海外情報  畜産の情報 2013年2月号

国際穀物相場の高騰によるドイツ豚肉生産への影響

調査情報部 宅間 淳




【要約】

 ドイツは豚肉の生産量、消費量ともにヨーロッパで最大の国であることから、同国における豚肉産業の動向は、EUの豚肉産業全体に大きな影響を与える。このため、今般、ドイツにおける豚肉産業の現状把握を行うとともに、国際穀物相場の高騰が与えた影響について調査を行った。

 豚肉生産に必須の飼料資源であり、飼料全体のおよそ2割を占める大豆かすについては、全量を輸入に依存しているため、国際相場の影響を強く受けている。こうした状況に対し、ドイツでは国家的な備蓄などの取組はなされていないが、リキッドフィーディングシステムなど新しい施設機械を駆使した飼料効率、繁殖技術の改善や未利用資源への代替など、経営レベルでの堅実な工夫がなされている。

1.ドイツ養豚の現状

1)豚肉生産の状況

 ドイツ連邦共和国(以下、ドイツとする)は、EUにおける最大の豚肉生産国であり、同時に最大の豚肉消費国でもある。

 2011年の豚肉生産量は559万8000トンであり、EU全体の豚肉生産量の25%を占めている。最近、豚肉生産は増加傾向にあり2005年には輸入国から輸出国に転じるとともに、2000年と比較して40.6%増加した。

 また、生産地域はドイツの北西部に位置するニーダーザクセン州とノルトライン・ヴェストファーレン州の2州と、南部のバイエルン州の3つの州に集中している。2011年の統計によると、北西部の2州で総飼養頭数の55.1%、繁殖母豚数の45.8%を占めている。北西部以外では、南部のバイエルン州に養豚生産地帯があるものの、それ以外の州では散在する形となっている。

 北西部に集中する要因は、この地域がドイツの主要な穀物生産地帯であることがあげられる。また、ハンブルク、オランダのロッテルダムなど大規模な港湾も近く、大豆かすをはじめとした輸入飼料穀物の輸送に便利で、内陸部の地域よりもコストが抑えることができるのも要因である。さらには、オランダに隣接し、北部のデンマークも近いことから、両国で生産された子豚を搬入しやすいという地勢的な優位性がある。
図1 EUの豚肉生産量の推移(EU27カ国合計と主要7カ国)
資料:Eurostat
図2 EUの豚肉生産量の国別割合(2011年、主要7カ国)
資料:Eurostat
表1 ドイツの州別豚飼養頭数の推移
資料:Eurostat
図3 EUの繁殖母豚分布状況(2008年)
出典:Eurostat
 また、最近のドイツ養豚業の特徴として、子豚の国外調達依存度の高まりがあげられる。連邦政府の研究機関であるチューネン研究所に所属する養豚経営の専門家によると、隣国のデンマーク、オランダは一腹当たり産子数などの繁殖技術の水準が高く、子豚生産に高い競争力を持っている。地続きである両国から陸路で運ばれる子豚に対し、ドイツ国内の繁殖経営は競争力が保てず、肥育専門経営に転換する養豚業者が増加している傾向にある。
図4 ドイツにおける子豚生体輸入の推移
資料:GTI社「Global Trade Atlas」
   【HSコード:010391、50kg以下の豚(生体)】

2)豚肉消費動向

 2009年のドイツ全体の豚肉消費量は、449万7818トンであり、EUで最大の豚肉消費国となっており、EU27カ国のおよそ20%を占めている。最近、総消費量および1人当たりの消費量ともに、ほぼ横ばいで推移している。
図5 EUの豚肉消費量の国別割合(2009年、主要6カ国)
資料:FAOSTAT

3)豚用飼料の状況

 ドイツでは、養豚経営で利用される飼料原料のおよそ60%が経営内で自給されている。豚用飼料として栽培される主な穀物は、小麦と大麦であり、これらの穀物生産にはおよそ200万ヘクタールの耕地が利用されている。なかでも、主要生産地はドイツ北部である。北部は暖流の影響により比較的温暖で湿潤な気候で、麦類に加え、トウモロコシの栽培も盛んで生産された穀物が飼料原料に仕向けられている。なお、残りの40%は、飼料メーカーにより製造された配合飼料が給与されている。  なお、一般的に、ドイツで利用される豚用飼料の配合は、小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物(約70%)とともに、タンパク質源としての大豆かす(約20%)で構成されている。

 大豆はドイツを含めEUでは需要に見合う生産量がないことから、ほぼ全量を大豆かすとしてEU域外から輸入している。統計によると、ドイツは大豆かすを飼料用以外も含めて年間約350万トン輸入している。2011年では、輸出先国はオランダが48.9%、ブラジルが37.5%、アルゼンチンが8.5%となっている。オランダからの輸入は、ロッテルダム港に船便で輸入された貨物が陸路を経て、ドイツへ再輸出されたものである。オランダに輸入される大豆かすの95%以上はブラジルとアルゼンチンから輸出されたものであることから、ドイツ国内に流通する大豆かすは、ほぼ全量が南米から輸入されたものであると見込むことができる。

 なお、大豆かすの輸入は2001年以降に大きく増加しているが、この背景にはBSEの影響により、動物性タンパク質の家畜飼料への利用が制限されたことが影響している。動物性タンパク質の代替として植物性タンパク質源が必要となり、加えて、当時は大豆かすの国際相場が現在と比較して安価であった。このため、豚用飼料への利用が進み、現在の配合割合が構成されてきた。

 しかし、2008年に大豆かすの国際価格が高騰して以降、その後も高止まり傾向にあり、養豚経営の収益性を悪化させる要因ともなっている。大豆かすの代替となるタンパク質源として、ヒマワリかす、菜種かすなどが一部用いられているものの、大豆かすと比較し、嗜好性が低下することや、必須アミノ酸の含有バランスなど栄養成分上の課題がある。このことから、輸入に依存する大豆かすを、他の飼料資源により完全に代替することは現状として困難になっている。
表2 ドイツにおける一般的な豚用配合飼料の配合割合
図6 大豆かす輸入量と価格の推移(ドイツ)
資料:GTI社「Global Trade Atlas」 【HSコード:230400】

2.生産現場の状況

 ドイツにおける養豚経営の具体例として、2つの経営を紹介したい。

1)ノルトライン・ヴェストファーレン州M経営

(1)経営概要

 M経営は、繁殖母豚280頭を飼養する繁殖肥育一貫経営である。ノルトライン・ヴェストファーレン州に位置し、年間約7,500頭の肥育豚を出荷している。出荷は約150日齢、生体重110〜120キログラムを目安としている。繁殖成績は、一腹当たりの分娩頭数は12〜15頭であり、年間総産子頭数は28.0頭である。

 飼料穀物はトウモロコシと大麦を生産しており、豚用飼料に利用する穀物のおよそ60%を自給している。
表3 M経営の概況
資料:聞き取りにより機構作成
(2)施設機器の状況

 導入されている施設機器のうち注目したいものとして、リキッドフィーディングシステムと「ピッグウォッチ」と呼ばれる発情発見補助装置がある。

 ドイツ北西部の養豚地帯では、リキッドフィーディングシステムを導入している経営は7割を超えており、小規模の経営を除きほとんどの経営が導入している。

 「ピッグウォッチ」とはストールで給餌中の母豚の体温を毎日測定することで、正確な発情発見を可能にする機械である。M経営は、この機械を導入したことにより、平均種付け回数が改善され、その結果年間総産子頭数も25頭から28頭に増加させることができている。

(3)豚用飼料など

 飼料は自家配合を行っており、給餌は全てリキッドフィーディングを採用している。(1)飼料会社から購入するサプリメントなどが含まれた飼料、(2)自給穀物、(3)タンパク質源としての大豆かすの3種類を飼料原料として成育ステージにあわせて調製・混合の上、リキッド化し与えている。

 大豆かすはできるだけ安価に仕入れるため、経営主が自らトラックを運転し、オランダのロッテルダム港まで赴き、直接買い付けを行っている。

 また、リキッドフィーディングの利点を伺ったところ、液状化させることで飼料の食い込みがよくなること、パンなどの食品残さなども柔軟に利用することができる点が優れているとのことであった。

リキッドフィーディングシステムで利用するため、収穫した自給穀物は、経営内に設置した
ミルで破砕する。
(写真は、ビッグダッチマン社本社内展示場のもの)

飼料穀物の保存性を高めるため、トウモロコシを破砕後、シートをかけ敷地内にて
サイレージ化している。(調査時、バンカーサイロは建設中であった。)

サイレージの拡大写真。
トウモロコシはコーンコブミックスとして利用している。(コーンコブミックス:頭文字をとって
CCMと呼ばれている。粒とともにコブ(芯の部分)も併せて破砕している。)

複数の飼料原料を自家配合で利用するため、原料ごとに飼料タンクを設置している。

豚舎内にはパイプラインを通じてリキッドフィードが給餌される。

発情発見の正確性を高めるための機器「ピッグウォッチ」
 繁殖母豚を飼養するストール(※)に設置する。囲み部分の下部にセンサーが設置されており、
体温を自動的に測定する。(写真は、ビッグダッチマン社本社内展示場のもの)
※ストールはアニマルウェルフェアに対応した母豚が自由に出入りできるもの。
人工授精の際はロックして保定する。

2)ヘッセン州養豚業者協同組合繁殖農場

(1)経営概要

 当該農場は、ドイツ中部に位置するヘッセン州にあり、地域の肥育専門経営に対し子豚供給を担っている繁殖農場である。この農場は、協同組合に属し繁殖部門を担当しているが、基本的には家族労働力を基盤とした繁殖専門経営である。

 労働力は、経営主、経営主の父と、2人の農業研修生の計4人である。繁殖母豚300頭を飼養し、年間2,500頭の子豚を肥育経営に販売している。子豚は、約9週間飼育し、体重28〜30キログラムで出荷している。

 飼養品種はドイツの在来品種である。改良の進んだ一般的な品種よりも繁殖成績は劣るが、肉質が評価されている。肥育豚は、市場を介さず、食肉業者へ直接販売されている。

 105ヘクタールの畑を耕作しており、菜種・小麦・大麦をローテーションで作付している。畑の30%が自己所有地であり、70%は借地である。
表4 ヘッセン州養豚業者協同組合繁殖農場の概況
資料:聞き取りにより機構作成
(2)施設機器の状況

 この経営では、リキッドフィーディングシステムは導入せず、ドライフィーディングで給餌している。リキッドフィーディングを導入しない理由として、多額の設備投資が必要となること、繁殖専門経営では大きなメリットが得られないこと、給与内容が小麦中心であることをあげていた。(経営主によれば、トウモロコシ中心の飼料の方が、リキッドフィーディングには適するとのこと。)

 繁殖母豚は、2013年1月より施行される欧州委員会のアニマルウェルフェア規制強化に対応した施設で飼養している。従業員はもちろん、部外者である筆者が畜舎内部に立ち入っても、豚は落ち着いており、リラックスした状態で管理されていることがうかがえた。

畜舎の構造は、アニマルウェルフェア規制強化に対応しており、
繁殖母豚は群れで飼育されている。

飼育されている豚は、とても落ち着いており、人間が豚舎内に
立ち入っても驚いたり暴れたりする様子は見られなかった。

離乳後の子豚用豚舎には、豚用の玩具を設置しており、
ストレスの軽減に努めている。

子豚豚舎は豚房ごとのオールイン・オールアウト方式を採用している。
また、成育ステージに応じて仕切りを変更できるようになっている。

上の写真
出荷直前の子豚と豚房の様子

下の写真
子豚出荷後、洗浄を終えた豚房

3.飼料の効率的利用と未利用資源の利用

1)リキッドフィーディングシステムによる未利用資源の利用と飼料効率の向上

 ドイツにおける養豚経営の多くは、自給飼料畑を飼料の半分以上を自給している。今回調査を行った北西部の養豚地帯では、自給飼料生産の点から養豚経営を下表のとおり3種類に分類することができる。

 (1)および(2)については、養豚経営が給与する飼料を自家配合により調整している点が特徴である。自家配合を行うことにより、飼料資源を自ら選択でき、飼料相場や自家産穀物の状況を勘案しながら配合割合を適宜変更することができている。

 また、こうした自家配合の取組を可能にしているのが、リキッドフィーディングシステムの利点でもある。配合割合や飼料メニューを変更しても、液状化することで嗜好性への影響を抑えることができ、飼料効率を損なうことなく給餌することに成功している。

 ただし、このシステムの導入は機器の導入とともに畜舎へのパイプラインの設置など多額の初期投資が必要となる。この点は、現地メーカーから購入するドイツの生産者であっても同様であり、今回訪問した生産者からも費用面で負担となることを導入を見送った理由の一つとして聞かれた。しかし、初期投資はかかるものの、飼料ロスの低減と肥育成績の向上に大きな効果があり、3年間で十分に回収できる投資であるとみられる。
表5 飼料穀物の経営内自給率にもとづく飼料原料調達方法の分類
資料:聞き取りにより機構作成

2)代替飼料となる地域未利用資源の活用

 ドイツの養豚生産者は、飼料穀物の自作地を持ち、その多くを自給しているものの、豚用飼料として重要なタンパク質源である大豆かすについては気候的要因により自給はできない。そのため、大豆かすは南米を中心に輸入しており、その価格は国際穀物相場に左右されている。日本と比較して輸入飼料資源の依存度は低いものの、国際相場に影響されるという悩みは共通している。

 2008年以降、高止まりしている大豆かす価格は、2012年も国際相場の影響を受けて高騰した。このため、域内で購入可能なヒマワリかす、菜種かすの利用も進められているが、完全に代替できるようにはなっていない。このことについてサプリメントなども製造する配合飼料メーカーの開発責任者に、大豆かすの代替飼料について聞いた。

 ドイツで豚に給与される飼料には、通常18%程度の大豆かすが混合されている。下表では、大豆かすの代替となりうる飼料原料について比較・分析した。この表は、各原料中に含まれる粗タンパクと飼料で不足しがちな3種類の必須アミノ酸について成分とアミノ酸有効率を比較したものである。比較によれば、粗タンパク量をもとに、ヒマワリかすもしくは菜種かすの混合量を調製すると、苦みが強くなることによる嗜好性の低下や、必須アミノ酸であるリジンの欠乏が生じ、また、大豆かすと比べアミノ酸有効率も低い。このため、大豆かすの全量を置き換えることはできない。なお、DDGS(トウモロコシ蒸留かす)などの利用も検討しているが、タンパク質と嗜好性を兼ね備えた大豆かすは、飼料中最低でも10%は必要であるとのことであった。
表6 大豆かすと代替飼料原料の成分比較(豚)
資料:社団法人中央畜産会 日本飼料標準成分表(2009年版)
  注:アミノ酸有効率とは、実際に体内に吸収されるアミノ酸の割合のこと

4.まとめ

 調査にあたって、自給飼料穀物の生産が盛んであるドイツにとって、国際穀物価格の高騰は深刻な影響をもたらすものではないとも、当初考えていた。しかしながら、タンパク質源として不可欠な飼料資源である大豆かすは全量を輸入に依存しており、価格上昇による収益性の悪化は全ての関係者から聞かれた。

 同時に、十分な自給飼料があるからこそ同国の養豚業が維持されているとの意見もある。今回調査した生産者も、安定した経営の確立を目指し、飼料穀物の100%自給を実現したいとのことであった。

 しかし、ドイツでは近年、農地の借地料が上昇している。これは、バイオガス発電に穀物を利用する企業などの増加により、畑作地帯において地価の高騰が起きているためである。特に、トウモロコシの栽培が可能な北西部の養豚地帯は、同時にバイオエネルギー原料の生産地としても最適であり、ここ数年で借地料が3〜5倍に上昇している。現在の借地料では、経営耕地面積の拡大は難しいという悩みも聞かれた。

 また、ドイツはEUの中央部に位置し、人・モノの動きが盛んである。このように情報が交錯する環境では、生産者が自ら工夫を施し、投資や経営判断を行うことが必要であることを感じた。また、生産者の努力が、利用可能な飼料資源の有効な活用と、事故率の低下や繁殖技術の改善などの成果を実現しており、経営レベルの取り組みが重要であることも改めて認識した。

 末筆ながら、今回の調査に多大なご協力をいただいたビッグダッチマン社、また同社をご紹介いただいた東西産業貿易株式会社の皆様をはじめ、快く農場を訪問させてくださった生産者の方々、ドイツ関係機関の皆様に厚く御礼申し上げます。

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