特集:自給飼料生産の振興に向けて  畜産の情報 2013年2月号

我が国の自給飼料生産を
めぐる状況について

農林水産省生産局畜産部畜産振興課 草地整備推進室長 
小倉 弘明


飼料自給力強化の必要性

 食料・農業・農村基本計画では、平成32年度の飼料の自給率目標を、粗飼料は20年度の79%から100%に、とうもろこしや食品残さなどの濃厚飼料は同11%から19%としている。国産飼料の供給力を強化することのメリットは、食料の安定供給という面だけではない。酪農や肉用牛の経営コストに占める飼料費の割合は4〜5割と高く、飼料自給力を強化することは、畜産経営コストの削減、安定に大きな効果が期待できる。輸入に依存している飼料原料の穀物価格は高止まりし、輸入粗飼料についても日本向けの産地である米国西海岸での降雨被害などにより24年産は高値基調で推移し、さらに為替は円安傾向となっていることから、畜産経営の安定を図るために飼料自給力を強化することは喫緊な課題となっている。

図1 経営コストに占める飼料費の割合

飼料基盤の整備

 飼料の作付面積は平成23年度で約93万ヘクタール、このうち、水田や畑の他、約60万ヘクタールは草地で生産されている。草地の造成・整備は、自給飼料生産に向けた施策の重要な柱として取り組まれ、離島などでは採草地や放牧地の整備による肉用牛の産地形成を通じて地域の振興に貢献している。また、整備後の牧草地は、雑草の侵入や土壌の硬化もあって経時的に生産性が低下してくるため、耕起、再播種等の定期的な更新が必要になる。農林水産省では、新たに育成された優良な品種を導入し、草地の生産性向上を図る組織的な取り組みに対する支援も行っており、これらの取り組みによりTDNでの収量が2、3割アップする例もみられる。事業の対象として、基盤整備は1年間に1万ヘクタール前後、草地生産性向上は同5000ヘクタール前後に止まっているが、最近、北海道では草地の植生を点検し、簡易な追加播種手法などで牧草の生産性を改善する取り組みも広がってきており、今後のペースアップが期待されている。

自給飼料の放牧利用〜低コスト、土地資源の活用

 放牧は飼料生産や飼養管理の省力化が可能であるだけではなく、社会的には、林地や傾斜地など国土の有効利用や環境保全といった役割も果たしている。また、自治体や生産者組織が維持・管理する公共牧場(全国約800カ所)は肉用牛の繁殖、乳牛や肉用牛の育成の場として活用されている。また、食育や牧場体験の場を提供している例などがあり、関係団体によっては放牧畜産として生産される家畜、畜産物の認証も行われている。最近では、放牧場所を細かく区分し、移動しながら栄養価が高く草丈の短い牧草を食べさせていく集約放牧の技術も普及している。また、耕作放棄地の解消や獣害対策が課題となる中、水田や林地境界における放牧技術も多面的に活用されている。

飼料作物の品種改良〜良いものを広く普及

 飼料作物の生産性を向上させるには、他の作物と同様、我が国の多様な気候風土に対応した高能力の品種の利用が必要であるため、飼料作物の品種改良は、自給飼料増産対策の重要な柱として古くから取り組まれている。現在では、(独)農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所や都道府県の試験場などが品種育成を行い、(独)家畜改良センターで増殖後、民間団体、種苗会社が海外で増殖し、国内の畜産農家に供給する仕組みが確立され、国内外のメーカーが育成した品種と併せて活用されている。最近では、寒冷な地域でも生産が可能な青刈りとうもろこしの品種や、飼料用米用の多収性の専用品種などが育成され、国内での飼料生産の新たな取り組みや生産地域の拡大を支えている。

飼料生産・調製の外部化〜効率化、高度化

 国内の飼料作付面積は平成に入って減少の一途をたどっているが、農家戸数も減少しているため、1戸当たりの飼料作付面積が増加してきた。その結果、飼養頭数の増加も相まって、家族労働力の不足が自給飼料増産のネックになっている。そのため、増加する飼料作付面積に対し、コントラクターやTMR(完全混合飼料)センターが、飼料生産作業の外部化、効率化のみならず、良質な飼料生産・利用の面でも地域において大きな役割を果たし始めており、全国でそれぞれ500組織、100カ所を超えるまでになっている。これらの組織により、飼料生産部門での実質的な草地の集積や規模拡大だけではなく、飼料の生産・調製・給与技術の高度化・高位平準化や農業副産物、食品残さなどエコフィードを活用した飼料生産などの副次的な効果を生み出している。
図2 TMRセンター及びコントラクター組織数

水田の利用〜地域の土地資源の活用

 水田240万ヘクタールの飼料利用は、米作の副産物である稲わらや裏作も含め古くから行われ、都府県では貴重な飼料生産の基盤となっている。平成10年代半ばからは、稲WCSの生産や飼料利用を目的とした飼料用米の生産が推進されてきた。24年度には飼料作物には10アール当たり3万5000円、飼料用米、WCS用稲には同8万円が交付され、同年度には、飼料作物の10万3000ヘクタールに加え、飼料用米は3万5000ヘクタール、WCS用稲は2万6000ヘクタールにまで拡大してきている。また、飼料用米の利用と生産された畜産物の提供を通じ、地域や消費者とのつながりも広がっている。これらの取り組みを定着させるため、引き続き生産、流通・消費の両面で創意工夫を重ねていく必要がある。

おわりに

 輸入飼料穀物や粗飼料の価格が高騰する中で畜産経営の安定・向上を図るためには、国産粗飼料の生産や流通等の機能を強化し、低コストで継続的に利用できる体制を整備していく必要がある。
TMRセンターなど飼料の生産・調製施設等の経年劣化や飼料調製技術の高度化により、施設の安定的継続運営が課題となっている。対策として、施設の改修や経営・運営管理のサポートの他、畜産農家の規模拡大や効率化に対応するための飼料生産機械の導入が必要になっている。

 さらに、今般の中国での口蹄疫の発生に伴う中国産稲わらの輸入停止など、粗飼料の海外からの供給が不安定になっており、国産粗飼料の一層の利用拡大を図る必要がある。

 現在、これら緊急性の高い課題に応えていくため、(独)農畜産業振興機構の支援体制を活用した対応について検討しているが、本誌が発行になるころは平成24年度補正予算が明らかとなっている。

 飼料自給力強化のための生産・調製に関する技術・知見の集積、コントラクターやTMRセンターといった組織等の強化に加え、これを実現できる生産機材も開発されてきている。飼料を増産し飼料費を低減するためのこれらの事業を活用しながら、もう一段上の飼料自給力強化が図れることを願う。
図3 国産飼料基盤に立脚した畜産への転換

(プロフィール)
小倉 弘明(おぐら ひろあき)

1959年鳥取県生まれ。麻布大学修士課程修了後、農林水産省入省。消費・安全局国内防疫調整官、生産局首席畜産専門官を経て2010年10月から現職。

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