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 畜産の情報 2013年12月号

世界の酪農の現状と展望
〜GIRA Dairy Club およびEDA(European Dairy Association)会議から〜

調査情報部 矢野 麻未子

【要約】

 2013年の生乳生産は、主要生産国で発生した天候不順の影響を強く受け、全世界で前年比2パーセント減少した。しかし、2014年の生乳生産は、天候に恵まれ、生産コストも減少しているため回復の見込みである。
 乳製品は、世界的に需要が増加しており、今後もその傾向は継続する見込みである。主要生産国は、乳製品市場獲得のために依然として活発に活動しており、今後も企業の買収、合併など流通構造の再編は継続するとみられている。

1.はじめに

 乳製品をめぐる世界の情勢は、現在大きく変化してきている。かつて、乳製品はその他の農産物と比べて生産量に占める輸出量の割合は少なく、基本的には生鮮食品として自国で生産、消費し、余剰分を国外や域外に輸出する傾向が強い製品であった。

 しかし、近年、発展途上国における経済発展や食習慣の変化に伴う乳製品需要の増加により、世界的に乳製品の需要は拡大している。特に、中国では、2008年に発生したメラミン混入事件により、消費者は製品の安全性から輸入乳製品を求めるようになり、主要生産国にとって大きな市場参入の機会を得ることとなった。また、その他のアジア、中東およびアフリカ諸国でも、乳製品需要は増加しており、現在、世界の乳製品需給はひっ迫傾向が強く、今後もしばらくはこの状況が続くとの予測が出ている。

 このような状況下で乳製品の国際市場は、かつて輸出国と輸入国が安定した関係を築いて取引していた状況から、価格変動の高い市場へと変化している。特に、ニュージーランド(NZ)のフォンテラ社によるGDT(Global Dairy Trade)オークションなど電子入札の開設は、新たな乳製品国際価格の指標を築き上げるとともに、輸出市場の拡大にも大きな影響を及ぼしたと言われている。GDTオークションは、新規参入者にも比較的容易に国際市場への参入を可能としており、その取扱量は年々増加し、落札価格は、国際市場のみならず、主要生産国の乳製品価格や乳価にも影響を及ぼすようになった。

 また、需給ひっ迫基調にある国際的な乳製品市場は、まさに成長市場であることから、主要生産国で、かつ、輸出国であるEU(特にフランス、ドイツ、オランダなど投資力のある国)、NZ、豪州そして米国などが市場獲得に乗り出している(表1)。また一方で、潜在的な生産力を持つインド、南米、中国、ロシア、ウクライナといった国も控えており(図1)、世界的規模で生乳生産・乳製品市場は変革の時期を迎えている。

 今回は、欧州で開催されたGIRA Dairy Club(世界各国の乳業関係者などが会員)およびEDA(European Dairy Association:EUの乳業メーカーなどで構成する協会)の会議内容を中心に、世界の乳製品市場の動向を報告する 。
表1 2012年の主な買収および合併
資料:GIRA
図1 世界の生乳生産(2011年)
資料:International Farm Comparison Network(IFCN)

2.2012年および2013年の動向

(1)生乳生産の概況

 2012年および2013年は、世界各地で発生した天候不順により、酪農生産への影響が大きかったことが特徴づけられる。2012年、NZおよび米国では厳しい干ばつが発生、ロシアでも一部地域で干ばつが発生した。一方EUは、夏季は多雨となり、2013年春は長引く低温に見舞われた。これらの天候不順は、生乳生産に大きな影響をもたらし、2013年の生乳生産量は、世界合計で約2パーセント減となる見込みである(図2)。また、生乳生産の減少を受けて、2013年の乳製品の国際市場価格は、高水準で推移している。
図2 世界の生乳生産量増減率(2013年)
資料:GIRA

(2)主要生産国の動き

ア.EU

 (ア)全体的な動向

 2013年、EU北部を中心に春先の低温に見舞われたため、上半期の生乳生産量は減少し、近年の増加傾向に歯止めがかけられた。しかし、その後、天候に恵まれ、特に夏季は例年になく晴天に恵まれたことから、牧草および穀物の生産は順調に経過し、下半期の生乳生産量は回復に転じている。このため、2013年の年間生乳生産量は、前年比0.1パーセント増と見込まれている(表2)。
表2 EUにおける酪農概況
資料:AMI
  注:2012年まではEU27カ国、2013年は28カ国である。前年同期比は、28カ国で計算したもの。
 2014年の予測は、2013年の春先の低温による収穫牧草の品質低下、また、泌乳量増加の頭打ちなどの懸念材料はあるものの、2011年まで継続して減少していた乳牛の飼養頭数が、2012年に増加に転じたことなどから、生乳生産量は、前年比0.9パーセント増と見込まれている。

 EUの乳製品生産の動向を見ると、2012年の乳製品生産量の構成割合(脂肪換算)は、バターが31パーセントと最も多く、次いで、チーズが27パーセント、飲用乳が12パーセントとなっている(図3)。近年は、チーズの生産量が伸びており、これは、高付加価値製品としてその他の乳製品より高値で取引されること、また、大部分が欧州地域で消費されるため、国際市場の競争にさらされる割合が低いこと、主な輸出先がスイスやロシアといった近隣諸国であるため、その他の輸出国との競合が低いこと、さらに、粉乳など国際市場の価格に大きく左右される乳製品と比べて変動性が低く、一定の価格が確保できること、などが要因である(図4)。さらに、チーズの副産物であるホエイは、近年、国際市場の需要が高まっており、価格が高水準で推移していることから、EUにとってチーズを生産することのメリットは高くなっている。
図3 乳製品別生乳用途(脂肪換算:2012年)
資料:GIRA
図4 乳製品別仕向割合(脂肪換算:2012年)
資料:GIRA
 (イ)2015年生乳クオータ制度廃止の影響

 EUにおける生乳クオータ制度は、市場志向性を高めることによる競争力強化を目的に、2015年の廃止が決定しており、現在は、年1パーセントのクオータ量引き上げによるソフトランディング期間である。

 2015年が目前と迫り、EU加盟国では当該制度の廃止による影響に対して関心が高い。当然のことながら、生乳クオータ制度により、生乳生産が抑制されている地域の生乳生産増加が予想されており、その増産量は、年平均0.7パーセント増と見込まれている(図5)。特にEUの北西部に位置する旧加盟国(ドイツ、オランダ、フランスなど)の増産は大きいとみられており、2017年までにEU全体で490万トンの増産が見込まれている。

 この生乳生産の増産分は、乳製品の成熟市場であるEUでは吸収することが困難であることから、輸出に向ける必要があり、EUの乳業メーカーにとって、国際市場の確保が最優先事項とされている。現在の予測では、チーズに仕向けられる量が最も多いとの予測ではあるが、中国をはじめとしたアジアやアフリカ諸国での粉乳需要の増加は、EUにとって新たに確保したい市場である。そのため、粉乳生産の拡大のための投資が盛んに行われている(図6)。
図5 主要生産国における生乳生産増加量(2012年と2017年比較)
資料:GIRA
図6 粉乳生産拡大に対する投資額(対粉乳工場等)
資料:GIRA

 生乳クオータ廃止により、乳製品輸出量の増加が予測されていることから、EUの乳製品価格は、より国際市場価格と連動し、変動幅が大きくなると見込まれている。また、価格変動に対して、生産者はより敏感に生乳生産の調整を行うことが予想されるが、その場合、飼養頭数によるものではなく、飼料による調整が主要となるため、濃厚飼料の利用が増加する可能性が挙げられている。また、今後の各加盟国の酪農部門の発展は、投資力や市場開発力が大きく関与するとともに、生産される乳製品によりその方向性は多様性を示し、発展の速度も各加盟国で大きく異なるだろうとの見解が出ている。

イ.NZ

 (ア)全体的な動向

 2012年の記録的な干ばつにより、2011/12年度(6月〜翌7月)の生乳生産量が、前年度比10.3パーセント増の1912万9000トンであったのに対し(表3)、2012/13年度は、同1.3パーセント減の1947万8000トンとなる見込みである。また、2013/14年度の生乳生産は、好調に始まったものの2013年単年でみると6.6パーセント減となる見込みである。生乳生産量は、2017年までに2200万リットルに到達する見込みであるものの、土地価格が上昇していること、環境保護による制約があることなどの理由により、今後、増加率は小さくなる見込みである。

 NZは、乳製品の生乳換算量で見ると、およそ生産量の17パーセントが中国に輸出されている。また、主要輸出製品である全粉乳は、全生産量135万トンのうち40パーセントが中国へ輸出されるなど、中国の需要を満たす大きな存在である。NZは、2008年4月に中国と自由貿易協定(FTA)を締結し、段階的な関税撤廃を行っており、その他の輸出国より高い価格競争力を持っている(表4)。

表3 生乳生産量および乳製品輸出量の推移
資料:Livestock Improvement 「Dairy Statistics」、Statistics New Zealand
注 1:経産牛頭数は各年度12月末時点
  2:乳製品輸出量は各年度7〜翌6月
表4 中国-NZFTAによる乳製品の関税率の推移
資料:ALIC調べ
  注:2008年4月時点

 NZの最大手乳業メーカーのフォンテラ社は、中国に対し自国の製品を輸出するだけではなく、中国国内においても事業を展開しており、酪農場を3カ所保有している。さらに、2カ所の酪農場を河北省に建設する予定であり、これら5カ所の酪農場を合計すると、乳牛飼養頭数は1万5000頭、生乳生産量は1億5000万リットルとなる見込みである。さらに、中国各地の生乳生産地域との連携により、2020年までに生乳生産を10億リットルにまで拡大していく計画が発表されている。

 また、NZは台湾とも2013年7月にFTAを締結しており、今後、さらに中華圏への進出を伸ばすと思われる。

 (イ)GDTオークション

 NZの最大手乳業メーカーであるフォンテラ社が開催するGDTオークションの販売量は、年々記録を更新しており、はじめて開始された2008年7月と比べて、この5年で10倍まで増加した(図7)。

図7 GDTオークションにおける販売量および入札者数
資料:Global Dairy Trade

 インターネットによるオークション・システムであるGDTオークションは、価格透明性の向上、先渡し価格情報の促進、価格リスク管理の向上を目的に設立された。GDTは、投機的な動きや価格上昇を促進させる恐れなど、国内外から懸念や批判があったものの、オークションによる売買が適切な市場価格形成に有効であるとし、開設に至ったものである。

 今回の会議(GIRA)では、このGDTオークションの進展が、国際市場価格の変動の一要因となっていることが指摘された。当初の懸念材料であった投機的な側面や価格の透明性が不明確であること、また、資産運用的な変動が表れており、乳製品市場の不安定化への懸念が示された。しかし、当該オークションのシステムは、販売側にとって国際市場への新規参入やスポット的な売買が簡単に行え、また、購入側にとっても必要な量を必要な時に入手できるなどメリットは高く、今後も取扱量は増加すると見込まれており、影響力もさらに強まると予測されている。

ウ.米国

 (ア)全体的な動向

 2012年、米国での記録的な干ばつの発生により、穀物生産量は減少し、飼料穀物価格は高騰した(図8)。飼料穀物価格の上昇は、酪農部門でも生産コスト増を導いたが、米国内の旺盛な乳製品需要などを背景に生乳生産への影響は少なく、2012年の生乳生産量は、前年比2.1パーセント増の9086万5000トン、2013年は同1.5パーセント増の9222万8000トンと見込まれている。また、米国の生乳生産量は、過去10年間、毎年1.7パーセント増で伸びており、今後も増加傾向は維持され、2017年までに9850万トンに達すると見込まれている(図9)。

図8 米国における飼料価格および原油価格の推移
資料:GIRA
図9 米国における生乳生産量の推移
資料:GIRA
  注:2013年は概算値、2014年、2017年は予測値である。

 米国の主な生乳生産地は、米国の生乳生産の3分の1を担っているカリフォルニア州、また、中央北部のウィスコンシン州、ミネソタ州、ミシガン州、北部のニューヨーク州である(図10)。2008年までは、北西部地域の生乳生産が伸びたが、その後、当該地域の増加は止まり、現在は東部、特にウィスコンシン州、ニューヨーク州で増加している。

図10 州別生乳生産量(2012年)
資料:GIRA

 米国の乳製品生産は、チーズの生産量が最も多く、次いでバター、乳飲料となっている(図11)。チーズは、国内需要のみならず輸出量の拡大により、今後も高い伸び率が予測されている。

図11 米国の製品別乳脂肪利用量
資料:GIRA
  注:2013年、2014年は概算値、2017年は予測値である。

 (イ)国際市場拡大の可能性

 米国は、生乳生産の順調な増加により、2010年から全ての乳製品で純輸出国となっている。主要輸出乳製品は、脱脂粉乳、チーズである。脱脂粉乳は、輸出量の44パーセントがメキシコに、またチーズも、同25パーセントがメキシコに輸出されている。特にこの2製品の輸出量が近年大幅に増加している(図12、表5)。

図12 米国の乳製品貿易状況
資料:GIRA
  注:2013年、2014年は概算値、2017年は予測値である。
表5 米国の乳製品別輸出量
資料:USDA

 また、粉乳需要の世界的な高まりを踏まえ、米国でも国外の市場獲得に乗り出しており、米国最大の酪農協であり乳業事業も行うデイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(DFA)は、8500万米ドルの投資により、初の全粉乳加工場をネバダ州に開設した。DFAによれば、当加工場は、中国の高品質全粉乳市場を狙ったものとしている。

 今後も米国は、乳製品の輸出量を増加させていくと予測されている。一方、今回の会議(GIRA)では、米国が確たる輸出国としての地位を確立するためには、以下の点を解決する必要があることが指摘された。

(1)乳製品の規格が国際基準ではなく、いまだにほとんどが国内市場向けのスペックである。

(2)特に脱脂粉乳は、いまだに生産量の80パーセントが、米国の規格である「Non-Fat Dry Milk Powder」であり、国際基準の脱脂粉乳の生産量は20パーセントにとどまっている。

(3)次期米国農業法は、2013年12月31日までに決定される予定であるが、もしこれが通過すれば現行の乳価支持制度は廃止される予定であり、酪農への影響が生じると思われる。

(4)実質的な輸出戦略が企業において欠如しており、乳業メーカーの方向性が明確でない。しかし、一部の乳業メーカー(DFA、GDT、DA、Dairygoldなど)は、輸出専門部門を設置し始めた。

(5)チーズの規準は、徐々に国際基準に準拠しつつあるが、いまだ全ての生産品が対象とはなっていない。

 このように、米国は、乳製品の国際市場への本格的な参入の前に解決しなければならない課題はあるものの、価格競争力は強く、今後さらに国際市場を拡大してくるとみられている。

3.今後、有力な乳製品

 上記のとおり、主要生産国は増産傾向であり、新たな市場の確保が重要な課題となっている。市場確保のためには、従前のような自国の乳製品の余剰分を輸出するのではなく、輸出対象市場の需要に適合した製品を提供できるか、また、他企業の乳製品との差別化ができるか、また、いかに乳製品に付加価値をつけることができるかが重要なポイントとなってくる。両会議でも新たな市場、新たな乳製品に対する各国の関心の高さが感じられた。

(1)ホエイ

 かつて、ホエイは、チーズの副産物として位置づけられる製品であったが、現在は、需要の増加に伴い、汎用性の高い乳製品として価格も上昇している(図13)。ホエイの需要は、広範囲な分野での需要の高まりによるもので、主な用途は、医療およびスポーツなどの栄養食品、乳幼児用乳製品、飼料、牛乳の代替品などである。
図13 米国およびEUのホエイ価格の推移
資料:GIRA
 ホエイは、その用途によって品質や仕様が変わり、その価格帯も違う。例えば、医療で利用される経腸栄養利用では、1キログラムあたり2米ドルで取引されるのに対して、飼料用では同0.23米ドルと大きな違いがある(図14)。ホエイでより利益を増加させるためには、より高価な製品を製造することが求められ、乳製品工場のインフラ整備が重要なポイントとなってくる。
図14 利用先別ホエイ価格
資料:GIRA

 現在、ホエイを最も生産しているのはEU、次いで米国、そしてオセアニアである。ホエイの主な利用地域としては、アジア、アフリカおよび中東であり、主要生産国から主要需要国への運搬は長距離になることから、ホエイは濃縮ホエイとしての輸出が増加している。

 主要生産国にとって、かつてはほとんど利益が出なかったホエイを、いかに付加価値をつけて販売できるかは、重要な事項となっており、様々なホエイ利用に関する研究も進められている。

(2)植物性油脂添加粉乳(Fat Filled Milk Powder:FFMP)

 また、ホエイと同様に注目すべき商品として、植物性油脂添加粉乳(Fat Filled Milk Powder:FFMP、HSコード:1901 90)がある。これは、ホエイなど脱脂粉乳に乳製品以外の油脂を添加した製品であり、添加する油脂は、主に植物油脂のココナッツ油脂やパーム油脂である。

 2012年の生産量を見ると、世界全体で約230万トン、最も生産量が多いのは、EUで約131万トン、米国で40万トン、NZで約14万トンとなっている(図15)。消費量を見ると、EUで最も多く消費されており、次いでアフリカ、米国と続き、日本も第4位となっている(図16)。

図15 植物性油脂添加粉乳の生産量(2012年)
資料:GIRA
図16 植物性油脂添加粉乳の消費量(2012年)
資料:GIRA
  注:MENA(ミーナ諸国):主に中東および北アフリカ地域を指す。
 この植物性油脂添加物粉乳は、脱脂粉乳やホエイを基に生産されており、利点としては、製品によってたんぱく含有量および脂肪含有量の調整が可能であること、また、熱帯地域など高温地域で発生する粉乳の臭い低減などが挙げられる。

 この植物性油脂添加粉乳の利用先は、主に飼料、パンやアイスクリームなどへの添加剤、また、その他コーヒークリームなどにも使われている。

 また、植物性油脂添加粉乳の価格は、全粉乳と比較して約40パーセント安、脱脂粉乳では20〜25パーセント安で取引されている(図17)。ホエイと同様に、生産側にとっては付加価値製品として、利用側にとっては、汎用性の高さや安価のメリットがあり、今後、需要が伸びる可能性が高い。
図17 植物性油脂添加粉乳、脱脂粉乳および全粉乳価格(2010〜2013年)
資料:GIRA

(3)ヨーグルト

 乳製品部門で需要が伸びている乳製品の一つに生鮮乳製品、特にヨーグルトが挙げられる。ヨーグルトは、近年の健康ブームで発酵食品に対する人気が高まったことから、世界的に消費が拡大している。また、ヨーグルトは、手軽さ、安価であることなど、現代の消費者の要求を満たしている製品でもある。乳業メーカーとしても乳酸菌の種類や効能の違い、果実やシリアルを加えるなど特徴ある新商品の開発がしやすく、その違いについても、消費者に対してアピールしやすいというメリットがある。

 今回の会議(GIRA)では米国のヨーグルトの状況について紹介された。

 2012年、米国のヨーグルト生産量は200万トンを超えた。ヨーグルトは、年間売上高60億米ドルに達する市場であり、過去5ヵ年平均5パーセント増で市場が成長している。また、過去10年で年平均4つのヨーグルト工場が設立されており、2012年で全米では131のヨーグルト工場が存在する。

 なぜ、これほど米国でヨーグルトの消費が増加したかというと、まず、調理がいらなく簡単に食することができ、カップはごみ箱に捨てるだけで洗う手間がない、といった簡便性の高さ、そして、自分の好みに利用ができる利便性の高さが、米国のライフスタイルにマッチしたといえる。

 特に、大ブームになった「ギリシャヨーグルト」は、さらに米国でのヨーグルトの存在を高めた。2007年に米国のヨーグルト市場に新規参入したチョバーニ(Chobani)社は、このギリシャヨーグルトのみで、米国のヨーグルト市場の12パーセントを占有するまでになった(図18)。同社のヨーグルト工場は、世界最大規模であり、週あたり170万個のギリシャヨーグルトを生産している。また、同社のギリシャヨーグルトの人気により、現在は、ほぼ全ての主要乳業メーカーで「ギリシャヨーグルト」が作られるまでになった。なぜ、ギリシャヨーグルトが米国で大ブームとなったかを見ると、当該ヨーグルトの特徴は、「防腐剤、保存料など無添加」、「自然原料のみ」、「グルテンフリー」、「高タンパク質含有」であり、正に米国の消費者のニーズにマッチしたものである。

注:米国で流行したダイエット方法の一つで、小麦に含まれるグルテンを除くダイエット方法がある。通常のヨーグルトは、凝固剤として添加されている。

 当初、濃厚でチーズクリームのようで人気を博したギリシャヨーグルトであるが、現在の米国でのブームは「無脂肪ギリシャヨーグルト」となっている。

 また、マクドナルド、スターバックス、サブウェイを始めとしたファストフード各社が、健康食品としてヨーグルト製品を導入したことも消費の拡大を導いた。

 米国のヨーグルト消費量を見ると、年間1人当たり6キログラムであり、EUの平均25キログラムと比べるとまだまだ少なく、今後も成長が続く市場と見込まれている。

図18 米国における乳業メーカー別ヨーグルト市場シェア
資料:GIRA Dairy Club

4.まとめ

 以上のように、2012年および2013年の動向をみると、世界の生乳生産は、天候に左右された年であったが、乳製品部門は世界的規模の需給ひっ迫を背景に、供給側が優位に動く状況となった。

 今後の動向としては、需給ひっ迫の状況が継続する中で、天候などにより生乳生産が減少に動いた場合、国際市場の乳製品価格高騰を招くとともに、その後、高騰による過度な生乳増産といった悪循環が発生する可能性が高くなり、乳製品市場の不安定さが増すことが指摘されている。

 また、乳製品市場の成長により、主要生産国による発展市場の獲得は、今後も継続すると思われるが、NZと中国との関係を見ても明確なとおり、FTAなどの通商協定が大きく影響を及ぼすため、今後のインド−NZのFTA、EU−米国のTTIPなどの通商動向は注視する必要がある。またその一方で、輸入国であり大きな市場を保有する中国、ロシアなどでは、国内の生乳生産を増産する動きがみられており、効率的な生産と流通の構造再編が進められている。

 また不確定要素ではあるが、南米やインドといった潜在的な生産能力を持つ国の動向、現在行われている粉乳工場などに対する投資から実際の稼働が始まった際の需給への影響なども、今後の乳製品市場にとって注視すべき事項である。

 現在、大きく変化している乳製品市場は、世界規模での流れと同時に個々の市場動向を多角的に捉え、かつ、新たな乳製品の動向も捉えることにより、より的確な状況把握につながると思われる。

〜持続可能性:sustainability〜

 GIRA Dairy ClubおよびEDA会議のみならず、現在、EUでは「Sustainability:持続可能性」という言葉を頻繁に耳にする。EUで「Sustainability」という言葉が公的に使われ始めたのは、1997年のアムステルダム協定である。その後、2006年6月に欧州議会から出された「EUの持続可能な開発戦略の見直し」(SDS:Review of the EU Sustainable Development Strategy)を基に、2007年に欧州委員会が加盟国首相に委任事項を通達、さらに2009年に再度見直しがなされた。これに基づき、EUでは農業分野のみならず全ての分野で「持続可能性」が求められ、重要な達成事項となっている。農業部門では、持続可能性として、特に「環境」への負荷軽減が求められており、2013CAP改革にあたっては、直接支払の30パーセントを「Greening:緑化」(環境保護条件の強化)に充て、条件の達成により支払がなされることが決定された。乳業部門は、成長市場に対する国際競争力を高めるために「生産性」を強化したい生産側と、「持続可能性」を重視する欧州委員会との間でかなりの論争があったものの、農業をより多面的な意味あるものとしていくことが今後の農業には必要であるとして、決定に至った。

 両本会議でも、酪農部門の「Sustainability」の現状と今後の動向がテーマとして挙げられ、活発な議論が行われた。また、英国の酪農部門での「Sustainability」の取り組みが紹介され、具体的な環境負荷への目標を掲げるとともに、環境以外でも、食品の安全性確保、雇用、雇用環境の改善などの項目があり、社会における産業の持続的な発展が目的となっていることが示された。

 EUのみならず経済発展し、成熟した国は、発展途上国の追随の中でどのように自国を維持していくかが問われている。「Sustainability:持続可能性」は、農業も生産のみに着目していれば、安価な輸入品に到底太刀打ちできるものではないが、農業の多角的な社会への寄与を明確にし、また、目標とすることで産業としてのあり方が変わってくることを示唆するものである。

図:英国の酪農のビジョン(抜粋)と持続可能性マップ
資料:GIRA

 
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