調査情報部 前田 絵梨、小林 誠
V.畜産の干ばつへの対応および今後の畜産物生産見通しなど1.肉牛生産の干ばつへの対応と今後の見通し米国では、ほとんどの地域で牛の生産が行われている。牛飼養者数は農業者の中で最も多く、また、国内の農産物販売額に占める肉牛産業の割合も最も大きいことから、肉牛産業は米国農業で最も重要な部門の一つとなっている。肉牛産業は、放牧主体で営まれる繁殖経営が生産の基盤となっている。肉牛繁殖経営は、テキサス州やオクラホマ州など中南部および中西部の草地を中心に家族経営により行われており、肥育(フィードロット)経営は、ネブラスカ州やカンザス州などコーンベルトを中心に大規模なフィードロットで効率的な穀物肥育が行われている。 牛飼養動向調査(米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS))によると、米国の牛飼養頭数は、1975年に過去最高の1億3200万頭を記録した後、現在(2012年7月1日)は、9780万頭となり、同調査においてデータが確認できる1973年以降最も少ないが、2012年の干ばつの影響を受け、今後はさらに減少すると見込まれる。
(1)2年連続(2011年、2012年)の干ばつの肉牛生産への影響肉牛産業への干ばつの影響を分析するに当たり注目すべきは、テキサス州など米国最大の肉牛繁殖地域が2年連続の干ばつに見舞われた点にある。肉牛産業の基盤は放牧が主体の繁殖経営であるため、牛飼養頭数は、子牛・肥育素牛価格のほか、干ばつなどの気候条件による草地の状態が大きな要因となって変動する。肥育素牛価格は2004年をピークに下落傾向で推移した一方、肥育牛価格は米国産牛肉に対する信頼回復に伴い一時は上昇傾向にあったが、2008年のリーマンショックにより急落した。2009年以降は、国際的な需要の高まりなどから、両価格ともに上昇に転じており、牛飼養頭数がさらに減少していることから、肥育素牛は高値で取り引きされている。2009年から2012年にかけ、肥育素牛価格は100ポンド当たり56ドル(キログラム当たり109円)上昇し、2012年は同158ドル(同307円)に、肥育牛は40ドル(同78円)上昇し同123ドル(同239円)となり、いずれの価格も記録的な水準となっている。なお、価格上昇の傾向は、繁殖基盤が回復するまでは継続するとみられる。
Informa economics社の試算によると、繁殖経営の一頭当たりの生産費は、トウモロコシ価格が高騰した2008年の575ドル(50,600円)を上回り、2011年は600ドル(52,800円)となった。2012年は更に100ドル(8,800円)上昇し、700ドル(61,600円)を記録した。しかし、肥育素牛価格が高値で推移していることから、収益はプラスとなっており、飼料費が上昇したにも関わらず肥育素牛価格が上昇しなかった2008年および2009年を除き、1990年代末以降は黒字となっている。牛飼養頭数が減少していることから、肥育素牛価格の高値は続く見込みであり、これによる収益確保は2013年も続くとみられる。しかし、2012年の収益の幅は、飼料費の急激な上昇による肥育素牛需要の弱まりから、前年を下回るものとみられる。
なお、7月1日時点でフィードロットに導入される前の肥育素牛頭数は、前年同月よりも120万頭少ない3570万頭であった。1990年代終わりの頭数は4300万頭程度であり、現在よりも700万頭程度多かった。肉牛生産者の情報ネットワークであるCattle Faxへのインタビューによると、現在のフィードロットの収容能力は当時と変わらないことから、フィードロットを運営するだけで赤字が出る状況にあり、最近は、赤字を減らすために経営を縮小する傾向がみられるという。また、担当者によると、肥育素牛の供給頭数が減少していることから、フィードロット経営間に肥育素牛の確保競争が生まれ、このために肥育素牛価格が上昇しているという。枝肉価格が高水準であっても、飼料費高騰の下では収益を期待できず、フィードロットではやむを得ず導入頭数を絞っている傾向がみられるという。 フィードロット経営の収益は、歴史的な低水準となっており、2012年は1頭当たり150ドル(13,200円)超の赤字が出ている。収益は2011年半ば以降マイナスで推移していることから、経営赤字を補填するために取り崩した自己資本は相当な規模になることがうかがえる。飼料穀物価格が落ち着いたとしても、肥育素牛価格が高値で推移する間は肥育素牛導入を控える可能性も考えられ、フィードロット経営はしばらくの間、厳しい状況にさらされるだろう。
干ばつのフィードロットへの影響 ネブラスカ州のフィードロットの収容頭数はテキサス州に次ぐ全米第2位となっている。同州には、カーギル、JBS、タイソンなど大手パッカーの処理場があるほか、エタノール生産が全米第2位であることから、エタノール蒸留かす(DDGS)が利用しやすく、他州よりも有利な状況にある。 10月に訪問した肉牛生産者は、フィードロット(14,000頭)とトウモロコシ(800エーカー(320ヘクタール))、大豆(200エーカー(80ヘクタール))の複合経営を行っている。飼料穀物の購入分は、ほぼ全てをシカゴ相場の先物でヘッジしている。飼料の構成を見ると、50%をDWGS(水分含量の高いDDGS。当該生産者は、水分含量50%のものを利用。)が占め、トウモロコシは15%に抑えられている。ネブラスカ州にはエタノール工場が多く立地しており、畜産生産者は乾燥していないエタノール蒸留かす(DWGS)を安価で購入することができる。トウモロコシ価格の高騰で、肥育コストは、前年の生体100ポンド当たり110ドル(キログラム当たり213円)程度から、2012年は同125ドル(同243円)まで上昇した。9月のパッカーへの販売価格は、肥育牛(枝肉)で100ポンド当たり195ドル(同378円)(生体では同124〜125ドル(同241〜243円))であることから、利益幅が非常に小さいことが分かる。なお、肥育素牛は損益分岐点価格で購入しており、トウモロコシ価格がブッシェル当たり8ドル(トン当たり27,700円)を超えて推移すれば、経営の継続は困難になるという。なお、肥育素牛価格が高値で推移する中での飼料穀物高であるため、トウモロコシ生産との複合で経営している小規模フードロットについては生産を停止したところもあるという。
(2)干ばつの影響に対する生産者の短期的対応テキサス州などの繁殖経営では、2011年の干ばつでは放牧地の牧草生産量が減少したため、粗飼料の購入や干ばつの影響が少ない北部諸州への牛群の移動を余儀なくされた。2012年は干ばつ被害が米国全体に拡大したことで、この様な動きがさらに進んだ。なお、繁殖雌牛を他の地域に移動させる際の方法としては、雌牛を他の繁殖経営に販売する方法と、飼料費などを支払い一時的に避難させてもらう方法がとられている。しかし、これらの対応が困難な場合、生産者は確保できる飼料や水などの条件に合わせた規模の飼養規模にせざるを得ないことから、子牛の早期出荷や保留計画の変更、繁殖雌牛の
と畜頭数は、2011年はテキサス州など南部平原を中心に雌牛淘汰が急速に進んだことから、前年を大きく上回って推移している。2012年は、前年を下回るものの過去平均を上回って推移している。これは、牧草や水などを考慮した飼養規模にするため、繁殖効率の悪い雌牛を中心に淘汰したことや、酪農も飼料費高で経営が圧迫されていることから、乳牛のと畜が進んだためと考えられる。
かんがいによる干ばつ被害の軽減 ネブラスカ州は、全米第3位のトウモロコシ生産量を誇り、肉牛フィードロット経営も盛んに行われている。2012年の干ばつの際にネブラスカ州は他州と比べ被害が小さくなっているが、これは同州におけるかんがいの普及と関係が深い。同州の6割以上の面積でオガララ帯水層を地下にもつため地下水が豊富であり、全耕地の約7割でセンター・ピボット方式を中心としたかんがいが施されている。
当該生産者のトウモロコシの単収をみると、かんがいほ場では、例年ならばエーカー当たり180〜200ブッシェル(11.3〜12.5トン/ヘクタール)のところ、2012/13年度産は同200ブッシェル(12.5トン/ヘクタール)であった。また、天水ほ場では、例年ならば同120ブッシェル(7.5トン/ヘクタール)のところ、2012/13年度は同80〜100ブッシェル(5.0〜6.3トン/ヘクタール)であった。 農場では例年500〜600ミリ程度の降水量があるが、2012年は200〜250ミリ程度だったことから、300〜350ミリ程度に相当する分をかんがいにより供給した。この給水量は例年より多いため、ポンプを稼働させるための燃料費などが、例年、エーカー当たり50〜70ドル(10,900〜15,200円/ヘクタール)のところ、同100ドル(同21,800円)程度となるなどかんがいによる経費が増加した。 なお、同州のトウモロコシは比較的作柄が良いが、作柄が著しく不良なほ場では、穀実を収穫せずサイレージ用にロールされるほか、粗飼料の不足対策として収穫後のトウモロコシ稈もロールにされる。
購入費用は、ブーム7,000ドル(616,000円)、井戸整備25,000ドル(220万円)、揚水ポンプとモーター設置10,000ドル(88万円)で、平均的な耐用年数は25年程度とのことである。 (3)飼料事情とフィードロット経営の動向フィードロット飼養動向を見ると、米国ではトレンドとして、輸送コストをかけずDDGSやDWGS(水分含量の高いDDGS)を安価に入手できることから、エタノール工場が立地する州の飼養頭数が拡大傾向にある。例えば、コーンベルトに位置し、エタノール工場が多く立地するアイオワ州/ネブラスカ州の12月1日時点のフィードロット飼養頭数の全米シェアを見ると、2000年代初めは22〜23%であったが、現在は26〜28%まで拡大している。一方、テキサス州/カンザス州では、49〜51%から39〜46%まで低下している。なお、ネブラスカ州はエタノール生産が全米第2位であるが、肉用牛などの生産も盛んであることから、DWGSはほとんどが州内で消費されている。この様な牛群の移動は、2012年の飼料穀物高の経験を踏まえ、今後も継続するものとみられる。(4)今後の見込み現在、放牧地の減少などから繁殖雌牛の保留が進んでおらず、未経産牛や繁殖向け雄牛の飼養頭数が減少している。このため、仮に、2013年が天候に恵まれ、草地の回復が進み牛群再構築のための雌牛保留が進んだとしても、子牛生産までは時間を要することから、牛飼養頭数が増加に転じるには数年かかるものと予想される。2011年の干ばつでは、2011年夏から秋にかけて肥育素牛のフィードロットへの導入が進んだことから、2012年は多くのフィードロットで前年を上回る飼養頭数となった。また、2012年も放牧地の減少から、フィードロットへの早期出荷が続いたことから、現在、肥育素牛が供給不足の状態にあり、今後、少なくとも2013年中頃まではフィードロット飼養頭数が前年水準を下回って推移するものと考えられる。また、このことから、2013年も肥育素牛価格は高値で推移すると見込まれる。 遺伝的な改良などにより一頭当たりの枝肉重量は増加傾向で推移しているものの、牛飼養頭数の減少から牛肉生産量の減少が続くものとみられ、米国農務省経済調査局(USDA/ERS)が12月17日に公表した統計においても、2012年の牛肉生産量は前年比1.2%減、2013年は同5.0%減になると予想されている。 また、2013年は牛肉生産量の減少により、米国では豪州産加工用牛肉など低価格牛肉の輸入が増加するも、輸出向けは前年同の水準を維持すると見込まれ、特に日本向けなどの高品質な牛肉の輸出への影響はわずかと予想される。
2.酪農の干ばつへの対応と今後の見通し米国の生乳生産は、1960年代には大消費地に近い東北部と飼料穀物の生産量が多い中西部北方とコーンベルト諸州で約7割を占めていたが、特にカリフォルニア州における経営規模拡大が進んだ結果、2010年にはこの3地域を合わせても47%にまで低下した。家族経営による中小酪農の代表的な地域として、中西部北方のウイスコンシン州は、1960年の生乳生産量のシェアが14.4%であったが、2010年には13.5%へとわずかに低下しているのに対し、西部のカリフォルニア州は、1960年のシェア6.5%が2010年には19.3%まで大幅に拡大している。ウイスコンシン州とカリフォルニア州の酪農の違いは、ウイスコンシン州が中小規模で飼料穀物を含む飼料のほとんどを自給できるのに対し、カリフォルニア州は降水量が少ないため飼料穀物の生産がほとんどなく、濃厚飼料のほとんどを購入しなければならないという点にある。
米国では、コーンベルトとその北部諸州、東北部の酪農家は自らも飼料穀物を生産しているので、短期的な飼料穀物価格高騰の影響は受けにくい。しかし、同時に、2012年の干ばつはこれらの地域でも深刻だったため、飼料穀物生産量が減少しており、搾乳牛頭数の削減、飼料配合の変更や自家生産で不足した分を購入するといった対応が必要とされているとみられる。ほとんど全ての飼料穀物を購入に頼っている西部や中南部の酪農家は、飼料穀物価格の高騰の始まる以前の早い時期から牛群の縮小や飼料配合の変更を行っている。西部では、既に生乳生産量の減少が2012年5月から始まっているのに対し、コーンベルトと東北部では同年9月までの間に牛群の縮小が行われ、コーンベルト北部諸州では乳牛頭数にほとんど変化が見られないという違いがある。
干ばつの乳業会社への影響 グラスランド社は、ウイスコンシン州グリーンウッドを本社兼主力工場とし、ウイスコンシン州、ネブラスカ州、ユタ州の計4カ所に工場を有している。創業は1904年、スイスからの移民により設立され、現在の社長は4代目となる。同社は、全米のクリーム生産量の3〜4割を購入し、バターに加工しているほか、本社工場では周辺の契約農家から日量2,270〜2,720トンの生乳を買入れている。生乳は買入れているが、飲用乳は生産しておらず、乳製品に特化している。製品としては、主力のバターのほか、デイリースプレッド(カノーラ油と混合)、脱脂粉乳、チーズ、ホエイパウダー、WPC(Whey Protein Concentrate:タンパク含量70%)、WPI(Whey Protein Isorate:同85〜90%)、乳糖を製造している。バター以外の乳製品は自社ブランドで販売しているが、バターについては他社ブランドが98%であり、自社ブランドでの販売は州内での販売などごく少量となっている。他社ブランドとしては、ウォールマートなどのスーパー、ディーン・フーズなどの乳業会社、ランドオレイク酪農協などがある。2011年の売上高は、約20億ドル(1760億円)であり、このうち8〜9割が国内での販売となっている。同社社長によれば、基本的な加工施設を全て所有しているため、顧客のニーズに合わせた規格の製品を製造できることが強みだとしている。
(2)干ばつの影響に対する生産者の短期的対応2012年の干ばつの影響は、飼料費の上昇として表れており、スポット市場で飼料を購入している酪農家が直接的な影響を受けた。一般に、米国の酪農家は、飼養規模の縮小や生乳出荷量を減らすことを嫌う傾向がある。また、酪農家は、牛舎、生乳タンク、サイロなどの飼料関連施設・機械、トラクターなどの飼料生産機械類、乳牛といった資産を多く保有している。したがって、ほとんどの場合、できるだけ多くの生乳を生産して固定資産の償却分に分散し、平均生産費を低くするという経営戦略をとる傾向がある。酪農家は、乳価が低下して生産費を下回った場合であっても、乳価が飼料費などの変動費よりも高い限りにおいては、できるだけ多くの生乳を生産しようとする。しかし、このような状況においては、酪農家のキャッシュ・フローに問題が生じるので、酪農家は貯蓄の切り崩しをせざるを得なくなる。酪農家に貯蓄がない場合には、資産を担保とした銀行などからの借入金に頼らざるを得ない。しかし、リーマンショック以降、銀行は酪農家への融資により慎重になっているため、運転資金に対する銀行融資を受けることは容易でなく、一部の酪農家は乳牛の売却や破産に追い込まれている。したがって、酪農家にとって最善の短期的対応は生乳生産を続けることだが、2013年に入っても当分は飼料穀物価格の高止まりが予想されることから、生乳の生産コスト構造を見直すなどの対応が必要になる。このような状況において、西部の酪農家は飼料配合を変更し、飼料費を削減している可能性がある。ウイスコンシン州など飼料をほぼ自給できている州の1頭当たりの生乳生産量が対前年の水準をやや上回っているのに対し、飼料を自給できない西部と中南部では2012年の1頭当たりの生乳生産量が前年を下回っており、飼料配合の変更が影響しているとみられる。通常、より品質の高い飼料を給与するためのコスト上昇分は、これによって得られる生乳の増産分による収入より低いので、飼料費の上昇分が小さければ、できるだけ品質の高い飼料を給与するはずだ。しかし、このような事実に目をつぶって、より安い飼料を給与するという判断を行うのは、中西部・西部の酪農家が飼料費の高騰による短期的な資金の流出を抑制し、長期的に生き残りを図っていることの表れとみることができるだろう。
干ばつの中小酪農家への影響 2012年11月中旬、グラスランド社の好意により、ウイスコンシン州グリーンウッド近郊の平均的規模の酪農家を2軒ご紹介いただいた。
(3)干ばつの影響に対する生産者の中・長期的対応飼料穀物価格高騰に対する生産者の中期的な対応としては、乳牛頭数の減少、トウモロコシの飼料配合割合の低下とこれに伴う乳量の減少や搾乳牛頭数の減少と繁殖経費の削減による育成牛頭数の減少が想定される。過去には、ほとんどの飼料を自給しているコーンベルトとその中西部北方諸州で全米の49%の生乳が生産されていたので、飼料穀物価格が高騰しても全米の生乳生産量に与える影響は小さかったが、2010年のこれら諸州の生乳生産量のシェアは32%まで低下しており、飼料を購入に頼っているカリフォルニアなど西部、中南部での生産量が48%にまで拡大しているため、以前よりも飼料穀物価格高騰の影響を受けやすくなっている。また、長期的な対応としては、酪農家戸数の減少、資産の減少と借入金の増加、飼料の自給割合の増加が予想される。しかし、飼料の自給割合の増加は、カリフォルニア州のように飼養頭数が多く、地価の高い地域では極めて困難と言わざるを得ない。 その他の干ばつの長期的影響には、生乳に移行するトウモロコシのアフラトキシン汚染の問題がある。多くの州では既に生乳のアフラトキシン検査を毎週実施することを義務化しているが、生乳にアフラトキシンが0.5ppb以上検出された場合には、生産者のコスト負担により廃棄しなければならない。これまでのところ、このようなケースが多発しているわけではないが、廃棄となれば経済的な打撃が大きいほか、自給飼料穀物が汚染されている場合には新たな飼料確保が必要となり、やはり経済的な打撃は大きいことになる。 干ばつの大規模酪農家への影響 ファシリーニ・ファームステッドは、カリフォルニア州北部のモデスト市に所在し、現在の経営者であるジョン・ファシリーニ氏の祖父が1912年に酪農を開始した。開業時の飼養頭数は不明だが、1930年代には搾乳牛40頭規模になっており、その後、徐々に規模を拡大してきた。2012年11月中旬の訪問時の飼養頭数は、搾乳牛1,500頭、乾乳牛200頭、育成牛800頭であった。乳牛の品種は、自家製チーズ用にジャージー種を100頭飼養しているほかは全てホルスタイン種である。飼料畑は600エーカー(243ヘクタール)保有しており、サイレージ用トウモロコシとイネ科牧草を栽培しているが、アルファルファは栽培していない。農場従業員は、ヒスパニック系の移民を中心に27名が3交代勤務している。
(4)今後の見込み 米国で生産される生乳の約8割は、まずは酪農協同組合(酪農協)により集乳される。酪農協は、その後、集めた生乳を最も高い価格で買い取る乳業者へ販売する。買い手が見つからない場合、酪農協は生乳を貯蔵性の高い乳製品に加工せざるを得ない。このため、米国のバターと脱脂粉乳工場のほとんどは酪農協が所有している。生乳生産量が減少すると、酪農協の手元に売れ残る生乳が減少するので、米国内で生産されるバターと脱脂粉乳の量が減るというのが典型的なパターンとなっている。2012年第3四半期には、米国のバター生産量が2%、脱脂粉乳生産量が0.5%減少し、チーズの生産量は2%増加している。 世界の牛乳・乳製品需要は、乳製品価格が比較的高いことと世界経済の成長率が低いことにより、2013年上半期の需要は停滞するものとみられる。しかし、世界各地の異常気象により、乳製品生産量も停滞することが予想されるため、価格は堅調に推移するものとみられる。2013年の米国の作物生育期の天候が良好であれば、下期の飼料穀物価格が安くなることが想定されるため、酪農家の収益性が好転し、生乳が増産されることによって2013年第4四半期以降の牛乳・乳製品価格は低下することが予想される。 3.養豚の干ばつへの対応と今後の見通し米国の養豚は、全米飼養頭数シェアの3割を占めるアイオワ州や1割を占めるイリノイ州を中心とするコーンベルトで伝統的に穀物生産や肉牛経営の副業として営まれてきた。米国の養豚の特徴は、経営のタイプが従来の一貫経営から、分娩から出荷までの生産過程における一工程に特化する形態にシフトしてきている点と、急速に生産の集約化が進んでいる点が挙げられる。近年、ひとつの経営形態として、食肉パッカーが自ら養豚場を所有するなどのインテグレーション(垂直統合)が進み、コーンベルトから離れたノースカロライナ州などでも生産が拡大した。ただし、ノースカロライナ州はアイオワ州に次ぐ全米第2位の養豚産地にまで成長しているものの、養豚業の中心地は全頭数の6割程度が飼養されるコーンベルトとなっている。 現在は飼養技術の進歩や大規模化などにより効率的な生産体制が確立されており、豚飼養頭数は変動を繰り返しながらも、1980年代中頃から緩やかな増加基調で推移している。
(1)2012年の干ばつの養豚業への影響豚の生産者は養豚業と穀物生産の複合経営を行っている場合が多いことから、他の畜種に比べ飼料穀物価格高騰の影響をある程度吸収しやすい状況にはある。2012年12月1日現在の豚飼養頭数を見ても、総飼養頭数は前年同水準、子取用めす豚頭数は対前年比0.2%増と、経営の縮小は起こっていない。
(2)干ばつの影響に対する生産者の短期的対応他の畜種に比べると干ばつの影響は大きくないが、生産者は、飼料穀物や生体価格の変動に合わせたスポット的な対応を行っている。と畜頭数の週ごとの推移を見ると、過去2カ年の頭数を上回っている時期が2回ある。1度目は、トウモロコシ価格が急騰した7月下旬から8月にかけてであり、複合経営におけるトウモロコシ価格と肥育豚価格のバランスに基づく収益の最大化の結果として、養豚の規模を調整するため、イリノイ州およびインディアナ州の一部の生産者が、母豚を淘汰したことによるものとみられる。これにより、9月1日時点の子取用めす豚飼養頭数は、7四半期ぶりに前年を下回った。二度目の増加は、9月中旬頃見られた。これは、肥育豚価格が7月は100ポンド当たり95ドル(キログラム当たり184円)を越え、8月も同90ドル(同175円)を下回る水準であったが、9月中旬に同60ドル(同116円)台半ばを下回る水準まで急落したことで、収益が肥育豚1頭当たり50ドル(4,400円)を超える赤字になったことによるものと考えられる。 一度目も二度目も、繁殖部門での母豚淘汰によると畜頭数の増加であるが、12月1日現在の子取用めす豚飼養頭数は前年同月を上回っていることから、繁殖効率の悪い個体を中心に淘汰が行われたものと考えられ、干ばつの影響を受け繁殖基盤の縮小が起こったとは言い難い。
一方、肥育経営でも複合経営を行っている場合が多いとはいえ、飼料の一部を購入している経営も少なくないことから、飼料費抑制を目的とした早期出荷の動きがみられている。肥育用飼料の平均的な構成は、トウモロコシ8割程度、大豆かす1割強、DDGS1割弱となっている。現時点での全米規模では飼料の基本的な構成を変更する動きはないものの、個別経営ではDDGS給与割合拡大(上限3割)や、パンなどの食品残さや小麦・大麦の利用などで飼料コストを削減している場合も多い。しかし、すべての経営が同じように対応できる状況にはなく、9月中旬以降は肥育期間の短縮による1頭当たり枝肉重量の減少が見られ始めた。この傾向は飼料穀物価格が落ち着くまで続くと見込まれる。
(3)干ばつの影響に対する生産者の長期的対応飼料穀物高により、肥育部門における収支は2012年夏以降赤字となっているが、赤字で推移する期間は、DDGSの利用による飼料費高騰に対するリスク分散効果などにより、2008年の穀物価格高騰時よりも短いと予想される。なお、収益性が低下すると繁殖基盤の縮小につながると考えられがちだが、養豚は、コーンベルトでの穀物生産との複合経営による場合が多いため、トウモロコシ生産で得られた収益で養豚業の赤字補填をするなど、経営内で流動的に資金運用がされている。また、生産者は豚舎や機械、種豚導入に多額の投資をしており、仮に収益が悪化しても経営を継続せざるを得ない状況にある。これらのことが、現在、記録的な収益性の低下が起こっているにも関わらず、生産が続けられている要因となっている。しかし、今後も肥育部門における収益の低下が続くならば、肥育素豚需要の減退による繁殖部門の縮小や種付けの延期などにより、2013年の豚肉生産量が減少する可能性がある。
(4)今後の見込み2013年の豚肉生産は新穀収穫までは飼料穀物高の影響を引きずるものの、繁殖基盤の縮小が起こらなかったことから、当面、大幅な減産には至らないだろう。USDA/ERSが12月17日に公表したデータでも、2012年の豚肉生産量は前年比1.8%増、2013年は同1.7%減と予想されている。また、2013年の輸出については、前年同の水準を維持すると見込んでいる。なお、養豚業界関係者には、EUでのアニマルウェルフェア対応による生産の減少により、米国からの日本向け輸出が拡大するとの見方もある。
4.ブロイラー産業の干ばつへの対応と今後の見通し米国のブロイラー生産は、中西部のコーンベルトとは離れた東部から南東部諸州で行われているため、ブロイラー生産地帯は常にトウモロコシが不足した状態にある。実際、9月末に実施した米国鶏肉・鶏卵輸出協議会(USAPEEC)へのインタビューでも、「トウモロコシ生産者にとって、ブロイラー産業は身近にないもので、眼中にない」とした上で、ブロイラー生産の盛んなジョージア州のブロイラー農家がトウモロコシを購入する際には輸送経費としてブッシェル当たり40〜50セント(トン当たり1,386〜1,733円)上乗せする必要があるとの調査結果を示している。また、同協議会によれば、畜種別の飼料用トウモロコシの利用割合は、ブロイラーが33%と養豚の28%よりも多く、大豆かすもブロイラー向けが50%となっており、穀物価格高騰の影響が最も深刻なのはブロイラー産業であるとしている。
(1)2012年の干ばつのブロイラー産業への影響米国のブロイラー用飼料は、トウモロコシ6割、大豆かす3割、その他(小麦、DDGS、ビタミンなど)1割で構成されているため、トウモロコシと大豆かすの価格変動は生産費に直接影響する。これらの主要な飼料原料の価格高騰は、既に2011年から始まっており、2012年の干ばつにより一層深刻となった。2001年から2010年までの10年間は、ブロイラーの総生産費に占める飼料費の割合は55〜60%であったが、2011年の年初以降は65〜70%へと増加している。ブロイラーの飼料費は、トウモロコシと大豆かすの先物市場価格(期近)とその他の飼料の推定価格(トン当たり450ドル:39,600円)に輸送費相当分を加え飼料効率(2.0)を乗じたもので推定することが可能だが、これによれば2012年末の飼料費は生体重1キログラム当たり72円程度となる。2007年から2011年までの直近5カ年間の平均飼料費は、同47円程度であるため、価格高騰により飼料費は53%程度上昇していることになる。ブロイラーの生産費に影響を与える要因は、飼料費、燃料費、労賃、技術の進歩、生産性、処理効率など数多くあるが、短期的に大きな影響を与えるのが生産費に占める比率の高い飼料費の変動である。上記の方法で試算した飼料費に飼料費以外のコストとして推計した生体重1キログラム当たり約27円を加え、精肉歩留りを75%としたものに、食鳥処理経費として同43円を加えたものをブロイラー生産費とみなした。 米国内のブロイラーの流通は、丸鶏が2割、精肉が8割程度と言われているため、この比率をそれぞれの価格に乗じた加重平均価格を推定ブロイラー価格とした(図19)。この推定ブロイラー価格からブロイラー生産費を差し引いたものを収益として試算したものが図20である。ブロイラーの推定価格は、過去20年以上にわたり、おおむね右肩上がりで推移しているが、収益性は2008年や2011年といった穀物価格高騰時には悪化している。直近5年間(2007〜2011年)のブロイラー生産費は、キログラム当たり136〜146円だったが、2011年と2012年上半期には同155円前後まで上昇している。トウモロコシと大豆かすの価格高騰の影響は2012年下半期に入ってから現れており、この時期のブロイラー生産費は同173円以上にまで上昇している。トウモロコシと大豆かすの高値は、最低でも2013年の半ば、2013/14年度の作柄が見え始めるころまでは続くとみられることから、ブロイラー生産費も今後半年程度は大幅には低下しないものとみられる。
(2)干ばつの影響に対する生産者の短期的対応2012年の干ばつの影響によるトウモロコシと大豆かす価格の急騰は、ブロイラー生産者の収益性を悪化させることは確実だが、通常、生産者は飼料の在庫を保有しているため、影響は1、2週間後に出始める。また、先物市場をリスクヘッジの目的で利用している生産者も多く、先渡し契約を行っていれば価格高騰の影響は5、6カ月程度先延ばしすることができる。しかし、実際には、春先の楽観的な観測があったため、ほとんどの生産者が飼料費の急騰によって飼料価格の上昇とほぼ同時並行的に影響を受けていたというのが現実的な見方ではないだろうか。実際、USAPEECによれば9月末時点でインテグレーター3社が経営破綻しており、外資も収益性の悪化を見越して進出を断念している。 このような飼料費の高騰に対して、生産者が取り得る手段は、種鶏(コマーシャル)の減羽以外ほとんどない。種鶏の減羽には、種鶏維持のために必要な飼料の削減とブロイラー用雛の減羽という2つの目的がある。雛の供給羽数をブロイラー価格が上昇する程度まで減らすことにより、ブロイラー生産費の上昇分をカバーすることが可能となる。種鶏の淘汰はすぐに行えるが、種卵のふ化には3週間かかること、種鶏の育成期間である5〜9カ月間分については、既に待機している若鶏がいるので、種鶏の減羽が効果を表すまでには少なくとも2カ月程度かかる。ブロイラー生産用種鶏の月間孵化羽数は、2012年半ばからの羽数の減少が著しい。種鶏の羽数は、2000年代に入って5500万羽から5800万羽の間で推移していたが、2008年の穀物価格高騰時には5300万羽台まで急速に減少した。2009年と2010年にはやや持ち直したものの、2011年に入ってブロイラー価格が伸び悩む中、飼料価格が急速に上昇したため再度減羽が始まった。2012年の種鶏羽数は、5月に5290万羽でピークに達した後減少し、9月には4940万羽となっている。この減少の要因の一部は、例年夏から秋にかけてブロイラー需要が減少することに合わせた季節変動である。しかし、直近5カ年間の年間最大羽数と夏季の最低羽数との差の平均が4.6%の減少であるのに対し、2012年は6.6%の減少となっており、干ばつによる穀物価格高騰の影響が深刻であることをうかがわせる。 種鶏羽数の減少が、最終的にはブロイラー生産量の減少につながることは間違いないが、雛から最終生産物の供給に至る道筋には多くの緩衝要因が含まれているため、両者の相関関係は直接的とは言い難く、種鶏の減羽の影響がいつ頃表れてくるかについては予測し難い。このような緩衝要因の1つとして挙げられるのが、インテグレーターであれば、どの種鶏を淘汰するかの判断が経営者に委ねられているということだ。経営者は、生産性の低い種鶏を先に淘汰するので、結果として残された種鶏の平均生産性は向上することになり、種鶏の淘汰羽数が雛の生産減とは1対1に対応しないことになる。2012年の種鶏羽数は、前年に比べ5%以上減少しているが、1羽当たりの産卵数は2%増加し、過去最多の年間227個となっている。1羽当たりの産卵数が増加しただけでなく、種卵のふ卵率も向上しており、結果として、種鶏の減羽による雛の減少率は一層効果が小さくなっている。さらに、雛の健常性も改善されており、雛のへい死率が低下している。ブロイラーの仕上げ体重と平均と体重量もやや増加しており、これらが合わさって、種鶏羽数が5%減少しているのにブロイラーの供給量は1%しか減少していないという状況になっている。このようにブロイラーの供給減少幅が小さいため、価格にはほとんど変動がない状況となっている。 (3)干ばつの影響に対する生産者の中・長期的対応米国のブロイラー産業は高度に垂直統合されているため、インテグレーターはブロイラーのサプライチェーン全体に対する強い支配力を有している。インテグレーターとの契約によるブロイラー生産者は、初生雛から出荷までの生育過程しか見ていないのに対し、インテグレーターは、ふ卵場を管理し、飼育場に導入する雛の羽数を決定し、飼養期間と目標仕上げ体重まで決定する。ブロイラーの回収、処理、その後の加工もインテグレーターの責任で行われる。ブロイラーのライフサイクルは非常に短く、初生雛から仕上げまで2カ月以内で行われ、生産者間の違いも非常に小さいので、サプライチェーンの分析も他の畜種に比べ単純であると言える。色々な緩衝要因があるとはいえ、種鶏羽数と平均と体重量が分かれば、かなりの精度での将来予測が可能となる。図21は、ブロイラーの処理羽数と1羽当たりの生体重の推移を示しており、1980年代以降2000年代前半まで、米国で進展してきた低価格のタンパク質への需要の拡大に伴って、ブロイラー生産量が順調に増加してきたことが分かる。 雛の供給増とウインドウレス鶏舎の普及によるへい死率の低下といった飼養管理の改善に伴い、ブロイラーの処理羽数はこの間着実に増加してきた。仕上げ時の生体重も着実に増加しており、2000年代半ば以降、処理羽数が伸び悩んでからも飼料効率の向上や消費者の高付加価値産品や高度加工品への需要の高まりに合わせて、より脱骨しやすいように仕上げ生体重の大型化が行われてきた。 ブロイラーの大型化は、当初、より価格の高いむね肉の量を多くすることになったため、インテグレーターの大型化意欲が高まった。しかし、2000年代半ば以降、米国の年間1人当たりのブロイラー消費量がほぼ飽和状態に達し、最近では減少傾向に転じるに至り、むね肉の他の部位に対する価格優位性が揺らいでいる。米国では、経済不振の影響から、むね肉より安価なもも肉や丸鶏への需要が増えている。また、手羽については、近年、スポーツ観戦の際のスナックとしての需要が高く、プレミア価格で取引されており、むね肉よりも高い価格での取引となっている。鶏の大型化によって重量の増えるむね肉とは異なり、もも肉、手羽、丸鶏については、重量ではなく個数が重要であり、丸鶏については小さなものの方が望ましいことが多い。2011年からの飼料費の高騰の影響が2012年の干ばつによりさらに増幅されたため、米国のブロイラー生産者は今後、重量化ではなく、現在の市場動向の下で価値の最大化につながる方法を模索するのではないかと考えられ、2013年の1羽当たり生体重量は前年比で0.2%程度減少すると見込まれる。
(4)今後の見込み2011年の危機的状況に引き続く2012年の干ばつによる飼料穀物価格の高騰により、少なくとも2013年上半期まではブロイラー生産者にとって困難な状況が続くと予想される。しかし、2013年の天候が回復する保証もないため、当面、ブロイラー産業は保守的な動きを続けるものとみられる。既に、2012年の種鶏羽数は1996年以降最低の水準になっているが、2013年はさらに減羽が進むものと予想される。飼養羽数の減少が見込まれるため、生産性の向上が必要とされるが、これだけでは減羽分を補いきれず、結果として2013年のブロイラー生産量は2012年よりわずかに減少すると見込まれる。この減少要因には、1羽当たりの生体重の減少も含まれる。2012年の部分肉生産量は前年比0.6%減の約1680万トンだったが、2013年はさらに1.3%減少して1671万トンになると見込まれる。しかし、9月末のインタビューで全米鶏肉協議会は、前年比1%台の減少とするUSDAの見方より厳しい、同3%以上の減少との見方を示している。この理由として、同協議会は、1人当りのブロイラー消費量が減少傾向にあり、需要が頭打ちの中で飼料費が高騰するという生産縮小スパイラルに入りかけていることや、大手のタイソンフーズ社やピルグリム社が既に生産量の3%縮小をアナウンスしていることを挙げている。 輸出面でも明るい材料は少なく、国内生産量に占める輸出の割合は2012年の約20%から、2013年には15%程度まで減少する見込みである。第1は、2011年上半期にメキシコ政府が開始したアンチ・ダンピングの調査の結果、米国産もも肉に対する関税が引き上げられる見込みであることが挙げられる。2012年の夏にメキシコで発生した鳥インフルエンザの関係で、政府の公式見解の発表は遅れているが、2013年上半期には関税率の引き上げが行われる見込みである。第2は、各種の貿易摩擦によって中国への輸出量が急速に減少していることが挙げられる。第3は、日本、韓国、ベトナムといったアジア諸国向けの輸出が、タイのブロイラー産業の回復により2012年から減少し始めていることが挙げられる。米国のブロイラー生産は、飽和状態にある国内市場と従来からの輸出市場での厳しい状況の中、さらなる市場の拡大のためには人口の増加か新たな輸出市場を開拓する以外に選択肢が残されていないと言えるのではないだろうか。 W.政府による畜産への支援米国政府は干ばつによる畜産業への影響を緩和するための支援策を講じている。(1)環境保全地域での放牧許可などによる粗飼料確保支援繁殖段階で放牧を行う肉牛経営や酪農経営への粗飼料確保支援として、USDAは、干ばつの影響が著しい地域の生産者などに対し、環境保全プログラム(CRP)や湿地保護プログラム(WRP)により放牧や採草が禁止されていた地域を開放したり、放牧禁止期間を短縮するなどの要件緩和を行った。2012年12月時点で、この様な規制緩和が行われている地域は280万エーカー(113万ヘクタール)に拡大している。併せて、秋まきの被覆作物の作付けを奨励することで補助的飼料の供給拡大が図られている。(2)融資や税金免除などの資金面での支援連邦政府は、2012年の干ばつの影響が著しい地域の生産者などに対し、既存のプログラムの対象範囲を拡大し、USDAと連邦歳入庁(IRS)を通じての支援を行っている。このプログラムには、農業庁(FSA)の所管する干ばつなどによる畜産物生産量の減少や物理的損失からの回復を支援するための緊急融資がある。この緊急融資は、生産に不可欠な施設の更新、自然災害に伴って発生する生産コストの一部または全部、生産システム回復のための費用、負債の借り換え、農家の基本的生活資金に対して50万ドルを上限として行われる。 (3)食肉製品の買い上げUSDAは、干ばつの影響を受けている畜産生産者に対する支援として、1億7000万ドル(149億6000万円)を上限に食肉製品の買い上げを行うことを決めた。支援内容としては、例えば豚肉製品では1億ドル、鶏肉製品では5千万ドル(44億円)を上限に買い上げが行われる。これは、飼料穀物価格の高騰により生産者が家畜の淘汰や早期出荷を行うことで、一時的に食肉の生産量が増加し、市場価格が著しく下落することへの抑止効果をねらった対応とみられる。なお、買い上げの財源は、関税収入の一部を農業部門への支援に活用すると定めた1935年公法第32条(section32)に基づくものである。なお、全国豚肉生産者協会(NPPC)は、今回の対策は十分とは言えないものの、それほど悪くない対応であると評価している。 (4)高濃度のアフラトキシンの混合許可食品医薬品局(FDA)は、畜種ごとに給与可能なトウモロコシのアフラトキシン濃度を定めており、また、アフラトキシンに汚染されたトウモロコシを非汚染トウモロコシに混合することを禁じている。しかし、FDAは、アイオワ州知事などの要請を受け、20ppbを下回るトウモロコシの混合によるこれより高濃度のロットの希釈利用を認めた。ただし、このような対応は、乳牛用飼料には認められていない。X.まとめ2012年に米国を襲った干ばつは飼料穀物価格高騰や放牧地の減少などを引き起こし、米国畜産へ大きな影響を及ぼした。米国は、例えばトウモロコシでは世界最大の生産・輸出国であるように、飼料穀物を自給できる。しかし、トウモロコシの需要がバイオエタノール政策による義務的固定需要と飼料向け需要とに二分される中、今回の様な減産が起こると、価格高騰に加え飼料向けも圧縮されることから、畜産への影響は大きい。飼料穀物価格高騰は、生産者の収益悪化などを引き起こしたが、飼料自給率の高い養豚や中小酪農家への影響は、購入割合の高いフィードロット経営、大規模酪農家、ブロイラー産業ほど大きくはなかった。 影響の大きかったフィードロット経営をみると、全米では一頭当たり150ドル(13,200円)の赤字が出ているが、個別経営では状況は様々だ。例えば、ネブラスカ州で調査した生産者は、バイオエタノール工場から安価なDWGSを入手でき、飼料穀物の一部も自給していることで、損益分岐点水準に踏みとどまっている。同じフィードロットでも、飼料穀物自給の有無や飼料穀物生産地であるか否かで飼料穀物価格高騰の影響は大きく異なる。 また、畜種ごとには、生産者は様々な方法で飼料穀物価格高騰や放牧地減少などの局面を乗り切ろうとしている。肉牛の繁殖経営は干ばつの影響が少ない地域へ牛群を移動させている。酪農では、緊急的に飼料配合を変更し飼料コストを抑制することで、生乳生産量は減少するものの短期的な資金流出を抑制し長期的な生き残りを図っている。穀物生産との複合経営が多い養豚では、飼料穀物から得られる収益で養豚の赤字補填を行うなど流動的な資金運営により生産を維持している。ブロイラー産業は、種鶏の減羽による生産量削減と飼料の削減により価格上昇を図っている。 この様に様々な対応により生産が維持されているものの、2012年の干ばつは70年に一度とも言われる深刻なものであったことから、いずれの畜産物においても2013年は減産に転じるとみられている。米国政府の畜産生産者に対する支援には、補助金など直接交付や価格支持政策(酪農を除く)は無く、干ばつに関する支援策も一部融資はあるが多くが規制緩和にとどまることから、生産者は自らの努力と工夫で生産を続けて行かねばならない。このような厳しい状況において、畜産全体を見渡したとき、飼料の自給率の多寡が経営の足腰の強さに直結していることが明らかであり、日本の畜産においても飼料の自給率の向上が必要とされている。 末筆ながら、今回の調査に多大なご協力をいただいた米国畜産関係者、穀物関係者の皆様をはじめ、取材させてくださった生産者の方々に厚く御礼申し上げます。 |
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