777万円となっている(表7)。
ゲシュマック店内とショーケース
表7 フレッシュ・ワンの損益計算書(平成23年12月1日〜平成24年11月30日)

資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成

(3)フレッシュ・ワンの販売状況

 1日当たり平均販売額の推移を見ると、口蹄疫が終息した平成22年8月以降、販売額は徐々に増加してきていることがわかる(図2)。特に、12月の販売額が毎年増加しているのは、消費者から好評を得ている証左であると言えよう。

 品目別月別販売額を見ると、直近1年間(平成24年8月〜25年7月)の販売額の伸びは、前年(平成23年8月〜24年7月)と比較して精肉が122パーセント、レストランが136パーセント、惣菜が177パーセントと急伸している(図3)。
図2 フレッシュ・ワンの月別販売総額
資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成
図3 フレッシュ・ワンの品目別月別販売額
資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成

(4)系列内企業間6次産業化の強みとしての惣菜部門の販売額伸張

 川南町という大都市から遠隔地にある農村部においても中食需要は旺盛で、惣菜販売額の伸びは顕著である。農村における女性の社会進出、食の簡便化傾向は社会現象であり、この分野の補強が販売額の伸びを支えていくものと推察される。レストランで食事をした帰りに惣菜を買う人が多いので、レストランと惣菜部門を併設していることが相乗効果を生み出していると考えられる。
ゲシュマック併設の加工施設
 フレッシュ・ワンは系列内の加工販売専門店であるので、店長はじめ加工技術を持った職員がおり、精肉やレストラン用の肉の加工だけではなく、惣菜も製造する技術も持っている強みがある。原料の豚部分肉を1頭フルセットで購入しているので、不需要部位も含まれるが、それを上手に惣菜に仕上げる技術は高く評価されるべきである。美味しい「あじ豚」で惣菜を製造する技術と経営感覚が、経営を支えていると言っても過言ではない。
表8 フレッシュ・ワンの品目別月別販売額

資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成

(5)フレッシュ・ワンの今後の課題

(1)販売額の増加

 平成元年に設立後、販売額は順調に伸びていたが、口蹄疫発生を機に客足が激減した。それでも22年12月の歳末商戦で客足が回復し、22年度の販売額は1億6685万円、営業利益126万円であった。その後の販売額を見ると23年度1億8600万円、24年度2億1000万円と拡大が続いている。

 年度別に見ると順調ではあるが、月別にみると課題もある。販売額と総経費(「あじ豚」や資材の仕入れおよび販売費・一般管理費等を含む)の推移が図4であり、両者の差である営業利益を示したのが図5である。販売額は12月に急増するが、1月と6、7月には急減するので、正月と夏季に単月で赤字が発生している。この時期の販売額増加が今後の課題である。
図4 フレッシュ・ワンの月別販売額と総経費

資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成
図5 フレッシュ・ワンの月別営業利益

資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成
(2)オンライン販売の拡大

 販売額増加の可能性を大いに秘めているのが、オンライン販売である。1年半前に商品・デザインの切り替えをしたこともあり、販売額が徐々に上がってきているが、現在は店の現金売上の約1パーセントであるので、今後さらにリニューアルをして販売促進を図る計画である(図6)。
図6 フレッシュ・ワンの宅配販売

資料:フレッシュ・ワン提供資料より作成
 現在の売れ筋商品はソーセージで、保存がきき少人数家族でも食べきれるため人気がある。人気商品は骨付き豚肉アイスバインで、家族が集まるゴールデンウイークやお盆、正月などは売り上げが伸びている。注文者は県内5割、その他関東近郊などであり、送り先は九州内4割、関東近郊3割、その他地域3割となっている。

 以前は精肉2部位1キログラムパックの販売だけであったが、家族の少人数化を考慮して、バラ肉、ロース肉など小分けパックにし、何種類かの肉を選択できるようにして買い易い商品構成にしている。「お試し便」は7種類入りで1,500円、「まいつき便」は月1万円で詰め合わせを定期便で届け(3カ月〜6カ月のコース)、「おすそわけ便」は5,000円以上を注文した場合、おすそ分け送付先1カ所は無料にし、「おくりもの便」は3,000円、4,000円、5,000円の3種類のセットを準備している。

(3)新たな系列内加工販売専門部署としての直営店ミートスタイルの出店と販売促進


 平成25年4月に、山道義孝氏の次男である山道大輔氏が代表取締役となって、株式会社ミートスタイルを設立し、宮崎市内に「あじ豚本舗」を出店して、「あじ豚」の精肉、加工品、惣菜の販売を開始した。「あじ豚」はフレッシュ・ワンを経由して仕入れている。

 「あじ豚本舗」は県庁所在地である宮崎市の新興住宅地の入り口にあり、今後の販売額の増加が期待される。ここでの販売額の増加は、フレッシュ・ワンの取扱量を増やし、引いては宮崎第一ファームの直販比率を高め経営安定に寄与する可能性を秘めている。
あじ豚本舗と店内

6.系列内企業間6次産業化の評価

 山道義孝氏は3名の子息に恵まれ、長男はオリジナル銘柄豚肉「あじ豚」の生産、次男と三男は別会社においてそれぞれ豚肉の加工品製造・精肉販売に従事している。

 この系列内企業間6次産業化は、豚肉の生産販売に品質と価格の両面から安定性を持たせており、高く評価できよう。生産農場は、系列内に販売組織体を持つことによって、年間を通して一定価格で豚肉を販売することができる、というメリットがある。枝肉市場相場は季節要因などにより変動することから、更に生産・出荷を安定させるため、現在の直販比率(23.5%)を将来は50パーセントに引き上げるべく系列内で努力している。

 一方、2つの加工品製造・精肉販売店では、肉質が高位安定したオリジナル銘柄豚肉「あじ豚」を年間を通して安定した価格で仕入れることができることから、高品質の加工品と精肉を安定価格で供給することが可能となる。その結果、レストランでも好評を得ている。

 今後、飼料価格の高騰やTPPの影響が懸念されるが、系列内企業間6次産業化によって国内養豚産業が維持発展されることを期待したい。

参考文献

〔1〕宮崎県「平成22年に宮崎県で発生した口蹄疫に関する防疫と再生・復興の記録 ”忘れない そし
   て 前へ”」(2012年11月)
〔2〕押川義光「口蹄疫発生時における川南町の対応と復興・再生状況」(2013年)
〔3〕藤井麻衣子、江原枝里子「宮崎県における口蹄疫からの復興への取り組み」『畜産の情報』(2011
   年8月)
〔4〕山神尭基「宮崎県における口蹄疫からの復興 〜全共での日本一2連覇までの取り組み〜」『畜産
   の情報』(2013年1月)

≪追記≫

 本稿を草するに際して有限会社宮崎第一ファーム代表取締役の山道義孝氏から御教示や貴重な資料の提供など格別の御配慮を頂いた。記して感謝申し上げる次第である。

 

 


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